博 士 ( 医 学 ) 井 上 雅 之
学位論文題名
Compensatory muscle activity in the posterior cruciate ligament‑deficient knee duringlSOkinetiCkneemotion . (後十字靱帯不全膝の等速度性膝運動時における代償性筋活動)
学位論文内容の要旨
【 緒言 】 膝十 字 靭 帯損 傷 はス ポ ー ツ選 手 にと っ て は重 大な 問題であ る。PCL不全膝 は明 らかな 後方動揺性 があるに もかかわ らず、不 安定性に 関する愁訴が少なくないことが知ら れてお り、その理 由として 、後方動 揺性は大 腿四頭筋 を中心とする膝周囲筋の活動にて代 償され るという仮 設が一般 に信じら れている 。前十字 靭帯不全膝における膝周囲筋の代償 性 、協 調 性活 動 は 既に 証 明さ れ て いる が 、PCL不 全 膝に おいて この仮説 の真偽を定 量的 に 評価 し た研 究 は ない 。 演者 ら はPCL不 全 膝に お け る膝 周囲筋 の代償性 活動の実態 を動 作筋電 図学的に解 明するこ とを目的 として研 究を行っ てきた。本発表の目的は、自己筋カ により 脛骨に著明 な後方引 出しカと 前方引出 しカが交 互に繰り返し作用する環境のーつで あ るCybex350を 用 いた 求 心性 等 速 度性 運 動 時に お いて 、 膝 屈曲 位 相時 に 大 腿四 頭 筋が 代償的 に活動する か、もし くは膝屈 筋群が抑 制的に活 動するか、さらには腓腹筋はどのよ う な 筋 活 動 を 行 う か に つ い て PCL不 全 膝 に お い て 検 討 す る こ と で あ る 。
【 対象 と 方法 】 陳 旧性PCL不全 患 者12(平 均 年齢25歳) を対 象とした 。PCL不全膝 の平均 total A‑P knee laxityの患健 側差は平均 で7.4 (3‑11) mmであった。被検者左右の大腿直 筋(Q) 、半膜様筋(H)、腓腹筋 内側頭(G)の 計6ケ所に 表面筋電図を貼付した。Cybex:350 を用い て求心性等 速度性膝 屈伸運動(30,60°/S)を平 均膝屈曲角O°―105°の範囲で連続 5回 行な わ せ 、筋 電 計 、電 気角度計 、Cybexからの 出力(筋 トルク) を同時に 記録した。
PCL不全膝と健側膝の両膝を測定した。
【調査項目】i)定性的調査として、膝屈伸運動中におけるQ,H,Gの協調、抑制効果による 代償を 検討するた めに積分 筋電図, およびト ルク曲線 の形状から大腿四頭筋または膝屈筋 群の早 急な反応の 有無につ いて厳密 に観察し た。iD筋カ による代償を検討するために最大 筋力¨peak torque (Nm)¨を測定した。iii)筋力発生様式による代償を検討するため最大トル
ク膝角度を測定した¨Angleatpeak torque (deg.)¨。iv)膝屈伸運動時の筋放電様式による 代償を検討するために、積分筋電図の波形のピークを示した膝角度¨Angle at peak EMG¨ (deg.)を測定した。v)代償性筋活動を調査するため、.筋活動発生時とトルク検出時との時 間差¨preceeding discharge time (PDT) msec.¨を測定した。
【結 果】 (1)PCL不 全膝 、健 側膝 共にcybex施行 時に はgivingwayを 認め なか った 。(2)前 述し たi) 〜iv)のparame terに 関し てPCL不全 膝、 健側 膝間 に有 意差 は認 めな かっ た。
(:3)¨preceeding discharge time¨に関して、QおよびHでは30°/S、60°/SでP,N膝間に 有意 差を 認め なか った 。一 方Gでは30、60°/s共にP膝で有意に大きく、っまり膝屈曲時.
に お け る 腓 腹 筋 の 筋 活 動 は 健 側 膝 よ り も PCL不 全 膝 で 有 意 に 早 か っ た 。
【 考 察 】 求 心 性等 速 度 性 運 動 時 に お い て 、ACL不 全 膝 か ら の推 定で 考え られ た「PCL不 全膝 では 大腿 四頭 筋が 代償 的に活動し、膝屈筋群が抑制的に活動する」という現象は認め ら ず 、PCL不 全 膝 に お け る 大腿 四頭 筋、 膝屈 筋群 にお いて は特異 的な 変化 は認 めら れな かっ た。 しか し、 腓腹 筋に 関しては、¨preceeding discharge time¨においてPCL不全膝 では 正常 膝に 比べ て、 最大 伸展位から屈曲する際に腓腹筋が有意に早く活動していた。腓 腹筋 は膝 屈筋 であ るが 、膝 安定性への寄与に関しては、不明である。しかし、考えられる 働きとしては、足関節が固定されている場合、腓腹筋の収縮により大腿骨が後方へ引かれ、
相 対 的 に 脛 骨 が前 方 に 引 き 出 される 事。O℃onnorは腓 腹筋 の収 縮はPCLに 負荷 がか から ない 方向 に作 用す ると 述べ ている。脛骨関節面は後方に傾斜しており、腓腹筋の収縮によ り大腿脛骨関節面の圧迫カにより脛骨は大腿骨に対して前方に変位する事等が考えられる。
PCL不 全 膝 に お け る 腓 腹 筋 の早 期収 縮の 臨床 的意 義に つい ては今 後の 検討 を要 する が、
PCL不 全 膝 の 求 心 性 等 速 度 性運 動時 にお いて 示さ れた 最初 の特異 的な 現象 とし て、 また 腓腹 筋の 膝安 定性 に与 える 効果に関する研究の必要性を示唆したという点において注目に 値する。本論文の弱点としては、open kinetic chainの環境下での実験であることである。
今後closed kinetic chainでの実験が望まれる。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Compensatory muscle activity in the posterior cruciate ligament‑deficient knee duringlSOkinetiCkneemotion. ( 後 十 字 靱 帯 不 全 膝 の 等 速 度 性 膝 運 動 時 に お け る 代 償 性 筋 活 動 )
後 十字靭帯 (以下PCL)不全膝は明らかな後方不安定性があるにもかかわらず、不 安 定性を中 心とした 膝関節に 関する愁 訴が少なく ないことが報告されており、その 理 由として 、大腿四 頭筋を中 心とする 膝周囲筋の 活動にて代償されるという仮設が 一 般に信じ られてい る。しか し、PCL不全 膝において 大腿四頭 筋をはじ めとした膝 周 囲筋の代 償性活動 を定量的 に評価し た研究はな い。本発表の目的は、自己筋カに よ り脛骨に 著明な後 方引出し カと前方 弓I出しカが 交互に繰 り返し作 用する環 境の ー つである 求心性等 速度性運 動時にお いて、膝屈 曲位相時に大腿四頭筋が代償的に 活 動するか 、もしく は膝屈筋 群が抑制 的に活動す るか、さらには腓腹筋の筋活動に ついてPCL不全膝において検討することである。
陳 旧性PCL不 全患 者12( 平均年 齢25歳)を 対象とし た。PCL不全膝 の後方不 安定 性 を 評 価 するtotalA−Pknee laxityで の患 健 側 差の 平 均は7.4(3ー11)mmで あ った。被検者左右の大腿直筋(Q)、半膜様筋(H)、腓腹筋内側頭(G)の計6ケ所に表 面筋電図を貼付した。Cybex 350を用いて求心性等速度性膝屈伸運動(30,60゜/s) を 平均膝屈 曲角O°―105゜の範囲 で連続5回 行なわせ、筋電計、電気角度計、Cybex か らの出力 (筋トル ク)を同時に記録した。PCL不全膝と健側膝の両膝を測定した。
i)定性的調査として、膝屈伸運動中におけるQ,H,Gの協調、抑制効果による代償を 検 討するた めに積分 筋電図, およぴト ルク曲線の 形状から大腿四頭筋または膝屈筋 群 の早急な 反応の有 無につい て厳密に 観察した。11)筋カによる代償を検討するた めに最大筋力(Nm)を測定した。111)筋力発生様式による代償を検討するため最大ト ル ク膝角度 を測定し た。1V)膝 屈伸運動 時の筋放電様式による代償を検討するため に 、積分筋 電図の波 形のビークが筋活動1サイクル中での位置 EMG peak を測定し た 。v) 代 償性 筋 活動 を 調 査す る ため 、 筋 活動 発 生 時と トルク 検出時と の時間差 preceeding discharge time(PDT)msec. を 測定した。以上の項目にっきPCL不
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査 査
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全 膝 と 健 側 膝 を 分 散 分 析(ANOVAp<0.05) を 用 い て 統 計 学 的 に 比 較 検 討 し た 。 (1)PCL不 全膝 、健 側膝 共にcybex施行時にはgiving wayを認めぬかった。(2) 前 述したi)〜 1V)のparameterに関してPCL不全膝、健側膝間に有意差は認めなか っ た 。 (3)PDTに 関し て 、Qお よ びHで はPCL不全 膝と 健側膝 間に 有意 差を 認め な か っ た 。 一 方Gで は30、60°/s共にPCL不全 膝で 有意 に大き く、 っま り膝 屈曲 開 始 時 に お け る 腓 腹 筋 の 筋 活 動 は 健 側 膝 よ り もPCL不 全 膝 で 有 意 に 早 か っ た 。 本研 究で は、PCL不 全膝 にお ける大腿四頭筋、膝屈筋群においては特異的な変化 は認められなカゝったカs、崩I腹筋に関しては、 preceeding discharge time にて PCL不 全膝で は正 常膝 に比 べて 、伸展位から屈曲する際に腓腹筋が有意に早く活動 し ていた。腓腹筋は膝屈筋であるが、膝安定性への寄与に関しては、不明である。
し かし、考えられる働きとしては、足関節が固定されている場合、腓腹筋の収縮に より大腿骨が後方ヘ引かれ、相対的に脛骨が前方に弓fき出される事。脛骨関節面は 後 方に傾斜しており、腓腹筋の収縮により大腿脛骨関節面の圧迫カにより脛骨は大 腿 骨に 対し て前 方に 変位 する 事等が考えられる。また0 Connorは腓腹筋の収縮は PCLに 負荷が かか らな い方 向に 作用 する と述 べて いる 。PCL不全膝における腓腹筋 の 早期 収縮 の臨 床的 意義 につ いては今後の検討を要するが、PCL不全膝の求心性等 速 度性運動時において示された最初の特異的な現象として、また腓腹筋の膝安定性 に 与え る効 果に 関す る研 究の 必要 性を示 唆し たと いう 点に おいて本研究は注目に 値 す る 。 今 後 腓 腹 筋 の 膝 の 安 定 性 に つ い て の 生 体 工 学 的 研 究 が 望 ま れ る 。 口頭発表にあたり、副査の金田清志教授からは、本研究が非荷重であること,能 動 運動であること,学習効果があることなどの問題点について,また副査の安田和 則 教授からは、測定時の膝不安定性の内容,現象の再現性、機序に関する神経生理 学 的な説明などについて質問があった。さらに主査の井上芳朗教授からは、腓腹筋 内 側頭のみから計測を行った妥当性、腓腹筋が重要である臨床的証拠などについて 質 問があった。これらに対して申請者は自己の研究結果と文献的知識に基づいて概 ね妥当な回答を行った。
審査 員一 同は 、申 請者 がPCL不全膝における膝周囲筋群の代償性筋活動を初めて 定 量的に証明した成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十 分な資格を有するものと判定した。