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各事業者アンケート分析から~
前章では、歴史的な経緯から今日におけるホームヘルパーの現状を概観してきたが、本 章では、介護従事者の慢性的な不足状況に鑑み、介護サービス事業を展開している訪問介 護を含め、居宅介護事業所、介護老人福祉施設という事業形態の異なるものを対象事業者 として確認する。
その内容として介護従事者の確保や定着のため、介護事業者においてどのような工夫や 対策が採られているか、事業者間の特性を比較しながら、その現状をアンケート調査結果
59を通じ、その雇用の確保並びに定着等の諸条件を探るものである。また、後述する第3 章では、第2章で取り上げた事業所の中から、特に在宅介護の中心でありながら離職率の 高い60訪問介護事業所に焦点をあてさらに分析を行っている。
本章及び第3章の中心を構成しているこの調査(Ⅰ)は、大阪市立大学大学院生活科学 研究科都市問題研究会が、大阪市福祉人材養成連絡協議会61とともに、介護事業者を対象に
「人材の確保に関する現状及びその雇用条件などに関する研究」と題して実施したもので ある。
具体的には、訪問介護事業者、居宅介護支援事業者、介護老人福祉施設及び介護老人保 健施設に対して、介護福祉人材の確保や定着、その質の向上をはかるための条件や工夫の 状況を把握し、人材の確保、定着への条件やあるべき雇用の在り方を提言する目的で行っ たものである。調査地域は調査実施者の所在地である大阪市内(施設に関しては大阪府内)
であり、対象事業の全事業者に協力を戴いた。
この調査の特徴は、介護職や福祉職への意識調査ではなく、あくまで管理者側の視点か ら、職員の離職要因やソフト面及びハード面での職場環境、採用や定着の困難性について
59アンケート結果は大阪市立大学生活科学研究科と大阪市福祉人材養成連絡協議会が 2009(平成 21)年1 月に行ったデータの利用を許可していただいている(筆者も同調査の協力者である)。
60財団法人介護労働安定センター(2006)『図で見る介護労働の実態―平成 17 年度介護労働実態調査結果 から―』によれば常勤労働者は 52.8%と約半数であり、残りは登録ヘルパーが 34.2%、短時間固定者が 11.1%となっている。またその登録ヘルパーの就労理由は、「自分の都合のよい日や時間に働ける」が最 も多くなっている。ホームヘルパーの離職率が高いといわれる背景には、その勤務形態にあると言われ ている。
61大阪市福祉人材養成連絡協議会は、大阪の福祉人材養成に関わる機関・団体等が相集い、協働して、全 市を見据えた体系的な福祉人材養成事業が効果的・効率的に展開できるしくみを構築し、福祉人材の生涯 にわたるステップアップを支援することを目的としている団体である。メンバーには公立学校法人大阪 市立大学、大阪市社会福祉士会、大阪介護福祉士会、大阪市福祉局などの研 修 実 施 機 関 ・ 団 体 、 事 業 者 、 専 門 職 、 社 会 福 祉 協 議 会 等 で 構 成 し て い る 。
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明らかにしたものである。大阪市内の事業者を対象とした限られた調査ではあるが、調査 時期の2009(平成21)年は、2008(平成20)年のリーマンショックまでの好景気の影響に より、多くの介護人材が福祉分野から一般企業へ流出が続いていた時期であり、その直後 の調査時点から、介護人材の採用や定着に苦労している事業者の実態が得られている。こ の調査の成果として、離職率の低い事業所はその条件として、経営者や上司、スタッフ同 士の関係が良いことを大きな要素として示している。また欠員の補充の際には、給与や手 当の充実、昇進、昇給の基準の明確化さ、外部研修機会の充実などを提言している。
なお、この調査の成果として『介護保険事業者における離職・採用状況における調査研 究-訪問介護事業者・居宅介護支援事業者・介護保険施設の管理者を対象として-』報告 書が大阪市福祉人材養成連絡協議会(http://www.welful.net/toshi_mondai2009.html)で公表さ れている。
筆者は、この調査の企画・調査設計の段階から参画させていただいた関係で、この調査 データの使用の許可を得ている。
また次章の第4章を構成している調査(Ⅱ)は、大阪市立大学大学院都市問題研究会に よる調査時点と同じ2009(平成21)年に、財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会(医 療経済研究機構)62が行った調査である。調査(Ⅰ)と同じように、介護人材の確保策を検 討する視点から、介護労働者の離職に注目し、事業所の経営状況や労働環境及び地域の状 況などから介護人材の離職の要因を解明することを目的として実施された。
調査地域は、東京都、静岡県、山形県の3県にあるすべての介護老人福祉施設、介護老 人保健施設及び認知症対応型共同生活介護施設を対象としている。またその施設に勤めて いる職員に対しても調査を実施している。この調査の成果として、介護報酬の改定を受け ての改善により「職員の給与を上げた」という施設においては、職員の離職率が低いこと を確認している。また、介護職員の離職の要因として、職場環境や就労条件などいわゆる 働きやすさが重要な要因であることを明らかにしている。
なお、この調査の成果として『介護労働者の労働状況に関する調査報告書-介護事業者 の経営状況や地域と介護労働者の離職率との関係に関する調査研究事業―』の報告書が財 団法人医療経済研究・社会保険福祉協会(医療経済研究機構)にある。
筆者はこの調査の企画・調査設計の段階から参画させていただいた関係で、この調査デ
621993 年(平成 5 年)に厚生大臣認可の法人として設立され、わが国における社会保障制度および医療経 済に関する研究を促進することを目的とし、医療政策の発展・向上に資するために、医療や介護などの さまざまな事象を経済学などの手法により、実証的に研究している。
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ータの使用の許可を得ている。
本論文では、調査(Ⅰ)を施設・事業者の管理者への調査と位置づけ、職員側の意識調 査として、調査(Ⅱ)のなかから介護老人福祉施設職員に焦点を合わせたデータ(4,555件)
を採用している。なお、調査票は、本論文の巻末資料として添付している。
先行研究において、同様の人材確保・定着に関する調査は、筆者の調べた限り、介護保 険の導入が開始されて以来、2009年までの間、下記に述べる「財団法人介護労働安定セン ター」の調査以外は実施されていない。
この調査(Ⅰ)・(Ⅱ)の以前には、類似調査として厚生労働大臣の指定法人である「財 団法人介護労働安定センター」が、平成14年度から毎年実施している「事業所における介 護労働実態調査」があるが、全国すべての事業者、全ての福祉職を対象としている。その ため、データが広範囲にわたっていることがかえって問題を拡散し分析の焦点を絞り込み にくくしていることから、本論文では、もう少し範囲や対象を絞った分析視点から問題の 所在にアプローチするとともに、「財団法人介護労働安定センター」の調査結果と異なる 要因が抽出されることをねらいとしている。また「財団法人介護労働安定センター」の調 査結果は毎年報告書として発行されているが、生データが公開されていないため、前記の 調査(Ⅰ)・(Ⅱ)を使用することとした。
本章の構成は以下の4節からなっている。
第1節は調査研究の背景について述べている。第2節は各調査の概要と調査結果の要点 を紹介している。第3節では、各調査結果からそれぞれの自由記述を整理し、3事業の比 較を行い、その共通性や独自性から、介護従事者の定着の条件などの違いを考察している。
第4節はその考察の結果から、それぞれの事業所における人材の確保や、定着のために整 備すべき条件から、人材の定着のための条件を一知見として提示している。
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調査研究の背景
介護従事者に関しては、介護保険制度が施行される 2000(平成 12)年をにらんで、その 前年まで社会福祉協議会や専門学校などにおいてホームヘルパーの養成が図られ、一定数 の確保63がなされてきた。しかし、介護保険の利用者の増大やその後の数回にわたる介護 報酬の改定とともに、厳しい単価が設定され、多くの介護サービス事業者にとっては、苦
63厚生労働省(2001b)「平成 13 年介護サービス施設・事業所調査の概況」大臣官房統計情報部社会統計 課によれば 2001 年 10 月時点で在宅系の介護職は 22.0 万人、施設系は 42.0 万人と推計されている。
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