博 士 ( 工 学 ) 金 丸 貞 義
学 位 論 文 題 名
磁場中の2 電子束縛状態と電子相関 学位論文内容の要旨
半導 体中 にお い ては 、キ ャリ ア濃度を増やす ために不純物がドープされる 。最近の量 子ホ ール 効果 やメ ゾ スコ ピッ ク系 の主な舞台とな る半導体ヘテ口接合界面にお いても、界 面 付 近 に2次 元 電 子 系(2DES)を形 成す るた め にや はり 不純 物が ド ーブ され る。 ヘ テ口 接 合 界 面 付 近 に 形 成 さ れ る2DESは 、 低 温 で の イ オ ン化 不純 物に よ る散 乱の 影響 が 小さ い ため に高 速電 子デ ノ くイ スヘ の応 用 が期 待さ れて いる 。2DESの伝 導特 性は 、 半導 体中の 不純 物準 位な どに 対 する 理解 がま だ 不十 分で ある ため に 、完 全に は理 解さ れ てい ない。
そこ で半 導体 中 に形 成さ れる 不 純物 準位 に注 目す る 。半 導体 中に ドー プ され た浅い 不 純 物(Doセ ン タ ー ) は 有効 質量 近似 の範 囲 内で 水素 原子 的に 扱 われ る。 その よ うなDo センターは1っの余分な電子 を束縛することにより、D― センターと呼ばれる系を形成する。
半 導 体 中 のD― セ ン タ ー は 、 電 気 的 に 中 性 な 水 素 原 子(H)が1つ の 余 分 な 電子 を 束縛 す ることによって形成される 負の水素イオン(H−)と類似な系であり、最も簡単な少数電子系の 1っで あ る。 近年 の結 晶成 長 技術 の進歩により、こ のDーセンターはバルク半導 体中よりも G aAs/AIGaAs多 重 量 子 井 戸 中 に お い て よ り 安 定 に存 在す る。 こ こで は量 子井 戸 中に 形 成さ れる 準2次元 的なD− セン ター に磁場をかけた 系を取り上げる。このような 系は次元の 減少 と磁 場の 効果 に よっ て電 子間 の 相関 効果 が強 めら れ 、電 子の 多体 効果 を 研究 するた めに最も適した系の1っであ る。
本 論 文 は 、 全5章 か ら 構 成 さ れ る 。 以 下 で は 、 各 章 の 内 容 を 簡 単 に 説 明 す る 。 第1章 は 序 論 に 当 て ら れ 、 本 研 究 の 背 景 と目 的 が述 べら れる 。こ れ まで の準2次 元 口一 セン ター に関 す る研 究の ほと ん どは 、量 子井 戸の 中 心に不純物を6ドープ した系に対 す る も の で あ っ た 。 最 近 、Foxら は 井 戸 中 の 不純 物 の位 置が 中心 から ず れた 場合 の準2 次元口一センターに対する 最も簡単なモデルの1つであ るノくりアD―、センターのモデルを 提案 した 。彼 らは 、 強磁 場極 限に お いて 、バ リアD− セン ターの問題に対する 厳密解が存 在す るこ と、 およ び 正イ オン の2次元 平面 から の 距離 の関 数としてこの系の基 底状態が角 運 動 量 己 =0〜 ―5を 持 つ 状 態 間 で 変 わ る こ と を 示 し た 。Marmorkosら は 量子 井 戸中 に 形 成 さ れ る 準2次 元 の ― セン ター の問 題に お いて 不純 物が 井戸 の 中心 から 離れ て 障壁 中 にあ る場 合を 考え た 。彼 らは 、磁 場 中に おい て角 運動 量 己〓0〜 ―2を 持つ 状 態に 関する 基底 状態 の遷 移と 電 子相 関の 振る 舞いについて調 べた。そして彼らはのーセン ターの基底 状 態 の 遷 移 と こ の 系 の 電 子 相 関 の 間 に 密 接 な 関 係 が あ る こ と を 示 し た 。 多 重 量 子 井 戸 に お い て 井 戸 中 の 不 純 物 の 位 置が 中心 から ず れた 場合 に起 き る磁 場 中の 準2次元 口一 セン ター の 基底 状態 の遷 移は 大 変興 味深 い現 象 であ る。 ノく りアD―セ ンタ ーは この よう な 系に 対す る非 常 に簡 単化 され たモ デ ルで はあ るが 、準2次 元D―セン ター の基 底状 態の 遷 移の 本質 をよ く表わすモデル であると考えられる。そこで 本研究にお いて は、 バリ アD―セ ンタ ー の問 題に対して以下に 示す2点を明らかにすること を目的とす る。1っは、有限磁場領域に おけるバリアのーセンター の振る舞いに関連している。ここでは
強 磁場 極 限に おけ る厳 密解 を 用い てFoxら によ って 示さ れ たバ リアD― セン ター の基 底状 態 の 遷 移 が 有 限 磁 場 領域 に おい てど のよ う に変 更を 受け るか に つい て調 べる 。他 の1つ は 、磁 場 中の バリ アD一セ ンタ ーの 基 底状 態の 遷移 と電 子 相関の関係を 明らかにすること で あ る 。 こ の 関 係 はMarmorkosら に よ っ て 準2次 元D− セ ン タ ー の 小 さ ぃ 角 運動 量を 持 つ 状態 に 対し て調 べら れた が 、本 研究 では よ り大 きな 角運 動量 を 持っ 状態 まで 含め て議 論する 。
第2章 で は 、Foxらに よ って 示さ れた 強 磁場 極限 にお ける バ リアDー セン ター の厳 密 解 に対 す る結 果に つい て簡 単 なレ ビュ ーを 行 う。 バリ アD一セ ンタ ーの モ デル は2次 元平 面 より あ る距 離だ け離 れた 位 置に 固定 され た 正イ オン とそ のイオンに 束縛された2次元平 面 内の2個 の電 子 から 成る 。こ の系 は 、矛 軸の 周り の回 転 と2電 子 間の 入れ 替え に対 して 不 変 で あ り 、 こ の 系 の固 有 状態 は全 角運 動 量の 矛成 分と2電 子の 入れ 替 えに 対す る対 称 性 (ス ピ ン1重 項 ある いは スピ ン3重項)に よって指定される。強磁場極 限において最低ラ ンダウ 準位のみを考慮すれば、こ の系の厳密解が得られる。
第3章 で は 、 直 接 対 角 化 法 を 用 い て 有 限 磁 場領 域に おけ る バリ アD―セ ンタ ーの 振 る 舞 い を 調 べ た 。 直 接対 角 化法 は、 強磁 場 極限 にお いてFoxらが 用い た 方法 を、 有限 磁 場領域 において高いランダウ準位 からの寄与を考慮することに より拡張したものである。こ の 方法 に おい ては さま ざま な 角運 動量を持 つ状態を同等に扱うことがで き、得られた結果 は 容易 にFoxら の 結果 と比 較す るこ と がで きる 。計 算の 結 果、 磁場 の強 さ や正 イオ ンの2 次元平 面からの距離が大きくなる と高いランダウ準位の効果は 小さくなることが分かった。
強 磁 場 極 限 に お い てFoxら が 示 し た バ リ アD− セ ンタ ー の基 底状 態の 遷 移は 、有 限磁 場 領 域に お いて も起 こる 。ま た 、磁 場の 強さ や 正イ オン の2次元平面から の距離が十分大き くなる と/くりアD―状態の蒸発が 起き、角運動量|己I>5を持 つ状態が束縛されることはな か った 。 我々 の計 算に よっ て 得ら れた バリ アD―セ ンタ ー の基底状態に 対する相図は、磁 場 中 の バ リ アD− セ ン タ ーの 基底 状 態の 遷移 が非 常に 幅 の狭 い量 子井 戸 中に 形成 され る D―状 態に関する実験において観測 され得ることを示している 。
第4章 で は 、 変 分 法 を 用 い て 磁 場 中 の バ リ アD― セ ンタ ーの 基底 状 態の 遷移 と電 子 相 関の 関 係を 調べ た。 変分 法 は、 直接 対角 化 法に 比べ て決 定す べ きパ ラメ ータ の数 が少 なく、 また物理的描像もより明ら かである。ここでは強磁場極限における厳密解をもとにさま ざ まな 角 運動 量を 持つ 状態 に 対す るチャン ドラセカール型の変分関数を 構築した。変分法 によっ て得られたバリア口一状態 のエネルギーを直接対角化法 によるものと比較した結果、
我 々の 変 分計 算が さま ざま な 角運 動量 を持 つ ノく りアD一 状態に対して 十分良い近似にな ってい ることが分かった。変分法 によっても有限磁場領域においてノくりアD−センターの基 底状態 の遷移が起こることが示さ れ、またそのような遷移が起 きるときに電子密度,角度相 関 お よ び2電 子 間 の 平 均 距 離 な ど の 物 理 量 に 強 い 電 子 相 関 の 効 果 が 現 れ る 。基 底状 態 の 遷移 と 電子 相関 の関 係を 詳 しく 調べ た結 果 、各 バリ アD―状態におい て現われる強い電 子 相関 が 磁場 中の バリ アD―セ ンタ ー の基 底状 態の 遷移 を 引き起こすも のと理解すること ができ る。
第5章 は、 本 研究 にお いて 得ら れ た成 果の まと めに 当 てられる。本 研究においては、
磁 場中 の バリ アD−セ ンタ ーの 基底 状態の遷 移に関する新しい知見を得 た。このようなD− セ ン タ ー の 基 底 状 態 の遷 移 が実 際に 量子 井 戸中 に形 成さ れるD一 状態 に 関す る実 験に お いて観 測されるものと期待される 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
磁場中の2 電子束縛状態と電子相関
近年、半導体ヘテロ接合界面に形成される低次元電子系に関する研究が盛んに行わ れ ている。その多くは不純物の少ない高移動度電子系に対する量子輸送現象の解明を目 的としており、低電子濃度の系における不純物の影響、あるいは不純物準位そのものの理 解 は 十 分 に 得 ら れ て お ら ず 、 今 後 の 発 展 が 待 た れ る 状 況 に あ る 。 本論文は、このような現況のもとで、半導体量子井戸中に形成される不純物準位、特 にD―センターについて、不純物の位置や印加する磁場の強さを変化させることによりその 量子力学的状態を理論的に調べたものである。D―センターは、半導体中の中性なドナー 不純物に余分に1つの電子が束縛されることにより形成される。これは、負の水素イオン (Hー)と類似な系であり、最も簡単な多体電子系の1っである。量子井戸中に形成される不 純 物準位の問題は、工学的には高速電子デバイスにおける不純物の影響を調べる上で重 要である。またこの系に磁場をかけた問題は、次元数の減少および磁場による閉じ込めの た めに電子の相関効果が強められるので、少数電子系における電子間相互作用の影響を 検証する上で物理的にも重要である。本論文は全5章からなり、その主要な成果は次のよ うに要約される。
第1章では、本研究の背景と目的が述べられている。最近の研究により、不純物イオ.
ン によって束縛された2電子系 の基底状態が不純物の位置の関数として遷移することが 強磁場極限における厳密解を用いて示されており、また、この基底状態の遷移とその系の 電子相関との間に密接な関係があることが示唆されている。本研究では、有限磁場領域に お ける2電子束縛状態の振る舞 い、およびその系の基底状態の遷移と電子相関の関係を 明らかにすることの重要性が指摘されている。
第2章で は、 強磁 場極限において示さ れた2電子束縛状態に対する 厳密解に関し て簡単な説明が行われている。強磁場極限において最低ランダウ準位のみを考慮すると、
こ の問題に対する厳密解が存在し、この極限で異なる角運動量を持つ状態間で基底状態 の遷移が起こることが示されている。
第3章で は、 直接 対角化法を用いて有 限磁場領域における2電子束 縛状態の振る 舞 いが調べられている。直接対角化法は、強磁場極限での方法を有限磁場領域において
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樹 義
朗
一
直 恒
信
田 山
村
徳 中
田
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
高いランダウ準位からの寄与を考慮することにより拡張したものであり、この方法において はさまざまな角運動量を持つ状態を同等に扱うことができる。計算の結果、強磁場極限に おいて示された基底状態の遷移が、有限磁場領域においても印加した磁場の強さや不純 物イオンの位置の関数として起こることを明らかにしている。
第4章で は、変 分法を用 いて磁 場中の基底状態の遷移と電子相関の関係が調べら れている。変分法は、直接対角化法に比べて決定すべきパラメータの数が少なく、また物 理的描像もより明らかである。ここでは強磁場極限における厳密解をもとにさまざまな角運 動量を持っ状態に対するチャンドラセカール型の変分関数が提案されている。変分法によ っても有限磁場領域において基底状態の遷移が起こることが示され、また遷移が起きるとき に 電子密度 ,角度 相関およ び2電 子間の平均距離などの物理量に強い電子相関の効果 が現れることが示されている。基底状態の遷移と電子相関の関係を詳しく調べた結果、こ の系の2電子状態(こおいて実現する強い電子相関が磁場中の基底状態の遷移を引き起 こすことを明らかにしている。
第5章は、本研究において得られた成果のまとめに当てられている。この研究で得ら れ た基底状態に対する相図は、量子井戸中に存在する不純物準位の振る舞いに対し重 要な情報を与えるものと期待される。
これを要するに、著者は、磁場をかけた半導体量子井戸中に形成される不純物準位 (D−センター)について、磁場の強さが変化するとき、物理量の異なる状態間で基底状態 の遷移が起こること、またその遷移の際に電子相関が重要な働きをしていることを示してお り 、 応 用物 理 学 およ び 量 子物 理 工学 の進歩に 貢献する ところ 大なるも のがあ る。
よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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