教材としてのオペラくあまんじゃくとうりこひめ〉について
臼 井 英 男
(1986年11,月5日受理)
1 は じ め に
音楽の形態として,オペラは総合芸術としての魅力に満ちたものであるが,文部省の小学校学習指導 要領においては,音楽鑑賞共通教材として五つのオペラ(名称は歌劇として)作品の中から各1曲の計
5曲})即ち,第1学年ゴセック作曲くロジーヌ>2)のttガボット・,第2学年ヘンデル作曲くアルチーナ〉
よりttメヌエット ,第3学年スッペ作曲く軽騎兵〉より rr {i; 曲 ,第4学年ラモー作曲くカストールと ポルークス>3)よりCtガボット ,第5学年ロッシーニ作曲くウィリアム・テル〉より 序曲 が選ばれ
ている。これ等は全て管弦楽によるもので,歌唱を含む場面は対象とされていない。もっとも,前述の オペラ作品のリブレットは外国語によっているので,歌唱を含む部分は小学生向きとはいえない。但し,
相応の歌唱部分があれば,日本語による訳詞の活用もあると思えるが。
オペラは,通常,種々の要素によって構成されているので,学校教育においては,学年によって取り 扱いできるものを作品の中から部分的に選んで扱うことも一つの方法である。しかし,可能であれば,
作品の一部,一部省略,或いは抜粋ではなく,1作品の全てを教材の対象とすることが望ましいのは当
然である。オペラ作品を省略することなしに教材の対象とする条件は,作品が小規模であること,単純なストリ ーで,詞が平易で理解しやすく,しかも児童に親しみやすいこと,そして音楽が平易で,かつ説得力を 持つことである。この条件にかなう作品は数少ないが,その数少ない例を若林一郎リブレット,林光作 曲のオペラ作品くあまんじゃくとうりこひめ〉にとり,小規模のオペラ作品を省略することなしに,小 学校中,高学年向けの音楽鑑賞教材として取り扱うことの可能性について考察してみたい。
2 オペラくあまんじゃくとうりこひめ〉のリブレットについて
オペラの所謂ソリストとしての登場者の数はs.グランド・オペラと小規模なオペラ(上演時間30分程 度)とでは必然的に異なる。小規模なオペラ作品の場合,一般的には,その数をストリーの展開に欠く
ことのできない必要最少限に絞り込むことが大切である。但し,ストリーの展開には必要なくとも,音
楽の展開上必要とされる登場者も勿論ある。リブレットの詞の量について述べれば,詞を地のせりふとして扱う場面もあるが,通常は詞を音楽化
する訳であるので,時間的に引き延ばされ,同じ詞を用いるとして,演劇の場合よりもオペラの方がよ
り長い時間を必要とする。作曲家の手法によりさまざまであるが,一般的にその比は,およそ1対3で
ある。上演時間を30分程度のオペラとする場合には,詞を地のせりふとして10分から10分少々で消化で
きるものに制限される。詞の量が多めの場合には,歌唱以外に地のせりふ,或いはレチタティーヴォに
よる手法も駆使される。いずれにしても,上演時間30分程度の小規模なオペラとなれば,ストリーの組
み立てば単純なものとせざるを得ない。なお,地のせりふやレチタティーヴォの手法は,決して二次的 なものではなく,ストリーの展開を分かり易くし,又その流れをスピーディに運ぶことに役立つ。特に,
地のせりふはリアルな面を強調し得る大きな利点を持うている。
オペラくあまんじゃくとうりこひめ〉の原材は,〈瓜子姫子〉,〈瓜姫子〉,〈瓜子織姫〉,或いは
〈瓜子姫子と天の邪鬼〉,〈瓜姫子と天の邪鬼〉等の名で知られる民話によっている。この民話の内容
は,地方によって異なるが,その型は〈日本昔話集成>4)によれば次のようになる。1.婆が川で瓜を拾 いその中から姫が出る。2.姫は機を巧みに織る。3.姫は嫁入りすることになる。4a.爺婆が嫁入着物を買いに行った留守に天の邪鬼が来て殺し,姫に化ける。4b.または姫を誘い出して柿の木に縛 りつけて姫に化ける。5a.姫に化けた天の邪鬼が嫁入する途中で鳥が鳴いて知らせる。5b.または 姫自身が化の皮をはぐ。6.天の邪鬼は追われまたは殺され,姫が嫁入する。7.きび,蕎麦の根の赤
いのは天の邪鬼の血で振ったためである。オペラくあまんじゃくとうりこひめ〉のリブレットは,前記の型を全て網羅することはせず,型その ものとしては,1と2のみをそのまま採用し,3と4bを変形させて扱い,瓜子姫や天の邪鬼が殺される
こと及び鳥の登場を省いて,明るく,楽しい一幕ものとし,Nα1からNo. 8までの区分をもって構成している。
登場人物は,うりこひめ,あまんじゃく,ぢっさ,ばっさ,とのさん及びけらいの6名である。表15)
は,人物の各場の登場状況を示すものであるが,ぢっさとばっさ及びとのさんとけらいは必ずペァで登 場し,人物相互の関係を明確にしている。又,この2組は,同時に登場して会話を持つことはなく,ス
トリーの複雑さを避けている。表1のNe. 1からNo. 8までの信管の登場人物の数は4人以上ということは
なく,たとえそれが4人であっても,あまんじゃくは「べつの場所」で,卸うりこひめは「納戸の中」で として,他の登場者達と隔りを置くことで対置関係を明白にしている。話の大筋は,人まねと人のさか さまが大好きなあまんじゃくが,うりこひめをさらいに来たとのさんを,さかさまの論法で追い払うと いうものである。ストリーは,あまんじゃくの独白(機を織りたい願望とうりこひめをとのさんから救
表1 各場における人物の登場状況
場所
うりこひめこの家 家の外 納 戸 べつの場駈冠α1 うりこひめこ じつさとばっさ
Nα2 うりこひめこ じつさとばっさ あまんじゃく
Nα3 うりこひめこ あまんじゃく
蔑α4 とのさんとけらい
?まんじゃく Nα5 うりこひめこ あまんじゃく
恥6 あまんじゃく とのさんとけらい うりこひめこ
潤α7 あまんじゃく じつさとばっさ うりこひめこ
Nα8 うりこひめこ じつさとばっさ 鬼?まんじゃく
おうとする意志表示)と2人の会話(うりこひめにあまんじゃくには用心せよというじつさとばっさ,
うりこひめをさらう計画を立てるとのさんとけらい,うりこひめを助けようとするあまんじゃくのうり
こひめとのやりとり)によって展開されるが,いずれの場においても,人物の登場を必要最少限におさ
えて,しかもそれぞれの人物の立場を明確にし,簡潔にまとめられている。
3 オペラくあまんじゃくとうりこひめ〉の音楽について
人物の左註及びオーケストラ編成は下記の通りである。6)人物
うりこひめ あまんじゃく ばっさ じつさ けらい とのさん
声紋 ソプラノ ソプラノ
む げ
メッソ。ソフフノ バリトン(バス)
テノール バリトン
オーケストラ楽器編成
フルート 混一ボエ クラリネット ファゴット ホルン
ヴィブラフォーン シロフォーン グVッケンシュピール ウッドフロック スネア・ドラム
チェンバロ
弦楽5部
サスペンデッド。シンバル
バス・ドラムティンパニ・一 2
オペラくあまんじゃくとうりこひめ〉の全体構成は,前述のリブレットのNo. 1からNe. 8までの場をそ のまま用い,冒頭に10小節よりなる序をおき,又それをNo. 8の後にそのまま後奏として生かしている。
上演所要時間はおよそ25分である。
人物の声種について述べると,それぞれの役に相応しい声種が選ばれているが,あまんじゃくのソプ ラノは,メッゾがかった方が役柄により適していると思えるし,又その方がソプラノのうりこひめと声 の質での対照も生じ効果的と考えられる。オーケストラの楽器編成は,通常の編成とは異なり,打楽器 を8種類と多くしてその効果を十分に意図している。上演に際し,オーケストラではなく,ピアノによ る場合にも,ウッドブmック,スネア・ドラム,サスペンデッド・シンバル,バス・ドラムを併用する
ことが望ましいとボーカル・スコア7)に記していることはうなずける(記入者名は見当らないが,多分作 曲者自身によるものと思われる)。次に,このオペラの音楽的な特徴について述べる。まず,序(旧例1)についてであるが,夢を期待
譜例1序 林 光一作曲
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させるような旋律がフルートで提示され,それをクラリネット,次にオーボエが受け,続く5小節で盛
りあがりを見せ,全奏で締めくくる。この序は,No.・1のうりこひめの作業唄である機織り唄(譜例2)8)を巧みに引き出し,又後奏としてそのまま用いられることにも何んらの違和感もなく,ストリーの結末 として,うりこひめが「おら なんともおもっとらんによオ あまんじゃくウ」というほのぼのとした
雰囲気づくりにも貢献している。打楽器の効果的な用例として,機織り唄をあげる。この唄は,前記のように機織りの作業唄として書 かれているが,いかにも機を織っているように描写されている。唄の旋律は単純ながら,素朴さと楽し さに溢れ,小学校の中,高学年生であれば,一度この旋律を聞けばすぐに覚えるであろうし,又歌える
譜例2
No. 1
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ちん か らとんとん ちん か らとん ちん からとんとん ちん か らとん
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サ ,
X 蓋 ,
f歪 蓋
ヴ ソ ヴ ソ ヲ ソ ヴ
〉 > >
> > > > > > > > >筈である。打楽器は,ウッドブロックとスネア・ドラムにより,交互に一連のリズムを機織りの音とし て奏し,情景描写を効果的なものにしている。情景描写を巧みに音楽で表現している場面は,機織りの
唄の場のみならず,同じNe. 1の中の瓜が川を流れている様子, No. 2のじつさとばっさがとぼとぼと町に買い物に出掛ける様子,Nα4のとのさんのふんぞり返って登場する様子,同じ場最後のあまんじゃくが とのさんからうりこひめを救うためにすっとんで行く様子等,存分に効果的な描写音楽が盛り込まれて
いる。
歌唱形態としては,機織りの唄が唯一のソロで,重唱は二重唱と三重唱,それにチェンバロ又はオー
ケストラの和音に支えられるレチタティーヴォとがある。地のせりふは,打楽器のみによる又はオーケ
ストラによって奏される音楽に合わせるものと,全くのせりふのみという場合とがある。譜例39)はNo. 6夢 3
並臼ニコロ
い
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け と
とのさん とのさん いますでいますで
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@ フ ワァ 一 一 一
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のとのさんがけらいを伴って,うりこひめの家の中をのぞきこみ,うりこひめをさらおうとする場であ
る。地のせりふは,たとえオーケストラの奏す音楽にリズムを合わせて語る場合でも,リアルな面が強調され効果的である。しかも,オーケストラがその場に相応しい音楽を奏している場合であれば,その効 果は倍加する。緊迫する状態,何か大事が生じて詞が多くなる場合等,地のせりふの活用は,オペラに とって重要である。小学生対象のオペラ鑑賞教材としては,地のせりふ或いはレチタティーヴォを伴う
ことが,ストり一展開を容易にさせることにつながり,一つの条件とさえ言える。歌唱の音域は,各人物共に無理のない広さと高さで,歌うというよりも,語るように歌うことに主眼 が置かれている。例えば,ソプラノのうりこひめの場合,1点二音から2点#へ音,ソプラノのあまん じゃくは,1点口音から2点へ音までと共に11度の範囲であり,通常オペラで用いられる高音域は使用 されない。高音域での歌唱は,えてして詞が不明確になる傾向にあるが,このオペラのように,歌うと いうよりも,語るように歌うことの方が,聴く者にとっては,詞の理解が容易に得られるし,加えて,
前記のように地のせりふ,又はレチタティーヴォ,或いは描写的な音楽を用いているので,ストり一の 展開を詞と音楽両面から容易に理解させる要因を持ち合わせているといえる。
お わ り に
オペラくあまんじゃくとうりこひめ〉は,上演所要時間およそ25分の小規模なオペラであるが,オペ ラとして備えるべきものは全て身につけている。このオペラを省略することなしに,小学校中,高学年 向けの音楽鑑賞教材として取り扱うことができるか否かが,この小論の目的であるが,リブレット及び 音楽についての考察では,他の音楽鑑賞共通教材と比較してみても特に難かしいというものではない。
但し,共通教材の演奏時間で最も長い第5学年向けのオペラ<ウィリアム・テル>tt序曲 の約ll分と比 較してみると,このオペラの上演時問約25分はおよそ2下等であるので,取り扱いの授業時間数を多め
にとらざるを得ない。授業以外での鑑賞方法の一つとしては,現在,茨城県下で行われている旋のしいオペラ教室 (茨城県教
育委員会,茨城県福祉事業団,及び開催地各教育委員会主催)方式がある。これは,8年前から行われ ている茨城県独自の小,中学生対象のオペラ鑑賞教室で,演奏を専門家にゆだね,県内を隅なく移動巡 回し,主に学校の体育館でオペラを上演するものである。よい歌手によって上演されるオペラを目の前 で直接見聞きすることは鑑賞のあり方として重要である。生の演奏は,レコード等と異なり生きた雰囲 気を持っており,たとえ,音響の不備な体育館での鑑賞であってもその意義は大きい。
注
1)
2)
︶︶︶︶︶︶︶り◎4 0ρ070QQソ
文部省小学校指導書音楽編。1978。116 一 117頁。
<Rosine>.文部省小学校学習指導要頷においても,又小学校指導書音楽編においてもオペラの作品名を 記していない。
<Castoret Pollux> 2)の注と同文。
関敬吾。1953。『日本昔話集成』第二部本格昔話1(角川書店),361 一 362頁。
燭光。1978。『あまんじゃくとうりこひめ』(全音楽譜出版社),51 一 56頁。
三光。同上書, 3頁。
林光。同上書, 3頁。
林光。同上:書, 3頁。
林光。同上書,40頁。