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多発性皮膚結節及び骨変化が見られた汎発性鞏皮症の一例

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〔臨 床 実 験〕

(東京女医大誌 第27巻第ll号頁700 一 706昭和32年il月)

多発.性皮膚結節及び骨変化が

見られアこ汎発性輩皮症の一例

東京女子医大整形外科学教室 (主任 森崎直木教授) 景 カゲ 山 ヤマ

小 須 田

=T ス ダ 孝 タカ 敦 アツ (!受・付日召禾032年9月14日) 正 マサ

コ 1 緒 鷺

Sclerodermiaなる名称は1847年Gintracに

よって附せられたものであるが,本症が始めて記 載されたのは1634年Zacutus Lusitanusによっ てであり,更にこの詳細な症候の研究はAlibert (1817)やThiria1(1845)に.負うところが多い。 本邦において・も皮膚科学発祥と共に輩皮症の記載 が始まり,今日迄に350判例の症例報告があると いう。 分類については種々の意見があるが…般には汎 三型と限局型に分けられている。 皮膚の一部に限局して斑状,帯状或いは線状に 輩皮症が発現する限局型に対し,汎発性輩皮症は 主として四肢末端に始まり,広汎に全身皮膚の膠 原線維が増殖し皮膚の硬化ついで萎縮を来すのみ ならず,皮下組織,筋肉,骨,臓器等の深部構造 にも同様の結合織の増殖を来す慢性進行性の疾患 である。 この汎発性輩皮症はその特異な皮膚所見から主 として皮膚科学的に研究されてきたものである が,関節痛や関節拘縮或いは骨萎縮,、骨溶解の如 き骨変化,更に軟部組織の石灰沈着等が見られる ところがら整形外科医の目にも止まる様になって きた。我々は最近関節痛と関節運動障害を訴えて 来院し,手背部に多発性の皮膚結節を有し,また レ線像で両側前腕骨に特異な骨膜肥厚像を認めた 汎発性輩皮症の一例に遭遇したので鼓に報告す る。 ll症 例 1)病歴 13才,男,第5子。 家族歴=父親は腎炎及び紫斑病に,母親が肺結核に 羅書したことがあり,第2子,男は腎炎の為IC 4才で 死亡したという。 既往歴:著患を知らない。ツベルクリン反応は9才 でBCG陽転以来陽性である。 現病歴:昭和32年.1月中旬から両側肘関節及び膝関 節に伸展時論痛があり完全伸展が陣害され,1月末に は手指,背部皮膚の硬化を来し手を握る事が不可能に なった。 この関節痛と関節運動制限を主訴として1月31日当 整形外科外来を訪れたものである。 2)初診時所見 体格やや小,栄養中等度,身長に比して手足の 大きい感じがある。頭髪には3割程度の白髪を混 じ,顔貌(図1)は浮腫状で,顔面皮膚なやや蒼 白にして光沢があり,軽度に硬化しつまみ上げる 事は困難で表情筋の動きも少い。開口は2横指程 度に可能で患者自身動きが悪いという自覚はな く,噛咀,嚥下運動は正常で発声障害も認められ ない。全身的に皮膚の特別な色素沈着或いは脱失 を認めず,口唇はややチアノーゼを呈し,舌には

Takamasa KAGEYAMA & Atuko KOSVDA (Department of Orthopedic Surgery, Tokyo,Women’s

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白色苔が見られるがその他の粘膜に異常はない。 その他脈搏は正常で胸腹部に特別な所見なく,甲 状腺腫脹も存在しない。 上肢では伸側皮膚に硬化があり,肩関節運動は 正常であるが,両肘関節共に軽度の局所熱感を認 め運動範囲は160。∼65。で右側がやや強く障害さ れている。両側手関節も各方向に運動制限があり 更に強制すれば痙痛を訴えるが炎症々状を認めな い。手背の皮膚(図2)をつまみ上げる事は困難 で,手掌部は常に発汗し湿つぼく手指はややチア ノーゼを呈し冷たく,両側指関節部伸側に光沢を 帯びた弾性硬の粟粒大から米粒大の皮膚結節を多 i数に認め,指間関節では軽度の屈曲拘縮を呈し運 動は主として掌指関節で行う。手指全体に浮回状 腫脹を認めるが特に指関節の熱感,圧痛等はな く,爪の栄養障害や変形の如きも認められな!、・。 股関節では前転が制限され,膝関節伸展位で股 関節を屈曲すると80。位で大腿内側の引きつれる 感じがありついで膝関節が屈曲して来る。右膝関 節は三々腫脹し軟骨性の膝蓋骨跳動があり局所熱 感も僅かに認められる。両側膝関節共に完全伸展 が障害されているが,足関節,趾関節の運動は正 常で,下肢の皮膚には明らかな硬化は認められな い。 患者は皮膚科において汎発性輩皮症と診断され たが,上述の如き関節病変の存在することから, この精査の目的で2月18日当整形外科に入院した. ものである。 3)検査成績(表1,2) 表 1 表 2 尿中17一ケトステロイド値 正 常 値 8.20 mg/day 第一日4.60mg/day

測定値第二日7.54 〃

第三日17.62 〃

平均値』 6.50一〃

「Thorn’s test (ACTH 10単位:注射)

注射「前E球192個/mm3 4時…間後rl 219 〃 6時影羅後 〃 213 〃 8時間後〃216 〃 自律孝申系蚤系機倉鞭査 アドレナリン試験 (十) ピロカノレピン試験’(}) アトロピン試験 (∼) 1赤血球459×10・/mm3 ヘモグnビン (ザ・・リー)950/S 白血球 6200/mm3 St 3. 5% Np 〈 Sg 58. O k 22. 0 血液像 Ly< g 9.O

E O.5

B O

MO 3.5

全血比重

1054

血漿比重

io29 」血漿i蛋白8.、7mg/dl ア7レカリ性 フォスファタPtゼ 4.1S−」一R unit 血清力7レシゥム9.Omg/dl

血清燐54mg/dl

コレステn一ル178mg/d1 梅毒血清反応 (一)

血沈値碧t罷

」血圧は最高値110,最低値64mm Hg,心電図 に異常なく,入院約2カ月間の体温は36.50∼ 37.2。C間を動揺している。 赤並L球沈降速度正常,血液像にも特に変化なく 尿1日量 1530cc− 1450 t/ 1500ヴ 14%増加 10 ,1 ,/ 12 ,/ ,t 本症に屡々見られるというエオジン好球,単核球 等の増1多を認めない。 .舶t浩カルシウム,.血清燐i,コレステロール等は いずれも正常値を示す。 尿検査では17−Ketos・teiroicl値が3日間平均 6.5mg/dayで正常値より低下している。 Thorn’s TestはACTH 10単位を筋注後, 4時聞,6時聞,8時問のエオジン好球の減少率 を測定したが,いずれもACT}1注射前よりむし ろ増加しており,17−Ketos・teroidの低回と Thorn’s Testとから副腎皮質機能不全が疑われ る。なお性器の発育異常は認められない。 自律神経機能検査では,Adrenalin試験で軽度 の緊張状態を示している。 胸部レ線像には著変を認めないが,上肢のレ線 像では(図3),手根骨以下に軽度の骨萎縮があ り左第2指先端に不親則な骨溶解の像が僅かに見 られるが,未だ関節裂隙の狭小はなく,また Thibirge−Weisenbach症1戻と呼ばれる軟部組織 の石灰沈着は認められない。 こ・の症例で特異な事は,臨床的には特別な所見 のない両側前腕骨に骨膜の二重像(図4,5)が 認められた事である。これは面骨及び尺骨の骨 三筋附着部に,正常でも時に現われる。K6hler− Zimmerの所謂Periostitis ossificans或いは Pseudoperiostitis と云われるものとは明らか‘に 異なる像である。 4) 皮膚組織検査 右肩部皮膚組織標本(図6)では,真皮の膠原

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線維が著明に増殖し或いは腫脹膨化して屈曲し, 或いはむしろ細線維化を示し,全体に真皮はその 厚さを増し皮下組織に向って張出している。更に 血管周囲には浮腫及びリンパ球の浸潤が認められ る。汗腺や皮脂腺の萎縮は未だ明らかでない。 手指皮膚結節組織標本(図7,8)では,膠原 線維の増殖は更に進み乳頭は浮腫というよりもむ しろ硬化し,乳頭下層も亦硬化し,.血管周囲の細 胞浸潤も見られる。明らかなフィブリノイド変性 は認められない。皮脂腺は見当らず,汗腺は萎縮 している。表皮は外側の起伏が増加し角質も増加 している。 なお右肩部真皮の超薄切片による電子顕微鏡的 検索では,細網状に増殖せる線維構造が認められ る(図9∼11)。 5)治療(表3) 衰 3 ブレ三二ゾロソ急濁適 ハ25∼5鴨稿麟,謝

P欝

− V 一 C 一 コげチソ’ン @ ゆ25・叫経畷与 コーチゾン k日 50筑, プレドニソロ7 P日 」D皿2、 @ ’ % { ? ヒ・かどゼン軟肴歪布

匠画一

一 一 . 『 昌 二 二 ロ 崩工 五托8 0 日「『丁「一「冨一一一一一』一一 @ 目 昌 @ へ実 日 o 入院後ステロイドホルモンの経口投与を主と し,コーチゾン1日25mgを38日間,更に50 mg を28日聞,プレドニゾロン1日10mgを14日間経i 口投与し,併せてプレドニゾロン懸濁液 2。5∼ 5mgを数回皮膚結節部皮内に注射し,更に1% ピロカルピン軟膏塗希,マッサージ,入浴治療法 を施行した。 治療開始後3カ月では,全体的な皮膚の浮腫, 硬・化はかなり改善され,掌指関節,手関節,肘関 節及び膝首飾の運動範囲は増加し,特に肘,膝, 股関節の運動性は殆ど正常となり,手背部皮膚は っまみ上げられる様になったが,指間関節の屈曲 拘縮は更に充当し,伸展屈曲は殆ど不可能となっ た。またプレドニゾロン懸濁液の皮内注射を行っ た手指の皮膚結節はむしろその硬さを増し夫々均 質化して光沢も増強し,治療前に比し数も増して いる(図12)。 IH 考 案 汎発奮輩皮症は慢性進行性に経過し,全身の間 質結合織の増殖を来す疾患で,本症の皮膚症状も 全身性以北織変化の局部的現象と喰えられるよう になり1942年にKlemperer等によって膠原病の 一つに数えられるに至った疾患である。 この疾患は各国の統計を見るとおおむね全皮膚 病患者の0.05∼0.1%に当り,20∼40才の女性に 発病する場合が多い。 成因としては,屡々急性,慢性の伝染病特に結 核や梅毒が:先行し或いは合併することから感染 説,また一血管変化や血管運動神経障害に立脚する 一血管説,精神打撃に続発したり特に自律神経機能 障害を認めることが多い事から神経説,内分泌機 能障害が重要な役割を演ずるという内分泌説等が あるが確実なものはなく,最近では特に三道性内 分泌障害が重視されている。 ひるがえって本症を省みると,13才の若年で且 つ男子の発病は比較的少なく,成因に関しては前 述の如く副腎皮質機能不全が疑われ,また交感神 経の軽度緊張をも示す。 本疾患の皮膚症状は浮腫期,硬化期,萎縮期の 三段階に分けられるが,本症例では臨床的並びに 組織学的所見より浮腫期から硬化期に及ぶ比較的 早期の段階にあると考えられる。更に本症例に見 られた手指伸側の多発性皮膚結節は組織学的に甘 皮症性変化の一現象であることが明かとなり,ま た本邦における汎発型ではその報告が見当らない ことから興味深い所見と考えられる。 骨変化としてはまつ礪慢性の骨粗難症,ついで Resorptio terminalisと称せられる指骨末端の 骨溶解が現われさらに軟部の石灰沈着を見るのが 特徴であるといわれるが,本症例に見られる両側 前腕骨の骨膜二重像は象皮症性骨変化としてはそ の記載をみず,一方正常像とも思われず,また骨 腫瘍,骨髄炎:等も順えられない。両側共にみられ る点は汎発性顛動症という全身性疾患に伴う一変 化と考えるのが妥当であろう。即ちPseudoperi−

ostitis sclerodermica或いは Periostitis ossi−

ficans sclerodermicaとでもいえる変化と考えら

れる。

関節の変化は一般に皮膚変化に先行し,リウマ チ様関節痛,関節腫脹等があり,これは一次的変 化といわれている。本症例では治療により皮膚症

(4)

状が改善された肘関節,手関節,三指関節では運 動範囲の拡大が認められ,皮膚硬化の進行した手 指部では屈曲拘縮が著明に充進している点から, 主として皮膚の硬化萎縮による二次的の関節拘縮 と考えるのが妥当であろうが,病初の軽度の関節 腫脹や局所熱感から初期には前駆的に一過性の関 節炎が存在したものと思われる。 汎発性輩皮症に対する治療法としては今日迄に ヨード剤,甲状腺製剤,脳下垂体製剤,副腎製 剤,性ホルモン,ピロカルピン,アセチルコリン 等の薬剤が用いられ,またビタミンC:大量投与, 内分演臓器埋没療法,頸動脈毬摘出等が行われ, 更に種々の理学的療法も補助手段として用いられ ているが,効果の有無は全く一定せず有効と思わ れた症例に於いても治療中止と共に再度病勢は進 行し,特に汎発型では完全治癒は甚だ稀であり多 くは慢性に経過して合併症の為に遂には死の転帰 を取る事が多いとされている。本症例ではコーチ ゾン,プレドニゾmンの経口投与により全体的に 皮膚の硬化,関節の拘縮を改善し得たが手指部の 症状特に皮膚結節には無効で症状の増悪を認めた ことは興味深い。・将来長期間観察により経過を追 求する予定である。 IV 結 語 我々は最:近13才の男子に,手指関節,手関節,肘 関節,膝関飾の屈曲拘縮を来した汎発性輩皮症の 一例に遭遇し,多発性皮膚結節を両側手指伸側に 認め,更に本症に伴う一変化と思われる両側前腕 骨の骨膜:二重像を認めたので報告した。 皮膚症状は浮腫期から硬化期に及ぶ比較的早期 のものと考えられ,交感神経の軽度緊張が認めら れ,又副腎皮質機能不全が疑われた。 治療についてはコーチゾン及びプレドニゾロン の全身投与が皮膚症状の改善に有効であったと思 われる。 (本報告の要旨は第246回整形外科集談会東京地方 会,並びに日本リウマチ協会関東地方会(昭和32年 6月24日)において発表した。) 参 i考 文 献 1)樋口謙太郎,奥野勇喜:日本皮膚科全書,第5 巻, 第1掃}, 1頁 (H召30) 2)沖申重雄:綜合臨床,1,515(昭27) 3)北村包彦:東京医学雑誌,61,129(昭28) 4)宮村一利,原田彰:皮膚科性病科雑誌,62,296 (昭27) 5) 沖申重雄,西川光夫:内分泌のつどい,3, 731 (日召28)

6) K6hler−Zimmer:Grenzen des Normalen und Anftinge des Pathologischen im R6ntgenbilde

des Skelettes, p. 116,

Geoge thieme Verlag Stuttgart, (1953)

7) H.R. Sehinz, W.H. Baensch, E. Friedl, u. E.

Uehlinger: Lehrbuch der R6ntgen Diagnostik,

II, p. 115,

(5)

景山・小須田論文附図

難縫

灘購簸

難㈹ 騒ぎ薦1

謬雛擁

灘ド蔑

糧槍鳶

欝 黙1護

ξ輪・

図 4

図1

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欝磯

図2

左 霧 雛鷺s 彰 1 毎 ’e” @,二 右

図5

図 3

(6)

鍋轟.惹

図6(100倍)

図7(400f音) 図8(400倍). リンパ球 ,

図9(3000倍)

べ舜

夢 図 10 (12000倍)

..k 図11(12000倍) 護 図 12

参照

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