氏 名 小松 正直 授与した学位 博 士 専攻分野の名称 理 学
学位授与番号 博甲第 5820 号 学位授与の日付 平成30年 9月27日
学位授与の要件 自然科学研究科 地球生命物質科学専攻
(学位規則第4条第1項該当)
学位論文の題目 南西諸島における地震波減衰構造の推定とそれに基づく地震動シミュレーションのため の広域地下構造モデルの構築
論文審査委員 教授 竹中 博士 教授 隈元 崇 教授 松多 信尚
学位論文内容の要旨
本論文の目的は,南西諸島において地震波減衰トモグラフィを行い,地震波の非弾性減衰を表す無次元量 𝑄𝑄(𝑄𝑄−1が大きいと高減衰)の 3 次元空間分布を推定すること,さらにそれに基づいて地震動シミュレーショ ンのための地下構造モデルを構築することである。また,減衰構造推定のために必要な南西諸島で発生した 地震の震源スペクトルのコーナ周波数から応力降下量を求め,その地域性も明らかにする。
地震波形に含まれる震源スペクトルのコーナ周波数𝑓𝑓𝑐𝑐は,地震波減衰トモグラフィを行うために必要なパ ラメータである。そこで,2002年6月から15年間に南西諸島で発生した地震の𝑓𝑓𝑐𝑐を推定した。推定した𝑓𝑓𝑐𝑐
から応力降下量∆σを算出した結果,その値は概ね 1〜100 MPa の間にあり,地殻内で強い横方向の変化(地 域性)が存在することが明らかになった。琉球海溝から離れるにつれて∆σが低くなる傾向が見られる。背弧 側の沖縄トラフ内部で発生した地震は宮古海山直下を除いて∆σが非常に低く,その発生域は地殻熱流量が 高い領域に対応している。海溝付近の局所的に∆σの非常に高い領域が奄美大島の北東沖にあり,この領域は 測地学的に推定されているトカラギャップの圧縮域に当たる。また,南西諸島で発生した短期的 slow slip
event (SSE)はこの領域では発生していないことから,SSEのバリアになっていると考えられる。
上述の推定した𝑓𝑓𝑐𝑐を用いて,P波とS 波のスペクトルから,周波数依存性を考慮した𝑄𝑄の情報を含む減衰 量𝑡𝑡∗を決定した。 𝑡𝑡∗をデータとして地震波減衰トモグラフィを行い,南西諸島域における P 波の S 波の 𝑄𝑄−1(𝑄𝑄𝑃𝑃−1と𝑄𝑄𝑆𝑆−1)の空間分布を推定した。沖縄トラフ内やトカラ列島で高減衰領域(𝑄𝑄−1が大)が広がっている。
これは地下から供給される高温物質や流体が原因と考えられる。沈み込むフィリピン海(PHS)プレート上面
(直上)に沿った𝑄𝑄−1の高減衰領域と南西諸島で発生した短期的SSEの断層モデルの位置が一致した。これは,
沈み込むPHSスラブから供給された流体(例えば,脱水した水)がSSEの発生に大きく関わっていることを 示唆している。
さらに,南西諸島における広域の地震動数値シミュレーションのための地下構造モデルを構築した。トモ グラフィの結果から算出した地殻,マントル,スラブ各層の𝑄𝑄の平均値から,𝑄𝑄𝑃𝑃=𝑄𝑄𝑆𝑆の減衰モデルを設定し た。地震波速度構造モデルは最新の研究結果をコンパイルして構築した。地盤モデルには南西諸島域のモデ ルも公開されている J-SHIS モデル(防災科学技術研究所)を適用した。構築した構造モデルの有効性を調べ るため,先島諸島と沖縄・奄美諸島の2領域においてそれぞれ実地震を仮定して,3次元差分法を用いた地 震動シミュレーションを行った。その結果,観測波形の特徴を概ね再現することができ,今回構築したモデ ルの有効性を確認した。
論文審査結果の要旨
本論文は,南西諸島における3次元地震波減衰構造の推定を軸として、3部からなる研究を実施している。
まず,第1部では,2002年6月から15年間に南西諸島で発生した地震のコーナ周波数𝑓𝑓𝑐𝑐を推定し,応力降下 量∆σを算出した。その結果,地殻内で∆σに以下のように強い横方向の変化(地域性)があることを明らかにした。
琉球海溝から離れるにつれて低くなる傾向がある。背弧側の沖縄トラフ内部で発生した地震は宮古海山を除い て∆σが非常に低い。海溝付近の局所的に∆σの非常に高い領域が奄美大島の北東沖にあり,測地学的に推定され ているトカラギャップの圧縮域に当たる。また,南西諸島で発生した短期的slow slip event (SSE)がこの領域で は発生していないことから,SSEのバリアーになっていると考えられる。
第2部では,推定した𝑓𝑓𝑐𝑐を用いて,P波とS波のスペクトルから,周波数依存を考慮した減衰量𝑡𝑡∗を決定し,
それをデータとした地震波減衰トモグラフィによって南西諸島域におけるP波とS波の減衰𝑄𝑄−1の空間分布を 推定した。その結果,以下のことが分かった。一部の島で表層に強い高減衰領域(𝑄𝑄−1大)が見られ,軟弱な表層 岩石(主に石灰岩)や断層の影響と考えられる。先島諸島や鹿児島県西方沖において,沖縄トラフ内の大部分で 高減衰領域が広がっており,地下から供給される高温物質や流体が原因と考えられる。先島諸島の西表島直下 のマントルウェッジにおいても顕著な高減衰領域が見られる。この領域では短期的 SSE の発生が報告されて いる。さらに,沈み込むフィリピン海(PHS)プレート上面に沿った(プレート直上の)𝑄𝑄−1の分布と南西諸島で発 生した短期的 SSE の断層モデルを重ねると,高減衰域と一致することから,PHS スラブから供給された流体 がSSEの発生に大きく関わっていることが示唆される。また,トカラ列島から九州南端にかけての火山活動が 活発な地域のマントルから地殻において,強い高減衰域が見られ,PHSスラブ直上から火山や沖縄トラフに向 けた流体・高温物質の供給を表していると考えられる。
第3部では,南西諸島における広域の地震動数値シミュレーションのための地下構造モデルを構築した。そ の際,地震波速度構造モデルは既存の最新の研究結果をコンパイルして構築し,減衰モデルは上のトモグラ フィの結果から算出した地殻,マントル,スラブ各層の𝑄𝑄の平均値に基づいて設定した。構築した構造モデル の有効性を調べるため,2つの実地震を仮定して,3次元差分法を用いた地震動シミュレーションを実施し,
今回構築したモデルの有効性を確認した。
以上の成果は,地震学の発展に大きく寄与するものであり,博士(理学)の学位に値すると判断する。