蛋白同化ホルモン, 免疫抑制剤, ビタミン D・Kに反応しない低
リスク骨髄異形成症候群に対して, azacitidine を長期継続投与中
の高齢男性
石垣 太郎
1 茨城県牛久市猪子町896 牛久愛和 合病院血液内科 要 旨症例は現在 70歳の男性. 60歳時に白血球低値を指摘され, 骨髄異形成症候群 (myelodysplastic syndrome, MDS), Refrac-tory anemia with excess blasts-1 (RAEB-1),International Prognostic Scoring System Intermediate-1 (IPSS Int-1) と診断さ れた. 蛋白同化ホルモン, 免疫抑制剤,ビタミン D・K による治療は奏功せず,血小板減少が進行した.66歳の時点で血小板 数 3.2万 (/μL),病型は Refractory cytopenia with multilineage dysplasia (RCMD),IPSS Int-1であった.経過観察・輸血を 選択した場合, 予後の改善は見込めないと判断し, azacitidineの投与を開始したところ, 血小板数の回復, 骨髄所見の改善が 認められた. 現在, 45サイクルを終了し, 経過良好にて継続治療中である. 本症例の治療経過から, 従来の治療で奏功しない 低リスク MDSでは Azacitidineの投与を積極的に検討するべきであることが示唆された. 緒言 骨髄異形成症候群 (myelodysplastic syndrome, MDS) は 急性骨髄性白血病への移行, 汎血球減少による感染, 出血 により死に至る事もある疾患である. IPSS (International Prognostic Scoring System) 等の予後スコアリングシステ ムにより層別化され, 低リスク群, 高リスク群に けて治 療が選択されることが多い. 日本では低リスク群に対して, 蛋白同化ホルモン,ビタミン D あるいは K,免疫抑制剤,レ ナリドミド (5q-症例のみ) が用いられることが多い. 今回, これら従来の治療に反応せず, 血小板減少が進行したが, azacitidine投与により血小板数の回復, 骨髄所見の改善が 得られ, かつ azacitidineを長期に継続投与中の低リスク MDS の症例を経験したので報告する. 症例 患 者:現在 70歳の男性. 既往歴:甲状腺機能低下症, 高血圧, 高脂血症, 脂肪肝, ア スベスト肺 家族歴:特記すべきことなし. 現病歴:2005年 1月 (60歳), 近医受診時に偶然白血球低 値を指摘され, 前医血液内科に紹介された. 受診時 perfor-mance status(PS)0,独歩で来院した.意識は清明で,神経学 的な異常所見は認められなかった. 胸部・腹部に特記すべ き所見は認められず, 点状出血や歯肉出血等の出血傾向も 文献情報 キーワード: 低リスク MDS, 予後不良群, azacitidine 投稿履歴: 受付 平成27年3月16日 修正 平成27年5月27日 採択 平成27年6月4日 論文別刷請求先: 石垣太郎 〒300-1296 茨城県牛久市猪子町896 牛久愛和 合病院血液内科 電話:029-873-3111 E-mail:iba225@yahoo.co.jp
症例報告
認められなかった.血液検査では,WBC 2,200/μL,Hb 14.4 g/ dL,Plt 14.9 万/μL であり,生化学検査では特記すべき異常 は認められなかった. 骨髄穿刺を施行され,MDS,RAEB-1 (Refractory anemia with excess blasts-1),芽球 7.8%,染色体 異常なし, IPSS Int-1 (芽球増加で 0.5点) と診断され, metenolone 100 mg の内服が開始された. 2007年 11月 (63 歳),血球減少が進行したため,ciclosporin 100 mg 内服が追 加されたが, 腎障害のため中止となった. 2009 年 6月 (64 歳), フォローの骨髄検査が行われ, MDS, RAEB-2, 芽球 10.4%,IPSS は 1ないし 2,と評価された.この時点より,ビ タミン D・K の内服が追加された.通院の を 慮され,同 年 12月 (65歳), 当院を紹介受診した. 当院初診時, 前医受 診時と同様,PS 0,独歩で来院した.意識は清明で,神経学的 な異常所見は認められなかった. 胸部・腹部に特記すべき 所見は認められず, 点状出血や歯肉出血等の出血傾向も認 められなかった. 血液検査では, WBC 1,380/μL (baso 0%, eos 0%, st 9%, seg 15%, lym 45%, mon 29%), Hb 12.3 g/ dL, Plt 7.2万/μL であった. 生化学検査では特記すべき異 常は認められなかった. 2005年 1月 (60歳) の発症時点よ り, さらに汎血球減少が進行した状態で, 白血球と血小板 の減少が目立った (Fig.1). 経 過:前医からの処方を継続し, 外来で経過を観察した. 白血球数の なる低下は認められなかったが, 低値 (1,000 ∼2,000/μL 程度) のまま推移した. 血の進行は認められ なかった. 特に血小板数の低下が持続し, 2011年 7月 (66 歳) には, WBC 1,880/μL (baso 1%, eos 1%, st 5%, seg 11%,lym 60%,mon 19%),Hb 14.2 g/dL,Plt 3.2万/μL と なった. 同時期の骨髄は, MDS, RCMD, 芽球 3.3%, IPSS Int-1であった.この時点でも全身状態は良好で,PS 0,出血 傾向は認められず, 感染症の反復も認められなかった. 同 月より, azacitidine 75 mg/m , 7日間の投与を開始した. 投 与サイクルを重ねるにつれ, 血小板数の回復が認められた. Azacitidine を長期継続投与中の低リスク MDS age 60 63 64 66 67 68 69 year/month 2005.1 2007.11 2009.6 2011.7 2012.5 2013.5 2014.4 WBC (/μL) 2,200 1,100 1,700 1,880 2,550 2,440 1,850 Neutr n.d. n.d. 518 300 918 819 795 Hb (g/dL) 14.4 9.8 11.8 14.2 15.9 14.2 14.2 Plt (×10000/μL) 14.9 12.5 10.5 3.2 10.9 32.7 29.9
BM normo n.d. hyper hypo normo normo normo
blast (%) 7.8 n.d. 10.4 3.3 3.2 1.2 1.0
WHO RAEB-1 n.d. RAEB-2 RCMD RCMD RCUD RCUD IPSS Int-1 n.d. Int-1∼2 Int-1 Int-1 Low Low WT-1 (copies/μgRNA) n.d. n.d. n.d. 3,200 2,800 1,600 1,200
n.d.:not done Metenolone
Ciclosporin Vitamin K Azacitidine Vitamin D
Fig.1 Clinical course
Fig.2 Count of WBC/Neut, Hb and Plt after the cycles of azacitidine
白血球数/好中球数は若干低値ながら安定し, ヘモグロビ ン 濃 度 は 正 常 範 囲 に 保 た れ て い た (Fig.2). azacitidine 投与 10コース後, 22コース後, 34コース後にフォローの 骨髄検査を施行した. 骨髄芽球の減少や, dysplasiaの減少, IPSS の改善, WT-1の減少が認められた (Fig.1). IWG (International Working Group)基準 では,azacitidine投与 後, 骨髄は顆粒球系の形態異常のみ残存しており PR (Par-tial remission),QOL (Quality Of Life)は投与前と同様 PS 0 に 保 た れ て い た. 末 梢 血 で は, ヘ モ グ ロ ビ ン 濃 度 は azacitidine投与前後とも正常範囲に保たれていた. 好中球 数は投与直前で 300/μL 前後であったが, 投与後は 1,000/ μL 程度を維持しており, Major responseと判断された. 血 小板数は,投与直前に 3.2万/μL であったが,投与後は正常 化し, Major responseと判断された. 骨髄細胞の表面抗原解析では特記すべき変化は認められ なかった (Fig.3).45コース施行中,投与法に関して皮下注 射から点滴への変 を, 投与量に関して 7日間投与から 6 日間投与への変 を, それぞれ行った. 現在も外来にて 45 コース以降を施行中である. 察 骨髄異形成症候群 (MDS) は無効造血による難治性の血 球減少症と, 前白血病状態という臨床的特徴をもつ, 骨髄 不全症候群の一つである. 臨床像はさまざまで, 緩慢な経 過をたどる症例から, 急性骨髄性白血病への移行, 汎血球 減少による感染, 出血により死に至る症例もある. IPSS, WHO Classification-Based Prognostic Scoring System(WPSS), Revised IPSS (IPSS-R) 等の予後スコアリングシステムに
より層別化され, 低リスク群, 高リスク群に けて治療が 選択されることが多い. 低リスク群の患者のうち, 血球減 少が軽度で無症状の場合には, 無治療で経過観察される. 低リスク群のうち, 5q-症候群の患者では lenalidomideが 第一選択となるが, それ以外の患者では, 日本では蛋白同 化ホルモンや免疫抑制剤, ビタミン D・K が選択されるこ とが多い. 本症例は比較的緩慢な経過ながら, これらの治 療に反応せず, 汎血球減少が持続し, 特に白血球数の低値 と血小板数の減少が強く認められた. 低リスク MDSに azacitidineが有効とする報告は海外を中心に散見される が, 生存期間を有意に 長させるというエビデンスは乏 しく, 日本血液学会の造血器腫瘍ガイドラインでは, 生存 期間 長を目的とした第一選択薬としての 用は推奨され ていない. また, 低リスク MDSの場合, 無症状では無治療 で経過観察し, 血球減少が進行すれば輸血の適応である. 本症例では持続する血小板数の低下傾向を特に問題視し た. 血小板輸血を開始した場合, 経験的には通常輸血依存 となり生命予後は悪い. 本症例においても経過観察・輸血 検 討 が 選 択 肢 の 一 つ と え ら た が, 2011年 1月 よ り, azacitidineが投与可能となっており, 同薬剤の投与につい て, 適応を検討した. metenolone, ビタミン D・K で血球回 復が認められず ciclosporinが腎障害で 用困難であった 臨床経過や, 血小板数の低下傾向が持続していた事からは, azacitidineの投与 が 選 択 肢 と し て 慮 さ れ た. 一 方 で azacitidine投与後, なる白血球減少や血小板減少の進行 が予想され, 病状が悪化する可能性が否定できなかった. 血小板数については, 投与直前で Plt 3.2万/μL であり, 出 血傾向が認められず, azacitidine投与後に一時的に血小板 減少が進行したとしても, まだ若干の余裕があると えら
れた. また, 白血球数については, 投与直前で WBC 1,880/ μL (baso 1%,eos 1%,st 5%,seg 11%,lym 60%,mon 19%) であり, 好中球数の減少が明らかだったが, 反復する感染 症が認められない事から, azacitidine投与後に一時的に好 中球減少が進行したとしても, 血小板数と同様にまだ若干
の余裕があると えられた. 以上の検討や良好な
perfor-mance statusを 慮すると, azacitidineの投与開始時期と して適切と判断した. 低リスク MDSの治療に関して, 現在の臨床においては, azacitidineは第一選択薬ではなく, 従来治療が無効の場合 に 慮されるべき薬剤という位置づけと思われる. 本症例では, azacitidine開始直前の骨髄は, RCMD,芽球 3.3%, IPSS は 0.5点 (2/3系統の血球減少のみ) で Int-1の 所見であった. IPSS-R で評価すると, 核型 (good) で 1点, 芽球 (3.3%) で 1点, Hb (14.2) で 0点,Plt (3.2万) で 1点, 好中球 (800未満) で 0.5点,の計 3.5点となり, Lowに近い 低い点数ながら, Intとなる. IPSSと IPSS-R との関係を比 較した報告 によれば, 従来の IPSS Int-1に相当する患者 群は,IPSS-R では Very Lowから Very Highまで広い範囲 に 布することが判明し, 予後中間群と呼ぶべき集団であ る可能性が示唆され, 従来の低リスク, 高リスク両方の治 療法が可能ではないかとの 察がなされている.IPSS Int-1 に相当する症例では, IPSS-RではVery lowからVery high
まで 布することから, IPSS-R でもリスク評価を行う必 要があると思われる.本症例の治療経過から,IPSS Int-1で かつ IPSS-R Intの場合,従来の低リスク群に対する治療で 反応が乏しい場合には, 機会を逃さず azacitidineの投与を 積極的に検討する必要があることが示唆された. IPSS-R と同様に低リスク群から予後不良群を抽出する 試みとして,MDACC (MD Anderson Cancer Center)が提 唱した LR-PSS (Lower risk MDS Prognostic Scoring Sys-tem) がある. IPSS で Low又は Int-1の MDS 患者 856名 について調査し, 血小板数, 血,高齢,芽球増加,poor-risk 染色体異常,といった予後不良因子を同定し,これらをscoring して 3 categoryに 類した報告である. Category 1 (n= 182,21%,score 0-2):生存中央値 80.3ヶ月,Category 2(n= 408,48%,score 3-4):生存中央値 26.6ヶ月,Category 3(n= 265,31%,score 5-7):生存中央値 14.2ヶ月,であった.Cate-gory 2と Cate14.2ヶ月,であった.Cate-gory 3の患者は予後不良であり, 早期の治療 介入により予後が改善できる可能性が示唆されている. 本 症例では, Azacitidine投与直前の評価では, 染色体異常な し (0点),年齢 66歳 (2点),血色素 (0点),血小板 (2点),骨 髄芽球 (0点), で合計 4点であり, Category 2に相当した. Category 2は, score 3∼4点からなるが, score 4点の Cate-gory 2の集団は,同文献によれば生存中央値 22ヶ月,4年生 存率 27%であった.本症例は azacitidine初回投与から 3年 以上経過してかつ経過良好であり, 早期の azacitidine投与 開始が奏功した例と思われた. 低リスク MDS患者においては,リスク評価として,IPSS のみならず,IPSS-R,LR-PSSでもリスク評価を行い,予後 不良群と判断された場合には, 従来治療に加えて, 早期の azacitidine投与を検討する必要があることが, 本症例の治 療経過から示唆された. 文献
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Treatment-Recalcitrant Lower-risk M yelodysplastic
Syndrome Successfully Treated with Long-term Azacitidine
in an Elderly M ale
Taro Ishigaki
1 Department of Hematology, Ushikuaiwa General Hospital, 896 Shishiko-cho, Ushiku, Ibaraki 300-1296, Japan
Abstract
Low levels of white blood cells(WBC)were identified in a 60-year-old male,and he was diagnosed as having myelodysplastic syndrome(MDS)refractory anemia with excess blasts-1(RAEB-1). On the International Prognos-tic Scoring System he was scored at Intermediate-1 (IPSS Int-1). He was treated with anabolic steroids, im-munosuppressants,and vitamin D・K,but the platelet count decreased. At 66 years of age,the platelet count had decreased to 32,000(/μL),and the patient was diagnosed as having refractory cytopenia with multilineage dysplasia (RCMD),IPSS Int-1. We considered that observation and blood transfusion would not improve his prognosis,so azacitidine was administered following which recovery of the platelet levels and improvement of the bone marrow were subsequently observed. He has been treated with azacitidine for 45 courses,and the same treatment is currently maintained with the patient, now 70 years of age,in good condition. Our results suggest that we should examine the effect of azacitidine in lower-risk-MDS which have been treated unsuccessfully with conventional therapy.
Key words: low risk MDS,
a group of poor prognosis, azacitidine