宮崎医学会誌 32:63〜72,2008
総 説
は じ め に 日常臨床において,下痢や腹痛はよく遭遇する 症状であり,血便を主訴にする患者さんも少な くない。これらの症状は,広義の炎症性腸疾患 (inflammatory bowel disease : IBD)といわれる疾 患が原因となることが殆どである。広義のIBDに は,原因が特定できるものとできないものに大別さ れる。原因が特定できる特異的腸炎には,感染性腸 炎や薬剤性腸炎,虚血性大腸炎に代表される血管性 のもの,放射線性腸炎などがあり,通常は感染性腸 炎が最も多い。原因不明の腸炎の殆どは,狭義の IBDと一括してよばれる潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis : UC)とクローン病(Crohn's disease : CD) であり,一般的にIBDというとこの二つの疾患を指 す。UC,CDはともに若年者に好発する疾患であり, 慢性進行性の経過をとり,治癒的治療法は未だ確立 していない。両疾患とも何らかの遺伝的素因を有す る宿主が,腸管内抗原などの環境因子に対して過剰・ 異常な免疫反応が惹起されて発症すると理解されて いるが¹,²),いまだ詳細な原因解明にはいたってい ない。UCは1975年,CDは1976年から厚生労働省の 特定疾患に指定され,当時はUCが965人,CDにい たってはわずか128人であった。しかし食事習慣や 生活習慣の欧米化に伴ない年々増加し,2007年の集 計でUCが96,993人,CDが27,384人と30年弱で100倍 以上にも増加している。特にUCは,特定疾患の中 で最も患者数が多く,すでに稀な疾患とはいえなく なっている。以前と比して日常の臨床の場で遭遇す る機会が格段に多くなったIBDについて,診断のポ イントや内科的治療を中心に紹介する。炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,クローン病)の診断と治療
山 本 章 二 朗 下 田 和 哉
要約:潰瘍性大腸炎とクローン病を総括した狭義の炎症性腸疾患は,遺伝的素因,環境因子,免疫学的 異常などが絡み合って発症すると考えられているが,いまだ詳細な原因は解明されていない。両疾患は 厚生労働省の難病に指定されており,30年前はあわせてわが国で1000人程度であったが,食事習慣や生 活習慣の欧米化に伴い,年々増加の一途を辿っており,現在では潰瘍性大腸炎が約97,000人,クローン 病は約27,000人といわれている。宮崎県においても2008年3月の集計ではそれぞれ722人,270人であり, もはや稀少疾患とは言えず,日常診療において遭遇する可能性がある疾患である。厚生労働省の特定疾 患研究班から診断および治療指針案が提唱され,最近では潰瘍性大腸炎に対する診療ガイドラインの作 成も行われており,いずれも日常診療に有用である。原因不明の両疾患であるが,治療法の進歩は著し く,潰瘍性大腸炎では血球成分除去療法や新しい免疫調節剤,クローン病では生物学的製剤の登場によ り,以前と比較し格段の患者のQOL向上が得られている。特に抗TNF-α抗体製剤の一つであるインフ リキシマブはクローン病において画期的な治療成績を示している。今後も病態が明らかにされ,それに 対する特異的な治療法が開発されることにより,潰瘍性大腸炎,クローン病いずれも,薬物療法による 長期の寛解維持が可能となり,入院治療や手術が回避されることが期待される。治療成績は格段に向上 したものの,適切な治療を行ったにも関わらず,治療に難渋する例も存在する。またステロイド剤の長 期大量投与により,難治にいたっている場合もある。このような点も考慮し,治療にあたる必要がある。 〔平成20年12月12日入稿,平成21年2月12日受理〕 宮崎大学消化器血液内科(第2内科)診 断 (1) UC UCは,「主として粘膜を侵し,しばしばびらんや 潰瘍を形成する大腸の原因不明のびまん性非特異性 炎症」と定義されている。本症は若年〜青年層(男 性で20〜24歳,女性で25〜29歳)に発症のピークが あるが,後述するCDに比べて発症年齢の分布が緩 やかで,中高年の発症も比較的多くみられる。診断 には厚生労働省の難治性炎症性腸管障害に関する調 査研究班(以下,班研究)により1998年に作成され た診断基準が使用されているが³),そのポイントを 表1に示す。すなわち症状,画像所見,生検組織学 的所見などを総合して診断する。 初発症状としては,下痢を伴う血便または粘血便 が多く,80%以上の症例にみられる。次いで腹痛が 続く。腹痛は下腹部に多く,排便時もしくは排便前 に増強し,排便により軽減するのが特徴である。 画像診断は,大腸内視鏡検査(colonoscopy : CS) でなされることが殆どである。通常は,直腸から連 続するびまん性の細顆粒状粘膜や多発するびらん, 潰瘍,粘膿性分泌物付着,血管透見性の消失などか ら診断は容易である(図1)。最近ではUCの癌化で あるcolitic cancerなどの発症例も増えており,CS の際にはそのことも考慮し検査にあたる必要があ る。診断困難となるのは直腸が一旦正常にみえる非 典型例やサイトメガロウィルス(Cytomegalovirus: CMV)腸炎を合併している例である(図2)⁴)。こ のため,UCを疑う場合は必ず直腸粘膜の生検組織 検査を行うこと,CMV感染の有無を確認すること が大切である⁵)。なお,CMV腸炎合併例のCS所見 では,非感染例と比べて,打ち抜き潰瘍,地図状潰 瘍,深掘れ潰瘍,縦走潰瘍が比較的高頻度に見られ, それも手がかりとなる。また便の細菌学的・寄生虫 図1.潰瘍性大腸炎の内視鏡所見:大腸の粘膜は混濁し, 血管透見は消失しており,びまん性にびらんを認め,一 部粘膿性分泌物付着もみられる. 図2.CMV 腸炎を合併した潰瘍性大腸炎の内視鏡所見 境界明瞭な大小不同の類円形潰瘍が多発しており,一部 打ち抜き潰瘍も認めている. 表1.潰瘍性大腸炎の診断の手引き a)症状:持続性または反復性の粘血・血便,あるいはその既往がある. b)画像所見 ① 内視鏡検査:直腸から連続するびまん性のびらん,血管透見像消失,粘血膿性分泌物の付着,潰瘍,偽ポリポーシ スなどを認める. ② 注腸X線検査:粗ぞうまたは細顆粒状の粘膜表面のびまん性変化,多発性のびらんや潰瘍,偽ポリポーシス,ハウ ストラの消失(鉛管像)や腸管の狭小・短縮などを認める. c)除外すべき疾患 細菌性赤痢,アメーバ赤痢,サルモネラ腸炎,キャンピロバクタ腸炎,大腸結核などの感染性腸炎やクローン病,放 射線照射性大腸炎,薬剤性大腸炎,リンパ濾胞増殖症,虚血性大腸炎,腸型ベーチェットなど
学的検査,海外渡航歴・薬剤服用歴・放射線照射歴 の聴取は必須である。班研究で2006年1月に作成さ れた「エビデンスとコンセンサスを統合した潰瘍性 大腸炎の診療ガイドライン(以下,UCガイドライ ン)」⁶)の中にあるUC治療に向けた診断的アプロー チも参考にして診断にあたるのが望ましい(表2)。 (2) CD CDは「原因不明で,主として若い成人にみられ, 浮腫,線維(筋)症や潰瘍をともなう肉芽腫性炎症 性病変からなり,消化管のどの部位にもおこりう る」疾患である。好発年齢は10歳代後半から20歳代 に多く,男性で20〜24歳,女性で15〜19歳にピーク がみられ,男女比は約2:1で男性に多い。UCと 比して中高年での発症は稀である。診断にはUC同 様班研究で作成された診断基準が使用されている⁷) (表3)。特徴的な所見に縦走潰瘍と敷石状外観があ る(図3)。UCが直腸から連続する粘膜病変を示す のと異なり,CDでは口腔から肛門までの全消化管 のあらゆる部位に病変が生じる可能性がある。特に 肛門病変が高率でみられる。数年前に痔瘻の手術歴 があることがよくある。このため痔瘻などの肛門疾 患を診察した場合は,逆にCDの有無を確認する必 要がある。臨床症状は病変の部位や範囲によるが, 腹痛,下痢が多く,UCと比較し,粘血便は少ない。 表2.潰瘍性大腸炎治療に向けた診断的アプローチ 図3.クローン病の内視鏡所見:幅広で深掘れの縦走潰 瘍が多発しており,その辺縁には一部敷石状外観を呈し た隆起調の粘膜がみられる. 表3.Crohn 病の診断基準 1.主要所見 A.縦走潰瘍 B.敷石像 C.非乾酪性類上皮細胞肉芽腫 2.副所見 a.縦列する不整形潰瘍またはアフタ b.上部消化管と下部消化管の両者に認められる不整形潰瘍またはアフタ 確診例:1.主要所見のAまたはBを有するもの注¹,²) 2.主要所見のCと副所見のいずれか一つを有するもの 疑診例:1.副所見のいずれかを有するもの注³) 2.主要所見のCのみを有するもの注⁴) 3.主要所見AまたはBを有するが虚血性大腸炎,潰瘍性大腸炎と鑑別ができないもの 注1)A.縦走潰瘍のみの場合,虚血性大腸炎や潰瘍性大腸炎を除外することが必要である 注2)B.敷石像のみの場合,虚血性大腸炎を除外することが必要である 注3)副所見bのみで疑診とした場合は同所見が3カ月恒存することが必要である 注4)腸結核などの肉芽腫を有する炎症性疾患を除外することが必要である
腹痛は病変部位に一致することが多く,漿膜に及ぶ ことで内臓痛が生じ,また消化管内腔の狭窄に伴う 腹痛もある。発熱,栄養障害,貧血などの全身症状 の頻度も高い。ときに虫垂炎に類似の症状,腸閉塞, 腸穿孔,大出血,不明熱などで発症することもある。 近年,UCとCDの両疾患の臨床的,病理組織学的 特徴を合わせ持つ鑑別困難例であるindeterminate colitisの例も散見され,2002年度の改定診断基準案 に付記された。特に大腸型CDでびまん性潰瘍性病 変を有する場合に,UCとの鑑別が困難となる。そ の際には肛門病変や上部消化管・小腸病変の精査や 生検による肉芽腫の検索,P-ANCA(perinuclear antineutrophil cytoplasmic antibody)の測定が 診断に有用であり,肉芽腫の存在はCD診断の, P-ANCA陽性はUC診断の手がかりとなる。 病 態 の 分 類 UC,CDいずれにおいても病変範囲を正確に把握 することは,治療法の選択に必須である。また重症 度も治療法に影響を与えるため,治療前に病変範囲 や重症度などを正確に評価する必要がある。 (1) UC 病変部位により,直腸炎型,左側大腸炎型,全大 腸炎型に分類される。特殊型として直腸に炎症を伴 わない右側大腸炎型もあり,病変が直腸・S状結腸 に限局しているものを遠位大腸炎型と呼ぶこともあ る。直腸炎型のうち,約10%は経過中左側大腸炎型 や全大腸炎型に進展するため,直腸炎型で坐剤のみ で寛解にいたらない場合はその点を考慮し,画像検 査の再評価を行う。 本邦では,班研究で作成された臨床的重症度分 類が頻用されている⁸)(表4)。これは臨床症状と血 液検査をもとに判定するものである。さらに重症 度を客観的に把握するためのスコアもあり,DAI (Disease Activity Index)やCAI(Clinical Activity
Index)などがその代表的なものであり,治療効果 の判定に重要な役割を果たしている。 (2) CD 病変部位により,小腸型,大腸型,小腸大腸型に 分類される。前述した様に,CDは全消化管のあら ゆる部位に病変が生じる可能性があるため,肛門や 上部消化管の評価も必須である。
重症度分類にはThe International Organization for the Study of Inflammatory Bowel Diseases (IOIBD)assesment score が簡易であり,よく使 用される(表5)⁹)。国際的にはCrohn's Disease Activity Index(CDAI)¹⁰)が用いられることが多 い(表6)。CDAIは複雑で,かつ評価期間が7日 間と長いため,日常診療においては不便との意見も あるが,治療効果の判定には優れており,再燃時や 表4.潰瘍性大腸炎の重症度分類 重症 中等症 軽症 ⑴排便回数 6回以上 重症と軽症との中間 4回以下 ⑵顕血便 (+++) (+)〜(−) ⑶発熱 37.5℃以上 なし ⑷頻脈 90/ 分以上 なし ⑸貧血 Hb10g/dl 以下 なし ⑹赤沈 30mm/h 以上 正常 注:● 重症とは⑴および⑵の他に全身症状である⑶または⑷のいずれかを満たし,かつ,6項目 のうち4項目以上を満たすものとする. ●軽症は6項目全てを満たすものとする. ● 重症の中でも特に症状が激しく重篤なものを劇症とし,発症の経過により,急性劇症型と 再燃劇症型に分ける. ●劇症の診断基準:以下の5項目を全て満たすもの ①重症基準を満たしている. ② 15 回 / 日以上の血性下痢が続いている. ③ 38℃以上の持続する高熱がある. ④ 10,000/ ㎣以上の白血球増多がある. ⑤強い腹痛がある.
新治療前などには必ず測定しておくべきものであ る。 治 療 (1) UC UCの治療は,おもに病変部位,臨床的重症度, 内視鏡検査所見,腸管外合併症の有無などに基づき 決定される。治療は寛解導入治療と寛解維持治療に わけて考える(表7)⁸)。
表5.IOIBD assessment score の求め方 1.腹痛 2.1日6回以上の下痢,または粘血便 3.肛門部病変 4.瘻孔 5.その他の合併症 6.腹部腫瘤 7.体重減少 8.38℃以上の発熱 9.腹部圧痛 10.10g/dl以下の血色素 各1項目のスコアを1点とする.2点以上:活動期 表7.潰瘍性大腸炎治療指針の概略 直腸炎型 左側大腸炎型 全大腸炎型 軽症 SASP 坐剤またはステロイド坐剤 坐剤無効時は注腸に変更 5-ASA 注腸,ステロイド注腸 SASP 錠またはメサラジン錠内服 SASP 錠またはメサラジン錠 症例によっては注腸併用 5-ASA 注腸,ステロイド注腸 SASP 錠またはメサラジン錠 中等症 再精査 SASP 錠またはメサラジン錠内服 5-ASA 無効例ではステロイド(PSL30 − 40mg/ 日)経口追加 CAP ステロイド不応例,離脱困難例は免疫調節剤併用 重症 再精査 入院し,全身管理,外科医とも連携 PSL 点滴静注(1 〜 1.5mg/kg/ 日) SASP 錠またはメサラジン錠内服9 シクロスポリン持続静注(2mg/kg/ 日) 感染を疑えば抗菌薬併用 表6.CDAI の求め方 X₁ 過去1週間の軟便または下痢の回数 x 2 =y 1 X₂ 過去1週間の腹痛 x 5 =y 2 0=なし 1=軽度 2=中等度 3=高度 X₃ 過去1週間の主観的な一般状態 x 7 =y 3 0=良好 1=軽度不良 2=不良 3=重症 4=劇症 X₄ 患者が現在もっている下記項目の数 x 20 =y 4 1)関節炎 / 関節痛 2)虹彩炎 / ブドウ膜炎 3)結節性紅斑 / 壊死性膿皮症 / アフタ性口内炎 4)裂肛,痔瘻または肛門周囲膿瘍 5)その他の瘻孔 6)過去1週間に 37.8℃以上の発熱 X₅ 下痢に対して Lopemin またはオピアトの服用 x 30 =y 5 0=なし 1=あり X₆ 腹部腫瘤 x 10 =y 6 0=なし 2=疑い 5=確実にあり X₇ ヘマトクリット(Ht) 男(47 − Ht) 女(42 − Ht) x 6 =y 7 X₈ 体重:標準体重: 100(1− 体重 標準体重)=y 8 CDAI:y 1 〜y 8 までの合計 150 以下:非活動期,450 以上:非常に重症
1)寛解導入治療 重症度分類に基づいて,治療法を決定する。 軽症例では,基本的にメサラジンやsalazosulfapyridine (SASP)などの5-ASA(5-aminosalicylic acid)製剤 の内服や坐剤,注腸で寛解が得られることが多い。 尚,直腸炎型の多くは軽症のことが多く,直腸炎型 では主にSASPの坐剤が第一選択であり,無効な場 合はステロイド坐剤に変更する。また5-ASA製剤 やステロイドの注腸製剤も適応になる。欧米では, 軽度から中等度の遠位型活動期のUCの治療として, 5-ASA直腸投与が第一選択となっている¹¹)。直腸 炎型には坐剤が第一選択薬であるもののも,種々の 理由によりメサラジンやステロイド剤の経口投与が なされ,これらの治療による改善がないことから難 治例と判断されて,さらに長期大量の経口ステロイ ドを使用されている症例がある。このような場合は まず病変の再評価を行い,メサラジンからSASPへ の変更,局所投与がなされていない場合は注腸や坐 剤投与を開始することが重要である。 中等症においては,その大部分は左側大腸炎型と 全大腸炎型症例である。左側大腸炎型では多くの場 合,メサラジンやSASPの経口投与が第一選択にな るが,症例により注腸も有効なこともある。しかし 中等症例では5-ASA製剤のみでは寛解導入が困難な 例も多く,その際にはステロイドが必要となる。ス テロイドはプレドニゾロン30〜40mg/日の経口で開 始するが,ステロイドを長期に使用することで医原 的難治例になっている例もあり,また副作用にも注 意する必要がある。ステロイド投与2週間以内に 改善傾向を認めない場合は早期に血球成分除去療 法(cytapheresis : CAP)などの追加治療をすすめ る。CAPは,過剰な免疫反応により炎症性サイト カインを産生する,本症の病態の中心的存在である 白血球を除去するものであり,本邦で開発された治 療法である¹²)。本治療法には,顆粒球除去療法,白 血球除去療法,リンパ球除去療法の3種類がある。 除去効率や治療時間などより前2者が主になされて おり,両群の有効性には基本的には大差ない。最 近では週2回のCAPを行う治療法も盛んに行われ ており,またステロイドを使用せずにCAP単独で の寛解導入も可能な例もあり¹³),症例の適応基準や CAP運用方法を工夫することで,さらに有効性は 向上するものと思われる。 重症例では,入院下での全身管理が必要である。 プレドニゾロン1〜1.5mg/kg/日以上を7〜10日間 投与しても効果が得られない場合は,ただちにシク ロスポリン持続静注療法やCAP療法などの追加治 療が望まれる。シクロスポリンは強力な免疫抑制効 果をもつ薬剤であり,シクロスポリン持続静注療 法は重症例以上のUCの寛解導入に有効な治療であ る。Lichtigerらは,ステロイド不応性重症UCに対 し,73%の寛解導入率であったと報告しており¹⁴), 即座に寛解にいたる例もある。しかし治療効果域と 腎障害などの有害事象出現域が狭く,定期的な血中 濃度の測定を必要とし,また免疫抑制作用のために CMV感染の誘発などの問題点があり,一部の専門 施設で行われる限られた治療法である。寛解導入例 でもその後の再燃率は高いため,注意を要する。 また重症例ではCMV腸炎の合併例が存在するこ とにも留意する必要があるため,血中CMV抗原や 大腸粘膜生検における封入体の存在を確認する。図 3は治療中にCMV腸炎を合併したUCのCS所見で ある。中等症以上のUCの治療中に寛解しない場合, とくにCSで打ち抜き潰瘍や深掘れ潰瘍を有する場 合にはCMV合併を考え,治療にあたる必要がある。 2)寛解維持治療 前述のような種々の寛解導入治療を行い,寛解が えられた症例ではすみやかに寛解維持治療へと移行 する。5-ASA製剤が基本薬であるが,その際重要 なことは,寛解導入に際し投与されたステロイドに は寛解維持効果が無いことである。ステロイドは5 〜10mg/ 1〜2週のペースですみやかに減量中止 する。ステロイド減量中に再燃し,ステロイドの離 脱や減量が困難な症例や頻回に再燃する症例では, アザチオプリンなどの免疫調節剤を試みる¹⁵)。 (2) CD CDの病状は複雑で,UCに比べ治療選択に苦慮す ることが少なくない。寛解期と活動期を明確に分別 することが困難であり,UCと比較すると再燃しや すく,寛解導入治療がそのまま維持治療として施行 されていることが多い。しかしUC同様,CDにおい てもステロイドには寛解維持効果が無いことを認識
しておくことは重要である¹⁷)。以下にCDにおける 各種治療において述べる。 1)栄養療法 栄養療法には,成分栄養剤投与を中心とした経 腸栄養療法と中心静脈栄養療法(total parenteral nutrition : TPN)などの経静脈的な栄養療法があ る。経腸栄養療法は,通常の食事摂取を制限し,成 分栄養剤などを経口的あるいは経鼻チューブから投 与し,栄養状態および病態の改善を図る治療法であ る。成分栄養剤は,腸管安静を保つことができるこ と,栄養状態や病態の改善を速めることができるこ と,低脂肪であり,窒素源がアミノ酸であることな どの利点を有する,腸管に負担が少ない治療法であ る。成分経腸栄養療法の寛解維持効果は無作為割付 試験により証明されており¹⁷),在宅での投与量は1 日900〜1200kcal程度が推奨されているものの,味 や手間などの種々の理由で現実的ではなく,欧米で は殆ど栄養療法は実施されていない。治療効果はあ るものの,栄養療法を継続していくためには,投与 法の工夫に加え患者教育が必要となってくる。活動 性が極めて高く腸管運動を制限すべき場合,狭窄や 大量出血,瘻孔,穿孔といった重篤な腸管合併症に よって経腸栄養投与が不可能な場合にTPNは施行 される。 2)薬物療法 CDに対する薬物療法の基本は5-ASA製剤である。 小腸に病変のある場合はメサラジン,大腸型では SASPを選択する。5-ASA製剤で改善の認められな い場合にはステロイドや免疫調節剤が使用される。 肛門病変を有する場合にはメトロニダゾールなどの 抗生物質も有効な場合がある。以前はこれらの治癒 に抵抗性を示す場合は,入院下で絶食,TPN管理 が行われていたが,最近ではカテーテル感染に伴う 敗血症や小腸粘膜萎縮に伴うbacterial translocation などの問題も懸念されており,以前ほどTPN管理 は行われていない。代わりに生物学的製剤の治療に おけるウェイトが大きくなっている。
CDではInterleukin- 1(IL- 1),IL- 6,TNF-α (tumor necrosis factor alpha)などの種々の炎症性 サイトカインが病態に密に関連しており,このうち TNF-αはキーサイトカインと考えられている。イ ンフリキシマブ(Infliximab:IFX)はTNF-αに対 するキメラ型抗体で,75%がヒト,25%がマウス 由来の抗体製剤である。可溶性TNF-αに結合・中 和するのみならず,TNF-αを産出する免疫担当細 胞にも結合してTNF-αの産生を抑制する。1993年, オランダのDerkxらにより治療抵抗性のCDに対す るIFXの有効性が報告されて以来¹⁸),治療抵抗性の 活動性CDや難治性の肛門病変に対し使用されるよ うになってきた。本邦でも2002年5月に中等度から 重度の活動性CD患者および外瘻を有するCD患者に 対しIFXは保険収穫され,画期的な有効性をもたら している。特に粘膜治癒効果の高さには目をみは るものがある。我々も種々の治療に抵抗性であり, 縦走潰瘍が残存する難治性の活動性CDにおいて, IFX投与により,潰瘍が閉鎖した例を多数経験して いる(図4)。 しかし活動期のみの投与では,一旦CDが寛解に いたった場合でも遅かれ早かれ再燃してくる例が 多い。このため欧米では,IFXによる寛解導入治療 のみでなく寛解維持治療も試みられている。その 代表的なものがACCENT-Ⅰ,Ⅱ試験である¹⁹,²⁰)。 ACCENT-Ⅰ試験では活動期CD患者,ACCENT-Ⅱでは瘻孔を有するCD患者をそれぞれ対象とし, IFXの寛解導入および維持効果の有効性を示してい る。これらをうけて,本邦でも2007年11月からCD に対するIFXの8週毎の寛解維持投与か可能となっ た。つまりIFX投与例では,寛解導入として,0, 2,6週目に5mg/kg投与し,その後寛解維持を目 標とし,8週間毎に投与するというレジメンが標準 的投与法となりつつある。 IFXの安全性については,TREAT試験でIFX投 与患者と非投与患者で死亡率に差がないこと,IFX が重篤な感染症を起こす独立した危険因子にはなら なかったことなどが報告されている²¹)。 またIFXの投与時期については,早期のCD患者 に対しステロイドで治療する従来のstep-up療法に 比べ,IFXとアザチオプリンの併用投与による積極 的治療を開始するTop-down療法が,手術率,再発 率は低く,粘膜治癒率は高いと欧米からは報告され ている²²)。本邦の班研究でもCD発症後6ヵ月以内 に投与した早期投与例と,それ以降の投与例では,
早期群の方が有意に寛解導入率が高いとの結果が示 されている²³)。我々の施設でも同様の結果であり, これまでに発症後3ヵ月以内にIFXを投与したCD 6例ではいずれも6週目に全例寛解にいたっていた (図5)。このうち,維持投与を継続した4例すべて が2年以上寛解をしている。適応症例,適応期間な どはまだ検討段階であるが,IFXの投与は発症後早 期が望ましいと考えられる。 3)内視鏡的拡張術 CDの腸管合併症で最も多いのは狭窄であり,繰 り返す狭窄症状がある場合には,狭窄に対する治療 を考慮する必要がある。その際,外科的手術を施行 したとしても再手術率は30%以上と高率であり,外 科的手術,特に腸管切除以外の治療法が望まれる。 腸管狭窄治療の一つの選択枝として,内視鏡的拡張 術がある²⁴)。本治療は狭窄部に収縮させたバルーン を挿入し,自覚症状やX線を確認しながらバルーン を拡張していくものである。狭窄の程度,長さ,部 位などにより適応例が決められるが,班研究の治療 指針では栄養療法などで炎症を落ち着かせ,狭窄部 の潰瘍が縮小,消失した場合に本治療を試みてもよ いとされている。図6に回腸末端部の狭窄に対し, 内視鏡的バルーン拡張術を施行した例を示す。また 最近ではダブルバルーン内視鏡を用いた小腸狭窄に 対する拡張術も施行されている。内視鏡的拡張術が 無効例や拡張後に頻回に再燃する例では,外科手術 を考慮する必要がある。 終 わ り に UCやCDなどのIBDの治療は診療ガイドラインを 参考に行っていくが,基本的な治療を施行したに もかかわらず適正な治療反応が得られない場合や, IBDの合併症の治療に難渋する例,さらにステロイ ドや免疫調節剤などの薬剤の副作用で重篤な副作用 を起こしてしまう症例など,治療困難例も増加して いる。患者QOLの向上を念頭に置きながら診療に あたることが大切であり,重症例,難治例では,専 門施設への紹介するタイミングを逸してはいけな い。 図5.発症後3ヵ月以内にインフリキシマブを投与した クローン病6例の短期の治療効果判定:発症後3ヵ月以 内に IFX を投与したクローン病6例では,いずれも症 状は改善し,6週後には全例寛解状態にいたっていた. 治療前 治療後 図4.インフリキシマブ治療前後のクローン病の内視鏡所見:インフリキシマブ治療前の内視鏡では,大腸に縦走 潰瘍を認めた.インフリキシマブ投与により,縦走潰瘍は瘢痕化し,粘膜治癒が得られた.
参 考 文 献
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治療前 治療中
図6.クローン病の腸管狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術:回腸末端部に狭窄を認め,同部をバルーンにより 拡張した.
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