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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 平 塚 祐 一

学 位 論 文 題 名

ミオシン分子の構造変化とエネルギー変換機購に関する研究

学位論文内容の要旨

    筋 収 縮 は ミ オ シ ン と ア ク チ ン の2つ の 蛋 白 質 の 相 互 作 用 に よ り 生 じ る 。 ミ オ シン はA'IP加水 分解 活性 をも ち、 このATP加 水分解によって得られた 化学エネル ギ ーを 使 って アク チン フイ ラメ ント を動 かす 。ミ オシン頭部はATPカロ 水分解反応 の 各段 階 で2つの 重要 な仕 事を する こ とが 知ら れて いる 。1っは ア クチ ンと の結合 解 離で 、 もう1っ はア クチ ンフ イラ ヌ ント に対 する カ発 生で ある 、こ の2つ の仕事 をう まく共役させることで、アクチンフイラヌントを滑らかに動かしている。近年、

こ のカ 発 生はATP加水 分解 反応 中に ミ オシ ン頭 部の分子形状が大きく変 わることで 引 き起 こ され ると いう モデルが提唱され注目されている。特に、そのミ オシン頭部 の 形 状 変 化 の 中 心 は 、 反 応 性 の 高 い シ ス テ イ ン で 知 られ るCyS707 (SHl)ま たは Cys 697(SH2) を 含 む 領 域 、 い わ ゆ るSH領 域 で 引 き 起 こ さ れ る こ と がX線 結 晶 構 造解 析 で示 され た。 そこで、本研究ではミオシン頭部内のこの領域に 注目し、そ の 構造 変 化を 生化 学的 に解 明し 、筋 収縮 機構 を明 らか にす るこ と を目 的と した。

第1章 で は 、 ミ オ シ ン 頭 部 に 存 在 す るシ ステ イン 残基Cys 707(SH1) 付近 の構 造 変 化 を 調 ぺ る た め 、 骨 格 筋 ミ オ シ ン 頭 部 (Sl) のSH1の 反 応 性 を 反 応 性 螢 光 試 薬5‑(iodoacetamidoethyDaminonaphthalene‑l‑sulfonic acid(I―AEDANS) を 用 い て 測 定 し た 。SH1の 反 応 性 はATPま た はADP添 加 に よ り 大 き く 変 化 し た 。 そ の反 応速 度は ヌク レオ チド 非 存在下に比べ、パIP存在下で は約2分の1に減少し、

AD存 在 下 で は 約6倍 の 高 い 値 に な っ た。 また 、ATP加水 分解 反応 の2つ の中 間体 、 M. バIP状 態 とM.ADP.R状 態 のSH領 域 の 構 造 を 知 る た め に 、Slと 幾 つ か の

」゜rIPアナ口グ(adenosine5.−(3−thiotnphosphate)(パIPYS)、ADP―Vanadate

(ADPVl) 、ADPBeFエ `ADP触F4) と の 複 合 体 を 作 製 しSH1の 反 応 性 を 調 べ た 。 M. パIP状態 のア ナロ グと 考え られ てい る」 ゜rIPアSまた はADPBeFエとS1との複合 体 のSH1の 反 応 性 は 非 常 に 高 く 、M・ADP状態 と同 程度 の反 応性 を 示し た。 一方 、 M.ADP.H状 態 の ア ナ ロ グ で あ るADPVlま た はADR气lF4とS1と の 複 合 体 の SHlの 反 応 性 は 、 反 応 が 観 測 さ れ な い ほ ど 低 い 値 と な っ た 。 こ のSH1付 近 の 構 造 変化 はATP加水 分解 反応 中の パrPのァ 位リ ン酸 結合 部位 付 近の構造変化に共役し て 引き 起こ され たと 思わ れる 。 ミオシンのカ発生はりン酸放 出の段階で引き起こさ れ る と 考 え ら れ て お り 、 こ のM.ADP.R状 態 か らM.ADP状 態 へ のSH1の 反 応 性 の 変化 はバ ワー スト ロー クと 密 接に関連していると思われる 。また、これらの他に ヌ ク レ オ チ ド 非 存 在 下 、 ア ク チ ン 存 在下 の反 応性 の低 い分 子種 を加 え、SH1付 近 に は3つ の異 なっ た構 造が 存在 する こと を示 した 。こ れら の 結果から、バワースト 口 一ク はミ オシ ン頭 部の2段階 の構 造変 化で 引き 起こ され る 可能性が示唆された。

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第2 章 では、SH1 付近(SH 領域)に存在する、多くの生物種間でよく保存され ている芳香族性側鎖のクラスターの役割を調べた。この芳香族性側鎖のクラスター は細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum) でも保存されており、細胞性粘菌の ミオシン発現系を使ってそれらの側鎖をアラニンに置換した4 つの変異ミオシン (F692AY737A 、 F739A 、 F745A) を 作 製 し た 。 も ち い た細 胞性 粘菌 のミ オシ ン発現系では、発現しているミオシンのモーター活性を粘菌の表現型を観察するこ とで予測することができる。そこで、粘菌の表現型として特徴的な子実体形成能を 調べた。変異ミオシン、Y737A 、F739A 、F745A を発現している粘菌の子実体形 成能は、野生株と大きな違いが見られなかった。しかし、F692A の場合、十分量の ミオシンを発現しているにも関わらずミオシン欠損株(HS1 )と同様に子実体の 形成が観察されなかった。このことから、F692A はミオシンのモーター活性に大き なダメージを与える変異であることが予想された。この予想が正しいことは、粘菌 からこれら変異ミオシンを単離し、モーター活性をアクチン滑り速度解析法で直接 測定することで明らかになった。ワイルドタイプミオシンではアクチンフイラヌン トの 滑り速 度は 1.66 土0.19 ( ロ m/sec) であった。しかし、F692A のアクチン 滑り速度は0.02 土0.01 (此m/sec) であり、ワイルドタイプミオシンのたった1

%の滑り速度しか観察されぬかった。このミオシンはArIP 加水分解能やアクチン結 合解離能は保持しているので、このF692A 変異は、ミオシンのカ発生のステップに 特に大きな欠陥を生じたと考えられた。この結果から、SH 領域がミオシンのェネ ル ギ ー 変 換 に 関 係 し た 機 能 領 域 で あ る 可 能 性 が い っ そ う 強 め ら れ た 。 第 3 章で は、 ATP 結合部位とSH 領域の構造変化の関係について考察した。SH 領 域は、AIP 加水分解反応中に3 つの構造をとることを第 1 章で明らかにした。これ らの構造は、SH1 の反応性がほとんど見られない2 つの分子種と、反応性が著し く高い1 つの分子種からなる。これらの構造変化はA'IP 結合部位内のどのような変 化によって引き起こされるのかについて調べた。これらの構造変化のうち、反応性 の 高い分 子種 (M‑ATP 状 態ま たは M ・ADP 状 態) から 反応 性の 低い分 子種 (M . ADP . Pi 状態)への構造変化は、ア位リン酸結合部位の構造変化によって引き起こ される。一方、ヌクレオチド非存在下からM ‑ArIP 状態またはM‑ADP 状態になると、

ともにSH1 の反応性が上昇するが、これはATP のどの部分を認識して生じた結果 なのかについて調べた。このSH1 の反応性をあげる部位をっきとめるため、5 種 類のヌクレオチドアナログ(ADP 、ATP アS 、AMP 、ピ口リン酸、硫酸イオン)を 使 ってSH1 の 反応性を測定した。これら、ヌクレオチドアナ口グのうち、AMP を 除く4 種類 、ADP 、パ卩アS 、ピ口リン酸、硫酸イオンはすぺてSH1 の反応性 を高める働きをした。この4 つのアナログはすべてATP 結合部位のロ位リン酸結合 部位内に結合すると思われ、SH1 の反応性の上昇はロ位リン酸結合部位付近の構 造変化によって引き起こされることが明らかになった。

     バ ワー スト ロー クに 働く ミオシ ン頭 部の 大き な形状変化は、SH 領域の構 造変化によって生じる可能性がX 線結晶構造解析で示唆されてきた。本研究では、

このX 線結晶構造解析で見られた構造変化をSH1 の反応性の変化からもはっきり

と示すことができた。さらに、細胞性粘菌を用いた変異ミオシン解析より、このSH

領域が実際にパワースト口ークに働く機能領域であることを生化学的に証明するこ

とができた。また、このSH 領域には異なった3 つの構造が存在するという、新し

い知見が得られた。この3 つの分子種は、ATP 結合部位のロ位またァ位リン酸の付

近の構造変化と連動して変化することを明らかにした。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨

主 査   教 授   矢 澤 道 生 副 査   教 授   谷 口 和 彌 副 査   教 授   田 村   守

学 位 論 文 題 名

ミオシン分子の構造変化とエネルギー変換機構に関する研究

  筋 肉 の 収 縮は 、エ ネル ギ ー源 とな るATPの 加水 分解 反 応と 、モ ータ ー タン パク 質ミ オシ ン と アク チン の相 互作 用 との 共役 によ り生 じ る。 この タン パ ク質 相互 作用 は、 ミオシンのアク チ ンと の結 合・ 解離 反 応と 、ア クチ ンフ ア ラメ ン卜 に対 す るカ 発生 から なり 、これらをミオ シ ン に よ るATP加 水 分 解 反 応 と う ま く 共 役 さ せ る こ と で ア ク チ ンフ ア ラメ ント はな めら か に 動き 、筋 肉は 収縮 す る。 本論 文は 、觚 丶P加水 分 解反応中でのミオシ ン分子頭部の高次構造 変 化 を 、 反 応 性 の 高 い シ ス テ イ ン 残 基(Cys707、 ま た はSHl)を 含 む 領 域(SH領 域 ) の 構 造 変 化に 注目 して 生化 学 的に 解析 しこ の共 役 の分 子機 構を 明 らか にし よう とし たものである。

  学 位 論 文 は3章 か ら な っ て い る 。 第1章で は骨 格筋 ミ オシ ン頭 部SH領 域の 高次 構造 変化 に っいて、SH1の蛍 光性試薬o‑(iodoacetamidoethyl)aminonaphthalene‑l‑sulfonic acid (I‑AEDANS) に 対 す る 反 応 性 の 変 化 か ら 追 跡 し た 結 果 を 述 べ て い る 。ATP加 水分 解 反応 中間 体の アナ ロ グ と な る5種 類 のATPア ナ ロ グ と ミ オ シ ン の 複 合 体 に つ い て 反 応 性 の 差 を 検 討 し 、SH領 域 の 高 次 構 造 は 、ATP加 水 分 解 過 程 で 出 現 す る3種 のATP結 合 部 位 の 構 造 に 共 役 し て 変 わ る こ と を 明 ら か に し た 。 さ ら に 、 反 応性 の高 いM‑ATPから 反応 性 の低 いM‑ADP−Pi複合 体へ の 変 化 に 伴 うSH領 域 の 構 造 変 化 は 、ATP結 合 部 位 で の ッ 位 の り ン 酸結 合 構造 の変 化に より 誘 起 さ れ る こ と を 明 ら か に し 、 筋 収 縮 の パ ワ ー ス ト ロ ー ク ( 力 発生 )はSH領 域の2段 階の 構 造変化で引き起 こされる可能性を示した。  .

  第2章 で は 、SH領 域 に 存 在 す る 、 芳 香 族 性 側 鎖 の ク ラ ス タ ー の機 能 にっ いて 、細 胞性 粘 菌 の ミ オ シ ン 発 現 系 を 用 い て 検 討 し た 結 果 を 述 べ て い る 。 ク ラス ター に含 まれ る4つの 芳 香 族性 残基 に注 目し 、 それ らを順にアラニン 残基に置換した効果をみ、 ナこところ、Phe692を 置 換 し た 変 異 体 ミ オ シ ンF692Aが 興 味あ る 結果 を示 した 。F692Aを発 現 して いる 粘菌 は飢 餓 状 態に おち いっ ても 子 実体 を形 成で きず 、 この 変異 ミオ シ ンは 、モ ータ ー活 性に大きな欠陥 を 持 っ と 予 測し た。 このF692A変 異 ミオ シン を単 離し て アク チン の滑 り 速度 を測 定し 、そ の モ ータ ー活 性が ワイ ル ドタ イプ ミオ シン の1%程 度 しかないことを確認 した。しかしながら、

こ の 変 異 ミ オ シ ン は 、 ワ イ ル ド タ イ プ ミ オ シ ン と 同 レ ベ ル のATP加 水 分解 活性 やア クチ ン 結 合 ・ 解 離 能を 保持 して い た。 これ らの 結 果か ら、F692Aミ オシ ンは カ 発生 ステ ップ に大 き な 欠 陥 を 生 じ た と 考 え ら れ 、SH領 域は 、ミ オシ ンの エ ネル ギー 変換 に 関係 した 重要 な機 能 領域であること を明らかにした。

  第3章 で は 、ATP結 合 部 位 とSH領 域 の 構 造 変 化 の 関 係 に つ い て 総 合 的 に 検 討 し て い る 。 第1章 で 明 ら か に し たATP加 水 分 解 過 程 で 出 現 す る3種 のSH領 域 の 高 次 構 造 の う ち 、 ヌ ク レ オ チ ド 非 結 合 状 態(M状 態 ) か らM一ATPま た はMーADP状 態 へ の 変 化 に と も な うSH1の 反 応 性 の 上 昇 に つ い て5種 類 のATPア ナ ロ グ を 用 い て 検 討 し た 。 その 結果 、SH1の 反応 性の 上 昇 を 伴 うSH領 域 の 高 次 構 造 変 化 は 、ATP加 水 分 解 反 応 過 程 で の8位 リ ン 酸 結 合 部 位 の 構 造 変化により引き 起こされることを明らかにし た。

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  著者は、SH1の反応性の変化を解析して、SH領域の高次構造変化がミオシン頭部の大き な形状変化を引き起こしパワーストロークにっながることを示した。さらに、細胞性粘菌を 用いた変異ミオシンの解析により、このSH領域が実際にパワーストロークに働く機能領域 であることを生化学的に実証することに成功した。この解析結果に基づき、X線結晶構造解 析により示されたミオシン分子の構造変化を筋収縮の分子機構に結びっけて考察すること に成功した。よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認 める。

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参照

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