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事業者アンケート分析から~
本章では、前章の調査(Ⅰ)から特に定着率の低いと推察される「訪問介護事業者」を さらに分析する必要に基づき、「訪問介護事業者」対して実施したアンケート調査結果に 着目し、ホームヘルパーの就労実態、処遇等を分析し、その定着のための諸要因をはじめ 研修等、人材育成のありかたを明らかにすることを目的としている。
本章は以下の2節から構成されている。
第1節では、調査の概要及びその結果を示している。第2節では、回答者の自由記述を もとに分析を進め、その結果から、訪問介護事業所における人材の確保や定着のため整備 すべき条件など、人材の定着のための条件を一知見として提示している。
分析の視点および方法
分析の視点として、特に人材の離職割合と欠員の確保に注目し、離職割合及び欠員の確 保と相関のある設問項目について分析を行った。実施したアンケートの設問で大きな項目 としては、「現在の事業者が行っている給与や福利厚生など自社の雇用条件の現状はどう か」、次いで、「自社の研修に対する内容や方法、経済的な支援などの考え方」について 尋ねている。最後には、「今後の人材確保・定着にとって望ましい雇用条件や要素」につ いて事業者の考えを聞いた。
(1)調査の概要
調査の概要は、次の通りである。
①調査対象:大阪市内で訪問介護事業所を展開している全事業者へ郵送、自記方式の留 め置きにて調査を依頼した。(悉皆調査)
②調査期間:平成21年1月15日~平成21年2月16日
③回収状況:配布数1,191 うち回収数 428 回収率は35.9%であった。
④分析方法:SPSS統計ソフト(ver.13)を用い、基本統計および推計学的処理を行った。
定着への工夫や考えられる条件の自由記述は内容を KJ 法により整理をして分析を試 みている。
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(2)倫理的配慮
①設問内容から回答者は経営者もしくは管理者とした。
②回答者が不利益を被らないように回収は返信用封筒にて回答後、密封し回収した。
③回答者および当該事業所が特定されないように、すべて無記名とした。
④調査依頼書に研究代表者の連絡先を記し、担当者を配置していつでも質問に応じられ るように体制を整備した。
(3)結果のまとめ
1)基本項目の結果 (n=428)
回答のあった訪問介護事業所の経営形態は75%以上が「株式会社・有限会社」であった。
次いで「社会福祉法人」が8.6%、「NPO法人及び医療法人」が5.4%であった。その他も 3.5%あり、その多くは「生協、医療生協」などである。
そのうち、他の事業を行っているのは50.9%であり、その主な事業は「居宅介護支援事
業所」が43.1%、「デイサービス・デイケア」が14.3%とであった。事業所設立後の事業
年数は「5年以上」が半数近く(49.3%)を占めている。
ヘルパーの人数は1事業所あたり事務職を含み、平均23.64人である。
事業所の全職員の離職割合は「とても低い」が28.5%、「低い」が38.6%と両方併せる
と67.1%になり、離職割合は約7割を下回った。
調査時点から遡り1年間に退職した職員数から割り出した離職率は、「0~10%未満」
は29.0%、「10~20%未満」が37.6%と「20%未満」が66.6%を占めた。一方で「40%以
上」は14.4%を占めている。
欠員の確保では、「ほとんど確保できていない」は32.5%、「あまり確保できていない」
の26.2%と両方合わせると、約60%の法人で欠員の確保が困難な状況にあることが見える。
その他、将来の経営に関する見通しでは、「どちらともいえない」が48.4%と最も多く、
次いで「やや暗い」が22.4%であった。「真っ暗」の8.9%と合わせると31.3%と1/3近く が将来の見通しについて悲観的であった。また、介護報酬の3%アップ分により、介護職 員の給与を上げることができるかを問うと、「どちらともいえない」が44.2%で最も多く、
次いで「全くできない」が22.2%、「ややできる」が19.6%の順となっている。「ややで きない」の11.0%を合わせると、今回の報酬アップ分を反映できないという回答は32.3%
と1/3が否定的である。
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2)離職割合及び欠員の確保と現状の相関
①離職割合と事業所の現状及び欠員の確保と事業所の現状との相関
「離職割合(低い・とても低い)」と「現状の雇用状況等」との相関については前章で 既に検討した。
いずれの項目も相関係数73が.200 以下であったが、「①スタッフ同士の関係が良い」や
「②利用者さんとスタッフの関係が良い」という項目の相関係数が「⑤給与や手当ては十 分である」のそれと比較して高いことはそれなりに注目しても良いのではないかというこ とであった。
また、「欠員の確保(十分できる・まあできる)」との相関を見ると、注目されるのは 図表15にあげた2項目であった。すなわち、「①昇進や昇給などの基準はしっかりしてい る」ついては、相関係数.201と、弱いながらも相関を確認できる。それに対して、「②職 場環境の改善に職員の意見を反映している」は.200に少し届かないが、前章で試みた自由 記述の検討と合わせると、それなりに注目してよいと解された。
これらのことから、職員の欠員が生じてその確保をする際には、昇給など雇用条件が明 確であること、また職員の立場に寄り添う職場環境づくりが必要ということが言える。
なお、本章における以下のいずれもの図表の出所は、大阪市福祉人材養成連絡協議会
(2009)『介護保険事業者における離職・採用状況における調査研究-訪問介護事業者・
居宅介護支援事業者・介護保険施設の管理者を対象として-』のデータをもとに筆者が作 成したものである。
図表 9(再掲) 訪問介護の離職割合と自社の現状との相関
要因 相関係数 有意確率
(両側)
①スタッフ同士の関係がよい 0.173 0.003
②利用者さんとスタッフの関係がよい 0.171 0.004
③公正な人事を行っている 0.152 0.010
④経営者や上司などとスタッフの関係がよい 0.150 0.011
⑤給与や手当ては十分である 0.127 0.031
⑥職場環境の改善に職員の意見を反映している 0.125 0.036
73偏相関を検定したところ、それぞれの数値がやや低くなったものの大きな変化はみられなかった。
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図表 15 欠員の確保と自社の現状との相関
要因 相関係数 有意確率
(両側)
①昇進や昇給などの基準はしっかりしている 0.201 0.022
②職場環境の改善に職員の意見を反映している -0.181 0.040
②離職割合と研修及び欠員の確保と研修の考え方との相関
続いて「離職割合(低い・とても低い)」と「研修の考え方」の相関では明確な相関の ある項目は見られなかった。強いてあげれば「①コーチングの研修が必要」の1項目だけ 負の値で-.155を示していた。(図表16)
「欠員の確保(十分できる・まあできる)」と研修との相関を見ると.200に多少とも近 いものは「①コミュニケーション能力の向上が必要」という項目のみであった(図表17)。
「コミュニケーション能力の向上」は、前章で注目した「利用者との間で良好な関係を 築く」ために必須の専門性のはずであって、それが.185という微妙な水準の相関係数を示 していたことは、さらに立ち入って検討を重ねていってよいところと解される。
図表 16 離職割合と研修の考え方との相関
要因 相関係数 有意確率
(両側)
①コーチングの研修が必要 -0.155 0.009
図表 17 欠員の確保と研修の考え方との相関
要因 相関係数 有意確率
(両側)
①コミュニケーション能力の向上が必要 0.185 0.036
③欠員の確保と人材定着条件との相関
「欠員確保(十分できる・まあできる)」と人材定着の条件との相関では強い相関のあ る項目は見られず、図表18のように「①職場外で外部が主催する勉強会や学習会などの機 会があり参加できるようにする」や「②経営者や上司などスタッフとの良好な関係を図る」
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などでも有意差はなく、その他の項目を合わせてみても、欠員の確保と人材定着の条件の 各要素との関係性は考えられない。
図表 18 欠員の確保と人材定着の条件との相関
要因 相関係数 有意確率
(両側)
①職場外で外部が主催する勉強会や学習会などの機会
があり参加できるようにする 0.089 0.320
②経営者や上司などとスタッフとの良好な関係を図る -0.097 0.280
③スタッフ同士の良好な関係を図る -0.093 0.296
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2 自由記述にみる職員定着への工夫や条件
これまでの事業経営の経験から、事業者側から見た職員の定着に効果のあったと思われ る方法や工夫を自由記述方式で意見を聞いたところ、約 30%(n128)の回答が得られた。
この自由記述の分析については、記載されていた回答を全部転記した後、記述内容を吟味 し、類似する内容を項目ごとにカテゴリー化する作業を行なった。カテゴリー分けされた 内容については、その内容を簡潔に表す表題をつけ、職場環境を従属変数として以下の各 カテゴリーを独立変数として、その関係性について考察を行なった。
1.理念・使命感の共有と徹底 2.人間関係・コミュニケーション 3.給与・待遇の改善
4.キャリア・アップ
1)働きやすい環境づくりに相互作用の大きいもの (図表19-①)
まずどういう介護を目指すのか、「1.理念、使命感の共有化と徹底」にあるように事業 所の掲げる介護の理念や目標の共有化が基本となる。そこには事業所側が職員に対して明 確な運営方針の徹底と理解を促すような教育が必要となる。介護の技術もさることながら、
介護を通じてどのような社会的貢献を図るのか、そのためのミッションはどうあるべきか など、職員一人一人に語りかけ、その経営者の理念を職員が十分に理解し行動を起こせる ようにしなければならない。他の産業とは異なり、機械的に人の世話をするのではなく、
そこで働く職員が同じ理念や目標を持ち、それぞれがその目標に向かって仕事をしなけれ ばならない。
実際に「全員の意識。統一は難しいのは当然だが皆で一つのビジョンを作り上げそれを 目標にと社内の改革を行なったところ、平成20年度の退職者は2名にとどまった。現在社 内の雰囲気はとても良い」という事業所もある。
このように理念や目標の徹底が介護技術に反映され利用者へのきめ細かいサービス提供 につながり、仕事のやりがいにつながる。逆にこの理念があいまいできれいごとで実践が 伴わない事務的な介護では、限られた時間だけ割り切ってお世話することになるなど、大 きな差が生じるとともに職員のやりがいなどにはつながらない。同じ介護報酬のもとで事
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