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Vibrio vulnificus による壊死性筋膜炎の1剖検例

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Academic year: 2021

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はじめに

Vibrio vulnificus

は肝障害,糖尿病などの基礎疾患 を有する人に感染し,急速に進行する重篤な皮膚軟部 組織感染症である壊死性筋膜炎の原因となる.本感染 症は非常に侵襲的で,適切な診断と治療を行っても 30〜40%が死亡する劇症型感染症である1).比較的稀 な疾患ではあるが本邦では1978年に河野らの第1例目 以来約200例の報告がある2).今回,Vibrio vulnificus による壊死性筋膜炎の1例を病理解剖所見とともに報 告する.

患 者:60歳代 男性,漁師 主 訴:両下肢痛

現病歴:2011年7月28日初診.初診2日前の夕方より 両下肢の疼痛が出現.翌朝になっても疼痛が持続して いるため前医に救急搬送された.40度の発熱と両下腿

の暗紅色の色調変化を認め,閉塞性動脈硬化症の診断 にて,

PG

製剤,抗血小板剤,

CTX

で治療開始された.

同日21時頃血圧が低下し両下肢の疼痛が増強したた め,翌未明に当院へ転院搬送された.発症1〜2日前 に鮨を食べていた.

既往歴:アルコール性肝障害,高尿酸血症,気管支喘 息

生活歴:喫煙なし;飲酒,焼酎4合〜1升/日 常用薬:フォリアミン!

現 症:意識清明,血圧61/43

mmHg,脈拍1

07/min,

SpO

299%(room air),体温36.4℃.膝窩動脈は両側 触知可能.足背動脈は右は触知可能であったが,左は 浮腫のため不明.四肢の感覚運動障害なし.両下腿下 2/3から足にかけて紫斑・水疱があったが創はな かった.圧痛は著明で握雪感,熱感・冷感はなし(表 1).

血液検査:血小板の著明な低下,

PT

延長,

FDP

上昇,

ATⅢ低下があり,DIC

と考えられた.肝腎機能も低

下していた.CKは著明に増加.白血球数は減少して おり好中球の左方移動も認めた.血液培養は陰性で 症例

Vibrio vulnificus による壊死性筋膜炎の1剖検例

平井 崇士1) 浦野 芳夫1) 谷口 千尋1)

町田 未央1) 山下 理子2) 藤井 義幸3)

1)徳島赤十字病院 皮膚科 2)徳島赤十字病院 検査部 3)徳島赤十字病院 病理部

要 旨

症例は60代,男性.2日前より両下肢の疼痛が出現.アルコール性肝障害あり.発症2〜3日前に鮨を食べていた.

初診は意識清明,血圧61/4

mmHg,脈拍1

7/分,体温は36.4度.両下腿は暗紅色調を呈し,右足底と左足関節内側に は紫斑と水疱があり,圧痛が著明であった.膝窩動脈は触知可能.血液検査では

CK

の著明な上昇があり,DICと多臓 器不全の所見を認めた.下肢の

CT

では皮下組織と筋膜の炎症性変化が見られた.ガス像はなかった.水疱内容液のグ ラム染色でグラム陰性桿菌を認め壊死性筋膜炎と診断した.後日,培養で桿菌は

Vibrio vulnificus

と同定された.入院 3日目に死亡し病理解剖を行った.病変部の皮膚は著明な浮腫と血栓形成,壊死がみられ,皮下組織にはギムザ染色陽 性の多数の球状の病原体が存在したが白血球浸潤は乏しかった.肝臓は慢性アルコール性肝炎の所見を認め,中等度の 鉄沈着が見られた.腎臓・肺・腸管は極めて早期の多臓器不全の像を示した.死因は壊死性筋膜炎による多臓器不全と 推定された.

キーワード:壊死性筋膜炎,Vibrio vulnificus,アルコール性肝障害

(2)

あったが,水疱内容液のグラム染色ではグラム陰性桿 菌を認めた.培養にて後日

Vibrio vulnificus

が検出さ れた(図1).

画像検査:胸部と下肢の

Xp

で明らかな異常所見は認

めなかった.下肢の

CT

で皮下と筋膜の

density

上昇 を認めた.筋は一部腫大し

density

が低下していた.

またガス像はなかった(図2).

診 断:壊死性筋膜炎による敗血症性ショック,多臓 器不全,DIC

入院後経過:抗菌薬(MEPM,

CLDM, SBT/ABPC)

, 昇圧剤,DIC治療薬による保存的治療を行ったが,

入院3日目の朝方に意識レベルが低下し,突然心停止 し,永眠した(図3).死後2時間で病理解剖を行っ た.

病理解剖所見:両足の紫斑と水疱は入院時と比較し拡 大していた(図4a).左足底の皮膚組織は表皮下水疱 と真皮浅層の浮腫,出血,血栓を認めた.真皮〜筋膜 にかけて多数の菌体を認めた.好中球の浸潤は少数で あった(図4b,c).また菌体は筋肉内にも見られ,

好中球浸潤はごく少数であった(図4d).胸水は黄色 透明で右700

ml,左6

50

ml

貯留.腹水は黄色透明で700

ml

貯留.肺は右540

g,左4

70

g,軽度肺水腫と両側下

葉の胸水による圧排性無気肺を認めた.部分的に肺胞 図1 入院時皮膚所見

表1 検査所見

血算 生化学 電解質

Hct 3 8. 5 % BUN 2 9 mg/dL Na 1 2 5 mEq/L

Hb 1 2. 8 g/dL Cr 3. 1 4 mg/dL K

3.

mEq/L

RBC 3 7 6×1 0

/ μ L UA 7. 4 mg/dL Cl 9 2 mEq/L

WBC 2, 9 2 0 / μ L AST 4 7 9 U/L Ca 6. 9 mg/L

Myelo 1 7. 0 % ALT 1 0 2 U/L

血液ガス

Meta-Myelo 2 2. 0 % ALP

U/L pH

7.

Neut(Stab) 2 5. 0 % γ -GTP 3 5 1 U/L PO

9.

mmHg

Neut(Seg)

0.

% LDH 4 8 9 U/L PCO

1 6. 7 mmHg

Lymph 5. 0 % CK 1 2, 0 7 7 U/L HCO

3−

1 0. 8 mmol/L

Mono 1. 0 % T.Bil 3. 3 mg/dL BE −1 1. 1 mmol/L

Plt 3. 0×1 0

/ μ L CRP 1 6. 9 3 mg/dL AG

7.

mmol/L

凝固系

Glu 1 4 5 mg/dL

細菌学的検査

PT-INR 1. 5 7 HbA

c

4.

%

血液培養 陰性

APTT 7 4. 7 秒 T.Chol 6 7 mg/dL

水疱内容液

fib

mg/dL HDL 7 mg/mL

スメア

GNR

FDP 7. 3 μ g/mL TG 4 4 2 mg/mL

培養

V.vulnificus

D-dimer 2. 7 μ g/mL T.Prot 4. 6 g/dL

薬剤感受性

AT-Ⅲ 2 3 % Alb 2. 0 g/dL MEPM S

HBV-sAg

陰性

CTX S

HCV-Ab

陰性

SBT/ABPC NT

CLDM NT

(3)

a

6000 5000 4000 3000 2000 1000 0

4 3 2 1 0

Plt Cr WBC WBC

(/μL)

Plt

(×10

4

/μL)

Cr

(mg/dL)

1日目 2:00

8:00 14:00 20:00 2:00

8:00 14:00 20:00 2:00

7:00

2日目 3日目

DIC治療薬

AT-Ⅲ PC 10U AT-Ⅲ PC 10U ヘパリン FOY

NA DOA/DOB

0.06γ

MEPM 1g/日

CLDM 1200mg/日

γ-glb γ-glb

抗菌薬

昇圧剤

補液 SBT/ABPC

3g

3γ 6γ

230ml/h 500 500

250 40

0

40 0

a

b c

d

b

肺隔にリンパ球の浸潤と硝子膜様物質を認め,ARDS のきわめて初期と考えられた.肝臓は1,445

g,門脈

域の軽度のリンパ球の浸潤と肝線維症を認めた.小滴 性を中心とした脂肪変性が散在しており慢性アルコー ル性肝炎と考えられた(図5a).また鉄染色では中等 度の鉄沈着を認めた(図5b).腎臓は180

g,間質と

浮腫と高度の水腫様変性があり,尿細管内に原尿の貯 留を認めることから尿細管壊死による利尿不全と考え られた.また集合管に変性脱落を認めた.下部消化管 は粘膜固有層と上皮間,粘膜下層にきわめて高度の浮 腫を認めた.骨髄は3系統の細胞増加を認めた.心臓 は組織学的には著変なし.死因は敗血症性ショックに よる多臓器不全と考えられた.

Vibrio vulnificus

は温暖な汽水域を好む通性嫌気性 グラム陰性桿菌である.感染経路は本菌に汚染された 生の魚介類を食べることによる経口感染と,傷口が直 接海水にさらされることによる創感染がある.また臨 床症状から原発性敗血症型と創傷感染型と胃腸型の3 型に分類されている.原発性敗血症型は本邦では70%

を占め2),生の魚介類の経口摂取により経腸管的に菌 が侵入し,敗血症や壊死性筋膜炎を呈する最重症型で ある.本症例は創を認めず,両側下肢に同時に発症 し,魚介類の生食の既往があることから原発性敗血症 型の

V.vulnificus

感染症と考えられる.感染の成立に は基礎疾患が深く関与しており,ほぼ全例に肝障害,

糖尿病,免疫能低下などが存在する.最も多いのは肝 障害であり,肝障害の原因はアルコール性が最も多 く,病型は肝硬変が70%を占める2)3).また菌の増殖 には鉄過剰状態が適しており,トランスフェリンの鉄 図2 下肢 CT

筋腫大,density 低下(△)

皮下と筋膜の density 上昇(※)

図3 入院後経過

図4 剖検時所見

図5 肝臓組織所見

(4)

飽和度が70%を超えると増殖が盛んになる .肝障 害が存在すると好中球の機能低下が起こり,さらに鉄 過剰状態になりやすい.本症例も病理所見からアル コール性肝炎に至っており,菌は感染・増殖しやすい 環境にあったと思われる.

壊死性筋膜炎の診断には

LRINEC(laboratory risk indicator for necrotizing fasciitis)score

が用いられ てきた.6点以上は壊死性筋膜炎の存在を示唆すると されており,豊田らは感度100%,特異度97%と報告し ている6).本症例では

LRINEC score

は11/13点であっ た.治療はデブリードマン,ときには切断などの外科 的治療が必要であるが,家族が外科的治療に積極的で はなく保存的に経過をみた.Vibrio vulnificusの壊死 性筋膜炎では第三世代セフェムとミノサイクリンの併 用,もしくはシ プ ロ フ ロ キ サ シ ン が 推 奨 さ れ て い る1)7).本症例で起炎菌が同定されたのは死後であっ た が,グ ラ ム 陰 性 桿 菌 が 認 め ら れ た 時 点 で

Vibrio

vulnificus

の感染を考えこれらの抗菌薬の投与をすべ

きであったと反省している.

病理組織学的には好中球の浸潤などの生体反応をほ とんど欠く高度の細菌感染が真皮〜皮下脂肪織にびま ん性に観察されることが多い8).本症例でも菌は真 皮〜筋肉内にかけてびまん性に分布しており好中球浸 潤は乏しく予後不良の一因と考えられる.

本症は極めて予後不良な疾患であり,予防を心掛け ることが重要になる.そのためには慢性肝疾患や免疫 能低下状態にある患者は生の魚介類の経口摂取を避 け,傷口を海水に触れないようにする必要がある.

おわりに

アルコール性肝障害のある患者が生の魚介類の摂取 により

Vibrio vulnificus

に感染し,壊死性筋膜炎に 至った1例を経験した.本症は稀であるが致死率が高

く,早期診断・早期治療が大切である.また一般臨床 医にとってはなじみの少ない疾患で今後さらなる啓蒙 が必要と思われる.

1)Bross MH, Soch K, Morales R, et al : Vibrio

vulnificus Infection : diagnosis and treatment.

Am Fam Physician

2007;76:539−44 2)古城八寿子:Vibrio vulnificus感染症の現状.

Derma

2006;114:7−12

3)松本浩一,冨田由紀子,三溝慎次,他:ビブリオ・

バルニフィカス感染症.化療の領域 2010;26:

217−26

4)Horseman MA, Surani S : A comprehensive re-

view of Vibrio vulnificus : an important cause of severe sepsis and skin and soft-tissue infection.

Int J Infect Dis

2011;15,e157−66

5)青木洋介,福岡麻美:ビブリオ・ブルニフィカス 重症感染症の臨床病態.化療の領域 2006;22:

365−71

6)豊田徳子,岩田洋平,臼田俊和,他:壊死性筋膜 炎の診断・予後評価に お け る

Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis(LRINEC)

score

の 有 効 性.日 皮 会 誌 2010;120:2407−

12

7)Chen SC, Lee YT, Tsai SJ, et al : Antibiotic

therapy for necrotizing fasciitis caused by Vibrio vulnificus : retrospective analysis of an

year period. J Antimicrob Chemother

2012;

67:488−93

8)堤 寛:壊死性感染症.「感染症病理アトラス」, 東京:文光堂 2000;p15−9

(5)

An Autopsy Case of Necrotizing Fasciitis Caused by Vibrio vulnificus

Takashi HIRAI

1)

, Yoshio URANO

1)

, Chihiro TANIGUCHI

1)

, Mio MACHIDA

1)

, Michiko YAMASHITA

2)

, Yoshiyuki FUJII

3)

1)Division of Dermatology, Tokushima Red Cross Hospital 2)Division of Clinical Laboratory, Tokushima Red Cross Hospital 3)Division of Pathology, Tokushima Red Cross Hospital

A man in his sixties was admitted to our hospital because he experienced pain in his legs for the past

days. He was previously diagnosed with alcoholic liver injury. He consumed sushi

or

days prior to the on- set of the pain and was conscious on admission. A physical examination revealed the following : blood pressure,

1/4

mmHg ; pulse,

beats per minute ; and temperature,

6.4℃. The patient experienced severe tenderness

in the lower areas of both his legs, which also appeared dark red. Purpura and blisters were observed on the right sole and the medial side of the left ankle, and a palpable pulse was present in both the poples. Laboratory data indicated disseminated intravascular coagulation and multiple organ failure associated with a markedly ele- vated blood level of creatine kinase. Computed tomography of his legs showed inflammation of the subcutaneous tissue and the fascia. Gram-negative bacilli, later identified as Vibrio vulnificus, were found in the blister fluid, and a diagnosis of necrotizing fasciitis was made. The patient died on the third day after admission. Autopsy examination revealed severe edema, thrombi, and necrosis in the dermis and subcutis of his sole. There were numerous Giemsa-positive bacteria in the dermis through the muscle with mild leukocyte infiltration. Pathological examination of the liver revealed chronic alcoholic hepatitis and a moderate deposition of iron. The pathology of the patient’s kidneys, lungs, and intestine were indicative of a very early stage of multiple organ failure resulting from necrotizing fasciitis.

Key words : necrotizing fasciitis, Vibrio vulnificus, alcoholic liver injury

Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal

8:66−70,2

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