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学位論文の内容の要旨
論 文 提 出 者 氏 名 小島 光暁 論 文 審 査 担 当 者 主査 森尾 友宏 副査 槇田 浩史、清水 重臣 論 文 題 目Novel role of group VIB Ca2+-independent phospholipase A
2γ in leukocyte-endothelial cell interactions: an intravital microscopic study in rat mesentery
(論文内容の要旨) <要旨>
ホスホリパーゼ A2(以下、PLA2)は、炎症病態においてアラキドン酸(以下、AA)をはじめと する脂質メディエーターを産生する重要な酵素である。これまでに PLA2が好中球と血管内皮細胞 の相互作用に関与することが報告されているが、細胞質型(以下、cPLA2)、分泌型(以下、sPLA2)、 カルシウム非依存性 PLA2(以下、iPLA2)のうち、どのタイプの PLA2が作用するかは明らかでな かった。0 生物活性(接着および接着分子発現)への影響について検討した。方法は、ラットに 各 PLA2阻害剤を投与した後、腸間膜を血小板活性化因子(以下、PAF)で刺激した。生体顕微鏡 下に腸間膜細静脈における白血球のローリングおよび接着を観察した。さらにin vitro実験で、 fMLP あるいは PAF によって誘導されるヒト好中球の接着能および接着分子発現に対する各 PLA2 阻害剤の影響を評価した。その結果、iPLA2γに対する特異的阻害剤のみが白血球および好中球の 接着、Mac-1 の発現を有意に抑制した。一方、cPLA2、sPLA2および iPLA2βに対する特異的害剤は いずれの生物活性にも効果を示さなかった。以上から、iPLA2γは、急性炎症病態において好中球 と血管内皮細胞の相互作用を制御する重要な酵素であることが示唆された。 <緒言> 好中球の炎症局所への集積には、好中球と血管内皮細胞との相互作用が不可欠である。この相 互作用は、好中球が血管内皮細胞上を転回するローリング、血管内皮細胞への接着、血管外への 遊走の段階に分類され、組織の感染や損傷に対する重要な生体防御反応である。しかしながら、 過剰な好中球浸潤は急性呼吸促迫症候群や多臓器不全を惹起することから、好中球が集積する機 序の解明は、敗血症や出血性ショックなどの過大侵襲に続発する多臓器不全に対する新たな治療 法の確立に寄与する可能性がある。 PLA2は、グリセロリン脂質のsn-2位を加水分解し、遊離脂肪酸とリゾリン脂質の生成を触媒す る酵素である。cPLA2や sPLA2は、AA やエイコサノイドの産生に関与する酵素として急性炎症との 関連性が指摘されているが、iPLA2の炎症病態における役割はほとんど知られていない。Gilroy らは胸膜炎モデルを用いて、iPLA2が炎症早期から発現し、炎症細胞を局所に誘導することによっ て、「炎症過程の開始」に関与する酵素であることを報告した。さらに、我々は iPLA2γがヒト好
- 2 - 中球の生物活性(活性酸素産生、エラスターゼ放出、走化性)の発現や出血性ショック後の肺傷 害に関与することを明らかにした。また、PLA2と好中球と血管内皮細胞の相互作用との関連性が 報告されているが、PLA2のタイプやその機序の解明には至っていない。したがって、本研究の目 的は、好中球と血管内皮細胞の相互作用における主要な三種類の PLA2の役割を明らかにすること である。 <方法>
生体顕微鏡実験では、吸入麻酔下においた雄性 Wistar ラットに、特異的 PLA2阻害剤(iPLA2 β: S-BEL、iPLA2γ: R-BEL、cPLA2: pyrrophenone、sPLA2: varespladib)あるいは dimethyl sulfoxide を腹腔内投与した。投与 30 分後に Krebs-Ringer 溶液を持続潅流した観察用チャンバ ーに腸間膜を展開した。観察対象の腸間膜細静脈を選定した後、潅流液に PAF を添加して 60 分間 刺激し、ローリングおよび接着した白血球数を測定した。また、sham 群では PAF を添加しなかっ た。 in vitro実験では、ヒト好中球あるいはヒト全血に特異的 PLA2阻害剤を投与した後に活性化物 質(fMLP、PAF)で刺激した。接着能はフィブリノーゲンを固定化したウェルに接着した細胞数を 計り、CD11a/CD18(LFA-1)および CD11b/CD18(Mac-1)の発現はフローサイトメトリで定量した。 <結果> 生体顕微鏡実験では、PAF 投与後 60 分で白血球のローリングは有意に増加したが、いずれの PLA2 阻害剤も抑制しなかった。また、PAF 刺激は白血球の接着を明らかに増加させたが、R-BEL のみが、 その接着を有意に阻害した。同様に、in vitro実験においても、活性化物質によって惹起された ヒト好中球の接着や Mac-1 の発現は R-BEL 投与群のみで有意に抑制された。一方、LFA-1 の発現 に関して、活性化物質による刺激や PLA2阻害剤の投与では明らかな発現の変化は認められなかっ た。 <考察> iPLA2γが PAF 刺激によるラット白血球の血管内皮細胞への接着やヒト好中球のフィブリノー ゲンへの接着や Mac-1 の発現に関与することを明らかにした。好中球の血管内皮細胞への接着に はβ2-integrin の細胞表面への発現やコンフォメーション変化が大きく関与している。PLA2は炎 症刺激に対するβ2-integrin の発現機序において重要な酵素であることが知られているが、関与 する PLA2のタイプについては検証されていない。今回の研究で、sPLA2酵素が好中球の接着能や 接着分子の発現に影響しないことを明らかにしたが、これは過去の報告と矛盾しない。一方、cPLA2 は好中球の接着のメカニズムとの関連性が報告されている。しかし、その根拠となるいずれの研 究では、特異性の低い cPLA2阻害剤を使用していた。そこで、本研究では cPLA2に高い特異性を示 す阻害剤(pyrrophenone)を使用した。その結果、pyrrophenone は PAF や fMLP による好中球の 接着や接着分子の発現を阻害しなかった。さらに、cPLA2酵素のノックアウトマウスを用いた研究 においても、本研究の結果と一致して、PMA や fMLP に対するノックアウトマウスの好中球の CD11b 発現は抑制されなかった。また、好中球の炎症局所への集積の過程における iPLA2酵素の役割に
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関して、iPLA2γの特異的阻害剤である R-BEL が PAF や fMLP によって誘導されるヒト好中球の接 着や Mac-1 の発現を抑制したが、iPLA2β阻害剤はいずれの実験においても抑制効果は認められな かった。以上より、cPLA2、sPLA2、iPLA2βではなく、iPLA2γが PAF 刺激による白血球の血管内 皮細胞への接着を制御する中心的な酵素であることが示唆された。
Mac-1 はβ2-integrin の主要な構成分子であり、血管内皮細胞上のリガンドと結合することで 好中球の強固な接着を引き起こす。Mac-1 は非刺激時には好中球の顆粒に貯蔵されているが、活 性化によって細胞表面に発現する。つまり、Mac-1 の発現は好中球の脱顆粒と密接に関連する。 iPLA2に対する阻害剤やその酵素のノックダウンは、PAF や PMA の刺激による前単球の脱顆粒を抑 制する。最近の我々の研究でも、ヒト好中球からのエラスターゼの遊離に iPLA2γが関与するこ とを報告している。これらのことから、iPLA2γ は脱顆粒の過程を介して Mac-1 の発現を制御す ることが示唆された。 iPLA2γは、sn-2 位に AA などの不飽和脂肪酸を含有するリン脂質に対しては PLA1作用を示し、 飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸含有リゾリン脂質を産生する。不飽和脂肪酸含有リゾホスファチジル コリン(以下、LPC)は、ヒト好中球の活性酸素の産生や顆粒の分泌に誘導することから、シグナ ル伝達分子の一つであることが示唆されている。特に、2-AA-LPC は、好中球に対して生物活性を 示すだけでなく、重要なシグナル伝達物質である 2-AA-glycerol の前駆体でもある。また、iPLA2 γのもう一つの代謝産物である遊離飽和脂肪酸も好中球の活性化との関連性が報告されている。 一方、不飽和脂肪酸である AA も好中球の接着過程において重要な脂質メディエーターであると考 えられてきた。しかし、それは AA を外投与することによって、好中球の生物活性を誘導すること を証明した研究や特異性の低い cPLA2阻害剤を使用した研究を根拠としており、細胞内シグナル 伝達における AA の位置づけは確定されていない。本研究の in vivo および in vitro の実験にお いて、高い特異性を示す cPLA2阻害剤は接着の過程に影響を与えなかった。したがって、iPLA2 γの活性化によって産生された不飽和脂肪酸含有 LPC あるいは飽和脂肪酸が、細胞接着の機序に おけるシグナル伝達物質として働いている可能性がある。 <結論> カルシウム非依存性 PLA2γは、急性炎症における白血球や好中球の接着および接着分子の発現 を制御する酵素であることが示唆された。本研究は阻害剤を使用した実験であることから、遺伝 子改変動物を用いた更なる検証が必要であろう。
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論文審査の要旨および担当者
報 告 番 号 甲 第 号 小島 光暁 論文審査担当者 主 査 森尾 友宏 副 査 槇田 浩史、清水 重臣 【論文審査の要旨】 1.論文内容 本論文は白血球と血管内皮細胞の相互作用に対するカルシウム非依存性ホスホリパーゼ A2 γの 役割に関して、腸間膜細静脈における白血球のローリングと接着、ヒト好中球の接着能と接着分 子発現から検討した研究である。 2.論文審査 1)研究目的の先駆性・独創性ホスホリパーゼ A2(PLA2)は炎症病態においてアラキドン酸(Arachidonic acid:AA)をはじめ とする脂質メディエータ産生に重要な酵素である。PLA2は好中球と血管内皮細胞の相互作用に関 与するが、細胞質型(cPLA2)、分泌型(sPLA2)、のカルシウム非依存性(iPLA2)のうちどのタイプが 作用するかは今まで明らかではなかった。 申請者は今まで、PLA2 の好中球に対する作用等について検討を進め、十分な知識と技術を有し ていたが、このような背景の下、主要な PLA2に対する特異的阻害薬を使用し、白血球及び好中球 の生物活性について、生体顕微鏡と接着因子発現解析を用いて解析を行っており、その着眼点は 優れたものである 2)社会的意義 本研究で得られた主な結果は以下の通りである。
1. cPLA2、sPLA2、iPLA2γ、iPLA2βに対する阻害薬のうち、iPLA2γに対するもののみが、白血球の 接着を抑制した。 2. iPLA2γに対する阻害薬のみが、ヒト好中球のMAC-1発現を優位に抑制した。 以上のように申請者は、急性炎症における白血球と血管内皮細胞の相互作用において、iPLA2γ が重要であることを初めて明らかにしている。これは臨床的にも極めて有用な研究成果であると 言える。 3)研究方法・倫理観 研究にはラット腸間膜細静脈における白血球のローリングと接着を生体顕微鏡下で観察する手 法が用いられ、血行動態を数値化し、またローリングと接着を定量化した。またヒト好中球を分 離して fMLP や PAF で刺激しフローサイトメータにて接着分子の発現を定量化した。生体顕微鏡下
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( 2 ) 観察は十分な動物実験技術と基礎画像解析知識の下で行われ、また好中球機能解析も十分に手技 を修得した上で実施されている。動物実験における各種指針も適切に遵守して行われていること が窺われる。これらは申請者の研究法に対する知識と技術が高いことを示すと共に、本研究が極 めて周到な準備の上で実施され、またその結果が適切に解析されていることを示している。 4)考察・今後の発展性 さらに申請者は、本研究結果についてiPLA2γは不飽和脂肪酸を有するリン脂質に対してPLA1作 用を示し、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸含有リゾリン脂質を産生すること、アラキドン酸ではな く、これらの代謝産物(不評輪脂肪酸含有リゾホスファチジルコリンや飽和脂肪酸)が好中球接 着過程におけるシグナル伝達分子であると考察している。これは先行研究と照らし合わせて、新 規性はあるが極めて妥当な考察であり、今後の研究にてさらに発展することが期待される。 3. その他 4.審査結果 以上を踏まえ、本論文は博士(医学)の学位を申請するのに十分な価値があるものと認められ た。