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修士論文・博士論文一覧|九州大学 大学院人間環境学府

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Academic year: 2018

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(1)

1. はじめに

 戦後日本では深刻な住宅不足を背景に公的住宅団地

が各地で開発された。団地の大規模化に伴いまとまっ

た用地の必要性から丘陵地のような起伏に富む土地に

開発が及んだ。一方で,造成技術の安全性・経済性に

は課題もあった。そのため,開発当時の造成にかかる

技術的制約に対して,もとの地形を生かした住棟の配

置や形状の工夫による克服が試みられた。近年のラン

ドスケープ・デザイン分野では,そのような住宅団地

の設計思考を再評価する研究が進められている

注 1)

。そ

の背景には,既存団地の立地特性や計画基盤となった

自然環境に基づく建替えの方向性や,新たな可能性の

検討が求められている状況がある。

 本研究では,福岡市近郊の丘陵地に建設された小笹

団地を対象として,団地造成以前の地形(以下「原地形」

と略称)が配置計画,特に住棟の配置や形状に与えた

影響を検証し,丘陵地という自然環境を組み込む配置

計画の計画意図を詳細に読み解く。

2. 小笹団地の概要

 小笹団地は福岡県住宅協会を開発主体として旧小笹

駅前の敷地面積約 4 万 5 千坪 , 高低差 35m を有する丘

陵 地 に 開 発 さ れ た( 表1)。 建 設 戸 数 は 賃 貸 共 同 住 宅

901 戸,分譲戸建住宅 57 戸,計 958 戸に及ぶ。

小笹団地の配置計画における地形への対応

左橋 直也

  小 笹 団 地 の 共 同 住 宅 は, 平 面 形 状 別 に56FCN,

56FCS,56FVN,56FST,57FDYの5つの住棟タイプに分

け ら れ る(表2)。56FCNと56FCSは と も に 板 状 住 棟 で

あるが,階段室の付き方によって北入りの56FCNと南

入 り の56FCSに 分 け ら れ る。56FVNはV字 型 の 平 面 形

状 を 有 す る ポ イ ン ト ハ ウ ス で あ り,56FSTと57FDYは

ポイントハウスの中でもスターハウスと呼ばれる住棟

形式である。さらに同じ住棟タイプにも,棟の途中で

高さを階段状に変える住棟や,二つの56FSTを並べた

ダブルスターハウスなど特徴的な形状の住棟がある。

 このように小笹団地の特徴は,丘陵地を敷地として,

複数の住棟タイプと特徴的な形状を持つ住棟が建つ点

にある(図 1)。

3. 小笹団地の配置計画 3.1. 二つの計画案

 小笹団地の配置計画には少なくとも二つの計画案が

作成されている(図 2)。一つ目は日本住宅協会が発行

する『住宅団地施設資料集』に収録された配置計画

注 3)

(以下,「配置計画 A」と略称)であり,二つ目が『新都市』

に掲載された県職員・松井の論説に記載の配置計画

注 4)

( 以 下,「 配 置 計 画B」 と 略 称 ) で あ る。 い ず れ も 出 版

年は 1962 年である。しかし,後述するように計画図に

描かれる住棟タイプの具体性や,竣工時の配置計画と

2-1 棟 / 戸

13 / 208 9 / 117 2 / 40 13 / 272 11 / 264 型

56FVN 56FST 57FDY

56FCN 56FCS

写真

表 1 団地概要

表 2 住棟概要

図 1 現況配置図

注 2)

0 200m

N 56FVN 56FST 57FDY

56FCN 56FCS 戸建住宅

a

a’

b

b’ c

c’

d d’

e e’

第一次建設 1956-60 年

建設戸数 958 戸 ( 共同住宅 901 戸 , 戸建住宅 57 戸 )

開発主体 福岡県住宅協会

地質調査・指導 九州大学地質学科 鳥山隆三

造成実施設計 実施設計指導

(2)

の比較から,配置計画Aが配置計画Bより先に作成さ

れ た も の だ と 言 え る。 以 下 で は, 配 置 計 画A, 配 置 計

画Bの内容を位置及び縮尺を揃えた原地形図

注5)

(図2

左図)と比較しながら確認する。

3.2. 配置計画 A

 配置計画Aに計画された共同住宅は,板状住棟とポ

イントハウスの二種類に分けられる。しかし,ポイン

トハウスは形状が不明瞭であり,その住棟タイプまで

は判別できない。

 配置計画の構成に注目すると,敷地中央には集会所,

浴場,公官庁出張所,幼児園が位置する。それら施設

群を境として南北にエリアを分け,各種の住棟が配置

される。また各種の住棟は原地形と比較することで一

定 の 規 則 を 持 っ て 配 置 さ れ て い る こ と が わ か る。 ま

ず,ポイントハウスについては南北のエリアでそれぞ

れ二つの山頂を結ぶ尾根に沿って配置されている。一

方で谷となる場所には戸建住宅や戸建住宅向け分譲地

が配置される。そして中腹部分に板状住棟が配置され

る。この板状住棟は規則的に南面平行に配置すること

なく,地形に沿って向きを振っている。

 団地内道路の計画については,谷を通りながら南北

のエリアを結ぶ鉤形の道を通し,頂点を既存の道路に

接続する。この道を骨格として各住棟へアプローチ路

を通している。また,ポイントハウスが立地する山頂

部には特徴的な円形道路が計画されている。

3.3. 配置計画 B

 配 置 計 画Bは, 共 同 住 宅, 戸 建 住 宅,SHOPPING CENTER, 公 共 施 設 用 地, 緑 地・ 公 園, 一 般 店 舗 か ら 構

成 さ れ る。 図1を 見 る と, 実 際 にSHOPPING CENTERは

実現せず,また公共施設用地として確保された敷地に

集合住宅が建設される。しかし,そのほかの部分では

配置計画 B と竣工時の配置計画がほぼ一致する。

 配置計画Bは配置計画Aと比較して計画が縮小して

いる。一つは施設計画であり,配置計画Aに描かれた

施設が消え,公共施設用地として確保されるに留まっ

ている。もう一つは,南エリアの開発区域の縮小であ

る。南エリアの東側は原地形を見ると急勾配な場所で

ある。そのため一つの団地としての一体的な開発が困

難と判断されたと推測できる。ただし,南エリアの北

側 は, 戸 建 住 宅 用 に 宅 地 造 成 さ れ て い る こ と か ら も,

地形上の制約とは異なる理由で縮小されたと言える。

 このような相違がある一方で,谷を通る鉤形の道を

骨格とした団地内道路の構成,さらにポイントハウス,

板状住棟,戸建住宅の配置規則は一致する。

 以上より,配置計画 A,配置計画 B,実施計画の順に

開発計画が具体化する過程で計画に変更が生じた。し

かし,いずれの計画でも各住棟タイプが原地形に対す

る一定の規則をもって配置されていた。このような配

置計画は,大規模な造成により平坦地を確保すること

なく,住棟の配置や形状によって地形に対応しようと

する設計思考が計画者にもとよりあったことを示す。

4. 地盤整備

 次に,現況地形と原地形の関係を分析する。現況地

形と原地形を同位置,同縮尺で比較し,団地内の切土・

盛土の範囲を図3に示すと,南北エリアの山頂から尾

根にあたる部分で切土され,谷において盛土されてい

る。 造 成 断 面 図 を 現 況 地 盤 の 等 高 線 図 上 に 重 ね た 図4

からは,切土された場所の中でも北エリア北側山頂及

び,南エリア山頂において平坦地を確保するために大

きく切土されていることがわかる。

 図 5 及び図 6 は , 現況地形断面に原地形断面を重

ねたものである。断面位置は図1,3に示している。基

本的には原地形のもつ傾斜を緩やかにし,雛壇上の整

地を確保していることがわかる。ただし,b-b’断面や

d-d’断面のように大きく切土することにより原地形の

持つ傾斜を平坦にしている場所も少なからずある。

2-2

図 2 原地形と配置計画案 小笹駅

50 50 50

50

40

40

40 40

30 30

40

30 20 10 30 20

20

浴場 公官庁出張所

幼児園

集会場

小笹駅 商店

分譲地

分譲地

SHOPPING CENTER 公共施設用地

小笹駅 一般店舗

一般店舗

原地形図 配置計画 A 配置計画 B

戸建住宅 共同住宅

緑地・公園

開発区域

0 200m

(3)

 このように多くの場所で丘陵地の起伏に逆らうこと

なく,尾根を切土し,谷を盛土することで,造成によ

り生じる土量を抑えつつ,住棟を建設するために必要

な最低限の平坦地を造り出した。

5. 住棟配置

 図 7 は竣工後の団地を 3D モデル化したものである

6)

。また,図 8 は原地形と竣工後の住棟を 3D モデル化し,

同位置,同縮尺で重ね合わせたものである。各住棟は

原地形に対する接地の有無で浮遊と埋没に分類してい

注 7)

。以下では , 図 7 及び図 8 を用いて住棟タイプと

地形の関係を分析する。

 56FVNは, 現 況 地 形 に お い て 尾 根 の 南 傾 斜 地 に 配 置

されていることが分かる。原地形に対しては,北エリ

アで南傾斜の尾根に配置されている一方で,南エリア

では北傾斜が含まれている。図 5b-b' 断面を確認する

と,56FVNを 配 置 す る た め に, 北 傾 斜 の 原 地 形 を 切 土

し,すべて南傾斜になるように造成していることが分

かる。

 56FSTと57FDYの ス タ ー ハ ウ ス は, 現 況 地 形 に お い

て北エリア南側の規模の小さい北傾斜地に配置されて

いる。図8を見ると,尾根上で原地形に埋没し,西側

の谷で浮遊していることが確認できる。図 5a-a’断面

及 び 図6c-c'断 面 に お い て も, 尾 根 を 切 土, 谷 を 盛 土

することで原地形の北傾斜を緩やかにし,細かく別れ

た整地の上に各住棟が配置されていることが分かる。

 板状住棟は,現況地形において南面平行配置を基本

と し な が ら も 各 々 住 棟 の 向 き を 振 っ て 配 置 さ れ て い

る。それら住棟の配置は,原地形の等高線の向きに従っ

て お り, 高 さ も 原 地 形 と 同 程 度 に 位 置 す る。 た だ し,

南北エリアで詳細な配置規則を確認すると相違点もあ

る。北エリアでは各住棟が原地形の等高線の向きに正

確に従っているのに対して,南エリアでは住棟を南に

向ける必要性から等高線をまたぐように配置されてい

ることが分かる。そのため,南エリアの板状住棟は北

エリアと比べると,まとまった整地を確保できていな

い状況にあり,後述するように住棟の形状に工夫が求

められる。

 以上のように,各住棟は住棟タイプ別に原地形に対

応するよう配置された。これも大規模な造成工事を抑

えるために取られた方法であったと言える。

6. 住棟計画

 本章では,前章を踏まえて,整地の造り方と住棟計

画の関係を分析する。多くの場合,住棟と整地が一対

一で対応するが(図 9 ①),原地形を大規模に造成しな

い限り十分な面積の整地が確保できない場合は,住棟

内で段差が処理された(図9②)。板状住棟をみると,

前章で述べたように,まとまった整地が確保できる北

エリアでは①のように住棟が配置される一方で,それ

2-3

図 4 切土盛土断面図 ( 東西方向 ) 図 3 切土盛土位置

図 5 原地形と現況地形の断面 ( 南北方向 ) 図 6 原地形と現況地形の断面 ( 東西方向 )

N

0 200m

切土 盛土

等高線:5m 45

40 35 30

25

20 20 15

20 25 30 35 40 45 50 55 25

30 35 40 45 50

15

15

N

0 200m

切土 盛土

等高線:5m 45

40 35 30

25

20 20 15

20 25 30 35 40 45 50 55 25

30 35 40 45 50

15

15 a

a’

b

b’ c

c’

d d’

e e’

56FCS

原地形 現況地形

a a’

b b’

0 50 56FCS

57FDY 56FST

56FVN

0 50

原地形 現況地形

c c’d d’

e e’

0 40

0 40 56FVN

56FCN 56FST

( ダブルスターハウス ) 56FST 56FST

(4)

が困難な南エリアでは②の方法を 5 棟に適用している。

図6d-d’ 断 面 及 びe-e’ 断 面 を 見 る と, 戸 境 壁 又 は 階

段室を利用して住棟をずらしていることが分かる。階

段室でずらす場合,住戸玄関の高さを揃えるために一

階分ずらしている。戸境壁でずらす場合は,壁構造で

あるため階高を揃える必要がなく,整地に合わせ住棟

をずらすことができる。多くは一階分ずらしているが,

半階分ずらした住棟もある。また,図 6c-c' 断面より

56FSTの ダ ブ ル ス タ ー ハ ウ ス も 同 様 の 理 由 か ら ② の 方

法を取っていると言える。

 図10は各ポイントハウスの住棟平面の略図である。

い ず れ も コ ン パ ク ト な 平 面 形 状 を 有 し て お り, 整 地

の 確 保 し づ ら い 尾 根 部 分 で 採 用 さ れ た こ と が わ か る。

56FVNは, 全 て の 住 戸 が 南 に 面 す る 平 面 形 状 を 採 用 し

ているため,南傾斜地に配置されたと言える。北傾斜

地には,南傾斜地と逆の環境条件をもち,日照条件が

悪いことから,南面を含む2面以上にバルコニーを設

けられる 56FST と 57FDY が配置されたと考えられる。

7. まとめ

 小笹団地では,基本計画の段階から地形と配置計画

に対応関係がみられた。また,造成においては,原地

形の地形構造を継承し,最小限の平坦地を確保するに

留めていることから,造成工事を抑える意図があった

のは明らかである。

  し か し,56FVNを 配 置 す る た め に 傾 斜 の 向 き を 変 更

したり,板状住棟を南に向けるために階段状の住棟を

計画していることから,全ての計画が原地形の地形構

造を基に成り立っているのではないことが示されてい

る。つまり,住棟タイプが生み出された後の配置計画

に は,地 形 構 造 と は 別 に 環 境 条 件 や 設 計 者 の 意 図 が

入っていると考えられる。これより,地形への単純な

対応に留まるのではなく,造成計画と住棟配置・住棟

計画を行き来する中で生み出された配置計画であると

言える。結果として,丘陵地を継承しながらも,住棟

の配置を踏まえ,原地形を意図的に設計した地形の上

に成り立っている団地であると言える。

注 1) 例えば参考文献 1)2)3)などがある。

注 2)  航空写真・団地資料により2017年1月時点(一部2009年時点)に復元した配

置図である。

注 3) 参考文献 4)pp.37。

注 4) 参考文献 5)pp.26。

注 5) 参考文献 5)pp.28。

注 6)  参考文献 6) から地形及び建物を 3D モデル化。

注 7)  参考文献 5) 掲載の原地形図と参考文献 6) の建物を 3D モデル化し重ね合した。

参考文献

1)  芹沢保教・篠沢健太・宮城俊作・城地園子:高蔵寺ニュータウンの住棟配置とオー

プ ン ス ペ ー ス に み る 土 地 造 成 の 特 徴, ラ ン ド ス ケ ー プ 研 究,78巻

5号,pp.773-776,2015.3

2)  篠沢健太・宮城俊作・城地園子:高蔵寺ニュータウン開発計画に及ぼした自然環

境構造の影響,ランドスケープ研究,78 巻 5 号,pp.761-766,2015.3

3)  篠沢健太・宮城俊作・根本哲夫:千里ニュータウンの集合住宅団地に内在する自

然 環 境 の 構 造 と そ の 形 成 過 程, ラ ン ド ス ケ ー プ 研 究,73巻5号,pp.731-736 ,

2010.3

4)  住宅団地施設資料集,住宅団地施設資料集刊行委員会編,日本住宅協会,1962.2

5)  松井高明:小笹団地の宅地造成について,新都市,16 巻 2 号,pp.25-30,1962.2

6) 福岡市都市計画基本図 , 図郭 65 六本松 -66 小笹 ,1978

2-4

図 10 56FVN,56FST,57FDY 平面略図 図 9 住棟と整地の関係

図 7 団地配置 (1978 年 )

注 6)

図 8 原地形に対する住棟の埋没・浮遊

注 7)

56FST 57FDY( 改修前 )

56FVN

バルコニー N

1

2 3

4

1

2 3

1

2 3

4

0 10m

②壁で住棟をずらし、高低差を処理

整地が広く ,

横並び4戸 ( 階段室 2 つ ) 以上にできる。

①住棟間の整地で高低差を処理

①の条件が満たせない場合 ,

住戸間の壁又は住戸・階段室間の壁

で住棟をずらすことで高低差を処理。

N

0 200m

埋没 浮遊

等高線:2m

56FVN 56FST 57FDY 56FCN 56FCS 分譲住宅

N

0 200m

参照

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