3.1 はじめに
コンクリート構造物の耐久性能は,鉄筋を保護するかぶりコンクリート,いわゆる表層コン クリートの性能に大きく依存することが多数報告されている.
そのため,最近ではコンクリート構造物の耐久性に関する研究が,多方面で進められている.
特に表層コンクリートの品質評価に関する研究や,かぶりコンクリートの品質を向上する方法 が提案され実施されている.例えば,土木学会コンクリート委員会「構造物表層のコンクリー ト品質と耐久性検証システム研究小委員会(335 小委員会)」では,最終的な製品の耐久性を直 接的に検査することで,コンクリート構造物の耐久性確保を目指す取り組みが行われている.
さらに2005年9月からの第一期および2008年度の「歴代構造物品質評価/品質検査制度研 究小委員会(216委員会)」活動のもとに,2009年9月から開始した第二期の活動では,表層コ ンクリートの品質情報に関する非破壊試験を核とした,竣工時の耐久性検査制度の具体的な提 案へ向け,関連する技術情報のとりまとめを行うとともに,検査制度の導入の意義や課題につ いての分析を行っている.
また,実際の施工に近い養生期間で行なわれた各種実験では,水中,散水,噴霧,封かんな どの湿潤養生方法とコンクリートの品質向上効果は,水中養生が最も優れていることが共通の 研究成果として得られている.よって,型枠を使用する鉛直面に対して水中養生と同等の養生 効果,すなわち,コンクリート表面を液相の水膜で常に覆っておける給水養生方法の開発が必 要である.
本章では,コンクリート性能の指標としてよく用いられる強度発現性,物質移動抵抗性等,
耐久性に関する最近の取り組み事例を述べる.
3.2 強度発現特性
3.2.1 圧縮強度
郭ら[1]は,水中,封かん,気中養生を行って材齢28日の総細孔量と圧縮強度の関係を示し,
細孔量と圧縮強度の間には逆比例の関係があることを確認している(図3.2-1).強度はコンクリ ートの個体部分で発揮され,空隙は強度を損なう働きをする.荷重を作用させる時の応力集中 とそれに伴う局部破壊は,大きな毛細管空隙やマイクロクラックから始まる.
岡崎ら[2]は,図3.2-2~3.2-3に示すように,圧縮強度は水和率にほぼ一意に依存し,養生の 相違による影響を受けた空隙の連続性などの形態因子の相違には,ほとんど影響を受けないこ とを確認している.
喜多ら[3]は不十分な養生を行ったコンクリートを実環境に暴露し,材齢1年後のコンクリー トの強度及び物質透過性の変化について検討している.図3.2-4は,普通ポルトランドセメン トを用いた場合には,養生の差異により確認された材齢28 日の圧縮強度の差異が暴露1年後 にはなくなっている.一方,高炉スラグを添加した供試体の強度比は,1年の暴露で大きくな ったものの,水中養生の同等の圧縮強度までは戻らなかった.
図 3.2-1 細孔構造と圧縮強度[1]
図 3.2-2 養生と圧縮強度[2] 図 3.2-3 水和率一定下の養生と圧縮強度[2]
また,岡崎ら[2]は圧縮強度の深さ方向における強度分布を検討している.表層コンクリート の性能はあくまで表層付近が検討領域となるが,シリンダーを用いた圧縮強度試験は,供試体 全体の平均的な領域を検討している.浅野ら[4]は空隙構造から推定した強度変化を図3.2-5に 示している.また,岡崎ら[2]は,超微小硬度計を用い直接的にダイナミック硬さを求めた硬度
を図3.2-6に示している.いずれの結果でも,表層から約5cm程度まで乾燥の影響を受けてい
ることから,シリンダー供試体表層の乾燥影響領域全体の平均的な特性を反映していると考え られる.
宮原ら[5]は,各種の養生を行った試験体から採取したコアの材齢3ケ月の圧縮強度を表3.2-1
および図3.2-7に示し,いずれの養生方法も表層部の品質を向上させるものであり,コンクリ
ート内部に品質も反映される圧縮強度までが大きく変化することはなかったとしている.
表層透気係数試験を竣工時品質の耐久性能検証システムの導入を視野に入れて,各種非破壊 試験方法の竣工検査への適用性について基礎実験的評価を実施した蔵重ら[6]の研究では,早期 脱型後,乾燥環境へ暴露されることで密度が低下するほど,圧縮強度及び静弾性係数とも小さ くなる傾向がみられ,若材齢時における供試体表面からの水分逸散が水和反応を阻害し,強度 低下を招くことが定量的に示されたとしている.また,テストハンマー試験は,プランジャー の打撃による反発度を評価する衝撃現象を対象としていることから,この圧縮強度よりも弾性 係数との相関が強いとし(図3.2-8~3.2-10),両者の関係を整理すると強い正の相関が認められ ている.
養生方法の違いがコンクリートの圧縮強度に及ぼす影響を調べた白根ら[7]は,養生方法や湿 度によって圧縮強度に差が生じており,特に供試体サイズが小さいモルタルは,表面付近の水 分移動の影響を大きく受け,湿度60%以下における圧縮強度は標準養生の1/2以下となってい る(図3.2-11).
図 3.2-4 同材齢の水中養生に対する圧縮強度比の推移[3]
図 3.2-6 ダイナミック硬さの分布[2]
図 3.2-5 圧縮強度の分布[4]
図 3.2-7 圧縮強度の分布[5]
表 3.2-1 試験ケース[5]
図 3.2-8 供試体の養生条件および測定項目[6]
図 3.2-10 圧縮強度の分布[6]
図 3.2-9 基準反発度と弾性係数の関係[6]
図 3.2-11 養生方法の違いと圧縮強度[7]
3.2.2 反発度
野々目ら[8]は,十分に吸水させた湿潤養生マット,12時間に1回の散水,養生なしの3種 類の方法で水セメント比=45,55,65%のコンクリートについて,材齢5日まで養生し反発度 の確認を行った(図 3.2-12).その結果,湿潤養生マットを使用した場合,早期に反発度が高 くなるとともに,長期材齢においても他の養生方法に比べて2~5%大きかったとしている.
脱型材齢や暴露環境を変えて試験した蔵重[6]らの報告では,基準反発度が小さいほど圧縮強 度も低くなること,気中あるいは湿空環境に暴露した供試体,特に早期に乾燥環境に暴露され た供試体では各種推定式よりも大きな強度を示した(図 3.2-13).これは圧縮強度試験がφ10
×20cm 供試体の平均的品質を評価しているものであるのに対し,テストハンマー試験であら れる基準反発度は脱型時期や暴露環境によって,より敏感に変化したコンクリート表層の品質 を捉えていることが理由としている.
養生条件と反発度の関係を調べた白根ら[7]は,湿度 40%を除き,圧縮強度との相関は認め られなかった.また,養生日数を変化させたケースでも圧縮強度に見られたような傾向は認め られなかった(図3.2-14).
図 3.2-12 リバウンドハンマーによる反発度[8]
図 3.2-13 基準反発度と圧縮強度の関係[6] 図 3.2-14 養生条件と基準反発度の関係[7]
3.2.3 質量変化
神田ら[9]は,夏期におけるコンクリート強度の低下現象の理由を解明するため,供試体の脱 型時のコンクリートの硬化状態の相違が,その後の水中養生によって必要とする水量の変化を 調べた.練混ぜ後からの経過時間に対する供試体の重量変化率を図3.2-15,脱型時の強度,4 週強度および4週までの吸水による水量増加率を図3.2-16に示す.これらの実験結果から,以 下のように考察している.
コンクリートの供試体中には,練混ぜあるいは成形時に生ずる気泡のほかに,成形時には水 で満たされているが,硬化の進行に伴ってやがて生じる空隙
(例えば毛細管空隙やゲル空隙)がある.成形時に水で満たされている水隙は,セメントの水和が進むにしたがい水が水和物に変 わる過程で,空隙に変化していく.浸水前に硬化が進み空隙が増加した供試体は,それを浸水 しても内部の空気と外部からの水とが入れ替わりにくい状態となっていることが考えられる.
したがって,吸水過程には差が現れ,浸水前に硬化が進んだものほど水量増加率が少ないもの と思われる.これに反し硬化の進まない状態で浸水した供試体は,自己乾燥があまり進まない うちに外部から水が与えられるので,水和の進行に伴って生じる空隙に水を補給しやすい状態 にある.水和を有利に進行させるためには,空隙に水が満たされていることが理想であって,
自己乾燥を防ぐため外部から十分な水を供給することが,コンクリートの強度増進に役立つと されている.
この考察に基づくと,型枠を取り除いてよい圧縮強度が得られた時点でなるべく早く型枠を 取り外して給水養生を始めることが,養生効果をさらに向上させるためには有効であることが 分かる.
図 3.2-15 練混ぜ後の経過時間に対する供試体の重量変化率[9]
喜多ら[3]は図 3.2-17 に示すように,封かん養生した場合セメント種類や水セメント比に関 わらず水分が逸散しにくい養生となり,遮水性が高くなると報告している.特に養生による遮 水性の変化は高炉スラグ微粉末を混和した場合に顕著であった.これらは再水和によってコン クリートが緻密化したため,遮水性が高まったと思われる.喜多らの研究の範囲では,結合材 として普通ポルトランドセメントを使用した場合,初期の養生が不足した場合であっても,水 分が供試体に供給される条件であると圧縮強度及び遮水性はともに増加し,その要因は水分の 供給による再水和が示唆されている.しかし,外部からの水分の供給は深部ほど小さくなると 予想されること,本研究では供試体の断面積と暴露条件を考慮すると非常に水分供給性の高い 条件下で暴露されていたと判断され,すべてのコンクリート構造物において本研究と同様の結 果が得られるとは断定できず,初期養生の重要性を否定することはできない.特に結合材とし て高炉スラグ微粉末を用いた場合には,コンクリートの性能は初期の養生に大きく依存する結 果となり,初期養生の重要性が確認されたとしている.
松崎ら[10]は図3.2-18~3.2-19に示すように,封かん養生を7日まで行った供試体の深さ方 向の吸水性試験を実施している.吸水の範囲は,セメントの種類および水セメント比によらず 表層から5cm程度であることを確認している.
玉井ら[11]は,コンクリートは多孔質体であり内部に水分を保持する能力を持っているとし,
塩害や鉄筋腐食には水分が不可欠との判断から,水セメント比及び養生条件がコンクリート中 の含水状態の分布に与える影響に着目し,質量変化及び水分移動を検討している.水セメント 比が小さくなると密実性が高くなり,質量変化率は小さくなる(図 3.2-20).また,気中養生,
封かん養生,水中養生に順に質量変化率は小さくなっており(図3.2-21),表層部の水和反応の 進行と関連している.