博 士 ( 医 学 ) 及 川 敬 太
学 位 論 文 題 名
鼻副鼻腔内反性乳頭腫における Magnetic Resonance Imaging (l¥/IRI) の
診断的役割及び治療戦略に関する研究
学位論文内容の要旨
[背景と目的]
鼻 副 鼻 腔 内 反 性 乳 頭 腫 (Inverted papilloma;IP)は 鼻副 鼻腔 に発 生 する 良性 腫瘍 の大 部分 を 占 める 疾患 であ る。 この 腫瘍 は良 性に も 関わ らず 周囲 組織 ヘ広 範に 浸潤 する性質を有し、再発率 が高く、さらに扁平 上皮癌(Squamous cell carcinoma;SCC)としばしば合併する。そのため外鼻側 切 開術 によ るmedial maxillectomyなどのen bloc切除が初回治療として 推奨されてきたが、顔面に 大 き な 切 開 を 加 え る 高 い 侵 襲 度 が 問 題 で あ っ た 。 近 年 、 内 視 鏡 下 鼻 副 鼻 腔 手 術 (Endoscopic sinus surgery; ESS)の発達により、一部の症例は低侵襲なESSにより治療されるようになってきたが、
術 式選 択の 基準 は未 だ確 立し てい ない 。 そこ で適 切な 術式 を決 定す るた めに、lPの進展範囲と存 在 部位 に基 づぃ たstaging systemが提唱されるようになった。今回の一 連の研究の目的は、第一に Magnetic Resonance Imaging (MRI)を用 いた 術前 評価 によ るIPの進 展 範囲 予測 の正 確性 を検 討 す るこ と( 諭jどJ) 、さらに適切なlP治療のためには再発症例に関する 多角的かつ詳細な情報が不 可 欠 で あ る た め 、 第 二 に 鼻 副 鼻 腔IP再発 症例 の臨 床的 特徴 、病 理所 見 、治 療結 果の 解析 を行 う こ と( 證jど ロ) 、最 後にMRIを用 いた 術 前stagingに従って術式選択を 行った前向き研究の結果を 解析することである(謝丈lZr)。
[対象と方法]
論jどJ: 手 術 所 見 と 病 理 所 見 に関 する 一切 の予 備知 識を 持た ない 評 価者 が、21例 のIP症例 の MRIをretrospectiveに評 価し た。Krouseの4段階 のstaging system (Tl:IPが鼻腔内に限局、T2:
IPが篩 骨洞 また は上 顎洞 内側 壁、 上壁 に 限局 、T3:IPが上 顎洞 の外 側壁 、下壁、前壁、後壁に進 展 、ま たは 蝶形 骨洞 、前 頭洞 に進 展、T4:IPが鼻 副鼻 腔領 域外 に進 展、 または悪性腫瘍が混在)
に 従 っ て 、21例 を 各stageに 分 類し 、各 副 鼻腔 にお ける 腫瘍 の進 展の 有無 につ いてMRI所 見と 実 際の手術・病理所見を比較した。
證ニ ぞロ :再 発IP症例13例 に関 してretrospectiveに検討した。初回 治療内容、再発部位、再発 時の治療術式、病理所見、再発までの期間などについて解析した。
謝 ー玄LV: MRIを用 いた 術前stagingに より 術式 を選 択し た22例の 鼻 副鼻 腔IP症例 を前 向き 研 究 で解 析し た。Krouseのstaging systemに加 えて 、T3疾患 は亜 分類 とし て前頭洞又は眼窩上蜂巣 に 腫 瘍 が 進 展 し て い る 場 合 をT3Bに 分 類 し 、 そ れ 以 外 をT3Aに 分 類 し た 。TlとT2症 例 で は標 準
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的なESSを第 一選択と した。T3A症例ではESSの他、ESSと犬歯窩アプローチの併用、内視鏡下 のmedial maxillectomyを含めた様々な内視鏡下アプローチを症例に応じて選択した。一方、T3B 症例では外切開での手術を選択した。これらの22例について術後再発の有無と術後合併症につ いても解析した。なお術後は全症例とも1年以上の経過観察を行った。
[結果]
諾´玄J: 21例中18例(86%)においてMRIによるstageと手術・病理所見によって確定した術後 のstageが一致した。この18例の内訳はTl;1例、T2;3例、T3;14例であった。MRIによって、実 際はT2であ る2例がT3と 過大評価 され、実 際はT3であ る1例がT2と 過少評価さ れた。各副鼻 腔別ではMRI診断と術後に確定した腫瘍の進展範囲が一致した症例は、篩骨洞と上顎洞でそれ ぞれ19例(90%)、前頭洞で18例(86%)、蝶形骨洞で20例(95%)であった。不一致症例は合計 でのべ8例、篩骨洞と上顎洞でそれぞれ2例(9%)ずつ、前頭洞で3例(14%)、蝶形骨洞で1例
(5%)認められた。このうち7例ではMRI診断で実際の進展範囲よりも過大評価し、1例のみ過少評 価した。MRIによるIPの副鼻腔への進展度診断の陽性適中率は各副鼻腔において68‑89%、陰性 適中率は93%以上であった。
ramjrー玄ロ:13例中4例は術後1年以内に再発し、他の4例は術後2‑5年で再発した。残りの5例 は術後7‑22年で再発を認めた。11例(85%)は篩骨洞に再発を認め、このうち8例(62%)は眼窩 内側壁に再発を認めた。病理学的に高度異型性を伴うIPは4例で認められ、このうち3例はその 後に癌化していた。この4例のIPのうち2例に対して頭蓋底手術を施行し、その後の再発を認めて いなぃ。しかし頭蓋底手術を施行していなぃ2例についてはさらなる再発を認めた。高度異型性が 認められなかった9例については、6例で外鼻側切開術を施行した。また限局した部位に存在し、瘢 痕形成を伴わなぃ再発腫瘍の3例に対してはESSを施行した。この9例については、再発に対する 手術後のさらなる再発は認めなかった。
讃ー玄」霤:術前のMRIによるstageと術後のstageは22例中、21例(95%)で一致した。T2症例8 例はすべて内視鏡下アプローチで治療を行った。T3A症例lO例のうち9例(90%)は内視鏡下アプ ローチで治療を行い、1例(残存腫瘍例)のみ外鼻側切開術を施行した。T3B症例は3例すべて外 鼻側切開 術で治療 を行った 。病理学 的検査でSCCの混在が 判明したT4症 例の1例は 外切開に よる手術を行い、さらに術後放射線治療を施行した。この22例についてはいずれも再発を認めてい ない。重 度合併症 は肉視鏡 下アプローチ後には認めなかったが、外切開を施行した5例中3例
( 60% ) で 流 涙 症 や 輸 血 を 必 要 と す る 出 血 な ど の 重 度 合 併 症 が 生 じ た 。
[考察]
MRIによる鼻副鼻腔IPの進展範囲の評価は高い確率で実際の進展範囲と一致し、不一致症例 においても、MRIによって腫瘍の進展範囲を過小評価する場合は稀であった。さらにMRIstaging で術式を決定した後に手術を行った前向き研究では、術後再発を認めなかった。これらの結果から 鼻副鼻腔IPの適切な 治療術式の計画、特に低侵襲な内視鏡下アプローチで治療可能な症例を 適切に選択するために、MRIによる術前stagingは極めて有用であり、結果としてIPの再発防止と 手術侵襲の軽減にっながると考えられた。
鼻副鼻腔IPは特に眼 窩内側壁において再発し易く、同部位の適切な処理が再発防止には不可 欠である。異型性を伴わなぃ再発IP症例の多くは外鼻側切開術によって根治切除が可能であり、
一部の症例はESSでも切除可能と考えられた。一方、高度異型性を伴った再発IP症例は高率にさ らなる再発と癌化の可能性を有するため、頭蓋底手術を含め悪性腫瘍に対する術式に準じた切除 方法を考慮すべきである。また、鼻副鼻腔IPには遅発性の再発例が存在し、術後の長期間の観察
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が推奨されると考えられた。
[結語]
MRI
による術前評価で鼻副鼻腔lP の進展範囲を正確に予測することは可能であり、MRI 診断に 基づく術前staging は鼻副鼻腔IP の手術術式の選択、特に内視鏡下手術が可能な症例の適切な 選択には非常に有用であると考えられた。
今回の一連の研究結果は、鼻副鼻腔IP に対する適切な手術治療指針を作成する上で極めて有 益な情報を提供するものと考えられた。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 福田 論 副査 教授 自土博樹 副査 教授 山本有平
学 位 論 文 題 名
鼻副鼻腔内反性乳頭腫における Magnetic Resonance Imaging (MRI) の
診断的役割及び治療戦略に関する研究
鼻 副 鼻 腔 内 反 性 乳 頭 腫(Inverted papilloma;IP)は 良 性 に も 関 わ ら ず 周 囲 組織 ヘ広 範 に浸 潤 す る 性 質 を 有 し 、 再 発 率 が 高 く 、 扁 平 上 皮 癌 と し ば し ば 合 併 す る 。 そ の た め 外 鼻 側 切 開 術 な ど のen bloc切 除 が 推 奨 さ れ て き た が 、 高 い 侵 襲 度 が 問 題 で あ っ た 。 一 方 、 内 視 鏡 下 鼻 副 鼻 腔 手 術(Endoscoplc smus surgery;ESS)の 発 達 に よ り 、 一 部 の 症 例 に 対 し て 低 侵 襲 な ESSが 適 用 さ れ る よ う に な っ た 。 し か し 術 式 選 択 基 準 は 未 だ 確 立 し て い な い 。 そ こ で 適 切 な 術 式 を 決 定 す る た め に 、IPの 進 展 範 囲 と 存 在 部 位 に 基 づ ぃ たstaging systemの 必 要 性 が 提 唱 さ れ た 。 適 切 な 術 前stagingに は 画 像 診 断 が 重 要 と な る 。
そ こ でMRIを 用 い た 術 前 評 価 に よ るIPの 進 展 範 囲 予 測 の 正 確 性 の 検 討 を 行 っ た 。IP症 例21例 のMRIをKrouseのstaging system (Tl: 鼻 腔 内 に 限 局 、T2: 篩 骨 洞 ま た は 上 顎 洞 内 側 壁 、 上 壁 に 限 局 、T3: 上 顎 洞 外 側 壁 、 下 壁 、 前 壁 、 後 壁 に 進 展 、 ま た は 蝶 形 骨 洞 、 前 頭 洞 に 進 展 、T4: 鼻 副 鼻 腔 領 域 外 に 進 展 、 ま た は 悪 性 腫 瘍 が 混 在 ) に 従 っ て 分 類 し 、 腫 瘍 の 進 展 度 をMRI所 見 と 実 際 の 手 術 ・ 病 理 所 見 で 比 較 し た 。21例 中18例(86% ) に お い て MRIに よ るstageと 手 術 ・ 病 理 所 見 に よ るstageが 一 致 し た 。MRIに よ るIPの 副 鼻 腔 へ の 進 展 度 診 断 の 陽 性 適 中 率 は 各 副 鼻 腔 に お い て68‑89% 、 陰 性 適 中 率 は93% 以 上 で あ っ た 。 次 に 鼻 副 鼻 腔IP再 発 症 例 の13例 の 解 析 を 行 っ た 。 術 後7‑22年 で 再 発 を 認 め た 症 例 が5 例 あ り 、 術 後 の 長 期 間 の 観 察 が 推 奨 さ れ る と 考 え ら れ た 。85% は 篩 骨 洞 に 再 発 を 認 め 、 特 に 眼 窩 内 側 壁 に お い て 再 発 し 易 く 、 同 部 位 の 適 切 な 処 理 が 再 発 防 止 に は 不 可 欠 で あ る と 考 え ら れ た 。 異 型 性 を 伴 わ な い 再 発IP症 例 の 多 く は 外 鼻 側 切 開 術 に よ っ て 根 治 切 除 が 可 能 で あ っ た 。 一 方 、 高 度 異 型 性 を 伴 っ た 再 発IP症 例 は 高 率 に さ ら な る 再 発 と 癌 化 の 可 能 性 を 有 す る た め 、 悪 性 腫 瘍 に 対 す る 術 式 に 準 じ た 拡 大 切 除 を 考 慮 す べ き と 考 え ら れ た 。 最 後 にMRIを 用 い た 術 前stagingに よ り 術 式 を 選 択 し た22例 の 鼻 副 鼻 腔IP症 例 を 前 向 き 研 究 で 解 析 し た 。Krouseのstaging systemに 加 え て 、T3疾 患 は 亜 分 類 と し て 前 頭 洞 又 は 眼 窩 上 峰 巣 に 腫 瘍 が 進 展 し て い る 場 合 をT3Bに 分 類 し 、 そ れ 以 外 をT3Aに 分 類 し た 。 術 前 のMRIに よ るstageと 術 後 のstageは22例 中 、21例(95% ) で 一 致 し た 。T2症 例8例
全 例 とT3A症 例10例 中9例 は 内 視 鏡 下 ア プ ロ ー チ で 治 療 を 行 っ た 。T3B症 例 は3例 す べ て外鼻側 切開術で 治療を行 った。い ずれも術後 再発を認 めていな い。重度 合併症は 内視鏡 下ア プ ロ ーチ 後 には 認 め なか っ たが 、 外 切開 を 施 行し た5例 中3例(60% )で 重 度 合併 症
(流涙症及び輸血を必要とする出血)が生じた。
以 上 よりMRIによ る 術 前評 価 で 鼻副 鼻 腔IPの 進展 範 囲を 正 確 に予 測 す るこ と は可 能 で あり 、MRI診断 に 基づ く 術 前stagingは 鼻副 鼻 腔IPの 手 術術式 の選択、 特に内視 鏡下手術 が可 能 な 症例 の 適切 な 選 択に は 非常 に 有 用で あ る と考 え られ た 。 また 改 変し たstaging systemは有用で あり、こ れに基づ く術式選 択は結果と してIPの再 発防止と 手術侵襲 の軽減 にっなが ると考え られた。 今回の一 連の研究結 果は、鼻 副鼻腔IPに 対する適 切な手術 治療 指 針 を 作 成 す る 上 で 極 め て 有 益 な 情 報 を 提 供 す る も の と 考 え ら れ た 。 口 頭 発表 後 、副 査 の 白土 教 授 から 「 鼻副 鼻 腔IPの 診断 に お けるCTの有 用 性」 「MRI診 断におけ る過少評 価、過大 評価例に 対する対策 」「T4症例 の診断方 法」にっ いて、副 査の 山本教授 から「術 後に必要 を観察期間」「術者の手術技量による治療成績の差(特に内視鏡 手術症例 )」「異 型性レベ ルの術前 予想の可能 性」「内 視鏡手術によるen bloc切除の可能 性」 に っ いて 、 主査 の 福 田教 授 から 「MRIの解 像 能 力、 及 び評 価 者 のMRI読 影能 カ のMRI stagingの正確性への影響」「病理学的側面のstaging system/丶丶の導入」についてそれぞれ質 問がなさ れた。申 請者は研 究結果や 臨床的デー タ、文献 的知識に 基づぃて 、いずれ に対し ても適切に解答した。
こ の 論文 は 、MRIに よ る術 前 評 価で 鼻 副鼻 腔IPの 進 展範 囲 を 正確 に 予 測す る こと が 可 能である ことを示 した点、 及び鼻副 鼻腔IPの手術 術式の選 択、特に 内視鏡下 手術可能 症例 の適切な 選択にお けるMRI診断 に基づく 術前stagingの有用 性を示し た点が高 く評価さ れ、
今後、本 研究結果 は鼻副鼻 腔IPに対す る適切な手 術治療指 針の構築 にっなが るものと 期待 される。
審査員一 同はこれ らの成果 を高く評 価し、申請 者が博士 (医学) の学位を 受けるの に充 分な資格を有するものと判定した。