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令状の呼称についての若干の考察

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Academic year: 2021

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令状の呼称についての若干の考察

著者 古江 ?隆

雑誌名 同志社法學

巻 69

号 2

ページ 407‑441

発行年 2017‑06‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000416

(2)

   同志社法学 六九巻二号七五四〇七

           

  謹んで、佐藤嘉彦先生、森本滋先生の古稀をお祝い申し上げます。   佐藤先生には、実務家出身教員の先輩として、また同じファッハの同僚教員として、ひとり専門分野のみならず、文学、詩歌などあらゆる分野のお話を親しくお伺いすることができ、どんなに感謝しても感謝し尽せるものではありません。また、森本先生には、非徳短才のうえ大学教員として甚だ未熟な私に、折に触れて、大学院教育のあるべき姿、大学教員としての心構えなど数多の御教示をいただきました。厚く御礼を申し上げます。

  両先生の今後のなお一層のご健勝とご活躍をお祈り申し上げます。

(3)

   同志社法学 六九巻二号七六四〇八

一  令状主義と令状の呼称との関係   1  裁判所の行う捜索・差押えについては、刑事訴訟法自体が当該令状を﹁差押状﹂、﹁捜索状﹂と定めており(第一〇六条、第一〇七条)、これらの令状の性質が命令状であることについては疑いの余地はない(裁判所の命令であるがゆえに、第一〇八条の定めるように﹁執行﹂すべきものである。) )1

。これに対して、捜査段階における差押え、捜索及び検証に必要とされている令状(第二一八条第一項)については、法は、格別、その呼称を定めていないものの、今日の令状実務においては、その性質が許可状であるとの理解を前提に、﹁差押許可状﹂、﹁捜索許可状﹂、﹁検証許可状﹂と呼び習わされている。ところが、同じく許可状とされている身体検査の令状については、﹁身体検査令状﹂と呼ばれているのである。

  このように、命令状と許可状という令状の性質の違いにかんがみれば、公訴提起後に裁判所の行う差押え、捜索のための令状は﹁差押状﹂、﹁捜索状﹂と呼ばれ、捜査段階のそれは﹁差押許可状﹂、﹁捜索許可状﹂、﹁検証許可状﹂と呼ばれることには合理性を認めることができるが、そうだとすると、許可状であるはずの﹁身体検査令状﹂は、何ゆえに﹁身体検査許可 00状﹂と命名されなかったのだろうか。

  2  憲法第三三条及び第三五条は、英米法の令状主義を継受したものであり、令状主義は、我が刑事訴訟における根幹をなす原理として、今日の刑事実務に深く根付いていることは、周く知られているとおりである。

  ここにいう﹁令状主義﹂とは、捜査機関が強制処分を行うに当たって裁判官の令状を要求されるのみならず、裁判所や裁判官が強制処分を行う際にも令状を要することをいうとされるのが一般であろう 2

(前者が許可状であり、後者が命令状である。)。令状主義が捜査機関の強制処分(第一九七条第一項ただし書)を規律するだけの原理ではないことにつ

(4)

   同志社法学 六九巻二号七七四〇九 いて、小林充元判事は、﹁令状主義は強制処分一般に妥当する原則であって(法六二、一〇六・一六七Ⅱ、一九九Ⅰ、Ⅱ一七、二一八、二二五Ⅲ等)、必ずしも捜査段階の強制処分に限られるものではないが、捜査段階において最もよくその機能を発揮し得るものであり、また、重要性を帯びるものと考えられる。﹂ 3

とされておられる。

  問題は、憲法の採用した﹁令状主義﹂の意味するところが、捜査段階において用いられる強制処分に限ってみると、勾留や鑑定留置など一部の処分を除き、捜査機関が強制処分の主体であって、裁判官は、その要件の存否を審査をして捜査機関に対してこれを許可するにすぎないものであるかどうかである。すなわち、我が憲法の﹁令状主義﹂は、捜査段階における強制処分(勾留、鑑定留置を除く。)について、捜査機関と裁判官のいずれをその主体とするものか、そしてまた、そこでいう﹁令状﹂とは命令状あるいは許可状のいずれを指すのかが問題となろう。

  捜査段階における現下の令状実務は、憲法の採用した﹁令状主義﹂の意義を右のように﹁捜査機関が強制処分を行うに当たって裁判官の令状が要求される﹂こと(すなわち、捜査機関が強制処分の主体である)と理解することを前提にするものである。

  現に、多くの体系書等も同様の理解を示す。例えば、田宮教授は、﹁捜査機関が逮捕や捜索・押収などの強制処分をするについて、第三者たる裁判官の保証(令状による)を必要とする制度を令状主義という。﹂ 4

とされ、松田岳士教授も、﹁捜査機関が﹃逮捕﹄や﹃侵入、捜索及び押収﹄等の処分を行うには、一定の場合を除いて、あらかじめ﹃司法官憲﹄が発付する令状によらなければならないとするもので、令状主義とよばれる。﹂ 5

とされており、令状主義とは、捜査段階においては、捜査機関の行う強制処分に対する司法的抑制の趣旨に理解されているようである 6

  3  しかし、現行刑事訴訟法の規定あるいは現下の令状実務から距離を置いて、憲法第三三条、第三五条の﹁令状主義﹂を眺めたときは、このように、捜査段階における強制処分に関して、捜査機関が強制処分の主体であり、裁判官は

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   同志社法学 六九巻二号七八四一〇

令状審査を通じて司法的抑制を行うにすぎないと解することが、憲法の採る﹁令状主義﹂の理解として、はたして正当かどうか、なお検討を要するように思われるのである。

  平野教授が、﹁憲法が令状主義をとったのは、裁判官だけが強制処分ができる 00000000000000としたもので、令状は当然に命令状であることが予定されている。﹂ 7

とされていることは、周知のとおりである。同様の理解は、ひとり平野教授のみならず、松尾教授の論考にも見受けられる。松尾教授も、﹁憲法のいう司法的抑制の趣旨は、強制処分の権限︱および責任︱を裁判官に委ねるところにあるのだから、逮捕状も捜査機関に被疑者を逮捕し裁判官のもとに引致せよと命令するものだと解釈した方が、憲法三三条の意図により忠実なことになる。﹂ )8とされ、また、﹁﹃司法的抑制﹄というのは、もともと捜査機関に強制権限があることを前提とし、それを﹃司法﹄部によって﹃抑制﹄しようとするもので、アメリカ法の伝統的な考え方と合致するかには疑問がある。﹂ )9とされるのである。田宮教授が、﹁逮捕状の性質について、弾劾的捜査観の立場からは、理論上命令状と解さざるを得ない﹂ ₁₀

と言われるのも、同様の理解を前提とするものであろう。

  ここでは、令状主義の意義、とりわけ強制処分の主体に関する問題は、令状の性質論(許可状か命令状か)と表裏一体の関係(前者が表であり、後者はその裏面ということになろう。)のものとして理解されているのである ₁₁

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   同志社法学 六九巻二号七九四一一

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二  刑事訴訟法施行当初における令状の呼称   1  刑事訴訟法の施行当初は、どのように理解されていたのであろうか。強制処分の主体すなわち令状の性質(命令状か許可状か)の問題は、令状の呼称に反映されるはずである。

  新刑事訴訟法の立案担当者であった司法省の宮下明義検事の逐条解説では、﹁差押、捜索又は検証令状﹂ ₁₂

、﹁差押令状

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   同志社法学 六九巻二号八〇四一二

と捜索令状﹂、﹁差押捜索令状﹂ ₁₃

とされており、差押え・捜索についても、検証についても、﹁差押令状﹂、﹁捜索令状﹂、﹁検証令状﹂と呼ぶべきものと想定していたようであり、ここにおいては﹁身体検査令状﹂との間に呼称上の齟齬はない。刑事訴訟法の立案に関与された団藤重光博士も、そのコンメンタールにおいて、同様に、﹁差押令状﹂﹁捜索令状﹂﹁検証令状﹂ ₁₄

あるいは、﹁差押令状、捜索令状、検証令状、身体検査令状﹂ ₁₅

と表現しておられる。また、中武靖夫教授も、同時期に刊行されたコンメンタールにおいて、﹁検証令状﹂ ₁₆

の文言を用いている。

  2  新刑事訴訟法の施行当初、捜査に関する書類の書式(様式)は、どうであったろう。   最高検察庁発出の﹃司法警察捜査書類様式例﹄(昭和二四年一月一日)は、当然のことながら、立案担当者と同様に、﹁令状請求書﹂﹁令状の発付を請求する﹂(様式第一五号) ₁₇

としている。なお、刑事訴訟法改正案を審議する第二回国会における宮下明義政府委員(法務庁検務局刑事課長)の逐条説明においては、﹁(二一八条の)令状は、差押状 000、捜索状 000、普通の検証状 000000及び身体検査令状という四種の令状が発付されるわけでございます。﹂ ₁₈

とされており、裁判所(官)の行う差押え、捜索、検証の令状の呼称との混同が見受けられるのは、どうしたことであろうか。

  これに対して、最高裁判所事務総局刑事局が昭和二四年一月に作成した﹃刑事裁判資料第一二号﹄中の﹁令状様式例﹂ ₁₉

においては、裁判所の行う差押え及び捜索については﹁捜索状﹂(様式第一七)、﹁差押状﹂(様式第一八)とされているのに対して、捜査機関の行うそれは、﹁捜索許可状﹂(様式第二〇)、﹁差押許可状﹂(様式第二一)、裁判内容は、﹁捜索することを許可する。﹂、﹁差し押さえることを許可する。﹂とされ、検証については﹁検証許可状﹂(様式第二三)とされていたが、身体検査についてだけは﹁身体検査令状﹂(様式第二四)とされていた。

  そうすると、刑事訴訟法の施行当初の昭和二四、五年ころは、捜査機関の書式は﹁捜索令状﹂、﹁差押令状﹂、﹁検証令状﹂の請求書であったのに対して、令状の請求を受けた裁判官は、﹁捜索許可状﹂、﹁差押え許可状﹂、﹁検証許可状﹂と

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   同志社法学 六九巻二号八一四一三 命名された令状を発付していたということになろうか ₂₀

  最高検察庁の定めた様式に係る呼称は、憲法第三五条、またこれを受けた刑事訴訟法第二一八条第一項の﹁令状﹂の文言に忠実なものであるが、最高裁判所事務総局刑事局のそれは、令状の性質を許可状と解して、﹁許可状﹂の文言を用いたものであろう。

  付言するに、逮捕状、勾留状に関しては、これらの文献や書式例のいずれにおいても、﹁逮捕令状﹂、﹁逮捕許可状﹂、﹁勾留令状﹂、﹁勾留命令状﹂の呼称は用いられていない。もとより、刑事訴訟法は、第一九九条において﹁逮捕状﹂の呼称を、第六二条(第二〇七条第一項により準用)において﹁勾留状﹂の呼称を用いているのであるから、各条を根拠とする令状に条文に定める呼称が用いられるのは、至極当然のことである。刑事訴訟法が﹁逮捕令状﹂ではなく﹁逮捕状﹂の呼称を、﹁勾留令状﹂ではなく﹁勾留状﹂の呼称を用いた理由については、これを明らかにする文献に乏しいものの、おそらくは、旧刑事訴訟法において用いられた逮捕状、勾留状の文言に由来するのではなかろうか。

  旧刑事訴訟法における逮捕状(第五四七条)は、刑の執行のための身柄拘束の令状であって、新刑事訴訟法におけるそれとはおよそ異質のものである ₂₁

。新刑事訴訟法における﹁逮捕状﹂の呼称は、刑事訴訟法改正案第三次案(第二四六条)において初めて現れたものであるが(被疑者の逮捕は、第二次案まで検事及び司法警察官が行うことができるとされていた﹁被疑者の勾引﹂(第一次案、第二次案とも捜一第一一条第一項第一号)に代わって登場したものであり、旧刑事訴訟法第一二三条の検事の発する﹁勾引状による被疑者勾引﹂の系譜に属する ₂₂

。)、憲法第三三条の﹁司法官憲﹂の文言につき、検事などを含むか否かについて争いはあったものの、司法省としては、新刑事訴訟法の立案過程において、検事及び司法警察官に勾引状を発する権限を認めないこととしたため、旧刑事訴訟法に定められていた検事の強制処分としての勾引に代えて、公訴提起前の被疑者について、治罪法以来の現行犯人の身柄拘束のほか、新たに被疑者の身柄

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   同志社法学 六九巻二号八二四一四

拘束としての逮捕の制度を設けることとしたのである ₂₃

。この身柄拘束を﹁逮捕﹂と命名したのは、もとより公布されたばかりの日本国憲法第三三条の﹁逮捕﹂の文言(勾留状等を含む広義の逮捕である。)に倣ったものであり、また、勾留前の手続という意味において治罪法、旧々刑事訴訟法、旧刑事訴訟法の現行犯人の短時間の身柄拘束としての﹁逮捕﹂(治罪法第一〇二条第一項、第一〇五条、旧々刑事訴訟法第五八条第一項、第六〇条、旧刑事訴訟法第一二四条、第一二五条第一項)になぞらえたものであろう。令状の呼称を﹁逮捕令状﹂﹁逮捕許可状﹂としなかったのは、刑の執行のための﹁逮捕状﹂の呼称を流用したものであろうか ₂₄

  また、勾留状については、旧刑事訴訟法の下では、捜査段階における勾留状としては、現行犯逮捕に係る場合で急速を要するときに検事の発する被疑者の勾留状(第一二九条第一項、第二項)と、検事が捜査上の必要から予審判事・区裁判所判事に勾留の請求を行い予審判事・区裁判所判事が発する被疑者の勾留状(第二五五条第一項、第二項、第一二二条、第九一条)の二種が存したが ₂₅

、新刑事訴訟法の﹁勾留状﹂は、裁判官への勾留請求という意味において共通する予審判事らの発する﹁勾留状﹂に倣ったものであろう。

  差押え、捜索及び検証に関して、捜査機関による令状請求(令状請求書)における令状の呼称と令状裁判官の発付する令状(許可状)の呼称との間の齟齬は、間もなく解消されることとなる。すなわち、昭和二八年の最高検察庁発出の﹃司法警察職員捜査書類様式例﹄は、その様式第二二号において、昭和二四年の様式例で﹁令状請求書﹂﹁令状の発付を請求する﹂とされていた個所を、﹁許可状請求書﹂﹁許可状の発付を請求する。﹂と改めたからであ ₂₆

₂₇

  このようにして、差押え、捜索及び検証に関しては、捜査機関の令状請求書も裁判官の発付する令状も、ともに﹁許可状﹂の呼称が用いられることとなったのである。

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   同志社法学 六九巻二号八三四一五

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