128 (48) 氏名(生年月日) 本 籍
学位の種類
学位授与の番号 学位授与の日付 学位授与の要件学位論文題目
論文審査委員
コウ ミン テツ哲(1955
’ 博士(医学) 乙第1394号平成5年11月19日
学位規則第4条第2項該当(博士の学位論文提出者)
イヌにおけるカルシウム負荷による心筋壊死の発生とその病態に関する実験
的研究一心筋壊死と心電図,血行動態,不整脈発生の経時的変化について
(主査)教授 細田 瑳一 (副査)教授 小林 愼雄,高倉 公朋論文 内 容 の 要 旨
目的 冠動脈閉塞を用いないでヒト心筋梗塞類似の実験モ デルを作製するため,雑種成犬で選択的冠動脈内カル シウム(Ca)注入による心筋壊死を作製し,心電図, 血行動態の変化ならびに不整脈の発生について検討し た. 対象と方法 雑種成犬30頭を用い,ベントバルビタール麻酔,調 節呼吸下に頸動脈,頸静脈より冠動脈,左室,右心系 (右房,右室,肺動脈)にそれぞれ冠動脈カテーテル, マイクロマノメーター付きカテーテル,Swan-Ganz カテーテルを挿入し,選択的冠動脈内Ca注入による 心筋壊死モデルを作製した.対照群3頭およびCa負 荷群13頭で経時的に心電図,心拍出量,左室圧,dp/dt を測定した.左室の心筋壊死量(%壊死量)は摘出後 三次元立体再構築で計測し,対照群を含め4段階(Gr. 1~4)に分類した.14頭ではホルター心電図を用い, Ca注入後3時間まで不整脈の出現頻度と経過並びに キシロカインの効果を検討した. 結果 1)選択的冠動脈内Ca注入(Ca量1mg/kg/分,30分 間)によりヒト心筋梗塞に類似した心電図変化を示すモデルを作製しえた.Q波出現までの時間は平均
39.0±15.8分目あり,Q4c間隔は観察終了時点の 16~24時間後に最大値(平均:0.450±0.044秒)を示 した. 2)心拍出量,(+)dp/dtおよび(一)dp/dtはいず れもCa注入直後より低下した.壊死量20%以下の群 では12時間後回復し,左室拡張末期圧の有意上昇を認 めなかったのに対し,壊死量20%以上の群では回復傾 向を示さず,左室拡張末期圧は有意に上昇した(pく 0.01).心拍出量の低下(△%)についてはCa注入後, 時間経過とともに%壊死量との相関が高くなり, 16~24時間ではr=0.846,p<0.005となった.(十)dp/ dtおよび(一)dp/dtの変化はCa注入後1時間で%壊 死量と最もよく相関した(r=0.872,p<0,005;r= 0.815, p〈0.005). 3)本モデルではヒト心筋梗塞に類似した不整脈を 認め,心室性期外収縮は全例に,心室細動は63.6%に 発生した.キシロカインはこれらを抑制した. 考察 虚血による心筋細胞の不可逆的傷害が生ずる機序に おいて,Caイオンが重要な役割をしていることが明ら かにされている.本実験では心筋の阻血なしにCa注 入によってヒト急性心筋梗塞と同様の変化を得た.心 電図変化は冠動脈結紮実験より早く現れ,臨床例の 14~17%で速やかに心筋壊死形成が生ずることとの関 連が示唆された.多くの臨床報告と同様に本実験でも 心筋壊死量(%)は心機能と血行動態変化の重要な決 定因子であることが示された. 結論 本実験モデルでは従来の冠動脈閉塞モデルに比べ, 一734一129 側副路の影響なく,速やかに一定の灌流域にヒト急性 心筋梗塞と多くの点で類似する病変を作製することが できた.本実験モデルは心筋梗塞後の血行動態や,代 償機転を明らかにし,更に治療法の開発研究,重症心 室不整脈の発生と予防に関する解析に有用と考えられ る.