0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
1100 1000
900 800
700 600
500 400
Wavelength (nm)
Abs.
2-3-2. CSAのドープによるPDMApの吸光変化
次にPDMApに対してCSAのドープによる吸光変化を測定した(Fig.2-8)。
PDMApはPDMAに比べややブルーシフトした586 nmにポリアニリンのキノ
リドのn-π*遷移由来のエメラルジン塩基特有のピークが見られた。
PDMApに CSAをドープさせた CSAdoped-PDMApはPDMA とほぼ同じでエ メラルジン塩基のピークが減少し、PDMApのピークにくらべレッドシフトした 非局在化によるポーラロンバンドの強いエメラルジン塩のピークが830 nmに見 られた。この変化はPDMA同様に一般的なポリアニリン誘導体のエメラルジン 塩基の酸のドープ/脱ドープしたときの挙動と一致している4,5)。
溶液の色を肉眼で確認した場合、PDMAと若干の色の違いはあるがCSAがな い場合は青(Fig. 2-9右)、CSAをドープすることによって深緑色(Fig.2-9 左)
に変化することから、合成したPDMApもエメラルジン塩基の状態であると考え る4,7,8)。
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8
1100 1000
900 800
700 600
500 400
Wavelength (nm)
A b s.
PDMAp
CSAdoped-PDMAp
Fig. 2-8. DMSO溶液中(0.24 mM)のCSAdoped-PDMApとPDMApの吸収スペ クトル
2-3-3. PDMAとPDMApの溶解性
PDMA、PDMApともに常温(25℃)において水やクロロホルムやTHFなどの
低沸点溶媒にはほぼ溶解せず、DMSOやNMPなどの極性の高沸点溶媒にのみ可 溶だった。
しかし、PDMApの方はPDMAに比べ若干溶解性が悪くなった。これはPDMAp
の含まれるフタルイミドの溶解性がジメトキシアニリンよりも悪いため、フタ ルイミドの影響により溶解性が悪くなったと考える。
Table. 2-1. PDMAとPDMApの溶解性(25℃)
水 THF クロロホルム DMSO NMP
PDMA × × × ○ ○
PDMAp × × × △ △
×:不溶 △:若干の時間がかかった後に可溶 ○:可溶
2-4. まとめ
2,5-ジメトキシアニリンのみを重合させた PDMA と 3-アミノフタルイミド:
2,5-ジメキシアニリン(1:4)の比率で重合させたPDMApの合成を行った。合
成したPDMAとPDMApはエメラルジン塩基の状態ではおよそ20 nm極大吸収
波長にずれが見られたが、CSA をドープさせたエメラルジン塩の状態ではほぼ 同じ位置に極大吸収波長が見られた。このことからPDMA、PDMApともにアニ オンを添加することにより吸光変化を示すのでアニオンセンシングの可能性が みられた。また、エメラルジン塩の状態でのピークがほぼ同じことからPDMA、
PDMApのセンシング性能の比較が可能ではないかと考える。
PDMA、PDMApともにDMSOに可溶であるが、PDMApの方が、若干溶解性
が悪く、溶けるまでにPDMAよりも時間がかかった。これは原料で使用した 3-フタルイミドが難溶であるため、フタルイミドを含むことでPDMAよりも溶解 性が悪くなったためと思う。また収量もPDMApのほうが低いため重合もPDMA よりも進みづらいのではないかと考える。収量の減少、溶解性の悪化などとあ わせて考えると 3-アミノフタルイミド単体でのポリアニリン誘導体の合成は困 難であると考える。
DMSOと水の混合溶媒については水の比率が多いとPDMA、PDMApともに沈 殿してしまい、また、水溶液中では分子同士の水素結合が阻害されやすいこと から、アデニン誘導体とフタルイミドの水素結合による影響を見るためには水 の比率を極力少ない状態(DMSO:水=9:1 程度の状態)で測定しなければな らないと考える。
2-5. 参考文献
1)緒方直哉編、導電性高分子 講談社(1994)p75.
2)Lihong H., Jun H., Le L., Xin W., Peibiao Z., Xiabin J., Xianhong W., Xuesi C., P. I.
Lelkesc, A. G. MacDiarmidd, Yen W., Biomaterials, 28, (2007) 1741.
3)倉本憲幸著、初めての導電性高分子工業調査会、(2002)p57.
4)I. D. Norris, L. A. P. Kane-Maguire, and G. G. Wallace, Macromolecules, 33, (2000), 3237.
5)T. Hino, T. Kumakura, N. Kuramoto, Polymer, 47, (2006) 5295.
6)H. Lin, and S. Chen, Macromolecules, 33, (2000) 8117.
7)G.Yuan, and N. Kuramoto, Macromolecules, 35, (2002) 9773.
8)R. Nagarajan, W. Liu, J. Kumar, S.K. Tripathy, Macromolecules, 34, (2001) 3921.
9)J.D. Watson, F.H.C. Crick, Nature, 171, (1953) 737.
第
3
章 フ タ ル イ ミ ド を 含 む ポ リ (2,5-
ジ メ ト キ シ ア ニ リ ン )(
PDMAp
)を用いたATP
センシングの性能評価3-1. 緒言
アデノシン誘導体は生体内でさまざまな働きを担っており、その簡便なセン シング法の開発は、医学的、生物学的に重要な課題で、多くの研究がなされて いる。特にアデノシン5´-3リン酸(ATP)は生体内でエネルギー輸送、代謝中 間体の合成や小さな前駆体分子からの高分子の合成、濃度勾配に逆らっての物 質輸送、神経系統などのシグナル伝達、酵素反応の触媒など多種多様に使われ ている 1-4)。その他の核酸誘導体やリン酸基の数の違うアデノシン5´-2 リン酸
(ADP)やアデノシン 5´-1 リン酸(AMP)等と比較して、特異的かつ簡便に 検出できるセンサーの研究は重要な課題である5-7)。ATPセンサーの研究は様々 されておりルシフェリン/ルシフェラーゼを用いた酵素反応による発光を利用し たものや、ケミカルセンサーではセンサー素子の自己消光やエキシマー蛍光を 利用したものや 8-10)、金属イオンを配位したもの 11)、高分子ではポリピロール などのπ共役系高分子を利用したもの12,13)など様々ある。
π共役系ポリマーは自身の性質によって光電気的、化学的センシングデバイ スとして幅広く研究されている。エメラルジン塩基の状態のポリアニリンは前 述したとおりアニオンをドープ/脱ドープによって電気的に導電性に変化するだ けではなく、その色にも変化が見られるため電気化学的センサーだけではなく、
色の変化による吸光センサーへの応用が期待できる。
第3章では第2章で合成したフタルイミドを含むポリアニリン誘導体PDMAp の ATPに対する吸光センサーへの応用を目的として、核酸誘導体を加えたとき
のPDMApの吸光度変化の測定を行なった。PDMApはFig. 3-1のようにフタル
イミドの部分で ATPのアデニン部分と水素結合することが予想され、またリン 酸部分と主鎖のイミン部分とで静電的相互作用によりアニオンがドープされエ メラルジン塩基からエメラルジン塩に変化し、その吸光も変化するのではない かと推測される。
Fig. 3-1. PDMApとATP間における相互作用
N
N N
N NH2
O
OH OH
H H
H H
O P
O O -O
P O -O
O P O -O O -HN
OCH3
H3CO
NH OCH3
H3CO
NH OCH3
H3CO
OCH3
H3CO HN
NH
O O
HN
n
3-2. 実験 3-2-1. 試薬
アデノシン5’-3リン酸二ナトリウム水和物(ATP)(Adenosine5’-triphosphate disodium salt hydrate)、分子量:551.14、アルドリッチ
アデノシン 5’-2 リン酸ナトリウム(ADP)(Adenosine5’-diphosphate sodium salt)、分子量:427.20、Fluka
アデノシン 5’-1 リン酸二ナトリウム(AMP)(Adenosine5’-monophosphate sodium salt)、分子量:391.18、Fluka
チミジン 5’-3 リン酸ナトリウム(TTP)(Thymidine5’-triphosphate disodium salt)、分子量:504.15、Fluka
シチジン 5’-3 リン酸二ナトリウム(CTP)(Cytidine5’-triphosphate disodium salt)、分子量:527.12、Fluka
グアノシン5’-3リン酸ナトリウム(GTP)(Guanosine5’-triphosphate disodium salt)、分子量:523.18、Fluka
3-2-2. 装置
吸収スペクトルは、JASCO UV-Vis分光光度計V-530を使用した。
3-2-3. 測定
モノマーユニット濃度を用いて、PDMA および PDMAp の吸収スペクトルを 測定した。Scheme 2-1およびScheme 2-2の構造式からモノマーユニットあたり の平均分子量を計算し、PDMA および PDMAp のモノマーユニット濃度を求め た。
3-3. 結果と考察
3-3-1. ATP添加によるPDMApの吸光変化
まず、フタルイミドを含む PDMApに ATPを添加したときの吸光変化の測定 を行った(Fig. 3-2)。
PDMAp(0.24 mM)のDMSO-水混合溶媒(DMSO-H2O(9:1,v/v))中に、ATPを0
mMから6 mMの間で添加したところ、PDMApのエメラルジン塩基由来の586
nmのピークがレッドシフトしながら減少していき 800 nm付近の吸光が上昇し た。これはエメラルジン塩基の状態だった PDMApにアニオンを含む ATPを添 加することによって、予想通り少しずつアニオンが主鎖のイミンの部分に近づ くことによって完全にドープされるまではいかないものの影響を与えているた めだと推測される。この結果、完全にドープされエメラルジン塩になった場合
は834 nm付近にピークが出現するのに対し、若干ブルーシフトした800 nm付
近の吸光度が大きく変化した。
次に、種々のATP濃度を添加したときの800 nmの吸光度をA 、ATP未添加 の800 nmの吸光度をA0として、未添加と添加時の吸光度の差⊿Abs.(=A-A0) をATP濃度に対しプロットしたところ、1.5 mM付近まで定量的に吸光度が増加 したが、それ以降の濃度では傾きが緩やかな2段階的なものとなった(Fig. 3-3)。
これらの結果から、ATP の濃度変化によって吸光度が定量的に変化することか ら、PDMApはATPのセンシングができる可能性が示唆された。
さらに他のアデノシン誘導体の添加による影響を調べるためにADP、AMPを 添加したときの吸光度変化の測定を行った。
0 0.4 0.8
500 600 700 800 900
Wavelength (nm)
Abs.
ATP(mM) 6.0 4.5 3 1.5 0.5 0.2
Fig. 3-2. ATP の濃度変化による PDMAp(0.24 mM)の吸光変化 (DMSO-H2O (9:1,v/v))
0 0.1 0.2
0 2 4 6 8
ATP濃度 (mM)
⊿Abs.
Fig. 3-3. ATP 濃度変化における PDMAp (0.24 mM)の 800 nm の吸光度変化 (DMSO-H2O (9:1, v/v))
3-3-2. ATP以外のアデノシン誘導体によるPDMApの吸光度変化
次にPDMApにATP以外のアデノシン誘導体であるADPとAMPを添加した
ときの吸光変化をATP添加の場合を比較した(Fig.3-4)。
ATPを添加した時に800 nmの吸光度変化の勾配が緩やかになる1.5 mMのア デノシン誘導体をPDMAp(0.24 mM)のDMSO-水混合溶媒(DMSO-H2O(9:1, v/v)) 中に添加した。アデノシン誘導体濃度を添加したときの800 nmの吸光度をA 、 アデノシン誘導体未添加の 800 nmの吸光度を A0として未添加と添加時の吸光 度の差⊿Abs.(=A-A0)として比較したところ、リン酸が2つ結合したADP、
リン酸が1つのAMPともにほぼ変化が見られなかった。これはリン酸基がATP にくらべ短いために主鎖の部分に近づくことができなかったためではないかと 考える。
さらにアデノシンの部分の影響を検討するため、ほかの核酸誘導体でリン酸
を3つ持つTTP、CTP、 GTPを添加したときの吸光度変化を同様に測定して核
酸誘導体の違いによる変化を調査した。
ATP
ADP
AMP
-0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
⊿Abs.
Fig. 3-4. アデノシン誘導体(1.5 mM)の違いによるPDMAp(0.24 mM)の800 nm の吸光度変化(DMSO-H2O(9:1, v/v))