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脳血管障害性痴呆と血圧・脈拍の概日リズムに関する研究

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原  著

〔書面蔑79第難,馨卿

脳血管障害性痴呆と血圧・脈拍の概日リズムに関する研究

東京女子医科大学 神経内科学教室(主任::丸山勝一教授)        ヤマ   ウチ    テル   オ

       山 内  照 夫

(受付 平成5年1,月6日) AStudy of Circadian Rhytllm in Cerebrovasc腿lar Disease with Demelltia        Ter“o YAMAUCHI Department of Neurology(Director:Prof..Shoichi MARUYAMA), Neurological Institute,        Tokyo Women’s Medical College   The purpose of this paper is to report the difference in the circadian rhythm(CR)of blood pressure and pulse rate between multiple cerebral infarction with dementia(MCID)and without dementia (MCI), using ambulatory blood pressure monitoring(ABPM).   The results:In MCI, the blood pressure was physiologically lower during the nighttime as well as in normal control, but in MCID was rather higher. Further, the biood pressure difference between daytime and nighttime was significantly correlative with HDS and MMS. The pulse rate was normal rhythm in both,   These results suggested that the abnormal rhythm of blood pressure was showed in MCI, and more frequently and more advanced in MCID。 The abnormal CR was caused by organized disorder of the cerebrum and obstruction from the time cue。 However, pulse rates were normal CR, suggesting that the difference between blood pressure and pulse rate may be caused by the strength of oscillator.   Asustained elevation of nighttlme blood pressure in MCID probably contributes to cerebral parenchymal disorder and is a risk factor in dementia. Our results suggested that圭t童s important to・ control night・time blood pressure.          緒  言  人口の高齢化に伴い増加しつつある痴呆老年者 では睡眠・覚醒リズム,体温リズム等各種の概日 リズム異常が報告されている1).痴呆患者にしぼ しぼみられる夜間せん妄や,日中の覚醒レベルの 低下などの背景には,睡眠・覚醒リズム,体温リ ズムの障害だけでなく他のさまざまな概日リズム. の障害があるものと推測されている2).

 これら痴呆疾患のなかでも多発梗塞性痴呆

(multi・infarct dementia:MID)は,脳血管障害 (cerebrovascular disease:CVD)により惹起さ れ,本邦においては最も高頻度にみられる二次性 の痴呆疾患であり,かつ危険因子をコントロール することで予防可能な疾患である.その危険因子 としては全身の低血圧がMIDの一因とする報告 もあり3),特にBinswanger typeの血管性痴呆で は,収縮期血圧の変動,あるいは一過性の低血圧 が原因とされており4)∼6),MIDにおける血圧・脈 拍の概日リズムの検討が必要と考えられる.しか しMIDにおける血圧・脈拍の概日リズムに関し てのまとまった報告は,著者が検索した限りでは 見あたらず,血圧・脈拍の概日リズムの異常が痴 呆の発症に関連するか,あるいは血圧・脈拍の概 日リズムのコントロールが痴呆の予防となりうる かどうかについては定説がない.このため,本研 究では,多発性脳梗塞患者を痴呆の有無で分類し, 非観血的携帯型自動血圧計(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)を用いて血圧・脈

(2)

拍の概日リズムの相違点を明らかにした.さらに 痴呆と血圧・脈拍の概日リズム異常の関与の程度, およびその対策につき若干の考察を加えた.         対象と方法  1.対象

 当科に入院し,頭部X線CTあるいは,頭部

MRIで白質や基底核に多発性の病巣を認めた年 齢52歳から89歳の多発性脳梗塞患者群(以下全 MCI群)64例で,その内訳は男性37例,女性27例, 平均年齢73.9±7.2歳である.この全MCI群を降 圧薬を服用していない群(26例,以下降圧薬非服 用全MCI群),降圧薬を服用している群(36例, 以下降圧薬服用全MCI群)に分け,さらにこの2 群をDSM・III Rにより,痴呆を伴う群(以下 MCID群)と伴わない群(以下MCI群)とに細分 化し,長谷川式簡易痴呆スケール(HDS), Mini・ Mental State(MMS)を用いて痴呆の程度を評価 した.降圧薬服用全MCI群はstage IあるいはII の軽症高血圧であり,主としてカルシウム拮抗薬 (nicardipine LA, nifedipine)で治療されていた.

全MCI群は初発症状出現時より1年以上経過し

た慢性期の症例で,日常生活の介助不用例である. なお心房細動などめ不整脈を有する症例は除外し た.  対照として当科に入院し,器質的脳疾患を有さ ない患者で,降圧薬を必要としないコントロール 群25例(男性10例,女性15例,46∼85歳,平均年 齢62.4±:10.9歳),降圧薬服用全MCI群の対照例 として,器質的脳疾患を有さない患者で,降圧薬 服用中の高血圧群25例(男性10例,女性15例, 52∼84歳,平均年齢64.1±7.2歳)を用いた.  2.方法  血圧測定は日本コーリン社製のABPM−630を 用い24時間にわたり装着し,30分間隔で血圧,お よび脈拍を測定した,解析には解析装置AA−200

を用いた.測定時のADLは特に制限を加えな

かった.  血圧,脈拍の概日リズムの検討は,2群間の比 較にはt検定,多感間の比較には一元配置分散分 析(ANOVA)を用い,夜間睡眠時,昼間覚醒時 の収縮期血圧,拡張期」血圧,脈拍,およびそれぞ れの昼夜較差につき検:期した.          結  果  図1はコントロール群25例,高血圧群25例の血 圧・脈拍の概日リズムである.図1両群ともに夜 間には血圧,脈拍の生理的低下がみられた.コン mmH9.beaおノmin 2◎0 100 0 コントロール群{n=25》 mmH9.beats/min 収縮期血圧 一 ・12=00    17:00     22:00      3=00       8:00      13:00 (時)

欄繧

。 高血圧群(n=25) 拡張期血圧 mmH9 脈拍 beats’mip 収縮期血圧 脈拍 拡張期血圧    収縮期血圧    拡張期血圧   艨@   お    Imea吐SD 覚醒時   睡眠時   全日  「 Pく0.01 「 准31.7±142    117,8土18.1   126.8土15.0  「Pく0.01−1 ア6.8土7.0     66.5±8.4      73.8±9、4  「PくO.01−1 79.4±7.6     64β±7,9 昼夜較差 15.0±192 11.O±10.3 74,(壮8.0    17.2±8.3  (陶置25) 〔mear辻SD) コントロール群の収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍の平均値 12:00      17:00 収下命 拡張期血圧 mmHg 脈拍 bea給1min 22:00 3;oo 覚醒時    睡眠時  「Pく0,01−1 137.0士10.5    124.4士15,8  「 Pく0.0で _.「 81.0±7.5     72,1±9,3  「一P(0・01「 79.6±10、1     65.㈱.7 8;oo 13;oo (時) 全日    昼夜較差 1324±11.4   15、3±17、8 78,1±7.2     9.3±8、5        74.脚.4     15.7±11.O         〔n冨25} (mea肚SD) 高血圧群の収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍の平均値 図1 コントロール群,高血圧群の血圧・脈拍の概日リズムと平均値

(3)

トロール群の覚醒時,睡眠時,全日の収縮期血圧 (SBP),拡張期1血圧(DBP),脈拍(PR)の平均 値,昼夜較差(w・s)では夜間睡眠時にはSBP, DBP, PRともに有意(p〈0,0i)な低下がみられ, 収縮期血圧の昼夜較差(SBPw−s)は15mm}lgで, 拡張期血圧の昼夜較差(DBPw−s)は11mmHg,脈 拍の昼夜較差(PRw−s)は17 beats/minであった. 高血圧群のSBP, DBP, PRのそれぞれの平均値, rhmH9、beatslmln 200 1◎o o 降圧薬非服用全MCI群{r28) 丁     毛  壬 収縮期血圧 mmH9,beats’min 200 脈拍    10Q 拡張期血圧 降圧薬服.用全MCI群 (n=36) o T TT T T Tτ丁 圭 収縮期血圧 脈括 拡張期血圧    ゆ コ    王mea・・S・ 13;00(時) 収縮期血圧 拡張期血圧  脈拍 12:00 17:00 収警響 拡張期血圧 mmH9  脈拍 6ea璽S/mh 22:00 3:00 8:00 覚醒時    睡眠時    全日  「  NS 一「 130.5土13,4    127.5士15.6   128.5±14,6  「  NS 一 74.4±8,1     70.5±9.9     71,4士8.1  「Pく0・01「 813土12.7   70.4±t4β 13;00 昼夜較差 4.2上14.8 3.9±10,1 77.4±12.7   12.7士14.2  〔n昌28} {mean土SD} 非服用全MC1群の収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍の平均値 図2 12:00     1ア=OO 燃禺圧 拡張賜血圧 mmHg  脈拍 bea捻1m}n 22:00 3:00 覚醒時    睡眠時  「  NS 一 1387士16,2    135.4f19.4  「  NS 一つ ア8.8±10、0    74.2土12.4  「一 PくO.OI一「 76.0±12、5    65,3±11.5 8;OO 全B    昼夜較差 136.7±17.4   45±18.4 ア5.4±10.9 げ 42±12.0 70.5土118   12,1±13.4  (n=361(mean±SD} 服用全Mα群の収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍の平均値 降圧薬非服用全MCI群,降圧薬服用全MCI群の血圧・脈拍の晦日リズムと平均値 病巣(個) 50 0

鄭昏夢

   厨夢

     矢三門

        騨幽

寮認 図3 病巣別にみた概日リズムの有無

(4)

および昼夜較差でも,夜間睡眠時にはコントロー ル群と同様に有意な(pく0.01)低下がみられた.

 図2は降圧薬非服用全MCI群28例,降圧薬服

用全MCI群36例の血圧・脈拍の概日リズムであ る.両群ともにコントロール群と異なり,夜間の 生理的なSBP, DBPの低下が欠如していた.しか しPRに限っては,夜間の生理的な低下が認めら れた.降圧薬非服用全MCI群のSBP, DBP, PR の平均値,昼夜較差では,SBP, DBPは睡眠時,

覚醒時の間に有意差がみられず,昼夜較差も

PRw−sの12.7beats/min以外は, SBPw・9は4 mmHg, DBPw−sは3.9mmHgと差がなかった. 降圧薬服用全MCI群の平均値でも,降圧薬非服 用全MCI群と同様, SBP, DBPは生理的低下が みられなかったが,PRに限っては夜間睡眠時の 生理的低下が認められた.  全MCI群を夜間血圧の生理的低下の有無で分 け,その病巣部位を比較検討したが,各病巣での 有意差は見られなかった(図3).  次に全MCI群をDSM−III Rによって,痴呆の 有無を判定した(表1).降圧薬非服用全MCI群 では痴呆を伴う群(降圧薬非服用MCID群)10例, 痴呆を伴わない群(降圧薬非服用MCI群)18例 で,HDS, MMSともに痴呆群が有意に低値であ り,DSM−IIIRとの相関が認められた.降圧薬服用

全MCI群では降圧薬服用MCID群13例,降圧薬

服用MCI群23例であり,こちらもHDS, MMSは 痴呆群で有意に低値であった.また降圧薬非服用 表1 DSM−III Rによる痴呆の判定  降圧薬非服用全MCI群(n=28) DSM・III Rによる @痴呆の有無 平均年齢 HDS

MMS

痴呆(有)10例 s呆(無)18例 76.1±6.4 V0.4±β.9 9.4±4.5 Q8.7±8.4ホ 11.4±4.1 Q6.4±9,7寧 降圧薬報用全MCI群(n=36) DSM−IH Rによる @痴呆の有無 平均年齢

HDS

MMS

痴呆(有) 13例 s呆(無)23例 78.4±8.4 V2.5±7.6 8.1±5.4 Q7.4±6.7* 9.7±5,6 Q6.7±10.8零 HDS:長谷川式簡易痴呆スケール, MMS:mini・mental state *p<0.01 mmHg 180 160 140 120 100 80 ◆ 収縮期血圧 「Pくα05「 降圧薬非服用MCI群 mmH9 120 100     

iドi〆

       60    ● b巳at5〆min 10 覚醒時    睡眠時   脈拍 「P《α01「 :

i卜i卜

   茎 50 ◆ 拡張期血圧 「PくOP5「 mmHg 1 1 :

iトビi

90 80 70 60 50 収縮期血圧 降圧薬服用MCI群 覚醒時   睡眠時 mmH9        10「P《。・05「

iドi卜;

   : 50 拡張期血圧 「Pく。価 ;

i卜

■ コ

ート

王一

{r旨18) 覚醒時    睡眠時 bea竃Slmin go ア。 60 50 40 覚醒時    睡眠時   脈拍’ ;rPくoρ1・「

i卜i卜

   E

覚醒時    睡眠時 王一D 〔n乏31 覚醒時   睡眠時 図4 降圧薬非服用,降圧薬服用MCI群の血圧・脈拍の比較

(5)

全MCI群と降圧薬服用全MCI群の比較では降

圧薬服用全MCI群のほうがHDS, MMSともに

三値を示した.

 図4は降圧薬非服用MCI群18例,降圧薬服用

MCI群23例について覚醒時,睡眠時の血圧・脈拍 の比較である.これら痴呆を伴わないMCI群で は1血圧,脈拍の全てに夜間睡眠時の有意な生理的 低下が認められた.  図5は降圧薬非服用MCID群10例,降圧薬服用 MCID群13例の覚醒時,睡眠時の比較である.こ

れらMCID群では, PRにのみMCI群と同様に

睡眠時の有意な生理的低下が認められたが, SBP, DBPについては睡眠時の生理的低下がな く覚醒時の値との間に有意差を認めなかった.  全MCI群で痴呆の程度と昼夜較差の相関を検 討した(図6,7).HDS, MMSともにSBP, DBP で有意な(pく0.05)正の相関がみられたが,PR では相関が認められなかった.  次にコントロール群,降圧薬非服用MCI群,降 圧薬非服用MCID群の3群問で覚醒時,睡眠時そ れぞれの比較検討を行った(図8).覚醒時の SBP, DBP, PRそれぞれに3群間で有意差を認め

なかったが,睡眠時はMCID群でSBP, DBPの

値が高く,夜間血圧の高値が認められた.また服

用群でも,夜間睡眠時において服用MCID群は

SBP, DBPの高値が認められた(表2).         考  案  本研究の結果をまとめると,生理的な夜間降圧 は収縮期血圧,拡張期血圧ともに,コントロール 群,MCI群でみられたが, MCID群ではみられず 十日リズムの異常があり1一方脈拍数の生理的な 夜間の低下はいずれにも認められた.またむしろ

MCID群では夜間の血圧の絶対値が認められて

いる.  1.多発梗塞性痴呆群にみられた血圧概日リズ ムの異常について  血圧の変動は普通,夜間睡眠中にもっとも低い 時期があり,昼間の覚醒時にその最高のピークが ある7).これらのリズムが生体固有のものか日常 活動に伴う二次的現象であるかについては議論が 多い8)9).しかし,通常の生活をする健常者では, ほぼ全例で年齢や日常生活能力にかかわらず日中 mmH9 170 160 150 墨40 130 120 110 収縮期血圧 「 隔 「

i  ●

i卜

降圧薬非服用MCID群 mmHg 100 90 be飢s’min 讐10 覚醒時    睡眠時   脈拍 「P‘0ゆ5−1 : 60 拡張期血圧 mmHg 「 NS 「    2。。        180       160 :  :

i卜i卜珊:1

3      ●     10 100 go 80 70 60 50 80 収縮期血圧 降圧薬服用MCID群 覚醒時    睡眠時 mmHg

1一

〔n=10)

rNS

G「  12。

;卜i卜l

i  :

覚醒時   睡眠時 40 拡張期血圧 「 NS 「 :

i捗卜・

■ bea重s/min ↑10 100 9G 80 70 60 覚醒時    睡眠時 50 覚醒時    睡眠時   脈拍 「P《。価「

iドi』野

   8

       覚醒時   睡眠時 図5 降圧薬非服用,降圧薬服用MCID群の血圧・脈拍の比較

(6)

(m血Hg) 50 20 斗 出1・ の 。 一10 収縮期血圧         P<0,05   y= 16404か039700x R−2置0415,       胴        鷹         ■  =          ■  賜         願    隔      匿      ロ   ロ             . 老 田  圏  ■ ■  ■■  .

闘 .’≡ゴ   ’

         ■   ■  ・ =昌 圏■ ■ 翼 ■    ■ (㎜Hg) ぞ ま 曽 2Q 10 o o 10 HDS20 脈拍 3Q(点)1 一1Q    拡張期血圧        P<0,05 y= 1.8973+0.20435x R−2=○.386 ・◆ C :◆◆◆ 、、 :◆:◆  ; ◆○◆ ◆ ○ ◆ (beatslmin) 30 ● 、 ♂◆◆嚢 、◆◆ち    ◆ 婁 臣 20 10 o ●         ∵.. ● o lo HDS20 30(点) HDS;長谷川式簡易痴呆スケール SBPw−s:収縮期珀1圧の覚醒時と睡眠時の差 DBPw−s:拡張期血圧の覚醒時と睡眠時の差 PRw−s:脈拍の覚醒時と睡眠時の差 o 10 20 3Q (点) HDS 図6 HDSと血圧・脈拍の相関 上昇,夜間睡眠中低下の日内変動がみられるので, なんらかの生体固有のリズムの存在が推測されて いるlo).夜間睡眠による降圧の機序については,血 中カテコラミン濃度と睡眠による血圧下降度の相 関など11)12)から,交感神経系の活動が深く関与し ていることが推察されている.  脳血管障害患者の血圧・脈拍の概日リズムにつ いてはいくつか検討がなされており,その多くは 著者の結果と同様に,夜間の生理的降圧の欠如を 認めるものが多い13)14).著者らはすでに慢性期多 発性脳梗塞患者の半数では収縮期血圧の夜間の低 下がみられず,昼夜逆転を認めたと報告した13).ま た急性期や皮質枝梗塞,脳幹障害,穿通枝多発梗 塞などで夜間の降圧が欠如したとする報告もあ る1伽4).穿通枝領域や脳幹部の多発梗塞には,前頭 前野,帯状回,弁蓋部皮質,基底核下部,視床下 部,視床髄板内核,橋延髄被蓋部などの自律神経 中枢やその関連線維が存在する.睡眠に伴う夜間 降圧が欠如するのは,これらの自律神経中枢が障 害されたためではないかと推察されている10).本 研究の多発性脳梗塞患者の血圧概日リズムの異常 も同様の機序によると考えられた.しかし本研究 では夜間の生理的降圧の有無と病巣部位との関係 は有意な相関を認めることはできなかった.本研 究では,対象が慢性期多発性脳梗塞患者であり, 一人の患者でも梗塞巣が多岐にわたり,概日リズ ム障害をきたしうる病変を特定することが困難な ためと考えられた.  さらに本研究では痴呆を伴う群では夜間降圧が 欠如していたが,痴呆を伴わない群では生理的な 夜間の降圧が認められた,TohgiらはBinswan−

ger型の血管性痴呆とABPMの関連につき報告

しており15),Binswanger型の血管性痴呆では夜 間の生理的降圧の欠如を認めている.つまり本研:

(7)

(㎜H9) 30 20 窪 ロ   鶉 。 一10  収縮期血圧        P<{〕.05 y=2.1538+Q58306x R陶2=0.邸9         6         冒       6  .圏       ■ 「       コ     ■■    ■回■   匿  ■   墨 ■ コ        ■ ■ . ■  雷       コ   田        ■■ =・   ■■      .  圃 窪 亀 (mmHg) 20 1o o o 10 M謡s 3Q(点) 一10    拡張期血圧        P<0.05 y=2069Q+020224x R四2=0340         .: ○◆  ◆◆ ◆ ◆: ◆◆○ ;  ◆◆◆  ◆; ゆ         ゆ         ◆◆ ◆:◆    ◆◆ . : ◆ ◆   ◆   ◆ (beats!min) 雲 臣 50 2Q 10 O ● ●3 ●●● 脈拍 ●:.. ● ● ● ● ・     ・33 く・:、:・威  ●● 。 3     ●  ● ● ● o 1D 20

MMS

3Q(点) MMS:mini−mental state SBPw−s:収縮期血圧の覚醒時と睡眠時の差 DBPw−s=拡張期血圧の覚醒時と睡眠時の差 PRw−s:脈拍の覚醒時と睡眠時の差 O 10 M謡s 30 (点) 図7 MMSと血圧・脈拍の相関 究を含め,血圧概日リズ4の異常は脳血管障害患 者でもみられるものの,痴呆を合併した患者では さらに高率に,そして高度に血圧概日リズムの異 常がみられると考えられる.またこのことはAlz− heimer型痴呆でも認められることが報告されて いる16).痴呆患者でみられる血圧概日リズムの異 常の原因については以下のように考えられる.  ヒトの睡眠・覚醒,自律神経活動,内分泌活動 などの生体リズムは,約25時間を周期として変動 する17).この「生体時計」の中枢調節は,ラットで は視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nuc− lei:SCN)に存在することが判っているが18>,ヒ トにおいてはSCNの機能的役割が明らかではな く,SCNを含めた視床下部あるいは脳幹にも同様 の作用があると考えられている19).高齢者やAlz−

heimer型痴呆ではこのSCNに器質的変化がみ

られることが報告されており20),概日リズム障害 との関連性が示唆されている.多発性脳梗塞患者 で痴呆を伴う群は,伴わない群に比べ,脳梗塞の 重症度が高いと考えられ,SCNを含めた病変の器 質的障害が疑われる.  また生体リズムを24時間に同調させるための外 界からの刺激を同調因子と呼び,昼夜の外界の明 暗の変化,温度や音の変化,食事の時刻,社会活 動とそれに伴う他者との接触などがある2).事実, 睡眠・覚醒リズムに異常がみられる老年期痴呆患 者に光療法あるいは時間療法を試みることによ り,睡眠・覚醒リズムの改善を認めることが報告 されており2)17),同調因子の重要性が示されてい る.痴呆患者は,前述の器質的障害に加え,さま ざまな認知障害や見当識障害,視力や聴力などの 感覚機構の障害などのために,これらの同調因子

(8)

(覚醒時〉 rnmHg 180 160 140 120 100 収縮期血圧 ■

i卜

睾 ◆ NS

i卜

■ ○ 巳 騒 mmHg 100 go 80

i卜㌦

60 00hレ。「 MCI MαD 50 ● 8 ● 8 8   馨

1一

拡張期血圧 NS 3

i卜

8 ■ ≡T,鰯.5 1土 ◎on廿01 ㎜ MαD bgatゴmin 110 100 go 80 70 60 50 : : 毒 懸 8 ● ●

王 

脈拍 ○ ■ ◆ ◆ ◆ ◎ ○ ◆ ◆ ○ ◆ ◆ NS

1一

腫 願 ■ ■ ■ コ 8 ● 85.0士13.3

王…・

c㎝な01 MCl MC11) (夜間睡眠時)       旧mH9 1 霊6 1 12 100 80 ● o ● o ■ ● ● ●        収縮期血圧 「一一一P《。・。5− rNS rrPψ・。5「

卜・

■ う

i卜

● ■

i}一

● mmHg 100 90 80 70 60 50 co而ol MC【 MCID 40        拡張期血圧 一P‘o・。5一一一

rNSrrPψ・05「

         ■      ■ ● 3

i卜・

● ◆ ゆ 8 ◆ ◆ ○ ◆ 0 3 ● ●          ■          ■ 6酬1.8巴          ● / 8 co伽1 Mα MGD 脈拍 beat膨胃1in 110 100 90 80 70 60 50 40 ●   馨 繹 § ●

「一

DNS一一

u

{6 9 ◆ ○ ○ ◆ ■ ◆ の 9 : ◆ 66.9士16.3 昌 ● ● ● ● ● 曝 ■

王…・

oonb◎1 図8 コント   時の比較 MCl MαD ロール群,降圧薬非服用MCI群,降圧薬非服用MCID群の覚醒時,睡眠

(9)

表2 (コントロール群,降圧薬非服用MCI群, MCID群)と(高血圧群,降圧薬服用MCI群,

 MCID群)の覚醒時,睡眠時の比較

comro僻,降圧薬非服用MCI群.降圧薬非服用MCID群 高血圧群、降圧薬服用MCI群、 降圧渠服用MCID群

(覚醒時) (覚醒時)

comroL 非服用MCI   非服用MC王D 高血圧群 服用MCI 服用MCID

収縮期血圧 NS 一一一一一一一一1 収縮期血圧 NS mmHg 13t7±像4.2 卑29.7±14.9    133,4士11.1 mmHg 137.0±10.5 141,0±12,4 137.6±17,2 拡張期血圧

NS 蜥「

拡張期血圧

一一

NS’

一一

mmHg 76.8±7.0 73.4±9,0      75.5±6,5 mmHg 81.0±7.5 81.寸±82 78,9±13,4 脈拍

r一

NS 一「

脈拍 NS

一一

beatslmin 79,4±7.6 79,0±122     85.0±13,3 beatslmin 79,6±10.1 75.4±9.1 80.6±14,4 (睡眠時) (睡眠時)

OD就ro1 非服用MCI    非服用MCID 高血圧群 服用MCI 服用MCID

PくO.05脚一一「 Pく0.05 収縮期血圧

一NS

rrP・0・05一「

収縮期血圧

一NS

一「 一 Pく0・05一

u

mmHg 117.8±18,1 117.8±18,0    133.8±1t7 mmHg 122.4±寸5.8 131,4±15,4 139.3±26.6 拡張期血圧 「一一一一一==㎜ Pく0.05 一一一__「 u一  NS  一  「一一 Pく0・05 一一一1 拡張期血圧 「一一一一一==一一一一  Pく0,05 一一一一一一一_____「

u一 NS 一一

Pく0・05一 mmHg 66.5之a4 67.5±11.8      75,5±6.8 mmHg 72.1±9.3 73.1±9.8 76.0±14.5 脈拍 NS 一一一「 脈拍 NS beats/min 64.6±7.9 66,9±163     70.1±127 beats!min 65.9±9.7 62.9±9.3 69.1±14.2 (mean±SD} の影響を充分に受け取ることができない状態にあ る2).このため外界からの同調因子による生体リ ズム形成が障害され,痴呆患者では高率にかつ高 度に概日リズムが消失すると考えられる.特に血 圧は比較的同調因子の影響を受け易いため,痴呆 患者では血圧概日リズムに異常をきたす率も高い と考えられた.  2.脈拍の概日リズムについて  脈拍は多発脳梗塞性痴呆患者でも正常の概日リ ズムを示し,すべての群で異常はみられなかった. 他の報告でも著者の結果と同様に脈拍については 正常の概日リズムを示すものが多い10)13)15).この 理由については明らかではない.しかし前述した ように概日リズムを支配する生体時計には少なく とも二つの振動子(oscillator)があると考えられ ている2).一つぼ体温,REM睡眠,メラトニン分 泌などのリズムを支配する強い振動子(strong oscillator)であり,もう一つは睡眠・覚醒リズム などを支配する弱い振動子(理eak oscillator)で ある.健常人では強弱二つのoscillatorの相互作 用により種々の概日リズムが発現されている.こ こでstrong oscillatorの周期は環境刺激等の同 調因子の影響を受けにくい19)とされている.痴呆 患者では同調因子からの遮断が概日リズム異常の 原因と考えられることから脈拍の十日リズムは血 圧の概日リズムよりもstrong oscillatorにより 支配されていると推測された.またoscillatorと 自律神経系との関連については,weak oscillator は交感神経系と,strong oscillatorは副交感神経 系とそれぞれ相関が高いと考えられ,脈拍が副交 感神経系とより強く相関し,生命維持機構として の長期安定性を保つと考えられる.  3.夜間血圧の高値について  本研究では多発脳梗塞性痴呆では夜間の血圧の 絶対値がコントロール群に比べ有意に高値を示し た.脳梗塞患者の夜間血圧が高値を示すことにつ いて,脳循環障害に対する予防的な反応の可能性 もあるとの指摘もある14).しかしShimadaらは,’ 無症候性脳梗塞患者にABPMを装着した結果,

夜間血圧が高値の症例に頭部MRIで1acuner

(10)

infarctionが多くみられたと報告している21). TohgiらはBinswanger型痴呆では,夜間の持続 的な血圧の上昇が,脳実質や各種臓器障害の血管 病因と関連があると推測している15).  以前より脳血管性痴呆の危険因子としては高血 圧に加え,過度の降圧療法が痴呆を顕在化あるい は悪化させる危険性が指摘されている22)23). Mayerらは高血圧を伴う多発梗塞性痴呆患者に 降圧療法を行い,収縮期血圧を135から150mmHg に維持した症例では痴呆症状は改善ないし不変で あるが,このレベル以下に低下した例では症状の 悪化を認めたと報告しているが23),これは随時血 圧を用いた検討であり,ABPMについては検討さ れていない.

 一般的に健常者のABPMによる血圧の平均値

は驚く程低い24).明らかな基準はないが,ABPM で昼間の収縮期1血圧の平均値が140mmHgを超え ているならぽ降圧療法の必要な高血圧と判断すべ き24)とする報告もある.このため本研究での痴呆 患者にみられた夜間の130mmHg前後の収縮期血 圧はかなり高値と考えられ,Tohgiら15), Shimada ら21)の報告および本研究も含め,夜間の血圧の持 続的高値が多発性脳梗塞患者の脳実質障害を増悪 させ,痴呆を進行させる危険因子となっていると 推測され,夜間高血圧に対する適切な降圧療法が 望まれる.降圧作用が優れ,副作用が少なく,か つ脳循環を低下させない降圧薬が望ましいが,こ の条件を満足させてくれる治療薬はカルシウム拮 抗薬,ACE阻害薬,α遮断薬等の適量が有用と考 えられる25)が,全身的な動脈硬化所見を合わせ持 つ多発梗塞性痴呆患者に対してどのような降圧計 画と主要臓器の血流量維持を計るかという点につ いては今後さらに検討を続けるべき重要な課題と 考えられる.          結  語  多発脳梗塞患者を痴呆の有無により分類し,そ れぞれにABPMを装着した. MCI群では正常の 血圧・脈拍の概日リズムを認めたが,MCID群で は有意に夜間の生理的血圧の低下が欠如してお り,さらに夜間高血圧がみられた.MCID群では 器質的脳障害に加え,同調因子からの遮断が概日 リズムに異常をきたす有力な原因と考えられた. しかし脈拍については正常の動天リズムがみられ た.これはoscillatorの強度の違いによると考え られた.MCID群にみられた夜間血圧の高値は痴 呆の危険因子となりうる可能性が示唆された.  稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました 神経内科主任:丸山勝一教授ならびに竹宮敏子教授に 深謝申し上げます.          文  献  1)大川匡子,三島和夫,菱川泰夫ほか:痴呆老年者   の睡眠・覚醒リズム.臨床脳波 30:646−650,1988  2)三島和夫,大川匡子:痴呆老年者の睡眠・覚醒リ   ズム障害に対する時間療法,こころの臨床ア・ラ・   カルト 12:41−44,1989  3)Sulkava R, Erkinjuntti T: Vascular   dementia due to cardiac arrhythmias and sys−   temic hypotenslon. Acta Neurol Scand 76:   123−128, 1987  4)Caplan LR, Schoene W:Clinical features of   subcortical arteriosclerotic  encephalopathy   (Binswanger’s disease). Neurology 28:   1206−1215, 1978  5) Rosenberg GA, Kor皿fe獲d M, Stovring J et al:   Subcortical arteriosclerotic encephalopathy   (Binswanger):Computerized tomography,   Neurology 29:1102−1106,1979  6)McQuinn BA,0’正eary DH:White matter   lucencies on computed tomography, subacute   arteriosclerotic encephalopathy(Binswanger’s   disease), and blood pressure. Stroke 18:   900−905, 1987  7)川村浩:サーカディアンリズムと血圧日内変   動:総論.神経内科34:231−238,1991  8)Mmar・Craig MW, B三shop CN, Raftery B:   Circadian variation孟n blood pressure. Lancet   2:795−797, 1987  9)Uttler WA, Watson RDS:Circadian rhythm   in blood pressure. Lancet 1:995−997,1987  10)山本康正,秋ロー郎:脳血管障害と血圧日内変動.   神経内科 34:246−254,1991 11)Umemura S, Tochikubo O, Noda K et al:   Change in bloob pressure and plasma norepine−   phrin during sleep in essential hypertension.   Jpn Circ J 51 :1250−1255, 1987 12)Watson RDS, Hamilton CA, Rgid JL et al:   Changes in plasma norepinephrine, b}ood pres−   sure and heart rate during physical activity in   hypertensive man. Hypertension 1:342−346,

(11)

   1979 13)三浦庸子,山.内照夫,杉下裕子ほか:慢性期多発    脳梗塞患老の血圧日内変動.自律神経28:    287−290, 1991 14).須貝二郎:脳血管障害における血圧日内変動ξ).意    義 日医新報 3476:25−28,1990 15)Tohgi H, Chiba K, Kimura M:Twentyfour−    hour variation of blood pressure invascular    dementia of the Binswanger type. Stroke 22:    603−608, 1991 16)大塚篤弘,三上 洋,片平克俊ほか:アルツハイ    マー型痴呆老年者における血圧日内変動の検討.    老年医学 27:570−572,1990 17)穂積 彗,堀  浩,.大川匡子ほか:老年期痴呆    の生体リズムと光療法.Demntia 4:333−342,    1990 18)Ibuka N, Kawamura H:Loss of circadian    sleep−wakefulness cycle in the rats after supra−    chiasmatic nucleus lesions. Brain Res 96:    76−81, 1975 19)三島和夫,大川匡子,菱川.泰夫:高度照度および    ビタミンB、2による生体リズム障害の治療.    Mebio 8:100−105,1991 20)Swaab DF, Fliers E, Patriman TS:The su−    prachiasmatic nucleus in the human brain in    relation to sex, age an.d senile dement圭a. Braih    Res 342:37−44,1985 21)Shim.ada K, Kawamoto A, Matsubayashi K et    al: Silent cerebrovascular diseas〔} in the    elderly. Correlation with ambulatory pressure.    Hypertension 16:592−699, 1990 22)Barbara A:White matter lucencies on    computed tomography subacute arteriQscler.    otic encephalopaty(Binswanger’s didease), and    blood pressure. Stroke 18:900−905, 1987 23)Meyer JS:Imbroved cognition after control    of risk factors for multiinfarct dementia.    JAMA 2203:256−260,1986 24)今井 潤,阿部圭志:血圧の24時間モニター一そ    の標準値は? 循環科学 11:140−144,而1991 25)藤島正敏:合併症を伴う場合の高血圧治療(1)    脳卒中.臨床科学 28:41−46,1992

参照

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