130 金沢大学十全医学会雑誌 第81巻 第1号 130−134 (1972)
白癬菌の酵素組織化学的研究
〔]1〕寄生状態の菌における酵素活性
金沢大学医学部皮膚科学講座(主任:福代.良一教授)
柳 下 邦 男
(昭和47年3月21日受付)
本論文の要旨は,第15回日本真菌学会総会において発表した.
ここでは寄生状態の白癬菌における酵素活性を検索 し,それにおよぼす抗白癬菌剤の影響を調べた,以下
にその成績を述べる.
材料と方法
材料 ケルスス禿瘡から分離した星芒状白癬菌
(Trichophyton asteroides, T. ast.と略)の新鮮 な稼を用いた.
方法 1.菌接種:科研法1)に従った.すなわち,
モルモットより逆培養したT.ast.3代目,20日間 培養の1斜面を10m1の生理食塩水に混じて菌懸濁
液を作成,これを別のモルモットの背部皮膚3カ所に接種した.
2.薬剤:用いた薬剤はハイアラージン軟膏(市販 品,2%のナフチオメートーTを含有)および0.5%マ ーゾニン軟膏(自家製,チメロサールを0.5%含有,
カーボワックス基剤)の2種:である.菌接種部位の炎 症が最も激しくなる10日〜14日目より,接種部位の2
カ所にそれぞれ薬剤約1gを1日1回,6日間,塗擦
した.接種部位の残りの1カ所は対照部位として薬剤塗擦せず放置した.
3.生検:薬剤塗擦終了の翌日に接種部位3カ所か らそれぞれ生検.
4.凍結切片:生検標本から25〜30μの厚さの凍結
切片を作製.
5」酵素反応:検索した酵素反応の種類はglucose−
6−phosphate dehydrogenase(G−6−PDH), succi・
nate dehydrogenase(SDH), cytochrome oxidase
(Cyt_ox), alkaline phosphatase(a1−p−ase)の4
種類である.方法は第1報におけるそれぞれの酵素反応と同じにした.
成 績
1.G−6−PDH反応 T. ast.の寄生状態の菌要
素は菌糸,それの短かく分節したもの,分節胞子形の集まり等として見られ,いずれにもG−6−PDH酵素 反応は陽性であった(図1).ハイアラージン軟膏処 理の場合(図2)にも,またマーゾニン軟膏処理の場 合(図3)にもこれらの菌要素に上述とほぼ同程度の 酵素活報が認められた.
2.SDH反応 薬剤処理なしの菌要素,ハイアラ
ージン軟膏処理の菌要素,マーゾニン軟膏処理の菌要素のいずれにもほぼ同程度の酵素活写が認められた
(図4〜6).
3.Cyt−ox反応 薬剤処理なしの菌要素,ハイア
ラージン軟膏処理の菌要素,マーゾニン軟膏処理の菌 要素のいずれにもほぼ同程度の酵素活性が認められた(図7〜9).
4,al−p−ase反応 薬剤処理なしの菌要素,ハイ アラージン軟膏処理の菌要素,、マーゾニン軟膏処理の 菌要素のいずれにもほぼ同程度の酵素活性が認められ
た(図10〜12).
考 按
野口ら2)は爪カンジダ症および頑癬より得た材料を
用い.それぞれ寄生状態のC.albicansとT.rubrum についてSDH, NADおよびNADFi(IDH, NAD およびNADP」MDH, NADH2およびNAI>P耳2−
DH, ubiquinoneおよびCyt−oxの活性を検索し,
培養状態の菌の場合と類似の活性を認めたと述べてい
In vivo studi6s on the enzyme activities in T7ゴ。乃ψ勿2 o〃 os 〃。ゴ4θs. K皿nio Yagi曲ita, Department of Dermatology, Sc与ool of Medicine, Kanazawa Uni▽ersity.
(Direρtor;Prof. R. Fukushiro)
白癬菌の酵素組織化学的研究 〔∬〕 131
る,この種の研究はほかに見当らない.
著者はT・ast.によるモルモットの実験白癬を材料 とし,寄生状態の菌について4種の酵素活性を証明,
それらは培養状態の菌の場合と類似の所見であった,1
すなわち,寄生状態の菌においても解糖系,TCA回
路系,電子伝達系の酵素および水解酵素の存在がうかがわれる・次に瀦は上述喋験白癬1・勧鰍螺
菌剤であるナフチオメートーTまたはチメロサール含 有の軟膏をある期間塗擦し,症状が軽快した頃を見は からつてそこの菌の酵素活性を検索し,それらの薬剤 の活性におよぼす影響を調べた.このように寄生状態 の菌の酵素活性に対する抗白癬菌剤の影響を調べたと いう記録はまだどこにもない.その成績では,薬剤処 理の場合と対照とで活性に大差は見られなった.
ま と め
1.T. ast.によるモルモットの実験白癬を材料に して,寄生状態の菌要素についてglucose−6−phos・
phate dehydrogenase, succinate dehydrogenase,
cytochrome oxidaseおよびalkaline phosphatase の4種の酵素反応を行ない,すべてに活性を証明し
た.
2.上述の実験白癬に抗白癬菌剤(ナフチオメート
ーTおよびチ当職サール)を作用させた後,4種の酵
素反応を検索したが,酵素活性の低下は認められなかった.
稿を終るにあたり,技術的な御援助を頂いた皮膚科学教室の呉
座技官に厚く御礼申し上げます・文 献
1)福代良一:皮膚科治療学,91頁,東京,東京
金原出版,昭34. 2)野ロ義圏・関建次郎・石原和之・中嶋 弘・下田祥由・片倉仁志・高梨
雄蔵・河村英子:真菌誌,7,3−13(昭41).酵素反応の方法については第1報の文献を参照.
図 の 説 明
薗1.G−6−PDH反応.薬剤処理なし.毛のう内
の分節胞子の集まりに酵素活性を認める.×1000.図2.・G−6−PDH反応. ハイ『アラージン軟膏6日 華塗擦の場合.毛のう内の短かく分節した菌糸に活性 を認める.図1と比較して活性の強さはほとんど変ら
ない.×1000.
図ε.G−6−PDH反応.0.5%マーゾニン軟膏6日
間塗擦の場合.毛のう内の分節胞子の集まりに活性を 認める.図1と比較して活性の強さはほとんど変らない.×1000. ・ 弓
・図4.SDH反応.薬剤処理なし.毛のう内の菌糸
(短かく分節)や分節胞子の集まりに活性を認める.
×1000.
図5.SDH反応.ハイアラジーン軟膏6日間塗擦
の場合.毛のう内の短かく分節した菌糸に活性を認め る.図4と比較して活性の強さはほとんど変らない.×1000,
図6.SDH反応,0.5%マーゾニン軟膏6日間塗
擦の場合.毛のう内の短かく分節した菌糸に活性を認める,図4と比較して活性の強さはほとんど変らな
い.×1000.
図7.Cyt−ox反応.薬剤処理なし.毛のう内の菌
糸に活性を認める,×1000.図8.Cyt−ox反応.ハイアラージン軟膏6日間塗 擦の場合毛のう内の短かく分節した菌糸に活性を
認める.図7と比較して活性の強さはほとんど変らない.×1000.
図9.Cyt−ox反応.0,5%マーゾニン軟膏6日間
塗擦の場合.毛のう内の短かく分節した菌糸に活性を 認める.図7と比較して活性の強さはほとんど変らない .×1000. ,
図10,a1−p−ase反応.薬剤処理なし.毛のう内の 多くは短かく分節した菌糸に活性を認める.×504.
図11.al−P−ase反応.ハイアラージン軟膏6日間 塗擦の場合.毛のう内の多くは短かく分節した菌糸に 活性を認める,図10と比較して活性の強さはほとんど
変らない.×504.
図12.a1−P−ase反応.0.5%マーゾニン軟膏6日間 塗擦の場合.毛のう内の菌糸と分節胞子群に活性を認 める.図10と比較して活性に大差はない.×504.
Abstract
Enzyme‑histochemical methods'were employed in order to demonstrate the enzyme activities of the fungal cells in guinea pigs infected with T. asteroides and to evaluate the effects of some antifungal agents on the activities,
A strain of T. asteroides newly isolated from a case of kerion celsi was used. The fungal cells were inoculated into the back skin of guinea pigs. Ten‑fourteen days after the inoculation, the lesions were treated for 6 days with each of the following agents:
2% naphthiomate‑T ointment and O.5% thimerosal ointment, and then excised. The unfixed tissue specimens were cut into slices and immersed in the incubation media for the enzyme reactions. Enzyme activities for glucose‑6‑phosphate dehydrogenase, suc‑
cinate dehydrogenase, cytochrome oxidase and alkaline phosphatase were examined.
Results,‑Each of the enzymeiactivities above‑mentioned was found to be present in the parasitic forms of the fungal cells in the lesions of the inoculated animals. In the specimens treated with naphthiomate‑T and thimerosai respectively, there were no reductions in the enzyme reactions.
,
白癬菌の酵索組織化学的研究 〔皿:〕 133
灘灘1 灘慧
灘
下
毎そ擁
羅
ロ
籾134
撰難㎜︐