博 士 ( 理 学 ) 大 川 香 織
学 位 論 文 題 名
Complex Formation by Cascade Reaction of Zwitterionic Polymer‑Polyelectrolytes
(Zwitterion 高分子―高分子間のカスケード反応によるコンプレックス形成)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
2種 類の 異 なる 高分 子鎖 が2次結 合カ で 相互 作用 して 集合 し たも のを 高分 子間 コ ンプ レッ クス
( また はポ リ イオ ンコ ンプ レ ック ス) とい い、 生 体内反応およ び生合成過程の多くは高分子 間の 相 互作 用を 介 して 行わ れて い る。 例え ぱ、 抗体 一 抗原反応や酵 素反応などであるが、これら の分 子 識別 機構 に おい て高 分子 間 コン プレ ック スの 形 成が本質的な 部分を担っている。このこと から 生 体高 分子 の 集合 体、 すな わ ち高 分子 間コ ンプ レ ックスは、あ らゆる生命現象において重要 な役 割 を果 たし て おり 、高 分子 間 コン プレ ック スの 研 究は生命現象 の本質を解明するために必要 であ ろ う。 高分 子 ゲル は, 高分 子 網目 が溶 媒で 膨潤 し た構造を持ち ,外部の温度.pH.溶質濃度 ・イ オ ン強 度・ 電 場等 の環 境の 変 化に 動的 に反 応し , 構造・形・性 質を可逆的に変化させる興味 深い 物 質で ある . 生体 内に も細 胞 外マ トリ ック スな ど のゲル状態の 構造体は存在し,生命活動の 場と し て重 要な 役 割を 担っ てい る と考 えら れる .生 体 系で起こる反 応は、それぞれの状況に合わ せて 柔 軟に 適応 で きる 必要 があ り 、高 分子 ―高 分子 、 及び高分子ゲ ル―高分子の相互作用を理解 する こ とは ,生 命 現象 を理 解す る とい う学 術的 観点 の みならず,新 規材料の開発といった応用面 に関 し ても 重要 な 課題 であ ると い える .本 研究 では , 側鎖に正負の 電荷を合わせ待つ両性イオン ポリ マーであ るpolyzwitterionを用いて、polyzwitterion―高分子電解買との相互作用にっいて検討した。
高分子電 解質問の高分子間コンプレ ックスは化学量論的に反応が進むのに対し、polyzwitterion―ポ リ カチオ ンでは非化学量論的な反応が 起こり、わずかなポリカチ オンをpolyzwitterion溶液に 添加 す るとpolyzwitterionが大量に凝集す る事が明らかとなった。高 分子ゲル―高分子電解質の系 にお いては、 ポリカチオンゲルをpolyzwitterion溶液に浸漬するとpolyzwitterionが非化学量論的に吸着 す るこ とが 明 らか にな った 。 また ,ゲ ル合 成時 の テンプレート の親水性を変えることでゲル 表面 の 物性 を大 き く変 化さ せる こ とが でき 、親 水性 テ ンプレートで 合成したゲルと疎水性テンプ レー ト で合 成し た ゲル の表 面弾 性 率と 表面 摩擦 カが 大 きく異なり、 ゲル表面の性質をテンプレー トを 変 え る だ け で 制 御 す る こ と が 出 来 る こ と を 明 ら か に し た ( テ ン プ レ ー ト 効 果 ) 。 本 論 文 は 第1章 の 序 論 , 第2章 か ら 第4章 ま で の 本 論 ,お よび 第5章の 結諭 か ら構 成さ れて いる.
第2章 で は ,polyzwitterionで あるPDMAPSと高 分子 電解 質 との 相互 作用 に関 し て記 述し た。
PDMAPSに 対し 高分 子電 解 質を 少量 添加 す ると 、ポ リア ニオ ン やポ リノ ニオ ンを 添 加し た場 合、
PDMAPSのUCSTは ほ と ん ど 変 化 し な い の に 対 し 、 ポ リ カ チ オ ンを 添加 した 場合 、 特に 主鎖 荷電 型 ポ リ カ チオ ンで あるioneneを添 加す る とUCSTが 劇的 に変 化 し、 大量 の沈 殿が 生 じる 。こ れに
―220ー
よりPDMAPSの負電荷と正電荷を持っポリカチオンが静電的ぬ相互作用によルコンプレックスを 形成すると、コンプレックス中のPDMAPに新たな負電荷が生まれ、コンプレックスと溶液中の
PDMAPSの負電荷が結合し、これを繰り返すことにより、非化学量論的なコンプレックス形成を
起こすことが示唆された。
第3章では,高分子ゲル一polyzwitterionの相互作用について検討した。ポリアニオンゲルやポ リノニオンゲルにはPDMAPSは化学量論的た吸着量であったが、ポリカチオンである3,3ーアイ オネンゲルの場合には、PDMAPSがゲルに過剰に吸着し、その吸着量が非化学量論的であること が明らかとなった。この吸着は線電気名相互作用により起こり、吸着反応は1次反応であり、3,3 ー ア イ オ ネ ン ゲ ル にPDMAPSが 吸 着 後 、 層 状 にPDMAPSが 吸 着 して い る と考 え ら れる 。 第5章では ,PDMAPSと剛直 主鎖型 高分子で あるPBDSTNa.弱 電解質 であるポ リアク リル酸 (PAA)との 相 互 作用 に つ いて 検 討 し た。PDMAPS―PAMPSと比較 すると、PDMAPS―PAMPSは 塩溶液中で混合すると、還元粘度は減少して ̄ゝくが、PDMAPS―PBDSTNaは塩溶液中で混合する と、ある割合から還元粘度が増加することがわかった。PAMPSは塩溶液中で強側鎖の電荷が遮蔽 されて高分子鎖が広がれないため、PDMAPSと相互作用しにくくなるが、PBDSTNaは剛直なため 塩溶液中でも電荷が遮蔽されにくく、その結果、PDMAPSと相互作用し、その結果粘度が増加す るものと思われる。PBDS′INa単独では1.6wt%以上で見られる複屈折性が、PDMAPSを加える事 で0.5wt%でも 見られる ように なる。これはPDMAPS―PBDSTNaで相互作用すると、PBDSTNaが より配向しやすくなり、PBDSTNa単独時よりも複屈折性を示しやすくなると考えられる。また PDMAPS‑PAA間の 相互作用 ではpHが 中性付近 で還元 粘度が増大した。これはpHが大きくなる にっれ、PAAが解離し、また中性付近ではPDMAPSの両電荷が釣り合っているため、PAAの負電 荷とPDMAPSの正電荷が静電的な相互作用でポリイオンコンプレックスを形成して粘度が増大す る。
第4章では,高分子ゲル合成時に用いるテンプレート(鋳型)が表面諸性質に及ぽす影響につ いて評価した。その結果、ゲル合成時のテンプレートの親水性を変えることでゲル表面の物性を 大きく変化させることができた。親水性テンプレートであるガラスやマイカを鋳型として用いて 合成したゲルと疎水性テンプレートであるテフロンやポリスチレンを鋳型として合成した高分子 ゲルを比較すると、後者の方法で合成したゲル表面の膨潤度が高く、また表面弾性率と表面摩擦 カを比較すると、後者の方が弾性率が低く、また摩擦カも低くなることが明らかになった。疎水 性テンプレ一一Iトで合成されたゲル表面は親水性テンプレートで合成されたゲルに比ベ、柔軟で,
架橋度の低い構造をとると考えられる。ゲル表面の性質を合成時のテンプレートを変えるだけで、
変える事が出来ることが明らかにされた。
第5章では,以上の内容を総括して結諭とした.
‑ 221−
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Complex Formation by Cascade Reaction of Zwitterionic Polymer‑Polyelectrolytes
(Zwitterion 高分子―高分子間のカスケード反応によるコンプレックス形成)
学 位 論 文 は第1章 の序論 ,第2章 から第5章まで の本論 ,およ び第6章 の結論 から構 成されて いる.
本論について以下にその要旨を述べる.
2種 類 の 異な る 高 分 子鎖 が2次 結 合 カで 相 互 作 用し て 集 合 したも のを高 分子間 コンブレ ックス
(また はポリ イオン コンプ レック ス)と いい、生 体内反 応およ び生合成過程の多くは高分子間の相互 作用を 介して 行われ ている 。例え ぱ、抗 体一抗原 反応や 酵素反 応などであるが、これらの分子識別機 構にお いて高 分子間 コンプ レック スの形 成が本質 的な部 分を担 っている。このことから生体高分子の 集合体 、すな わち高分子聞コンプレックスは、あらゆる生命現象において重要な役割を果たしており、
高分子 問コン プレッ クスの 研究は 生命現 象の本質 を解明 するた めに必要であろう。高分子ゲルは,高 分子網 目が溶 媒で膨 潤した 構造を 持ち, 外部の温 度.pH・溶質濃 度・イオン強度・電場等の環境の変 化に動 的に反 応し, 構造・ 形・性 質を可 逆的に変 化させ る興味 深い物質である.生体内にも細胞外マ トリッ クスぬ どのゲ ル状態 の構造 体は存 在し,生 命活動 の場と して重要な役割を担っていると考えら れる. 生体系 で起こ る反応 は、そ れぞれ の状況に 合わせ て柔軟 に適応できる必要があり、高分子一高 分子、 及び高 分子ゲ ル―高 分子の 相互作 用を理解 するこ とは, 生命現象を理解するという学術的観点 のみな らず, 新規材 料の開 発とい った応 用面に関 しても 重要な 課題であるといえる.本研究では,側 鎖に正負の電荷を合わせ待つ両性イオンポリマーであるpolyzwitterionを用いゝて、polyzwitterionー高分 子電解 質との 相互作 用につ いて検 討した 。高分子 電解質 問の高 分子間コンプレックスは化学量論的に 反応が 進むの に対し、polyzwitterion一ポリカチオンでは非化学量論的な反応が起こり、わずかなポリ カチオ ンをpolyzwitterion溶液に添加するとpolyzwitterionが大量に凝集する事が明らかとなった。高 分 子ゲ ル ー 高 分子 電 解 質 の系 に お い ては 、 ポ リ カチ オ ン ゲ ルをpolyzwitterion溶 液に浸 漬すると polyzwitterionが 非化学量論的に吸着することが明らかになった。また,ゲル合成時のテンプレートの 親水性 を変え ること でゲル 表面の 物性を 大きく変 化させ ること ができ、親水性テンプレートで合成し たゲル と疎水 性テン プレー トで合 成した ゲルの表 面弾性 率と表 面摩擦カが大きく異なり、ゲル表面の 性質を テンプ レートを変えるだけで制御することが出来ることを明らかにした(テンプレート効果)。
第2章 では,polyZwitterionであ るPDMAPSと 高分子 電解質と の相互 作用に 関して 記述した。PDMAPS ー222−
仁 夫
重 萍
義 允
和 剣
田 田
端
長 中
川 襲
授 授
授 授
教
教 教
教 助
査 査
査 査
主 副
副 副
に対し高分子電解質を少量添加すると、ポリアニオンやポリノニオンを添加した場合、PDMAPSの UCSTはほとんど変化しないのに対し、ポリカチオンを添加した場合、特に主鎖荷電型ポリカチオン であるioneneを添加するとUCSTが劇的に変化し、大量の沈殿が生じる。これによりPDMAPSの負 電荷と正電荷を持っポリカチオンが静電的な相互作用によルコンブレックスを形成すると、コンプレ ックス 中のPDMAPに新た な負電 荷が生ま れ、コンプレックスと溶液中のPDMAPSの負電荷が結合 し、これを繰り返すことにより、非化学量論的なコンプレックス形成を起こすことが示唆された。
第3章では,高分子ゲル‑ poりzwi仕甜onの相互作用について検討した。ポリアニオンゲルやポリノ ニオンゲルにはPmIAPSは化学量論的な吸着量であったが、ポリカチオンである3,3−ioneneゲルの 場合には、P餅沍APSがゲルに過剰に吸着し、その吸着量が非化学量論的であることが明らかとなった。
この吸着は静電的相互作用により起こり、3,3一ioncncゲル表面にPDMAPSが吸着していると考えら れる。
第4章では,PDMAPSと剛直主鎖型高分子であるPBDSTNa、弱電解質であるポリアクリル酸(PAA) との相 互作用 にっいて 検討した 。PDMAPS−PAMPSと比較すると、PDMAPS―P心皿Sは塩溶液中で 混合すると、還元粘度は減少していくが、Pm4APSーPBDSTNaは塩溶液中で混合すると、ある割合 から還元粘度が増加することがわかった。PAMPSは塩溶液中では側鎖の電荷が遮蔽されて高分子鎖 が広がれないため、PIm仏PSと相互作用レにくくなるが、PBDSnぬは剛直なため塩溶液中でも電荷 が遮蔽されにくく、その結果、PDMAPSと相互作用し、その結果粘度が増加するものと思われる。
PBDSlNa単独では1.6w%以上で見られる複屈折性が、PmdAPSを加える事で0.5刪%でも見られる ように なる。 これはPDl岨廿S―PBDSTNaで相互作用すると、PBDSTNaがより配向しやすくなり、
PBDSTNa単 独時よりも複屈折性を示しやすくなると考えられる。またPDMAPS‐PAA間の相互作用 ではpHが中性付近で還元粘度が増大した。これはpHが大きくなるにっれ、PAAが解離し、また中 性付近 ではPDMAPSの 両電荷が 釣り合 っているため、PAAの負電荷とPDMAPSの正電荷が静電的な 相互作用でポリイオンコンプレックスを形成して粘度が増大する。
第5章では、高分子ゲル合成時に用いるテンプレート(鋳型)が表面諸性質に及ぼす影響について 評価した。その結果、ゲル合成時のテンプレートの親水性を変えることでゲル表面の物性を大きく変 化させることができた。親水性テンプレートであるガラスやマイカを鋳型として用いて合成したゲル と、疎水性テンプレートであるテフ口ンやポリスチレンを鋳型として合成した高分子ゲルを比較する と、後者の方法で合成したゲル表面の膨潤度が高く、また表面弾性率と表面摩擦カを比較すると、後 者の方が弾性率が低く、また摩擦カも低くなることが明らかになった。疎水性テンプレートで合成さ れたゲル表面は親水性テンプレートで合成されたゲルに比ペ、柔軟で,架橋度の低い構造をとると考 えられる。ゲル表面の性質を合成時のテンプレートを変えるだけで、変える事が出来ることが明らか にされた。
これを要するに、著者は高分子間コンプレックス形成における新しい反応を見いだし、これにより、
高分子ゲルヘ自己修復能を付加できる可能性があり、これまでにないインテリジェントマテリアルの 創製が期待でき、高分子科学への貢献は大なるものがある。
よ っ て 著者 は 、 北海 道 大 学博 士 ( 理 学) の 学 位を 授 与 され る 資 格あ る も のと 認 める 。
‑ 223−