博 士 ( 医 学 ) 工 藤 正 尊
学 1tL 論 ::<t 題名
The nematode leucine‑rich repeat‑containing, G protein‑coupled receptor (LGR) protein homologous to vertebrate gonadotropin and thyrotropin receptors is constitutively activated in mammalian cells.
(脊 椎 動 物の ゴ ナド ト ロ ピン 受 容 体な ら びに 甲状腺刺 激ホルモ ン受容体 と 相 同 性 を 有 す る 線 虫 受 容 体 は 哺 乳 動 物 細 胞 に お い て 恒常 的 に 活性 化 して い る )
学位論文内容の要旨
ゴ ナ ド ト ロ ピ ン 受 容 体(LHR,FSHR)は 甲 状 腺 刺 激 ホ ル モ ン 受 容 体(TSHR)と と も に 細 胞膜7回 貫 通 型G蛋白 質 共役 型 受 容体 フ ァミ リ ー に属 し , その 膜 貫通 領 域 にお い て は 非常に高 いアミノ 酸配列の相 同性を有 している .近年, これらの受容体と相同性を有す る新ししヽ受容体(leucin・rich repeat‑containingGprotein‑coupled receptor: LGR)がヒト や ラット, マウスに おいてクロ ーニング されたが ,そのり ガンドやセカンドメッセンジャ ー に 関し て は 未だ 不 明 であ る .本 研 究 では , すで に そ のゲ ノ ムが 解 明 され て い る線 虫 (C.elegans)にお いて相同 性を有する 受容体の クローニ ングとセ 、カンド メッセン ジャー を 同 定 した . さら に こ の受 容 体とLHRと のキ メ ラ受 容 体 を独 自 に作成し ,受容体の 恒常 的活性化に重要な役割を果たす受容体内領域の同定を試みた.
C.elegansゲ ノムのホモ ロジー検 索により ,ゴナド トロピン 受容体と 相同性を有 する受 容 体 の存在が 明らかと なったた め,独自 に作成し たプライ マーを用い て,C.elegansの全 RNAか らRT‑PCRを 施 行 し , 予 測 さ れ る サ イズ の 遺伝 子 増 幅産 物 を得 た . 塩基 配 列を 決 定 し , 目 的 と す るcDNAで あ る こ と を 確 認 し た . 受 容 体cDNAを 発 現 ベ ク タ ー で あ る pcDNA3に 組 み 込 み , 大 腸 菌 を 用 い て プ ラス ミ ドDNAを 精 製し た .一 過 性 トラ ン スフ ェ ク シ ョン は ,ヒ ト 胎 児腎 線 維芽 細 胞 由来 の293T細胞 に 対 し, 培 養ディシ ュ(5%牛 胎児 血 清 ,100u g/mlペ ニシ リ ン,100弘g/mlスト レ プト マ イ シン , およ び2mML‐ グル タ ミ ン 添 加DMEM/F12)あ た り12ルgの プ ラ ス ミ ドDNAを 用 い て り ン 酸 カ ル シ ュ ウ ム 沈 殿 法 に よ り行 い ,48時 間後 に 細胞 を 実 験に供し た.ラク トベルオ キシダーゼ 法にて標 識した 125トhCG(human chorionlCgonadotropin) を用いて 飽和結合試 験を行った.細胞のCAMP産 生量は,lBMX(3−isobuty|‐1‐methyI・xanthine,O.25mM)存在下での培養上清を用いRlA法に て測 定した. イノシトー ルリン酸 加水分解 実験には ,受容体 蛋白を一過性に発現した293T
細胞を【3Hlmyo̲inositolで標識して用い,20mMのLiCI存在下でのIPi,IP2,IP3をイオン交 換 カラ ムで 分離 した.受容体の細胞膜上の発現量を比較するために,作成した受容体に共 通 の FLAG‑M2抗 体 ( マ ウ ス 由 来 ) で 認 識 さ れ る よ う に 受 容 体 のN末 端 に DYKDDL: ‑Tyr‑Lys‑Asp‑Asp‐Asp‐1val)の エピ トー プを 付加 し, 細胞 膜表面のM2抗体 結 合 量 を | 鬻 要 藻 識 し た 抗 マ ウ スIgG抗 体 ( ヤ ギ 由 来 ) の 放 射 能 活 性 で 測 定 し た ・
ゴナド トロ ピン 受容 体を 用い たホ モロ ジー サー チに より目的の遺伝子は線虫の5番染色 体 のコス ミド クロ ーンCH50.2に 同定 され たた め, これ をも とに作 成し たプ ライ マー を用 い て 全RNAか らRT‑PCRを 施 行 し , 予 測 し た サ イ ズ の 増 幅 産 物 を 得 た . こ の 受 容 体 (nematode LGR: nLGR) cDNAの オ ー プ ン ー リー デ ィ ン グ フ レ ー ム は2790bpで あ っ た , 推 定され るア ミノ 酸配 列は ,シ グナ ルペ プチ ド(30アミ ノ酸 )を 含め て929個か らな り,
403個 のN末 端 細 胞 外 領 域 ,262個 の 細 胞 膜7回 貫 通 領 域 ,234個 のC末 端 細 胞 内 領 域 を 有 し て い た . 細 胞 膜7回 貫 通 領域に おい ては ,ゴ ナド トロ ピン 受容 体と は約50% のア ミ ノ酸配 列の 相同 性を 認め た.293T細胞 に一 過性 にト ラン スフェ クシ ョン で発 現さ せた nLGRで は ,LHRと 同 程 度 の 細 胞 膜 表 面 へ の 発現 が 認 め ら れ た . し か し ,nLGRを 発 現 し た 細 胞 は り ガ ン ド の 刺 激 な し に高 濃 度 のcAMPを 産 生 し て い たた め恒 常的 活性 化状 態に あ る こ と が 判 明 し た . な お ,LH,FSH,TSH, なら ぴにhCGの 刺激 には 無反 応で あっ た・
ま た , イ ノ シ ト ー ル リ ン 酸 代 謝 回 転 に お い て は , 恒 常 的 活 性 化 を 認 め な か っ た , 恒 常 的 活 性 化 状 態 に 重 要 な 領 域 を 同 定 する た め に ,nLGRのN末 端 細 胞外 領 域 をLHR の対応する領域と置換したキメラ受容体L‐N(TM.C)を細胞膜表面に発現させたところ同様 に 恒 常 的 活 性 化 状 態 を 示 し たが ,hCGに対 して は結 合能 を有 する が, その 刺激 に反 応を 認 め な か っ た . そ の 逆 に , 恒常 的活 性化 を示 すこ とが すで に知ら れて いるD578Y変 異を 持 つLHRのN末 端 細 胞 外 領 域 をnLGRの そ れ と 置 換 し た キ メ ラ 受容 体N‐L(TM‐C)D578Y も 恒 常 的 活 性 化状 態 を 示 し た . さ ら にN末 端細 胞 外 領 域 とC末 端 細 胞 内 領域 がLHR由 来 のL‐N(TM)‐Lも恒常的活性化状態を示した,一方,LHRの第3細胞内ループ(i3)のC末端 側 の5個 のア ミノ 酸配 列をnLGRのそれ と置 換し たL‐N(i3C)‐Lも恒常的活性化状態を示 した・
近 年 ,LHR FSHR, お よ びTSHRな ど の 糖 蛋 白 ホ ルモ ン 受 容 体 と 高 い 相 同 性 を 有す るN末端 細胞 外領 域にleucin・rich repeatを 有する受容体LGRがヒトやラット,マウスな どでクローニングされた.さらに,.同様の受容体は無脊椎動物(ショウジョウバェ,イソ ギン チャ ク, カタ ツムリ)においても発見されている.しかし,これらの受容体のすべて に お い て り ガ ン ド は 同 定 さ れ て お ら ず , ま た 申 請 者 らがLGR7に お い てcAMPが セ カ ン ドメ ッセ ンジ ャー のひとっであることを発見した以外には,その細胞内情報伝達機構に関 して 不明 であ る. 本研究では,まずこれらのりガンドやセカンドメッセンジャーの同定の 一助 にな るも のと して ,す でに その 全塩 基配 列が解明されたC.elegansのホモログのcDNA クローニングを試みた.現在までに,ロドプシン型受容体,細胞膜7回貫通型化学受容体,
お よ び 他 の 類 似 受 容 体な どから なる 多数 のG蛋白 質共 役型受 容体 が同 定さ れて いる が,
C.elegansの ゲ ノ ム 解 析に より ,全 ゲノ ムの 約5% が細 胞膜7回貫 通型 受容 体か らな るこ と , さ ら に , 哺 乳 類 のG蛋 白 質 に 相 当 す る 遺 伝 子 が 存在 す る こ と が 明 ら か と な っ た.
ホ モ ロ ジ ー サ ー チ で 予測 し た 塩 基 配 列 が 実 際 にPCR産 物 と し て 得 ら れ , こ のnLGRの cDNAを 用 い て293T細 胞 を ト ラ ン ス フ ェ ク シ ョ ン し 一 過性 に 発 現 さ せ た と こ ろ , こ の nLGRは 細 胞 のcAMP産 生の 亢進か ら恒 常的 活性 化状 態を 示す こと が判 明し た. また ,LHR との キメ ラ受 容体 を用 いた 組換 え実 験に より ,nLGRは単 にア ミノ 酸配 列に おいてホモロ
ジーを有しているだけではなく,構造的にも類似していることが示された.キメラ受容体 の恒常的活性化状態の有無により,nLGRの細胞膜貫通領域が活性化の立体構造をとって いる こと が推 測された.さらに,LHRの第3細胞内ループのC末端側の5個のアミノ酸 配列をnLGRのそれと置換したキメラ受容体も恒常的活性化状態を示したことから,この 部位の立体構造の変化が受容体の恒常的活性化のみならず,リガンドによって引き起こさ れる受容体の活性化機構にも重要であることが示唆された.今回クローニングしたnLGR は293T細胞を用いた実験系で恒常的活性化を示したが,その局在は今回検討されていな い.しかし,実際にC.elegansにおいても恒常的活性化状態にある可能性が考えられる・
また,C.elegansのゲノムに対して糖蛋白ホルモン受容体のりガンドであるaや口サブユ ニットを用いてホモロジー検索を試みたが,相同性を有するものは発見できなかった,こ のことから,nLGRはりガンドを必要とせず,LGRは進化の過程においてそれぞれに対 応したりガンドを獲得して進化してきた可能性がある,
本 研究 ではLHR,FSHR, およびTSHRなど の糖 蛋白ホ ルモ ン受 容体 以外のLGRでセ カンドメッセンジャーが初めて同定された.恒常的活性化状態にあるnLGRはLGRの活 性化機構を解明する上で役立っと考えられる.
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
The nematode leucine‑rich repeat‑containing, G protein‑coupled receptor (LGR) protein homologous to vertebrate gonadotropin and thyrotropin receptors is constitutively activated in mammalian cells.
( 脊椎 動 物の ゴ ナ ドト ロ ピ ン受 容 体な ら び に甲 状腺刺激 ホルモン 受容体と 相 同 性 を 有 す る 線 虫 受 容 体 は 哺 乳 動 物 細 胞 に お い て 恒 常的 に 活性 化 し てい る )
ゴ ナ ド ト ロ ピ ン 受 容 体(LHR,FSHR)は 細 胞 膜7回 貫 通 型G蛋 白 質 共 役 型 受 容 体 フ ァ ミリー に属し,近年,これらの受容体と相同性を有する新しい受容体(leucin‑rich repeat‑
containingGprotein‑coupled receptor: LGR)がヒトやラット,マウスにおいてクローニング された が,その りガンド やセカンド メッセン ジャーは 未だ不明 である.本研究では,ゲノ ム が解 明 されて いる線虫(C.elegans)において 相同性を 有する受 容体のク ローニング とセ カ ンド メ ッセ ン ジ ャー を 同 定し た .さ ら に この 受 容体 とLHRとの キ メラ受 容体を独 自に 作 成 し , 受 容 体の 恒 常的 活 性 化に 重 要 な役 割 を果 た す 受容 体 内領 域 の 同定 を 試み た . C.elegansゲノ ムのホモロ ジー検索 により, ゴナドト ロピン受 容体と相 同性を有す る受 容 体の 存 在が明 らかとな ったため ;独自に 作成した プライマ ーを用いて ,C.elegansの全 RNAか らRT‐PCRを 施 行 し, 予 測さ れ る サイ ズ の遺 伝 子 増幅 産 物を 得 た .塩 基 配 列を 決 定 し , 目 的 と す るcDNAで あ る こ と を 確 認 し た . 受 容 体dDNAを 発 現 ベ ク タ ー で あ る pcDNA3に 組 み 込 み , 大 腸 菌 を 用 い て プ ラ ス ミドDNAを 精製 し た. 一 過 性ト ラ ン スフ ェ ク ショ ン は,ヒ ト胎児腎 線維芽細 胞由来の293T細胞に対 し,培養 ディシュ(5%牛胎児 血 清 ,100ル 如1ベニ シ リ ン,100ル〆mlスト レ プ トマ イ シン , お よび2mML‐ グルタミン 添 加DMEM侭12) あ た り12ルgの プ ラ ス ミ ドDNAを 用 い て り ン 酸 カ ル シ ュ ウ ム 沈殿 法 によ り行い ,48時間後 に細胞を 実験に供し た.ラク トベルオ キシダー ゼ法にて標識した1251‐ hCqhumanchodomcgonadotropin)を 用いて飽和 結合試験 を行った .細胞のcAMP産生量は , mMXく3.isobuM.1‐methyl・xanthine,O.25mM)存在下での培養上清を用いR亅A法にて測定し た .イ ノ シト ー ル リン 酸 加 水分 解 実験 には ,受容体 蛋白を一 過性に発現 した293T細胞 を
[3H]my0‐inositolで標識して用い,20mMのLiCl存在下でのIPl,IP2,IP3をイオン交換カラム で 分 離 し た . 受容 体 の細 胞 膜 上の 発 現 量を 比 較す る た めに , 作成 し た 受容 体 に共 通 の FLAG.M2抗 体( マ ウ ス由 来 ) で認 識 され る よ うに 受 容体 のN末 端 にDuのDDV(Asp‐TyrI
一 雄
郎
一
研 輝
征
間 橋
本
本 石
藤
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
Lys‑Asp‑Asp‑Asp‑Val)のエピトープを付加し,細胞膜表面のM2抗体結合量を1251で標識し た抗マウスIgG抗体(ヤギ由来)の放射能活性で測定した.
ゴナ ドト ロピ ン受 容体 を用 いたホ モ口 ジー サーチにより目的の遺伝子は線虫の5番染色 体 のコ スミ ドク ロー ンCH50.2に同定 され たた め, これ をも とに 作成 した プライマーを用 い て 全RNAか らRT‑PCRを 施 行 し , 予 測 し た サ イ ズ の 増 幅 産 物 を 得 た . こ の 受 容 体 (nematode LGR: nLGR)cI)NAのオ ープ ンー リー ディ ング フレ ーム は2790bpで あっ た・
推 定さ れる アミ ノ酸 配列 は, シグナ ルベ プチ ド(30アミノ酸)を含めて929個からなり,
403個 のN末 端 細 胞 外 領 域 ,262個 の細 胞 膜7回 貫 通 領 域 ,234個 のC末 端 細 胞 内 領 域 を 有 し て い た . 細 胞膜7回貫 通領 域に おい ては ,ゴ ナド ト口 ピン 受容 体と は約50%の アミ ノ 酸 配 列 の 相 同 性 を 認 め た .293T細 胞 に 一 過性 にト ラン スフ ェク ショ ンで発 現さ せた nLGRで は ,LHRと同 程 度 の 細 胞 膜 表 面 へ の 発 現 が 認 め ら れ た . し か し , 乢GRを発 現し た細胞はりガンドの刺激なしに高濃度のc心岨 を産生していたため恒常的活性化状態にあ る こ と が 判 明 し た . な お ,LH,FSH,TSH, なら び にhCGの 刺 激 に は 無 反 応で あっ た.
ま た , イ ノ シ ト ー ル リ ン 酸 代 謝 回 転 に お い て は , 恒 常 的 活 性 化 を 認 め な か っ た ・ 恒 常 的 活 性 化 状 態 に 重 要 な 領 域 を 同 定 す る ため に,nL( 浪のN末端 細胞 外領 域をLHRの 対応する領域と置換したキヌラ受容体L・N(TM‐C)を細胞膜表面に発現させたところ同様に 恒 常的 活性 化状 態を 示し たが ,hCGに対 して は結合能を有するが,その刺激に反応を認め な か っ た . そ の 逆に ,恒 常的 活性 化を 示す ことが すで に知 られ てい るD578Y変 異を 持つ LHRのN末 端 細 胞 外 領 域 をnLGRの そ れ と 置 換 した キヌ ラ受 容体N‐L(TM‐C)D578Yも恒 常 的 活 性 化 状 態 を示 した .さ らにN末端 細胞 外領 域とC末端 細胞 内領 域がLI瓜 由来 のL‐ N(1M)‐Lも恒常的活性化状態を示した.一方,LHRの第3細胞内ループ(i3)のC末端側の 5個のアミノ酸配列をnL(浪のそれと置換したL‐N(i3C)・Lも恒常的活性化状態を示した.
LHR,FSHR, お よ びTSHRな ど の 糖蛋 白 ホ ル モ ン 受 容 体 以 外 のLGRで セ カ ン ド ヌ ッ セ ン ジャ ーが 初め て同 定さ れた .恒常 的活 性化 状態にあるnL(孤はL(浪の活性化機構を解 明する上で役立つと考えられる・
公開 発表 に際 し,副査の石橋教授より,キメラ受容体作成自体によるアーチファクトの 発 生に つい て, 乢GRの恒常的活性化に重要なループを含めた膜貫通領域の部位について,
乢 (弧 のり ガン ドの予測について,また副査の藤本教授からは,恒常的活性化の定義につ い て,i3C末 端側 の5個の アミ ノ酸を すべ て置 換し た理 由な どに つい て, それぞれ質問が あ った .最 後に 主査の本間教授からは,キヌラレセプターのスカッチャード解析結果と免 疫 学的 測定 結果 との相違について,線虫の受容体に対するイノシトール系の関与ならびに 受容体の生理的役割について,などの質問があった.
いず れの 質問 に対しても,申請者は自身で行った実験の結果や報告されている知見をも とに概ね的確に応答した.
審査 員一 同は ,本研究の成果を高く評価し,申請者が博士(医学)の学位を受けるのに 十分な資格を有するものと判定した.