• 検索結果がありません。

「オフィス・住宅の近隣外部性から見る容積率規制制度の在り方についての考察-東京都区部を対象として-」

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "「オフィス・住宅の近隣外部性から見る容積率規制制度の在り方についての考察-東京都区部を対象として-」"

Copied!
66
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1

オフィス・住宅の近隣外部性から見る容積率規制制度の在り方についての考察

‐東京都区部を対象として‐

<要旨> 容積率規制は社会経済活動の総量をコントロールし、市街地の良好な環境の確保、建築物と道 路等の公共施設とのバランスを図ることを目的として行われているが、同時に土地の高度利用 を抑制し、企業集積により発生する集積の利益を阻害する。そのため、指定容積率を引き下げて 企業集積を促し都市の生産性を高めるべきとの議論があるが、そのためには規制緩和による近 隣外部性の全体像を明らかにした上で、その外部性に対応した形の緩和が行われるべきである。 本稿では、現在の容積率規制制度と緩和制度、及び、東京都区部におけるオフィス・住宅の立 地状況を整理し、容積率規制のもたらす外部経済・外部不経済の可能性について理論的分析を行 った。また、オフィス・住宅の供給が周辺地域に与える影響が、その建物の使用容積率によって どのように異なるのかを明らかにするために、公示地価を被説明変数とし、閾値以上の使用容積 率のオフィスの延床面積を説明変数とするパネルデータ分析を行い、複数の閾値を設定した場 合の差を比較することで、600%以上の使用容積率の場合に、正の近隣外部性が働くことを明ら かにした。また、これを補足する形で使用容積率が 600%未満、600%以上のオフィスの延床面 積が目的別・手段別の集中交通発生量に与える影響についてパネル分析を行い、高容積の建築物 方が低容積の建築物よりも集中交通発生量が少ないことを明らかにした。 この結果を踏まえて、容積率移転制度及び用途別の容積率指定制度の活用による生産性の向 上の効果と現行制度の運用改善の在り方について提言を行い、制度の適用可能性について検討 を行った。 2020 年(令和 2 年)2 月 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU19705 桒原 崇宏

(2)

2 目次 第1章 はじめに...3 1.1 研究の背景・目的...3 1.2 先行研究...4 1.3 研究の構成...5 第2章 容積率規制制度の現況...6 2.1 容積率規制制度の概要とその目的...6 2.2 容積率規制制度導入の経緯...7 2.3 インフラ負荷に対する規制制度の在り方について...8 2.4 容積率規制の緩和制度について...11 2.5 東京都における施設建築物の現況について...11 2.6 小括...20 第3章 容積率規制・緩和のもたらす外部経済・外部不経済について...21 3.1 集積の経済・不経済及び容積率規制の外部性について...21 3.2 オフィス・住宅の値付け許容額に起因する、容積率規制がもたらす床構成の歪み...22 3.3 用途に起因する外部性の差によって生じる容積率規制がもたらす社会的損失について...26 3.4 容積率規制緩和による近隣外部性について...27 3.5 小括...30 第4章 住宅・オフィスの延床面積が公示地価に及ぼす影響について...31 4.1 分析の目的...31 4.2 仮説...31 4.3 実証分析の方法...31 4.4 推定結果の解釈について...42 4.5 特徴的な地区についての個別分析...45 4.6 小括...46 第5章 住宅・オフィスの延床面積が集中交通発生量に与える影響について...47 5.1 分析の目的...47 5.2 仮説...47 5.3 パーソントリップ調査における集中交通発生量に関する分析...47 5.4 実証分析の方法...48 5.5 推定結果の解釈について...54 5.6 小括...55 第6章 政策提言...56 6.1 容積率移転制度について...56 6.2 用途別の容積率指定制度について...58 6.3 政策提言の適用可能性がある地区についての考察...59 第7章 おわりに...62 7.1 研究成果と今後の課題について...62 謝辞 参考文献

(3)

3

第 1 章 はじめに

1.1 研究の背景・目的 我が国においては、少子高齢化の進行が叫ばれて久しいが、その中においても東京一極集中は 依然として進んでいる状況にある1。東京の一極集中について論じる際に、東京の土地利用の妥 当性について議論となるのは必然であるが、東京の土地利用規制が充分でないがゆえに一極集 中が進むことになったと主張する規制推進派と、土地利用が厳しすぎるがゆえの弊害として現 在の状況となったという規制緩和派双方からの主張がなされている。2 土地利用規制は、用途地域に代表される用途規制と、建物そのものの形態を規制する形態規制 の二つの側面から行われているが、この形態規制の代表的なものとしては容積率規制があげら れる。 容積率規制は「用途地域に応じて建築物の密度を規制することにより、それぞれの地域で行わ れる各種の社会経済活動の総量をコントロールし、これによって、市街地の良好な環境の確保、 建築物と道路等の公共施設とのバランスを図ろうとする」3ことを目的として行われているもの であるが、具体的には、建築物の敷地面積に占める延床面積の割合を法的に制限することにより 行われている。 この容積率規制は土地の高度利用を抑制し新たな床の供給を阻害するため、特に東京都心な どでは床面積が不足し、賃料を大幅に引き上げることに繋がるが、これは、単に都心へのオフィ スの立地の阻害に留まらず、企業集積により発生する集積の利益をも阻害するという点で大き な課題を有している。 このため、指定容積率を引き上げることにより、賃料を引き下げ、床需要の高い地域に企業の 集積を促すことにより、主に体面的接触によってなされる企業間の取引に要する時間費用を節 約することを通じて都市全体の生産性を高めるべきであるといえる4 しかしながら、指定容積率の引き下げは、企業の集積以外の社会的なインパクトを与える可能 性がある。もし、緩和が外部不経済をもたらすのであれば、緩和は行われるべきではないし、緩 和が外部経済をもたらすのであれば、更なる緩和が行われるべきであるといえよう。 また、現行の容積率規制は、原則として、用途地域に対して一律に行われるものであり、個別 の建築物の用途等を踏まえて行われている訳ではない。容積率規制の目的が、「建築物の密度を 規制することにより、それぞれの地域で行われる各種の社会経済活動の総量をコントロール」す ることにあるとすれば、それぞれの施設の用途により、社会経済活動の発生量が異なる場合、建 築物の用途を問わない一律の規制は妥当性を欠くと言わざるを得ない。 本論では、この容積率規制について、経済学的観点から現行制度の問題点について論じるとと もに、今後の規制の在り方について考察し、適正な規制によりバランスの取れたオフィス・住宅 1 「まち・ひと・しごと創生⾧期ビジョン(令和元年改訂版)」 2 浅見(1997) 3 国土交通省資料 4 例えば八田(2007)

(4)

4 の立地を促進することで、社会全体の生産性を高めることを目的とするものである。 1.2 先行研究 本節においては、本研究に関連する先行研究を整理する。 八田ほか(1995)は、東京一極集中の諸要因として、企業活動に係る規模の経済とそれに起因 する集積の経済が地価上昇に与える影響について体系的に整理と理論的分析を行っている。ま た、金本、藤原(2016)は、集積の経済と都市規模の関係について経済学的に明らかにするとと もに、日本の土地利用政策について、外部性とその制御という観点からその役割と限界について 理論的な分析を行っている。 八田、唐渡(2007)は、容積率規制の緩和による企業の生産性の向上と、緩和による自動車交 通発生量との関係を理論的、実証的に分析することで、容積率緩和によるコストを便益が上回る ことを明らかにしている。また、浅田(2007)は、容積率緩和による事業の従業者の移転が自動 車の走行距離を減少させることを実証的に分析している。また、安西(2011)は、大規模オフィ スビルが業務交通に与える影響について、大規模オフィスの棟数密度が公示地価に与える影響 をヘドニック法により分析し、業務交通に与える影響について実証的に分析している。 浅見(1995)は、我が国における土地利用規制について、その成立経緯や理由を体系的に整理 し、その意義と限界について理論的に論じている。 大規模建築物の周辺市街地への影響に関して、建物高さによる負の外部性については、青木 (2008)は神戸市等のマンションを対象に、山下(2004)は総合設計制度を活用した建物を対 象に周辺敷地の相続税路線価に与える影響をヘドニック法により分析している。また、竹之内 (2019)は都心部における高層建築物全体を対象に、高さが周辺住宅の賃料に与える影響をヘ ドニック法により分析している。井上(2013)は、延床面積 1 万㎡以上の大規模建築物が周辺 の公示地価に与える影響をヘドニック法により分析している。 容積率移転に係る移転ニーズを分析した研究に関して、小祝(2015)は、容積率移転制度の有 用性に関して理論的な考察を行っている。特定街区を用いた容積率移転制度については保利ほ か(2008)の研究がある。特例容積率移転制度については、片山(2005)は東京都の運用を参考 に、歴史的建造物の容積移転について分析している。また、中西ほか(2003)は容積率の移転元、 移転先の敷地を推定し、局所的な容積集中がインフラ負荷を高める可能性を示している。また、 牛田ほか(2002)は、京都市を対象として、容積率移転市場について一般均衡分析を行っている。 また、竹之内(2019)は、需要と供給のバランスから容積率移転制度の導入効果を分析している。 用途別容積率制度の導入に関して、和泉(1997)は容積率緩和型制度の体系と用途別容積率型 地区計画制度の意義について論じている。また、八田(2000)は、用途別の容積率を設定したう えで容積率を売買する市場を導入することを理論的に提案している。 既往研究においては、個別の建築物の規模が地価に与える影響や、建築物高さの外部性を明ら かにしたものはあるが、住宅とオフィスで容積率規制緩和がもたらす外部経済・外部不経済の違 いを明らかにしたもの、オフィス・住宅の延床面積の集積による外部経済・不経済について、そ

(5)

5 の集積度合いに応じてどのような差があるのかを実証的に明らかにしたものはない。 また、オフィス・住宅の集積による近隣外部性に着目して容積率移転制度や用途別容積率制度 について論じたものも存在しない。 1.3 研究の構成 本論の構成は以下の通りである。 第 2 章では、容積率規制制度の創設経緯を含めた概要を整理するとともに、インフラ負荷のコ ントロールに対する様々な制度の在り方について経済学的見地から論じる。また、現在行われて いる容積率緩和制度について整理する。加えて、東京都区部における使用容積率5、容積率充足 率6の現況について分析を行う。 第 3 章では、企業の集積がもたらす外部経済・不経済について整理する。また、東京都心部に おいて、オフィス・住宅の床への値付け許容額の差に起因する床構成の歪みについて理論分析を 行うとともに、施設用途の外部経済・外部不経済の差に起因する社会的損失の発生について理論 的分析を行う。加えて、容積率規制・緩和によって生じる外部経済・不経済について分析を行う。 第 4 章では、住宅・オフィスの延床面積が公示地価に及ぼす影響が、その建築物の使用容積率 によってどのように異なるかを明らかにするために、パネルデータを用いた実証分析を行うと ともに、その結果において特徴的であった地区について状況を整理する。 第 5 章では、住宅・オフィスの延床面積が集中交通発生量に及ぼす影響が、その建築物の使用 容積率によってどのように異なるかについての実証分析を行う。 第 6 章では、容積率移転制度及び用途別容積率規制制度の拡大可能性について政策提言を行 うとともに、これらの制度について適用可能性がある地区についての考察を行う。 最後に第 7 章において容積率規制緩和にあたっての留意点を示すとともに、制度の改革の方 向性を示す。 5 延床面積を敷地面積で除した比率を百分率にしたもの。 6 使用容積率を指定容積率で除した比率を百分率にしたもの。

(6)

6

第2章 容積率規制と容積率規制緩和制度の現況

2.1 容積率規制制度の概要とその目的 我が国における建築物に対する規制制度は、良好な環境保護等を目的とした都市計画法によ り定める事項(種類、位置、区域、面積、容積率、建蔽率、高さの限度、外壁後退、敷地面積の 最低限等)と、建築基準法により定める事項(接道、道路内建築制限、壁面線、建築物の用途制 限、容積率、前面道路幅員容積制限、建蔽率、最低敷地規模基準、外壁後退基準、高さ制限基準、 斜線制限、日影規制等)とが存在する。これらを端的に言えば、土地利用規制と、建築物の形態 の制限から成るといえるが、建築物の形態制限については、都市計画で定められる用途地域に応 じた容積率制限、建築基準法に定められる高さ制限基準、斜線制限、日影規制などが該当する。 用途地域に応じた形態制限については、表 1 に示す通り、主に容積率、建蔽率、斜線制限、日影 規制等があり、基本的にメニューの中から都市計画で選択することにより制限が行われている。 容積率規制は、敷地面積に対する延床面積の比率で求められる容積率について、用途地域に応 じて指定し、建築物の密度を規制することにより、それぞれの地域で行われる各種の社会経済活 動の総量をコントロールし、これによって、市街地の良好な環境の確保、建築物と道路等の公共 施設とのバランスを図ろうとするものである。 100% 200% 100% 敷地面積 延床面積 容積率(%)= ÷ × 100 住居系用途地域の場合 道路幅員4m 4×0.4=160% 非住居系用途地域の場合 道路幅員4m 4×0.6=240% 前面道路幅員による容積率制限 ※特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内 表 1 用途地域に応じた形態制限メニューの例(出展:国土交通省 HP) 図 1 容積率制限(出展:国土交通省 HP) 容積率 (%) 建蔽率 (%) 斜線制限 日影規制 道路斜線 隣地斜線 対象建築物 規制値 適用距離 勾配 立ち上がり 勾配 5mラインの時間 第1種低層住居 専用地域 50,60,80,100, 150,200 30,40,50,60 20,25,30,35 1.25 適用なし 軒の高さ7m超 又は3階以上 3,4,5 第1種中高層住居 専用地域 100,150,200, 300,400,500 30,40,50,60 20,25,30,35 1.25 20 1.25 高さ10m超 3,4,5 20,25,30 1.5 31 2.5 ※ 商業地域 200~1300 (100刻み) 80 20,25,30,35, 40,45,50 1.5 31 2.5 適用なし ※ 工業地域 100,150,200, 300,400 50,60 20,25,30,35 1.5 31 2.5 適用なし ※

(7)

7 容積率規制が社会経済活動のコントロールに直接的に与える影響について整理する。前述の 通り建築物の形態規制は、容積率規制の他、建蔽率、斜線制限、日影規制などにより総合的に行 われている。容積率規制の目的は、「築物の密度を規制することにより、(中略)市街地の良好な 環境の確保、建築物と道路等の公共施設とのバランスを図ろうとするもの」とされているが、市 街地の良好な環境の確保に関しては、斜線制限、日影規制等による絶対高さ制限によるところが 大きいと言えよう。すなわち、容積率規制は、「建築物と道路等の公共施設とのバランスを図る」 つまり、地域において新設される建築物を道路の交通容量に適応した規模に制限する、という側 面が強いといえる。このことは、次に述べる容積率規制制度導入の経緯からも明らかである。 2.2 容積率規制制度導入の経緯 容積率規制制度導入の経緯については、浅見(1997)に詳しい。以下に引用する。 「1970 年の建築基準法改正によって容積率規制が導入される以前は、市街地建築物法に端を 発する住居地域における 20m、その他の地域における 31m という「絶対高さ制限」があった。 絶対高さ制限が制定された理由には、交通容量上の問題が大きいとされている。 絶対高さ規制の目的としては、採光や通風上の居住環境の保護、交通容量からの制限、市街地 景観の保全、建築物構造上の安全性確保、火災など緊急時における避難の容易性などが考えられ る。しかし、交通容量からの制限と市街地景観の保全の二つは規制内と音の対応関係が自然だが、 他の項目は、より目的に即した別の規制の仕方があるはずである。例えば建物構造上の安全性確 保の観点からは構造月に規制すればよく、事実、市街地建築物等の中で構造別の高さの制限が設 けられていた。 よい景観に対する感覚は、個人によって異なるため、景観上の理由は規制の是非も含めて、異 性目的の根拠としては脆弱になる。その点で、根拠として明確なのが交通容量からの制限である。 本来は、容積率規制の方が絶対高さ制限よりも規制目的に合致するはずであるが、絶対高さ制限 が導入された当時は交通容量と建物規模との関係についての研究が不十分であったため、そこ までは踏み込めなかった、また、当時の建築物にあまり高いものはなく、容積率制限をする必要 性は、あまりないと認識されていた。容積率制限が導入される以前にも、前面道路との関連で斜 線制限があったが、これも交通容量との兼ね合いで規制されたようである。 第二次世界大戦後の復興が進むと、大都市部では人口・産業が集中し、地価が上昇した。この ため、土地の高度利用要求が高まった。さらに自動車が普及してオープンスペースの必要性が高 まり、自動車交通と都市施設の容量を都市計画的に調整する必要が生じた。建設業サイドからは 絶対高さ制限下での建築プランに限界があること、さらに絶対高さ制限はオープンスペースの 無い密集した市街地を作る可能性があること、技術的にも耐震ケイン地区技術が進歩し霞が関 ビルに代表される高層建築物が建てられるようになっていることなどが指摘されるようになっ た。 このような流れを背景にして、1970 年に絶対高さ制限に代わり、容積率制度が採用された。 容積率の制限値については行政の連続性を勘案し、それまでの高さ制限で許されていた容積を

(8)

8 もとに上限値を定めた。従来よりも緩和されるべきではないという建築学会答申を考慮したと いわれる。また、容積率規制という規制手法を導入した一つの理由には、運用面での容易性とい うこともあった。」 以上より、容積率規制の正当性の根拠足りえるのは、交通容量に応じた交通量のコントロール にあるといえる。一方で、実際の運用においては、「行政の連続性を勘案し」て設定されており、 実際の交通容量や施設により発生する交通量を踏まえた設定とはなっていないと考えられる。 2.3 インフラ負荷に対する規制制度の在り方について 2.3.1 容積率規制による対策 オフィスや住宅等が集中的に立地し、地域の交通量が増加すると、地域の交通容量を超過し、 混雑が発生するため、単位面積当たりのオフィスや住宅により発生する集中交通量が概ね一定 であると仮定し、交通容量を超過しないように地域における延床面積の総量を定めることで、交 通量をコントロールすることができる。一方で、地域で許容される総延床面積に対して、先に施 設整備を行った者が早い者勝ちで容積を利用することができるようにすると、後から地域で施 設整備を行おうとする地権者等にとっては不公平となる。このため、床の総量の上限値を地域内 で敷地単位に割振って指定容積率とすることで、公平性を担保しながら交通容量を超過しない 交通量にコントロールすることができる。 しかしながら、例えば、同一地域内にあっても容積率を上限まで必要としない者と指定容積率 上限を超えて利用したい者がいる場合は、交通量のコントロールという観点からは使用して問 題がないはずの、容積率を上限まで必要としない者が使わなかった容積率を使用することがで きない、過剰な規制となっている可能性がある。また、単位床面積が発生させる交通量は一定で あるという仮定についても、実際は社会的な事情の変化や大規模交通ネットワークの整備状況 等によって、経年で大きく交通量が変化する可能性があることから妥当は言い難い。また、交通 量は 1 年を通じても季節によって変動するであろうし、1 日で見ても、朝と夜とでは交通量が異 なり、交通インフラにかかる負荷が大きく変動することは容易に想像できる。このような文字通 り「流動的」な交通に対して、一度建設されれば数十年間は固定化される建築物の規模で対応す る場合、より安全側に規制が行われることが予想されるため、過剰な規制となっている可能性が 高い。 2.3.2 ピークロードプライシング 交通量が交通容量を超過し混雑という外部不経済を発生させる場合、直接的な制御方法とし て、混雑による外部不経済に対応したピグー税を課すことが最も効率的な手法とされている7 具体的には、道路・鉄道等の交通手段について交通料金を設定し、混雑が発生するピーク時には 料金を高くし、閑散期の料金を低く抑えることにより、過剰な混雑を無くすことによって資源配 7 例えば福井(2016)

(9)

9 分の改善をもたらすピークロードプライシングの手法が知られている。しかしながら、都市鉄道 や道路交通においては、当手法が採用されることは稀であり、通勤定期等の割引によってラッシ ュ時の料金が低くなっているのが実情である。 混雑料金の導入に当たり、混雑の程度に応じて時々刻々と変化する料金を利用者に適切に知 らせることは技術的に困難であり、精度の低い混雑料金となってしまうであろう。また、混雑の 発生という低い交通サービス水準に対して料金を上げることに対する反発も容易に予想される ことも、ピークロードプライシングの導入が進まない理由の一つと考えられる8。しかしながら 近年では IC カードを活用した鉄道交通が一般的となっていることから、自動的に鉄道利用料を 変動させる手法も技術的に可能になってきていると考えられる。また、自動車交通についても、 GPS の活用で個別の車の動きを把握することや、AI 技術の発展により、ビッグデータの分析等 も可能になっていることに加え、現金を用いない料金支払いが一般的になってきていることか らも、今後は混雑状況や車の移動に適切に対応したピークロードプライシングが可能となる素 地は出来てきているものと考えられる。 しかしながら、いずれにしても現行制度を一から変えてしまうことには大きなコストがかか る。負の外部性に応じた混雑税を導入するのがファースト・ベストではあるが、次善の策として 現行の容積率規制制度の下で、行政コストを抑えつつより適切な規制への改善が行われるよう な改正について検討を行いたい。 2.4 容積率規制の緩和制度について 主に都市部における高度利用を目的として、容積率規制に対しては様々な規制緩和制度が設 けられている(表 2)。 このうち、複数の地域を含む一定の地域内において、容積率利用の自由度を高める制度として は、総合設計制度、特定街区、特例容積率適用地区、一団地の総合的設計制度、連担建築物設計 制度、容積適正配分型地区計画、用途別容積率型地区計画等がある。 2.4.1 総合設計制度 総合設計制度は、建築基準法に基づき、敷地規模が一定以上であること、一般に開放された空 地を設けること等、周囲の市街地環境の整備改善に資すると認めて特定行政庁9が許可した場合 には、容積率規制や建物の高さ制限を緩和することが可能な制度である。本制度は、一定以上の 規模の開発に対し公開空地を設けることによる環境の整備改善を主たる目的としており、イン フラ負荷を踏まえた交通量のコントロールを目的としたものとはなっていない。 8 「道路課金」高いハードル 鎌倉市の渋滞解消なるか 地元合意がカギ」(産経新聞) https://www.sankei.com/life/news/181105/lif1811050044-n1.html 2020/2/9 閲覧 9 その地域において建築確認等の事務を司る建築主事を置く地方公共団体の⾧を言い、都道府県知事の場合と市区町村⾧の場合があ る。東京都区部においては各区⾧が特定行政庁となっている。

(10)

10 2.4.2 特定街区 特定街区は、街区を単位として、有効な空地を備えた市街地の整備改善に資する建築物の計画 を都市計画に定め、建築形態の規制をこれに置き換えるもので、有効な空地の規模等に応じ、容 積率を割増することができ、隣接する複数の街区を一体的に計画する場合には、街区間の容積率 移転が可能となっている。本制度はあくまで一街区について公開空地等を設けることによる環 境の整備改善を主たる目的としており、容積率移転も街区が隣接する場合に限られている。 2.4.3 特例容積率適用地区 特例容積率適用地区は、適正な配置及び規模の公共施設を備え、かつ、用途地域で指定された 容積率の限度からみて未利用となっている建築物の容積の活用を促進することにより、土地の 有効利用を図るエリアとして都市計画で定める地区である。 関係地権者の合意がある場合に、隣接敷地のみならず。街区を超えて容積移転が可能であるな ど、柔軟性が高く、機動的な制度であるといえる。 2.4.4 一団地の総合的設計制度、連担建築物設計制度 一団地の総合的設計制度は、建築基準法に基づき、隣接敷地間で相互に調整した上で合理的な 設計を行う場合に、安全上、防火上、衛生上支障がないと認められる場合は、同一敷地にあるも 特例制度名 概要 高度利用推進タイプ 都市再生特別地区 都市再生に貢献し土地の高度利用を図るため、都市再生緊急整備地域内において、既存の用途地域等に基づ く規制にとらわれず自由度の高い計画を定めることにより、容積率制限の緩和等を行う。 高度利用型地区計画 適正な配置及び規模の公共施設を備えた土地の区域において、建築物の敷地等の統合の促進、小規模建築物 の建築の抑制、敷地内の有効な空地の確保により土地の高度利用と都市機能の更新を図るため、建築面積の 最低限度等を定めるとともに、建蔽率の低減の程度等に応じて容積率制限の緩和等を行う。 再開発等促進区 工場跡地等相当規模の低未利用地区等において、土地利用の転換を円滑に推進し良好なプロジェクトを誘導 するため、地区内の公共施設の整備と併せて、容積率制限の緩和等を行う。 総合設計制度 敷地内に一定割合以上の空地を確保する建築計画について、市街地の環境の整備改善に資すると認められる 場合に、容積率制限の緩和等を行う。 高度利用地区 土地が細分化され公共施設整備が不十分な地区等において、建築物の敷地等の統合の促進、小規模建築物の 建築の抑制、敷地内の有効な空地の確保により土地の高度利用と都市機能の更新を図るため、建築面積の最 低限度等を定めるとともに、建蔽率の低減の程度等に応じて容積率制限の緩和等を行う。 特定街区 一定以上の幅員の道路に囲まれた街区等において、良好な環境と健全な形態を有する建築物を建築し、併せ て有効な空地を確保すること等により市街地の整備改善を図るため、有効な空地の規模等に応じた容積率制 限の緩和等を行う。 容積移転タイプ 特例容積率適用地区 適正な配置及び規模の公共施設を備えた土地の区域において、特例容積率の限度の指定の申請に基づき、特 例敷地のそれぞれに適用される特例容積率の限度を指定する。 連担建築物設計制度 既存建築物の存在を前提とした合理的な設計による複数建築物について、容積率制限等の規制を同一敷地内 にあるものとみなして一体的に適用する。 容積適正配分型地区計画 適正な配置及び規模の公共施設を備えた土地の区域において、それぞれの地区の特性に応じた良好な市街地 環境の形成及び合理的な土地利用の促進を図るため、用途地域で指定された容積の範囲内で、区域内におい て容積を配分する。 一団地の総合的設計制度 総合的設計による複数建築物について、容積率制限等の規制を同一敷地内にあるものとみなして一体的に適 用する。 都心居住推進タイプ 高層住居誘導地区 都心における居住機能の確保等を図るため、住宅と非住宅の混在を前提とした用 途地域における高層住宅 の建設を誘導すべき地区において、容積率制限の緩和等を行う。 用途別容積型地区計画 都心部等の住商併存地域における住宅の立地誘導を図るため、住宅を設けた場合に、容積率制限の緩和を行 う。 その他 街並み誘導型地区計画 統一的な街並みを誘導するため、壁面の位置の制限、建築物の高さの最高限度等を定めるとともに、前面道 路幅員による容積率制限、斜線制限を適用除外とする。 表 2 代表的な容積率緩和制度(出展:国土交通省 HP より筆者編集)

(11)

11 のとみなして、一体的に容積率等の規制を適用するものである。複数敷地を 1 敷地とみなして関 係法令を適用するものであり、一度適用した地区で建替え等を行う際は原則として地権者等の 全員合意が必要となるなど、柔軟な容積率移転制度とは性格が異なるといえる。連担建築物設計 制度は、既存建築物を含む敷地において、一団地の総合的設計制度と同様な規制緩和を行うもの である。 2.4.5 容積適正配分型地区計画 容積率適正配分型地区計画は、指定地区のうち一部の敷地で指定容積率よりも高い容積率を、 一部の敷地では低い容積率を地区計画に定めることにより、全体としての指定容積率の範囲内 で高容積、低容積な建築物の整備を可能とする制度である。街区を超えた容積移転は可能である が、内容について個別に都市計画決定をする必要があり、柔軟な制度とは言い難い。 2.4.6 用途別容積率型地区計画 用途別容積率型地区計画は、住宅のインフラ負荷が他用途よりも少ないことを根拠とし、地区 計画において、住宅用途について他の用途の最大 1.5 倍の床面積までの建設を可能とすることに より、住宅開発を誘導するものである。東京都千代田区、中央区における都心回帰を後押しした という点で一定の成果を上げたといえるが、新規に建設される建物がマンションに偏るなど、特 定用途に限った規制緩和であるための弊害も存在している。 2.5 東京都における施設建築物の現況について 本節では、第 4 章、第 5 章で行う実証分析の対象範囲である東京都における建築物の現状に ついて整理を行う。 図 2 に平成 28 年度時点の東京都内の使用容積率及び容積率充足率を示す。 図 2 容積率充足率

(12)

12 東京都心は使用容積率、容積率充足率とも高い水準にあるが、東京都心から 10~15 ㎞程度離 れた範囲においては、使用容積率が 400%未満にとどまっており、容積率充足率も 100%に満た ない地域が大きく広がっていることが分かる。 また、更に東京都心から離れると、使用容積率は 200%の地区が大半を占めているが、容積率 充足率については、都区部西部では 100%となる地区が増加するのに比べて、東部では容積率を 使い切っていない地区が多く存在する。 図 3 は、容積率充足率が 100%の地区の延床面積が、全体の延床面積に占める割合を示したも の、図 4 は区別の使用容積率10の状況を示したものである。 10 区内の建築物の延床面積を区内の敷地の合計面積で除した比率を百分率にしたもの 61 71 68 44 48 31 47 57 50 44 41 43 48 33 52 34 39 35 39 50 26 25 38 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 千 代 田 区 中 央 区 港 区 新宿 区 文 京 区 台 東 区 墨 田 区 江 東 区 品 川 区 目 黒 区 大 田 区 世 田 谷 区 渋 谷 区 中 野 区 杉 並 区 豊 島 区 北 区 荒川 区 板 橋 区 練 馬 区 足 立 区 葛 飾 区 江 戸 川 区 0 100 200 300 400 500 600 千 代 田 区 中 央 区 港 区 新宿 区 文 京 区 台 東 区 墨 田 区 江 東 区 品 川 区 目 黒 区 大 田 区 世 田 谷 区 渋 谷 区 中 野 区 杉 並 区 豊 島 区 北 区 荒川 区 板 橋 区 練 馬 区 足 立 区 葛 飾 区 江 戸 川 区 (%) 図 3 容積率充足率が 100%となる施設の延床面積の占める割合 (%) 図 4 使用容積率

(13)

13 千代田区、中央区、港区など、都心区においては、容積率充足率、使用容積率ともに高くなっ ている。なお、使用容積率については中央区が最も高く、千代田区、港区がそれぞれ 100%程度 の差をつけて続く。これらの地区においては民間の高い開発意欲に対して、容積率規制が一定の 効果を発揮していると考えられる。 次いで容積率充足率が高いのは江東区、杉並区、練馬区となるが、使用容積率について見ると 杉並区、練馬区はむしろ低い数字となっており、行政が低容積なまちに誘導していると考えられ る。江東区も他区との特徴的な差は見られない。 容積率充足率が低い地域について目を向けると、葛飾区、足立区となる。この 2 区について は、使用容積率も低く、そもそも床需要が少ない地域と考えられる。 また、都心区以外の主要区である新宿区、渋谷区、豊島区に目を向けると、3 区とも比較的高 い使用容積率の水準を有している。一方で、新宿、渋谷区は中位程度の容積率充足率となってお り、更なる高度利用の可能性がある地域といえる。豊島区の容積率充足率は 34%と比較的低く、 高度利用の余地を大きく残していると考えられる。一方で、これらの区においては、行政の意図 ほどは高度利用が進んでいない、とも言うこともできる。 ここまで容積率充足率と使用容積率の現状から区毎の概況を見てきたが、特に特徴的な区に ついて、個別に分析を行った。

(14)

14 2.5.1 都心区(千代田区、中央区、港区) ① 千代田区 東京駅周辺から有楽町・銀座にかけて、オフィス用途を中心に比較的敷地が大きく 800%を超 える高容積の地区が多い。半蔵門、麹町、四谷周辺においても敷地は小さいが容積率は高い。こ れらの地区では容積率を使い切った建物と余裕のある建物がまだらに存在している。また、大手 町から水道橋近辺まで、御茶ノ水駅、秋葉原周辺では大規模オフィスやホテルの立地が進み高い 容積率となっている。これらの地区では、高容積建築物の多くは容積率を使い切っているが、低 容積建築物は使い切っておらず、規制とニーズに齟齬があると考えられる。 また、規模が大きく、使用容積率、容積率充足率が低い皇居の存在により、区単位で見た場合 の使用容積率、容積率充足率は実態よりも低く出ているものと考えられる。 ② 港区 虎ノ門や新橋駅、浜松町駅、品川駅周辺などにおいて、高容積な施設は概ね容積率を使い切っ ている状況にある。一方で、私立学校や高級住宅地、大使館などが多く存在する三田、麻布、白 金台などにおいては、容積率は使い切っていないのにも関わらず、使用容積率が低い状況にある。 こういった地域においては、良好な住環境などが重視されるため、大きな容積率を必要としてい ないと考えられる。 区単位で見ると使用容積率は千代田区、中央区に比べて低いが、高容積地域と低容積地域が分 かれて存在しており、地域によって状況が大きく異なることが分かる。 FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR 図 5 千代田区 図 6 港区 容積率充足率≧100 容積率充足率<100 容積率充足率≧100 容積率充足率<100

(15)

15 ③ 中央区 沿岸部を除いて地域全体が高容積な状況にある。一方で、容積率を使い切っている地区、使い 切っていない地区は地域全域にまばらに存在しているため、容積率の指定により一定高さに抑 えられている施設の近くに容積率を使い切っていない施設が存在している状況が多いといえる。 このため、地域全体として容積率緩和のニーズがあると考えられる。(特殊な地区としては築地 地区が低容積かつ容積を使いきっていない状況にあり、今後の開発可能性11がある地区である。) 2.5.2 その他の主要区(新宿区、渋谷区、豊島区) ① 新宿区 新宿区は、新宿駅周辺、特に西側の都庁周辺に高容積施設が集積していることが分かる。一方 で、容積率充足率を見ると駅西側であっても 100%を下回る地域も多いことから、規制とニーズ に齟齬があるといえる。一方で「みどり豊か」なまちを目指す落合周辺12においては容積率規制 によって使用容積率を抑えていることが分かる。また東新宿駅周辺においては、新宿両国線の南 側は高容積であるの比べて北側は低容積でありながら容積率を使い切っている。こういった地 域は開発を一定範囲内に抑えようという行政による規制の意図とその効果が表れているものと 考えられる。 11 築地再開発検討会議 https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/toshi_saisei/saisei08_01.html 2020/2/9 閲覧 12 落合第一地区まちづくり方針等 https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000255306.pdf 2020/2/9 閲覧 FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR 図 7 中央区 図 8 新宿区 FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR 容積率充足率≧100 容積率充足率<100 容積率充足率≧100 容積率充足率<100

(16)

16 ② 渋谷区 渋谷区は渋谷駅、新宿駅周辺に高容積な施設が集中している一方で、渋谷駅周辺については、 都心区や新宿区と比較して 1 地区の敷地規模が小さく、容積率充足率も地域全体に比べ特に大 きくはなっていないため、更なる開発が行われる余地があると考えられる。また、代々木上原や 神山町、代官山、広尾などは比較的容積が低いが容積を使い切っている地区が多いといえる。こ れらの地区は利便性が高い住宅地や大使館等が立地しているため、一定の規制を設けていると 思われるが、開発ニーズも大きいといえるため、容積率規制を緩和することで、更に開発が行わ れる可能性がある。 ③ 豊島区 豊島区においては、池袋駅の周辺から東側にかけて使用容積率が大きな建物が集中している。 特にサンシャインシティ周辺は容積率を使い切っている状況となっているが、一方で、池袋駅周 辺は容積を使い切っておらず、更なる高度利用が行われる可能性13がある。一方で、開発ニーズ があまりない可能性も考えられるため、必ずしも容積率規制の緩和のニーズがあるとも言い切 れない。その他の地域は総じて使用容積率が低く、また容積率を使い切っていない地域が大半を 占めている。 13 「豊島区の街づくり 2019 第 2 部第1章 5.市街地再開発事業」 https://www.city.toshima.lg.jp/294/machizukuri/toshikekaku/shisaku/toshikekaku/documents/documents/02-1-5-19.pdf 2020/2/9 閲覧 FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR 図 9 渋谷区 図 10 豊島区 容積率充足率≧100 容積率充足率<100 容積率充足率≧100 容積率充足率<100

(17)

17 2.5.3 中小企業の立地が多い区(墨田区、大田区) ① 墨田区 墨田区は全域に渡って一つ一つの地区が小さいことに加えて使用容積率が低く、容積を使い 切っている地区も比較的少ない。部分的に容積率が高い地域として、防火帯として計画された都 営白髭東アパート14や曳舟駅周辺地区、墨田区の「ものづくり・研究開発ゾーン」に位置付けら れた文花二丁目南地区15などがあげられるが、これらは行政主導によるものであり、また、容積 率を使い切っている地区と高容積な地区がほぼ一致しているため、総じて容積率規制緩和のニ ーズは少ないと考えられる。 ② 大田区 大田区は、全域で使用容積率が低い状況である。容積率充足率を見ると、住宅地が並ぶ田園調 布、洗足、久が原などの北西側の地区については容積率を使い切っている地域が多く存在してお り、住環境保護のために規制をかけて低容積に抑えていると考えられる。一方で、蒲田駅から羽 田空港にかけての地区については、容積率充足率が低い地区が大半を占めている。この地域には 中小企業が数多く立地しており、高容積な建築物をあまり必要としないからと考えられる。この ため、容積率緩和のニーズは少ないと考えられる。 14 白鬚東地区第一種市街地再開発事業(完了事業)[都施行] https://www.city.sumida.lg.jp/sangyo_matidukuri/matizukuri/matizukuri_map/sumida_tutumi/sirahige.html 2020/2/9 閲覧 15 文花地区のまちづくり https://www.city.sumida.lg.jp/sangyo_matidukuri/matizukuri/matizukuri_suisin/zigyoubetu/bunka.html 2020/2/9 閲覧 図 11 墨田区 図 12 大田区 FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR 容積率充足率≧100 容積率充足率<100 容積率充足率≧100 容積率充足率<100

(18)

18 2.5.4 郊外住宅地(練馬区、杉並区) ① 練馬区 練馬区は全域で容積は低いが全体的に容積率充足率は高い地域が多く、あまり地域別の特徴 が見られない。(UR と東京都住宅供給公社により計画された光が丘団地は比較的使用容積率が 高い。また、練馬駅以東の桜台や駅以南の中村、豊玉周辺は比較的充足率は低いといえる。) 練馬区は主に都心に通勤する者のベッドタウンとしての性格が強く16、良好な住環境のための 規制が有効に働いていると考えられる。容積率規制緩和のニーズは高いといえるが、無秩序な開 発により住環境を悪化させる可能性もあるため、慎重に判断する必要があると考えられる。 ② 杉並区 杉並区は荻窪駅周辺が比較的高容積ではあるものの、全体的に使用容積率は低く、容積率を使 い切っている地域が全域に広がっている状況となっている。これは、練馬区と同様に都心に通勤 する者のベッドタウンとしての性格が強いためと考えられる。一方で、JR 中央線及び丸ノ内線 沿いを中心に東京に近い西側は容積を使い切っていない状況となっており、高度利用を行いた いという行政の意図と実情とに乖離が見られる。 16 練馬区の概況 https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/tokei/kankyo/midori_tyousa.files/2gaikyou.pdf 2020/2/9 図 13 練馬区 図 14 杉並区 FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR 容積率充足率≧100 容積率充足率<100 容積率充足率≧100 容積率充足率<100

(19)

19 2.5.5 容積率充足率、使用容積率が特に低い区(葛飾区、足立区) ① 葛飾区 葛飾区は、南水元においてマンションの建設が行われていることから比較的容積率が高く、使 用容積率を使い切っている状況にあるが、全域で使用容積率が低く容積率充足率も低い。土地利 用に対するニーズが低く、規制が効力を持っていない状態であるため、容積率規制緩和のニーズ も低いと考えられる。 ② 足立区 足立区は、全域で使用容積率が低く、容積率を使い切っている地区は環七通り沿いに若干はあ るものの、全域で容積率充足率も低い状況となっている。利便性が高い環七通り沿いにおいては 開発ニーズと規制に乖離が見られるため、容積率緩和のニーズもあると考えられるが、全体とし てニーズは少ないと考えられる。 2.6 小括 本章においては、規制制度の経緯と現状及び規制緩和制度の概要をまとめ、東京都における容 積率の使用状況について整理を行った。特に、規制緩和制度に関して特例容積率適用地区につい て柔軟性が高く機動的な制度であることと、用途別容積率型地区計画について、その有効性と制 度の問題点があることについて指摘を行った。また、東京都区部の使用容積率、容積率充足率の 現状から、容積率規制制度の緩和が有効な地区についての分析を行った。 次章においては、容積率規制・緩和のもたらす外部経済・不経済についての分析を行い、容積 率規制の緩和の妥当性について整理を行う。 FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR FAR<200 200≦FAR<400 400≦FAR<600 600≦FAR<800 800≦FAR 図 15 葛飾区 図 16 足立区 容積率充足率≧100 容積率充足率<100 容積率充足率≧100 容積率充足率<100

(20)

20

(参考)オフィス・住宅別に各容積率帯別の配置の状況を図 17 に示す。

オフィス・住宅とも低容積では全域に立地しているが、オフィスの方が高容積になるに従い都 心に集中する傾向が強いことがわかる。

FAR>200% 200≦FAR<400 400≦FAR<600

■オフィス ■住宅 600≦FAR<800 800≦FAR ■オフィス ■住宅 図 17 オフィス・住宅の各容積率帯別の配置の状況

(21)

21

第3章 容積率規制・緩和のもたらす外部経済・不経済についての分析

前章においては、現行制度の概要と東京都区部における現況から容積率緩和ニーズについて の整理を行った。一方、容積率緩和による企業集積、住宅の立地等には様々な外部経済・外部不 経済が発生することが想定される。そのため、本章では、企業集積及び容積率規制に起因する外 部性について整理し、オフィス・住宅の性質に違いに起因して容積率規制により生じる外部性に ついて理論分析を行うとともに、高容積なオフィス・住宅がもたらす近隣外部性について検討を 行う。 3.1 集積の経済・不経済及び容積率規制の外部性について 3.1.1 集積の経済と不経済 多数の企業が一都市に集まることによって得られる便益を総称して集積の経済と呼んでいる。 集積の経済はシェアリング(共有)、マッチング(適合)、ラーニング(学び)の3つに分類され ている17。また、集積には不経済も存在するため、それぞれの概要について整理する。 ① シェアリング(共有) 都心部においては、様々な施設を多くの人々が同時に利用できるという魅力がある。また、多 種多様なレジャー施設や商業施設が立地し、消費者の多様なニーズに応えることができる。 企業にとっては、大都市は常設市場や中央・地方政府のサービスを受けるうえで有利である。 また、生産面においても大都市ではビジネスに必要な多様なサービスが供給されている。加えて、 大都市の都心部に立地する企業はお互いの取引費用を小さくするために隣接して立地し、高密 度のオフィス街を形成する。 また、多数の企業が存在する大都市では生産に係るリスクをシェアすることも可能であり、売 り上げの変動が小さく抑えることができるため、在庫費用の減少や雇用の安定等の便益がもた らされる。 ② マッチング(適合) 大都市には多くの様々な能力を持った労働者が集積しており、数多くの企業が集積している ため、企業側のニーズも多様である。多様な労働者が存在するため、企業は自分のニーズにより 合った労働者を見つけることができる。加えて、マッチングがうまくいかず、失業する労働者を 減少させる効果もある。 ③ ラーニング(学び) 大都市では様々な人が集積するため、人と人との交流により、新しい知識の獲得や既存の智識 17 例えば金本(2018)

(22)

22 やノウハウの習得のみならず、革新的なアイデアが生まれることが多い。新たな知識の創造だけ でなく、知識の伝播や学習においても都市集積は大きな役割を果たしており、例えば、多数の大 学、研究所等が立地している大都市においては、新しい智識を学ぶことが容易である。 ④ 集積の不経済 大都市においては、集積の経済だけではなく、時間費用や混雑費用を含めた交通費用の増加や 製品の輸送コストの増加といった集積の不経済も存在する。 これらの交通費用の増大は、都市規模がある程度以上に大きくなると交通の混雑が起こり、交 通費用はさらに増大する。交通の混雑のみならず、大気汚染や騒音公害の発生、公園などの公共 施設の混雑等も集積の不経済の要因となる。 実際の都市(行政区画としての都市だけでなく、都心部などの更に小さな都市的集積にも当て はまる)の規模は、これらの集積の不経済と上で述べた集積の経済とがバランスする点で決定さ れる。 3.1.2 容積率規制がもたらす外部経済・外部不経済について 容積率規制は、規制制度の導入の経緯においても述べたとおり、集中交通の発生による外部不 経済を抑制する効果がある。しかしながら、規制は外部不経済も発生させる。例えば、容積率規 制は土地の高度利用を抑制するため、オフィスが集積する東京都心部の交通利便性が高い地域 では、慢性的に床面積が不足し、オフィス賃料は高水準になる。容積率緩和施策の最大の利点は、 床面積需要の高い地域へ床を供給することにより企業集積を促し、企業間の取引に要する時間 費用を節約することを通じて都市全体の生産性を高めることにあるといえる。 3.2 オフィス・住宅の値付け許容額に起因する、容積率規制がもたらす床構成の歪み 3.1 において、単一用途の施設という前提で容積率規制を導入することのメリット・デメリッ トに触れたが、実際の都市では様々な用途が混在しており、その中で一定の範囲に対して都市計 画が決定され、都市計画に定められる用途地域に応じた容積率規制が行われているのが現状で ある。そのため、オフィス・住宅という 2 つの用途を想定し、異なる需要曲線が、一つの供給曲 線を持つ施設の床という財18とどのように関係していくかについて分析を行う。 図 18 は、東京都区部を 500mメッシュ19に区切り、それぞれのメッシュ内の住宅・オフィス の宅地の合計に対する延床面積の合計の比率を計算することでメッシュ単位の使用容積率を求 め、その使用容積率別にオフィス/住宅比をプロッティングしたものである。 使用容積率が 400%程度までは多くの地区において、オフィス/住宅比が 1 を下回り住宅用途 が支配的であるといえる。一方で、400%を超えるとオフィス/住宅比が1を上回りオフィスが 支配的となるのが分かる。これは、使用容積率の高さによって住宅・オフィスの単位面積当たり 18 オフィスと住宅では構造や設備、設計計画等が異なるため限界費用も異なるが、ここでは同一のものとして扱う。 19 e-stat における 4 次メッシュ(500mメッシュ)を利用

(23)

23 の床に対する支払い可能な限度額や需要量が異なるためと考えられる20 そこで、①オフィス/住宅比>1となる場合、②オフィス/住宅比≒1となる場合、③オフィ ス/住宅比<1となる場合の 3 通りに分けて容積率規制の効果について分析する。 3.2.1 オフィス/住宅比>1となる場合について オフィス/住宅比が1未満、即ちその大半を住宅が占めている地区は、都心部から遠い場所に 位置するため、或いは、一つ一つの敷地が小さく、オフィスが必要とするまとまった床の確保が 難しいため、オフィスのニーズが少ない地域といえる。特に東京都区部においては東京都心に集 積することによるオフィス立地のメリットが大きいため、相対的に地方部のオフィスのニーズ は少なくなる。また、住宅については都心から離れることにより利便性は低下するものの、郊外 の良好な住環境に立地するため、住宅に対するニーズを増加させることも考えられる。そのため、 床に対するオフィスの値付け許容額21は小さく、住宅の値付け許容額の方が大きくなる。 これらの地域において居住環境保護等を目的として容積率規制がかかった場合には、住宅の 量の減少量の方が大きくなるものの、そもそもオフィス需要が少ないため、結果的には住宅が支 配的になると考えられ、オフィス・住宅の床構成に容積率規制が与える歪みは大きくないと考え られる。(図 19) 20 八田(2007) 21 単位面積当たりの床に対する支払い可能な限度額 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000 10000 0 200 400 600 800 1000 1200 使用容積率 オフィス/住宅(対数) 図 18 使用容積率とオフィス/住宅比の関係

(24)

24 3.2.2 オフィス/住宅比≒1となる場合について オフィスと住宅の値付け許容額が同程度の場合、需要の総量から住宅床の方がオフィスと住 宅は同じ比率で減少するため、容積率規制が床の構成を歪ませる効果は働かない。(図 20) また、オフィスの値付け許容額が住宅を上回る場合も考えられるが、そもそもの床需要が大き くない場合、容積率規制は実効性を持たず、オフィス・住宅の延床面積は規制の有無によって大 きく変動しないこととなる。(図 21) オフィス需要 住宅需要 床供給 オフィス+住宅需要 床供給 住宅床 オフィス床 床供給 住宅床 オフィス床 容積率規制 オフィス床の減少幅 住宅床の減少幅 規制なし 規制あり オフィス +住宅需要 価格 床面積 価格 床面積 価格 床面積 オフィス 需要 住宅需要 床供給 オフィス+住宅需要 床供給 住宅床 オフィス床 床供給 住宅床 容積率規制 規制なし 規制あり 住宅床の減少幅 オフィス +住宅需要 価格 床面積 価格 床面積 価格 床面積 オフィス床 オフィス床の減少幅 図 19 低容積帯におけるオフィス・住宅の需給と容積率規制の影響 図 20 オフィス・住宅の値付け許容額が同程度の場合の需給と容積率規制の影響

(25)

25 3.2.3 オフィス/住宅比<1となる場合について 更に、都心部に近づき、オフィスのニーズが高まるとオフィスの値付け許容額は住宅を大きく 上回るようになる。また、高容積な建築物においては、建設費用も大きくなるため、床供給の限 界費用も低容積な地域とは異なり大きくなると考えられる。 この状況下において容積率規制が行われると、事実上の数量規制として働き、供給を抑制され た床価格は大きく上昇することになる。そのため、値付け許容額が大きなオフィスよりも値付け 許容額が小さな住宅に対する抑制効果が大きく働くことになる。(図 22) このように、異なる値付け許容額を持つ複数の需要に対して一律の数量規制を行った場合、そ の影響は全体の数量の制限に留まらず、床構成を歪ませる効果を持つことが分かる。 オフィス需要 住宅需要 床供給 オフィス+住宅需要 床供給 住宅床 オフィス床 容積率規制 住宅床の減少幅 規制なし 規制あり オフィス +住宅需要 床供給 住宅床 オフィス床 オフィス床の減少幅 価格 床面積 価格 床面積 価格 床面積 図 22 高容積帯におけるオフィス・住宅の需給と容積率規制の影響 オフィス需要 住宅需要 床供給 オフィス+住宅需要 床供給 住宅床 オフィス床 床供給 容積率規制 オフィス床の減少幅 規制なし 規制あり 住宅床の減少幅 オフィス +住宅需要 価格 床面積 価格 床面積 価格 床面積 住宅床 オフィス床 図 21 容積率規制が実効性を持たない場合のオフィス・住宅の需給

(26)

26 3.3 用途に起因する外部性の差によって生じる、容積率規制がもたらす社会的損失について 容積率規制自体は個別の敷地に対してその敷地面積と延床面積の関係を制約するものである が、その指定については、複数の用途を持つ建築物が広がる一定の地域に対して一律に行われる 制度となっている。例として図 23 に東京都千代田区における都市計画図22を示す。 先に述べた通り、容積率規制の目的は地域の交通容量を踏まえた交通量の抑制といえるが、建 築物は用途によってその交通発生量が異なるため、混雑発生による外部不経済への影響も異な ると考えられる。例えばオフィスと住宅の2用途で比較をした場合、一般に、日中の交通量に関 しては業務交通を発生させるオフィスの方が、外部不経済が大きいと考えられる23。このような 状況において、一律の規制を行った場合に発生する問題について、3.2 で述べたうち、都心部に おける(オフィスの値付け許容額の方が住宅の値付け許容額よりも大きな)場合を考えてみる。 オフィスの方が住宅よりも混雑を発生させることによる外部不経済が大きいとした場合、本 来的にはその外部不経済に対応したピグー税をそれぞれの用途ごとにかけることが最も望まし いといえる。この場合に社会的余剰が最大化されるわけであるが。このピグー税によるものと同 じだけの数量まで容積率規制により制限を行った場合は、値付け許容額が同じであっても死荷 重を発生させることになる。 加えて、外部不経済が大きなオフィスの値付け許容額が住宅よりも大きな場合には、一律の容 積率規制は外部不経済の大きなオフィスよりも外部不経済が小さな住宅を減少させるため、更 に大きな死荷重を発生させることになる(図 24)。 なお、交通発生量以外の要素も考慮すれば、オフィスや住宅の増加は周辺に対する外部経済を 発生させることも考えられる。この場合は、本来はピグー補助を行うことにより床供給を増大さ せることが望ましいのであって、容積率規制を行うべきではない、ということになる。 22 千代田区都市計画情報 都市計画図(用途地域等)を筆者編集 https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/machizukuri/toshi/chikuzu/documents/chikuzu.pdf 2020/2/9 閲覧 23 明石(2003) 図 23 千代田区都市計画図と用途地域の指定イメージ

(27)

27 誤解の無いよう申し添えれば、社会的余剰が最大化されることをもって、局所的な交通渋滞の 発生を許容すべき、ということを申し上げるつもりはない。交通容量という問題への対応を踏ま えつつ、いかにして社会的余剰を最大化するか、ということが大きな課題である。 この点は、複数地区間で余剰容積を融通することを可能とすることで対応できると考えられ る。交通容量は一定の範囲内の交通量が課題となるのに対して、現在の容積率規制への対応につ いては、個別敷地単位で規制をクリアすることが必要となっている。規制の意義に立ち返れば、 複数敷地間でのトータルの交通発生量が抑えられていれば問題はないはずであり、容積率充足 率が 100%に至らない地域の余った容積を、容積に対するニーズが大きな地域に移転すること で、地域全体の交通量を一定に抑えつつ、余剰を大きくすることも可能となると考えられる。24 24 詳細については第 6 章において後述する。 図 24 住宅・オフィスに異なる外部不経済がある場合の容積率規制による影響等について 規制がない場合 価格 床面積 外部不経済 オフィス需要 住宅需要 床の供給 数量規制(容積率規制) 価格 床面積 外部不経済 外部不経済 オフィス需要 床の供給 価格 床面積 オフィス需要 住宅需要 床の供給 価格 床面積 外部不経済 外部不経済 オフィス需要 住宅需要 床の供給 住宅需要 オフィスと住宅の外部不経済 外部性に対応したピグー税 オフィス需要 住宅需要 A B C D E A B C D E F G H I A B C D E F G H 社会的余剰 =⊿ABC+⊿DCE 社会的余剰

=⊿ABC+⊿DCE ⊿CEG ⊿FIH

社会的余剰 =⊿ABC+□DEFG ⊿CEH 数量規制により価格が上昇する。 ○住宅とオフィスの値付け許容額が異なると、規制がない場合、ピグー税、数量規制(容積率規制)で社会的余剰 が異なる。(※床の供給曲線の傾きは0と仮定する。) 規制がない場合と、 ピグー税による規制との比較 数量規制(容積率規制)と、ピグー税による規制との比較 価格 床面積 外部不経済 外部不経済 オフィス需要 住宅需要 床の供給 価格 床面積 外部不経済 外部不経済 死荷重 床の供給 死荷重 オフィス需要 数量規制 住宅需要 数量規制により価格が上昇する。 ○数量規制により価格が上昇するため、ピグー税による規制と比べてオフィス床が大きく、住宅床が小さくなり、 外部不経済の差に起因する死荷重が発生する。

(28)

28 3.4 容積率規制緩和による近隣外部性について 容積率規制は、交通容量を根拠として行われているが、規制は床の供給を抑制し、集積の経済 を阻害するため、規制緩和をして企業の集積の経済を高めるべきであると述べてきた。 一方で、容積率規制・緩和の影響は、交通量、或いは企業の集積のみに留まらず、その他の要 素にも影響し、様々な外部経済、外部不経済を発生させると考えられる。 容積率規制の是非を論じるにあたってはこれらの外部経済・外部不経済についても明らかに した上で議論を進める必要がある。本論では分析の対象とする用途としてオフィスと住宅を取 り上げているため、ここではオフィス、住宅それぞれについて、その床供給が周辺地域に及ぼす 影響と、容積率規制が行われることによりその影響がどのように変化するか、という二つの側面 から整理を行う。 3.4.1 オフィスについて オフィスの床の供給は表3、図 25 に示す通り様々な正・負の外部性を持ち、また、容積率が 変動することにより、その外部経済・不経済も変動すると考えられる。 オフィスにあっては、使用容積率の増大は周辺地域に対して総じて正の影響が大きく、負の影 響は限定的であり、同程度の単位当たりの床面積の増加が周辺に与える影響は様々な外部性の 影響を反映し高容積の方がより上昇する。このため、オフィスの容積率緩和は、地域全体の余剰 の向上に寄与すると考えられる。なお、この正の近隣外部性のうち、交流施設等の整備や外部性 の内部化などは、単なる集積の効果のみならず、開発に当たっての附置義務や再開発事業におけ る容積率積み増しの条件として行われているものも含まれると考えられる。 オフィスの延床面積の 近隣外部性 符号 外部性の種類 外部性の影響範囲 容積率に起因する近隣外部性の違いの考察 環境 建物高さによる 環境悪化 負 技術的外部性 隣接・近接する地価 高層の建築物が近接する場合に有意に賃料が低下する。(一定以上の高さではその負の影響は逓減する) 建物の建詰まりによる 環境悪化 負 技術的外部性 周辺の地価オフィス:大きな建築面積が重視されるため、容積率の影響が大きい住宅:高さが重視されるため、容積率の影響が小さい 景観の悪化 負 技術的外部性 周辺の地価景観を重視する地域においては、高容積な建物は地価を引き下げる。 混雑 通勤に伴う 周辺の混雑の増加 負 技術的外部性 周辺の地価 通勤混雑は従業者数の増加によるものであり、延床面積の絶対量が影響する。(容積率の違いは影響しない。) 業務による 周辺の混雑の増加 負 技術的外部性 周辺の地価高容積であれば、施設内で業務が完結するため、業務に必要なオフィス外での移動が減少し、混雑は緩和される。 企業 行動 交流施設等の整備 正 技術的外部性 周辺の地価高容積であれば、一般利用可能な交流施設も併せて整備されることが多いため、周辺地域の利便性を高める。 外部性の内部化の効果正 技術的外部性 周辺の地価高容積であれば、老朽市街地の改善などにより外部性を内部化することにより周辺地域の利便性を高めている可能性がある。 入居する企業の影響 正 金銭的外部性 周辺の地価 高容積であれば、広いオフィスを確保できるため、大企業が立地することにより地域のブランド力が上昇する。 周辺 商業施設の立地 正 金銭的外部性 周辺の地価 従業者数に対応した商業施設が立地するため、容積率の違いは大きく影響しない。 表 3 オフィスの供給による外部経済・不経済及び容積率に起因する違いについて

表 23  推定モデル①  基本統計量
表 25  推定モデル②  推定結果

参照

関連したドキュメント

人為事象 選定基準 評価要否 備考. 1 航空機落下 A 不要 落下確率は 10

台地 洪積層、赤土が厚く堆積、一 戸建て住宅と住宅団地が多 く公園緑地にも恵まれている 低地

A.原子炉圧力容器底 部温度又は格納容器内 温度が運転上の制限を 満足していないと判断 した場合.

令和元年11月16日 区政モニター会議 北区

1.東京都合同チーム ( 東京 )…東京都支部加盟団体 24 団体から選ばれた 70 名が一つとなり渡辺洋一 支部長の作曲による 「 欅

太陽光発電設備 ○○社製△△ 品番:×× 太陽光モジュール定格出力

1.制度の導入背景について・2ページ 2.報告対象貨物について・・3ページ

・太陽光発電設備 BEI ZE に算入しない BEIに算入 ・太陽熱利用設備 BEI ZE に算入しない BEIに算入 ・コージェネレーション BEI ZE に算入