前章でみてきたように、介護報酬の改定ごと福祉人材確保のための原資として、必ずし も報酬の中で明確に反映して来たとは言えない状況である。
しかし、そのなかでも介護従事者の処遇改善に関しては、政府もこれまでに2008(平成 20)年5月28日施行の「介護従事者等の人材確保のための介護従事者等の処遇改善に関す る法律106」により雇用環境の整備を図っている。さらに同年10月30日には麻生政権下の 政府・与党において「介護従事者の処遇改善にための緊急特別対策」として2009(平成21)
年度の介護報酬改定率をプラス3%とすることにより、介護従事者の処遇改善を図ること が決定・実施された。
次いで2009(平成21)年9月に発足した鳩山政権では、同年10月から介護職員の処遇
改善策として「介護職員処遇改善交付金制度」を創設し、介護職員1人当たり月額1.5万 円を交付した107。
本章では、これらの具体的な対策がどのように処遇改善、人材確保や離職の抑制等に寄 与したのかを、平成21年度、22年度、24年度、25年度の介護従事者処遇状況調査108から 分析し、その施策の効果等のもとに人材確保に向けた課題を洗い出すことを目的に論を進 める。
本章の構成は以下の2節からなっている。
第1節では、介護従事者処遇改善等調査の各調査年度の実施時期と目的や項目など概要 を説明している。第2節では、各年度の調査結果を比較しながらどのくらい処遇の改善等 が図られたのかを事業所別、規模別、法人別、職種別などで確認していく。
106政府は、高齢者等が安心して暮らすことのできる社会を実現するために介護従事者等が重要な役割を 担っていることにかんがみ、介護を担う優れた人材の確保を図るため、平成 21 年 4 月 1 日までに、介護 従事者等の賃金水準その他の事情を勘案し、介護従事者等の賃金をはじめとする処遇の改善に資するた めの施策の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を 講ずるものとする。
107 平成 23 年度末までの時限施策であり、民主党のマニフェストでは一人月額 3 万円と明記されている。
108 平成 23 年度調査は実施されていない。厚生労働省(2010a)資料 1-1「平成 21 年度介護従事者処遇状 況等調査結果(概要)」及び資料 1-2「平成 21 年度介護従事者処遇状況等調査結果の概況」介護給付費 分科会調査実施委員会 3 月 3 日、厚生労働省(2010c)資料 2-1 及び 2-2「平成 22 年度介護従事者処遇 状況等調査結果の概要」介護給付費分科会、厚生労働省(2013b)資料 1-3「平成 24 年度介護従事者処遇 状況等調査結果の概要」介護給付費分科会介護事業経営調査委員会 、厚生労働省(2014a)資料2「平 成 25 年度介護従事者処遇状況等調査結果の概況」介護給付費分科会介護事業経営調査委員会。
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1 介護従事者処遇改善等調査の概要
(1)調査時期と各調査の目的
分析のための資料は、厚生労働省が実施した平成 21 年度、22 年度、24 年度及び 25 年度 の介護従事者処遇等調査結果である。これらの調査データをもとに、4カ年度の数値の比 較検討を行いながら、その差異等から処遇改善の効果等を見ていく。ただし、各年度とも 公開されている結果は介護保険給付費部会の検討資料として提出された概要版であり、4 年度とも共通している項目と年度により独自項目がある。その他、4年度とも公開されて いる約 50 表前後の詳細表をもとに比較している。
調査時期は図表 45 の通りである。
第1期から第3期の介護報酬の改定までは介護従事者の処遇の問題は顕在化しておらず、
水面下ではリーマンショック以前の好景気の影響で民間企業への介護職の他産業への流出 が続いていたといえる。ちょうどその頃に介護従事者の不足が問題となり、2009(平成 21)
年の介護報酬の改定に合わせて3%の引き上げが実施されたのである。その引き上げ後の 変化を確認するため、第1回目の「平成 21 年度介護従事者処遇状況調査」が実施された。
その後、さらに一般産業との格差を埋めるため期限付きの施策として常勤換算 1.5 万円の アップを目指した「介護職員処遇改善交付金制度」を実施した。第2回目の「平成 22 年度 介護従事者処遇状況調査」は、この「介護職員処遇改善交付金制度」による処遇改善の成 果を確認するために実施されたのである。次いで「介護職員処遇改善交付金制度」の終了 に伴い、2012(平成 24)にはその代替策として介護報酬の改定で処遇改善加算を設けたた め、第3回目の「平成 24 年度介護従事者処遇状況調査」と第4回目の「平成 25 年度介護 従事者処遇状況調査」が続いて行われた。
115
図表 45 介護従事者処遇状況等調査の時期と目的
介護報酬改定
介護報酬改定 介護報酬改定
▲2.3%
介護報酬改定
▲0.5%
10月 ▲2.4%
2014(平成26)年
処遇改善交付金 制度の廃止に伴 い継続的な施策 として1.2%の
引き上げ
介護職員処 遇改善加算
3回目 介護従事者処
遇状況調査 H24年10月
H24.4-9月
4回目 介護従事者処
遇状況調査 H25年10月
H25.4-9月 2011(平成23)年
介護職員の処遇 改善を図るため として3%引き
上げ
2012(平成24)年
2013(平成25)年 2007(平成19)年 2008(平成20)年 2006(平成18)年
2009(平成21)年 2000(平成12)年 2001(平成13)年 2002(平成14)年 2003(平成15)年 2004(平成16)年 2005(平成17)年
H21年10月~
H24年3月ま で介護職員 処遇改善交 付金制度
1回目 介護従事者処
遇状況調査 H21年10月
H21.4-9月
2回目 介護従事者処
遇状況調査 H22年7月
H21.10月-H22.6月
第5期
介護報酬で 加算届をし ている事業 所での変化 介護職員処 遇改善加算 の影響等の 評価を行 い、次期報 酬改定のた めの基礎資 料
第4期
介護報酬改 定後の給与 等の変化 処遇交付金 を受けての 給与等の変 化
2010(平成22)年 第3期
第2期
調査目的
第1期
介護報酬改定 施策 調査時期 調査対象期間
出所:筆者作成
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(2) 介護従事者処遇改善等調査の概要
各年度調査の方針と調査対象及び調査項目は以下のとおりである。
1)平成 21 年度調査概要
①調査目的:平成 21 年度介護報酬改定が介護従事者の処遇改善に反映されているかの検 証
②調査の基本方針
・介護従事者の報酬改定前後における給与等の実態把握
・給与以外における介護従事者の処遇改善策の実態把握
・施設・事業所における加算の取得状況の把握
③調査日:平成 21 年 10 月 1 日
④調査対象:介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、訪問介護事 業所、通所介護事業所、認知症対応型共同生活介護事業所、居宅介護支援事業所ならびに 調査日に該当する施設・事業所に在籍した介護従事者
⑤調査数:上記の母集団の合計 91,067 から抽出した 7,141。うち回収数 5,919、回収率 82.9%
⑥調査項目
・施設・事業所票:給与等の引き上げ状況、介護従事者の処遇状況、収支の状況、加算 の習得状況、利用者数、職員数等
・従事者票:性別、年齢、勤続年数、勤務形態、労働時間、資格の取得状況、基本給額、
一時金等
⑦集計方法:ウェイトバック方法109により、全国の推計値を算出している
2)平成 22 年度調査概要
①調査目的:平成 21 年度介護報酬改定及び介護職員処遇改善交付金が介護従事者の処遇 改善に与える影響を把握する
②調査の基本方針(22 年は明記されていないが 21 年同様と推察される)
・介護従事者の報酬改定前後における給与等の実態把握
109施設・事業所種類別、地域区分別、施設・事業所規模別の全国の施設・事業所数と回収した調査票に より出現数を割り戻す方法。
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・給与以外における介護従事者の処遇改善策の実態把握
・施設・事業所における加算の取得状況の把握
③調査日:平成 22 年 7 月 1 日
④調査対象:介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、訪問介護事 業所、通所介護事業所、認知症対応型共同生活介護事業所、居宅介護支援事業所ならびに 調査日に該当する施設・事業所に在籍した介護従事者
⑤調査数:上記の母集団の合計 107,350 から抽出した 8,256。うち回収数 6,301、回収率 77.1%
⑥調査項目
・施設・事業所票:給与等の引き上げ状況、介護従事者の処遇状況、収支の状況、加算 の習得状況、利用者数、職員数等
・従事者票:性別、年齢、勤続年数、勤務形態、労働時間、資格の取得状況、基本給額、
一時金等
⑦集計方法:ウェイトバック方法により、全国の推計値を算出している
3)平成 24 年度調査概要
①調査目的:平成 24 年度介護報酬改定が介護従事者の処遇改善に反映されているかの検 証を行うとともに、次期介護報酬改定のための基礎資料を得ることを目的とする。
②調査の基本方針(24 年も特に明記されていないが基本的に 21 年同様)
・新たな項目として介護職員の処遇改善加算の状況
・給与以外における介護従事者の処遇改善策の実態把握
・施設・事業所における加算の取得状況の把握
③調査日:平成 24 年 10 月 1 日
④調査対象:介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、訪問介護事 業所、通所介護事業所、認知症対応型共同生活介護事業所、居宅介護支援事業所ならびに 調査日に該当する施設・事業所に在籍した介護従事者
⑤調査数:上記の母集団の合計 93,938 から抽出した 8,878。うち回収数 7,372、回収率 83.0%
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