博 士 ( 農 学) 吉 田 謙 太郎
学 位 論 文 題 名
農 林 業 の 公 益 的 機 能 に関 す る 環 境評 価 研 究 学 位 論 文内 容 の 要 旨
本論文1ま序章,終章を含め8章からなる総頁致192頁の和文諭文である。図13, 表63, 参 考 文 献105を 含 み , 他 に 参 考 論 文11編 が 添 え ら れ て い る 。
農林業は農林産物を供給する以外に,洪水防 止機能や水源涵養機能等の公益的機 能を供給している。農林業の公益的機能は,農 林業の外部経済効果によって形成さ れるものであり,既存の私的市場データを用い て評価を行うには,種々の制約条件 が伴う。これまでは,私的市場データに基づく 代替法やトラペルコスト法,ヘドニ ック法等が主として適用されてきたが,近年, 仮想市場データに基づく評価手法で あるCVM(Contingent Valuation lvlethod)を適用した研究事例が徐々に増加し つっある。しかしながら,これまでに評価対象 財や受益範囲の特定,質問方法等に 関して頑健な分析フレームワークを提供した研究iま存在しない。本論文は,農林業 の公益的機能評価に適した頑健な分析フレーム ワークを事例分析を通じて構築し,
最終 的にCVMに よる 全国 の農 業と 農村 の公 益的 機能 評価 額を 得ることを課題とし て い る 。 本 論 文 の 分 析 結 果 は , 章 別 に 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。 第1章 で は, 公益 的機 能評 価の 課題と背景について展開してい る。第2章では,
公共経済学及び環境経済学の理論に基づき,農 林業の公益的機能の分類と定義を行 うと とも に, 代替 法と トラ ペル コス ト 法, ヘド ニッ ク法 につい ての概要及びCVM 評価の歴史と背景について論述している。そし て,財の設定,母集団の設定,支払 形 態 , 質問 方法 , 評価 測度 とい う5つの 観点 か ら,CVMの方 法論 的検 討を 行 って いる。
第3章 では ,二 項選 択CVMを適 用す るこ とに より ,住 民と 観光 客に よる 北 海道 美瑛町の農村景観(保全機能)の経済的評価を 行っている。住民調査と観光客調査 では,最高提示額での受諾率が高位であること から,二項選択法の適用に起因する 賛成回答バイアスが生じていることを示してい る。また,住民調査では,高提示額 での回収率が低提示額よりも有意に低いことが 検証された。その結果,高提示額に おいて,回答者の回答拒否行動に起因する戦略 的バイアスが生じていることを明ら かにしている。
第4章 では ,二 段階 二項 選択CVMを 適用 する こと によ り, 大阪 府能 勢町 の 農村 景観(保全機能)の経済的評価を行っている。 ここでは,財の受益範囲を特定する ため に, 能勢 町へ のア クセ ス時 間90分 圏ま でを 調査 対象 範囲と してCVM調査を実
施 し , 財 へ の ア ク セ ス 時 間 と 支 払 意 志 額 の 関 係 を 明 ら か に し て い る 。 第5章 では ,横 浜市 民に 対し て支 払カ ード 方式CVMを 適用 する こと によ り, 森 林のもっ水源涵養機能の経済 的評価を行っている。さらに,政策コストに関する情 報を明示した調 査と明示しない調査の2種類 の調査を実施して情報効果の分析を行 い,回答者の支払意志額をマ イナスにシフトさせる効果と支払意志額の分散を小さ くする効果,そして回収率を 高める効果を明らかにしている。っぎに,東京都民に 対 して 二段 階ニ 項選 択CVMを 適 用す るこ とに より ,森 林のもつ水源涵養機能の経 済的評価を行い,各水系ごと に水源林に対する評価額に差が生じることを明らかに し てい る。 また ,東 京都 民を対象としたCVM調査でtま,支払意志額と受取意志額 に関する2つのシナリオを用いて評価を行っ たが,受取意志額については回答者か ら経済学理論に則した付値選 択行動が得られず,公益的機能評価を行う際に受取意 志額を求めることの限界を明 らかにしている。
第6章 では ,二 段階 二項 選択CVMを 適用 する こと によ り, 見沼 田圃 の防 災機 能 とアメニティ機能の経済的評 価を行っている。見沼田圃は,洪水時の遊水池として の機能を維持す るために,見沼3原則によっ て開発規制が行われてきた歴史的経緯 がある。しかしながら,近年 の都市化の進展とともに,近隣の地域住民がアメニテ イ機能や大震災時の避難所と しての機能にも高い価値を認めていることを明らかに し てい る。 さら に, 高提 示額 を用 いて 二段 階二 項選 択法によるCVM調査を実施し 高提示額におい て受諾率が0に収束すること を確認している。このことにより,二 段階ニ項選択法が,二項選択 法のもつ賛成回答バイアスを回避する手法であること を明らかにしている。
第7章では,前章までの事例分析によって 構築した頑健な分析フレームワークを 用いて,全国の農業と農村の もつ公益的機能の経済的評価を行っている。その結果 年間101,225円という1世帯当たり支払意志額が得られる とともに,年間4兆1,071 億円という総支払意志額が得 られている。また,各公益的機能に対する重要度比較 を行い,水涵養機能と生物・ 生態系保全機能に対する一般市民の評価は高いが,景 観保全機能や保健休養機能, 居住環境保全機能に対しては評価が低いという結果を 得ている。さらに,地域別に 各機能の重要度比較を行い,都市的地域で生物・生態 系保全機能が,中山間農業地 域で土壌浸食・土砂崩壊防止機能が高い評価を得るな ど,各地域の特徴を反映した 結果を得ている。そして,回答者に対して費用負担に 同意する理由を調査し,一般 市民Iま公益的機能の現在の利用価値の側面だけではな く,非利用価値の側面をも評 価した上で支払意志額を表明していることを明らかに している。第8章では,本論文の要約と結諭を示している 。
このようにして,本論文で は,農林業のもつ公益的機能評価を行うための頑健な CVM分 析 フ レ ー ム ワ ー ク を 構 築 し つ つ , 様 々 な 事 例 に 対 し て実 際にCVMを適 用 して経済的評価を行い,最終 的に農業と農村のもつ公益的機能の全困評価を行って い る. こう した 分析 視角 及び 事例 分析 の結 果は ,CVM研究水準の向上に資すると 共に,中央政府や地方自治体 等が公益的機能を維持保全するための政策を実施する 際 に , 政 策 的 意 思 決 定 を 行 う た め の 判 断 基 準 を 提 示 す る も の で あ る 。
学位論文審査の要旨
主査 副査 副査 副査 副査
教 授 教 授 教 授 教 授 教.授
出村 土井 太田原 黒河 浅川
学 位 論 文 題 名
克彦 時久 高昭 功 昭一郎
農林業の公益的機能に関する環境評価研究
本 論 文 は 序 章 , 終章 を 含 め8章 か らな る 総 頁数192頁の 和 文 論文 で あ る。
図13, 表63, 参 考 文 献105を 含 み , 他 に 参 考 論 文11編 が 添 えら れ て いる 。
農 林 業 の 公 益 的 機 能 評 価 に つ い て は , 私 的 市 場デ ー タ に基 づ く 代替 法 や ト ラ ペ ル コ ス ト 法 , ヘ ド ニ ッ ク 法 等 が 主 とし て 適 用 され て き たが , 近 年, 仮 想 市 場 デ ー タ に 基 づ く 評 価 手 法 で あ るCVM(Contingent ValuationMethod を 適 用 し た 研 究 事 例 が 徐 々 に 増 加 し っ つあ る 。 し かし な が ら, こ れ まで に 評 価 対 象 財 や 受 益 範 囲 の 特 定 , 質 問 方 法 等に 関 し て 頑健 な 分 析フ レ ー ムワ ー ク を 提 供 し た 研 究1ま 存 在し な い .本 論 文 は, 農 林 業 の公 益 的 機能 評 価 に適 し た 頑 健 な 分 析 フ レ ー ム ワ ー ク を 事 例 分 析 を 通 じ て 構 築 し , 最 終 的 にCVMに よ る 全 国 の 農 業 と 農 村 の 公 益 的 機 能 評 価 額を 得 る こ とを 課 題 とし て い る。 本 論 文 の 分 析 結 果 は , 章 別 に 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。
第1章 で は , 公 益 的 機 能 評 価 の 課 題 と 背 景 に つ い て 展 開 し て い る 。 第2章 で は , 公 共 経 済 学 及 び 環 境 経 済 学 の 理 論に 基 づ き ,農 林 業 の公 益 的 機能 の 分 類 と 定 義 を 行 う と と も に , 財 の 設 定 , 母集 団 の 設 定, 支 払 形態 , 質 問方 法 , 評 価 測 度 と い う5つ の 観 点 か ら , CVMの 方 法 諭 的 検 討 を 行 っ て い る 。 第3章 で は , 二 項 選 択CVMを 適 用 す る こ と に よ り , 住 民 と 観 光 客 に よ る 北 海 道 美 瑛 町 の 農 村 景 観 ( 保 全 機 能 ) の経 済 的 評 価を 行 っ てい る 。 住民 調 査 で は , 高 提 示 額 に お い て , 回 答 者 の 回 答拒 否 行 動 に起 因 す る戦 略 的 バイ ア ス が 生 じ て い る こ と を 明 ら か に し て い る 。
第4章 で は , 二 段 階 二 項 選 択CVMを 適 用 す る こ と に よ り , 大 阪 府 能 勢 町
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の農 村景観( 保全譲能) の経済的 評価を行っている。ここでは,財の受益範 囲を 特定する ために,能 勢町への アクセス時間90分圏までを調査対象範囲と し て
CVM
調 査 を実 施 し ,財 へ のア ク セ ス時 間 と支 払 意志 額の関係 を明らか にしている。第
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章 で は ,横 浜 市民 に 対 して 支 払 カー ド 方式CVM
を 適用 す るこ と に よ り, 森林のも つ水源涵養 機能の経 済的評価を行っている。さらに,政策コス トに 関する情 報効果の分 析を行っ ている。っぎに,東京都民に対して二段階 二 項 選択CVM
を適 用 す るこ と によ り , 森林 の もつ 水 源涵 養機能の 経済的評 価 を 行っ て いる 。 そ して , 東京 都 民 を対 象 とし たCVM
調 査では, 支払意志 額と 受取意志 額に関する2
つのシナ リオを用 い,公益 的機能評 価を行う際に 受取意志額を求めることの限界を明らかにしている。第
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章 で は ,二 段 階二 項 選 択CVMを 適 用す る こと に よ り, 見 沼田 圃 の 防 災機 能とアメ ニティ機能 の経済的 評価を行っている。見沼田圃では近年の都 市化 の進展と ともに,洪水防止機能だけで1まなくアメニティ機能や大震災時 の避 難所とし ての機能に も高い価 値を認めていることを明らかにしている。さら に,二段 階ニ項選択 法が,ニ 項選択法のもつ賛成回答バイアスを回避す る手法であることを明らかにしている。
第7章 で|ま,前章までの事例分析によって構築した頑健な分析フレームワ ーク を用いて ,全国の農 業と農村 のもつ公益的機能の経済的評価を行ってい る。 その結果 ,年間101,225円 という
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世 帯当たり 支払意志 額が得ら れると も に ,年 間4
兆1
,071
億 円とい う総支払意 志額が得 られてい る。第8
章 では 本論文の要約と結諭を示した。この ように, 本論文では ,農林業 のもつ公益的機能評価を行うための頑健 な
CVM
分 析 フ レ ー ム ワ ー ク を 構 築 し つ つ ,様 々 な 事例 に 対し て , 実際 にCVM
を 適用 し て経 済 的 評価 を 行い , 最 終的 に 農業 と 農村 のもつ公 益的搬能 の 全 国評 価 を行 っ て いる 。 こう し た 分析 視 角及 び 事 例分析の 結果は,CVM
研究 水準の向 上に資する とともに ,中央政府や地方自治体等が公益的億能を 維持 保全する ための政策 を実施す る際に,政策的意思決定を行うための判断 基準を提示するものである。よって,審査員一同1よ,別に行った学力認定試験の結果と併せて,本論文 の提出者古田謙太郎は,博士(農学)の学位を受けるに十分な資格があるもの と認定した.
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