• 検索結果がありません。

高齢社会を支える介護人材リスクの研究 : 介護職員を中心とした介護従事者の現状と今後

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "高齢社会を支える介護人材リスクの研究 : 介護職員を中心とした介護従事者の現状と今後"

Copied!
204
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

博士学位論文

高齢社会を支える介護人材

リスクの研究

介護職員を中心とした介護従事者の現状と今後

2014 年 7 月

滋賀大学大学院経済学研究科

経済経営リスク専攻

今井 久人

研究指導教員 北村 裕明

研究指導教員 梅澤 直樹

研究指導教員 澤木 聖子

(2)

目次

序 章 研究の背景と本論文の目的及び構成 ... 1 1 研究の背景... 1 2 研究の目的と方法 ... 4 3 先行研究 ... 4 4 本論文の構成 ... 8 第1章 介護従事者の確保の歴史的考察 ... 10 1 いま介護従事者が求められる背景 ... 10 2 ゴールドプラン以前の介護従事者(前史) ... 14 3 ゴールドプラン以降の介護従事者 ... 18 4 ゴールドプランの意味と成果 ... 23 5 介護保険制度施行以降の介護従事者 ... 24 小括 ... 31 第2章 介護従事者の定着における諸条件の一考察 ... 33 ~各事業者アンケート分析から~ ... 33 1 調査研究の背景 ... 35 2 介護保険事業者の離職・採用状況に関する調査研究 ... 36 3 介護保険事業者の離職・採用状況に関する自由記述からの検討 ... 47 4 介護保険事業者のアンケート結果からの比較 ... 55 小括 ... 56 第3章 ホームヘルパーの雇用環境と訪問介護事業者 ... 58 ~事業者アンケート分析から~ ... 58 1 分析の視点および方法 ... 58 2 自由記述にみる職員定着への工夫や条件 ... 63 小括 ... 68 第4章 介護従事者の労働環境にみる離職に関する調査 ... 70 ~介護労働者のアンケート分析から~ ... 70 1 介護従事者の労働環境にみる離職に関する調査の概要 ... 70 1

(3)

2 2 介護従事者の労働環境にみる離職に関する調査の結果と考察 ... 72 3 介護従事者の職場環境等にみる離職との相関 ... 81 小括 ... 88 第5章 介護報酬の改定にみる介護従事者確保策に関する現状と課題 ... 90 1 介護保険の状況と介護報酬 ... 90 2 2003(平成 15)年の介護報酬改定 ... 92 3 2006(平成 18)年の介護報酬改定 ... 98 4 2009(平成 21)年の介護報酬改定 ... 102 5 2012(平成 24)年の介護報酬改定 ... 106 小括 ... 112 第6章 介護従事者処遇状況調査にみる福祉人材の確保への課題 ... 114 1 介護従事者処遇改善等調査の概要 ... 115 2 介護従事者処遇改善等調査の調査結果 ... 119 小括 ... 128 第7章 介護施設経営の経営指標にみる処遇等の問題 ... 129 1 特別養護老人ホームの経営指標 ... 129 2 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の経営実態 ... 132 3 先進的な取り組みを実践している社会福祉法人の経営の実態 ... 138 4 零細な社会福祉法人のかかえる課題 ... 144 小括 ... 148 終 章 「介護の社会化」を支えるために ... 150 1 各章の分析の要点 ... 150 2 介護職員の社会的評価をあげるために ... 153 3「介護の社会化」を支えるために ... 155 参考文献 ... 158 資 料 アンケート調査票 ... 172 謝 辞 ... 201

(4)

章 研究の背景と本論文の目的及び構成

研究の背景 世界でもっとも早いスピードで高齢社会1を迎えている我が国において、年金・医療・介 護に関わる社会保障を今後もいかに持続可能性のあるものにしていくかが喫緊の課題とな っている。 高齢者の介護は、1989(平成元)年の高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)2 以前の措置の時代にはサービスの対象が限定されていたことから、介護はほとんどが「私 事」であり、家族の中で、家族・身内の問題として自己完結の形で解決されてきた。しか し、核家族化の進展やライフスタイルの変化、地域の連帯感の希薄化、社会における家族 観や介護観の変容等により、家庭内介護力が弱体化してきた。ゴールドプランの終期であ る 1999(平成 11)年までの移行期には高齢者介護が「私事」から「社会化」3へと方向転換 し、後述する 2000(平成 12)年の介護保険制度以降、高齢者介護は一部で養護老人ホーム の措置を残す以外「社会化」への方向へと向かっている。本論文の「社会化」とは、下山 (2001)が指摘しているように要介護高齢者の「身体的介護」を子どもや家族の「私的介 護」から「社会的介護」へ基軸を移す第一義的な責任主体を変更し、高齢者介護が今後社 1内閣府(2012b)『平成 24 年版 高齢社会白書』によれば世界保健機関 (WHO) の定義では、65 歳以上の 人のことを高齢者としている。総人口に占める 65 歳以上人口の比率を高齢化率という。この高齢化率が 7%になると「高齢化社会」、14%になると「高齢社会」、21%になると「超高齢社会」と定義されてい る。日本では 1970 年に高齢化社会となり、1995 年に高齢社会となり、2007 年には超高齢社会となってい る。この間のスピードが欧米先進諸国と比べて最も早く世界で一番早く高齢の国となっている。2014 年 の総務省の人口推計ではすでに 24.1%となっており、2025 年には 30%を超えるとされており、高齢化の スピードに加えて高齢化率の高さも世界で一番といわれている。 2 政府の高齢者対策として 1988(昭和 63)年のいわゆる福祉ビジョン(長寿・福祉社会を実現するため の施策の基本的考え方と目標について)を受け、その展開として 1989(平成元)年、厚生、大蔵、自治 三大臣の合意により、「福祉ビジョン」で示した水準を大幅に上回る今後 10 年間の目標(主な例:ホー ムヘルパー10 万人、デイサービス1万カ所、ショートステイ5万床)を設定したもの。 3 社会福祉用語辞典(2000)では従来、食事や入浴・排泄等の日常生活の動作が自分の力だけではできな い要介護状態にある高齢者や障害者の世話は、主に家族がになってきた。しかし、長寿化や慢性病の増 加、中途障害者の増加等による要介護者の増加と介護期間の長期化、単身世帯の増加、世帯員数の減少 や家族介護者の高齢化による家族介護力の低下等から、家族のみの介護は限界に来ている。そのため、 社会サービスとして介護が求められるようになってきた。このように家族の役割が社会的機能としての 介護サービスに外部化している。下山(2001)は介護の社会化の意味するところは要介護高齢者の身体的 介護を、子ども家族の私的介護を基軸にしたシステムから社会的介護を基軸にしたシステムへとその第 一義的な責任主体を変更することである。それは個人の私的な生活領域での活動あるいは役割遂行とさ れていた介護を、社会的な領域において責任を担うことを意味している。介護の社会化とは、高齢者介 護が社会的介護を中心に再編成されることであり、あくまで責任主体の基軸の変更であるとしている。 下山以外にも村田(2012)は家庭内・家族が担ってきた介護についてこれからは広く社会共通の課題とし て認識し、実際の介護を担う社会資源(サービス)を税と保険料を中心に拠出された財源によって社会全 体が担っていくものというのが行政の見解であると紹介している。 1

(5)

的介護を中心に再編成されることである。さらに介護の「社会化」といったときに「心理 的な介護」は家族の果たすべき役割が大きく、介護の「社会化」への移行は身体的な介護 を中心に行われることになる。今日では高齢者の介護、特に身体的な介護は家族等の自己 完結ではなく、「社会化」つまり介護の専門家に任せる、いや任せざるを得ないというこ とになっているのである。 この「社会化」の具体的な施策として、わが国では高齢社会における高齢者の介護問題 に備え、2000(平成 12)年に介護保険制度を創設した。高齢者介護を国民すべての共通の 問題として、介護に関わる負担と給付を明確にし、国民連帯のもと保険制度によりその対 応に備えたのである。 制度施行後 15 年近くを経過した介護保険制度のこれまでの成果を簡単に振り返ると 2010(平成 22)年5月に国民から以下のようないくつかの評価4がなされている。 まず①約5割の人が家族の負担が軽くなったと実感している。一方で2割の人は家族の 負担が軽くなったとは思っていない。②約3割の人がサービスの質が良くなったと実感し ている。一方で約1割の人がサービスの質が良くなったとは思っていない。③約5割の人 がサービスや事業者を選択しやすくなったと実感する一方で、約1割は選択しやすくなっ たとは思っていない。④約3割が在宅生活を維持できるようになったと感じている。一方 で約2割の人はそうは思っていない。⑤約3割の人が仕事を続けることができるようにな ったと感じている。一方で約2割の人がそうは思っていない。⑥約6割の人が保険料や利 用料などの負担が増えたと感じている。一方で約1割の人がそうは思っていない、など概 ね肯定的な意見が多い。 また改善を望む声として、複数回答であるが「介護人材の確保のため賃金アップなど処 遇改善を図るべき」が 71.0%、「施設待機解消のために施設整備を促進してほしい」が 52.0%、「認知症対応のサービスを充実してほしい」が 51.1%、「夜間を含めた 24 時間 対応の在宅サービスを充実してほしい」が 46.3%など、これらが改善すべき項目として上 位にあがっている。 またこの調査に先立つ介護保険制度の評価5として樋口(2004)は 7 つの効果を上げてい る。①世間体をはばからずサービスの利用抵抗がなくなったという心のバリアフリー効果。 4厚生労働省(2010d)「介護保険制度に関する国民の皆さまからのご意見募集の結果概要」老健局総務課、 回答総数 4,465 件、サービス利用本人 270 人(6.0%)、利用者家族 1,440 人(32.3%)、介護従事者・ 事業者 1,853 人(41.5%)、地方自治体職員 208(4.7%)。 2

(6)

②密室化しやすい家庭の中に光が当たったサーチライト効果。③介護保険のサービスを使 うことでその結果がどう変化したのかを同じ基準で追跡、確認できるエビデンス効果。④ サービスの供給市場と雇用市場拡大のマーケット効果。⑤保険者である自治体と被保険者 である住民との協働がみられるパートナーシップ効果。⑥保険の外で老いを支える活動が 全国的に広がるネットワーク効果。⑦退職者などが意識的に参加するまちづくり効果、な どを挙げている。また介護保険制度のおかげでホームヘルパーが誇れる仕事になったこと を強調している。その一方で介護労働者が「社会の嫁」6にならないように、高齢者の生活 の伴走者として働く仕事にふさわしい待遇・報酬を設定できるかを課題として提起してい る。 これらの評価にもあるように介護従事者7の確保・定着及び処遇等の改善は介護保険制度 以前からの課題であったが、今日でも十分な介護従事者の供給体制が整っているとは言い 難い現状がある。具体的には介護の根幹である人、つまり福祉サービスを担う人材、介護 従事者の不足から介護従事者の確保・育成がいつも懸念されているのである。 看護や介護は機械やロボット等8でのその多くは代替がきかず、古来より人的な看護、介 護が行われている。また将来も人的なサービス需要が増えこそすれ、極端に減ることは考 えられない。このように高齢社会の進展に伴い介護を要する人は今後も増え続け、その専 門的な担い手である介護従事者はますます必要とされている。 厚生労働省としても、介護保険創設以前の措置の時代からすでに福祉に関する人材確保 は長年問題としてきたところであり、1990(平成2)年8月には厚生事務次官を本部長と する「保健医療・福祉マンパワー対策本部」を設置し、翌 1991(平成3)年3月に「中間 報告」を出している。さらに 1993(平成5)年4月には、いわゆる福祉人材確保法9に基 づき「社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針」を示す 5樋口恵子(2004)「介護保険の成果とこれからの問題点」第 9 回国際社会福祉セミナー(ソウル)講演 録。 6樋口恵子は介護保険以前は「年寄りの面倒は家族がみた、嫁がみた」という一局集中の現状から介護保 険後の担い手は「嫁」が完全になくなったとしている。一方でその肩代わりを待遇の低い介護職が行って おり、その介護職の離職の多さから介護者が幸せでなければ要介護の高齢者が幸せになれるはずがない と介護職の賃金意に月3万円の上乗せを時の厚労大臣の舛添に提言している。(2007 年 9 月)。 7介護従事者とは介護職員はじめ施設長、看護師、支援相談員、理学療法士、作業療法士、介護支援専門 員など介護に携わるその他の職種の総称である。 8平成 25 年の政府の成長戦略にもロボット介護機器開発 5 か年戦略が盛り込まれているが、製品が複雑化、 高額化してまだまた使いにくいものとなっている。また「人手による介護が良い介護」という越えがたい 福祉サービス提供側の壁があり、現実にはかなり難しい状況である。 9厚生省(1992)「社会福祉事業法及び社会福祉施設職員退職手当共済法の一部を改正する法律」平成4 年社会福祉法改正法律第 81 号。 3

(7)

など、早くから対策を講じている。その後も、福祉の人材確保に関して様々な指針や施策 を打っているが、20 年以上を経過した現在でもまだまだ解決していない課題である。 特に介護の「社会化」を支える介護保険制度は、将来さらに増える高齢者介護に対応す る有効な手段として期待されているが、その制度を担う介護人材の不足が大きな課題とな っている。近い将来においては「介護の担い手がいない」という介護労働者の不足状態が、 さらに社会保障のリスク分散機能の機能不全を引き起こし、国民全体のリスクの一つとな る可能性を持っているのである。 2 3 研究の目的と方法 本研究では、高齢期の介護における社会保障のリスクに視点をおく。特に今日、高齢者 の介護を担うべき介護従事者の量的不足により、高齢者介護が機能不全に陥りつつある。 従って高齢者の介護分野で働く介護従事者の現状等を考察しながら、その問題について解 決すべき課題を明らかにし、介護従事者の確保・定着のための処遇改善策等の方策を検討 し、高齢者介護リスク回避の一助とすることを目的とする。 研究の方法として、まず介護の専門性を歴史的な制度展開の中から検討し、社会的評価 の問題を中心に説明する。次いで介護職員の置かれている状況を施設や事業所調査から、 給与等の待遇を中心に処遇面での評価、職員の離職、定着面など雇用者側としての問題を 明らかにしていく。その一方で介護の担い手である介護職員のアンケート調査等をもとに、 その働く動機ややりがい、その他、介護職員の希望、要望等、介護の担い手の視点から問 題を明らかにしていく。さらに政策面から処遇改善のための交付金や介護報酬改定などの 介護職員に対する処遇改善施策を評価し、政府の施策の面から問題を明らかにしていく。 また社会福祉法人の経営状況を概観した上で、社会福祉施設等のヒアリングから現状にお ける社会福祉法人等の抱える問題を明らかにしながら、介護従事者の確保・定着に資する 条件等を明らかにしていく。 このように介護人材の確保、定着というリスクに対しては基本的に賃金という要素も大 きいが、単一的ではない他の社会的要素も総合的に絡み合っていることを明らかにする。 先行研究 近年の研究の中で、介護従事者の確保策や離職に関する先行研究では、西川(2009)が 「介護労働者の確保・定着に向けて」において、2007(平成 19)年度介護労働実態調査デ 4

(8)

ータをもとに因子分析を行い、介護従事者の職業選択の理由により以下の3つのように離 職に対する意識の違いを指摘している。「働きがいのある仕事だと思った」や「人や社会 の役に立ちたい」など内的要因を理由にあげるものはできるだけ長く働きたいことを示唆 した。「資格・技能が活かせる」や「今後もニーズが高まる仕事である」などの外的要因 をあげるものは、中期的な展望を持つ傾向がある。「自分や家族の都合の良い時間に働け る」や「介護の知識や技能が身につく」などの家庭要因をあげるものは、短期的な継続意 志を持つ傾向がある。さらに労働時間や経営方針・管理のあり方に対する不満は女性より 男性が強く、かつ非生計維持者より生計維持者において強い傾向が見られた。また、経営 課題と介護職の定着では、「経営者・管理者と職員間のコミュニケーション不足」や「管 理者の指導・管理能力の不足」が大きな因子であることを指摘している。 花岡(2009)によれば、「介護労働者の離職:他職種との賃金格差が離職に与える影響」 において、2007(平成 19)年度介護労働実態調査データをもとに他職種(介護サービス職 以外)と比較した結果、介護従事者の賃金率が高いほど介護従事者の離職率は低下するこ とが示されている。さらに花岡(2011)の「介護労働者の離職要因」では、介護従事者の 賃金が勤続年数の離職に与える影響について言及している。結論として、男性従事者は収 入の少なさ、女性では時間的、肉体的負担を転職の主な理由とし、施設系正規職について は、労働者の市場賃金と比較した場合の相対賃金が高いほど、勤続1年未満の離職者を低 下させる有意な影響が認められ、勤続1年以上3年未満の離職者へ与える影響は認められ なかったことを明らかにしている。つまり、賃金を上げる場合、勤続1年目の賃金を上げ たほうが、1年以上3年未満の職員の賃金を上げるよりも定着促進につながる可能性があ ることが導出された。 周(2009)は、「介護職員不足問題の経済分析」において、介護職員10の労働力不足の 問題として以下の二つが大きいと指摘している、一つは低賃金と労働力不足が併存する「買 手独占仮説」から、事業者側が賃金率や雇用量の決定に対する市場支配力を持ちやすいこ と。二つ目は介護サービス市場における事業所の参入と退場が市場メカニズム通りに行わ れていないということである。つまり経営の合理化と効率化の取り組みが遅れて、「市場 賃金」以下の賃金しか提示できない不採算事業所が少なくない「不採算事業所残存説」、 10介護職員とは介護や家事を中心に直接介護により支援を行う従事者のことであり、訪問介護員(ホーム ヘルパー)も含む。 5

(9)

その他有効求人倍率と失業率が 2003(平成 15)年以降回復している「外部市場ショック説」、 さらに 2006(平成 18)年以降の「政策ショック」の4つを提示している。特に「外部市場 ショック説」では、介護人材が簡単に転職できるような労働市場で、より高い賃金を支払 わないと、人材を引き止めにくいとしている。また 2006(平成 18)年を含む二度の介護報 酬引き下げという「政策ショック」では、介護報酬の改定に際して安定的な人材の確保と いう点を考慮して、下げ(上げ)幅をより慎重に検討すべきとしている。 堀田(2012)は、「介護労働市場の現状と課題―採用・離職と過不足感をめぐって」に おいて、2011(平成 23)年度介護労働実態調査の事業所調査結果をもとに全産業と比較し た介護関係職種の有効求人倍率と失業率は、経済情勢の影響を大きく受けていることを明 らかにしている。また、この1年間での訪問介護員や介護職員の離職率については、「離 職率 0-10%未満」の事業所が多く、5割から7割近くを占めている。一方で「離職率 30% 以上」の事業所も2-3割を占めているというように、2極化していることを明らかにし ている。 大和・立福(2013)の「介護老人福祉施設における介護職員の離職要因」では、2006(平 成 18)年度事業所における介護労働実態調査データをもとに賃金と教育・研修の関係を分 析し、花岡の研究結果とは異なり、賃金は離職率に直接影響を与えていないことを示した。 むしろ教育・研修に力を注ぐことが介護職の定着促進に役立つと指摘している。 その他、山田・石井(2009)は「介護労働者の賃金決定要因と離職意向」として、総務 省の「就業構造基本調査(2002.2007 年)」の個票データをもとに他産業・他職種から見た 介護労働者の特徴から、賃金と離職の関係を明らかにしている。全産業で 2002 年から 2007 年の賃金下落のその中で介護従事者の賃金水準は全産業に比較して決して低いとは言えな い、むしろ中間より上位に位置していることを明らかにしている。しかしながら、就業継 続意思に注目すると、多くの年齢階級で産業平均と同程度の水準に達した。特に男性 30 代以上の施設系介護労働者において転職希望割合は急上昇しており、介護職への賃金抑制 はすでにかなりの危険水域に達しているとし、男性介護従事者へは賃金の引き上げは離職 防止に効果があると示している。一方、女性介護従事者へは、収入より時間的、肉体的疲 労の軽減を図る職務配置や勤務時間体制についての工夫が必要であることを導いた。 6

(10)

また茅野(2003)は「社会福祉基礎構造改革11下における介護労働者の賃金についての 一考察」の中で、賃金の増減は介護の質と量に流動的な変化を起こす主要因であることか ら、介護保険下では公的賃金として非貨幣的な「人間的利益」を過度に求めず、介護従事 者の生活のところまで遡って介護報酬を決定させる必要があると明言している。 このように介護従事者にとり、賃金が離職抑制にはたらく大きな要因であることは否定 できない。しかし一方で、賃金以外の要素を重視する研究もある。 またこれらの先行研究の中には、調査年度は異なるものの財団法人介護労働安定センター12の「事 業所における介護労働実態調査」や「介護労働者の就業実態と就業意識調査」などのデー タをもとに分析をしているものが多い。 そこで本論文では、2章で述べる先行研究とは異なり、筆者が調査分析に関与した同時 期の他団体が実施した「介護事業者実態調査」等のデータを踏まえて、賃金と介護労働者 の確保・定着等に関してさらに分析を進めた。また介護従事者の賃金の原資は介護報酬に 大きく影響されるため、厚生労働省の政策面からも分析を進めた。さらに、賃金以外の働 く動機ややりがい、その他職場の人間関係などの職場環境についても離職抑制の効果は大 きいと考えられるため、これらの要素についても検討を進めた。 そして将来の社会保障の大きなリスクとなる介護の担い手である介護従事者、とりわけ 介護職員の確保、育成に関わる諸問題を明らかにするとともに、これまでの人材確保、処 遇改善等の施策を評価し、来るべき超高齢社会における介護職員の確保、定着、育成とい う視点から、社会保障の介護従事者不足という人的リスクに対して解決策の提言を試みる ものである。 11厚生省監修(1999a)『平成 11 年版 厚生白書』によれば、社会福祉基礎構造改革は、1951(昭和 26) 年から約 50 年近く大きな改正が行われていない社会福祉事業法の社会福祉事業、社会福祉法人、措置制 度などを見直すことを目的にし、厚生省では 1997(平成9)年から、有識者からなる「社会福祉事業等 の在り方に関する検討会」を開催し社会福祉の基礎構造について幅広く議論を進めてきたものである。そ の検討会でまとめられた論点を参考として同年 11 月から中央社会福祉審議会に設置された社会福祉基礎 構造改革分科会において活発な議論が行なわれ 1998(平成 10)年に中間報告が取りまとめられた。その 内容は個人が尊厳を持ってその人らしい自立した生活を送れるよう支えるという社会福祉の理念に基づ いて(1)個人の自立を基本とし、その選択を尊重した制度の確立、(2)質の高い福祉サービスの拡充、 (3)地域での生活を総合的に支援するための地域福祉の充実を改革の具体的な内容としている。 12平成 4 年に設立され、わが国の高齢社会の進展に伴う介護労働力の需要増大に対処し、介護労働者の雇 用管理の改善、能力の開発・向上、その他の福祉の向上を図るための総合的支援機関として「介護労働者 法」の指定法人となっている。 7

(11)

4 本論文の構成13 本論文は図表1のように9章から構成される。 まず序章では、前述のように研究の背景とその目的など、本研究における問題意識や方 法を明らかにし、論文の構成について述べる。次いで第1章では、介護従事者の確保にお ける歴史的変遷について、ホームヘルパーを中心に制度の展開を踏まえて説明し、社会的 評価が今日までなぜ得られないのか、その理由を歴史的な流れから検討する。次に第2章 では、訪問介護事業者、居宅介護支援事業者、介護福祉施設及び介護老人福祉施設など介 護事業者を対象としたアンケート調査により、それぞれの介護事業者の介護職員の確保・ 定着等の課題や工夫などを事業者ごとの比較から現状を明らかにする。第3章では、第2 章で分析した事業所の中でも離職割合が高いと言われている訪問介護事業者に焦点を当て、 特に自由記述の回答からそこにある諸課題を明らかにしている。第4章では、さらに介護 の担い手である介護職員(施設)のアンケート調査結果を通じ、離職における意向から離 職の促進要因や抑制要因を各項目の相関から明らかにしている。第5章では、国の施策と してこれまで行われてきた数回の介護報酬改定の変遷を整理し、介護給付費部会等の審議 会資料を中心に介護報酬の改定が介護職員の処遇改善へ与える波及効果などを確認してい る。第6章では、国の施策としての3年間制度化された介護職員処遇改善交付金を中心に、 その効果に着目した介護職員処遇改善調査の結果と比較しながら、その政策の評価を行っ ている。第7章では、全国でも先進的な経営を行っている大規模法人の経営者からのヒア リングをもとに、社会福祉法人の将来の経営のあるべき姿や、一方で社会福祉法人の約半 数を占める零細な法人の抱える問題を示している。終章では、これまで見てきた介護職員 の確保・定着に必要な条件等を提示し、介護の「社会化」を将来も担い支える介護人材の 確保・定着の機能不全というリスク回避のための提言をもってまとめとしている。 13各章と筆者による既発表論文との関係は次のとおりである。第1章の「介護従事者の確保の歴史的考察」 は、今井久人(2008)「福祉マンパワーの確保における歴史的考察」『びわこ経済論集』滋賀大学大学院 経済経営研究会 第7巻1号 71-84 頁を加筆訂正した。第 2 章の「介護従事者の定着における諸条件の一 考察~各事業者アンケート分析」は、今井久人(2008)「福祉人材の定着における諸条件の一考察-事業 者アンケートから-」『びわこ経済論集』滋賀大学大学院経済経営研究会 第 8 巻1号 11-23 頁を加筆訂 正した。第3章の「ホームヘルパーの雇用環境と訪問介護事業者~事業者アンケート分析から~」は、→ 今井久人(2010)「ホームヘルパーの雇用環境と訪問介護-事業者アンケート分析より-」『国際公共経 済研究』国際公共経済学会 第 21 号 24-33 頁を基礎に加筆修正した。なお、この論文は国際公共経済学 会の 2009 年度奨励賞を受賞している。 8

(12)

図表 1 論文構成 序章 研究の背景と本論文の目的及び構成 1 章 介護従事者の確保における歴史的考察 4章 介護従事者の労働環境にみる離 職に関する調査 (施設 職員の定着) 2章 介護従事者の定着における諸条件 3章 ホームヘルパーの雇用環境と訪問 介護事業者 (事業者・ヘルパー) 第5章 介護報酬の改定にみる介護従事者確保策に関する現状と課題 7章 介護施設経営の経営にみる処遇等の工夫と課題 (普遍性、独自性) 終章 「介護の社会化」を支えるために (制度支援、社会福祉法人等の経営努力 国民的支援) 第6章 介護従事者処遇調査結果にみる福祉人材の確保への課題 出所:筆者作成。 9

(13)

第1章 介護従事者の確保の歴史的考察

本章では、今後ますます進展する「高齢化」にともない、さらに需要が増大する高齢者 介護を担う介護従事者の確保をいかに進めるべきか、その対策を戦後の高齢者施策の変遷 を制度の展開を通じ、介護従事者の成り立ちとその社会的評価を歴史的な視点から考察を 進める。 本章の構成は以下の5つからなっている。 第1節は介護従事者が求められる背景として、介護従事者の実態等を概観している。 第2節は高齢者介護の世界で出現するホームヘルパーの成り立ちからゴールドプランま で、その変遷の中から底流に流れる介護従事者の課題を抽出している。第3節はゴールド プラン以降から介護保険制度導入まで、措置制度下での基盤整備を進めた高齢者サービス の展開と、それに従事する介護従事者の現状から人材の確保策を概観している。第4節で は、ゴールドプランの成果について触れている。 第5節は、介護保険制度施行から現在まで、介護従事者における介護職の勤務形態や給 与などの処遇や労働実態から、賃金を含めた介護職の労働実態を一般企業の労働実態など と比較しながら、介護職の労働意欲や労働条件等の現状と課題を明らかにしている。 1 いま介護従事者が求められる背景 (1)高齢者介護分野の介護従事者の実態 まず介護従事者の確保定着等の問題は各章で詳細に分析するが、その前に、高齢者介護 の実態について整理していくこととする。 1)ホームヘルパー ホームヘルパー(以下ヘルパー)をみると、ヘルパーは高齢者が今の生活を維持・継続 するために必要な日常の世話を中心に生活・身体介助を主として行う業種である。その特 徴は支援を必要とする要支援者・要介護者の自宅を訪問し、支援を必要とする高齢者へ生 活を支えるサービスを提供するものである。ホームヘルプサービスのほとんどは個別対応 であるといえる。具体的には利用者の住まいや心身の状況という利用者の条件に応じて 様々なサービスを提供する。その条件は、戸建てか集合住宅か、平屋か複数階か、広いか 狭いか、トイレは和式か洋式か、寝室はベッドか畳か、排泄は自立か、一部介助か、全面 介助か、食事は自立か、一部介助か、全面介助か、着替えは、移動は、歩行は、入浴は、 10

(14)

コミュニケーションはどうかなど、多岐にわたって確認を要される。つまり、訪問先にお いて、介護のための諸条件はほとんど同じケースはないといっても過言ではない。したが って、介護技術を統一した程度のマニュアルでは対応できないことが多く、狭い台所で限 られた調理器や食材で作る料理の上手、下手なども含め、個人の経験から積みあがったス キルによるところが大きく、これらのスキルはヘルパーその人の属人的な要素に規定され る面が強い。 また、サービスの提供が家屋内、居室内で行われるため、密室化しやすく、介助の実態 を家族はじめ周辺の者が見る機会が少なく、周りの者はサービスの内容を客観的に評価で きない。このことはサービス提供側の従事者にとって自分のスキルや心配りなど行き届い たサービスを提供してもなかなか評価されないこととなる。同居家族がホームヘルプサー ビスを依頼する場合、多くはヘルパーの傍にいて仕事ぶりをつぶさに見ていることは少な い。多くの場合、同居者や家族は自分ができないからこそヘルパーに世話をお願いするの であって、ほとんどがお任せである。利用者家族とヘルパーとのコミュニケーションは、 連絡ノートなどで介護者ニーズの確認や提供したサービス内容の報告や利用者の状態など をお互いがとっていることが多い。コミュニケーションが取れない利用者にあっては、そ の日にどんなサービスを受けたかも家族等に伝えることができず、サービス内容に関して 感謝も苦情も家族等に言えず、良くも悪くも密室のなかでのやり取りが行われている。つ まり密室がそのものの問題ということではなく、ヘルパーの仕事内容の困難さや専門性に 裏付けられた高いスキルなどは、国民一般に知られることが少なく、その仕事の困難性を なかなか理解してもらえない状況にある。そのことは、ヘルパーの仕事は、家事好きの主 婦が家事の延長でできる程度という短絡的な評価につながることもある。事実、介護の専 門性やスキルの質は、ヘルパー個人の資質によるところが多く、一人のカリスマヘルパー がいても、そのことが訪問介護事業所全体の質の評価にはつながらない。まして介護福祉 士という資格があり、一定の知識や介護技術のレベルを担保しても、個々人のヘルパーの サービスの質の保証まではできないというところが現実である。 2)施設の介護職員 同様に施設の介護職員の実態をみると、施設の職員は訪問介護のヘルパーとは異なり、 施設という条件のもとでサービスを行っている。ヘルパーのように各家庭の条件に合わせ た介護ではなく、同じトイレ、同じ風呂、同じ食堂、同じ居室など、入所者の状態像はそ 11

(15)

れぞれ異なっていても施設という同一の場所でサービス提供を行うため、介護のマニュア ル化が進めやすい。食事でも調理部門が給食を作るため、利用者への仕事は配膳と食事を 介助するだけで良い。入浴も大きな浴槽で機械などを使って数人で安全に入れることがで きる。トイレも介助がしやすい構造になっている。ただ 365 日、24 時間の連続介護のため、 夜勤は避けられず、さらに早番、遅番など変則勤務が通常となる。さらに事故予防の記録 や介護保険請求等の書類の作成など介護以外の事務的な仕事も多く、毎日が忙しくいつも 追われた状態にある。多くの老人福祉施設では利用者2人に対して平均介護職員1人とい うように、人員配置の実態は法定の配置基準14より手厚く配置してあるが、勤務体制のシ フトの都合からいつも人手不足気味である。また、経営者側もキャリア・アップの仕組み を整備し、モチベーションを高く従事してもらおうと考えてはいるが、施設などでは従事 者の上昇志向はあまり強くはない。そもそも施設内ではポストが少なく、大まかには介護 職員、リーダー、主任、事務長、施設長という階層で縦列が短く文鎮型のフラットな組織 である。さらに介護従事者の最終目標は施設長でも理事長でもないことが多い。多くは介 護の職場経験を積み、最終的にケアマネジャーを目指すものが多い。 また従来から景気が後退すると人材の流動化15が叫ばれ、介護分野への人材の流入があ たかも簡単に言われるが、介護という仕事はそれほど誰でもができる仕事ではない。昨日 まで機械相手に車の組み立てに従事していた職工が、職業訓練をしたからといって今日か ら人相手の介護へというわけにはなかなかいかないのが現実である。 その大きな理由の一つとして、介護の世界は女性の多い職場であることが挙げられる。 介護施設の入所者、訪問介護の利用者の多くは女性16 である。サービスを受ける人の7割 が女性であるところに同性介護の問題がある。高齢期の女性とはいえ、入浴や排せつなど で男性の介護を拒む人も多い。また夜勤も男性だけでシフトを組むことも難しく、移乗や 体位変換など力仕事での男性介護の必要性はあるが、同性介護を考えると男性にとっての 職場としてはかなり難しい現状がある。実際に施設の従業員の男女比率は男性 25~30%に 対し、女性が 70~75%のところがほとんどを占めている。つまり介護の世界では利用者の 14厚生省(1999b)「介護保険法の指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成 11 年 3 月 31 日厚生省令第 39 号)では介護職員及び看護職員の総数は、常勤換算方法で、入所者の数が三又 はその端数を増すごとに一以上とすることと定めてあり、常勤換算で入所者 3 人対介護職員 1 人となる。 15 2009(平成 21)年 12 月鳩山内閣が閣議決定した「新成長戦略」では 2020 年までに医療・介護・健康 関連サービス分野で雇用の創出を新規雇用約 280 万人と推定している。 16厚生労働省(2012a)『平成 24 年版厚生労働白書』によると介護保険認定者の割合は男性 28.4%、女性 71.36%である。 12

(16)

多くが女性であり、その世話をする介護従事者の多くも女性であり、その処遇も女性の賃 金体系として一般企業より低く抑えられているという現実がある。 (2)高齢化の進展と介護従事者数 近年、わが国では人口の高齢化の進展に伴い高齢者人口の増加が著しく、世界でも最も 早いスピードで短期間の間に高齢社会を迎えている。高齢化の問題は、生産人口の減少を 意味し、経済を中心とした国力の低下をもたらし、その反面で年金、医療、介護の社会保 障費の増加から若い世代への負担を余儀なくさせるという今後の日本にとって大きなリス クをもたらしている。 総務省のデータ17によれば、65 歳以上の高齢者人口は 1979(昭和 54)年に 1,031 万人と 1,000 万人を超え、1998(平成 10)年には 2,051 万人、2012(平成 24)年には 3,074 万人と 総人口の 24.1%と国民の4人に1人は 65 歳以上の高齢者が占めるまで増えている。 さらに今後は総人口の長期減少過程に入り、ますます高齢化率が高まる傾向がある。内 閣府の報告18によれば、団塊の世代が 75 歳になる 2025(平成 37)年の高齢者人口は 3,657 万人、高齢化率 30.3%と国民のほぼ3人に1人が高齢者になると推計されている。 もっとも短絡的に高齢社会を負の要素ととらえるのではなく、医療や介護の必要のない 元気な高齢者が多く存在し、実質的な医療費や介護費が増えないよう疾病予防、介護予防 に関する施策が効果を上げれば、将来はあまり悲観的なものではなくなるであろう。 また国においても、1996 年(平成 8)年の高齢社会対策大綱19をはじめ各省庁が長年さ まざまな対策を講じているところである。しかしながら、現在でも平均寿命20 が男女とも 80 歳前後の高齢社会において、様々な施策を講じても将来はさらに医療、介護の需要は増 え続けるものと推計されている。 特に介護の面では、加齢とともに介護を必要とする人が増え、特に 75 歳以上では介護保 険の認定率を見ても、2012(平成 24)年の全国平均では 31.1%21の認定率である。単純に 2012(平成 24)年度の 75 歳以上人口 1,519 万人で推計すると 472 万人の介護需要が生じる 17総務省統計局「人口推計」 2012(平成 24)年 9 月 15 日現在推計。 18内閣府(2012b)『平成 24 年版高齢社会白書』。 19高齢社会対策基本法第6条の規定に基づき、政府が推進すべき基本的かつ総合的な高齢社会対策の指 針。 20厚生労働省(2012n)「平成 23 年簡易生命表」統計情報部によれば男性 79.44 歳、女性 85.90 歳である。 21厚生労働省(2013a)「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議」資料 115 頁(平成 24 年 10 月分事 業報告)老健局 平成 25 年 3 月 11 日。 13

(17)

こととなる。さらに 2025(平成 37)年の 75 歳以上人口は推計 2,179 万人であり、単純に 現在の認定率を当てはめると 678 万人の介護需要が生じると推計される。 2010(平成 22)年度調査22では、これらの需要を満たす担い手である介護従事者 223.1 万人のうち介護職員は 133.4 万人いる。介護職員は 2000(平成 12)年の介護保険制度の創 設以降、大幅に増加しており、2000(平成 12)年の約 55 万人から 2010(平成 22)年の 133.4 万人まで倍以上順調に増えている。しかし同調査によれば団塊の世代が 75 歳になる 2025 (平成 37)年には介護職員は 230~240 万人程度必要と推計されており、今後 10 年間に約 100 万人の人材を確保する必要がある。 2 ゴールドプラン以前の介護従事者(前史) (1)介護とは 介護とはなにか。介護という言葉は看護に比べて比較的新しい言葉と言われている。 この言葉が社会的に広く使われるようになったのは 1963(昭和 38)年の老人福祉法制定で あるといわれている。渋谷(2012)によれば、「この時、特別養護老人ホームが規定され、 入居者の世話の担い手とされたのが、これまで養護老人ホームで世話をしてきた寮母とい う従事者であった。資格を持たない寮母の業務を介護と命名した」と通説を紹介している。 また、金井(1998)によれば、「老人福祉法制定当時、寮母の職務を看護と区別するため に介助の「介」と看護の「護」を組み合わせた言葉と言われている」と定義されている。 さらに金井によれば、もともとナイチンゲール時代には同根であった看護が、傷病者を対 象とする医療的ケアと人間の生活の自立を助ける福祉的ケアに別れ、今日では利用者の生 活の自立や自己実現を支援する活動や家庭内で行われてきた「家庭内看護」といわれてき た行為も、すべて介護といわれるようになったと紹介している。本来、看護も介護も社会 化が進み専門性を求められるところであるが、介護の方は寮母の成り立ちや後述するホー ムヘルパーの成り立ちから、その社会的評価は低く処遇等の改善も長年の課題となって今 日に至っている。 (2)戦後の社会福祉職員政策 戦後の社会福祉政策は生活保護法 1950(昭和 25)年と児童福祉法 1947(昭和 22)年に 代表されるように、戦後の困窮と戦争孤児などの対策をもってはじまる。 22厚生労働省(2010e)「平成 22 年介護サービス施設・事業所調査結果の概況」。 14

(18)

児童福祉法を受け 1948(昭和 23)年の児童福祉施設最低基準により、施設では寮母や児 童指導員などの配置が定められた。さらに 1950(昭和 25)年には、「社会福祉主事の設置 に関する法律」が定められ、社会福祉主事資格認定講習会が実施されている。 しかしながら、まだ戦後の復興の力はまだ弱く、従って社会福祉の財政基盤も当然なが ら脆弱であった。その分、介護従事者の待遇は極めて悪く、その勤務条件などの改善は全 国福祉大会などで常に要望されていた。1953(昭和 28)年にはその待遇改善を目指して、日 本社会事業職員組合が結成され労働条件の改善を要求しているが、この時期でも養護施設 において労働基準法違反の摘発が行われたほど、労働条件はまだまだ劣悪であった。その 後、社会介護従事者に関する近代化は労働基準法適用によって始まったといわれている 1961(昭和 36)年の労働省通達においても、社会福祉施設は八時間労働制の適用除外事業 所とされ、待遇の改善は進まなかった。 (3)ホームヘルパー(家庭奉仕員)の誕生 介護の担い手としての「家庭奉仕員(ホームヘルパー)」の誕生には、1954(昭和 29) 年、当時、長野県厚生課長であった原崎秀夫が、欧米における社会福祉状況を視察したと きに、イギリスのホームヘルプサービスをみてヒントを得たと言われている23 その後、長野県では 1956(昭和 31)年度の新規事業の「家庭養護婦派遣制度」として補 助金を交付し、県下の市町村に告示したことにより制度として始まる。同県上田市では、 1953(昭和 28)年に社会福祉協議会が創設されたが、市民の間で社会福祉協議会の役割は まだ十分に理解されていなかった。市で住民ニーズを調査した結果、主婦が病気や出産で 家庭内のことができないとき、主婦に変わって家政婦を派遣して欲しという要望が上がっ た。ちょうど県の告示を受けたところであったので、1956(昭和 31)年に長野県上田市で 「家庭養護婦派遣制度」が始まり、ここにホームヘルパーが誕生する。 続いて 1958(昭和 33)年大阪市において、民生委員制度創設 40 周年記念行事として「臨 時家政婦派遣制度」が始まり、要保護の高齢者世帯に臨時家政婦(後に家庭奉仕員と改称) を派遣した。その後、家庭奉仕員制度は各自治体でも広がり成果を上げていった。それら の動きから国は全国への老人世帯を対象とした家庭奉仕事業の普及を進めるため 1962(昭 23明山和夫・野川照夫(1973)「老人家庭奉仕員制度-その沿革と現状」『ジュリスト』No.543 有斐閣。 15

(19)

和 37)年から補助金の交付を始めている。そして 1963(昭和 38)年の「老人福祉法」24 の制定に伴い、「家庭奉仕員派遣事業」として法制化25された。ホームヘルパーは、選任 において具体的な資格要件はなく、心身共に健康で、老人福祉に関し理解と熱意をもち、 家事・介護の経験と相談・助言の能力を有するものとされている。この点において、最初 から専門性を問わず主婦の参加を念頭に置いたものと推察される。 家庭奉仕員派遣事業の開始当初、派遣対象は限られており、「老衰、心身の障害、傷病 等の理由により日常生活を営むのに支障がある老人の属する家庭であって、その家族が老 人の養護を行えないような身体的、精神的状況にある場合とする26」というきわめて限定 的な規定であった。 もっとも、当時の世相では私的養護の観点からもホームヘルプサービスの利用申請は少 なく、まだまだ限定的な制度であった。制度開始の運営要項に定められている主なサービ ス内容は、①食事の世話、衣類の洗濯・補修、住居の掃除・整理整頓、身の回りの世話、 買い物・通院の介助などの家事、介護に関すること。②生活・身上についての助言・相談 に関すること、というように家事サービスと人間関係の構築に大別されている。特に高齢 者の孤独を解決するため、②の相談・助言に重きを置くような仕事として期待されていた。 その援助の回数は、基本的に1世帯あたり週2回程度(1回約2時間)とされていた。 (4)高齢化社会 1970 年代当時のホームヘルパーの現状 家庭奉仕員制度が開始されてから約 10 年後の 1973(昭和 48)年は、「福祉元年」と言 われ、老人医療の無料化に代表される老人福祉が本格的に施策として進められた。 1972(昭和 47)年の経済企画庁の『年次世界経済報告(経済白書』によると、この時期、 世界中で福祉志向が強まったとしている。経済成長を福祉の達成手段として位置づけ、戦 後の福祉政策は完全雇用政策であったが、その政策がほぼ達成できたこの時期に社会保障 政策を積極的に打ち出している。このころは、経済成長を促進し、成果を再配分するとい 241963(昭和 38)年に制定された「老人福祉法」は、老人福祉に関する諸施策を体系的に整備補充し、老 人福祉の向上をめざしたものである。しかし、その制度の恩恵を受ける人は低所得者や身寄りのない人に 限定されていた。福祉が措置制度によって行われていた時代は、その他の多くの人々にとって介護はまだ まだ家族の支援を中心とした自助であり、家庭内の個人の問題とされた私事であった。特に犠牲になって いたのは性的役割分業としての妻、嫁、娘である。介護施設でも「寮母」と呼ばれ、奉仕やボランティア 精神を持った家族の代りとして無資格で誰でもできる仕事として位置づけられたのである。 25当初は全国一律に実施するため国の機関委任事務とする方向であったが、大蔵省や自治省との折衝の結 果、市町村の固有の事務として社会福祉協議会等に委託できるよう規定された。 26厚生省(1966)『老人福祉関係法令通知集』社会局老人福祉課監修 全国社会福祉協議会、1965(昭和 40)年社老 70 号「老人福祉法による老人家庭奉仕事業の実施について」運営要綱。 16

(20)

う仕組みで国民生活は豊かになってきたが、一方で公害や都市の過密、自然破壊といった 現象を引き起こし、人間を取り巻く環境を悪化させてきた。この反省から国は成長パター ンを転換し、資源配分の重点を国民福祉の向上に振り向け、人間尊重の「福祉」を生活の 全面に押し出し、本格的に福祉政策を進めることを年次世界経済報告にあげている。 この当時の資料27によると、全国 3,287 市町村のうち家庭奉仕員制度を実施しているの は 2,721 市町村(82.8%)であった。1974(昭和 49)年9月時点ではホームヘルパー数は 6,110 人であった。ホームヘルパーの常勤職員の月額手当は、市町村職員で 32,860 円、社 会福祉協議会職員で 32,827 円であった(国の基準では 45,000 円)。この時期、単純平均 すれば1市町村ごとのホームヘルパーは2人に満たないというような状況であった。この ような状況は、ゴールドプランが出される 1989(平成元)年ごろまであまり大きな変化を みることなく続いてきた。 また、当時のホームヘルパー団体の意見書にはホームヘルパーの職務でもっとやりがい があり、かつもっとも困難なことは、「対象者の悩みを肌で感じとり、援助に何が必要で、 何を解決しなければならないかを見つけ出すことである」と紹介されている。特に家政婦 と同じようにみられることをもっとも嫌う。このような背景から人間関係を含め、その後 の研修や教育で知識や意識を高めるために講習会を開くことも希望している28など、この 当時でもホームヘルパーの向上心は旺盛であることが伺える。 さらに明山、野川(1973)によるホームヘルパーへのアンケート調査29からホームヘル パー像をみると、以下のような実態が示されている。 年齢構成では、全体的に「40 歳代」がもっとも多く 40.1%を占めている。次いで「50 歳代」が 33.2%、「30 歳代」が 16.9%と 40 歳以上が全体の 80%以上を占めている。 ホームヘルパーになった主たる動機をみると、「社会的に意義があるので」がもっとも 多く 60.9%を占めている。次いで「勤務に自由がきくので」が 15.6%であった。 資格の保有状況の有無をみると、保健婦や看護婦など「何らかの資格を持っている」と いう人は 24.2%であり、大半の 75.8%の人は何の資格も持っていない。 ホームヘルパー1 人あたりの担当世帯数は、「6~10 世帯」がもっとも多く 57.5%であ った。また、1週間の訪問回数は「2回」がもっとも多く 44.4%、次いで「1回」が 31.3% 27明山和夫・野川照夫(1973)「老人家庭奉仕員制度-その沿革と現状」『ジュリスト』No.543 有斐閣 103 頁。 28明山和夫・野川照夫 同上 107 頁。 29明山和夫・野川照夫 同上 103 頁。 17

(21)

となっている。その対象世帯は、「ひとり暮らし世帯」が 43.6%、「同居家族のある世帯」 が 56.4%であった。 その他、制度改革に関する要望事項の意見として、①1年更新で身分が不安定であるた めの身分の確立(保障)、待遇の改善。②年に2~4回程度の研修会30を開いて資質の向 上、知識、技能を高めるよう研修会を充実して欲しいなどである。 このように今から約 40 年以上前の状況であるが、雇用契約が1年の更新制で身分が不安 定でること、安い手当、資格に裏付けされる専門性がないこと、家政婦と同じようなイメ ージで社会的評価が低いことなど、現在でも課題として挙げられるような項目がこの頃か ら出ていることは注目に値する。 その後、介護従事者の社会的評価の向上のために、1987(昭和 62)年5月に「社会福祉 士及び介護福祉士法」が制定された(1988 年4月施行)。このことにより、これまで非専 門職の従事者でよかった家庭奉仕員(ホームヘルパー)や施設の寮母・寮父などのケアワ ーカーを、専門性に裏づけられた国家資格の専門職として制度づけた意味は大きいといえ る。 3 ゴールドプラン以降の介護従事者 (1)ゴールドプランと市町村老人保健福祉計画 まだバブルの終焉を迎える前の 1989(平成元)年 12 月に、「高齢者保健医療福祉推進 10 か年戦略(以下、ゴールドプラン)」が打ち出された。このゴールドプランは、21 世紀 の「高齢社会」に対応するため当時の厚生・大蔵・自治三大臣の合意のもとに打ち出され た 1999(平成 11)年度までの今後 10 年間の保健福祉に関する基盤整備を目標として数値 化されたものである。 ゴールドプランは、当時、保健福祉分野では珍しく単年度ではない長期計画であり、ま さに 10 年間の財政的裏付けのある画期的なものとして評価された。内容もホームヘルパー、 デイサービス、ショートステイの在宅三本柱を中心に毎年の基盤整備の数値目標を示し、 その達成を進めていくものであった。同時に老人保健施設や特別養護老人ホームのベッド 数なども目標数値として提示され、高齢者福祉の基盤整備に拍車がかかったものである。 30厚生省(1971)『老人福祉関係法令通知集』社会局老人福祉課監修 全国社会福祉協議会によれば昭和 45 年の社老第 77 号局長通知に家庭奉仕員の採用時においては新任者研修を実施するよう指示がある。 18

(22)

その目標達成のために、住民に最も身近な市町村において、高齢者等の需要にきめ細か く対応し、在宅、施設を通じた福祉サービスを一元的かつ計画的に実施できるよう、1990 (平成2)年6月には老人福祉法等福祉関係八法の改正31を行い法制度の整備を行った。 この改正を受けた老人福祉法や老人保健法により、1993(平成5)年から 1994(平成6) 年にかけて、全国の自治体で「老人保健福祉計画」の策定が義務づけられた。いわゆる市 町村版ゴールドプランの策定である。この時期、一斉に全国の自治体で 1999(平成 11)年 を目標にした老人保健福祉計画が策定され、ホームヘルパーの必要人数やデイサービスの 設置数、ショートステイのベッド数、特別養護老人ホームや老人保健施設の必要ベッド数 など保健福祉の基盤整備目標が設定され、その達成に向けて邁進することになるのである。 この計画の策定過程においては、都道府県から策定マニュアルによる参酌すべき標準の 提示やその標準に従うよう指導が強かったため、実態より理想的な推計値が参酌され、そ れぞれの数値が水増し気味に設定されたきらいがある。その計画の全国の集計結果が、ゴ ールドプランの目標を大きく上回る新ゴールドプランの数値となって 1994(平成6)年 12 月に発表されたのである。 例えば 10 万人が目標であったホームヘルパーは 17 万人、1 万か所が目標であったデイ サービスが 1.7 万か所、5万床が目標であったショートステイは6万床、施設関係でも 24 万床が目標であった特別養護老人ホームが 29 万床と大幅に増えたのである。 (2)介護従事者の養成・確保 1989(平成元)年度末の福祉従事者の現状をみると、1988(昭和 63)年度に資格が創設 された社会福祉士の登録者数は 177 人、介護福祉士の登録者数は 3,073 人となっている。 1988(昭和 63)年の施設等の寮母としての従事者数は、55,653 人、ホームヘルパーは 27,105 人である32 この時点から今後 1999(平成 11)年度までにさらに必要とされる人数は寮母・介護職員 が約 11 万人、ホームヘルパーが7万人と推計されている。 31老人福祉法等の一部を改正する法律(平成 2 年法律 58 号)をいう。この法律により、老人福祉法、身体障 害者福祉法、精神薄弱者福祉法、児童福祉法、母子及び寡婦福祉法、社会福祉事業法、老人保健法、社 会福祉・医療事業団法、の八つの福祉関係法が一部改正された。福祉各法への在宅福祉サービスの位置 付け、老人および身体障害者の入所措置権の町村移譲、市町村・都道府県への老人保健福祉計画策定の 義務付け、等を改正内容としている。 32各数字の出所は、厚生省(1991b)『21 世紀を担う人々 保健医療・福祉従事者対策本部中間報告』大 臣官房政策課編集 関連データ・資料編 73 頁を参照。 19

(23)

1989(平成元)年当時の社会福祉士指定養成施設は日本社会福祉事業学校研究科を含め、 8校で1学年の総定員は 1,015 人であった。介護福祉士養成施設は福祉系の短大や福祉専 門学校など、51 校で 1 学年の総定員は 2,419 人である。その他、ホームヘルパーの養成は、 この頃から、全国の社会福祉協議会や農業協同組合において、主婦層を中心にホームヘル パー3級養成講座が開講されるなど、盛んに行われるようになっていった。 1989(平成元)年当時のホームヘルパーの就労状況は約 75%が老人を対象に、残りの約 25%が障害者などの人を対象に援助が行われている。勤務形態も常勤が 42.9%、非常勤が 57.1%と比較的常勤者も多い。従事者の年齢は、40 歳代が全体の 41.2%、50 歳代が 37.6% とこの両世代で 78.8%と約8割近くを占め、次いで 30 歳代の 13.1%となっている。この ように派遣対象や勤務形態、ヘルパーの年代などの状況は 1970 年代とあまり大きな変化は みられない。 1988(昭和 63)年度末におけるホームヘルパーの実施状況を全国の地域別でみると、3,237 の自治体で実施されており、1自治体当たりのホームヘルパーの単純平均人数は約8人で ある。東京都の 8,555 人をはじめ横浜市、川崎市、大阪市などの政令指定都市では、それ ぞれ 1,453 人、978 人、509 人と多くのホームヘルパーを確保しているが、例えば滋賀県で は、県全体で 137 人、1 自治体平均 2.7 人と、全国の自治体間の格差は顕著であった。も っともこの当時の高齢率は 11.4%であり、在宅福祉サービスは市町村の任意の団体事務と されていたことも背景にある。さらに国においても、在宅サービスがなぜ伸びないのか33 ということが課題になっているぐらいで、ホームヘルパーの需要はまだまだ顕在化してい ない「介護の私事化」の時代でもあった。 (3)保健医療・福祉従事者対策本部中間報告34にみるホームヘルパーの課題 1990(平成2)年に出された『保健医療・福祉従事者対策本部中間報告』の中では、ホ ームヘルパーの確保の前提となる課題として、つぎのような指摘が確認できる。 ホームヘルパー処遇の改善及び社会的評価の向上の問題点として、従前からいわれてい るように、ヘルパー業務の専門性、困難性について一般の理解は十分ではなく、単なる家 33「老親の介護は家族が行う」という意識が強く、福祉サービスになじみがない上に、「他人の世話を受 けると、身内が手抜をしている」とみられる。「他人を家の中に入れたくない」、「福祉サービスを受け るのは恥」というような心理的抵抗があった。 341990(平成2)年8月 17 日に厚生事務次官を本部長とする「保健医療・福祉従事者対策本部」を厚生省 内に設置し、保健医療・福祉従事者に関して緊急に講ずべき対策等を総合的見地から「中間報告」として 取りまとめたもの(中間報告は中央法規出版から出版物として 1991(平成3)年に発刊されている)。 20

(24)

事の手伝いと考えられており、未だに社会的評価は十分ではない。この当時はヘルパー事 業の財源が国庫補助で定額の手当方式のため、社会保険、健康管理、退職金制度等の処遇 について十分に対応できていない実状があった。また、主婦層、高齢者層の就業促進を図 るにも、現実にはヘルパーの互助の協力体制や研修制度が不十分であった。そのためにも 給与面でも常勤、非常勤、その他の勤務実態に応じた給与体制のあり方を検討することや パートヘルパーの長期勤続を促すために、勤務実績に応じた福利厚生面の改善を検討する ことが重視された。その他、完全週休2日制にするなどの勤務条件の改善、向上に努める 必要があると明記されている。 社会的評価の向上においては、ホームヘルパーが介護福祉士の資格を取得し、自己の能 力を高めること、また、学校教育などを通じてヘルパーの役割や活動について認識が深ま るよう広報活動をおこなう、ホームヘルプサービスの積極的な利用や自らホームヘルパー としての参加が望まれることなどが明記され、国民への理解を深めることを重視している。 (4)1989 年当時の介護対策の方向 1989(平成元)年の厚生省の『介護対策検討委員会報告書』35をみると、その時点で約 60 万人と推計されている寝たりきり老人や在宅痴呆性老人36が、2000(平成 12)年にはそ れぞれ 100 万人、110 万人に達すると推計されており、需要の急増が見込まれていたこと がわかる。また国民にとっても、寝たきりや痴呆になった場合の老後が不安であるとの意 見が浮上し、介護問題に対する意識が顕れてきていることがわかる。 その中で介護対策の基本的な考えと目指すべき方向として、①要介護者の生活の質の重 視、②家族介護に関する発想の転換、③利用者の立場の重視、④目指すべきサービス供給 体制、⑤介護環境の整備をあげている。 ①要介護者の生活の質の重視とは、主に単に要介護者の手助けをするのではなく、要介 護者に残された能力(残存能力)の維持活用を図りながら、これまでの生活を可能な限り 支援するというものである。 ②家族介護に関する発想の転換とは、家族介護は生活の質を確保するという点からも必 要ではあるが、介護家族の負担が多くなり、要介護者も遠慮と不満ばかりが先行すると双 35厚生省(1989)『介護対策検討委員会報告書』は、平成元年 7 月 7 日から厚生事務次官の懇談会 9 回に わたり、介護を巡る諸問題について,幅広く検討を行ったものがまとめられている。 36厚生労働省(2004b)『「痴呆」に替わる用語に関する検討会報告書』老健局計画課痴呆対策推進室を受 けて「痴呆性」から「認知症」と表記を改正。 21

(25)

方に不幸な現象が生じる。その点からも在宅サービスを適度に利用することにより、家族 の過度な負担を軽減しながら、住み慣れた地域で暮らせるようなサービスの利用を図ると いうものである。 ③利用者の立場の重視とは、これまでのように供給側の視点ではなく、多様化している 利用者のニーズにたったサービス提供を図るというものである。 ④目指すべきサービス供給体制とは、「いつでも、どこでも、的確な質のよいサービス を、安心して、気軽に受けることができる」というような体制ということである。 ⑤介護環境の整備とは、要介護者も可能な限り住み慣れた地域で生活できるような、住 環境やまちづくりの整備や社会づくりを図るということである。 このような方向を具体化させるための供給体制のあり方の中で在宅サービスをみると、 デイサービス・シヨートステイ・ホームヘルプサービスの在宅三本柱を中心として、身近 なところでサービスが受けられるように全国的な整備を進めるとある。合わせてサービス の質の向上の必要性を挙げている。 ホームヘルパーにおいても、従来のような家事援助に加えて、食事、排泄、衣類の着脱、 入浴、清拭など身体的な介護にも訓練を進めていくべきとしている。そのためにも研修を 充実させ、サービスマニュアル等の作成普及に努めるべきである、としている。この時点 でも、介護従事者に対する基本的な考え方として、介護は専門的な知識、技術及び経験を 必要とする場合が多いことから、質の向上や社会的評価の図りながら、量的な拡大に努め ていくという指針が明記されている。その一方で、派遣時間帯の拡大等への需要に対して、 非常勤やパートのような弾力的な形の雇用形態の活用を積極的に図るべきであると記され ている。また、できるだけ市町村直営でなく、社会福祉法人や社会福祉協議会などへの外 部委託を進めるべきであるともしている。その従事者の確保のために、主婦層や高齢者等 の就労の促進についても、パート雇用など、高齢者等が働きやすい条件づくりを進めてい る。そのためは適切な研修もおこない、住民参加型の有償在宅福祉サービスの可能性を示 している。 元来、主婦層を主体に始まったホームヘルプサービスであったが、専門性の必要を重視 しながらも、この時点で明らかなように、外部委託、非正規雇用、パートタイムや主婦、 高齢者への就労促進など、その位置づけは一般就労者とはかなり異なる職種としておかれ ている。その反面では、社会的評価の確立を謳い、専門的な知識や技術が要求されるため に優秀な人材を集める必要があるとし、賃金や労働時間など、若者にとっても魅力ある職 22

図表 1    論文構成  序章    研究の背景と本論文の目的及び構成  1 章    介護従事者の確保における歴史的考察  4章  介護従事者の労働環境にみる離 職に関する調査    (施設  職員の定着) 2章  介護従事者の定着における諸条件 3章  ホームヘルパーの雇用環境と訪問介護事業者  (事業者・ヘルパー)    第5章  介護報酬の改定にみる介護従事者確保策に関する現状と課題          7章  介護施設経営の経営にみる処遇等の工夫と課題  (普遍性、独自性)    終章  「介護の
図表 4  訪問介護  職員の離職割合          大変 高い 4.0% 高い 26.6% 低い 38.6%とても低い28.5%無回答2.3%職員の離職割合(n=428) (居宅介護支援)  この 1 年間の事業所の職員数と退職者数から算出した離職割合を区分すると図表5のよ うに「0%」が最も多く、全体の 61.5%を占めており辞める人は少ない。次いで「100%以 上」が 12.4%となっている。これは居宅介護支援事業所の特性として、ケアマネジャーが 1 人や2人など、小規模事業所が多いため、その1人
図表 5  居宅介護支援の離職区分                            0% 61.5% 1~20% 未満 3.2%20~40%未満11.5%40~60%未満8.5%60%~100%未満2.3% 100%以上12.4% 無回答0.7% 離職率区分(n=436) 図表 6  居宅介護支援の離職割合    たいへん 高い 2.5% 高い 12.6% 低い 21.6% とても低い 56.2%無回答7.1% ケアマネの離職割合(n=436) (施設)  この 1 年間の事業所の介護職のみの職員数と
図表 15  欠員の確保と自社の現状との相関  要因 相関係数 有意確率 (両側) ①昇進や昇給などの基準はしっかりしている 0.201 0.022 ②職場環境の改善に職員の意見を反映している -0.181 0.040 ②離職割合と研修及び欠員の確保と研修の考え方との相関  続いて「離職割合(低い・とても低い)」と「研修の考え方」の相関では明確な相関の ある項目は見られなかった。強いてあげれば「①コーチングの研修が必要」の1項目だけ 負の値で-.155 を示していた。(図表 16)  「欠員の確保(十分でき
+7

参照

関連したドキュメント

 介護問題研究は、介護者の負担軽減を目的とし、負担 に影響する要因やストレスを追究するが、普遍的結論を

ホーム >政策について >分野別の政策一覧 >福祉・介護 >介護・高齢者福祉

居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について 介護保険における居宅介護住宅改修費及び居宅支援住宅改修費の支給に関しては、介護保険法

夏  祭  り  44名  家族  54名  朝倉 EG 八木節クラブ他14団体  109名 地域住民約140名. 敬老祝賀会  44名  家族 

はじめに ~作成の目的・経緯~

「新老人運動」 の趣旨を韓国に紹介し, 日本の 「新老人 の会」 会員と, 韓国の高齢者が協力して活動を進めるこ とは, 日韓両国民の友好親善に寄与するところがきわめ

411 件の回答がありました。内容別に見ると、 「介護保険制度・介護サービス」につい ての意見が 149 件と最も多く、次いで「在宅介護・介護者」が