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"The fall of the house of Usher"における語り手 の役割

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"The fall of the house of Usher"における語り手 の役割

著者 薬師川 麻美

雑誌名 主流

号 45

ページ 70‑84

発行年 1984‑02‑20

権利 同志社大学英文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014959

(2)

70 

The F a l l  o f  t h e  H o u s e  o f  U s h e r "  

における語り手の役割

薬 師 川 麻 美

Edgar Allan Poeは初期の短編小説中, くり返し女性の死と蘇生を描い ている.1835年には Berenice"と Morelle"を, 1838年には Ligeia"を, そして,翌1839年には TheFall of the House of Usher玖を発表している のだが,それらについて D.H. Lawrence は, Berenice",Ligeia"に1841 年発表の Eleonora"を加えて rlr愛』の物語j1と呼び,同系列に TheFall  of the House of Usher"があると言っている.また, Harry LevinはPower 01 Blacknessの中で, Brenikce",Morella",Ligela"に E回leonorぜ"を加a え

7

たこ女性の物語のノバfタ一ンが具象化され

7

たこものが

of Usher"だという女性の名を表題に持ち,その女性を中心に展開する女 性の物語と TheFall of the House of Usher"とは,それほど類似した,

同種の作品なのだろうか.

Berenice"は,あばかれた墓の中でよみがえった女の物語であり, Mo rella"では母親が娘の姿をとって復活し, Ligeia"では主人公の女性が別の 女性の死の際に,その肉体を用いてよみが九る.それらと同系列にあると言 われる TheFall of the House of Usher"では,埋葬された妹がよみがえ り,自分を埋めた兄のもとまでたどりつくくだりが描かれる. (Eleonora" 

は他の三編の女性の物語と同様,女主人公の名を表題に用い,主人公と彼女 との愛を描いてはいるが,具体的に女性の復活を扱ってはおらず, TheFall  of the House of Usher"より後に発表されているため, 本論では省いて考

(3)

The Fall of the House of Usher"における語り手の役割 71  える.)構成の上で大きく異なるのは, 三編の女性の物語では主要登場人物 が,事件の当事者である男女二人にしぼられるのに対し, TheF all  of the  House of Usher"では,男女の他に語り手である第三者が傍観者として存在 することである.

女性の死と復活が扱われる物語群の中にあって,なぜ The FaU of  the  House of Usher"にだけ第三者が必要だったのか, 物語における彼の役割 を検討する.また,どの物語においても女性の死と復活に際して,目撃する 男たちは各々大きな感情の起伏を見せるのだが,それらは一様 iにζ皆同種のも のであつたのか異質のものであつ

7

たこかを検討しい,女の物語三編と

of the House of Usher"の類似点、と相違点が何を意味し, 後年のポーの作 品にどのような影響を与えたのかを考察してみたい.

まず,女性の物語三編と TheFallof House of Usher"  の各登場人物 の立場,および、物語の中でかかV:J・oられる命題を確認してみる.女性の物語の 場合, Berenice"の語り子は自分の名は明らかにするものの姓や職業, 社 会的背景は隠す,あるいは持っていない.生活の場は先祖代々うけつがれた 屋敷の中のみであり,青年時代を夢想に費した結果,幻想的観念だけが現実 として把握される精神構造を持つにいたった,と自ら告白するところからも,

彼が地理的,社会的,精神的に外部の世界から全く孤立していたことが大前 提とされる.

Morella"の語り子の場合も, 語り手は自分の姓名, 職業,社会的背景 を明らかにせず,ただモレラの説く神秘的な書物の世界でのみ暮らしてい る.モレラが死 i乙,娘が生まれてからも外部の世界との交渉は一切持たず,

娘を外界から隔離して育てる.氏素姓不明の女,ライジアと共に住む語り手 は人々と交わる乙となく暮らし,

r

外部世界の印象を消すのに何よりの学問」

(studies of a nature more than all  else  adapted to deaden impression of 

(4)

72  The Fall of the House of Usher"における語り手の役割

the outward world) 3に没頭していた,と自ら語り,外部世界とのつながり を否定する.

語り手の男たちが氏素姓を明らかにしないのと同様,彼らの恋人あるいは 妻である女たちの背景もあいまいなままに放置され,男との出会いの場面も 描かれない.女は語り手の閉鎖された世界へ外部からはいりこんできたので はなく,何の違和感もなく最初からその世界の内部に存在しているのである.

女性の物語における男女関係は,恋人同志あるいは夫婦として扱われるが,

語り手は女性が自分の愛の対象として存在しているのではないということを くり返し強調する. 女性は語り手にとって分析,思索の対象であり( Ber‑ enice"),また,思索や研究の導き子としての存在( Morella","Ligeiaり な のである. 乙れらの表現を考えあわせ,さらに DanielHo妊man説くとこ ろの, Ligeia" という名は Idea" と韻をふむ,という説4 を考慮に入れ ると,女性の物語の女主人公たちは,実は女性ではなく,語り手自身,ある いは,語り手の持つ「概念」が具象化したものだと考えられる.外の現実世 界から離れて暮らす男女の物語は,実は語り手の頭の中でおこる語り手と彼 の観念の物語なのである.

分析の対象を女性におきかえたうえで語り手が探究する命題は, Berenic巴"

では「埋葬されて復活するのは不可能だから確かである (etspultusresur‑ rexit; certumst quia  impossibile  est) 5 とあらわされ, Morel1a"では

the notion of that identity which at death is  or is  not lost for ever として,そして Ligeia"では JasephGlanvillの Thwilltherein lieth,  which dieth not. . . Man doth not yield hiinself to  the angels, nor unto  death utterly, save only through the weakness of  his feeble will.川とい

う言葉であらわされる.表現の仕方は異なるが,三編に共通して提示される のは,自己のアイデンティティーは死後も消滅することなく存在する,とい う死後復活を示唆する命題であり,各々の物語の語り手はその命題の証明の ために観念の具象としての女性を探究するのである.

(5)

The Fall of the House of Usher"における諮り手の役割 73  女性の物語の舞台となる孤立した世界と同じく the F all  of  the  House  of Usher"の舞台も,終日馬で旅をしてようやくたどりつける,人里離れ た地である.アッシャー兄妹は先祖代々受けつがれた屋敷で,外部との接触 もなく,社会的背景も紹介されず,女の物語の登場人物たちと同じパターン で閉鎖的に存在している.第三者である語り手は確かに外の世界から屋敷へ 入ってくるのだが,彼は外の世界のことを「遠く離れた地J(a distant  part  of the country)8と表現する以外何も語らず,自分の身元も明らかにせず,

外の世界の印象を一切屋敷へ持ちこまない David Halliburtonは語り子 が屋敷に向かう導入部の 1had been  passing  alone円という継続の形と 1 found myself... within view of the  melancholy House of  Usher" 10  という表現に着目し,語り手の行動は自分のいる場所を見出すためのものだ と解釈する11が,そういった語り手の意志はともかくとして,着目された表 現(屋敷内に足を踏み入れた時も諮り手は 1found myself" 12の表現を用 いている〕と,語り手の生活背景が不明にされている点を考えあわせると,

語り手も他の登場人物と同じく外の世界と関わりを持たずに観念の世界に存 在しているといえる.

The Fall of the House of  Usher"の命題は,無生物にもアイデンティ ティーがあり,自己を他の存在とアイデンティブァイしようとする意志を持 つ, という, ロデリックが主張する点である. しかし,乙の物語の場合は女 性の物語の「語り手

J

~乙相当する命題の探究者が存在しない.ロデリックは 自分で主張する命題にただおびえるばかりであり,彼の妹であるマデライン はロデリックに酷似していると形容される以外,人間としての輪郭が描かれ ない存在である.探究者,観察者となるにふさわしい第三者の語り手は,導 入部からすでに,屋敷の持つ特殊な雰囲気ととり〈もうとしないa 彼はそれ を「解けぬ謎J(a mystery all  insoluble), また, 「分析する乙とは知力を 越えた乙とJ(the analysis of this power lies among considerations beyond  our depth)13であるとして分析,探究を避け,ロデリックと生活を共にして

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74  The Fall of the House of Usher"における語り手の役割

彼の心を知った時は,自分には彼に影響は与えられない,と諦める.ロデリ ックが無生物にもアイデンティティーがあるという命題を訴えても Such opinions need no comment, and 

will  make none 4とコメントを避け,

ロデリックが妹を墓場へではなく屋敷内に埋葬しようと不思議な提案をした 時も

1

did not feel  at  liberty to  dispute"15と,詮索をしない.神秘性の 表現と並び,細密描写はポーの特徴 l乙数えられる16が, 確かに語り子は屋敷 の外観を細かく描写する.ただ,屋敷の内部へはいると部屋の奥は目を乙ら しでも見えず (theeye, however, struggled in  vain to reach the remorter  angles of the chamber)17, 7'デラインの死体を地下へ運ぶ際も地下室は暗く てよく見えず,死体はこわくてろくに見ない.Edward H. Davidsonはポー の偉大さを人間の darkinsideをほとんど探究しないことにある18と言い,

David R. Salibaは語り手が解説を加えぬだけ物語が pureである19という が,語り手が理性的になろうとすればするほど理性が役に立たぬ乙とが明ら かになり,効果的に物語の神秘牲を高める結果となっている.

外界との関連性を持たない TheFall of the House of Usher"  の閉鎖 社会の設定比女性の物語の場合と同じく,語り手の頭の中でお乙る観念の 世界が舞台であるということを示唆しているが,同じ閉鎖空聞におりながら 語り手は傍観者に徹し,兄妹と互いに理解する乙ともない.乙の兄妹と語り 手の関係は,女性の物語で見られた自己〔男〕と自己の持つ観念(女〕とい う関係をそのままあてはめず,その同種変形ともいうべき,自己(語り手) と自己が無意識のうちに持っていた観念(兄妹〕として考えてみると,諮り 手が自らの観念でありながらそれを探究せず傍観者になれること,ロデリッ クとごく親しい間柄だと言いながら彼について何も知らないというとと 20

彼を観察しよう

ι

しでも顔が隠れたり,体の向きを変えられたりしてよく見 えなかっだ乙とも解釈できるのではないだろうか.

(7)

The Fall of the House of Usher"における語り手の役割 75 

女性の物語三編と "TheFal1 of the House of Usher"  は物語の中心と なる命題も異なり,似かよった閉鎖世界を舞台としながら登場人物の設定も 異なっているため,人生の深い問題に関わる命題の証明の際にみられる感情 の起伏も異なってくる.

Morella"の物語の中で,モレラのアイデンティティーが娘の姿をとって そのままよみがえっているのを見た語り手は身震いをおぼえ(Ishuddered  at  its  too perfect identity)2,1 恐怖を隠せず,洗礼の場で母親の名を呼ばれ た娘が返事をした時,恐怖は最高頂に達する.自分は死んだ母と同ーの存在 であると証した娘の一言の返事は語り手に大きな衝撃を与え,それ以来語り 手は自らのいる場所も時間もわからない廃人状態になってしまう.墓の中に あるはずのそレラの死体がなく,彼女が娘の姿をとってよみがえっていたこ とがわかった二度目の証拠提示の際に語り手ができたのは,ただ長く苦く笑 う乙とだけだったClaugheda long and bitter  laugh)22のである.

Berenice"の語り手は, ベレニスの歯に生と死を越える性質,すなわち 死後なお存在すべきアイデンティティーを見て以来正気でなくなる.更に,

召使いがベレニスの死と埋葬を告げに来た時点からの記憶を失ってしまうた め,墓をあばき,生きていた死体を目撃し,その口から「生の記念であり,

同時に死の証拠である

J 2 3

歯を抜きとる乙とで彼女の生と死を同時に把握し ようとした,命題の証明ともいえる問題の行動は,すべて記憶を失なってい る聞のできごととなる.

Ligeia"の語り手は, 死を越える意志の力の観念としてのライジアから 命題の証明を得ょうとするa ライジアは一旦死んでよみがえることで,グラ ンヴ、イノレの言葉を語り手に実証してみせる. しかしライジアが死亡した直後 から語り手は阿片の服用を始め,自分の行動にかかる責任を回避することに つとめだす.後妻ロウィーナを迎える頃にはかなりの中毒症状を呈しており,

(8)

76  The Fall of the House of Usher"における語り手の役割

ライジアの霊がロウィーナの肉体にのり移らんと出現した際も「過度の阿片 l乙心がたかぶっていた

J

(I was wild with the excitement of an immoder‑

ate dose of opium)24と,真偽のほどをはぐらかし,ロウィーナのワインに に空中からJレビ一色のしずくがじたたり落ちた, ライジアの亡霊による毒物 混入と思われる瞬間の目撃にしても,恐怖と阿片と真夜中という時聞による あいまい性を強調する.ライジアの復活を無意識のうちに待つ語り手の前に は,阿片による幻想、が影のように飛び交うのでああ.

女性の物語の語り手たちは,観念の化身である女性との関わりによって,

死後なお存在するというアイデンティティーの真実をつかもうとするのだが,

三者とも命題の探究者として理性的存在に設定されていながら,物語後半部 では錯乱によって語り手としての機能を自ら放棄,否定し,物語の続行を不 可能にする.命題の証明は女性の復活によって提示されながらも,目撃者が 目撃責任を回避するため,幻想的なままに幕を閉じる乙とになる.最後に残 る乙のあいまい性は,手l乙余る真実に錯乱する語り手の姿が三編を通じてく り返し描かれることからも,目的化していると考えられる.神秘性を残す構 成は,理性では簡単に解釈できるものではない,生と死に関する命題の尊厳

さを暗示しているのではないだろうか.

無生物にもアイデンティティーがあり,自己を他の存在とアイデンティフ ァイしようとする,という TheFal1  of the House of Usher"の命題は,

無生物であるアッシャー屋敷が屋敷内に住むアッシャーとアイデンティファ イする形で証明される.Richard Wilburは物語中の詩, HauntedPalace" 

に描写される宮殿の各部分を人閣の顔の各部分に対応させ,顔のイメージを 持つアッシャー屋敷はロデリックを表わしている25と解釈し, G. R. Thomp‑

sonはその説をもう一歩進め,ロデリックの顔,屋敷の持つ顔のイメージ,

詩中に描かれる宮殿の持つ顔のイメージ,語り手の顔など,物語中の顔はど れも内向する意識が形をとって表われたものであるとしている26

ロデリックは古い屋敷が自分の人格形成に大きく影響を与え,自分が屋敷

(9)

The Fall of the House of Usher"における語り手の役割 77  K縛られていると語り手に訴える 27しかし, 逆にロデリックの方が屋敷を 含むあらゆるものに「絶える乙とのない憂うつの光

J

(one unceasing radi‑ ation of  gloom)2Bを投げかけていた, という描写もあり,屋敷とロデリッ クの関係は屋敷から人間への一方通行的影響力というよりも,アッシャ一家 という呼び名が,屋敷も屋敷内の住人も共にきしていたところから考えられ るように,アッシャ一家という一つの有機体が存在し,それが人間と屋敷と いう分かれた姿をとり,互いに影響を受けあって共存していると考えた方が よいのではないだろうか.

女性の物語の語り手たちは,命題の証明をまのあたりにした際の驚きが恐 怖となったが,ロデリックの恐怖をひきおこしているものは,屋敷と自己の 間に見られる同一性と,妹の死という一見つながりのない二つの乙とがらな のである. しかしζの二点は先に述べた屋敷と住人との関係を考えあわせる と解釈しやすい.屋敷とロデリック,マデラインはアッシャ一家として集合 し,一つの個体を形成している.建物は「朽ちはててはいるが見かけは完全 な木細工J(the spacious totality  of old woodwork which has rottdfor  long years)29と表現されるような状態で,動かぬ,死の状態だからとそ,かろ

うじて建ちつづけており,住人は精神的,肉体的に病みながらも,死んでい るような状態で生きつづけている.すなわち lifein  death"としての均衡 が屋敷と人聞に共通して保たれているのである.マデラインの死は単なる一 個体の死ではなく,かろうじて保たれている lifein  death"の均衡が破ら れる乙とを意味している.屋敷,ロデリック,マデラインが同一であるとい う乙とは,マデラインの死はロデリックの死,ひいては屋敷の崩壊をひきお

ζす 有 機 体 全 体 (D.H. Lawrence は,乙の有機体を physical oneness" 

と言いあらわしている〉却の崩壊を意味している. 逆i乙考えれば,すべてが 同時に崩壊した時にこそ屋敷,ロデリック,マデラインの同一性が証明され るわけであり,その予測がロデリックの恐怖の原因となっているのである.

崩壊を前にしたロデリックの感情の起伏には,死を前にしたライジアのそ

(10)

78 

れと似た点がある.死期の近付いたライジアは死の勝利をうたう詩を創作し,

激しい欲望(intensityof wi1d desire)で生命を求め,同じく激しい熱情で 語り手を熱愛し (more than  passionate  devotion  amounted to  idolatry)  ながらも,身振りの静けさは一層おだやかになった (Hervoice grew more  gentle‑‑grew more low)31と描かれている.一方ロデリックも崩壊を目前 に,屋敷の崩壊をうたった HauntedPalace"を詩作し, 墓穴を思わせる 閉鎖空間の絵を摘さ,興奮が最高にたかまった時にのみ見られる集中力と落 ちつき(intensemental col1ectedness and concentration to  which 

have  previously alluded as observable only in particular moments of the highest  artificial excitement)32を見せる. ロデリックの見せる感情の起伏,乙とに 崩壊前に見せる感情のたかまりは,女性の物語で語り手が見せた,手に余る 真実を目撃した観察者の驚きと恐怖とは異なり,ライジアをはじめ被験者で ある具象化した観念としての女性が見せた感情のたかまりと性質を同じくす るものと考えられる.それを裏付けるかのように, ライジアとロデリックは 顔付きも似て描写されている.ライジアの顔色は象牙を思わせる白さで,額 は青白くさえあるのだが,一方ロデリックもまた青白い顔色である.二人と も目は大きく光り輝やき,鼻すじはへブライ型である.唇は両者とも美しく そり,乙めかみの上の広がりが特徴として強調される33 ロデリックと同じ く崩壊を控えたマデラインの顔もまたロデリックと酷似して描かれている.

語り手もしばしば恐怖を訴えるのだが,彼の恐怖心はロデリックの恐怖と は性質が異なる.語り手はロデリックとは違い,今後屋敷にお乙ることの予 測もつかぬ傍観者である.彼は屋敷を見た時から「自分でも何かわからぬわ びしさ」を感じ (1know not how it  was‑but... a snseof  insufferable  gloom pervaded my spirit)34,沼を覗きとんでは一層不気味に感じ,不気味

さの理由がわからぬゆえに,それを迷信 (superstition)と呼んでみる.屋敷 内にはいれば,見慣れたものばかりのはずの調度が漠然とした恐怖感を高め,

「悲しみを呼吸しているように感じる

J

CI felt that 1 breathed an atmosphere 

(11)

The Fall of the House of Usher"における語り手の役割 79  of sorrow) 35のである.崩壊を前にした屋敷から感じられるこのような陰う っさは,屋敷にも知覚があるという,ロデリックが主張する命題を裏付ける 乙とになるのだが,語り手にとってはあくまで原因不明の漠然とした恐しさ であり,それを分析しようとする意志も意欲もない.探究心を持って謎とと り組んだ女性の物語の語り手たちが,手に余る真実を前にして次々と錯乱し たのに比べ, TheFall of the House of Usher"の語り手は何の問題意識 も持たず,探究心もなかったため,何の把握もできなかったかわりに錯乱状 態に陥って語り手としての機能を失なうこともなく,完全な第三者,傍観者 として,有機体であるアッシャ一家の崩壊を目撃するととができたのである.

女性の物語には第三者が登場せず, TheFall of the House of Usher"では 第三者が設定されているのは,人が死 i乙,屋敷がくずれ落ち,すべてが沼に 洗んで全くの無になる,完全な崩壊を目撃させるためであったと考えられる.

女性の物語では,死後も意志が存在するという命題の証明として死後復活 がおこってほしい,という語り手の潜在的な願望が達成され,それが真実と して語り手の目前に提示された時,語り手の驚きは錯乱 i乙達する恐怖にまで たかまる. The FaU of the House of Usher" では,無生物にもアイデン ティティーがあり,人聞に影響を与える,という命題が,屋敷と住人の同時 完全崩壊という形をとって証明されるであろうという予測がなされ,その予 測が崩壊の当事者であるロデリックの恐怖の原因となる.

泊滅する乙とのない意志の存在する,という女性の物語中の観念と

ι

,全体 の不可避の崩壊という

反したものである. しかし,との相反するこつの観念乙そ,ポーが晩年発表 したEurekaの中心となる二大要素なのである.死の前年である

1 8 4 8

年に出 版されたEurekaにおいてポーは独特の宇宙観を展開させるのだが,それに よると,宇宙で最初に創造され,存在しているのはある「単一状態のもの」

(12)

80  "The Fall of the House of Usher"における諮り手の役割

oneness"であり, 宇宙の生成は, その「単一状態」を「多」の状態に転 化,拡散させた状態であり,拡散された「多」の状態は,元の「単一状態」

に復帰しようとする傾向を持つM というのである. これをアッシャ一家にあ てはめて考えてみると,屋敷,男,女という「多」の姿に拡散されていた アッシャ一家が再び合体し,単ーに復帰する流れをたどることができる.

Eureね に よ れ ば i単一状態」に復帰,凝集した物体は無目的であり,一瞬 も存在しえない37というのだが, これもアッシャ一家の屋敷と人間が崩壊し て一体となったあと,聞をおかずして沼に出み,あとかたなく消滅してしまっ たことと考えあわせられる .Eureka本文では,すべてが消滅したあとに残 るのは神であり,神の鼓動ごとに新たな拡散と「単一状態jへの復帰が際限 なく続く38と,不可避の崩壊と同様,消滅することのない意志の存在につい ても論じられ9 消滅することのない神の鼓動とは,我々自身の鼓動である39

と結ばれる.

このように Eureka~こ沿って考えてみると, 何故ロデリックがマデライ ンを墓地にではなく屋敷内に埋葬しようとしたか,彼女の蘇生に気付いた時,

何故安置室から出してやらなかったのかが明らかになってくる.ロデリック,

マデライン.畳敷は本来単一であったものが拡散した状態で存在しているた め,Eurekaで論じられるように,合体して単.!乙震ろうとする傾向にある.

ことに物語の始まった段階では,拡散の力が停止して以来久しく,すでに崩 壊による合体の時が近付いており,合体すべき一分子であるマデラインだけ を遠く墓場へ離すことはできないのである.ロデリックはたしかに崩壊を恐 れてはいた. しかし一方,拡散した一分子としては無意識のうちに崩壊によ

る単ーへの復帰を望んでいたのだと考えられる.

マデラインの死は,崩壊寸前のアッシャ一家で保たれていた lifein death" 

の均衡をくずし,全体崩壊の引き金となるものである.逆i乙 マ デ ラ イ ン が 死後まもなく蘇生したということはー元の均衡が戻ってくる可能性を示唆し ている.にもかかわらず¥ ロデリックは安置室で生き返っているマデライン

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The Fall of  the House of Usher"における語り手の役割 81  を救い出そうとしない.Allen Tateは, その行動に触れ, ロデリックは妹 のinnerbeingを所有しており,彼女の死を願っていた40と解釈するが,実 際ロデリックがマデラインを「所有」し,意のままにしている描写は物語中 には見あたらず,それどとろか,同じ屋敷内におりながら,兄妹が接触する 機会は, 死体となったマデラインを運び出す時以外にはないのである.

r

散の意志が消えた時,諸分子が近付くのは許すが,互いに結合することは許 さぬ反発力が存在し,それは単ーへの合成には影響しないが二者が合同しよ うとするのは妨げるのである

J 4 1

という Eurekaの一節はこの状態を端的に 解説している.ロデリックはマデラインを「所有」するために彼女の死を望 んだのではなく,マデラインが生き返り, lifein  death"としての元の均衡 が戻る可能性を,彼女を見殺しにすることで否定したのである.

崩壊に対する強い恐怖心のかげに隠されていたロデリックの潜在的な崩壊 願望は,先にあげた,マデラインを外部ζl出さず屋敷内に埋葬した乙とと,

安置室で蘇生した彼女を救い出さずに放置するという二度の行為によってよ うやく明らかになる.崩壊に対する恐怖と願望というロデリックの二面性は,

その点を意識して物語をさかのぼってみると,語り子にむかつて話しかける 態度の incohernceぺ inconsistencyZや, 快活きと,ふさぎ乙みの二面 が交互にくり返されたことで,すでに暗示されていたことがわかる.蘇生し たマデラインを救い出さずに放置し,崩壊の潜在的願望を充足させるてだて をとったあと,ロデリックの二面性は消え,激しさと静けさを同時に備えた ライジアと似た自の光も,落ちつきも消え,もはや確定的となった崩壊に対 する恐怖だけが大きく残る.

兄妹が息絶え,屋敷がくずれ,すべてが沼に洗み,アッシャ一家の崩壊が 終了したあとに一人残る語り手の前には blood‑redmoon"と dep and  dark tarn8というグロテスクな要素を持った光景が残る. これは完全消滅 の恐怖,またアッシャ一家の完全崩壊によって完全に孤立した語り手の恐怖 を象徴するだけだろうか.後 l乙残された乙のグロテスクな雰囲気と,一人生

(14)

82  The Fall of the House of Usher"における語り手の役割

存している傍観者の存在は,屋敷の崩壊と消滅によってすべてが完結したの ではなく,いずれ引き続き新たなことがおこるであろうことを暗示している のではないだろうか.さもなければ傍観者が一人逃げのびて生き残った意味 がなくなってくる.傍観者である語り手にはもちろん Eureka の真実は把 握できていない.すべての崩壊後も神の意志,すなわち人間の意志が残り,

新たに拡散と崩壊がくり返されるという Eurekaの A節を知るよしもなく,

彼にはそれを論じる力もない. しかし,崩壊に向かう緊張,崩壊の瞬間の恐 怖にもかかわらず,狂気に逃げる乙ともなく,傍観者としてながら真実を見 つめつづけ,すべてが消滅し,完結したかに見える時点においてなお一人残 っている語り手は,無意識のうちに晩年の大作 Eureka の真理への手がか りを模索しているポー自身ではないだろうか. The Fall of the House of  Usher"における第三者としての語り手の設置は,Eurekaの真理にむかつ て最初の問題点を論じた三編の女性の物語から大きく踏みだしたポーの一歩 であったと考えられる.

1 D. H. Lawrence, Studies in Classic American Literature (New York: Penguin  Books, 1981), p.  71. 

2 Harry Levin, The Power 0/ Blackness (New York: Alfred A. Knopf, 1958), p.  159. 

3 Edgar Al1an Poe, "Ligeia,"  The Works 

0 /  

Edgar Allan Poe, Edited by John H. 

Ingram, Vol.  1 CLondon: A. & C. Black Ltd., 1899), p.  179.以ド Worksと略称す る.

4 This is  the only conceivable  feminine  name Cassuming it  to  be such)  which  rhymes with the Great Key Word, Idea." (Daniel Ho丘man,Poe Poe Poe Poe Poe Poe  Poe (Garden City:  Doubleday & Compny,1972J, p.  247.) 

5 E. A. Poe,Berenice,"  Works, Vol. 1.  p.  359.  6 E. A. Poe,Morella,"  Works, Vol.  ,!p.  389.  7 E. A. Poe,Ligeia,"  Works, Vol. 1, p.  371. 

8 E. A. Poe,The Fall of the House of Usher,"  Works, Vol.  r, p.  180.  9 Ibid., p. 179. 

(15)

The Fall of the House of Usher"における諮り手の役割 83 10  Ibid., p. 179. 

11 . . . 1 had been passing alone' confirms the continuity without accounting either  for the origin of action or for its  goal : continuity precedes origin and intention." 

Perhaps he will say where he is  going. Instead, '1  found myself.' The place 1 ar‑ rive at is  not my goal ; it  is  the site that perfects my havingcome:the purpose of  my motion is  to discover where 1 amプ(DavidHalliburton, Edgar AllaπPoe; A  Phenomenogical View (New Jersey: Princeton University Pres s,Jp.  279.)  12  E. A. Poe,The F all  of the HousofUsher,"  Works, Vol.  1, p.  183.  13 Ibid., p. 180. 

14 Ibid., p. 190.  15 Ibid., p. 191. 

16  James Russell Lowell,E. A. Poe,"  Graham's Alagazine, February, 1845 in Glo‑ riosInceπse by Haldeen Braddy (N. Y.: Kennikat Press, 1968), p. 143. 

17  E. A. Poe,The Fall of the House of Usher,"  Works, Vol.  1, p.  183. 

18 Poe's greatness lies in his few explorations  into the dark  underside of  human  consciousness, and subconsciousness" (Edward H. Davidson, Poe, A Critical Study  [Cambrid邑巴:The Belknap Press of Harvard University Press, 1956], p.  260.  19 Poe's art is  pure; it  does not require outside intervention to make it  meaningful 

as a work of art."  (David R. Saliba, A Psychology 

0 /  

Fear [Washington D. C. :  University Press of America, Inc., 1980 ,]p.  211. 

ZO  E. A. Poe, 'The Fall of the House of Usher,"  Works, Vol.  1, p.  180.  21  E. A. Poe, "Morella,"  Works, Vol. 1, p.  392. 

22  E A Poe,Morella,"  Works, Vol.  1, p.  393. 

23 The teeth accomplish, therefore,a dual aim, serving  simultaneously  as  a me‑

mento of life  and a proof of  death."  (David Halliburton, Edgar Allan Poe: A  Phenomenological View, p.  203.) 

24  E.A. Poe,Ligeia,"  Works, Vol.  1, p.  383. 

25 The House of Usher is, in allegorical fact, the physical body of Roderick Ush‑

er,"  (Richard Wi1bur, "The House of Poe,"  Poe: A Collection 

0 /  

Critical Essays,  Edited by Robert Regan [New Jersey: Prentice‑Hall Inc., 1967], p.  107.) 

26 The motifs of the skull and face  (Usher's, the house's, that of  the  mind gone  mad in 'The Haunted Palace,'  and the narrator's) represent the internal spiralling  of the complete subjectivity of consciousness."  (G. R. Thompson, Poe's Fiction: Ro‑

mantic Irony  theGothic Tales [The University of Wisconsin Press, 1973 ,]p. 90.)  27  E.A. Poe,The Fall of the House of Usher"  Works, VoL 1, p.  185. 

(16)

84  The Fall of the House of Usher"における語り手の役割 28  Ibid., p.  186 

29  Ibid.,p.  182. 

30  D. H. Lawrence, Studies iπClassic American Literature, p.  84.  31  E.A. Poe,Ligeia," Works, Vol.  1, pp. 376‑377. 

32  E.A. Poe,The Fall of the House of Usher,"  Warks, Vol.  1, p.  188; 

33  E.A. poe,Ligeia,"  Works, Vol. 1, p.  372: The Fall of the House of Usher," 

Works, Vol. 1, p.  183. 

34  E. A. Poe, 'The Fall of the House of Usher,"  Works, Vol. 1, p.  179.  35  Ld.,p.  183. 

36 Oneness, then, is  all  that 1 predicate of the originally  created  Matter;" (E. A. 

Poe, Eureka, Works, Vol. III, p.  109. 

37 The absolutely consolidated globe of globes would be objectless~therefore not  for a moment could it  continue to  existプ(Ibid.,p.  190.) 

38 the process we have here ventured to contemplate wi11 be renewed for ever, and for  ever;  a novel Universe swelling into existence, and then subsiding into nothingnss, at every throb of the Heart Divine." (Ibid., p.  192.) 

39 And now~this Heart Divine~what is  it?  It  is  our own." (Ibid., p.  192.)  40 Her brother has, of course, possessed her inner being, and ki1led her; or thinks 

he has, or at any rate wishes to think that she is  dead. (Allen Tate,Our Cousin,  Mr. Poe,"  Poe: A Collection of Critical Essays, Edited by Robert Regan, p.44.)  41 We thus see the necessity for a repulsion of limited capacity~a sparativesome‑

thing which, on withdrawal  of  the diffusive Volition, shall at the same time allow  the approach, and forbid the function, of  the  atoms; suering them infinitely  to  approximate, whi1e denying them positive contact; in a word, having a power~up to  a certain epoch~of preventing their coalition, but  no ability to interfere with  their coalescence in any respect  or  degree.くE.A. Poe, Eureka, Works, Vol.  III, 

p.  112.) 

42  E.A. Poe,The Fall of the House of Usher,"  Works, VoLI, p.  184. 

43  Ibid.,p. 198.使用したA.& C. Black社板では darkだが, T. O. Mabbott編の 全集 (BelknapPress版〕その他では dankとなっている.

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