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氏名 平野 真

『先端技術デバイス・ベンチャリングにおける「知」と「組織」の共進化経営

―通信部品産業での事例を対象として―』

Ⅰ 本論文の構成

博士学位論文として提出された『先端技術デバイス・ベンチャリングにおける「知」と「組織」の共 進化経営―通信部品産業での事例を対象として―』は、知識社会における「知」のマネジメントに おいて、特に暗黙知経営の重要性に着目し、暗黙知経営の意義がもっとも顕在化する先端技術 デバイス・ベンチャリングの3つの事例を比較研究したものである。この一連の事例研究を通じて、

知識経営がいかに組織経営と密接に結びついているか、「知」の進化が「組織」の進化と相互助 長・共鳴し「共進化」する過程がいかに重要であるかを記述・分析したものである。

論文では、3つの事例における、「知」の特質と「組織」の特質の整合性について、事業進展のモ ードとの関係性の中で分析を行い、両者の特質の整合性が共進化の条件となっていること、また これらの共進化が事業の進展の基礎となっていることを導出している。

その論文構成は以下のようなものになっている。

序章 研究の背景と目的

Ⅰ研究の背景 Ⅱ研究の目的 Ⅲ研究対象と研究範囲 Ⅳ論文の構成 第2章 先行研究のレビュー

Ⅰ「組織」と「知」の相互関係

1 近代的組織論の枠組としての分業 2 組織の外部環境の影響

3 「集中管理型」組織から「自律分散ネットワーク型」組織へ 4 知識経営論という視座

5 ネットワーク社会におけるクラスター論 6 まとめ:本研究の研究枠組の準備

Ⅱ グローバルアライアンスとしての組織間学習 1 寡占競争論から内部化理論までの流れと思想 2 組織間学習論からのアプローチ

Ⅲ まとめ:本研究の研究枠組の準備 第3章 研究課題と分析方法

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第4章 事例研究1:波長多重用光素子開発と事業化

Ⅰ 事例調査

1技術概要 2開発経緯と事業化の背景 3事業化と事業運営 4事業の変容

Ⅱ 事例分析

1マクロ分析 2ミクロ分析 3全体分析

第5章 事例研究1:時分割多重用電子部品開発と事業化

Ⅰ 事例調査

1技術概要 2開発経緯と事業化の背景 3事業化と事業運営 4事業の変容

Ⅱ 事例分析

1マクロ分析 2ミクロ分析 3全体分析 第6章 事例研究3:無線用電子回路開発と事業化

Ⅰ 事例調査

1技術概要 2開発経緯と事業化の背景 3事業化と事業運営 4事業の変容

Ⅱ 事例分析

1マクロ分析 2ミクロ分析 3全体分析 第7章 総括:事例における「知」と「組織」の共進化

Ⅰ 事例における共進化過程 1 事例1における共進化過程 2 事例2における共進化過程 3 事例3における共進化過程

Ⅱ 共進化の条件と課題 終章 結論と今後の課題

Ⅱ 本論文の概要

本論文は、先端技術デバイス産業でのベンチャリングの事例調査・分析をベースとし、知識 社会における「知」の進化と「組織」の進化の関係性を解析し、両者の共進化経営のあり方に ついて命題の導出を行っている。特に技術の進化における暗黙知経営の意義、これと関係し たものとしての組織経営と技術進化との関連性について論述している。ベンチャリングのよう な小組織の経営においても、事業の進展にこうした知識経営・組織経営の相互依存性が深く 関与しており、基本的な概念に基づいた整理が有効であること、また知識経営と組織経営の 接点としての共進化経営が、事業の進展や成功への大きな鍵であることを、インテンシィブな 事例の分析の中から導き出している。

以下、論文の概要を目次にそって各章ごとに記載する。

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序章 研究の背景と目的

21 世紀は「知識社会」の時代といわれる。この新しい時代においては、従来の「工業社会」にお ける資金、人材、資材などを経営資源としていた企業経営に対し、産業資源としての「知(知識、

knowledge)」の重要性を考慮し、「知」の創造によるイノベーションによって企業競争力を確保して いくことを考えねばならない。「知」の創造においては、人間の内部に内在化した「暗黙知(tacit knowledge)」の活用が重要であり、この「暗黙知」と「形式知(explicit knowledge)」を循環させていく ことが必要とされている。このとき、企業において単なる作業の分業ではなく、「知」の分業をどのよ う に 機 能 さ せ て い く の か 、 と い っ た 新 た な 組 織 論 が 必 要 と な る 。 す な わ ち 、 「 知 」 と 「 組 織 (organization) 」 を 、 相 互 の 関 係 性 の 中 で 、 互 い の 進 化 が 助 長 し 促 進 し あ う 、 「 共 進 化 す る (co-evolving)」ものとして経営していくことが求められる。本研究は、こうした「知」と「組織」の共進 化経営の手法を追求し、その要件や課題を明らかにすることを目的とする。

本研究では、こうした課題が最も顕在化する分野のひとつとして、先端技術デバイスのベンチャ リングを取り上げ、事例の分析を行う。先端技術デバイスのベンチャリングは、「知」の創出と進化 が、その事業において最も先鋭化することが求められる分野のひとつであり、それ故にここでの考 察を、より広範囲な産業分野に拡張するための手掛りとしていく。

具体的には、本研究では 3 つの技術事業化事例を取り上げ、内部環境としての中核技術の特 質や事業運営の主体となった組織の特性の分析(ミクロ分析)、外部環境としての市場や競合お よび関連組織との関係の分析(マクロ分析)、またこれら相互の関係性や時間的変遷の分析(全 体分析)を行い、事例における「知」と「組織」の相互関係性と共進化の過程を明らかにする。

第2章 先行研究のレビュー

近代社会における組織論の起源は、古く産業革命時代の「分業」の発達について考察を 行ったアダム・スミス(1976)「国富論」まで遡る。スミスの分業論は、近代の工業化社会 の基礎となる大量生産を可能ならしめる「作業」の効率化と生産性向上に焦点を当てた組 織論の端緒とみなすことができ、それは現代における機能別組織形態へと繋がっている。

しかし、大量生産から大量消費社会へと時代が変遷するに従い、チャンドラー(1962)が 指摘したような市場密着型の事業部制組織形態が生み出され、さらに20世紀後半にはコン ピューターや通信技術の発展を基礎としたネットワーク型情報化社会が現れ、従来の中央 集権型組織とは異なる自律分散型組織形態なども出現するようになってきた。しかし、20 世紀末から21世紀にかけて出現してきた知識社会における組織のあり方は、こうした過去 の組織論にはない新たな局面のものとして考えていかねばならない。それは従来、人間の 外側に分離・存在するものとしてのみ位置付けられていた知識・情報及びこれらに基づく 作業といったものを、人間の内面と不可分のものとして捉え直し組織化していくことの重 要性に気がついたからである。アダム・スミス以来、組織における分業は、もっぱら人間 の外側に切り出すことのできる「情報」とそれに基づく「作業」によって考えられてきた。

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としての不可分な塊として人間や組織を考えていく必要があることが明らかになるのであ る。こうした意味において、20世紀以降の国際経営学の学説史の中でも、従来の内部化理 論にいたる一連の経営論の中では経営資源として見落とされていた無形資産としての人間 内部の「知」が、近年の知識経営学のコンテクストでは極めて重要なファクターとなって くるのである。このため、近年の国際経営学では、経営資源としての「知」の移動として の組織間学習や組織内学習が大きな研究対象となっている。そして学習の質的内容によっ て、シングル・ループ学習とかダブル・ループ学習といった違い、学習する組織間の関係 性としてのタイトな関係・ルースな関係といった違いなどが指摘されるようになってきて いる。このような先行研究の流れの中で、本研究は、ベンチャリングにおける組織を、「知」

や学習の面からどのようなものとして実現していったらよいのかを論考するものである。

第3章 研究課題と分析方法

本研究では、3つの事例について、大きく3つの分析方法、即ちミクロ分析(内部環境、

技術の特質および組織の特質)、マクロ分析(外部環境、関連組織及び顧客・競合との関係)、

全体分析(時間軸に沿った事業分析)によって分析を行う。

研究対象として選んだ3つの事例は、その産業分野や製品機能などに類似性が見出せる にもかかわらず、中核となる技術の特質や、事業主体となった組織の特質には大きな差異 がある。そこで、各事例の比較検討を行うことで、事例における「知」と「組織」の関係 性を抽出し、両者の関係性が各々の進化や事業の進展にどのような影響を及ぼすのかを解 析する。

第4章 事例研究Ⅰ:波長多重用光素子(PLC)開発と事業化

本研究における第 1 の調査事例は、光通信における信号の多重化に関して、波長分割方式を 用いる場合に必要となる光学素子(通称 PLC)の開発とその事業化に関するものであり、日本の NTT と三菱商事、米国のバテルによる米国法人合弁ベンチャーPIRI により事業化されたものであ る。

当該事業では、その中核的技術である PLC 技術が、応用に対して極めてカスタム化傾向の強 い特化技術であること、また技術を支える要素技術に対して、各要素技術間に複雑かつ密接な相 互関係があり、容易に形式知化されない、暗黙知に依存した部分の多い技術であることがまず分 析される。さらに、この事業を支えたベンチャー組織が、種々の外部環境条件が有効に働き、極 めて自律性の高いかつ協調的、柔軟で多様な組織であったことが分析される。

こうした技術の特質と組織の特質の半ば偶然の整合性が、技術の進化や組織の進化に有効に 作用し、事業の進展にも寄与したものとみなせる。

しかし、事業の長期的な動向をその成長位相ごとに分析してみると、同事業は弱体化した時期 も存在し、このひとつの原因として、技術の特質と組織の特質の不整合が挙げられる。

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第5章 事例研究Ⅱ:時分割多重用電子部品開発と事業化

第 2 の調査事例は、光通信における信号の多重化に関して、時分割方式を用いる場合に必要 となる電子部品(通称 GaAs)の開発とその事業化に関するものであり、これは NTT のグループ会社 NTT エレクトロニクス(通称 NEL)がその事業主体であり、独立採算制の 2 つの事業部によって、こ の事業が進められていった。

当該技術や製品は、その産業分野や製品機能は、前述の PLC 事業と全く同じであり、にもかか わらず、その中核的技術である GaAs 技術が、応用に対して比較的汎用性や互換性に富む技術 であること、また技術を支える要素技術に対して、各要素技術間は比較的独立に作用しており、

形式知中心に普及した汎用的技術や互換性のある技術が基になっていて、要素技術間の相互 依存性は比較的希薄であることが分析される。さらにこの事業を支えたベンチャリング組織は、親 企業 NTT の支配が強く働く、グループ企業 NEL の 2 つの事業部であり、外部環境条件の差異も あって、PLC 事業と比較すると、組織間の関係はタイトであり、協調性よりは競合性のほうが強いも のであったことが分析される。

こうした技術の特質と組織の特質のこれも半ば偶然の整合性が、技術の進化や組織の進化に 有効に作用し、一時期の事業の進展にも大きく寄与したものとみなせる。

しかし、PLC 事業同様、事業の長期的な動向をその成長位相ごとに分析してみると、技術の普 及と市場成熟化に従い事業は弱体化していき、最後は撤退を余儀なくされる。 このひとつの原 因として、やはり、技術の特質と組織の特質の別の形態での不整合が挙げられる。

第6章 事例研究3:無線用電子回路開発と事業化

第 3 の事例は、無線(通信および通信以外)における信号の送受信に用いる、3 次元構造のマイ クロ波電子回路(通称 3DM)の開発とその事業化に関するものである。第 2 の事例と同様、NTT の グループ企業である NTT エレクトロニクス(NEL)社によって事業化された。

この事業では、技術の特質に幅があるところに、大きな特色がある。 当初、技術の汎用性に着 目して進められた事業展開は、外部環境としての市場との整合性が取れずに事業の弱体化を招 いた。 しかし、その後、特化技術として復活した技術は、むしろ特殊なニッチ市場で事業の進展 をみた。

この事例でも、事業の各時期における、技術の特質と組織の特質の整合モードと、不整合モー ドが観察され、それぞれ、事業の進展や弱体化にリンクしている。

第7章 総括:事例における「知」と「組織」の共進化

分析対象とする 3 つの事例は、ともに基本的には通信技術におけるキーデバイスの開発と事業 化に関するものであり、その産業分野やバリューチェーン内での位置も極めてよく似ている。しか し、それにもかかわらず、詳細な比較分析の結果、各々の技術の特質や事業を促進し発展をもた らした組織の特質は必ずしも一致しないことが分かった。

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は、例えば PLC 事業の場合、その技術の性格上、要素技術の相関性がきわめて深く密着してお り、製品開発に携わる各方面での暗黙知の交流がことのほか重要であることから、技術の開発に 携わる組織の性格や特性もまた、そうした暗黙知の交流に適した協調的でルースなものであること が事業の推進には重要であったと考えることができる。こうしたことから、組織の形態や特質が技 術の特質にそぐわない場合、PIRI が買収後にたどった道のように、事業そのものが弱体化したり、

消滅することもある。従って、技術の特性が異なれば、またその進化の促進に適した組織形態、組 織の特質も変わるのである。

終章 結論と今後の課題

本論文では、先端技術デバイスに関するベンチャリングとして3つの事例を取り上げ、

各々について、ミクロ分析(技術の特質と組織の特質の分析)、マクロ分析(関係組織や顧 客・競合との関係の分析)、全体分析(事業の時間的推移に依存した分析)という3つの分 析を行い、これらの比較の中から、以下の命題を導出した。

即ち、「知」の進化や「組織」の進化は、それぞれの特質が相互に整合するときに助長され、こ のことが事業そのものの進展にも大きく寄与する。逆に両者の整合性の悪いときには両者の進化 は阻害され、このとき事業も弱体化する。従って「知」と「組織」の共進化を導くためには、「知」その もの、「組織」そのものの深い理解が必要であり、その特性や環境の変化を敏感に察知し、「知」の 特質と「組織」の特質を整合させ、これによって両者を相互に共鳴し、促進・助長するよう進化させ ていく経営(共進化経営)が重要である。

今後、こうした命題がより広範囲な産業分野で成り立つものかを、より多くの事例研究によって その妥当性を検証し、また何らかの統計的調査によって命題の普遍性を定量的に明らかにしてい くことが必要である。

Ⅲ 本論文の評価と課題

本論文は、先端技術デバイスに関する3つのベンチャリング事例の解析を中心に、知識経営学 の観点から、「知」の進化と「組織」の進化との関係性について述べたものである。

この3つの事例とも、平野氏自身が総計26年間にわたる企業での実務の中で、技術開発なり 事業化に直接従事したものであり、従って単なる取材で知りえるもの以上の深い見識と背後に潜 む暗黙知までを含めた理解のもとに記述・分析が施されている。このことが、本研究の現実への説 明力と、分析の深さに貢献するものとなっている。加えて、既に平野氏は、工学博士号をこれらの 技術開発に関して取得し、多くの工学論文をこれら事例の技術内容について発表している。また 一方、平野氏は、研究技術者としては異例なほど、技術の事業化にも深く関わり、製造・設計・信 頼性確保・製品化、営業・販売、市場開拓・事業計画立案、財務・人事・法人経営参画など、事業 活動そのものにも多岐にわたり実務経験を積んでいる。即ち、これらの事例を、工学的な学問対 象としてもよく熟知しているばかりか、事業の内容の隅々までも実務経験を通じて熟知しており、

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同一対象に対するこうした工学と経営学からの複眼的な理解と観察が、この研究に同氏ならでは のMOT(技術経営論)的な視点と洞察を生み出している。

論文では、3つの事例における、「知」の特質と、「組織」の特質の整合性について、事業進展の モードとの関係の中で分析を行い、両者の特質の整合性が共進化の条件となっていること、また これらの共進化が事業の進展の基礎となっていることを事象分析の中から導出している。こうした 分析を通じて、事業運営における「知」や「組織」の特質そのものの深い理解の重要性について示 唆するとともに、事例の具体的記述から、日本の産業振興にとっての大きな課題である大企業と ベンチャーとの連携のあり方についても、いくつかの有益な示唆が得られることを示している。

1.学術的評価

本論文は、先端技術デバイス産業でのベンチャリングの事例調査と分析をベースとしてい るが、その技術的特徴について、工学の専門レベルでの分析を行っているところに本論文の 第一の意義がある。通常、こうした技術分野についての経営学的解析では、あくまで専門分 野の異なる経営系の研究者が個人的力量で技術内容について理解しながら解析しているも のであって、必ずしも真にその分野の深い専門知識を持った上での解析ではない。従って、

技術の内容について、その意義や他の技術との関係や特質など、深い理解に到達するのは 極めて困難である。しかしながら、本論文では、こうした工学の専門レベルでの技術分析に基 づき、さらに経営学的な意義が議論されていることに学術的に大きな意義が見出せる。

本論文では、知識経営学の視点から、「知」としての技術の特質と、その事業化を担ったベ ンチャリングの「組織」としての特質との関係性を、豊富な事例の中で丹念に分析している。こ の場合も、論文で挙げている事業のすべてに平野氏自身が直接、事業の当事者として関わ っていることから、当事者でしか知りえない現象の背景や細部の因果関係などをベースとして 事例の観察・分析がなされており、これも本論文の学術的意義を高めるものとなっている。

分析のスキームとしての、「技術(知)」のすり合わせ性と組織の統合性との関係性を捉えた構図 は、すでに日本の自動車産業や半導体産業の産業構造解析のスキームとして用いられている構 図と類似している。本論文では、小規模のベンチャリング・レベルでの組織論に焦点を当てている、

という違いはあるが、分野や階層の違いはあっても、従来研究との類似した分析スキーム自体は、

本論文の独自性の主張としては十分とは言えないかもしれない。しいかし、本論文の独自性は、

分析スキームの枠組みの置き方そのものよりも、むしろその分析のディテールや深さに、そして技 術と組織の相互関係の分析に前述の複眼的特徴が現れているということにあるとすべきであろう。

分析を通じて、どの事業事例においても、事業の進展がみられた時期や事業の弱体化がみられ た時期があることは、事業の継続的な発展ということの難しさをよく物語っている。多くの事例研究 に見られるように、単純に成功した事業とその成功要因を割り出す分析ではなく、こうした事業や 技術の推移や位相に応じた、長期間にわたる因果関係の変化そのものに目を向けていることに、

本論文の奥行きの深さがある。そして、事業の成功時のみならず不成功時も含めて、「知」の特質

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的には事業の進展そのものが、両者の共進化モードに深く依存していることを導きだしている。

こうした対象の深い理解に基づいた実証的な研究は、極めて貴重であり、特に MOT(技術経営) 分野における学術的価値が高い論文といえる。

2.実践的評価

日本経済は周知のように1990年代以降の低迷から、未だ完全に立ち直ったとはいいがたい。

今後の成長と産業活性化のためには、いわゆる「大企業病」の克服と、これとリンクしたものとして の多くのベンチャリングの振興が重要なキーになると考えられる。そして、日本の強みを活かした 分野としての先端技術におけるベンチャリング、ないし製造業としてのデバイス製造・販売事業の 活性化はその中でも特に注目・期待を集める分野である。

本論文で扱っている日本における先端技術デバイスのベンチャリングは、まさに今後の日本経 済の発展のために、きわめて重要な分野のひとつということができる。現実には、米国のように活 発なベンチャー投資の実績も現実も乏しい、日本の企業文化において、大企業からのスピンアウ トやスピンオフによる社外ベンチャリング、および社内ベンチャーやベンチャリング・プロジェクトが、

今後の日本が乗り越えていかねばならない道を示唆している。そうした意味で、本論文で取り上げ ているベンチャリングの3つの事例は、どの事例をとっても、今後の日本にとって大きな指針となる べき要素を持っている。

事例1においては、大企業発のシーズ技術志向ベンチャリングにおいて、親企業とのミッション 共有が親企業からの強い支援、そして支援の継続を取り付けるための重要な要素であることを示 唆している。従って、ベンチャリングの事業ミッションが、親企業の本来的事業ミッションとの間の共 通性が希薄な場合、親企業の支援に過大な期待を持つよりも、早期に外部との連携体制確立を 急ぐべきであり、外部との協力関係によって事業の発展を図る戦略が必要となる。

事例2においては、独立採算的な事業部制にあっても、社内との連携活動を軽視すべきではな く、市場や競合の動向には常に細心の注意を払いつつ、外部との連携のみならず社内の他組織 との連携の重要性を再考すべきであることが示唆される。

事例3においては、技術の特質や内容について、恣意的な思い入れから期待するだけでなく、

幅広い可能性や選択肢に目を配りながら、外部環境の変化などに適応しつつ、技術内容や事業 を担う、組織の特質を改革し、柔軟に対処していくことの重要性を示唆している。

インテンシィブな事例の調査により、こうした具体的な知見が数多く得られたことは、本研究の大 きな実践的価値を示すものである。

3.課題

前述したように、本論文では、大企業がその事業の一部を社外ベンチャー、社内ベンチャー、

社内プロジェクトなどの形でベンチャリングしていく、3つの典型的な事例を取り上げている。その 意味で、日本の大企業が新規事業を開拓していく場合に重要となる主要な典型例を包含した、

貴重な事例発掘であり、その中には他の企業に与えることのできる指針や示唆が豊富に含まれて

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いると考えられる。

しかしながら、本研究では、技術の内部構造や特質の解析、組織の履歴や外部環境に依存し た特質の解析などについては丹念に事実を掘り起こし解析しているが、組織の構成要素である

「個人」のレベルに対しての分析については十分に尽くされていない。より具体的には各事例にお けるベンチャリングの中心人物(アントレプレナー)の個人としての特質、そして特にアントレプレナ ーが事業の継続と進展を図るために親企業側に対して行った働きかけ、作用の特質などについ ては解析が不十分である。親企業側から見たベンチャーの位置付けや支援について触れながら、

ベンチャー側からみた親企業への密着手法、支援獲得方法などの詳細について触れていないた め、親企業とベンチャーとの「相互」関係の解析としてはやや不十分である。特に、各事例におけ るこうした相互関係の違いについて分析すれば、大企業とベンチャーとの関係維持のあり方につ いて、極めて今日的な有益な示唆へと繋がった可能性があるだけに今後の課題といわざるを得な い。

また、こうした大企業発の先端技術関連ベンチャーは、今後の日本における産業活性化に極 めて重要な位置を占めるため、他の多くのベンチャリングに対しての具体的で現実的な提言にも より大きな比重をおけば、本論文の実践面での貢献度がさらに大きなものになったと考えられる。

知識経営学に立脚した概念の整理や理論的構築性に大きな努力を払った結果、こうしたより現実 的な事実分析や提言の導出に十分な力を割かなかったのが、本論文の短所である。こうした点に さらに気を配ることによって、当該研究の意義や価値がより高まると考えられ、今後こうした側面か らの研究の継続と継続的な成果発表が期待される。

Ⅳ 博士学位論文申請に関する結論

平野氏の博士学位申請論文『先端技術デバイス・ベンチャリングにおける「知」と「組織」の共進 化経営―通信部品産業での事例を対象として―』は、日本の産業振興にとって重要な位置を占 める先端技術分野でのベンチャリングについて、貴重な事例発掘を行い、その事象の背後に、知 識社会における暗黙知経営の重要性が潜んでおり、事象の丹念な分析により、「知」の進化と「組 織」の進化が密接な相互依存関係にあること、またこれら各々の特質の整合性が、各々の進化の 条件となっており、これらの共進化を促すと共に、事業そのものの進展を支えるものであることを実 証的に明らかにしている。この実証研究は、学術的には知識経営学の発展とその研究方法論の 開拓に寄与するものであり、同時に日本の先端分野での事例研究を通じて、日本でのベンチャリ ングへの今日的な指針の提示と、現実の企業活動への貴重な示唆を与えている。

本論文の課題で指摘したような事項はあるが、指摘事項は、本論文を出版する場合に整備すべ き事項と、今後さらに研究を進化させる場合のテーマであり、全体の評価を落とすものではない。

本論文は、先端分野でのベンチャリングや事業実践について今日的な示唆を与え、知識経営 学の理論的枠組みからの現象分析の可能性と重要性を立証した研究論文といえる。審査員全員

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2006 年 12 月 28 日

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 博士(学術・早稲田大学) 寺本 義也

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 博士(工学・東京大学) 山本 尚利

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 博士(学術・早稲田大学) 柳 孝一

東京理科大学大学院総合科学技術経営研究科教授 宮永 博史

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