東北医科薬科大学
審査学位論文(博士)
氏名(本籍)
ウノ タカシ宇野 尭(北海道)
学位の種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬学第 18 号
学位授与の日付 令和 3 年 3 月 10 日
学位授与の要件 学位規則第4条1項該当
学位論文題名 Biofilm
形成Staphylococcus aureus
に対するin vitro rifampicin
併用 療法の殺菌および耐性に関する研究論文審査委員
主査 教 授 村 井 ユリ子
副査 教 授 柴 田 信 之
副査 教 授 藤 村 茂
Biofilm 形成 Staphylococcus aureus に対する
in vitro rifampicin 併用療法の殺菌および耐性に関する研究
東北医科薬科大学大学院薬学研究科 薬学専攻博士課程 臨床感染症学教室
宇野 尭
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目次
略語表 ・・・・・ 3
序論 ・・・・・ 5
第一章:Staphylococcus aureus の in vitro biofilm 形成モデルに対する各種抗菌薬 の抗菌力について 第一節 緒言 ・・・・・ 8
第二節 材料と方法 ・・・・・11
第三節 結果 ・・・・・16
第四節 考察 ・・・・・24
第五節 小括 ・・・・・27
第二章: Biofilm 形成 Staphylococcus aureus に対する rifampicin をベースとした併 用投与の殺菌効果と rifampicin 耐性抑制について 第一節 緒言 ・・・・・28
第二節 材料と方法 ・・・・・30
第三節 結果 ・・・・・33
第四節 考察 ・・・・・43
第五節 小括 ・・・・・46
2
第三章:Rifampicin 耐性 S. aureus 株の rifampicin 曝露による biofilm 形成の変化 とその関連因子について
第一節 緒言 ・・・・・47
第二節 材料と方法 ・・・・・49
第三節 結果 ・・・・・52
第四節 考察 ・・・・・59
第五節 小括 ・・・・・61
総括 ・・・・・62
謝辞 ・・・・・65
引用文献 ・・・・・66
論文目録 ・・・・・79
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略語表
以下の略語を本文および図表中で使用した。
CAM … clarithromycin CEZ … cefazolin
CFU … colony forming unit
CLSI … Clinical and Laboratory Standard Institute CV … crystal violet
eDNA … extracellular DNA
MBEC … minimum biofilm eradication concentration MHA … Mueller-Hinton agar
MIC … minimum inhibitory concentration
MRSA … Methicillin-resistant Staphylococcus aureus MS … methicillin susceptible
MSSA … Methicillin-susceptible Staphylococcus aureus PBS … phosphate buffered saline
PIA … polysaccharide intercellular adhesin PJI … prosthetic joint infection
PK/PD … pharmacokinetics/pharmacodynamics POT … PCR-based open reading flame typing RCA … exposed with rifampicin plus clarithromycin RCE … exposed with rifampicin plus cefazolin RFP … rifampicin
RV … exposed with rifampicin plus vancomycin
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SEM … scanning electron microscope
TSBG … tryptic soy broth with 1% glucose
VCM … vancomycin
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序論
化膿性脊椎炎や骨髄炎など整形外科領域の感染症の治療に抗菌化学療法が行
われる場合、その治療期間が 3 か月以上と長期化する
1)。これは、骨および近傍 組織における血流が少ないため、抗菌薬の移行濃度が低いことがあげられるが、
人工股関節置換術や人工膝関節置換術などの術後にみられる人工関節周囲感染
症 (periprosthetic joint infection: PJI) では、デバイス表面上の細菌が biofilm を形 成するため治療が遷延する。日本環境感染学会が 2012 年から 2019 年までに実 施した手術部位感染サーベイランスでは、PJI 患者の起因菌として biofilm を形 成することが知られる staphylococci が 73 – 78%と最も多かった
2)。Biofilm は
1978 年に Antonie van Leeuwenhoek により世界で初めて歯垢から発見されたが、
これは細菌が生態系におけるストレスから自身を守るために菌体周囲に形成す
るマトリックスであり、その主成分は多糖体である
3)。 Biofilm の役割は、一般 に抗菌薬や消毒薬が菌体内に入る前の段階で取り込みを阻止し、菌体の生存を
維持させることである。したがって、PJI のように biofilm 形成菌によるデバイ ス関連感染の治療では、biofilm への対応も考慮しなければならない。米国感染
症学会が公表した PJI の診療ガイドライン
4)では、PJI の治療は人工関節再置換 術などの外科的治療と内科的な抗菌化学療法が行われる。 PJI において biofilm 形
成を伴う staphylococci が分離された場合、biofilm への浸透性が高いと考えられ
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ている rifampicin (RFP) の併用療法が行われている。日本においても、日本感染
症学会・日本化学療法学会が発行している JAID/JSC 感染症治療ガイドで 2019 版から RFP の併用投与について記載された
5)。
RFP は、日本において主に肺結核に対して長年使用されてきた。その適応菌種 は、Mycobacterium tuberculosis であるため
6)、本来 staphylococci に対しては不 適切使用となる。結核の治療では、RFP が単剤で使用された場合、早期に RFP 耐性を獲得するため、他の抗結核菌薬と併用投与が行われている
7)。すなわち、
RFP は結核菌と同様に他の菌種に対しても容易に耐性化する可能性がある。そ
のため biofilm 形成 staphylococci に対する RFP と他の抗菌薬との併用療法は、
RFP 耐性化の抑制が目的となっている。しかしながら、こうした RFP 併用療法 における治療成績の有効率は 76%であったとする一方で、RFP 投与の有無で治 療効果に差が無かった報告など、一定のエビデンスが得られていない
8-10)。さら
に RFP は Cytochrome P450 (CYP) をはじめとする肝薬物代謝酵素、P 糖タンパ
ク質を誘導する作用があり、臨床においては、他の医薬品との相互作用や副作用 に十分注意を払う必要があるため、漫然と投与されるべきではない。
本研究では staphylococci のうち分離頻度が最も高い Staphylococcus aureus を用
いた biofilm 形成菌に対する RFP 併用療法と RFP 耐性に焦点をあて、以下の検
討を行った。第一章では、S. aureus の in vitro biofilm 形成モデルを作成し、単剤
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で抗菌薬を曝露させた際の殺菌力について検討した。第二章では、同様のモデル
を使用し、RFP と他抗菌薬の併用で曝露させた場合の殺菌効果と RFP 耐性抑制
効果について検討した。 第三章は、 RFP 耐性 S. aureus への RFP 曝露による biofilm
形成量の変化とその関連因子について解析した。
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第一章
Staphylococcus aureus の in vitro biofilm 形成モデルに対する 各種抗菌薬の抗菌力について
第一節 緒言
Staphylococcus aureus は、皮膚常在菌であることから主に手術後の創部感染を
引き起こすことが知られているが、近年、インプラント等医療用デバイス表面に も容易に感染巣を作る
11)ことが明らかになり、整形外科領域における人工関節
等のデバイス表面に付着し、そこから菌の集合体である biofilm を形成すること が問題になっている。Biofilm は、自身からの分泌もしくは環境に存在するタン
パク質、多糖体および extracellular DNA (eDNA) などの小分子が細胞外マトリッ クスに埋め込まれており
3, 12-14)、この biofilm を形成した S. aureus は、抗菌薬の 透過性を減弱させるため抗菌薬の有効性が低い。Ceri H et al.
15)は S. aureus の浮 遊菌に対する抗菌薬の最小発育阻止濃度 (MIC) と biofilm 形成状態の菌に対す
る最小 biofilm 根絶濃度 (MBEC) を比較したところ、MBEC 値は MIC 値の 100
– 1000 倍であったと報告している。また、S. aureus による人工関節感染症 (PJI:
prosthetic joint infection) 患者を対象とした抗菌薬単剤での治療は、寛解率が 63 –
9
65%であり、3 割以上が治療失敗もしくは再発している
16, 17)。
日本感染症学会・日本化学療法学会が発行している JAID/JSC 感染症治療ガイ
ド 2019
5)において、biofilm が形成されていると想定される術後骨髄炎の治療
は、抗菌薬の骨組織濃度を確保するため、経口抗菌薬による初回投与は推奨され
ず、基本的に 6 週間以上の経静脈投与が推奨されている。しかしながら、多くの 抗菌薬は、骨組織への移行性が悪く、デバイス表面の biofilm 形成菌を殺菌でき る濃度に到達しない可能性がある
18, 19)。
Rifampicin (RFP) は、 biofilm への優れた透過性
20)が報告されていることから、
biofilm 形成 S. aureus に対する殺菌効果が期待されている。Biofilm 形成の
methicillin-resistant S. aureus (MRSA) を用いた in vitro PK/PD モデルに対する殺菌 効果の検討において、Daptomycin (10 mg/kg) と RFP (600 mg) の併用により、対 象菌株は検出限界まで減少したが、これら両薬剤の投与量は適応外となってい る
21)。このように比較的高濃度の抗菌薬における検討はされているものの、骨
組織濃度での biofilm 形成 S. aureus に対する殺菌効果の報告は少ない。
第一章では、biofilm に対する効果が期待される RFP、S. aureus 骨髄炎治療の
第一選択薬である cefazolin (CEZ) 、MRSA 感染症だけでなく S. aureus 感染症
のペニシリンアレルギー患者で選択されることがある vancomycin (VCM)
19)、
さらに抗 biofilm 効果が期待されている clarithromycin (CAM)
22)の計 4 薬剤を
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用いて、S. aureus の in vitro biofilm 形成モデルに対する骨組織濃度での殺菌効
果を検討した。
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第二節 材料と方法
2.1. 使用菌株と抗菌薬
使用菌株は、東北地方の総合病院 16 施設より臨床分離された S. aureus 292 株 のうち、異なる施設から分離された 9 株を選択した (Table 1) 。さらに、標準株 として S. aureus ATCC 29213 株を用いた。臨床分離された S. aureus 9 株の検体由 来は、膿、喀痰、耳漏などであった。
使用抗菌薬は cefazolin (CEZ: Sigma-Aldrich Co., LLC, Tokyo) 、 vancomycin
(VCM: Shionogi Co., Ltd. Osaka) 、clarithromycin (CAM: Taisho Pharmaceutical Co.,
Ltd. Tokyo) 、rifampicin (RFP: WAKO, Osaka) を用いた。
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Table 1 Origin of Staphylococcus aureus used in this study
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2.2. 抗菌薬感受性試験
S. aureus に対する CEZ、 VCM、 CAM および RFP の MIC を Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI) に準拠し、微量液体希釈法
23)で決定した。CLSI M100- S22 のブレイクポイント
24)に従い、各薬剤の MIC が CEZ: ≧32 µg/mL、VCM:
≧16 µg/mL、 CAM: ≧8 µg/mL、 RFP: ≧4 µg/mL を示した場合にそれぞれ耐性と 判断した。
2.3. PCR-based Open Reading Flame typing (POT) 法による遺伝子型の決定
使用菌株の遺伝子型を PCR-based Open Reading Flame typing (POT) 法を用いて 解析した。すなわち、菌株を識別可能な複数の Open Reading Flame を、マルチプ レックス PCR 法によって増幅した。各々の菌株から DNA を抽出し、 Cica geneus
®Staph POT kit (Kanto Chemical Co., Inc. Tokyo) に添付されたプライマーミックス
を用いて 94℃15 秒、60℃3 分を 30 サイクルの PCR を実施した。その後、4%ア
ガロースゲルを用いて 100V、 60 分間の電気泳動を行い、確認された増幅バンド
パターンから POT 値を算出した。
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2.4. in vitro biofilm 形成モデルの作製
被検菌株は、Mueller-Hinton agar (MHA: Eiken, Tokyo) に塗抹後 37℃、24 時間 培 養 し た 。 発 育 し た コ ロ ニ ー を 1% glucose 含 有 Tryptic soy broth (Becton, Dickinson and Company, Tokyo) (TSBG) 10 mL に接種し、 菌液濃度が 1× 10
8CFU/mL となるよう調整した。 この培養液中に滅菌処理された内径 4.0 mm、 外径 10.0 mm、
厚さ 0.8 mm のステンレスワッシャー (Ohsato Co., Ltd. Tokyo) を配置し 37℃、
48 時間振とう培養することにより、biofilm 形成モデルを作製した。
2.5. 走査型電子顕微鏡 (SEM) を用いた biofilm の確認
形成された biofilm を走査型電子顕微鏡 VE-8800 (SEM: Keyence, Osaka) を用 いて確認した。 すなわち、 biofilm 形成菌が増殖したワッシャーを PBS で洗浄し、
2.5%グルタルアルデヒドにより 24 時間室温で固定後、エタノール (50%、 75%、
99.5%) にて各々10 分間浸漬することにより脱水処理した。サンプルはマグネ
トロンスパッター (Keyence) を使用し、金でスパッターコーティング
25)した後
に、加速電圧 10 kV で SEM を使用して観察した。
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2.6. Biofilm 形成 S. aureus に対する各抗菌薬の曝露による殺菌力の検討
Biofilm 形成モデルは、 1 株に対し 7 枚作成し 24 時間ごと新たに各抗菌薬含有
TSBG に配置後、37℃で計 120 時間培養した。生菌数は、0 時間および 24 時間 ごとにワッシャーを 1 枚ずつ取り出し、それぞれ 3 回洗浄後 PBS 1 mL にて 50 回揉みこみ、biofilm 形成 S. aureus を懸濁させた後に測定された
26)。この時、
10
2CFU/mL を検出限界とした。抗菌薬の濃度は、各薬剤を常用量投与時の骨組
織濃度を参考に、それぞれ CEZ: 20 µg/mL
27)、VCM: 7 µg/mL
28)、CAM: 1 µg/mL
25)