第 16 章 3次元井戸型ポテンシャルの束縛状態
中心力ポテンシャルの例として井戸型ポテンシャルをとり,その中での束縛状態を考える。
動径波動関数は球ベッセル関数,球ノイマン関数,球ハンケル関数で表される。ポテンシャ ルの境界での接続条件からエネルギー固有値が定まる。
16.1
3次元の井戸型ポテンシャル図16.1に示すような井戸型ポテンシャルを仮 定し,
V(r) =
⎧⎨
⎩
−V0 (r < a)
0 (r > a) (16.1) シュレディンガー方程式(15.27)の解のうち,束 縛状態を考える。
束縛状態のエネルギー固有値は −V0 < E <0 の範囲にあり,離散的なスペクトルをもつ。1 次元の井戸型ポテンシャルの場合と異なり,束 縛状態が存在しない場合もある。
r V ( ) r
0 a
−V
0図16.1: 3次元井戸型ポテンシャル
16.1.1 ポテンシャル内部の解
井戸型ポテンシャルの内部r < a では,固有値方程式(15.27)は
− ¯h2 2m
1 r
d dr
2
r+ (+ 1)¯h2
2mr2 −V0 −E
R(r) = 0 (16.2)
となる。以下では,動径量子数 n は省略する。ここで,次のように,無次元の量ρ を定義 する(V0 +E >0):
ρ = kr, k =
2m(V0 +E)
¯
h . (16.3)
これにより,固有値方程式 (16.2)は d2R
dρ2 +2 ρ
dR dρ +
1−(+ 1) ρ2
R = 0 (16.4)
と書き換えられる。ここで,動径波動関数 R(r) の r についてのべき級数展開を考え,
R(ρ) = ρp
n=0
anρn (a0 = 0 ) (16.5)
固有値方程式 (16.4)に代入する。方程式は任意の ρ の値に成り立つので,べき級数展開の ρ の異なる次数ごとに方程式は成り立つ。すなわち,
[p(p+ 1)−(+ 1) ]a0 = 0, (16.6) [ (p+ 1)(p+ 2)−(+ 1) ]a1 = 0, (16.7) [ (p+ 2)(p+ 3)−(+ 1) ]a2−a0 = 0,
[ (p+ 3)(p+ 4)−(+ 1) ]a3−a1 = 0, ...
[ (p+n)(p+n+ 1)−(+ 1) ]an−an−2 = 0 (n≥2 ) (16.8) a0 = 0(仮定)であるので,ρ についての最低次の項に対して成り立つ (16.6) より,
p(p+ 1)−(+ 1) = 0 (16.9)
が得られる。これを指数方程式と呼ぶ。指数方程式の解はp=,及び,p=−−1である。
(1) p= の場合
p=の場合,最低次の項はa0ρ である。このとき,(16.7)より a1 = 0であり,その結果,
(16.8)により,全ての奇数次の項は a2m+1 = 0 になる。偶数次の係数は,(16.8) を用いて,
a2m = 1
(+ 2m)(+ 2m+ 1)−(+ 1)a2m−2 = 1
2m(2+ 2m+ 1)a2m−2
= 1
2m(2+ 2m+ 1)
1
(2m−2)(2+ 2m−1)a2m−4
= · · ·
= (−1)m
2mm! (2+ 1 + 2m) (2+ 1 + 2m−2)· · ·(2+ 3)a0
= (2+ 1)! (−1)m(+m)!
!m! (2+ 2m+ 1)! a0 (16.10)
とa0 で表される。通常,
a0 = 2!
(2+ 1)! (16.11)
と選び,これによって定まる解を j(ρ) と表す:
j(ρ) = (2ρ) ∞ m=0
(−1)m(+m)!
m! (2+ 2m+ 1)!ρ2m. (16.12) これは原点で発散しない解であり,球ベッセル関数(spherical Bessel function)と呼ばれる。
(2) p=−−1 の場合
p=−−1の場合,(16.7)よりa1= 0であり,(16.8)により,全ての奇数次の項はa2m+1 = 0 になる。偶数次の係数は a0 で表され,
a2m = 1
2mm! (2−1) (2−3)· · · (2−2m+ 1)a0 (16.13) となる。
a0 = −(2)!
2! (16.14)
と選び,これによって定まる解を n(ρ) と表す:
n(ρ) = 1 2ρ+1
⎡
⎣
m=0
(2−2m)!
m! (−m)!ρ2m+ (−1) ∞
m=+1
(−1)m(m−)!
m! (2m−2)! ρ2m
⎤
⎦. (16.15)
これは原点で発散する解であり,球ノイマン関数(spherical Neumann function)と呼ば れる。
球ベッセル関数と球ノイマン関数は三角関数sinρ とcosρ で表すことができる。次数が 低い3つの関数は具体的に,それぞれ,次のようになる:
j0(ρ) = sinρ
ρ , n0(ρ) = −cosρ
ρ , j1(ρ) = sinρ−ρcosρ
ρ2 , n1(ρ) = −cosρ+ρsinρ ρ2 , j2(ρ) = (3−ρ2) sinρ−3ρcosρ
ρ3 , n2(ρ) = −(3−ρ2) cosρ+ 3ρsinρ
ρ3 .
(16.16)
これらの関数の振る舞いを 図 16.2に示す。
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
-0.2 -0.4 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
x j0( )x
j1( )x
j2( )x
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
-1.0 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6
x n0( )x n1( )x
n2( )x
図16.2: 球ベッセル関数と球ノイマン関数
このように,固有値方程式 (16.4)は2つの独立な解をもつが,球ベッセル関数は原点で 発散しない解であり,球ノイマン関数は原点で発散する解である。井戸型ポテンシャルの内 部では,原点で波動関数 R が有限でなければならないので,球ベッセル関数 j だけが解 になる。よって,規格化定数を A として,内部の解は
R(r) = Aj(kr) (ポテンシャル内部の解) (16.17)
の形に表せる。
16.1.2 ポテンシャル外部の解
井戸型ポテンシャルの外部 r > a では,V(r) = 0 であるので,固有値方程式は
− ¯h2 2m
1 r
d dr
2
r+(+ 1)¯h2 2mr2 −E
R(r) = 0 (16.18)
である。E <0 であるから,前節のρ の代わりに次の無次元量 z(純虚数)を定義する:
z = iκr, κ =
2m|E|
¯
h . (16.19)
この量を用いると,固有値方程式 (16.18)は d2R
dz2 +2 z
dR dz +
1−(+ 1) z2
R = 0 (16.20)
となる。これは,変数が純虚数のzであることを除けば,ポテンシャル内部の方程式(16.4) と全く同じ形をしている。従って,この方程式の独立な2つの解は j(z) と n(z) である
(この2つの関数は,本来,複素変数に対して定義されている)。しかし,下で見るように,
ポテンシャルの外部の波動関数には,それらの線型結合 h(1) (z) = j(z) +i n(z), h(2) (z) = j(z)−i n(z).
(16.21) を用いたほうが都合がよい。これらは,第1種と第2種の球ハンケル関数(spherical Hankel function of the first kind, of the second kind)と呼ばれる。次数が低い(= 0,1,2)関数 は具体的に
h(1)0 (iκr) = − 1
κre−κr, h(2)0 (iκr) = 1 κreκr, h(1)1 (iκr) = i1 +κr
(κr)2 e−κr, h(2)1 (iκr) = −i1−κr (κr)2 eκr, h(1)2 (iκr) = 3 + 3κr+ (κr)2
(κr)3 e−κr, h(2)2 (iκr) = −3−3κr+ (κr)2 (κr)3 eκr
(16.22)
である。
井戸型ポテンシャルの外部の領域は原点を含まないので,原点で発散してもかまわない。
むしろ,無限遠方での振る舞いが重要である。上に示した次数の低い具体例からも見ること ができるが,一般の に対して,複素平面上で,第1種と第2種のハンケル関数の|z| → ∞ での漸近形は
h(1) (iκr) → 1
iκrei[iκr−(+1)π/2] = 1 iκrexp
−κr− + 1 2 π
h(2) (iκr) → 1
iκre−i[iκr−(+1)π/2] = 1 iκrexp
κr++ 1 2 π
(16.23)
である。波動関数は無限遠点で有界でなければならないので,e−κr の依存性をもつ第1種 球ハンケル関数だけが解になり,eκr の依存性をもつ第2種球ハンケル関数は解にならない。
よって,規格化定数を B として,外部の解は R(r) = Bh(1) (iκr) = B
j(iκr) +i n(iκr)
(ポテンシャル外部の解) (16.24) と表せる。
16.1.3 接続条件とエネルギー固有値
任意のエネルギーE(−V0 < E <0)に対して,井戸型ポテンシャルの内部と外部の解 は,それぞれ,(16.17)と(16.24) で与えられる:
R(r) =
⎧⎨
⎩
Aj(kr) r < a Bh(1) (iκr) r > a
(16.25) 内部の解は原点での境界条件を満たし,外部の解は無限遠点での境界条件を満たしている。
しかし,境界r =aでの接続条件を未だ課していない。
接続条件は,1次元の場合と同様に,ポテンシャルのとびが有限な場合,境界 r =a に おいて,波動関数が連続であり,かつ,波動関数の1階微分が連続であることである。今の 場合,接続条件は
Aj(ka) = Bh(1) (iκa), (16.26) A dj(kr)
dr
""
""
r=a = B dh(1) (iκr) dr
""
""
"
r=a
(16.27) と表せる。この条件から,内部解 (16.17)の規格化定数 A と,外部解(16.24) の規格化定 数Bの関係が決まる。また,r < aで定義された kとr > aで定義された κはエネルギー E に依存するので,任意のE が接続条件を満たすわけではない。すなわち,接続条件から,
同時に,エネルギー固有値 E が定まる。以下,= 0 と= 1 の場合に具体的に考える。
= 0 の場合
軌道角運動量が= 0の場合,(16.16)のj0(kr),及び,(16.22)のh(1)0 (iκr) を用いて,接
続条件は
A0 sinka
ka = −B0 1
κae−κa, (16.28)
A0
coska
a − sinka ka2
= B0 1
a+ 1 κa2
e−κa (16.29)
となる。両式の比をとると(対数微分になる),接続条件は
kcotka = −κa (16.30)
と表せる。これは,1次元井戸型ポテンシャルの奇関数解を求める場合の条件と同じである。
ここで,1次元井戸型ポテンシャルの場合と 同様に,
ξ = ka =
2m(E+V0)
¯
h a,
η = κa =
2m|E|
¯
h a
(16.31)
を定義すると(それぞれ,(16.3)と(16.19) を参照),両者の間には,
ξ2+η2 = 2mV0a2
¯
h2 (16.32)
が成り立つ。これらの変数を用いると,= 0 の場合の接続条件は次のように表せる:
ξcotξ = −η. (16.33)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 ξ
0 1 2 3 4 5 6 7 8
η
図16.3: = 0 の解(ξ2+η2 = 36)
この関数のグラフを 図 16.3に実線で示す。また,ξ2+η2 = 36を破線で示してあり,両者 の交点が固有状態に対応する。この場合,束縛状態は2つある。ξ2+η2 は(16.32) が示す ように,V0a2 に比例する。つまり,V0a2 が井戸型ポテンシャルの強さの尺度になる。V0a2 を小さくなると,図16.3 に示した破線の円の半径が小さくなり,ある値より小さくなると 束縛状態が存在しなくなる。V0a2 が次の範囲にあるとき,
π2¯h2
8m (2n−1)2 < V0a2 ≤ π2¯h2
8m (2n+ 1)2 (= 0 ) (16.34) 束縛状態はn 個存在する。
= 1 の場合
軌道角運動量が= 1 の場合,(16.16) のj1(kr),及び,(16.22)のh(1)1 (iκr)を用いて,接 続条件は
A1 sinka−kacoska
(ka)2 = B1i1 +κa
(κa)2 e−κa, (16.35) A1 1
a
(ka)2sinka−2( sinka−kacoska)
(ka)2 = −B1 i
a
1 +2(1 +κa) (κa)2
(16.36)
であり,両式の比より,(16.31) で定義した ξ とη を用いて次の関係式が得られる:
cotξ ξ − 1
ξ2 = 1 η + 1
η2. (16.37) これを η について解くと
η = 2
1 + 4
cotξ ξ − 1
ξ2
−1
(16.38)
となる。図 16.4 の2つの曲線(実線)は,
この関数を表したものである。ポテンシャル の強さ V0a2 に応じて,解の個数が変わる。
図中に破線で示した ξ2+η2 = 36の場合は 1つである。図16.3との比較から明らかに,
基底状態は = 0 であり,= 1 が最初の励 起状態になる。
0 1 2 3 4 5 6 7 8 ξ
0 1 2 3 4 5 6 7 8
η
図 16.4: = 1 の解(ξ2+η2= 36) = 1 の場合,V0a2 が次の範囲にあるとき,
π2¯h2
8m (2n)2 < V0a2 ≤ π2¯h2
8m (2n+ 2)2 (= 1 ) (16.39) 束縛状態は n個存在する。
ξ2+η2 = 36のとき,= 2の束縛状態も1つ存在する。束縛状態の波動関数を 図16.5 に示す。ただし,軌道角運動量が のとき,その z成分が異なる状態が 2+ 1 個あって縮 退している。なお,分光学の慣習から,= 0,1,2,3の状態を,それぞれ,s状態,p状態,
d 状態,f 状態と呼ぶこともある。
r V ( )r
0 a
−V0
sstate
r V ( )r
0 a
−V0
pstate
r V ( )r
0 a
−V0
dstate
図16.5: 束縛状態の波動関数:左から順に = 0,1,2
16.2
球ベッセル関数16.2.1 球ベッセル関数の微分方程式
微分方程式
d2f dz2 + 2
z df dz +
1−(+ 1) z2
f = 0 (16.40)
の解の基本系は,次の4つの関数のうちの任意の2つである:
j(z), n(z), h(1) (z), h(2) (z).
ここに,
h(1) (z) = j(z) +i n(z), h(2) (z) = j(z)−i n(z)
(16.41) である。= 0,1,2 のときの具体的な形は (16.16), (16.23)に示してある。
三角関数,指数関数の微分による表示
j(z) = (−1)z 1
z d dz
sinz
z , n(z) = (−1)+1z
1 z
d dz
cosz
z , h(1) (z) = i(−1)+1z
1 z
d dz
eiz
z , h(2) (z) = i(−1)z
1 z
d dz
e−iz
z .
(16.42)
16.2.2 近似式,漸近形
z →0 のときの近似式
j(z) ∼ z (2+ 1)!!, h(1) (z) ∼ −i(2−1)!!
z+1 , n(z) ∼ −(2−1)!!
z+1 , h(2) (z) ∼ i(2−1)!!
z+1 .
(16.43)
ただし,(2n+ 1)!! は,
(2n+ 1)!! = (2n+ 1)·(2n−1)·(2n−3) · · · 3·1, (−1)!! = 1 で与えられる。
z → ∞ のときの漸近式
j(z) ∼ 1 zcos
z−(+ 1)π 2
, h(1) (z) ∼ (−i)+1eiz
z , n(z) ∼ 1
zsin
z−(+ 1)π 2
, h(2) (z) ∼ i+1e−iz
z .
(16.44)
16.2.3 漸化式と微分
球ベッセル関数 j(z) だけについて示すが,4種類の関数に対して,以下の関係式が成り 立つ:
j−1(z) +j+1(z) = 2+ 1
z j(z), (16.45)
d
dzj(z) = 1
2+ 1[j−1(z)−(+ 1)j+1(z) ]
=
zj(z)−j+1(z) = j−1(z)−+ 1
z j(z), (16.46) d
dz
z+1j(z)
= z+1j−1(z), (16.47)
d dz
z−j(z) = −z−j+1(z). (16.48)
球ベッセル関数の微分方程式の2つの解を u(z),v(z) として,
d dz
z2
udv
dz− du
dz v = 0 (16.49)
が成り立つ。これより,たとえば,
j(z)dn(z)
dz −dj(z)
dz n(z) = 1
z2, (16.50)
j(z)dh(1) (z)
dz −dj(z)
dz h(1) (z) = i
z2, (16.51)
j(z)dh(2) (z)
dz −dj(z)
dz h(2) (z) = − i
z2. (16.52)
16.2.4 直交性
∞
−∞jm(x)jn(x) dx = δm,n π
2n+ 1. (16.53)
平面波の球面波による展開
eikz = eikrcosθ = ∞
=0
(2+ 1)ij(kr)P(cosθ), (16.54)
exp(ik·r) = ∞
=0
4π ij(kr) m=−
Ym(k#)∗Ym(r#). (16.55)