光機能性高分子を用いた生体内物質の認識について
の研究
著者
加藤 暁憲
学位授与大学
東洋大学
取得学位
博士
学位の分野
工学
報告番号
32663甲第379号
学位授与年月日
2015-03-25
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00007154/
2014 年度
東洋大学審査学位論文
光機能性高分子を用いた生体内物質
の認識についての研究
目次 第 1 章 緒論 1-1 光機能性高分子とは 1-2 π共役系高分子 1-3 π共役系高分子の分子認識への応用 1-4 目的 1-5 参考文献 第 2 章 フタルイミドを含むポリ(2,5-ジメトキシアニリン)誘導体 (PDMAp)の合成 2-1 緒言 2-2 実験 2-2-1 試薬 2-2-2 装置 2-2-3 測定 2-2-4 ポリ(2,5-ジメトキシアニリン)(PDMA)の合成 2-2-4-1 PDMA-CSA の合成 2-2-4-2 塩基による PDMA-CSA の脱 CSA 2-2-4-3 PDMA の IR スペクトル 2-2-5 フタルイミドを含むポリ(2,5-ジメトキシアニリン)誘導体 (PDMAp)の合成 2-2-5-1 PDMAp-CSA の合成 2-2-5-2 塩基による PDMAp-CSA の脱 CSA 2-2-5-3 PDMAp の IR スペクトル 2-3 結果と考察 2-3-1 CSA のドープによる PDMA の吸光変化 2-3-2 CSA のドープによる PDMAp の吸光変化 2-3-3 PDMA と PDMAp の溶解性 2-4 まとめ 2-5 参考文献 第 3 章 フタルイミドを含むポリ(2,5-ジメトキシアニリン)(PDMAp) を用いた ATP センシングの性能評価 3-1 緒言 1 1 2 10 16 17 20 20 21 21 22 22 25 25 25 25 28 28 28 30 31 31 33 35 36 37 38 38
3-2-2 装置 3-2-3 測定 3-3 結果と考察 3-3-1 ATP 添加による PDMAp の吸光変化 3-3-2 ATP 以外のアデノシン誘導体による PDMAp の吸光度変化 3-3-3 アデノシン以外の核酸誘導体による PDMAp の吸光度変化 3-3-4 PDMA と PDMAp のフタルイミド基の有無による吸光度変化 3-4 まとめ 3-5 参考文献 第 4 章 ポリ(ヘテロアリレンメチン)構造を有するπ共役高分子電解 質の合成 4-1 緒言 4-2 実験 4-2-1 試薬 4-2-2 測定 4-2-3 カチオン型水溶性ポリ(ヘテロアリレンメチン)(WSCP)の 合成 4-2-3-1 WSCP の合成 4-2-3-2 WSCP の IR スペクトル 4-2-3-3 WSCP の吸収スペクトル 4-2-4 側鎖にフェニル基を含むカチオン型ポリ(へテロアリレンメ チン)(WSCP-Bez)の合成 4-2-4-1 WSCP-Bez の合成 4-2-4-2 WSCP-Bez の IR スペクトル 4-2-4-3 WSCP-Bez の吸収スペクトル 4-2-5 側鎖にブトキシフェニル基を含むカチオン型ポリ(へテロア リレンメチン)(WSCP-Bu)の合成 4-2-5-1 WSCP-Bu の合成 4-2-6 側鎖にヘキシロキシフェニル基を含むカチオン型ポリ(へテ ロアリレンメチン)(WSCP-Hex)の合成 4-2-6-1 WSCP-Hex の合成 4-2-7 側鎖にピレンを含むカチオン型ポリ(へテロアリレンメチン) 40 40 41 41 44 45 46 47 48 49 49 52 52 52 53 53 55 56 57 57 59 60 61 61 63 63
4-2-8 o-ベンゼンスルホン酸塩を含むアニオン型ポリ(へテロアリ レンメチン)(WSAP) 4-2-8-1 WSAP の合成 4-2-8-2 WSAP の IR スペクトル 4-2-8-3 WSAP の吸光スペクトル 4-2-9 ピリジニウム塩と o-ベンゼンスルホン酸塩を含む両性ポリ (ヘテロアリレンメチン)(WSACP) 4-2-9-1 WSACP の合成 4-2-9-2 WSACP の IR スペクトル 4-2-10 β-D-アロピラロースを含む非イオン性ポリ(ヘテロアリレ ンメチン)(WSNP-Sug) 4-2-10-1 WSNP-Sug の合成 4-2-10-2 WSNP-Sug の IR スペクトル 4-3 結果と考察 4-3-1 合成 4-3-2 溶解性 4-3-3 光学特性 4-4 まとめ 4-5 参考文献 第 5 章 水溶性ポリ(ヘテロアリレンメチン)を用いた牛血清アルブミ ン(BSA)センシングの性能評価 5-1 緒言 5-2 実験 5-2-1 試薬 5-2-2 測定 5-2-3 スターンボルマープロット 5-3 結果と考察 5-3-1 WSCP による BSA センシング 5-3-1-1 WSCP を添加した時の BSA のトリプトファンの蛍光変化 5-3-1-2 WSCP に BSA を添加した時の吸光変化 5-3-1-3 BSA と WSCP の相互作用の吸収スペクトルへの影響 5-3-1-4 塩添加による WSCP と BSA の相互作用への影響 5-3-2 WSCP-Bez による BSA センシング 69 69 71 72 73 73 75 76 76 78 79 79 79 79 82 83 84 84 85 85 85 85 87 87 87 89 92 93 95
5-3-2-2 WSCP-Bez と BSA の相互作用における吸収スペクトルへ の影響 5-3-2-3 塩添加による WSCP-Bez と BSA の相互作用への影響 5-3-3 WSCP-Bu と BSA の相互作用 5-3-4 WSCP-Hex と BSA の相互作用 5-3-5 kq値と吸光度変化の比較 5-4 まとめ 5-5 参考文献 第 6 章 水溶性ポリ(ヘテロアリレンメチン)を用いた卵白リゾチー ムセンシングの性能評価 6-1 緒言 6-2 実験 6-2-1 試薬 6-2-2 測定 6-3 結果と考察 6-3-1 WSAP とリゾチームとの相互作用 6-3-2 塩添加による卵白リゾチーム-WSAP のトリプトファンの蛍 光への影響 6-3-3 WSNP-Sug とリゾチームとの相互作用 6-4 まとめ 6-5 参考文献 第 7 章 ピレン付加した WSCP-Pyre を用いた蛍光変化による DNA セ ンシングの性能評価 7-1 緒言 7-2 実験 7-2-1 試薬 7-2-1 測定 7-3 結果と考察 7-3-1 DNA 添加による WSCP-Pyre のピレン蛍光変化 7-4 まとめ 7-5 参考文献 97 98 99 100 101 103 104 105 105 106 106 106 107 107 110 113 114 115 116 116 117 117 117 118 118 120 121
第 8 章 総括 第9章 謝辞 論文リスト 122 126 127
第 1 章 緒論
1-1. 光機能性高分子とは 光機能性高分子は光の伝送、吸収、蓄積、変換を行うことのできる機能性高 分子の一つであり、大きく分けて、光エネルギーを化学、熱、電気等の他のエ ネルギーに変換もしくはその逆の変換を行うものと、光を屈折、散乱、偏光な どの光学的特性を持つものに分けられる1)。エネルギー変換を行うものとしては、 感光性樹脂、光応答性高分子、有機太陽電池などが挙げられ、光学特性を持つ ものとしては、光学レンズ、プリズム、偏光フィルターなどが挙げられる(Fig. 1-1)。 これらの光機能性高分子の利用は多岐に渡る。印刷製版、プリント配線、接 着剤などに用いられる感光性樹脂は、低分子もしくは高分子原料に光を照射し 高分子化もしくは架橋することで不溶化させるものであり、現在の産業になく てはならないものである。また感光性樹脂は、レーザー照射により、金型形成 などでは作製不可能な極小の歯車やネジなどの部品の形成にも利用されている 2)。 光応答性高分子としてはフォトクロミズムを起こすスピロピラン類、アゾベ ンゼン類、ジアリールエテン類などを導入したものがあり、光記録や光スイッ チなどへの応用の研究がなされている 3.4)。またフォトクロミズムを起こす分子 を強固に架橋した高分子は、光照射によって変形する光運動材料としての応用 研究もなされている5,6)。 有機太陽電池への応用は、シリコン太陽電池に比べ安価で薄くフレシキブル で、しかも透明であり、使用する高分子よってカラフルにすることができる。 また、共役系の高分子では、電子が分子内を移動できるため、低分子に比べ電 子移動のロスが少なく、効率よく光電変換が行えるなど多くの利点により研究 が行われている。その光電変換効率は低かったが、アクセプター材料としてフなどのレンズに使われ、ガラスレンズに比べると軽量で耐衝撃性、加工性に優 れていることから多くの製品に利用されていて、その屈折率もガラスレンズの 屈折率に近づきつつある9)。また、光の干渉や、回折、散乱等の光学特性を利用 したものでは、石英ファイバーより性能のよいプラスチック光ファイバーや自 然界にあるオパール、モルフォ蝶、コガネムシなどが持つ周期的な微細構造に 基づく鮮やかな色の構造色を利用した光学材料などの研究もなされている10-12)。 このように様々な分野で使用されている光機能性高分子の中で、多く研究され ているのがπ共役系高分子である。 1-2. π共役系高分子 π共役系高分子は単結合と二重結合が交互に繰り返しつながったポリエン構 造を持つ高分子で、脂肪族共役系のポリアセチレン、芳香族共役系のポリ(p-フェニレン)、それら 2 つをあわせたような構造のポリ(p-フェニレンビニレン)、 複素環共役系であるポリチオフェン、ポリピロール、含ヘテロ原子共役系であ るポリアニリンなど様々なものがある。そのうちポリアセチレン以外の非縮退 系π共役系高分子の物性について、顔料などとして古くから用いられているポ リアニリンを例にとって説明する。 ポリアニリンは、アニリンを酸化重合するとできる黒い粉末、アニリンブラッ クとして古くから知られており顔料や染料などに使用されてきた。導電性高分 子として注目を浴びてからは、安価で簡単に合成できることから多くの研究が なされている。
ポリアニリンは、その他の導電性高分子と同様にエレクトロクロミズムを示 し、その酸化状態と分子構造によって多色変化することで注目されている。Fig. 1-2 はポリアニリンの形状変化について表したもので、ポリアニリンの構造は 4 つのモノマー単位で考えるのが簡単であり、その形状は大きく 3 つに分類され る。1 つめはポリアニリンの 4 つのモノマー単位の N 部分がすべてアミン状態 のフェニレンジアミン構造の続いた完全還元状態のロイコエメラルジン塩基の 状態で、黄色の絶縁体である。2 つめは N 部分がすべてイミンの状態で、アロ マティック構造とキノイド構造が交互に並んだ完全酸化状態のペルニグルアニ リン塩基の状態で紫色をしていてロイコエメラルジン塩基と同様に絶縁体であ る。最後にポリアニリンの酸化状態の中で最も注目すべき形状は、N 部分がア ミンとイミンが2つずつあり、アロマティック構造とキノイド構造が 3:1 の割 合で存在する半酸化状態で青色をしたエメラルジン塩基である。この状態では ほかの 2 つと同様に絶縁体であるがエメラルジン塩基にアニオンをドープする とエメラルジン塩の状態になり、エメラルド色で導電性を有するようになる13)。 またアニオンを脱ドープすることによりエメラルジン塩基になり絶縁体にもど る。このようにアニオンをドープ‐脱ドープすることにより電気化学的性質が 変化し、かつ色も青から緑に変化することから、色の変化によるアニオンセン サーとして有用であると考える。 エメラルジン塩基とエメラルジン塩の特性の変化は、非縮退系導電性高分子 の説明に用いられるポーラロン・バイポーラロンなどの概念で説明できる 14) 。 そこで、ポーラロン、バイポーラロンの概念を、非縮退系導電性高分子で基本 的な構造のポリ(p-フェニレン)を例に説明する。
Fig. 1-2. ポリアニリンの酸化‐還元およびアニオンのドープ‐脱ドープによる
ポリ(p-フェニレン)は、Fig. 1-3(a)のアロマティック構造と Fig. 1-3 (b)の キノイド構造の構造が考えられるが、キノイド構造のほうがアロマティック構 造に比べて不安定であるため、通常ではアロマティック構造をとっている。こ のアロマティック構造をしているポリ(p-フェニレン)に電子受容体(アクセプ ター)をドープすると 1 個の電子が引き抜かれ、イオン化状態になり、イオン 化状態で起こったエネルギー差をできる限り小さくなるように構造に変化が生 まれ、電子の引き抜かれた周辺で歪みが生じ、2 重結合の組み換えが起こり電子 の引き抜かれた周辺に部分的にキノイド構造が形成される。ただし、もともと キノイド構造は不安定であるため、高分子全体に広がることができず、電子を 引き抜かれた場所の付近でのみ構造変化が起こり、それ以外の場所ではアロマ ティック構造のままの状態である。その結果として、Fig. 1-4(a)のように正の 電荷を持ち、しかも 1/2 のスピンを持った領域が形成される。この状態をポーラ ロンといい、この場合は正の電荷を持っているので正のポーラロンと呼ばれて いる。さらにもう少しアクセプターのドープが進むと、ポーラロン構造を形成 するよりもポーラロンの電子を 1 つ引き抜くほうがエネルギー的に有利なため、 ポーラロンのもう 1 個の電子もアクセプターに奪われ、Fig. 1-4(b)のようにス ピンを失って 2 個の電荷を持つポーラロンが形成される。この状態をバイポー ラロンといい、この場合は正のバイポーラロンである。逆に電子供与体(ドナ ー)がドープされた場合は、部分的に電子が付加されていきキノイド構造を形 成し、負のポーラロン、負のバイポーラロンが形成されることになる。このこ とから、ポーラロン・バイポーラロンは高分子鎖に電荷の注入または引抜きが 行なわれイオン化し、それに伴いその周辺でエネルギー的に安定になろうとし て構造に歪みが生じキノイド構造を形成したものが部分的に安定化したもので あると考えられる。さらにドーピングが進んでポーラロン、バイポーラロンの 形成が繰り返されることによって高分子中に多数のバイポーラロンが形成され、 バイポーラロン同士が互いに重なり始めるようになる。これにより、ひずんだ 状態が高分子全体にわたって広がることになり、この状態がポーラロンバンド と呼ばれている。
みが生まれ、安定化する。それにより、Fig. 1-5(b)ように価電子帯の領域の一 部がポーラロンというエネルギー的に少し安定なエネルギー準位をバンドギャ ップ内に形成したとように見ることができる。さらに、もう 1 個電子を奪うこ とにより、Fig.1-5(c)のようにさらに安定な正のバイポーラロンをバンドギャ ップ内に形成する。逆の場合、ドナーをドープすることにより伝導帯(CB)に はいった電子がその領域を少しひずませエネルギー的に安定な負のポーラロン を形成し、さらにもう 1 個電子が入れば負のバイポーラロン状態を形成するこ とになる。 さらに、バイポーラロンが更なるドーピングより増加し、高分子内でバイポ ーラロンが重なり合い始めると、Fig. 1-5(d)のように一種のバンドを形成する ようになる。これがポーラロンバンドであり、さらに多く高分子にドープされ ると、Fig. 1-5(e)のような金属状態に近づき、導電性を持つと考えられている。 しかしながら、ポーラロンバンドが実際どのような状態であるか、ポーラロン・ バイポーラロン状態からどのようにポーラロンバンドを形成するかなどいくつ かの過程には不明なことが多く正確には解明されていない。 ポリアニリンの場合で見ると、同様にエメラルジン塩基に酸をドープするこ とによって、ポーラロン構造を経由して経由して、ポーラロンバンドが形成さ れる。そのため、エメラルジン塩はエメラルジン塩基にくらべ、長波長の光を 吸収できるようになり、極大吸収波長がレッドシフトした強いポーラロンバン ド由来のピークが見られる。また、この変化は他の非縮合系π共役系高分子で も電荷のドープなどによってポーラロンバンドの形成が起こり、バンドギャッ プエネルギーが小さくなることによって、より長波長の可視光に吸収を持つこ とができ、そのバンドギャップエネルギーの大きさの違いによってさまざまな 色に呈色する。 このようにπ共役系高分子はドープ/脱ドープすることにより導電性に変化が 見られ、その結果生じた電気的特性や可視光付近の吸収特性や蛍光特性を利用 して、色素増感太陽電池や有機薄膜太陽電池、有機 EL15,16)、センサーなど多く
Fig. 1-3. ポリ(p-フェニレン)のアロマティック構造およびキノイド構造
Fig. 1-5. 非縮退系導電性高分子の電子状態 εF (a)未ドープ 禁止帯幅 (b)ポーラロン (c)バイポーラロン (d)ポーラロン バンド (e)金属状態 P -P+ BP -BP+
1-3. π共役系高分子の分子認識への応用 π共役系高分子を利用した光センサーの研究は多くなされているが、その大き な利点の 1 つが感度の向上である。Fig.1-6 で表したように、低分子センサーの 場合、目的分子を添加した時、センサーに目的分子が結合することによって蛍 光や吸光などの変化が起こるが、目的分子と結合したセンサーのみの変化にと どまる。一方、π共役系高分子センサーの場合、目的分子が結合した時、低分 子と同様に蛍光や吸光の変化が起こるが、π共役で結ばれていることにより分 子内電子移動がスムーズに行われ、その変化が目的分子の結合した部分だけで はなく高分子全体に波及する。従って、π共役系高分子を利用すると低分子に 比べて高感度な光センサーを作製できる可能性がある17)。 π共役系高分子の電気化学的な特徴を用いたセンサーなどには、NO2などのガ スやベンゼンなどの蒸気センサー18-21)、湿度センサー22)、温度センサー23)、pH センサーなどがある。また、目的分子を特異的に認識する部位を付加させたπ 共役系高分子センサーの様々な研究もなされている。その中で代表的なものが、 目的分子を認識する部位をペンダント型に側鎖として付加させものである。た とえば、Fig. 1-7 に示すように、π共役系高分子にウレア基などのアニオン認識 能を有する側鎖をペンダントしたものは、アニオン添加によって吸光変化や蛍 光変化を見せるアニオンセンサーとして研究されている 24-26)。特に、フルオレ センとボロン-ジピロメテン(BODIPY)色素誘導体のコポリマーでは F-と CN -を特異的に認識するという報告がある 27)。金属を捕捉するクラウンエーテルや カリックスアレーンをペンダントしたものは、金属イオンセンサーして研究さ れていて 28)、クラウンエーテルやカリックスアレーンの大きさによって認識す る金属異なる 29)。その他には、イプチセン類を付加させることによって高分子 同士の相互作用を阻害し、目的分子を取り込みやすくすることによって爆薬の トリニトロトルエンやジニトロトルエンなどを効率的に検出できるようにした ものもある 30)。さらに、医学や生物学的に有用なタンパク質やアミノ酸、DNA や核酸誘導体、細胞などを認識するセンサーやマーカーとしても期待され研究
性を持たせたπ共役高分子の研究がなされている。また、水溶性化によって電 荷を持たせることにより静電的相互作用で様々な生体内物質と複合体を形成す ることが可能になると考える。たとえば、ポリチオフェンにカチオンを導入し た水溶性高分子ではウシ血清アルブミン(BSA)と相互作用し、BSA 内にある トリプトファンの蛍光を減少させ、ポリチオフェンの吸光にも変化がみられる ことが報告されている 35)。さらに、π共役系高分子と蛍光物質を混ぜることに よって蛍光共鳴励起エネルギー移動(FRET)を利用したセンサーやマーカーな どがある。たとえばカチオン性π共役系高分子と金ナノ粒子を用いたアミノ酸 センサーや36)、Fig. 1-8 で示すようなカチオン性高分子を用いた DNA に蛍光マ
ーカーの付加した DNA 断片との相互作用によって起こる FRET を利用した DNA
センサーもしくはマーカーの研究など様々なされている 37-39)。π共役系高分子 の水溶性化のさらなる利点としては水溶液中で高分子ナノ粒子の自己組織化の 可能性があげられる。通常高分子ナノ粒子の生成には高分子と界面活性剤を混 合してミセル内に高分子を内包させるナノエマルション法によって行われるの が一般的である 40,41)。これに対してπ共役系高分子に水溶性部位を添加したも のでは、Fig. 1-9 で示すような界面活性剤なしで自己組織化によるミセルの形成 が期待でき、さらに自身に目的分子の認識部位を持たすことによって目的分子 との相互作用によって吸光や蛍光変化を起こすことで生体内での光イメージン グへの応用も期待できる 42)。また、ミセルの外側に活性部位をつけることによ ってセンサーとしての応用も期待される。たとえば、Fig. 1-10 で示すようにビオ チンを結合させ、そこにストレプトアビジンを結合させたミセルを用いたビオ チンでラベリングした病原体のセンサーなどが研究されている43)。 このようにπ共役性高分子はセンサーやマーカー素子として有用なものであ りその研究は様々な分野に活用できると考える。
O O C14H29 C14H29 O OC10H21 O O O O O アニオンセンサー TNTセンサー 金属イオンセンサー H NH O HN NHBoc BocHN n N C12H25 n n n N N B F F R n
親水基 水溶液中 目的分子 + 水溶性π共役系高分子 Fig. 1-9. 水溶性π共役系高分子の自己組織化による水中でのミセルの形成と分 子認識 ビオチン ストレプトアビジン
1-4. 目的 本論文では、π共役系高分子と生体内物質の相互作用によって引き起こされる 高分子の吸光、蛍光変化を利用した生体内物質のセンサーやマーカーの可能性 について研究を行った。 まず、2 章では酸化度やドープによって導電性や色の変化の見られるポリアニ リンにアデニン誘導体と水素結合すると予想されるフタルイミドを導入したポ リアニリン誘導体の合成を試みた。3 章では 2 章で合成したポリアニリン誘導体 の吸光度変化による核酸誘導体に対するセンシング性能評価について報告する。 4 章では、ピリジニウム塩を含むカチオン性、スルホン酸を含むアニオン性、 ピリジニウム塩とスルホン酸を含む両性と糖を含む中性の水溶性のπ共役系高 分子ポリ(ヘテロアリレンメチン)誘導体をピロールと芳香族アルデヒドを酸 化脱水反応により合成を試みた。5 章ではカチオン性のポリ(ヘテロアリレンメ チン)誘導体を用いた、負に電荷を帯びたウシ血清アルブミン(BSA)の吸光 変化によるセンサーの可能性と高分子の疎水性部位の有無による BSA センシン グ性能の変化について報告する。6 章では、卵白リゾチームとアニオン性のポリ (ヘテロアリレンメチン)、中性のポリ(ヘテロアリレンメチン)との相互作用 の比較についてと、アニオン性のポリ(ヘテロアリレンメチン)を用いた正に 電荷を帯びた卵白リゾチームの吸光変化による卵白リゾチームセンサーの可能 性と報告する。7章では、カチオン性ポリ(ヘテロアリレンメチン)に蛍光物 質であるピレンを付加させた誘導体が、アニオン性高分子である DNA との相互 作用によって起こるピレンの蛍光変化による DNA センサーとしての可能性につ いて報告する。
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41) T. Jin, J. Zhu, F. Wu, W. Yuan, L.L. Geng, H. Zhu, J. of Controlled Release, 128, (2008) 50.
42) D. Ding, K. Li, Z.S. Zhu, K.Y. Pu, Y. Hu, X.Q. Jiang, B. Liu, Nanoscale, (2011) 1997.
第 2 章 フタルイミドを含むポリ(2,5-ジメトキシアニリン)誘導体
(PDMAp)の合成
2-1. 緒言 ポリアニリンは、アニリンを酸化重合するとできる黒い粉末、アニリンブラ ックとして古くから知られており顔料や染料などに使用されてきた。1980 年以 降その重合体の構造が明らかにされ始めアニリンの電解重合で得られたポリア ニリンに導電性を有することが明らかにされた1)。ポリアニリンは安定性に優れ、 安価で容易に合成できることから導電性高分子材料としての研究に関心がもた れるようになった。現在、その性質から腐食防止コーティング、バッテリー、 センサー、分離膜、帯電防止コーティング、電磁干渉遮へいなどの研究が進み 実用化されてきている2)。 ポリアニリンは触媒による化学重合や電気化学的重合のいずれでも簡単に合 成できる。 電気化学的重合では塩酸、硫酸、過塩素酸、テトラフルオロホウ酸などの水 溶液(pH<1)にアニリンを溶解させて白金板や導電性ガラス(ITO)を電極と して、Ag/AgCl 参照電極に対して 0.7~1 V の定電位で酸化を行うと、正極上に ポリアニリンがフィルム状に生成する。この反応は、まずモノマーのアニリン の酸化反応により始まり、続いて成長反応が起こるため、アニリンモノマーの 酸化電位がポリアニリンの酸化電位より十分高い必要がある。最初アニリンモ ノマーの酸化による電子の引き抜きからラジカルカチオンが生成、ラジカルカ チオン同士のカップリングが起こり、二量体の生成、二量体の酸化、カップリ ング、脱プロトンが起こり重合していく。 化学重合では、塩酸やカンファースルホン酸(CSA)の水溶液にアニリンを 溶解させ、過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムなどの酸化剤の水溶液を加え ていくとポリアニリンが粉末状に生成する1)。また、有機溶媒中でのポリアニリ ン合成も研究されており、CSA を溶解させた THF などの溶液にアニリン誘導体 を溶かし、酸化剤として 2,3‐ジクロロ‐5,6-ジシアノベンゾキノン(DDQ)の体を形成すると同時に電子移動を引き起こして、アニリンのラジカルカチオン の生成をもたらし、さらにアニリンのラジカルカチオン同士によるカップリン グを経てポリアニリンが形成されるものである(Fig. 2-1)3)。 ポリアニリンは難溶性なので溶解性を向上させるために、ポリアニリンの合 成が阻害されない部位にメチル基や長鎖のアルキル基、メトキシ基などのアル コキシ基 4)、フルオロなどのハロゲン等 5)を付加させたアニリン誘導体を用い たポリアニリン誘導体や、スルホン酸などを付加させた自己ドープ型の水溶性 ポリアニリンなどの合成が行われている6)。さらに、デキストランスルホネート や DNA などのアニオン性高分子を添加した上でポリアニリンを合成することに よって水溶化させるという研究もなされている7,8)。 第 2 章では、Fig. 2-2 で示すような 2,5-ジメトキシアニリンと 3-アミノフタ ルイミドを含むポリアニリン誘導体(PDMAp)の合成を行った。2,5-ジメトキ シアニリンはポリアニリンの溶解性向上が期待でき、3-アミノフタルイミドは Fig. 2-3 のように核酸誘導体のアデニンと水素結合を形成可能である。従って、 PDMAp はアデニン誘導体との相互作用が期待できる9)。 2-2. 実験 2-2-1. 試薬 2,5-ジメトキシアニリン(2,5-Dimethoxyaniline)、分子量:153.18、東京化成 工業 3-アミノフタルイミド(3-Aminophthalimide)、分子量 162.15、アルドリッチ 2,3- ジ ク ロ ロ -5,6- ジ シ ア ノ -1,4- ベ ン ゾ キ ノ ン (2,3-Dichloro-5,6-dicyano-1,4-benzoquinone) 分子量:227.00、東京化成工業 (+)-10-カンファースルホン酸((+)-10-Camphorsulfonic Acid)、分子量: 232.30 アンモニア水、試薬特級、アンモニア 28%含有、関東化学
2-2-2. 装置 IR スペクトルは、JASCO フーリエ変換赤外分光光度計 FT/IR-4100 を使用した。 吸収スペクトルは、JASCO UV-Vis 分光光度計 V-530 を使用した。 2-2-3. 測定 IR スペクトルは JASCO より販売されている ClearDisk、ClearDisk 成型器、 miniKBr プレート(3×3)を用いて、KBr プレート法により錠剤を形成して測定 を行った。 モノマーユニット濃度を用いて、PDMA および PDMAp の吸収スペクトルを 測定した。Scheme 2-1 および Scheme 2-2 の構造式からモノマーユニットあたり の平均分子量を計算し、PDMA および PDMAp のモノマーユニット濃度を求め た。
NH2 O O Cl Cl NC NC NH2 O O Cl Cl NC NC NH2 O O Cl Cl NC NC NH2 OH OH Cl Cl NC NC 電荷移動 H NH 電荷移動錯体(外部錯体) ラジカルカチ オン Fig. 2-1. 有機溶媒中での DDQ よるアニリンの重合反応
N H OCH3 H3CO N OCH3 H3CO N OCH3 H3CO OCH3 H3CO N H N H O O n N H Fig. 2-2. PDMAp の構造 Fig. 2-3. フタルイミドとアデニン誘導体の水素結合 NH2 NH O O N N N N H2N R
2-2-4. ポリ(2,5-ジメトキシアニリン)(PDMA)の合成 2-2-4-1. PDMA-CSA の合成 T. Hino et al. (2006)の方法により合成を行った5) (Scheme 2-1)。 2,5-ジメトキシアニリン 766 mg(5.00 mmol)を 10 ml の THF に溶解させ、そ こに 5 ml の THF に溶解させた(+)-10-カンファースルホン酸(CSA)2.32 g(10.0 mmol)を加えて攪拌した。この溶液に 10 ml THF に溶解させた DDQ 1.14 g(5.00 mmol)を攪拌しながら少しずつ加えた(添加直後から溶液は薄い赤褐色から濃 い深緑色に変化)。すべて添加後、室温で1日攪拌し重合させた。重合後、溶液 を少しずつアセトン 300 ml に落とし、未反応のモノマー、オリゴマー、DDQ や 余分な CSA などを洗浄除去し、その後濾取し減圧乾燥を経て PDMA-CSA 821 mg (収率 61.4 %)を得た。 2-2-4-2. 塩基による PDMA-CSA の脱 CSA 合成した PDMA-CSA 105 mg にアンモニア水 20 ml を加えて懸濁させ 1 日攪拌 した。反応後、固体を濾取しジエチルエーテルで洗浄、減圧乾燥を経て PDMA 47.2 mg(収率 79.1 %)を得た。 2-2-4-3. PDMA の IR スペクトル KBr 法を用いて、合成した PDMA の IR スペクトルの測定を行った(Fig. 2-4)。 1583、1509 cm-1付近にはキノリド、ベンゾイドリング由来の C=C 伸縮運動のピ ークが見られ、ポリアニリン誘導体のIRスペクトルの文献値と同様のところ に見られた(5。その他に、1276、1207 cm-1にはジメトキシアニリンの 3,6 部位由 来の C-H 伸縮運動のピークが見られた。また、2841 cm-1にはメトキシ由来の C-H のピークが、3440-3300 cm-1にはポリアニリンの結合部のイミンの伸縮運動ピー クが確認できた。
NH2 OCH3 H3CO CSA DDQ CSA- CSA -H N OCH3 H3CO N H OCH3 H3CO N H OCH3 H3CO OCH3 H3CO H N PDMA-CSA NH4OH H N OCH3 H3CO N OCH3 H3CO N OCH3 H3CO OCH3 H3CO H N PDMA n n Scheme 2-1. ポリ(2,5-ジメトキシアニリン)(PDMA)の合成スキーム
70
80
90
100
110
400
900
1400
1900
2400
2900
3400
3900
Wavenumber (cm
-1)
%
T
Fig.2-4. PDMA の IR スペクトル(KBr 法)2-2-5. フタルイミドを含むポリ(2,5-ジメトキシアニリン)(PDMAp)の合成 2-2-5-1. PDMAp-CSA の合成
Hino etal. (2006)の方法により合成を行った5)(Scheme 2-2)。
2,5-ジメトキシアニリン 613 mg(4.00 mmol)と 3-アミノフタルイミド 162 mg (1.00 mmol)を 10 ml の THF に溶解させ、そこに 5 ml THF に溶解させた CSA 2.32 g(10.0 mmol)を加えて攪拌した。この溶液に 10 ml THF に溶解させた DDQ 1.14 g(5.00 mmol)を攪拌しながら少しずつ加えた(添加直後から溶液はフタルイミ ド由来の薄い黄色から濃い深緑色に変化)。すべて添加後に室温で1日攪拌し重 合させた。重合後、溶液を少しずつアセトン 300 ml に落として、未反応のモノ マー、オリゴマー、DDQ や余分な CSA を洗浄し、その後濾取し減圧乾燥を経て PDMAp-CSA 609 mg(収率 45.2 %)を得た。 2-2-5-2. 塩基による PDMAp-CSA の脱 CSA 合成した PDMAp-CSA 102 mg にアンモニア水 20 ml を加えて懸濁させ 1 日攪 拌した。反応後、固体を濾取しジエチルエーテルで洗浄、減圧乾燥を経て PDMAp 39.2 mg(収率 66.8 %)を得た。
NH2 OCH3 H3CO NH2 N H O O CSA DDQ CSA- CSA -H N OCH3 H3CO N H OCH3 H3CO N OCH3 H3CO OCH3 H3CO H N N H O O PDMAp-CSA H N OCH3 H3CO N OCH3 H3CO N OCH3 H3CO OCH3 H3CO H N N H O O PDMAp
+
n n H N H N Scheme 2-2. フタルイミドを含むポリ(2,5-ジメトキシアニリン)(PDMAp)の 合成スキーム2-2-5-3. PDMAp の IR スペクトル KBr 法を用いて合成した PDMAp の IR スペクトルの測定を行った。(Fig. 2-5) 1583、1509 cm-1付近にキノリド、ベンゾイドリング由来の C=C 伸縮運動のピ ークが見られ、ポリアニリン誘導体のIRスペクトルの文献値と一致した。ま た、PDMA と同様に 1276、1207 cm-1にはジメトキシアニリンの 3,6 部位由来の C-H 伸縮運動のピーク、2841 cm-1にはメトキシ由来の C-H のピークが見られた。 さらに、1650 cm-1付近にフタルイミド由来の C=O 伸縮運動のピークが見られた。 3440-3300 cm-1 にはポリアニリンの結合部とフタルイミド部分のイミンの伸縮 運動ピークが PDMA にくらべフタルイミドがある分強く出ていた。 840 cm-1にはフタルイミド部分の 1,2,3,4 置換のベンゼンの C-H 面外変角運動が みられた。 Fig. 2-5. PDMAp の IR スペクトル(KBr 法)
70
80
90
100
110
400
900
1400
1900
2400
2900
3400
3900
Wavenumber (cm
-1)
%
T
2-3. 結果と考察
2-3-1. CSA のドープによる PDMA の吸光変化
次に PDMA に対して CSA のドープによる吸光変化を測定した(Fig.2-6)。 PDMA はポリアニリンのキノリドの n-π*遷移由来のエメラルジン塩基特有 の 610 nm にピークが見られた。
PDMA に CSA をドープさせた CSAdoped-PDMA は、エメラルジン塩基のピー クが減少し、PDMA のピークに比べレッドシフトした非局在化によるポーラロ ンバンドの強いエメラルジン塩のピークが 834 nm に見られた。この変化は一般 的なポリアニリン誘導体のエメラルジン塩基の酸のドープ/脱ドープしたときの
挙動と一致している4,5)。
溶液の色合いの違いは肉眼で見ても PDMA は青色を呈し(Fig. 2-7 右)、
CSAdoped- PDMA では深緑色を呈していた(Fig. 2-7 左)。
以上のことから合成した PDMA はエメラルジン塩基の状態であると考えられ る4,7,8)。
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
1100
1000
900
800
700
600
500
400
Wavelength (nm)
A
b
s.
PDMA
CSAdoped-PDMA
Fig. 2-6. DMSO 溶液中(0.24 mM)の CSAdoped-PDMA と PDMA の吸収スペク トル
2-3-2. CSA のドープによる PDMAp の吸光変化
次に PDMAp に対して CSA のドープによる吸光変化を測定した(Fig.2-8)。 PDMAp は PDMA に比べややブルーシフトした 586 nm にポリアニリンのキノ リドの n-π*遷移由来のエメラルジン塩基特有のピークが見られた。
PDMAp に CSA をドープさせた CSAdoped-PDMAp は PDMA とほぼ同じでエ メラルジン塩基のピークが減少し、PDMAp のピークにくらべレッドシフトした 非局在化によるポーラロンバンドの強いエメラルジン塩のピークが 830 nm に見 られた。この変化は PDMA 同様に一般的なポリアニリン誘導体のエメラルジン
塩基の酸のドープ/脱ドープしたときの挙動と一致している4,5)。
溶液の色を肉眼で確認した場合、PDMA と若干の色の違いはあるが CSA がな
い場合は青(Fig. 2-9 右)、CSA をドープすることによって深緑色(Fig.2-9 左) に変化することから、合成した PDMAp もエメラルジン塩基の状態であると考え る4,7,8)。
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
1100
1000
900
800
700
600
500
400
Wavelength (nm)
A
b
s.
PDMAp
CSAdoped-PDMAp
Fig. 2-8. DMSO 溶液中(0.24 mM)の CSAdoped-PDMAp と PDMAp の吸収スペ クトル
2-3-3. PDMA と PDMAp の溶解性
PDMA、PDMAp ともに常温(25℃)において水やクロロホルムや THF などの 低沸点溶媒にはほぼ溶解せず、DMSO や NMP などの極性の高沸点溶媒にのみ可 溶だった。
しかし、PDMAp の方は PDMA に比べ若干溶解性が悪くなった。これは PDMAp の含まれるフタルイミドの溶解性がジメトキシアニリンよりも悪いため、フタ ルイミドの影響により溶解性が悪くなったと考える。
Table. 2-1. PDMA と PDMAp の溶解性(25℃)
水 THF クロロホルム DMSO NMP
PDMA × × × ○ ○
PDMAp × × × △ △
2-4. まとめ 2,5-ジメトキシアニリンのみを重合させた PDMA と 3-アミノフタルイミド: 2,5-ジメキシアニリン(1:4)の比率で重合させた PDMAp の合成を行った。合 成した PDMA と PDMAp はエメラルジン塩基の状態ではおよそ 20 nm 極大吸収 波長にずれが見られたが、CSA をドープさせたエメラルジン塩の状態ではほぼ 同じ位置に極大吸収波長が見られた。このことから PDMA、PDMAp ともにアニ オンを添加することにより吸光変化を示すのでアニオンセンシングの可能性が みられた。また、エメラルジン塩の状態でのピークがほぼ同じことから PDMA、 PDMAp のセンシング性能の比較が可能ではないかと考える。
PDMA、PDMAp ともに DMSO に可溶であるが、PDMAp の方が、若干溶解性 が悪く、溶けるまでに PDMA よりも時間がかかった。これは原料で使用した 3-フタルイミドが難溶であるため、フタルイミドを含むことで PDMA よりも溶解 性が悪くなったためと思う。また収量も PDMAp のほうが低いため重合も PDMA よりも進みづらいのではないかと考える。収量の減少、溶解性の悪化などとあ わせて考えると 3-アミノフタルイミド単体でのポリアニリン誘導体の合成は困 難であると考える。
DMSO と水の混合溶媒については水の比率が多いと PDMA、PDMAp ともに沈
殿してしまい、また、水溶液中では分子同士の水素結合が阻害されやすいこと から、アデニン誘導体とフタルイミドの水素結合による影響を見るためには水 の比率を極力少ない状態(DMSO:水=9:1 程度の状態)で測定しなければな らないと考える。
2-5. 参考文献
1)緒方直哉編、導電性高分子 講談社(1994)p75.
2)Lihong H., Jun H., Le L., Xin W., Peibiao Z., Xiabin J., Xianhong W., Xuesi C., P. I. Lelkesc, A. G. MacDiarmidd, Yen W., Biomaterials, 28, (2007) 1741.
3)倉本憲幸著、初めての導電性高分子工業調査会、(2002)p57.
4)I. D. Norris, L. A. P. Kane-Maguire, and G. G. Wallace, Macromolecules, 33, (2000), 3237.
5)T. Hino, T. Kumakura, N. Kuramoto, Polymer, 47, (2006) 5295. 6)H. Lin, and S. Chen, Macromolecules, 33, (2000) 8117.
7)G.Yuan, and N. Kuramoto, Macromolecules, 35, (2002) 9773.
8)R. Nagarajan, W. Liu, J. Kumar, S.K. Tripathy, Macromolecules, 34, (2001) 3921. 9)J.D. Watson, F.H.C. Crick, Nature, 171, (1953) 737.
第 3 章 フ タル イミ ド を含 むポ リ ( 2,5- ジメ トキ シ アニ リン )
(PDMAp)を用いた ATP センシングの性能評価
3-1. 緒言 アデノシン誘導体は生体内でさまざまな働きを担っており、その簡便なセン シング法の開発は、医学的、生物学的に重要な課題で、多くの研究がなされて いる。特にアデノシン 5´-3 リン酸(ATP)は生体内でエネルギー輸送、代謝中 間体の合成や小さな前駆体分子からの高分子の合成、濃度勾配に逆らっての物 質輸送、神経系統などのシグナル伝達、酵素反応の触媒など多種多様に使われ ている 1-4)。その他の核酸誘導体やリン酸基の数の違うアデノシン 5´-2 リン酸 (ADP)やアデノシン 5´-1 リン酸(AMP)等と比較して、特異的かつ簡便に 検出できるセンサーの研究は重要な課題である5-7)。ATP センサーの研究は様々 されておりルシフェリン/ルシフェラーゼを用いた酵素反応による発光を利用し たものや、ケミカルセンサーではセンサー素子の自己消光やエキシマー蛍光を 利用したものや 8-10)、金属イオンを配位したもの 11)、高分子ではポリピロール などのπ共役系高分子を利用したもの12,13)など様々ある。 π共役系ポリマーは自身の性質によって光電気的、化学的センシングデバイ スとして幅広く研究されている。エメラルジン塩基の状態のポリアニリンは前 述したとおりアニオンをドープ/脱ドープによって電気的に導電性に変化するだ けではなく、その色にも変化が見られるため電気化学的センサーだけではなく、 色の変化による吸光センサーへの応用が期待できる。 第 3 章では第 2 章で合成したフタルイミドを含むポリアニリン誘導体 PDMAp の ATP に対する吸光センサーへの応用を目的として、核酸誘導体を加えたとき の PDMAp の吸光度変化の測定を行なった。PDMAp は Fig. 3-1 のようにフタル イミドの部分で ATP のアデニン部分と水素結合することが予想され、またリン 酸部分と主鎖のイミン部分とで静電的相互作用によりアニオンがドープされエ メラルジン塩基からエメラルジン塩に変化し、その吸光も変化するのではない かと推測される。Fig. 3-1. PDMAp と ATP 間における相互作用 N N N N NH2 O OH OH H H H H O P O O -O P O -O O P O -O O -H N OCH3 H3CO N H OCH3 H3CO N H OCH3 H3CO OCH3 H3CO H N N H O O H N n
3-2. 実験 3-2-1. 試薬
アデノシン 5’-3 リン酸二ナトリウム水和物(ATP)(Adenosine5’-triphosphate
disodium salt hydrate)、分子量:551.14、アルドリッチ
アデノシン 5’-2 リン酸ナトリウム(ADP)(Adenosine5’-diphosphate sodium
salt)、分子量:427.20、Fluka
アデノシン 5’-1 リン酸二ナトリウム(AMP)(Adenosine5’-monophosphate
sodium salt)、分子量:391.18、Fluka
チミジン 5’-3 リン酸ナトリウム(TTP)(Thymidine5’-triphosphate disodium salt)、分子量:504.15、Fluka シチジン 5’-3 リン酸二ナトリウム(CTP)(Cytidine5’-triphosphate disodium salt)、分子量:527.12、Fluka グアノシン 5’-3 リン酸ナトリウム(GTP)(Guanosine5’-triphosphate disodium salt)、分子量:523.18、Fluka 3-2-2. 装置 吸収スペクトルは、JASCO UV-Vis 分光光度計 V-530 を使用した。 3-2-3. 測定 モノマーユニット濃度を用いて、PDMA および PDMAp の吸収スペクトルを 測定した。Scheme 2-1 および Scheme 2-2 の構造式からモノマーユニットあたり の平均分子量を計算し、PDMA および PDMAp のモノマーユニット濃度を求め た。
3-3. 結果と考察
3-3-1. ATP 添加による PDMAp の吸光変化
まず、フタルイミドを含む PDMAp に ATP を添加したときの吸光変化の測定 を行った(Fig. 3-2)。
PDMAp(0.24 mM)の DMSO-水混合溶媒(DMSO-H2O(9:1,v/v))中に、ATP を 0
mM から 6 mM の間で添加したところ、PDMAp のエメラルジン塩基由来の 586 nm のピークがレッドシフトしながら減少していき 800 nm 付近の吸光が上昇し た。これはエメラルジン塩基の状態だった PDMAp にアニオンを含む ATP を添 加することによって、予想通り少しずつアニオンが主鎖のイミンの部分に近づ くことによって完全にドープされるまではいかないものの影響を与えているた めだと推測される。この結果、完全にドープされエメラルジン塩になった場合 は 834 nm 付近にピークが出現するのに対し、若干ブルーシフトした 800 nm 付 近の吸光度が大きく変化した。 次に、種々の ATP 濃度を添加したときの 800 nm の吸光度を A 、ATP 未添加 の 800 nm の吸光度を A0として、未添加と添加時の吸光度の差⊿Abs.(=A-A0) を ATP 濃度に対しプロットしたところ、1.5 mM 付近まで定量的に吸光度が増加 したが、それ以降の濃度では傾きが緩やかな 2 段階的なものとなった(Fig. 3-3)。 これらの結果から、ATP の濃度変化によって吸光度が定量的に変化することか ら、PDMAp は ATP のセンシングができる可能性が示唆された。 さらに他のアデノシン誘導体の添加による影響を調べるために ADP、AMP を 添加したときの吸光度変化の測定を行った。
0
0.4
0.8
500
600
700
800
900
Wavelength (nm)
A
b
s.
ATP(mM)
6.0
4.5
3
1.5
0.5
0.2
Fig. 3-2. ATP の濃度変化による PDMAp(0.24 mM)の吸光変化 (DMSO-H2O
0
0.1
0.2
0
2
4
6
8
ATP濃度 (mM)
⊿
A
b
s.
Fig. 3-3. ATP 濃度変化における PDMAp (0.24 mM)の 800 nm の吸光度変化 (DMSO-H2O (9:1, v/v))
3-3-2. ATP 以外のアデノシン誘導体による PDMAp の吸光度変化
次に PDMAp に ATP 以外のアデノシン誘導体である ADP と AMP を添加した ときの吸光変化を ATP 添加の場合を比較した(Fig.3-4)。
ATP を添加した時に 800 nm の吸光度変化の勾配が緩やかになる 1.5 mM のア
デノシン誘導体を PDMAp(0.24 mM)の DMSO-水混合溶媒(DMSO-H2O(9:1, v/v))
中に添加した。アデノシン誘導体濃度を添加したときの 800 nm の吸光度を A 、 アデノシン誘導体未添加の 800 nm の吸光度を A0として未添加と添加時の吸光 度の差⊿Abs.(=A-A0)として比較したところ、リン酸が 2 つ結合した ADP、 リン酸が 1 つの AMP ともにほぼ変化が見られなかった。これはリン酸基が ATP にくらべ短いために主鎖の部分に近づくことができなかったためではないかと 考える。 さらにアデノシンの部分の影響を検討するため、ほかの核酸誘導体でリン酸 を 3 つ持つ TTP、CTP、 GTP を添加したときの吸光度変化を同様に測定して核 酸誘導体の違いによる変化を調査した。
ATP
ADP
AMP
-0.02
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
⊿
A
b
s
.
Fig. 3-4. アデノシン誘導体(1.5 mM)の違いによる PDMAp(0.24 mM)の 800 nm の吸光度変化(DMSO-H2O(9:1, v/v))3-3-3. アデノシン以外の核酸誘導体による PDMAp の吸光度変化
次にアデノシン以外の核酸誘導体であるチミジン、シチジン、グアノシンに リン酸の 3 つ結合した TTP、CTP、GTP について同様の測定を行った(Fig. 3-5)。
PDMAp(0.24 mM)の DMSO-水混合溶媒(DMSO-H2O(9:1, v/v))中に 1.5 mM の
核酸誘導体を添加し、そのときの 800 nm の吸光度を A 、核酸誘導体未添加の 吸光度を A0として未添加と添加時の吸光度の差⊿Abs.(=A-A0)として比較 を行った。CTP には変化は見られるものの、TTP、GTP には変化が見られず、 CTP の変化も ATP のときのほぼ半分くらいとなった。このことから PDMAp は ATP を特異的に認識できる可能性が示唆された。 これらの結果からアデニンと水素結合が期待できる PDMAp のフタルイミド の部分が影響している可能性が考えられるが、その影響の有無についてフタル イミドを含まない PDMA で同様に測定し、フタルイミドの影響の調査を行った。
CTP
TTP
GTP
ATP
-0.02
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
⊿
A
b
s.
Fig. 3-5. 核酸誘導体(三リン酸)(1.5 mM)による PDMAp(0.24 mM)の 800nm の吸光度変化(DMSO-H2O(9:1, v/v))3-3-4. PDMA と PDMAp のフタルイミド基の有無による吸光度変化
フタルイミドの有無による吸光度変化の違いについて調査するために PDMA で同様の測定を行った(Fig3-6)。
PDMAp で変化のあった ATP と CTP を用いて PDMA の吸光度変化を見たとこ ろ、PDMAp と同じように PDMA のエメラルジン塩基由来の 610 nm のピークが レッドシフトしながら減少していき 800 nm 付近のピークが上昇した。そこで、
1.5 mM の核酸誘導体を添加したときの 800 nm の吸光度を A、核酸誘導体未添加
の吸光度を A0 として未添加と添加時の吸光度の差⊿Abs.(=A-A0)として
PDMAp と PDMA の比較を行った。その結果、ATP 添加では PDMAp と PDMA では倍近くの変化の違いが見られたのに対して、CTP の場合では ATP の場合に 比べほんの少しの変化であった。 これにより 800 nm 付近の変化ではフタルイミドとアデニンとの水素結合が大 きくかかわっていることが示唆され、フタルイミドを含むことによって ATP を 特異的に認識する色の変化によるセンサーへの応用の可能性が期待できる。
ATP
CTP
0
0.02
0.04
0.06
0.08
Δ
A
b
s.
PDMAp
PDMA
Fig. 3-6. ATP, CTP 添加(1.5 mM)による PDMA(0.24 mM)と PDMAp(0.24 mM)
3-4. まとめ
フタルイミドを含むポリアニリン誘導体 PDMAp に種々の核酸誘導体を添加 したときの PDMAp の吸光度変化を測定した。ATP を添加したとき PDMAp のエ メラルジン塩基の部分のピークが減少し、新たに 800 nm 付近の吸光が上昇した。 これはポリアニリン主鎖の部分のイミンの部分と ATP のリン酸基が静電的相互 作用を起こし、イミンにアニオンがドープされたエメラルジン塩に近い状態に なったためだと考えられる。その他の核酸誘導体である ADP、AMP、CTP、TTP、 GTP も同様に測定したところ CTP では変化が見られたものの、ATP よりも少な い変化であった。また、その他の核酸誘導体では変化が見られなかった。これ により PDMAp の吸光度には核酸誘導体の核酸部分の種類とリン酸基の長さが 影響すると考えられ、また ATP の変化が大きかったことからアデニンと水素結 合が予想されるフタルイミドの影響も大きいのではないかと考えられる。 フタルイミドの有無による吸光度変化の違いを調査するためにフタルイミド を含まない PDMA を用いて PDMAp で変化のあった ATP と CTP を添加したとき の変化の測定を行ったところ、ATP の場合は PDMAp の場合に比べほぼ半分くら いの変化にとどまり、CTP の場合の変化は PDMAp のときに比べ若干低いだけ となった。このことによって、PDMAp の吸光度変化にフタルイミドとアデニン の水素結合も大きく影響があり、ATP 添加における PDMAp の吸光変化はフタル イミドとアデニンの水素結合と PDMAp 主鎖にあるイミンとリン酸基との静電 的相互作用によって起こっているということが示唆された。 以上のことより PDMAp は ATP を特異的に認識し色が変化するセンサーとし ての可能性が示唆された。今回は溶液中で測定を行なったが、高分子である PDMAp の特性を活かして、基盤やセル上にフィルム化するなどによって ATP 溶液をたらして吸光度測定するなどの簡便なセンサーへの応用も期待できる。
3-5. 参考文献
1) A. Kornberg, J. Biol. Chem., 263, (1988) 1.
2) X. Shen, G. Mizuguchi, A. Hamiche, C. Wu, Nature , 406, (2000) 541. 3) F.S. Stekhoven, Biochem. Biophys. Res. Commum., 47, (1972) 7. 4) C.F. Higgins, I.D. Hiles, G.P.C. Salmond, Nature, 323, (1986) 448. 5) N. Singh, D.O. Jang,Tetrahedron Lett., 52, (2011) 5094.
6) S. Marbumrung, K. Wongravee, V. Ruangpornvisuti,G.Tumcharern, T. Tuntulani, B. Tomapatanaget, Sens. Actuators. B.,171–172, (2012) 969.
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10) Z. Xu, N. Jiten Singh, J. Lim, J. Pan,H. N. Kim, S. Park, K. S. Kim and J. Yoon, J.
Am. Chem. Soc., 131, (2009) 15528.
11) S. Li, W. Yuan, C. Zhu and J. Xu, Eur. J. Org. Chem., (2010) 1921.
12) Z. Yao, X. Feng, W. Hong, C. Li and G. Shi, Chem. Commun., (2009) 4696. 13) L. An, Y. Tang, F. Feng, F. He and S. Wang, J. Mater. Chem., 17, (2007) 4147.
第 4 章 ポリ(ヘテロアリレンメチン)構造を有するπ共役高分子
電解質の合成
4-1. 緒言 1章で記述したとおり、新しいπ共役系高分子はさまざまな分野での応用が 期待されており多くの研究がなされている。ただし、その強固な構造から難溶 性になりやすく加工に大量の溶媒を必要とすることが多い。2 章でも述べたとお りポリアニリンでは側鎖に様々な置換基を付加させて溶解性の向上を図ったり、 界面活性剤を混ぜて合成し水溶性にしたりするなどの試みがなされている1-5)。 ポリ(ヘテロアリレンメチン)は Fig. 4-1 で表されるようなアロマティック構 造とキノイド構造をメチン結合でつないだ基本構造を持つバンドギャップの小 さいπ共役系高分子である 6) 。ポリ(ヘテロアリレンメチン)誘導体はピロー ルやチオフェンなどのヘテロ環と芳香族アルデヒドから酸触媒を用いて酸化脱 水反応によって簡単に合成することができる 7,8)。また芳香族アルデヒドに様々 な化合物を使用できることら簡単にさまざまな機能性を付与したπ共役系高分 子の合成を行うことができる。そのため、光電子工学、非線形光学材料として 研究がされている9) 。 第 4 章では、ポリ(ヘテロアリレンメチン)の水溶液中での利用や水溶液か らの加工を可能にするために、芳香族アルデヒドにピリジニウム塩を用いたカ チオン型ポリ(へテロアリレンメチン)(WSCP)、スルホン酸塩を用いたアニオ ン型ポリ(へテロアリレンメチン)(WSAP)、または糖構造を有した非イオン性 性ポリ(へテロアリレンメチン)(WSNP-Sug)、ピリジニウム塩とスルホン酸塩 の両方を用いた両性ポリ(ヘテロアリレンメチン)(WSACP)などのπ共役高 分子電解質の合成を試みた。さらに、WSCP の側鎖に疎水性部分を付加するこ とによる WSCP の物性への影響を確認する為に、芳香族アルデヒドとしてピリ ジニウム塩に加えて、フェニル基、ブトキシフェニル基、ヘキシロキシフェニ ル基を加えた WSCP 誘導体(WSCP-Bez、WSCP-Bu、WSCP-Hex)と蛍光物質でる。また、本論文では水溶液での利用に着目し、水溶液中での電荷を帯びたタ ンパク質や DNA などと相互作用を起こすことによって吸光や蛍光に変化を及ぼ す可能性が期待できる。
N
H
N
H
R
R
n Fig. 4-1. ポリへテロアリレンメチンの基本構造N H NH N N CH3 CH3 N H NH BS- BS -0.8 0.2 R R BS -N H N H N N CH3 CH3 BS -n N H NH n O H OH H H H OH H O HO O H OH H H H OH H O HO Na+ Na+ N H N H -O 3S -O3S n N H NH N N CH3 CH3 BS -BS -0.5 Na+ Na+ N H NH -O 3S -O3S 0.5 WSCP WSAP WSACP WSCP誘導体 WSCP-Bez : R = WSCP-Bu : R = WSCP-Hex : R = O(CH2)3CH3 WSCP-Pyre : R = BS- :-O 3S O(CH2)5CH3
4-2. 実験 4-2-1. 試薬
ピロール(Pyrrole) 分子量:67.09、東京化成工業
4- ホ ル ミ ル -1- メ チ ル ピ リ ジ ニ ウ ム ベ ン ゼ ン ス ル ホ ン 酸 塩 (4-Formyl-1-methylpridinium benzenesulfonate) 分子量:279.31、Fluka Analytical ベンズアルデヒド(Benzaldehyde)分子量:106.12、ナカライテクス 4-ブトキシベンズアルデヒド(4-Butoxybenzaldehyde)分子量:178.23、東京 化成工業 4-(ヘキシロキシ)ベンズアルヒド(4-(Hexyloxy)benzaldehyde)分子量:206.29、 東京化成工業 ピレンカルボキシアルデヒド(1-Pyrenecarboxaldehyde)分子:230.27、Aldrich 2-ホルミルフェニルスルホン酸ナトリウム塩(2-Sulfobenzaldehyde Sodium Salt)分子量 208.16、東京化成工業 ホ ル ミ ル フ ェ ニ ル - β -D- ア ロ ピ ラ ノ ー ス ( 4-Formylphenyl- β -D-Allopyranoside)分子量:284.26、東京化成工業
p-トルエンスルホン酸水和物(p-Tolenesulfonic acid monohydrate:TOSH)分 子量 190.22、Sigma-Aldrich 2,3- ジ ク ロ ロ -5,6- ジ シ ア ノ -1,4- ベ ン ゾ キ ノ ン (2,3-Dichloro-5,6-dicyano-1,4-benzoquinone) 分子量:227.00、東京化成工業 4-2-2. 測定 IR スペクトルは JASCO より販売されている ClearDisk、ClearDisk 成型器、 miniKBr プレート(3×3)を用いて、KBr プレート法により錠剤を形成して、 JASCO フーリエ変換赤外分光光度計 FT/IR-4100 を使用して測定を行った。 吸収スペクトルは JASCO UV-Vis 分光光度計 V-530 を使用して、蛍光スペクト ルは JASCO 蛍光分光光度計 FP6500 を使用して、すべて水を溶媒として用いて 測定を行った。高分子の濃度はメチン部位に付加されている側鎖の濃度とした。 また 2 種類の側鎖のついたものはその比率から平均した濃度とした。
4-2-3. ピリジニウム塩を含むカチオン型ポリ(へテロアリレンメチン)(WSCP) 4-2-3-1. WSCP の合成
最初にピロールとピリジニウム塩だけからなる正電荷を帯びた WSCP を合成
した(Scheme 4-1)。合成は W. Chen et al. (1995)の方法を参考にして行った7,8)。
4-ホルミル-1-メチルピリジニウムベンゼンスルホン酸塩 475 mg(1.80 mmol)を DMF 4 ml に温めながら溶解させ室温に戻した。そこにピロール 128 μl(1.80 mmol)を加え攪拌し、さらに酸触媒である p-トルエンスルホン酸水和物 34 mg (0.180 mmol)を加え、室温で 1 晩攪拌した。合成完了後、溶液をイソプロピル アルコール 50 ml 中に落として攪拌して再沈殿を行い、遠心分離で上澄み液を除 去して固体沈澱させ、その固体を数回イソプロピルアルコールで洗浄し、その 後減圧乾燥を行って WSCP の中間体 498 mg を得た。 次に WSCP 中間体を完全に酸化させるために DDQ によって酸化反応を行った。 WSCP 中間体 300 mg(モノマーユニット換算 0.920 mmol)を DMF5 ml に溶解さ せ、そこに THF 2 ml に溶かした DDQ 204 mg(0.920 mmol)を少しずつ加えて いき、加え終わった後、室温で 1 晩攪拌した。攪拌終了後、溶液をアセトン 100 ml に少しずつ落としていき再沈澱を行い、遠心分離で上澄み液を除去して固体 を沈澱させ、その固体を数回アセトンで洗浄し、その後減圧乾燥を行って WSCP 225 mg(収率 64.3 %)を得た。
N H DDQ N C CH3 O H BS -BS -TOSH N H N H N N CH3 CH3 BS -BS -N H NH N N CH3 CH3 SO3 -BS -+ DMF RT 12h n n BS- : DMF RT 12h Scheme 4-1. WSCP の合成スキーム
4-2-3-2. WSCP の IR スペクトル9) KBr プレート法にて、IR スペクトルの測定を行った(Fig.4-3)。 主鎖の部分に着目すると、ポリ(へテロアリレンメチン)誘導体の IR スペク トルの文献値と同様のところに 1637、1506、1276 cm-1に主鎖由来キノイド、ベ ンゼノイドリングのピークが見られ、762 cm-1にピロール由来 C-H 変角振動(面 外)のピークと 3430 cm-1にピロール由来 N-H 伸縮振動のピークが確認された9)。 側鎖の部分に着目すると、1476、1446 cm-1にピリジニウム由来 C=C リング伸 縮振動のピークと 3129-3057 cm-1に芳香族由来 Ar-H 伸縮振動のピークが確認で きた。