コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工 法の開発とトンネル覆工への適用
古川, 幸則
https://doi.org/10.15017/1398336
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
コンクリートの品質向上のための 新しい浸水養生工法の開発と
トンネル覆工への適用
2013 年 7 月
古川 幸則
新しい浸水養生工法の開発と トンネル覆工への適用
2013 年 7 月
九州大学大学院工学府建設システム工学専攻
古川 幸則
論文提出者 古川 幸則
論文題名 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生 工法の開発とトンネル覆工への適用
論文調査委員 主査 九州大学 教授 三谷 泰浩
_________________________印 副査 九州大学 教授 濵田 秀則
_________________________印 副査 九州大学 教授 日野 伸一
_________________________印
1.1 背景と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1.2 本論文の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
第2章 コンクリート養生の変遷および定義
2.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 2.2 コンクリート施工技術の変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 2.3 国内外の図書や基準類からみた規定の変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・ 11 2.4 従来の養生方法とその定義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 2.5 最近の改良された養生方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 2.6 基準類における定義と養生の分類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 2.7 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
第3章 コンクリート養生における既往研究
3.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 3.2 強度発現特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 3.3 物質移動抵抗性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42 3.4 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61
第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法
4.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63 4.2 覆工の役割・機能および設計思想の変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 64 4.3 覆工コンクリートの施工方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67 4.4 覆工コンクリートの課題と養生技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72 4.5 覆工コンクリートの養生効果に関する既往研究 ・・・・・・・・・・・・・ 81 4.6 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96
5.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99 5.2 システム開発の設計思想と浸水養生の定義 ・・・・・・・・・・・・・・・100 5.3 アクアカーテン養生システムの構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・102 5.4 浸水養生によるコンクリート壁面の汚れ対策 ・・・・・・・・・・・・・・105 5.5 吸水量と吸水速度に関する試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112 5.6 浸水養生と水中養生の養生効果の比較試験 ・・・・・・・・・・・・・・・116 5.7 浸水養生の実施時期と養生効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120 5.8 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・126 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129
第6章 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討
6.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・131 6.2 実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・132 6.3 圧縮強度試験および質量変化試験の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・137 6.4 大型試験体におけるテストハンマー反発度試験の評価 ・・・・・・・・・・142 6.5 中性化促進試験の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・145 6.6 凍結融解試験の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・146 6.7 細孔径分布試験の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・148 6.8 透気試験の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・150 6.9 膨張コンクリートにおける浸水養生の効果 ・・・・・・・・・・・・・・・151 6.10 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・156 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・158
第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用
7.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159 7.2 トンネル覆工用アクアカーテンの主要資機材の開発 ・・・・・・・・・・・160 7.3 トンネル覆工用アクアカーテンの施工方法 ・・・・・・・・・・・・・・・174 7.4 現場における覆工コンクリートの高品質化とその評価 ・・・・・・・・・・187 7.5 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・195 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・196
第8章 結 論
8.1 本研究の総括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・197 8.2 開発の振り返りと今後の展望 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・205
謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・209
第1章 緒 論
1.1 背景と目的
硬化したコンクリートは,強度特性や耐久性などの面において本来優れた性能を発揮する材 料であるが,施工環境や施工方法によっては潜在的な性能を発揮できない場合がある.しかし,
多年にわたるコンクリートの品質に係わる研究は,理想的な養生が行われることを前提として 本来の性能を見極めることが主体となっている.
コンクリートに関する技術については,コンクリートの製造,運搬,締固めといった各作業 工程において著しい発展を遂げてきたが[1],[2],養生技術については目立った技術開発は行 われていない.
コンクリートに関する国内外の歴史的図書では,養生の必要性が以前から記述されており,
その中でコンクリートに外部から水分を供給することの重要性が述べられている[3],[4].し かし,最近ではセメントの水和が完全に行われるために必要な水は練混ぜ水で十分であり,コ ンクリートの硬化のために水を補給する必要は全くないとの誤った認識が蔓延している.その ため,封かん養生を湿潤養生とみなす傾向が認められる.また,建築学会では不透水性の型枠 を存置した状態を湿潤状態[5]と考えている.
わが国における養生に関する規定の変遷を見ると,施工性や経済性を重視するあまり養生を 軽視してきた背景がある.また,土木学会コンクリート標準示方書[6]は,型枠を用いない露 出面に対する養生を規定しているものであり,型枠を用いる場合のコンクリート面についての 記述はない.鉄筋コンクリートの耐久性能は,かぶりコンクリートの性能に大きく左右される ことを考慮すると,型枠を使用する面に対する規定が必要である.このような中,土木学会コ ンクリート委員会においては,コンクリート構造物の表層コンクリートの品質が耐久性に大き な影響を及ぼすとして研究を始めている[7].また,実際の施工条件に近い養生期間で行なわれ た各種研究では,水中,散水,噴霧,封かん等の養生方法とコンクリートの品質向上効果につ いて検討されており,水中養生が最も優れていることが共通の研究成果として得られている [8],[9].
トンネル覆工は,道路,鉄道および水路等の使用目的や条件に応じて,トンネルの機能を長 期間にわたり維持するための重要な構造物である.覆工コンクリートは,力学的機能が不要と なったことや[10],コンクリートポンプなどの施工機械の性能向上と相まって,NATMにお ける覆工コンクリートの品質は,格段に向上したという認識が強くなっている.しかし,実際 の覆工コンクリートの施工方法では,コンクリート打込後 12~24 時間での型枠取りはずしと不 十分な養生となっており,良いコンクリートが施工されているとは言い難い.また 1999 年以降,
覆工コンクリートの剥落事故が発生[11]し,覆工コンクリート構造物の安全神話が崩れコン
クリートに対する信頼性が大きく損なわれている.
一般構造物のコンクリートの養生条件と異なり,トンネル覆工コンクリートは打込み翌日に 脱型する施工サイクルとなる.トンネル坑内は温度および湿度が安定しているという考え方に より,一般には付加的な養生は行っていない.しかし,近年では坑内環境を改善するために大 型換気設備の導入が進み,坑内温度および湿度は低下しており,コンクリートに対する坑内環 境は悪くなっている.また,トンネルの大断面化等の要因も重なり乾燥収縮が原因とされるひ び割れが発生している.覆工コンクリートの養生に関しては,型枠取りはずし時期と強度など に関する基準はあるものの,型枠取りはずし後の養生に関しては基準もない.
覆工コンクリートは,早期に脱型されるという不可避的な条件にあるが,給水を行い湿潤養 生することで,逆に大きな養生効果を期待することができる.コンクリート養生を単に覆工コ ンクリートの強度発現不足の対策としてではなく,覆工コンクリートの更なる耐久性向上を目 指した養生として捉えていくことが重要である.
これらの課題を解決するためには,トンネル掘削の施工性を確保しつつ,覆工コンクリート 表面に常に水分を供給できる湿潤養生を適用することが理想である.スラブ面のような水平面 でのコンクリートの養生は容易に湿潤養生を行えるが,トンネル覆工コンクリートに対しては 湿潤養生を行なうことが難しく,実際は不十分な湿潤養生や養生環境が劣悪な中での気中養生 状態となっている.
一方で近年は,公共工事において総合評価落札方式が導入されており,ほとんどのトンネル 案件で覆工コンクリートの品質向上に関する技術提案が求められている.このような情勢の中 でトンネルの施工会社では,覆工コンクリートの養生について新技術を開発し導入し始める等,
覆工コンクリートの養生に関して多くの研究が盛んに行われるようになった.その中でも写真 1.1-1 に示すように 2003 年(平成 15 年)に登場したトンネルバルーン[12]は,多くのトンネ ル現場で採用されている.しかし,これらの養生工法は保水養生に関するものが多く,給水養 生が可能な工法については施工性や経済性等の面で課題が残る.特に噴霧養生や散水養生につ いては,路盤の泥濘化や電気設備への影響もあり,実際の施工では給水養生と言えるほどの養 生を行えないのが現状である.
以上のような背景から,本研究では写真 1.1-2 に示すような覆工コンクリートに理想的な養 生が可能となるアクアカーテン養生システムを開発し,新たなる湿潤養生のひとつである浸水 養生を提案する.浸水養生については,覆工コンクリートにおいても水中養生並みの養生効果 を得ることができ,経済的で施工性に優れた工法である.なお,本研究の対象は現場打ちのコ ンクリートで覆工を施工するトンネルとし,養生時期は型枠取りはずし後である.
写真 1.1-1 トンネルバルーンの施工状況[13]
写真 1.1-2 アクアカーテン養生システムの施工状況
1.2 本論文の構成
本論文では,先ず一般論としてコンクリートの養生方法や効果について,既往の施工報告や 関連書籍および基準等の文献調査を行い,これらの変遷や現況を把握し,課題の抽出を行う.
そのうえで,トンネル覆工コンクリートの役割・機能を整理し,その施工方法や養生技術につ いての現状を把握し,覆工コンクリートに特化した課題の抽出を行なう.そして,コンクリー トの養生としては,最も理想的な水中養生に匹敵するアクアカーテン養生システム(浸水養生 工法)の開発について検討し,その効果を検証したうえで,実構造物のトンネルにおいてアク アカーテンを適用できるよう合理的な施工方法について検討する.
本論文は,全体を8章で構成する.第1章は緒論,第2章から第3章は一般論としてのコン クリート養生における定義や既往の研究について調査し,第4章は覆工コンクリートの施工方 法や養生方法についての現状と課題を考察する.第5章ではアクアカーテンの開発および施工 法を検討し,浸水養生の定義について検討する.第6章で強度発現性や耐久性の面からの浸水 養生効果を検討する.第7章はアクアカーテンを道路2車線断面のトンネルに適用する際の施 工方法について詳細を述べ,実際のトンネルにおける覆工コンクリートの高品質化に関する取 り組みを紹介する.第8章は本研究のまとめを述べて結論とする.図1.2-1に論文の構成を示 す.以下に,本論文を各章ごとに要約する.
第2章では,コンクリートの施工方法や養生方法の変遷および定義を振り返るために,コン クリート施工技術および歴史的図書,各種規定の調査し整理する.また,近年開発が進展しは じめた養生技術に関する新工法について,これらの適用性について調査する.さらにわが国の 代表的な基準類における養生の定義を紹介し,基準毎に定義が異なっている湿潤養生について 整理を行なう.
第3章では,一般的なコンクリートにおける養生とコンクリート性能に関する関連性につい て調査する.そのため,本章ではコンクリート性能の指標としてよく用いられる強度発現性,
物質移動抵抗性,耐久性等と養生方法に関する最近の取り組み事例をまとめ,養生の効果につ いて調査する.
第4章では,覆工コンクリートの現状と養生方法の課題を整理し,覆工コンクリートの役 割・機能および設計思想の変遷や施工方法を調査する.また,現場で最もなおざりになってい る養生方法の課題についても検討を行なう.さらに,近年の総合評価落札方式で評価項目にな っていることもあり,急速に技術開発が進んでいる覆工コンクリートの養生工法事例について まとめ,湿潤養生を適切に実施した場合の養生効果について検討する.
第5章では,今回開発した浸水養生工法(アクアカーテン)について工法の概要,標準仕様 について紹介する.なお,アクアカーテンは養生シート,吸引装置,給水装置から構成され,
養生シートとコンクリート表面の間の空気を吸引器により吸出し減圧することで,コンクリー ト面に養生シートを密着させ,その間に給水を行いコンクリート表面に水膜を形成させる工法 である.本章では,アクアカーテンの仕様や施工方法を決定するまでに行なった各種試験の内
容と成果について考察する.
第6章では,鉛直壁面や柱でも常にコンクリート表面に水膜を形成させ安定した給水養生が 可能となるアクアカーテンについて室内実験を行ない,その養生効果を明らかにする.効果に ついては,強度発現特性の評価,中性化促進試験の評価,凍結融解抵抗性に及ぼす影響,細孔 構造に及ぼす影響,透気係数および膨張コンクリートでの効果等について考察する.
第7章では,アクアカーテンを覆工コンクリートに適用できるように養生システムの更なる 改良について検討を行い,その中で主要資機材の開発を行なう.また,トンネル坑内という特 殊条件下でも確実で再現性の高い合理的な施工方法を提案する.そして最後に実際の現場にお ける覆工コンクリートの高品質化とその対応について述べる.
図 1.2-1 論文の構成
ア ク ア カー テ ン の開発として 各種実験、効果、
トン ネル覆工へ 適用方法の整理
覆工コ ン ク リー トの役割・ 機能 およ び 養生方法の整理 一般論として養生の定義や
既往研究の整理 第2章
コンクリート養生の変遷および定義
第1章 緒 論
第7章
アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用
第8章 結 論
・施工技術の変遷や各種基準類の変遷
・最近の養生方法の調査
・養生の分類
第3章
コンクリート養生における既往研究
・強度発現特性
・物質移動抵抗性
第4章
覆工コンクリートの役割と施工方法および 養生方法
・覆工の役割・機能の変遷
・覆工の施工方法、養生に関する既往研究
・覆工養生技術と課題
第5章
浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発
・システム開発の設計思想,浸水養生の定義
・アクアカーテンの構成、出来栄え確保
・施工方法確立のための各種試験
第6章
覆工コンクリートにおける浸水養生効果 の検討
・圧縮強度等の評価
・耐久性の評価
・アクアカーテンの主要資機材の開発
・アクアカーテンの施工方法
・覆工コンクリート高品質化とその対応
参考文献
[1] 建設ロボット・自動化技術便覧 1995,㈶先端建設技術センター,pp.5- 4~5-9.
[2] コンクリート診断技術 ’09[応用編],日本コンクリート工学協会,pp.136.
[3] 吉田徳次郎:第 3 次改著 鉄筋コンクリート設計法,養賢堂発行,1967,pp51-52.
[4] 後藤幸正,尾坂芳夫監訳:ネビルのコンクリートの特性,技報堂出版株式会社,昭和 54 年,
pp235-240.
[5] 日本建築学会建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事 2009.
[6] 土木学会コンクリート標準示方書[施工編]2007 年版.
[7] 土木学会コンクリート技術シリーズ:構造物表面のコンクリート品質と耐久性能検証システム研 究小委員会(335 委員会)成果報告書およびシンポジウム講演概要集.
[7] 蔵重勲,廣永道彦:脱型材齢や暴露環境がコンクリートの強度特性や表層透気性ならびに中 性 化 抵 抗 性 に 及 ぼ す 影 響 の 実 験 的 評 価 , コ ン ク リ ー ト 工 学 年 次 論 文 集,Vol.32,No.1,2010,pp.623-628.
[8] 白根勇二,舟橋政司,松尾健二:施工条件や養生条件がコンクリート表層部の品質に及ぼす影 響,コンクリート工学年次論文集,Vol.32,No.1,2010,pp.1313-1318.
[10] 土木学会:トンネル標準示方書(山岳工法編),2006 年,土木学会,pp94.
[11] 日本鉄道建設業協会:山陽新幹線トンネル覆工技術に関する検討報告書,平成12年3月.
[12] 佐藤幸三,椎名貴快,松井健一,一條俊之,新藤敏郎,安部俊夫,小林雅彦:バルーンを用 いたトンネル二次覆工コンクリートの養生方法と効果について,土木学会第 59 回年次学術講 演会(平成 16 年 9 月),pp727-725.
[13] 九州建設技術フォーラム 2005 in 福岡 HP
第2章 コンクリート養生の変遷および定義
2.1 はじめに
硬化したコンクリートは,理想的な養生環境下といえる20±3℃の水中で,28日間養生され た供試体によって確認される“本来の性能”が発揮される場合,強度特性や耐久性の面で優れ たものとなる.しかし実際は,構造物が様々な条件下で施工され,“本来の性能”とは大きく乖 離し,潜在的な性能を発揮できないコンクリートも少なくない.
多年にわたるコンクリートの品質に係わる研究は,“本来の性能”を見極めることが主題であ り,特に耐久性についての性能についても十分な養生過程を経たコンクリートの “本来の性能”
に対するものが主体である.
近年報告されているコンクリートの不具合事例を見ると,トンネルや高架橋で生じたコンク リート片のはく落,コンクリートの中性化の進行や塩分浸透による鉄筋腐食による耐荷性能の 低下,凍結融解によるスケーリングや断面減少,化学的侵食によるコンクリートの劣化などで ある.これらは,コンクリート構造物の表面付近に生じているコンクリートの性能低下が,大 きな原因となっている.
本章では,コンクリート施工技術および歴史的図書,各種規定の変遷を調査し,養生の施工 方法やその考え方を考察する.また,近年は総合評価落札方式による案件でコンクリートに関 するテーマが増加していることもあり,養生技術に関する新工法が多く開発されているため,
これらの適用性について調査する.さらに実際に現場で採用されている養生方法の区分につい て述べる.
2.2 コンクリート施工技術の変遷
コンクリートの施工技術の変遷[1]は,図2.2-1に示すように,1920年以前は鉄筋コンクリー ト工事の導入期であり,硬練りコンクリートを人力で打ち込んでいる.これ以降1945年第二 次世界大戦までの土木工事では,鉄道・橋梁・水力ダムでのコンクリート打設技術も国内技術 として自立してきている.
戦後から1965年までは,東京オリンピックや東海道新幹線の開通といった一大エポックの 達成に向かって,建設の機械化が図られた.大規模工事では大型クレーンの設置が行なわれ,
養生作業は一段と機械化されている.また水力ダムの建設が積極的に進められ,施工法が確立 している.道路工事や,橋脚へのコンクリートも大量打設へと変化し,型枠の大型化,支保工 の鋼製化が進んだ時代でもある.
1965年以降1980年代までは,コンクリートポンプ工法の急速な普及とレディーミクストコ ンクリート工場が全国的に普及し始める.
1980年以降は本格的な経済成長期でもあり,高強度コンクリート,流動化コンクリートなど の高性能コンクリートの開発およびロボット技術の導入が積極的に進められている.1990年以 降はバブル景気の崩壊を向かえ,建設工事が縮小傾向を迎え始めると,塩害による鉄筋腐食,
アルカリ骨材反応等によるコンクリートの早期劣化が大きな社会問題となり,耐久性を確保す るための材料や配合上の対策が提示され始める.
そして2000年以降は,本格的な建設産業の冬の時代を向かえ,維持更新のあり方が各方面 で検討され始めている.
1995年に㈶先端建設技術センターが発行した建設ロボット自動化技術便覧のうち,5編コン クリート工[2]では,当時の建設の機械化とその後の動向について以下のように示している.
当時のコンクリート工事現場では,構造物規模の大型化とともに3K職場回避風潮と相まっ て,優れた労働力の確保が厳しい状況にある.また,現場生産主体のコンクリート工事は労働 集約的作業の代表例でもあり,昨今のエレクトロニクス技術分野の目覚しい発展に比べ,機械 化・自動化を進めにくい工種といえる.
図 2.2-1 コンクリート工事の変遷と打設量の推移[1]
コンクリート工事を作業内容ごとにみると,型枠の設置,コンクリートの運搬・打込み,締 固め,養生,表面仕上げなどがあり,一連の作業の中で種々のロボットが開発され,実用の段 階に到っているものがある.代表的なロボット化技術としては,運搬・打込みでは,ディストリ ビュータの改良,締固めでは締固め判定機能を備えたバイブレータ,水平打継目では,グリー ンカットロボット,型枠・支保工では自動昇降式大型型枠や3 次元測量による精度管理技術,
表面仕上げでは床仕上げロボットが普及し始めている.
しかし,今後の方向性にはコンクリート品質管理およびコンクリート構造物の解体技術が含 まれているが,養生作業については何ら触れていない.ロボット便覧に記述されているコンク リート工事の機械化の動向にも,コンクリートの養生技術が欠落している.養生作業にとって,
どのような作業を自動化あるいはロボット化するかの将来展望を示すことは当時には困難であ ったと考えられる.また,建築工事省力化の方向[3]を図示した図2.2-2によると,建築現場 では運搬・打込み・締固めに対する省力化を示しているが,養生についてはその方向性を示し 得ていない.このように,養生方法については,主要な作業工程の一つではあるが,施工技術 としての位置付けが難しく,ロボット化あるいは機械化などの取組み機会はなかったものと思 われる.
図 2.2-2 コンクリート工事省力化の方向[3]
2.3 国内外の図書や基準類からみた規定の変遷
2.3.1 歴史的図書からの引用
本項では,国内外のコンクリートにおける歴史的な教科書と言える資料をもとに養生方法に 関する部分を以下に述べる.
(1)吉田徳次郎著:鉄筋コンクリート設計法 1967 第 3 次改著(昭和 42 年)[4]
コンクリートの養生方法について,歴史的な教科書である吉田徳次郎著「鉄筋コンクリート 設計方法によると,第1編総説,第9節コンクリート打ちおよび養生§46養生で以下のとおり 記述している.
コンクリート打ちを終わってから,コンクリートを保護して,コンクリートの硬化作用を十分発 揮させると同時に,コンクリートを打って後まもなく乾燥するためにできるひび割れ,コンクリー トの乾燥収縮のために鉄筋コンクリートにおこる元応力,等をできるだけ少なくするための作業を コンクリートの養生という.コンクリートの養生作業を以下に示す.
(1) 霜,日光,風雨,等に対してコンクリートの露出面を保護すること
(2) コンクリートが十分硬化するまで,衝撃および過分の荷重を加えないようにコンクリート を保護すること
(3) コンクリートの硬化中コンクリートを適当の温度に保つこと
(4) 硬化中に十分な湿気を与えること,等である.
(2)近藤泰夫訳:TVAのコンクリート(コンクリートの製造と管理),1956 年[5]
TVAのコンクリート(コンクリートの製造と管理)では,18.養生(Curing)の記述は以下の とおりである.
コンクリートの強度その他の品質は,セメントの水和作用の程度によって定まり,主として適当 な温度と湿度との存在によって支配される.水養生(Water curing)-TVAの工事の大部分には 水養生が用いられ,これが最良の養生方法と考えられる.被膜養生剤(Membrane curing
compound)が,Cherokee,Douglas及びFontanaの各ダムに用いられた.よい方法であるが,その
使用される主な理由は,これを水に比較したとき,その適用による便宜のためであって,養生が優 秀であるためではない.
鉛直面に水を適用するには,型枠にとりつけた有孔パイプをホースで給水ラインに連絡する.パ イプを一度パネルにとりつけておくと,型枠を引き上げたときに,単にホース連絡を変更するだけ で十分である.給水ラインは通常コンクリートの中を通じてブロック毎に延長しておき,養生用の 便宜の連絡設備とする.表面に対し水は最小14日間与えたが次のリフトの養生のために,水が下位 のリフトの表面を流化するので,多くの表面は更に延長された期間に亘って養生されたことになる.
水平面は水又は湿砂で養生された.水は有孔パイプ,ローン型散水機(lawntype sprinkler)又は ホースを用いて適用された.連続散水が断続散水より遙かに効果的であった.
適当の養生を与えるためには監視隊(inspection force)を設けて,絶えず水が流れているように不 断に監視する必要がある,水が養生のために重要であることを知らない労務者によって,しばしば 中断される.又ホースや器具が他の目的のために持ち去られることも少なくない.
(3)ネビルのコンクリートの特性:後藤幸正・尾坂芳夫訳,1979 年[6]
ネビルのコンクリートの特性では,「5.10 コンクリートの養生」に以下のように記述されて いる.
1)養生とは
よいコンクリートを得るためには,適切な配合のものを打ち込んだ後,引続き硬化の初期段階の 間,適切な環境で養生しなければならない.養生とは,セメントの水和反応を促進するためにとら れる処置に付けられた名称で,温度およびコンクリートにおける水分移動の管理から成る.
2)養生の目的,実際の現場における養生の現状
まだ固まらないセメントペーストのもともと水で占められていた空間がセメントの水和生成物で 所要の程度に充たされるまで,コンクリートを飽水状態に,またできる限り飽水に近い状態に保つ ことである.しかし,大部分の現場では,コンクリートに起こりうる最大の水和作用が生じるより かなり前に積極的な養生を中止している.
3)養生の必要性
セメントの水和反応が起こるのは毛管内の水で飽和された状態のときだけであるということから 生じる.このため,毛管から蒸発することによる水分の損失を防がなければならない.さらに自己 脱水による内的に失う水分を外側からの水で補ってやらねばならない.すなわち,コンクリート内 部へ水が浸入できなければならない.
ペースト内に存在する水の量がすでに結合した水の量の少なくとも 2 倍なければ,密封した供試 体の水和反応を進行させることはできない.そのため,水セメント比が 0.5 以下の配合では自己脱 水が重要なこととなる.
一方,それよりも高い水セメント比では,密封供試体の水和反応の速度は飽水供試体と同様にな るが,忘れてはならないことはペースト内に存在する水の 1/2 だけが結合水に使われるということ である.以前は,セメントとの水和に必要な水量以上の水を含むコンクリートの配合であれば,わ ずかな水の損失ならば硬化の過程や強度の増進に不利な影響はないと考えられていたので,この報 告はかなり重要である.現在では,水和反応は,毛管内蒸気圧が飽和蒸気圧の 8 割ぐらいの十分高 いときにのみ生じることが知られている.水和反応が最も早く進行するのは,飽和蒸気圧のときだ けである.湿潤養生が強度に与える影響の程度は,例えば水セメント比 0.5 の場合を図示すると図 2.3-1 のとおりである.図 2.3-2 は種々の相対湿度で 6 ヶ月間放置後の水和の程度を示したものであ るが,飽和蒸気圧の 8 割以下では水和の程度が低く,3 割以下では極めてわずかであることが明らか である.十分な強度が発現するためにはすべてのセメントが水和する必要はなく,また実際にこれ が達成されるのはきわめて稀であることを強調しておきたい.
2.3.2 わが国の規定の変遷
コンクリート工学協会のコンクリート基本技術調査委員会養生WG[7]では,わが国の養生に 関する技術基準の変遷を2010年コンクリート年次大会の討論会資料として取りまとめている.
それによると,土木学会コンクリート標準示方書(以下示方書)では,昭和6年制定(1931年)
において既に養生に関する規定がある.露出面を布,砂等で覆ってかつ散水し,7日間湿潤状 態に保つ必要があり,また,せき板の乾燥の恐れがある場合は,これに散水する必要がある,
と規定している.建築工事に関する規定はさらに歴史が古く,大正3年(1923年)制定の建 築工事仕様書において,打込み後7日間,降雨・温度・直射日光に対する養生を行い,炎暑の 場合には散水が必要としている.明確な湿潤養生期間は,昭和28年(1953年)制定の建築工 事標準仕様書・同解説JASS5(以下JASS5)に普通セメントで5日間,早強セメントで3日 間以上湿潤状態に保つ必要があると規定している.普通セメントを用いた場合の養生期間に着 目すると,示方書昭和49年(1974年)制定において7日から5日間に変更され,以降,2007 年版まで同様である.建築学会のJASS5では,1986年改定で7日間に変更され,さらに,1997 年改定で供用期間の級毎に養生期間を設定している.この改定で供用期間が短期・標準の場合,
5日間に変更されている.
既出の検討資料[7]では,示方書の中でいくつか興味深い記述があることを指摘している.昭 和24年制定における「水和作用の観点から,理想は少なくとも6ヶ月間湿潤養生に保つ必要 がある.」と昭和49年制定の「長期間の養生は不経済,乾燥には相当の期間を有し,内部はそ
図 2.3-1 水セメント比 0.5 のコンクリートの強度への 湿潤養生の影響[6]
図 2.3-2 6ヵ月放置した乾燥セメントに種々の蒸気 圧で結合する水量[6]
の間に硬化する.初期の効果が著しく,長期の養生は,利益は少ない.」である.昭和49年制 定の記述は,2007年版の解説における記述内容にほぼ反映されている.ただ,次の改定の昭和 61年制定以降,2007年制定まで,「内部はその間に硬化する」および「長期の養生は,利益は 少ない」という記述は見られないことを付け加えておく.
最後に,示方書に限定し,条文の解説の記述の変遷を概観しておく.養生の目的の中に耐久 性の確保と言う記述が初めてなされたのは,平成3年制定からであり,さらに鋼材を保護する 性能と言う記述は,次の平成8年制定からである.ただ,耐久性確保と言うことが改めて強調 されているにもかかわらず,湿潤養生期間の標準は,昭和49年以降変更されていない.前述 したように,昭和49年制定では,「内部はその間に硬化する」および「長期の養生は,利益は 少ない」という記述もあり,当時は,表層部の耐久性の確保,鉄筋を保護する性能の確保と言 う概念は必ずしも重要視されていなかったことが想像される.すなわち,その時点から変更さ れていない現行の示方書の湿潤養生期間の標準が,表層部の耐久性の確保の上で十分な期間で あるか,その根拠は,明瞭とは言えないのである.また,同WG[7]では養生に関する定義に対 して,不確かな事項があることを記述している.JISでは,養生は「コンクリートに所要の性 能を発揮させるため,打込み後の一定期間,適当な温度と湿度を保つと同時に,有害な作用か ら保護する行為,または処置」と定義されている.しかしながら,実際の施工現場で行なわれ ている養生の実態から推察すると,養生に関する作業現場での目安は,不明確な点が多いこと をあげている.これらの項目を以下のようにまとめている.
(1)養生期間
JISの定義に基づけば,養生の開始は「打込み直後」となる.しかしながら,ここで言う「一 定の期間」とはいつまでを指すのか不明確である.実際に現場で行なわれている目安の一つに
「脱型までに要する日数」というものがあるが,この段階ではまだ「一定期間」の初期段階で あり一定期間とはなっていない.
また,養生をいつまで続けるのかといった点については,①100%の性能が発揮されるまで,
あるいは②100%の性能ではないにしても,養生を終了して有害作用によってコンクリートの 品質が変化しない程度に十分な性能が発揮されるまでなど,少し考えてみるとおぼろげな点が 多くある.
(2)養生目的
JISの定義に基づけば,養生の目的は,①温度と湿度を一定に保つこと,②有害な作用から 保護することである.しかしながら,実際の施工現場(特に暑中や寒中)では,温度と湿度を適 当に,且つ一定に保つことは甚だ困難であるのが実情である.どの程度の変動であれば「適当,
且つ一定」とみなせるのか明確になっていない.また,有害な作用からの保護とは,有害物の 侵入を制御するだけでなく,振動や衝撃などの物理的作用(振動等)から守ることと考えられる が,これらの物理的作用についてもどの程度の許容があるのか曖昧な定義となっている.
(3)品質確認方法
適切な養生を経てコンクリートの品質を確認するための試験方法は多く提案され実際に行な われているものもあるが,規定化されてはいない.
例えば,コンクリート強度の発現は,養生に大きく影響されることから,コンクリート強度 は養生効果を確認する一つの指標となる.構造物の強度を直接検査する代表的な試験方法は次 のとおりである.コア強度試験,ボス供試体試験,局部破壊試験による強度推定,反発度,超 音波試験,その他の方法がある.
これに対し,コンクリートの耐久性に関する確認方法は,物質移動抵抗性を確かめるトレン ト法による簡易透気試験,真空吸引試験,電気泳動によるコンクリート中の塩化物イオンの拡 散係数試験,コンクリートの比抵抗試験,超音波試験などが開発提案されている.
2.4 従来の養生方法とその定義
養生とは,コンクリートの打込みまたは成形後硬化の初期段階において,コンクリートが低 温,乾燥,急激な温度変化による有害な影響および振動,衝撃や荷重を受けないように保護し,
コンクリート構造物が十分な強度と耐久性を発揮するために必要な工程である.
コンクリートの強度等の諸物性は,セメントの水和反応に左右されるところが大きいため,
セメントの水和反応をいかに良好な条件下で進行させるかが重要であり,このためにはコンク リートの養生が大切である.
セメントの水和反応は,化学反応であるため,温度,湿度などが本質的因子となる.また,
硬化初期においてコンクリートが急激な乾燥や凍結などを受けると,ひび割れが発生し,セメ ント水和物が脆弱となり,強度や耐久性を低下させる原因となる.
コンクリート総覧[8]では,養生方法をその目的に応じて湿潤養生,保水養生,気中養生,保 温養生,加熱養生に分類し,さらに現場施工,工場製品,強度試験用供試体への適用範囲に区 分している.コンクリートの養生方法を表2.4-1に示す.
本節ではコンクリート総覧を基に,初期養生も含めて,養生に関して一般的に受け取られて いる定義について述べる.
2.4.1 初期養生
コンクリート総覧[8]では,初期養生とはフレッシュコンクリートを打ち込んだ直後から,コ ンクリートが凍害を受けたり(初期凍害),表面が急激に乾燥したり,また振動や衝撃などが作 用しないように初期の期間に行われる養生と定義している.
スラブなど露出面で風や直射日光によってブリ-ディング水の急速な蒸発によって生じるプ ラスティック収縮ひび割れを防止すること,雨水の侵入によってコンクリート表面が荒らされ ることを防ぐことなどが初期養生といえる.初期養生の期間は一概には示せないが,寒中コン クリートに関して初期凍害を防止するために初期養生終了後の所要の強度が表2.4-2に示され ているので,これが一応の目安とできる.
2.4.2 湿潤養生
コンクリート総覧[8]では,コンクリートが水和するのに必要な水分がコンクリートから逸散 しないよう,補給または維持するためにコンクリート面を湿潤状態に保つ養生と定義されてい る.湿潤養生には,水中養生,濡れむしろまたは湿布養生,湿砂養生,噴霧養生,散水養生な どがある.コンクリートが硬化する際,セメントが完全に水和するのに必要な水量は,セメン
ト質量の25%程度である.しかし,通常のコンクリートの水セメント比は,ワーカビリティー
を確保するために,これよりもはるかに多く,40~65%の範囲にあり,フレッシュコンクリー トに含まれている水分がそのまま保持されれば,水和反応に必要な水を外部から補給する必要 はないと誤解されている例も多い.
表 2.4-1 コンクリートの養生方法[8]
養生方法の分類 適用性
現場施工 工場製品 供試体
湿潤養生
水中養生
標準養生(20℃) 現場水中養生 流水中養生 湛水養生
×
×
△
◎
×
×
△
△
◎
◎
△
× 濡れむしろまたは湿布養生
湿砂養生 噴霧室養生 散水養生
◎
○
×
○
◎
○
○
○
○
○
○
○ 保水養生
封かん養生 現場封かん養生 シート養生 膜養生
○
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ 気中養生
空気中養生 乾燥養生 炭酸ガス養生
◎
△
×
◎
△
△
◎
◎
△ 保温養生 断熱養生
パイプクーリング養生
△
○
×
×
○
×
加熱養生
蒸気養生
高温高圧養生(オートクレーブ養生) 電熱養生
電気養生 赤外線養生 高周波養生 油中養生
×
×
△
△
△
×
×
◎
◎
△
△
△
×
○
○
○
△
△
△
△
○ 注) ◎:適用性大,○:適用可,△:特別の場合適用可,×:適用不可
表 2.4-2 初期養生終了時の所要強度[8]
構造物の露出状態
JASS5 RC示方書
ダム 示方 書
舗装 示方書 A
地域
*
B 地域
**
無筋・鉄筋 断 面 薄い 普通 厚い
所要圧縮強度(N/mm2) 所要曲 げ強度 (1)連続して,あるいはしばしば水で
飽和される部分(RC 示方書) - - 15 12 10 - - (2)普通の露出状態にある(1)に属さ
ない部分(RC 示方書)建築物(JASS5) 5 3.5 5 1
* 気象庁による日別平均気温の平滑平年値が 0℃以下となる地域,日別最低気温の平年値が-5℃以下となる地域,
および最低気温の極値が-15℃以下となる地域
** 以外の地域
例えば,コンクリートが表面から乾燥すると,コンクリートの内部の水が表面に移動し,こ の水が外部に逸散してしまうため,水和反応に必要な水が不足することとなる.また乾燥が起 こらない場合にも,セメントの水和収縮によって水が移動し表面近傍がいわゆる自己乾燥状態 になることがある.したがって,水和反応が終了するまでに必要とする水分を外部から補給し,
反応に必要な水分を維持することが必要となる.
したがって,本研究では,外部から水分を供給できない封かん養生は湿潤養生とは見なさい 方針とする.湿潤養生に分類される養生方法についてその定義を以下に述べる.
■水中養生
水中養生とは,コンクリートを水中に入れておく 養生方法であり,最も湿潤養生効果がある.
■標準養生
水中養生のうち,標準養生とは,コンクリートの ポテンシャルを表す養生方法で20±3℃の水中ま たは飽和湿気中において行うコンクリート供試体 の養生である.この方法によって養生されたコン クリートの性能がそのコンクリートの基本物性の 標準とされる.“本来の性能”と呼んでいる.
■現場水中養生
現場水中養生とは構造体として打ち込まれたコン クリートの性能を想定する養生方法で,JASS5で は工事現場において,水温が気温の変化に追随す る水中で行うコンクリート供試体の養生と定めて いる.この方法によって養生されたコンクリート の圧縮強度が,構造体コンクリートの圧縮強度と 一致すると想定している.
■流水中養生
海水や水が流れている環境条件下でコンクリート を養生する流水中養生がある.流水中で供試体と 養生すると,コンクリート成分が溶出し,本来の 性能を発揮しないことがあるので,注意する必要 がある.
■湛水養生
コンクリート水平面の周囲に砂や型枠で堰を設 け,その内部に水を湛水する方法である.ダムコ ンクリートの越冬面など,水深を 10cm 以上深くす ると湛水が凍らないので,コンクリート温度が 0℃
以下に下がらない.
■濡れむしろまたは湿布養生
この養生は,コンクリート表面を濡れむしろま たは湿布で覆って湿潤に保つ養生である.最近で は吸湿性のマットに散水している.この養生は適 性が広く,とくに夏期高温時の乾燥が厳しい時に 有効である.コンクリート舗装,コンクリート床 版をはじめPC部材,コンクリート製品などにも 適用される.ただし,重量が相当重くなるので,
一枚当りの面積を制限するか,移動,設置時には 乾燥させるかの工夫が必要となる.
■湿砂養生
湿砂養生は,湿った砂をコンクリート表面に接 した状態に保ち,コンクリート表面からの水分の 蒸発を防止する養生方法である.この場合,砂が 乾燥しないように常に砂を湿潤状態にしておかね ばならない.この方法が適用可能なコンクリート 部材は,土に接しているスラブコンクリート,基 礎等である.砂の敷設および撤去には相当の手間 がかかることから適用例は少ないと思われる.
■噴霧養生と散水養生
噴霧および散水養生は,コンクリート表面に噴 霧・散水して,表面から水の蒸発を防止する養生 方法である.この場合,噴霧・散水した水は比較 的速く蒸発しやすいので,頻繁に噴霧・散水する 必要がある.シートなどで覆った空間に噴霧する と効果的であるが,屋外のコンクリート面に噴霧 してもコンクリート面を湿潤させるためには多量 の噴霧が必要となり使用水量のロスが多い.この 方法が適用可能なコンクリート部材は,コンクリ ート表面が大気にさらされている場合ならどの部 材でもよい.養生効果は,柱・壁等の鉛直部材よ りもスラブ等の水平部材の場合に大きい.暑中に 施工される床スラブにおいては,初期養生として 散水養生が効果的である.
2.4.3 保水養生
コンクリート総覧[8]では,セメントの水和に必要な水を保持するためにコンクリート表面を 水密性の高い膜やシートで覆う養生ように定義している.封かん養生,シート養生,膜養生が ある.建築学会では不透水性のせき板を存置することを保水養生に区分している.
保水養生に分類される養生方法についてその定義を以下に述べる.
2.4.4 その他の養生
その他の養生方法に関する定義を以下に述べる.
■封かん養生
封かん養生は,コンクリートが水和するのに必 要な水分を保持するために,コンクリートの水分 が逸散しないよう,コンクリート表面を大気から 遮断する養生方法である.
■シート養生
シート養生は,不透水性のシートでコンクリー ト表面を覆い,コンクリート中の水分が逸散しな いようにする方法である.外気温が高い場合や風 が強い場合などに用いられることが多い.型枠全 体を覆うことによって型枠をとりはずす前から養 生できる.
■膜養生
膜養生は,コンクリート表面に被膜のできる養生剤を散布して,コンクリート表面からの水分の蒸発を 防止する養生方法である.本養生は,コンクリートを打ち込んでからブリーディング水がなくなった直後 に散布する.散布は,縦横両方向の 2 回以上に分け,むらのないように行う必要がある.やむをえず膜養 生剤を散布する時間が遅れる場合には,散布するまでのコンクリート表面を湿潤状態にしておかなければ ならない.膜養生剤には,合成樹脂系とアスファルト系があり,それぞれ溶剤型および乳剤型がある.膜 養生剤は施工条件によって養生効果が大きく異なる.また,膜養生剤の銘柄によってその効果が大きく異 なるので,施工条件,取り扱い方法を十分確かめる必要がある.
■気中養生
気中養生とは,コンクリートを空気中,乾燥炉中,
炭酸ガス中で養生することをいう.
■加熱養生
コンクリートの凝結・硬化,強度発現を促進する ためにコンクリートを加熱し,セメントの水和を促 進する養生である.蒸気養生,高温高圧蒸気養生(オ ートクレーブ養生),電熱養生,電気養生,赤外線 養生,高周波養生,油中養生がある.
■保温養生
主として寒中コンクリートにおいて,初期凍害の防止のために断熱性の高い型枠を用いてセメントの水和熱 によってコンクリートの温度を保つ養生である.またマスコンクリートにおいては,パイプクーリングを行っ て内部コンクリートの温度上昇を抑制し,水和熱によるコンクリートの膨張,ひび割れなどの不具合を防止す るために行う養生である.
2.5 最近の改良された養生方法
コンクリートの養生は,セメントの水和反応をいかに良好な条件下で進行させるかという目 的のために,主として温度環境,湿度環境などの雰囲気環境と振動や衝撃などの物理的環境を 良好な状態に保つために行われる.
本研究では,これらの養生環境の中で特に湿度環境がコンクリートの品質に及ぼす影響を把 握し,具体的な養生方法を提供することが主題であることから,以下では湿度環境条件に関す る養生方法に限って検討を進める.
前節では,コンクリートの養生全体を俯瞰したが,表2.4-1に示した養生方法の分類のうち 湿潤養生および保水養生について,ここではさらに詳細に検討する.表2.4-1では適用性を現 場施工,工場製品,供試体と三つに区分しているが,本開発ではあくまで現場施工に利用でき る方法に限っているので,現場施工への適用が可能な方法に限っている.
一方,養生ができる部材については,特に区分していないが,一般的には,コテ仕上げ等を 行う露出面を対象としている.さらに,柱や壁などの鉛直面で,コンクリートの打込みに当た って使用する型枠を取りはずした後の養生についても適用できるかどうかを区分の対象とする.
以上の前提で表2.4-1を改定すると表2.5-1のようになる.ここで,最近の技術開発によっ て適用性が拡大されたものを矢印で示す.また,表2.5-1に示した各種の養生方法を実用性か らさらに絞り込んだものを表2.5-2に示す.
表 2.5-1 コンクリートの養生方法
注) ◎:適用性大,○:適用可,△:特別の場合適用可,×:適用不可
1):吸水性のマットを事前に吸水させて,これを型枠取りはずし面に巻き付けて湿潤養生する方法が提案されて いる(図 2.5-1).
2):型枠取りはずし後のコンクリート面に沿って多数の噴霧用ノズルを配置し,湿潤養生する方法が提案されて いる(図 2.5-2).
3):JASS5 ではコンクリート供試体の養生方法と定めている.
4):膜養生はブリーディング水がなくなった直後に散布するが,最近型枠を取りはずした面に塗布するタイプの 養生剤が市販されているおり,養生剤と改質剤に区分される(図 2.5-3).
養生方法の分類 現場施工における適用性
水平面 鉛直面
湿潤養生
水中養生 流水中養生 湛水養生
△
◎
△
× 濡れむしろまたは湿布養生
湿砂養生 噴霧養生 散水養生
◎
○
○
○
△→○1)
×
△→○2)
△
保水養生
封かん養生 現場封かん養生 シート養生 膜養生
○
◎→×3)
○
○
○
×
○
×→○4)