重電機寡占体制の成立と展開
著者 長谷川 信
雑誌名 靜岡大学法経研究
巻 32
号 1
ページ 89‑132
発行年 1983‑08‑20
出版者 静岡大学法経学会
URL http://doi.org/10.14945/00008382
重 機電 寡占 体制
の成 立 展と 開
谷 川
信
目 次 は じ め に I 協 調 の試 み と失 敗 Ⅱ 四社 販 売 協 定 の成 立 と さ つき 会 への 発 展
Ⅲ 寡 占体 制 の強 化 と 限界 お わ り に は じ め に 戦間 期 の日 本重 電機 産業 は︑ 電気 機 械 工業 の中 心的 部 門 と てし 順 調な 生 拡産 大 を続 け た 始︒ し て︑ この 発展 過 程 にお い て︑ 後 に
﹁総合 電機 メー カー
﹂ と呼 ば れ る主 要 企業 が形 成 さ顧
︑ ︶ これ ら 主要 企業 を中 心 と した 寡占 体制 が 成 立 し た ので あ る︒ こ の寡 体占 制 の実 態 と そ の特 徴 を明 ら か にす る こと が 本︑ 稿 の目 的 あで る︒
従 来 の重 電機 産業 に いつ て の研 究 は︑ 昭和 恐慌 が 主要 企業 の形 成 と そ の支 配力 の強 化 に大 き な役 割 を果 し た こと を既 に
重電機寡占体制の成立と展開︵長谷川信︶
八 九
﹁法 経研 究﹂ 第三 二巻 一号
︵一一 九八 三年 八月
︶ 九
〇 指摘 し て いる 竹︒ 内 宏氏 は︑ 昭和 恐慌 期 に︑ 奥村 電機 商 会 川︑ 電北 気 企業 社等 の伝 統 あ る重 電機 企業 が 破綻 す る 一方 で︑ 芝 浦製 作 所 日ヽ 立 製作 所 三︑ 菱電 機 富︑ 士電 機 と うい
﹁重 電 社四
﹂が
重﹁ 電業 界 にお け る寡 占 体制 を確 立 し た﹂ と され て るい ま︒ た︑ これ ら 四社 に明 電舎 と安 川電 機 製作 所 を含 め た
﹁財 閥系 諸 企業 によ る支 配 体制 が 完成 す る﹂ と いう 見解 あも る︒ はで 昭︑ 和 恐慌 を境 に成 立 し たと され る寡 体占 制 の特 徴 はど のよ う に把 えら れ て いる あで ろう か︒ こ の点 に竹 内 氏 は あ る程 度 具体 的 に言 及 し て るい 氏︒ は︑ 日本 の電 気 機 産械 業 にお け る寡 占 体制 を欧 米諸 国 にお け る寡 占 体制 と比 較 し た場
︵ 4
︶
合 の特 色 を指 摘 し てお り 本︑ 稿 と の関 連 で重 要 な のは 次 の二 点 あで る︒ 第 一に
︑ 日本 にお いて は︑ 米欧 諸国 に比 し て寡 占 制体 確の 立が 遅 れ
︑ カ ルテ ル体 制が 形成 され な いま ま に競 争 から 統制 経済 に移 行 し た︒ 第 二 に︑ 企業 の陶 汰が 十 分 進 ま ず
︑
﹁国 際 的 にみ た小 企業 の併 存状 況が 維持 され た﹂ こと であ る︒ す な ちわ 寡︑ 占 業企 数 が イド ツの 場 合 二社
︑ ア メリ カ で は重 電 二社 通︑ 信機 二社 あで たっ の に対 し て︑
﹁日 本 はで 東 芝
︑ 日立 三︑ 菱 のあ と に富 士電 機 も うど に か追 従 す る こと が 可能
﹂ あで たっ 上︒ 記 以外 の諸 点 をも 含 め て竹 内 氏 は︑ 日本 の電 気機 械 産 業 に けお る寡 占 体制 を 不﹁ 完 全 な寡 占体 制
﹂ 評と 価 され て いる
︒ 第 一点 の重 機電 産業 おに け る カ ルテ ル体 制 に つい ては 近︑ 年 橋本 寿朗 氏及 び吉 田正 樹 氏 の論 稿が ︑ 一九 三 二年 月五 に重 電 社四 間 で カ ルテ ル協 定 が締 結 され そ︑ の後 安 川電 機 製作 所 と明 電 舎が これ に加 わ てっ
︑ さ つき 会 と いう 名 称 運で 営 さ れ て いた こと を指 摘 し て るい 本︒ 稿 はで
︑ この 販売 協定 の成 過立 程 協と 定 の概 容 を明 ら か にす る こと を第 一の 題課 と し てい る︒ しか しな が ら 竹︑ 内 氏も 指摘 し て るい うよ に︑ 統 制経 済 に入 いる まで の重 電機 市場 は比 較 的 に競 争 的 あで たっ よう に 思 われ る そ︒ れ で は︑ こ の販 売協 定 は実 際 には 機 能 なし か たっ ので あ ろう か︒ ま た は︑ 売販 協 定 の範 囲が 重電 機市 場 の 一 部 にし か及 ば な か たっ ので あ ろう か
︒ こ 点の を明 ら か すに る た めに は︑ 販 売協 定 の概 容 と共 に実 際 の機 能 に いつ ても あ る 程度 の検 討 を行 な 叫︶ 特 に︑ 協 定が 対象 とし て いた 範 囲 を明 ら か にす る必 要が あ る︒ こ の協 定 の範 囲 は︑ 竹 内氏 の第 二の
指摘 と関 連 し て いる
︒ 竹 内 氏 は︑ 寡占 体制 が 不十 分 な こと を示 す第 二 の点 と して 欧︑ 米 比と 較 し て の企 業数 多0 さを 取 り上 げ た︒ これ は重 電 機 産業 全体 にお け る企 業 集中 及 び生 産 集 中 の不 十分 さを 問題 にし て いる と思 わ れ る︒ し かし 重︑ 電 機産 業 のよ う に多 数 の 製 品種 類 有を して いる 場 合 に は︑ 個 々の 製品 市場 によ てっ 競 合す る企 業数 需︑ 要 構造 等 に著 し い差 異が あ り 重︑ 電機 産 業 全体 を問 題 にす るだ け で は不 十分 あで る︒
^ 重電 機 器 の多 様 な製 品種 類 は大 き く受 注 生産 あで る非 量産 型 と量 産型 に分 け る こと が 出 来 るが 重︑ 電機 器 の中 心的 製品 は︑ 受 注生 産 であ り 非︑ 量 産型 あで る発 変 電 用機 器 であ たっ
︒ し たが てっ
︑ こ の発 変 電用 機 器 に関 す る販 売協 定が
︐ そ の 生産 に圧 倒 優的 位 を持 つ重 電 四社 間 締で 結 され し︑ かも そ の協 定が 有 効 あで れば 重︑ 電機 産業 にお け る寡 体占 制が 基本 的 に成 立 し たと 考 え られ る︒ しか し︑ この 販売 協定 に含 まれ な い多 く の製 品 分野 企と 業が 依然 と して 残 てっ いた そ︒ れ ら の 分野 が ど の程 度 寡占 体制 の中 に組 み込 ま れ て行 たっ のか 朗を らか にす る こと が ︑ 一九 二〇 年 代 に おけ る寡 占 体制 の展 開 を 評価 す る際 に必 要 あで り
︑ これ が 本稿 の第 二 の課 題 あで る︒ 以 上 の検 討 によ てづ わ︑ れ われ は重
.機電 市 場 の競 争的 性格 と 一︑´
方 で の販 売協 定 の成 立 と いう 一見 相 矛盾 す る事 実 を斉 合的 に理 解 す る糸 口を 得 ると 共 に︑ 我国 重電 機 産 業 に おけ る寡 占 体制 全の 体 像 と先 進 国 のそ れと を比 較す る こ と に よ っ て︑ 国我 の寡 占体 制 の新 たな 特 徴 を知 る こと が出 来 るの あで る︒ 一九 二〇 年 代 に お け る重 電 機 産 業 の発 展 と 主 要 企 業 の形 成 に つい て は 拙︑ 稿
﹁一 九 二〇 年 代 の電 気 機 械 工業
︱ 発 展要 因 と そ の特 質
︱
﹂ 翁 歴 史学 研 究
﹄ 四八 六 号 ︑ 一九 八〇 年 一 月一
︶ を参 照
︒ 竹 内 宏
﹃現 代 の産 業 電 気機 械 工業
︵新 訂 版 と
︵東 洋 経 済 新 報 社
︑ 一九 七 三年
︶ 一二 四頁
︒ 山 田 亮 二 竹︑ 中 一雄
︑ 三輪 芳 郎
﹁電 気機 械 工業 の史 的 展開
﹂
︵有 沢 広 己編
﹃現 代 日本 産 業 講 座
Ⅵ 機 械 工業 2﹄ 岩 波 書 店 一︑ 九 六 重 電 機 寡 占 体 制 の成 立 と 展 開
︵長 谷 川 信
︶ 九 一
TT T注
﹁法 経研 究﹂ 第 三二 巻 一号
︵一 九八 三年 八月 ︶ 九 二
〇年
︶四 一頁 山︒ 田氏 ら は︑
︲明 電 舎と 安川 電機 が住 友 から の資 金援 助を 受け 住︑ 友 の電 機 部門 への 進 出が 見ら れる とさ れ て い る が︑ そ の根 拠 は明 らか でな い︵ 上同 書四 一頁
︶︒ 地方 財閥 であ る安 川 はと もか く 明︑ 電舎 ま で
﹁財 閥系 業企
﹂ 含に める こと は出 来 な い︒ な お︑ 明電 舎と 安 川電 機 の資 金調 達 に つい ては 拙︑ 稿
﹁戦 間期 の重 電機 工業 おに るけ 門専 メー カー の発 展﹂
︵静岡 大学
﹃教 育 学 部研 究報 告﹄ 人文
・社 会科 学篇 第 二三 号︑ 一 九八 二年
︶ 三四
︑ 七三
︑ 三八 頁 を参 照
︒
︵4
︶ 竹内 前掲 書 ︑ 三二 七︑ 三 二八
︑ 三二 九頁 参照
︒
︵5
︶ 橋 本寿 朗
﹁産 業構 造 重の 化学 工業 化 と資 本 の組 織化
﹂︵ 社会 経済 史学 会編
﹃一 九 二〇 年代 の日 本経
﹄済 東大 出版 会
︑ 一九 八 二年
︶ 一四 六頁 吉︒ 田正 樹
﹁戦 前 にお け るわ が国 電 機産 業 の企 業者 活 動﹂
∩ 三田 商学 研究
﹄ 三二 巻五 号 ︑ 九一 七九 年 一二 月︶ 七四 頁
︒
︵6
︶ 本稿 の目 を的 果す ため には カル テ ル機 能 の全 面的 分析 が不 可欠 であ るが
︑ カ ルテ ルの 当事 者側 資料 乏が しい 現時 点 では 困難 であ る︒ 本稿 では 新聞 道報 等 よに リ カル テ ル協 定 の内 と容 機能 を出 来 るだ け明 ら かに よし うと 試 みた
︒ I 協 調 の 試 み と失 敗 H 部 分 的 販 売 協 定 の成 立 一九 二〇 年 代 後 半 に お い て 日 本 の 重 電 機 産 業 の技 術 力 は向 上 し つ つあ り
︑ 二 六年 の関 税 率 引 上 げ の効 果 と 併 せ て 重 電 機 器 の輸 入 依 存 度 は 低 下 し つ あつ っ ︵地
︒ こ の日 本 重 電 機 産 業 に よ る 国 内 市 場 確 保 の進 展 を 背 景 と し て
︑ 主 要 企 業 間 の協 調 が 問 題 と な たっ
︒ 販 売 協 定 を 結 ぼ う と す る動 き は
︑ 既 に 二五 年 か ら 開 始 さ れ て い た
︒ 当 時
︑ 電 気 機 械 産 業 の業 界 団 体 と し て の役 割 を 果 し て い 電た 気 協 会 第 五 部 会 に お い て
︑ 電﹁ 気 用 品 国 産 奨 励 調 査 委 員 会
﹂ が 二 五 年 月六 に設 置 さ れ た
︒ 当 委 員 会 は
︑ 重 電 機
・電 線
・計 器 電 球
・電 信 電 話
・碍 子
・電 池 等 の電 気 機 械 業 者 の委 員 以 外 に︑ 需 要 家 あで る電 力 業 の代 表 者 と 通 信
︑ 鉄 道 陸︑ 軍 海︑ 軍
︑ 商 工 各 省 の代 表 者 に よ てっ 構 成 さ れ
︑
﹁電 気 事 業 界 於に て我 が 国 産 品 の使 用 を 促 進 せ し む る方 策 如 何
﹂ に つ い て調 査 研︑ 究 を 行 な 祀ゝ
︒ そ の活 動 内 容 は
︑ 一﹁ ︑ 一般 傾 向 と し て 国 産 電 気 用 品 を 使 用 せ ざ る原 因 の考 察 一一︑
電 気 機 械 器 具 箇の 々 に付 国 産 品 と輸 入 品 優の 劣 如 何 一二
︑ 国 産 電 気 用 品 の使
用奨 励 に関 し製 造 業者 に望 む事 項 等 に関 し四 十余 項 に亘 る具 体 的綱 領 を得
﹂た 他 に︑ 政府 の国 産 振 興委 員 会 から の諮 問
︵ 3
︶
に応 え て意 見 書 を提 出 す る等 の活 動 を 行 な たっ
︒ そ し て
︑ 国 産 奨 励 を 進 め る 具 体 的 方 法 と し て 同 業 者 間 の協 調 が 取 り 上 げ
︵ 4
︶
ら れ
︑ 二五 年 一〇 月末 の第 回二 委員 会 は以 下 の内 容 を満 場 一致 の下 決に 議 した
︒ 一︑ 国産 奨励 題問 は製 造家 が優 良品 を製 出す るこ とヽ 政府 及び 一般 国民 が国 産品 を愛 用す るこ と ヽが 両 々相 俊 てっ 行 はれ て初 めて 実 効を 挙げ 得べ く而 して 製造 業者 の立 場と てし は政 及府 び 一般 に向 てっ 求む るに 先だ ち先 以て 自己 努の むべ き事 項を 尽す こと 必要 な 二︑ 其れ はに 製造 業者 間 の協 定を 実行 する こと が何 より の急 務 にし てこ れが 今日 国産 奨励 の実 績を 挙ぐ る基 条礎 件な りと す ここ で は︑ 電 機 製造 業 者が 電気 機械 の国 産 化 を進 める た め にま ず取 り組 むべ き緊 急 の課 題 と し て︑ 販売 協定 の締 結が 重 視 され て いた
︒ こ の決 議 を実 行 に移 す た め に︑ 同 年 一一 月 一 一日
︑
﹁国 産 奨 励 に関 す る電 気 用品 製造 主脳 者懇 談会
﹂が 開 催 され 崎 出席 者 は︑ 電 気協 会会 長 田健 治 郎 同︑ 常務 理事 竹内 友治 郎 同︑ 技 術顧 問立 原 任 そ︑ し て製 造業 者 側 から 芝︑ 浦 製 作所 岩 原謙 三︑ 日立 製作 所小 平 浪平 東︑ 計京 器製 作所 和 田嘉 衡
︑ 三菱 電機 武 田秀 雄 富︑ 士電 機 名取 和作 古︑ 河電 工中 川 末 吉 藤︑ 倉 電線 松本 留吉 沖︑ 電 気浅 野 総 一郎 安︑ 中電 機 製作 所青 山録 郎 住︑ 友 電線 肥後 次八 の計 一三 名 あで り 重︑ 電機 と
︵ 6
︶
電 線 の主 要 製 造 業 者 が ほぼ 集 ま てっ い た
︒ こ の懇 談 会 の決 議 事 項 は下 記 の如 く あで たっ
︒ 右代 者表 会集 協議 の上 協定 す る こと 左 の如 し 一︑ 電 気用 品製 造 の同 種同 業者 づ先 以 て重 な もる のに て協 議会 を設 け左 の種 別 に分 ち各 別に 協調 す る目 的 を以 て実 行方 を法 協定 する
こ と
一︑ 強 電 流関 係 一︑ 弱 電 流 関 係 一︑ 電 線 関 係 一︑ 計 器 其 他 の関 係 一︑ 右 協 議 会 に於 て審 議 せ る結 果 は随 時 協 会 通に 報 し て連 絡 を計 り実 績 を挙 ぐ る に資 す る こと 一︑ 右 協 議 会 等 一回 集 合 を催 す 為 め 幹に 事 を定 む る こと 左 如の し 重 電 機 寡 占 体 制 の成 立 と 展 開
︵長 谷 川 信
︶