青年期前期の親へのネガティブな感情表出に関する研究 [ PDF
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(2) (1)中学生の抑うつ感. は、「c.受容」<「b.統制」=「e.反応なし」であった。. 学年×性別の2要因分散分析をおこなったところ、. b も e もどちらも、子どもが働きかけても「聞いてもら. 学年の主効果が有意(F=5.39(2,331),P<.01)で、抑. えない」「手応えがない」という点では共通している。. うつ尺度得点は2年<3年であった。3年生は、進路. つまり、親が耳を傾けてくれるかそうでないかが、抑う. 決定の時期であり、受験という初めての難関に挑む学年. つ感を左右していることが考えられる。また、SCT2(態. であり、進路を巡っての迷いや、自分の将来への展望、. 度による表出) については有意差がなかった。嫌な態. それに見合うような学力・内申書など、自分と向き合う. 度として表現する場合は、言葉で伝える場合と異なり、. ことを余儀なくされる。個人的な要因以外にも、一般的. 親の対応を特に求めていない可能性が考えられた。. に中学3年生はストレスフルな生活を送っているもの. ②ネガティブな感情表出との関連. と思われ、抑うつ感も高くなっていると考えられた。1. SCT1、SCT2 のそれぞれの回答における感情表出得点. 年生は、今回の調査は 11 月に実施しているため、学校. との関連を検討したところ、どちらにおいても有意な差. 生活にも慣れてきたころと考えられ、他学年との間に有. は得られなかった。中学生では、日頃の親の対応を予測. 意な差は出なかった可能性がある。2年生は最も抑うつ. して、自分のネガティブな感情を感じたり感じなかった. 感が低い学年であった。中学校にも慣れ、後輩もでき、. り、あるいは表出したり制御したりするということはな. 学校の中である程度の居場所を築く時期である。受験に. いと考えられた。. はまだ時間があり、環境によるストレッサーが減少して. (4)ネガティブな感情表出と抑うつ感との関連. いると思われた。. 感情表出項目の①②の得点の組み合わせから、ムカッと. (2)中学生の親へのネガティブな感情表出. して表出する HH 群、ムカッとして表出しない HL 群、. 「①ムカッとする」、「②伝えるようにする」のそれ. ムカッとしない LL 群を設定した。抑うつ感について、. ぞれの性差と学年差を検討した。まず、「①ムカッとす. 群×学年の2要因分散分析をおこなったところ、群の主. る」の得点について学年×性別2要因分散分析をおこな. 効果、学年の主効果、交互作用とも有意な差は得られな. ったところ、学年と性別それぞれの主効果が有意. か っ た ( F=.76(2,147),p<.46 、 F=1.83(2,147),p<.16 、. (F=6.19(2,331),p<.01)(F=14.82(1,331),p<.01)であり、そ. F=.82(4,147),p<.52)。HL 群において抑うつ感が高いであ. の後の多重比較では、1年=2年<3年、男子<女子で. ろうという仮説は支持されなかった。葛藤を回避しネガ. あった。「②伝わるようにする」の得点について学年×. ティブな感情を制御することは、親子関係においては必. 性別2要因分散分析をおこなったところ、学年と性別そ. ずしも子ども自身の抑うつ感にはつながらないことが明. れぞれの主効果が有意であり(F=4.74(2,331),p<.01 ). らかになった。. (F=13.79(1,331),p<.01)、 1年<3年、 男子<女子であった。. HL 群では、ムカッとするがそれを表に出さずにその. 男子に比べて女子の方がムカッとする気持ちが強く、. 場を終わらせて葛藤を回避し、葛藤場面自体を起こさな. その気持ちを親に分かるようにしている。他の調査(東. いことで、精神的な平穏さを保とうとし、抑うつ感を意. 京都生活文化局、1985 他)においても、中学生では女子. 識化しないようにしている可能性が考えられる。抑うつ. のほうが逆らうことが多く、一般的傾向と考えられる。. 感を意識化しないようにしていることが考えられ、「反. ムカッとした気持ちは学年が上がるにつれ感じられ、表. 抗しない青年」は「精神的な不快感を感じたくない青年」. 出されるようになり、1年と3年の間で有意に差があっ. なのかもしれない。また、どの群にも今回は差がなかっ. た。進路という、自己決定を迫られる場面を通して、親. たため、抑うつ感自体に家庭での葛藤だけでなく学校、. の言うことが正しいと思う時期を脱し、親と自分との個. 塾、友達関係などの他の要因が絡んでいることが考えら. 別性を主張しようとしている姿がこの結果として現れた. れる。加えて、どの要因に影響されやすいかは、個人差. のではないか。. があると思われ、今回はこの点まで調査することはでき. (3)感情表出場面の親の対応に関する認知. なかった。. ①抑うつ感との関連 SCT1 と SCT2 のそれぞれの回答(a.怒る・言い返す、. 3.第二研究. b.統制、c.受容、d.悲しむ・困る e.反応なし)によって、. 1)目的. 抑うつ感との間に差があるかどうか検討した。その結. 青年が、親に対してネガティブな感情を表出すること. 果 、 SCT 1 ( 言 葉 に よ る 表 出 ) で 有 意 な 差 が あ っ た. に関して、どう感じてきたか、表出しない場合はどうい. (F(5)=2.73,p<.01)。多重比較の結果、抑うつ感の得点. った理由があったのかを面接調査により質的に検討す. -2-.
(3) る。対象を大学1∼2年生とし、現在までの変化につ. 関係が情緒的つながりの再構築につながる場合もあれ. いても問う。. ば、情緒的つながりを断ち切る形で自立へ向かう場合も. 2)方法. あることが推察される。. 予備調査で、大学1∼2年生 141 名に、中学生用質問. また、家族に対しての気遣いが必要とされる場合や、. 紙の感情表出項目と SCT を実施、同時に面接協力者を募. 葛藤場面を起こすことが家族を揺るがす可能性がある場. った。面接調査の被験者は、感情表出項目の①②の得点. 合、ネガティブな感情を表出しにくくなることが示唆さ. の組み合わせから、ムカッとして表出する HH 群(6名)、. れた。喪失体験を味わった家族の中で、安定をはかる役. ムカッとして表出しない HL 群(2名)、ムカッとしない. 割をとっていた被験者2名や、「仲良し」さを保つため. LL 群(3名)、どれにも属さない N 群(5名)に分けられ、. にそれを壊すまいと「がんばった」被験者、また、義理. 群ごとに質問を用意し半構造化面接を実施した。. の親に対し葛藤後の関係の修復を案じて表出できない被. 3)結果と考察. 験者など(すべて HL 群、LL 群)により語られた。壊れ. (1)ネガティブ感情生起場面の感情について. る可能性、なくなってしまう不安のあるような親子関係. どの群においても主に表出することに「すっきり」、. のなかでは、ネガティブな感情自体に気づかないように. 表出しないことに「もやもや」という感情が語られ、表. したり、気づいても表出せずに自分が引き受けて家族の. 出しないことが精神的な不快感につながると推察され. 均衡を保つ役割を取ったりしていることが考えられた。. る。また、表出について「怒っていることを分かって欲. (4)中学生の頃と今との変化について. しい」と語る人も数名おり、ネガティブ感情の表出は親. ほとんどの人が、その大小や内容にかかわらずなんら. へのアピールとしての機能も持つと考えられた。親に分. かの変化があると述べた。群にかかわらず、「対等な感. かって欲しいという思いや、親の真剣な対応を待ってい. じ」がよく語られた。しかし、中学生時の親の対応をネ. る子の姿がうかがえた。. ガティブにとらえている人は、 今の親子関係について 「か. (2) 表出しなかった理由について. かわらないようにしている」「上から見る」などを答え、. 「家族の仲を壊したくない」「親が傷つく」「ケンカの. 親子間の葛藤に回避的な傾向が見られた。第一次心理的. あとの仲直りの仕方が分からないから」など、葛藤を避. 離乳期の乗り越え方によって、葛藤があった親子関係が. けるために一歩引く様子や、「納得できた」など、親の. 新たに修復されてつながる場合、またはあきらめや回避. 言うことが分かる物わかりのいい様子が語られた。自分. によってさらに関係が離れてしまう場合が考えられる。. 自身は「もやもや」を感じながらも、葛藤場面を起こさ. (5)変化のきっかけについて. ない方を選ぶことがある。この中には、家族内で喪失体. もっともよく挙げられていたのは、「一人暮らし」や. 験を味わった人や義理の親を持つ人が3名おり、葛藤場. 「大学に入って」であった。物理的に家族から分離する. 面を起こせなかった可能性が考えられた(3の考察参. ことが、親という存在を見つめ直すきっかけとなってい. 照)。. るようである。また、親の側も物理的な分離によって、. (3) 表出場面の親の側の受け止め方について. 離れて生活する子どもを信頼するという面が出てくるこ. 子どものネガティブな感情の表出に関しては、親の側. とも語られた。. の受け止めが大きく影響していることが明らかになっ. 友人関係のトラブルや学校でのうまくいかなさが解. た。HH 群では、親も子と同じように感情を出し、対峙. 消したことが変化につながったという例が、女子に数例. しようとしている姿が語られた。また、そう子どもが認. 挙げられた。外でのストレスを、「親にはあたれる」と. 知している場合、大学生になった今振り返って、そうし. 語った人もおり、そうすることで心のバランスを取って. た場面がポジティブな意味づけがされているようであ. いる人もいる可能性が考えられる。家庭、学校など、葛. る、そして、現在の親子関係においては対等な感じや思. 藤がいろんな場面で連動している可能性も考えられた。. いやりの気持ちを持つようになっていることが語られ た。しかし、親から聞いてもらえなかったと感じていた. 4.総合考察と今後の展望. 人や、葛藤場面が起きたあとに親が葛藤場面をひきずっ. 先行研究の結果や、面接調査での「もやもや」にもか. ていたと感じていた人は、表出しても「すっきり」しな. かわらず、親子関係においてネガティブな感情を表出し. い感じを語り、 現在は親と距離をとったり親を冷静に 「上. ないことと抑うつ感との関連が見られなかったことにつ. から見る」ことが多いようであった。第一次心理的離乳. いては、1)親子関係よりも友人関係で問題なくやって. の時期の親とのやりとりの仕方によって、その後の親子. いくことのほうが、青年たちにとってエネルギーをすり. -3-.
(4) 減らす作業である可能性、2)親子関係のほうが友人関. あるか、それに交代して不特定な対象に向かって「意味. 係に比べると、葛藤状態からいつもの状態に戻るのに時. のない激怒が起こる」と述べている。もし攻撃心を処理. 間がかからないし、エネルギーを要さないと思われるこ. できない青年が、自分自身に向かう抑うつ感も感じられ. とから、そこで起きた「もやもや」とした抑うつ感が、. ないとすれば、その攻撃心は「意味のない激怒」として. 友人関係においてほどは長続きしない可能性、が考えら. 外界へ放たれる可能性も考えられる。この状態は、現在. れる。. よくテレビや新聞をにぎわせている「キレる」という状. 自分が感情を表出することで親が悲しむのではない. 態を説明する手がかりとなるかもしれない。. か、と考えていたり、自分が葛藤場面を起こすことが家 族に悪影響を及ぼす可能性があるような状況では、子ど. 引用文献. もは自由に気持ちを伝えることができなくなってしまう. Anthony Storr 著 高橋哲郎訳 1973 人間の攻撃心 晶. ようである。また、ネガティブな感情を持ったことすら. 文社. 認知しないままに、そのような気持ちは持たなかったこ. 深谷昌志 2000「データに見る思春期の子の友だちづきあ. とにしてしまう場合もあるようだ。このことから、親へ. い」児童心理 8 月号臨時増刊 反抗期の子育て 金子. の反発の時期を体験して、脱衛生化や、第一次心理的離. 書房. 乳がなされるには、その受け皿の状態も重要である。面. Katz,I.M.,&Campbell,J.D. 1994 Ambivalence over emotional. 接調査において、家族が喪失体験を経験したという背景. expression and well-being: Nomothetic and idiographic. がある青年が、ネガティブな感情を出さないあるいは感. tests of the stressbeffering hypothesis.. 情自体抑圧していたことが、このことを最もよく説明し. Personality. Journal of. and Social Psychorogy,67,513-524. 菊島勝也 1997「不登校傾向におけるストレッサーとソー. てくれたのではないか。今後、受け皿としての親の態度. シャルサポートの研究」健康心理学研究 10、p11-20. について、親の側からの検討も試みる必要がある。 現代青年の特徴として、「反抗しない青年像」(松井、. King,L.A.,&Emmons,R.A. 1990 Conflict over emotional. 1996)「表面的な摩擦のなさ」(田中、2000)「軽いノ. expression:Psychological and physical. correlates.. リ」(深谷、2000)などが言及されている。筆者は、脱. Journal of Personality and Social Psychology,58,864-877. 衛生化の時期といわれる青年期前期に、こうして反発心. 小住綾・伊藤義徳・織田正美 2000「子どもから見た親の. が出せないことが、漠然とした不全感を産むのではない. 養育態度が中学生の潜在的不登校に及ぼす影響」ヒュ. かと考えた。しかし、ネガティブな感情を持つことを受. ーマンサイエンスリサーチ9、p55-69. け入れられないことや、ネガティブな感情を持つことに. 松井 豊 1996「親離れから異性との親密な関係の成立ま. 耐えられないことのほうが、問題にされるべき点だった. で」斉藤誠一編 人間関係の発達心理学4青年期の人. のかもしれない。面接調査でネガティブな感情を認識し. 間関係 培風館. ていた群は、それを表出した HH 群、表出しなかった HL. 西平直喜 1990. 成人になること 東大出版. 群ともに、「もやもや」を解消するための自分なりの方. 大高一則 1998「クリニックを訪ねる中学生」こころの科 学 78 中学生は、いま. 法を持っていたが、LL 群はその感情を無かったものと切. 日本評論社. り離してしまう傾向があったことからも、平穏な青年が. 崔京姫・新井邦二郎 1998「ネガティブな感情表出の制御. 抑うつ感と向き合わないようにしている可能性がある。. と友人関係の満足感および精神的健康との関連」教育. 抑うつ感のような日常的ななんとなく不快な感覚を、自. 心理学研究 46、p.432-441 菅原ますみ・八木下暁子・詫摩紀子・小泉智恵・瀬地山. 分から遠いところへ追いやってしまっているのが現代の 青年の傾向である可能性も考えられる。こうした波風の. 葉矢・菅原健介・北村俊. 「夫婦関係と児童期. ない第一次心理的離乳期を過ごした青年が、どのように. の子どもの抑うつ傾向との関連−家族機能および両親. 「成人になる」のかを検討するには、縦断研究などの手. の養育態度を媒介として−」教育心理学研究 50、. 法が必要となるだろう。. p129-140. 2002. 田中伸市 2000「反抗期はどう変わったか−家庭・学校・. 本調査で扱った、ネガティブな感情を表出するという ことは、反発心に通じると同時に親への攻撃心とも通じ. 社会における反抗の表れ方」. 児童心理 8 月号臨時. るものである。Storr(1973)は、親への攻撃心を依存か. 増刊 反抗期の子育て 金子書房. ら抜け出そうとする衝動と捉え、攻撃心が正常に処理さ. 注:日本語版 CDSS についての村田の論文は未公刊であ. れないと、「内向して自分に向かうようになりがち」で. り、菅原ら(2002)に掲載されているものを利用した。. -4-.
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