【学位論文審査の要旨】
1.審査結果
本論文は、中国の刑事裁判において証人出頭率が著しく低く、公判中心主義や被告人の 対質権の保障が十分に実現されていないという現状、またそれが、「訴訟嫌い」という中国 の伝統や国民性に基づく根深い問題であるという問題意識のもと、新たな技術により可能 となったビデオリンク方式・遮へい措置による証人出頭、証言の法的意義を明らかにしよ うとする興味深く、かつ実践的な論文である。ビデオリンク方式といっても、証人の精神 的負担の軽減を目的とする日本と、証人出頭の確保を目的とする中国といったように、そ の法的意義がまったく異なる点を明らかにしているのは、従来にはなかった貴重な研究成 果である。
その反面、そのビデオリンク方式が、中国では現場の運用に任されている点が多いこと や、それによる証言が、直接主義が伝聞法則との関係でいかなる問題を有するかという壮 大な問題にも関連するため、議論展開がやや散漫になっているところは否定できない。さ らに、本論文の結論が、取り調べの可視化制度の拡充や被害者の精神的サポートの導入に 主眼が置かれている点も、当事者主義を基調とする公判中心主義への移行や、証人出頭を 間接的に後押しするという効果の面で関連性があるとはいえ、唐突感のあるものであるこ とは否めない。
ただし、これらの問題点は、扱うテーマがすぐれて現代的かつ流動的である一方、まと まった先行研究がなされていない状況下、そういった領域をあえて検討対象にした先駆的 研究においては、しばしばみられるものでもある。他方で、これらの問題点をさらに整理・
検討する過程において、むしろ、今後の研究の発展を促す萌芽になりうるものとの評価も 可能であって、これらは本論文の価値を損なうものではないと考えられる。
2.合否判定
本審査委員会は、学位申請者である計拓氏に対して、平成31年2月4日に本論文につい ての口頭試問を実施した。口頭試問における計拓氏の応答は明快であり、申請者が博士学 位を取得するにふさわしい学識を有していることを確認した。よって、本審査委員会は、
申請者・計拓氏に対して、本研究科における博士(法学)の学位を授与することが適当で あると判定する。