四チオシアン水銀酸錯体の分析化学的挙動について
著者 村上 光博
雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学
巻 27
号 2
ページ 15‑25
発行年 1978‑11‑25
その他のタイトル Studies on Polarographic and Spectrophotometric Behaviours of Tetrathiocyanomercuriates
URL http://hdl.handle.net/10105/2484
奈良教育大学紀要 第27巻 第2号(自然)昭和53年 Bull. Nara Univ. Educ, Vol. 27, No. 2 (Nat.), 1978
四チオシアン水銀酸錯体の分析化学的挙動について
村 上 光 博 (奈良教育大学化学教室) (昭和53年5月1日受理)
Studies on Polarographic and Spectrophotometric Behaviours of Tetrathiocyanomercuriates
Mitsuhiro Murakami
{Department of Chemistry, Nara University of Education, Nara, Japan) (Received May 1, 1978)
Abstract
It is well known that when tetrathiocyanomercuriate reagent is added to a solution
containing some Co2+言Cu2+ and Zn2+, bright colored crystalline precipitates are formed.
The reagent works sensitively if the solution contains a large amount of Zn2+ and a small amount of another of these ions, thus the deep colored precipitate is formed. The formed precipitates are shown to be mixed crystals of MHg(SCN)4. These MHg(SCN)4
crystals dissolve in DMF, and the DMF solutions are studied by polarography and spectro‑
photometry.
The results show that both an individual crystal and some mixed crystals in DMF solu‑
tion consist of Hg(SCN)2 and M(SCN)2 components, dissociated from MHg(SCN)4.
M(SCN)2 component dissociates further into M2十and SCN to a small extent, and then
M2+ reacts with chromophore reagents.
Precipitation of a large amount of Zn2十and a small amount of Cu2+ or Co2+ makes it
possible to detect 0. 05‑l. Oppm Cu2+ or Co2+ in the solution, however, the determination by spectrophotometry is rather difficult because of the disturbance of a large amount of Zn2+.
I 緒 言
水溶液中で,可溶性第二水銀塩にチオシアンイオン(SCN‑)溶液を加えて行くと,一皮生成 したチオシアン第二水銀(Hg(SCN)2)の白色沈殿が溶解して透明溶液になる.この溶液が四チ オシアン水銀酸試薬で, Hg(SCN)42‑を含みコバJ¥/ト,銅および亜鉛等の2価の金属イオンと MHg(SCN)4の型の結晶性沈殿を生成するので,これらイオンの検出試薬として従前から定性分 析に採用されている. G. Chariot13によれば,沈殿生成の限界濃度はコバルト錯塩(CoHg(SCN)4;.
深青色)はC02 につき300ppm,銅錯塩(CuHg(SCN)4;草色)はCu2^につき3000ppm,亜
15
鉛錯塩(ZnHg(SCN)4;白色)はZn2+につき60ppmと言われ,各個イオンの検出法としては, Zn2+の場合以外は余り鋭敏な反応ではない.しかし,大量のZn2 と共に極く微量のCo2 又
はCu2+が共存している状態で,この試薬を加えると,沈殿するZnHg(SCN),が白色ではなく, Co2十共存の時は,コバルト色ないし淡青色, Cu2+共存の時はチョコレート色ないしピンク紅色 を帯びる.またCo2+とCu2+の共存の場合は深緑色ないし黒色の沈殿を生成するので,微量イ オンの検出法として極めて有効である.
この呈色については, MHg(SCN)4措塩相互間の混晶生成に依る共沈の現象として説明されて いるが,混晶体の溶液についての検討がなされていないので,確証は得られていない.また鐙塩 MHg(SCN)4 は濃鉱酸には溶解し,分解してその酸の塩になるが,ベンゼン,四塩化炭素,エタ ノールおよびアセトンなどの有機溶媒には殆ど溶けない.しかしDMF (ジメチルフォルムアミ ド)には極めて易溶で,それぞれの結晶と似た色の溶液になる.混品生成が推定されている特異 な呈色の混合結晶もDMF中では,極めて深色のCoHg(SCN)4の色やCuHg(SCN),の色の混 じった溶液となる.黒色に近い色を示すC02 とCu2+混合溶液からの結晶も, DMF中では赤 紫色と草緑色の混合色溶液となる.
そこで,この報告ではこれらの錯塩や混晶沈殿の溶液について,ポーラログラフィーおよび吸 光度の測定を行ない,微量のCo2十およびCu2H について,大量のZn2+による共沈の捕捉定量 の可能性等を検討した.
II 実 験 1.錯塩結晶MHg(SCN)4の調製
四チオシアン水銀酸溶液;特級塩化第2水銀(HgCla) 13.57gとチオシアン酸アンモニウム 15.22gを水に溶かし500mlとすると, 0.1M (NH4)2Hg(SCN)4溶液となる.
鋼,亜鉛およびコバルト標準溶液;特級の金属銅1. および金属亜鉛4.002gを特級の硝 酸5mlと過塩素酸12mlの混合液に溶かし,水を加えて500mlとする.それぞれCu2+
2.130mg/mlおよびZn2+ 8.00mg/mlの各溶液を得る.また特級硝酸コバルト(Co(NO3)2' 6H20) 7.30gを水に溶かし, 250mlとするとCo2+ 2.95mg/mlの溶液になる.
各金属イオンを含む溶液を通当量とり,液量100ml当り 6N硫酸1mlを加えて微酸性とし, 水浴上で沸騰近く迄温め,計算量の1.5‑3倍量の0.1M (MH4)2Hg(SCN)4溶液を撹拝しながら 加える.金属イオン濃度が1/1000M以上であれば,間もなく結晶が析出し始める. 30分間水浴 上で温めて熟成し,時々強く器壁を摩擦しながら撹拝して,常温まで冷却する.ガラスフィルタ
‑上に炉取し,その沈殿を1/1000Mの(NH4)2Hg(SCN),溶液で数回洗浄し 110‑Cで1時間 以上乾燥する.
2.亜鉛イオンによる微量のCu2 およびCo2十の共沈の試験
Cu2十又はC02 をl‑0.02ppm含む溶液100mlに, 6N硫酸1mlと16.0‑40.0mgのZn2十 を加えて,水浴上で沸騰近く迄温め0.1M (NH4)2Hg(SCN)4 4‑10mlを撹拝しながら一度に加 える. 1分間もしない中にZnHg(SCN)^が析出して来る.この沈殿はCu2+又はCo2十の含量 に依り徽ピンク色又は自青色に着色し,撹拝を止めた時同心円状に沈んだ沈殿層の周辺部の呈色 が濃くなる. 1.と同様にガラスフィルター上にとり,乾燥,秤量後 DMF5.0又は10.Omlを
四チオシアン水銀酸培体の分析化学的挙動について
17上から繰り返し注いで溶解させ,ポーラログラフ又は吸光度測定の試料とする.
3.ポーラログラフィー及び吸光度の測定
錯塩は0.1‑2.OmM濃度にDMFに溶かし,過塩素酸テトラエチルアンモニウムを0.1M 濃度に加えて支持塩としてポーラログラムをとる.測定法は前報2)と同様である.
吸光度の測定はDMFを溶媒として用い,東芝ペックマン スベクタ20型により測定した.
共沈試料は2.で得られたDMF溶液に発色剤を加え, 10mm石英セルに満たして測定した.
III 実験結果及び考察 1.ポーラログラフィー
図1の1, 2および3にMHg(SCN)4のポーラログラムを示す. DMF溶液の色は, Cu錯塩 は黄褐色, Co錯塩は赤紫色で, Zn錯塩は無色である.各ポーラログラムは,いずれもS.C.E.
(飽和カロメル電極)に対してOVより正側にやや大きな酸化波と,これにつづく還元波とを与 える.つぎに負側の還元波はいずれも寝た波であるが,それぞれCu(SCN)2, Co(SCN)2および Zu(SCN)2のM2+に依る還元波と思われる・それらCo(SCN)2およびZn(SCN)2のEl/2 (辛 披電位)はCo2 およびZn2 の単イオンのDMF中での還元波のEl/2に比較していずれも僅 かに負側にシフトしているのみであるが,波形から可逆皮が悪くなっていることがわかる.しか
し, Cu(SCN)2の還元波のEl/2はCu(CIO4)2のDMF溶液から得られるCu2+のEl/2に比べ て大きく負にシフトし,波形はやや良好である.これは前群)に報告した'四チオシアンニトロ ン酸塩〔CuH2(Nit)2(SCN)4〕の還元波中の, Cu(SCN)2成分によると推定した還元波のEi/2と 等しく,波形もよく似ている.したがってCuHg(SCN)4溶液中にもCu(SCN)2の復極グループ が存在している様に, MHg(SCN)4の溶液中にもM(SCN)2グループが生成している事が予想で きる.図の4は0.6mgのCu2 と20.0mgのZn2 が100ml中に共存する水溶液から得られ たMHg(SCN)4混晶の濃チョコレート色沈殿を10mlのDMFに溶かした溶液のポーラログラム で,混晶はZnHg(SCN)4とCuHg(SCN)4の成分から成る事がわかる・又この溶液の色は淡緑黄 色で,混晶の色とは異なる.
Cu2 がDMF溶液中で, SCN‑と共存する時,その還元波に対するSCN‑の濃度効果を図 2に示した. Cu2 に用いたCu(CIO4)2溶液の還元波は+0.IV付近に2電子波高の1段波を与 えるのみであるが, SCN‑の添加により大きく負にシフトし, +0.IVと‑0.38Vとに1電子 還元の2段波を与えるようになり,それぞれCu(II)‑Cud)およびCu(I)‑Cu(O の反応に対応
V. vs. S. C. E.
図2 Cu2+DMF溶液のポーラログラフ波に対するSCN‑添加の影響 Cu2+lmM
四チオシアン水銀酸陪体の分析化学的挙動について
19すると考えられる.これらに先行する正側の酸化波も2段の合波であり, aの部分はSCN の 添加により現われ, bの部分はSCN の量がCu2+の2当量以上になると現われる.すなわち aはCu(SCN)2のCu2 に配位したSCN‑による水銀の溶出波であり, bはCu2+に配位して いない遊離のSCN による水銀の溶出波として説明できる.しかしC02 やZn2 の錯体の場 合には,このaおよびbの部分は必ずしも明瞭には区別できなかった. Cu(SCN)2ではSCN はかなり強く Cu2+に配位しているが, Cu(SCN)3‑やCu(SCN42 が生成するとしても3個目 や4個目のSCN‑の配位は極めて弱いと考えられる.
Hg2+のDMF溶液中における SCN一添加による挙動の変化を図3に示す. Hg(CIO4)2ほ, +0.4V付近に急上昇し極大を伴う2電子還元の1段波を与えるのみであるが, SCN の添加に よりOV付近にピークを持つ1段波に移行する.水溶液から得たHg(SCN)2沈殿をDMFに溶 かしてポーラログラムをとると, Hg2+にSCN を2当量加えた場合と同様な還元波が得られ, SCN‑による水銀の溶出波は先行しない.さらに過剰のSCN の添加により,先行する酸化 波が現われ,波は次第に傾斜が急になるが,ピークの位置はほとんど変らない.したがって
図3 Hg2+DMF溶液のポーラログラフ波に対するSCN 添加の影響 Hg2+lmM
Hg(SCN)2は DMF中ではHg(SCN)2ごHg2十+2SCN"の解離はしないで, Hg(SCN)2の分子 の形で還元されることがわかる.過剰のSCN"による水銀溶出波の電位もCu(SCN)2のそれに 比べてかなり負側に現われ,遊離のSCN‑によるものと区別がつかない事から, Hg(SCN)3‑や Hg(SCN)42‑が存在するとしても, 3番目, 4番目のSCN のHg2+に対する配位はDMF中 では極く弱いものと考えられる.したがって DMF溶液中ではCu(SCN)2とHg(SCN)2と は2次的な結合力を及ぼし合わない.すなわち, CuHg(SCN)4はCu(SCN)2とHg(SCN)2と に解離して溶解していると考えられる.水溶液中ではHg(SCN)42‑の逐次生成定数はpki+pk2
‑19.7, pk3‑l.7およびpk4‑0.6と報告されているが, Cu(SCN)3 , Cu(SCN)42‑, Co(SCN)3 およびCo(SCN)4‑についての値は得られていない.しかし多量のSCN‑の存在で青色の Co(SCN)42 が確かめられているので水溶液中ではHg(SCN)2とM(SCN)2の2次的な結合が起 こり,析出することは考えられる. Cu2 とHg2+の当量が共存している溶液にSCN‑を添加し ていくと, Cu(SCN)2, Hg(SCN)2,さらにHg(SCN)3 , Hg(SCN)42 の生成の競争反応が起こる
SCN 0
SCN
lmM
V. vs. S. C. E.
‑1.0
図4 Hg2+,Cu2+DMF溶液のポーラログラフ波に対するSCN 添加の影響Hg2+,Cu2+各1mM
四チオシアン水銀酸踏体の分析化学的挙動について
叫'VI
550
図5 MHg(SCN)4DMF溶液の吸収曲線
21
500 波長
図6 CuHg(SCN)4 DMF溶液の吸光度と濃度
と考えられるが DMF溶液中ではこの競争はいずれが優先するということはない・すなわち, 図4にみられるようにHg(SCN)42 などの生成はなく, Cu(SCN)2とHg(SCN)2とが等量生成 して, 4当量のSCN一添加により図1のCuHg(SCN)4のポーラログラムと全く同じものが得ら れる.
亜鉛鍍塩についても検討した結果,ほぼ同様の結果が得られた・すなわち DMF中では, Hg(SCN)2とM(SCN)2との間には2次的な結合は起こらず解離しており, Hg(SCN)2はさらに 解離する事はないが, M(SCN)2はそれらのポーラログラムにみられるようにM(SCN)2ごM2+
+2SCN一に一部解離している. CuHg(SCN)4鍍塩の濃度とCu(SCN)2の還元波高との関係につ いて検討すると,直線関係がみられるのは鍍塩濃度が0.5mM以上の場合で,これより低濃度の 時の‑0.38Vの還元波高は極端に低い.水溶液中ではCo2+, Cu2+およびZn2+のM(SCN)2
はいずれも可溶性で沈殿にはならない・
2.吸光度測定
ZnHg(SCN)4のDMF溶液は無色透明で 380nm以上の波長域では吸収はみられない・図5 に1mMのCuHg(SCN)4およびCu(CIO4)2と5mMのCoHg(SCN)4および1mMのCo(CIO4)2 のDMF溶液の吸収曲線を示す. CuHg錯塩は385nmにピークを有しモル吸光度係数eは740 になる Cu2 の単イオンは近紫外部の440nm付近に裾を引いている弱い吸収があるのみであ る.この踏塩の吸収は,吸光度係数Cの値から, SCN‑による電荷移動の吸収と考えられる・そ の吸光度の濃度依存性を図6に示すが,直線性から外れる0.2mM以下では吸収ピークは認めら れないので, Cu(SCN)2ごCu2++2SCN が進行するのであろう. CoHg錯塩はみかけの鮮やかな 色にもかかわらず吸収は弱く図7にみられるように530nmと618nmにピークがあるが' Cの 値としては30以下でd‑d遷移吸収であろう. 530nmの吸収は単イオンの吸収ピークと一致する が,紫外部の吸収は異なる.図7にIOmMのCoHg錯体と,0.lmMのその鐙体に過剰のSCN‑
四チオシアン水銀酸錬体の分析化学的挙動について
23を添加した淡青色溶液との吸収を示したが,過剰のSCN‑の添加により強く発色する.しか も Co(SCN)42‑ によると思われる吸収のピークは錯塩の618nmのピークと同じ位置になる.
Co(SCN)42‑の吸収のe値は1000以上で,明らかに電荷移動の吸収であるが, DMF中で充分の 発色をさせるには鍍塩の100倍以上のSCN‑を加える必要があった. lOmM程度の濃いCoHg 錯体溶液は Co2+単イオンと同色の赤色の他にCo(SCN)42‑の青色が混ざって,みかけの紫赤 色を呈していると考えられる.これは2Co(SCN)2ごCo(SCN)++Co(SCN)3 および2Co(SCN)2 ごCo2++Co(SCN)42 の解離が極く一部進行するためであろう.
CuHg(SCN)4錯塩の吸収からはCu2 の定量の検量線は得られないが,この溶液中には解離し たCu2 が含まれるのでCu2 に対する発色試薬は有効である.ジエチルジチオカルバミン酸ナ トリウム(DDC)を踏塩のDMF溶液に加えると暗黄褐色に発色する.図8にその吸収曲線と,
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a O.lmM CuHgCSCNM0m,ZにDDC 30mgを加えたもの
b DDC30mgを10mJ DMFに溶か
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c ZnHgCSCN), 60mgがIOm^ DMF 中に溶存せるものにDDC lのmgを 加えたもの
d 1.OmM CuHg(SCN)4 DMF溶液
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図8 Cu‑DDCの吸光度曲線
波長
発色試薬単独の場合およびZnHg(SCN)4を多量のDDCに共存させた時のDDC溶液の吸収を 示した. Cu‑DDCを充分発色させる為には, Cu錯体量の100倍以上が必要であった. Zn‑DDC が多量に存在する時は Cu‑DDCは430nmに僅かの吸収を示す・ Cu‑DDCが発色している中 にZnHg(SCN)4を添加すると Cu‑DDCの色は減少する.すなわちZnHg(SCN)4もDDCを 消費するので,これが共存する時は,その共存量の約2倍のDDCを加える必要があった.
CuHg(SCN)4の微量溶液についてのDDCによる枚量線は,図9に示したように,錯体の 0.01‑0.lmMの濃度範囲で吸光度との問に直線性が認められた.測定波長は吸収ピークの430 nmと,過剰DDCの吸収が全くないと見られる470nmを選んだ. Cu‑DDCのDMF溶液で
0・1 濃度 mM
図9 DDCによるCuHg(SCN)4の吸光度と濃度 の吸光度係数は1.3×104である.
微量のCu2 は,水溶液中ではCuHg(SCN)4としては完全に沈殿しないが,多量のZn2十 と 完全に共沈させることができる.実験の操作で述べた方法では, 100ml中16mgのZn2+の汰殿 は秤量によっても98.5‑101^の範囲で回収し得る.しかも, Cu2+ 0.05ppmを含む場合でも明 瞭に紅着色は認められ, lppmを16mgのZn2 で共沈させ,その折液に再びZn2+を加えて生 成する紅色からCu2+の残量を検討すると 0.02ppm程度以上にはCu2+を含まないことが推定
された.
次にガラスフィルター上の紅色の沈殿中のCuHg(SCN)4の量を,吸収測定より求めた結果の 一例を示す.
0.lppm lOOml中のCu2+は0.Olmgであり,これから得られた鐙体を10mlのDMFに溶 かすので, Cu2 の濃度としては0.0157mMに,また0.5ppmはCu2十0.0787mMとなる.実 測値は0.016mM (101.9%), 0.065mM (82.%%)であった.
表
Cu2+イオン濃度 ppm 0. 1 0.5 MHg(SCN)4量 mg 60. 4472 60. 3804
同上 理論値 mg 60. 9841 60. 0152 同上 回収率 99. 12 98. 96 DDC添加量 mg 150. 6 176. 4
吸光度 430nm 0. 248 0. 853
470nm 0. 130 0. 483
〔Cu2+〕 DMF中濃度平均 mM 0. 016 0. 065
四チオシアン水銀酸鍍体の分析化学的挙動について
25この場合MHg(SCN)4の沈殿生成には充分過剰の(NH4)2Hg(SCN)4溶液を使う事,またあま り沈殿を洗浄し過ぎないことの注意が必要である.
ZnHg(SCN)4による妨害が吸光度の面から正誤差をもたらすが, DDCを消費する面からは吸 光度の値は小さくなる.この両者が打ち消し合って, 0.lppm試料では良好な値を与えたものと 思われる.
C02 のZn2+による共沈については吸光度測定は行なわなかったが,沈殿の着色はCu2 の場 合よりも見やすいので,乾燥したガラスフィルター上の結晶の色を比色しても大体の量は推定で きる.そこでpH試験紙の様な標準色譜を作ることも可能と思われる・
Zn鍍塩と共沈するのはCu2 やC02 の他に,高濃度の場合Ni2+やCd2+も同様と考えられ ている.そこで,硝酸ニッケル50mgをとり微量のC02 を共沈させたが, ZnHg(SCN)4の沈殿 は黒青色に着色し,それをDMFに溶かし, SCN‑を多量に加えて発色させたが,青色でなく 緑青色となり, C02 の存在は確認できるが,過飽和溶液になり,沈殿生成の速度は極めておそ い.
したがって,以上の共沈法は簡単な成分の試料についてppm量のCu2+, Co2+を半定量的に 検出する手段としては有効であるといえる.
I fc^^^ff置
語Co2+, Cu2+およびZn2 のHg(SCN)4 による結晶性沈殿は混品として共沈し,特有な発色 が見られる.その沈殿はDMF溶液においてはHg(SCN)2+M(SCN)2の形に解離溶存している・
また,多量のZn2+ と共沈させる事により Co2 およびCu2 との着色沈殿が得られ ppm 濃度のCu2+やC02 を検出する事は可能であるが,吸光度より定量する事はZn2 の妨害が大 きく困難であった.
不断に適切な示唆を与えて頂いた本学桧村竹子教官と,測定その他で協力を得た塚本芳枝およ び北保志両君に感謝する.
(1977年11月4日 第23回ポーラログラフ討論会講演) 文 献
(1) G. Chariot (曽根,田中訳) :定性分析化学I, Ⅱ 共立全書(1958) (2)村上光博:奈良教育大学紀要,自然科学19,41 (1970)
(3)村上光博:同 上 26, 7 (1977)