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博 士 学 位 申 請 論 文 要 旨

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Academic year: 2021

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博 士 学 位 申 請 論 文

要 旨

博 士 学 位 申 請 論 文 名

獣 医 師 ス ト レ ス の 人 間 科 学 的 理 解 と 効 果 的 な 対 処 に 関 す る 研 究

博 士 学 位 申 請 者 氏 名 :

矢 野 淳 ( や の あ つ し )

( 平 成 2 5 年 5 月 日 提 出 )

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小 動 物 臨 床 に 携 わ る 獣 医 師 ( 以 下 獣 医 師 ) は , 様 々 な ス ト レ ス を 受 け る 。 獣 医 師 の ス ト レ ス 要 因 を 調 査 す る 予 備 研 究 を 実 施 し た と こ ろ , 大 き な ス ト レ ス 要 因 は 飼 主 で あ る と 考 え ら れ た 。 獣 医 師 の ス ト レ ス に つ い て の 先 行 研 究 で は , 獣 医 師 が 受 け る ス ト レ ス の メ カ ニ ズ ム に 言 及 す る も の が 認 め ら れ な か っ た た め , 本 論 文 で は , 獣 医 師 が 飼 主 に 対 し て 抱 く ス ト レ ス に 焦 点 を あ て , 〈 獣 医 師 が 抱 く 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス の 実 態 と そ の 効 果 的 な 対 処 〉 の 仮 説 を 導 く こ と を 目 的 と し , 仮 説 を 生 成 す る た め の 研 究 を 6 つ 示 し た 。

研 究 方 法 と し て , 一 般 に “ 総 合 性 ・ 総 論

を 欠 く ” と 評 さ れ る 人 間 科 学 の 弱 点 を 克 服 す

る た め に , 構 造 構 成 主 義 的 人 間 科 学 の 方 法 論

を 採 用 し た 。 す な わ ち , Husserl に 代 表 さ れ る 現

象 学 的 思 考 法 と 関 心 相 関 性 の 概 念 を 研 究 の メ

タ 原 理 に お い た , 6 つ の 研 究 か ら 継 承 型 に 仮

説 を 構 造 化 す る 人 間 科 学 の 研 究 の 手 法 を 採 用

し た 。 一 つ 一 つ の 研 究 手 法 を 用 い た 理 由 や 研

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究 時 に 統 制 さ れ て い る 条 件 と 分 析 か ら 結 論 に 至 る 軌 跡 を 明 示 す る こ と , 研 究 結 果 の 適 合 度 や 現 象 に 即 し た 精 密 な 考 察 を 表 記 す る こ と で 仮 説 の 信 頼 性 ・ 妥 当 性 の 拡 充 を 目 指 し た 。 構 造 構 成 主 義 的 人 間 科 学 の 方 法 論 に よ っ て , 質 的 研 究 と 量 的 研 究 の 主 客 を め ぐ る 問 題 , 科 学 性 の 問 題 , 心 理 統 計 学 に お け る 客 観 性 の 問 題 を 克 服 し た 。

6 つ の 継 承 型 研 究 か ら 導 か れ た 仮 説 に よ

る と , 獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス は , 獣

医 師 と 飼 主 の ペ ッ ト に 対 す る 認 識 の ギ ャ ッ

プ , 治 療 構 造 上 の 特 徴 , 飼 主 の 性 質 な ど に よ

っ て 生 じ る 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 が 関 係 し て い

る こ と が 明 ら か と な っ た 。 獣 医 療 の 独 特 な 治

療 構 造 , 獣 医 師 に な っ た 動 機 , 獣 医 療 の 難 し

さ な ど の 獣 医 師 側 の 要 因 と , 飼 主 の 飼 育 動

機 , 飼 主 の 性 質 , 飼 主 の 期 待 な ど の 飼 主 側 の

要 因 か ら , 理 性 的 に ペ ッ ト を 認 識 す る 獣 医 師

と 感 情 的 に ペ ッ ト を 認 識 す る 飼 主 の 間 で 獣 医

師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ が 生 じ る こ と が あ

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る 。 こ の ギ ャ ッ プ は , 飼 主 の 認 知 的 不 協 和 と そ の 低 減 反 応 が 起 因 し 獣 医 師 の 説 得 で 解 消 し づ ら く , 獣 医 師 は 飼 主 と の 関 係 を 維 持 し た い 気 持 ち と 回 避 し た い 気 持 ち で 分 裂 し た 両 価 的 感 情 を 有 す る た め , 獣 医 師 に 葛 藤 を 生 じ さ せ る 。 獣 医 師 が 飼 主 の 感 情 を 理 解 で き ず , こ の 葛 藤 を 獣 医 師 内 で 処 理 で き な い 時 , 飼 主 に 対 す る 恐 怖 や 怒 り や 憎 悪 に 近 い 否 定 的 感 情 と な り , 獣 医 師 に と っ て 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス と し て 感 じ ら れ る 。

獣 医 師 は 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 に 起 因 す る ス

ト レ ス を , 『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 『 関

係 回 避 的 』 『 中 間 型 』 の ス ト レ ス 対 処 に よ っ

て 対 処 し て い る 。 獣 医 師 の 飼 主 ス ト レ ス に お

け る 問 題 解 決 的 コ ー ピ ン グ は , 飼 主 と の コ ミ

ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 限 ら れ , こ れ に よ っ て コ ー

ピ ン グ 出 来 な い 時 , 『 関 係 回 避 的 』 『 中 間

型 』 の コ ー ピ ン グ を 取 ら ざ る を 得 な い 。 ネ ガ

テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ ン グ を 用 い な い こ と , お 互

い を 理 解 し 認 め る が 過 剰 な 歩 み 寄 り を し な い

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こ と , 社 会 構 成 主 義 的 に 治 療 構 造 を 理 解 す る こ と は , 獣 医 師 の ス ト レ ス を 軽 減 す る 効 果 が 認 め ら れ た 。

こ の よ う な 獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス

の 構 造 を 獣 医 師 が メ タ 認 知 す る こ と は , 獣 医

師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス 対 処 を 効 果 的 に 行

う た め に 有 用 で あ る と 考 え ら れ る 。

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平成 25 年度 課程学位論文審査報告書(人文科学研究科:矢野論文)

内 容 の 要 旨

(1) 論文の概要

かつて人間に飼育される動物は、その多くが労役や食料生産を担う家畜として飼主と の明確な主従関係のもとで管理されてきたし、獣医師の役割もそうした文脈の下で動物の 健康管理・疾病治療に携わってきた。しかし、今日では、ペットブームに象徴されるよう に、飼育される動物は飼主の自己対象化されたパートナー(依存対象)としての役割を担わ され、その行動や疾病はもとより、獣医療ニーズにも飼主の動物への自己投影が色濃く反 映されるなど、獣医師の業務や役割も大きく様変わりしている。その結果、獣医師は日々 の診療にこれまでになく大きなストレスを体験しているという。しかし、獣医療研究の方 法論ではこの点へのアプローチは難しく(研究対象になりにくい)、本研究は獣医師でもあ る筆者が、臨床心理学(広い意味での人間科学)的見地から、今日の獣医療における獣医師 の主たるストレス要因と適切な対処方略について一定の仮説生成を試みたものである。

ここで用いられている研究方法には、一般に人間科学の弱点とされる「総合性・総論の 欠如」を克服するために、 Husserl, E. に発する現象学的思考法に基づく構造構成主義的人間 科学の方法論に基づき、 6 つの研究を通して継承的に仮説を構造化する方法がとられてい る。

論文の構成は大きく二部から構成され、第一部が獣医師ストレスとその対処の実態の解 明、第二部がストレスへの効果的対処方略の生成と検討に関する研究からなる。

第一部では、獣医師対象の調査から、彼らが自覚するストレッサーが飼主の性質、獣医 師基準における飼主の無理解、病院経営、獣医療の難しさ等から成ることが見出されたが、

多くは飼主との関係における認識のギャップ、すなわち「獣医学的見地からの専門的・理 性的な獣医師と自己愛的・感情的な飼主」に由来する飼主への否定的感情の処理の難しさ であり、その対処において獣医師は、ストレス理論で一般的に効果的とされる「問題解決 的・関係志向(コミュニケーション促進)的」対処と無効とされる「関係回避的・情動焦点 型」対処との間での不協和(葛藤)に晒されやすいことがストレスを強めていることに繋が っていることが見出された。

第二部では、ストレス理論にみる対人援助専門職(医師、カウンセラー、等)のストレス 対処研究をレビューした上で、援助者のストレス軽減に有効的とされるコミュニケーショ ン促進的対処が獣医療において困難となる要因を、動物-飼主-獣医師という三者構造に おける飼主と獣医師の動物に対する物語(心的歴史)の相違に着目し、筆者は今日の精神医 療や心理臨床の領域で注目され、実践化が進みつつある社会構成主義的アプローチとされ

る narrative-based-medicine ( NBM ) の方法を取り入れた事例を詳細に検討し、その効果を実

証している。すなわち、獣医学という科学性をもって飼主の自己本位的な動物飼育の歪み を正すというような説得的なコミュニケーションを試みたり、飼主に過剰に歩み寄ること ではなく、飼主の動物との関係性(共依存)の物語を自らの物語(獣医学の科学性に合理化さ れた自身の動物への思い入れ)と同じように尊重し、その心的固有性(生き方、価値観、歴 史、等)を受容し共感しようとするコミュニケーションが獣医師および飼主双方のストレス 緩和と問題への「現実的」対処を促進させる治療関係を築き維持させる可能性をもたらす、

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という結論を導き出した。

( 2 )本研究の意義

本論文は、獣医療の構造的特徴は、直接的施療対象は動物ではあるが、そのニードは飼 主の動物との関係性(物語)にあることから、獣医師の真の支援対象はむしろ飼主になると いう点にある。このことが、当該医師に通常の医療や直接的対人援助とは異なるストレス やその対処法の工夫が求められる、ということを論じたものである。極論すれば、今日の 獣医療は、動物施療行為を、獣医師の自覚はともかく、飼主へのカウンセリング的支援と して担わねばならない構造にあるということである。実は、同じような構造は、小児科医 療や学校教育、商品の苦情処理等の分野でも見られる。昨今の小児科医や教師を襲うスト レスの多くは親(保護者)や購買者対応をめぐるものであることを考えれば、本研究は獣医 師のストレス問題に限らず、様々な対人サービス業界において参考され、検証される意義 と可能性を有している。

前述したように、現時点では、当事者(獣医師)の専門性にかかる必然的課題ながら、当 該学問分野を支配する方法論(いわゆる自然科学的アプローチ)での限界性から、本研究は 敢えて人間科学的と称するように、主に質的資料分析を中心とした構造仮説継承型の研究 方法に依っている。従って、本研究の成果(生成仮説)は、今後、より客観科学的な方法で 検証、一般化される必要性もある。こうした限界性や課題を持ちながらも、現実に日常の 専門業務において苦慮している獣医師にとって、本研究は、そのアイデンティティと達成 感、モチベーション等の維持に向けたヒントや方法を示唆するものとして評価できる。

審 査 結 果 の 要 旨

( 1 )審査委員会・口頭試問

本論文は獣医療に係るテーマであるが、内容が人間科学(心理学)的アプローチに特化さ れる研究であることから、論文筆者の所属専攻の臨床心理学関係教授から構成された。

まずは、本研究の方法論上の課題が指摘される。科学性、客観性という意味では、 data

source としての研究協力者 ( 獣医師や飼主、一般人~大学生・大学院生)の条件的妥当性や

サイズ ( 量 ) が十分な推計学的解析を期待できるものでないこと、また質的解析の方法もK J法のみであり、個々の被験者における体験の構造化における妥当性担保にも余地を残さ ざるを得ない。しかし、獣医師ストレスに関する量的・推計学的解析方法が適用出来るほ どの資料や仮説が未だ見出されていない現状では、まずは現象そのものの構造化モデルを 継承的に生成することが優先されよう。その意味では、科学的厳密性は少々差し引いても、

獣医療界における本研究の役割は相応に評価されるべき意義を有していると判断された。

また、獣医師が自覚するストレス要因は飼主との関係だけでもない。医療技術の進歩(高 度化)は飼主・獣医師双方の動物との物語( narative )を超えるニーズや期待、精神的・経済 的負担を求めることにもなり得るし、一層、複雑な構造下でのストレス反応として検討す る必要があることも加えられた。

( 2 )公聴会

公聴会では、上記審査会での指摘や話題に関連するもののほかに、獣医師に限らず専門 家としての役割遂行に伴うストレスそのものの考え方・受け止め方へのコメントがあった。

すなわち、そのネガティブな側面だけでなく、専門家としてのミッションやモチベーショ ンを高める方向に生かす工夫や、役割の経済的価値(営利的行為としての獣医療)としての

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意味づけ(合理化)も期待できるストレス対処法になる可能性である。また、今日の人間と 動物との共依存化したペット・ブームにあって、これからの獣医療の基本的スタンス( 「動 物」の医療 vs 「飼主」のケア)の方向性を問う質問等もあり、現代における人間の孤立化 と自我境界の脆弱さが進む状況にあって、獣医療の役割の本質についても議論されるなど、

出席者の本研究への関心の高さがうかがわれた。

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参照

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