九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
システム生物学に基づいた薬剤作用機序推定法に関 する研究
齊藤, 隆太
https://doi.org/10.15017/1807110
出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
氏 名 :齊藤 隆太
論文題名 :Studies on ”Estimation of the Mechanism-of-Action of Pharmaceutical Compounds Based on Systems Biology Approach”
(システム生物学に基づいた薬剤作用機序推定法に関する研究)
区 分 :甲
論 文 内 容 の 要 旨
システム生物学の急速な発展により、標的分子の探索や疾患のメカニズム解明、臨床試験のデザ イン支援など、創薬研究開発に広く応用されるようになった。しかし、これらの研究のほとんどは 探索的な目的で実施されており、オミックス解析に基づいて薬剤の作用機序を定量的に解明するた めの包括的な技術はほとんど報告例がない。そこで、本研究では新規薬剤の臨床における副腎障害 のリスク判断に向けてシステム生物学を応用し、ステロイドプロファイリングから内分泌かく乱物 質に代表される副腎毒性を示す薬剤の作用メカニズムを推定するための方法論を開発した。
副腎は生体内で様々な作用を有するステロイドホルモンを産生する組織であるため、創薬におい て副腎毒性は回避すべき作用である。臨床における副腎毒性作用のリスク判断のために、近年では ヒト副腎皮質癌由来のNCI-H295R 細胞を用いたアッセイ系が用いられている。そこで、新薬の臨 床における副腎毒性のリスク判断を支援するため、内分泌かく乱物質に代表される副腎毒性を有す る薬剤の副腎ステロイド合成における作用メカニズムを定量的に推定しうる方法論について研究し た。初めに、NCI-H295R 細胞の細胞増殖、細胞内コレステロール動態、ステロイド合成パスウェ イ、細胞内外のステロイド受動拡散を考慮した数理モデルを開発した。この数理モデルは、実験に よって得られた細胞増殖推移、コレステロールおよび 14 種類のステロイドホルモンの細胞内外の 時間推移を一致よく再構成することができた。この数理モデルの動的感受性解析によって、3β-HSD が副腎ステロイド合成の糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドの産生バランスを決定する、いわゆ る代謝スイッチの役割を有することが示された。次に、この数理モデルとパラメータ最適化法を応 用して、12種類のステロイドプロファイリングの実験データから薬剤の副腎作用機序を推定するコ ン ピ ュ ー タ シ ス テ ム を 開 発 し た 。 パ ラ メ ー タ 最 適 化 法 と し て 、 実 数 値 遺 伝 的 ア ル ゴ リ ズ ム
(AREX/JGG)と局所最適化(非線形最小二乗法:Levenberg-Marquardt algorithm)のハイブリ ッド最適化法を採用した。副腎毒性作用を有する11薬剤を用いて本システムの検証試験を行った。
血管性作用を有する4薬剤はステロイド合成酵素に対する作用はないと推定できた。また、ステロ イド合成阻害剤として報告されている7薬剤は報告されている標的分子とほぼ一致する作用機序を 推定できた。これらの結果から、このシステム生物学的な数理モデルに基づいた薬剤作用機序推定 システムを用いることで、NCI-H295R 細胞のステロイドプロファイリングの実験データから薬剤 の副腎毒性作用のメカニズムを定量的に推定可能であると結論づけた。
本研究で提案したシステム生物学に基づいた薬剤作用機序推定法は、内分泌かく乱作用を有する 化合物の作用メカニズムの解明に非常に有効なアプローチであり、新薬の臨床における副腎毒性リ スクの判断を支援する強力なツールである。また、このシステム生物学的なアプローチは、薬剤の 作用機序解析として汎用的な方法論であるため、細胞評価系をベースにした様々な薬剤の安全性評 価系における応用が期待できる。