博 士 ( 農 学 ) 福 田 琢 哉 学 位論文 題名
Whole Aspect of Metabolic Responses of Rice Roots to Phosphorus Deficiency and Aluminum Stress Analyzed by TranscriptomlCandProteomiCApproaCheS
(トランスクリプトームおよびプロテオーム解析に基づくイネ根の りン欠乏・アルミニウムストレス条件における代謝応答の網羅的解析)
学 位 論 文 内 容 の 要旨
世界 中 に広 範に 分布 する 酸 性土壌において作物を生産 する場合、最も問題となる のがりン欠乏とア ルミニ ウムストレスである。植物 はこれらの条件で生育する場 合に、いくっかの適応戦略を発達させ、
適 応し て いる 。イ ネは これ ら の悪条件下で比較的良好に 生育できる植物である。ま た、イネはゲノム 解析が 進んでいるため、網羅的発 現解析に適した植物である。 そこで、本研究ではイネを材料として、
転 写産 物 なら びに 翻訳 産物 の 発現量の変動からこれらの ストレスに対する適応戦略 を理解することを 目的と した。
本研 究 にお いて は、 イネ を りン欠乏ならぴにアルミニ ウムストレス条件下で水耕 栽培を行い、タン パ ク質 とRNAを 抽 出し てプ ロテ オー ム 解析 なら びに トラ ンスクリプトーム解析に供 した。得られた結 果の概 要は下記の通りである。
1.リン欠乏、アルミニウ ムストレスに対するイネ根 の代謝応答
1)リ ン 欠乏ならびに アルミニウムストレス条件 で栽培したイネ根から可溶性 タンパク質を抽出し、プ ロ テオ ーム 解 析を 実施 した 。イ ネ 根を 対象 とし て 実施 したプロテオーム 解析において、464のタン パ ク質 スポ ッ トが 検出 され た。 そ のう ち主 要な94スポ ットに対してPeptide Mass Fingerprinting (PMF)法に よる 同定 を 試み た結 果、56ス ポ ット の同 定に 成功 し た。PMF法に より 同定されたタンパ ク 質に つい て 、一 部をEdman法 によ るN‑末 端ア ミノ 酸配 列の解読を実施し 、その同定結果の信頼性 が高いことを確認した 。
2) Lowess Fitting標準 化法を新たに取り入れることにより、プロテオーム解析により得られたタンパク 質 スポ ット の シグ ナル 強度 を標 準化し、複数 のゲルの間でのタンパク質発 現量の高精度な比較を初 め て 可 能 に し た 。 こ の 標 準 化 を 行 っ た 結 果 に 基 づ き 、 発 現 量 比 較 を 実 施 し た 。 3) イ ネESTク ロ ー ン に 由 来 す るcDNAの 一 部 をPCRに よ っ て 増 幅 し 、 こ れ を 貼 り 付 け たcDNAマ イ ク ロア レイ を 用い て、 リン 欠乏 イネを対象に 経時的にトランスクリプトー ム解析を実施した。プロ テ オー ム解 析 にお いて 検出 され たタンパク質 発現変動が、ある程度転写産 物レベルから認められる こ と を 示 し た 。 ま た 、 ホ モ ロ グ 間 の 発 現 変 動 の 違 い が 多 く 存 在 す る こ と を 示 し た 。 4)イネ完全長cDNAクロー ンの3 ‐非翻訳領域配列の 一部を化学的に合成し、こ れを貼り付けたオリゴ マ イク ロア レ イを 用い て、 イネ の低リン応答 のトランスクリプトーム解析 を実施した。その結果を も とに 、KaPPalViewを 用い てパ スウェイ解析 を行った結果、パスウェイ解 析が代謝変動を理解する
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上 で非 常に 有用 で ある こと を示 した 。
5)以上のプロテオーム解析と トランスクリプトーム解析 の結果より、リン欠乏とアル ミニウムストレ ス にお いて イネ 根 が概 して 似た 応答 を 示す こと が示 され た 。
2.リン欠乏、アルミニウムス トレス条件下における炭素 化合物の流れ
1)ト ラン スクリプトーム 解析とプロテオーム解析に おいて、低リンおよびアルミ ニウムストレス条件 下 で解 糖系に関わる代 謝経路の誘導が認められた。TCA cycleに関わる代謝経路 は変動が認められな い か 、 抑 制 さ れ て い た 。 さ ら に 、 窒 素 同 化 系 の 代 謝 経 路 は 抑 制 さ れ て い た 。 2)低 リン 条件で育ったイ ネ根からは特異的にシュウ 酸が分泌されることが知られ る。トランスクリプ ト ーム 解析 より 、 グリ オキ シル 酸からシュウ酸が 生成する経路と、この経路の 低リンによる促進が 起 きて いる こと が 示唆 され た。 シュウ酸合成経路 はこれまで未知であった代謝 経路であり、本研究 で実施したパスウェイ解析 において初めて得られた結果 である。
3)リ ン欠 乏イネにおいて は、光合成産物は地上部に おいてデンプンとして蓄積し 、根部への分配割合 が 低く 、イ ネ根 か らの 有機 酸分 泌量は他の植物と 比較して非常に低いレベルで あることが知られて いる。これらのことより、 本研究に韜いて示されたイネ 根における解糖系の促進に よ・る炭素骨格の TCA cycleへの流入は、 地上部から根部への光合成 産物の転流量の低下を補うこ とが主な目的である と 理解 され た。 ま た、 その 一部 はシュウ酸の分泌 に寄与し、シュウ酸は根圏に おけるキレート能に よルアルミニウム解毒、リ ン酸の可給化に関わるものと 考えられた。
3.リン欠乏、アルミニ ウムストレス条件下における 稜酸代謝
1)プロテ オーム解析において認められ た糖関連酵素の発現変動よ り、低リンおよびアルミニウ ムスト レス条件下で核酸モノ マーの生合成に関わるribose‑5‑phosphateの供給が促進 されることが示唆され た。
2) ト ラ ン ス ク リ プ ト ー ム 解 析 に 基 づ く パ ス ウ ェ イ 解 析 の 結 果 、 低 リ ン 条 件 で はnucleoside monophosphateからdiphosphateへ、またnucleoside diphosphateからtriphosphateへのりン酸化に関わ る 遺伝 子群 の 発現 の誘 導がアデニン 、グアニン、シトシン、ウ ラシル、チミンの全てについ て確認 された。
3)以上よ り、低リンおよびアルミニウ ムストレスにより滞る遺伝 子の発現を維持することによ ってこ れ らの スト レ ス条 件に 適応するため に、核酸モノマーの生合成 が誘導されることが示唆され た。ま た 、核 酸を 構 成す る糖 の供給に関わ る酵素は翻訳レベルで、核 酸モノマーのりン酸化に関わ る酵素 は転写レベルで発現が 制御されていることが示唆 された。 .
4.リン欠 乏、アルミニウムストレス 条件下に抽ける細胞壁成分へ の影f
1)プロテオーム解析において、アルミニウムストレス条件下でS‑adenosyl methionine (SAM) synthaseの 発現 が強 く 増加 した 。この結果から、アルムニ ウムストレス条件下のイネ根 において、ムシラゲや りグニ ンの合成が増加することが示 唆された。
2)トラン スクリプトーム解析の結果 から、リン欠乏条件下でもSAM synthaseの発現が増加す ることが 示唆さ れた。また、細胞壁構成多糖 やりグニン、ウロン酸合成 が促進されることが強く示唆された。
3)以上よ り、リン欠乏およぴアルミ ニウムストレス条件で生育す るイネ根において、光合成 産物の分 配が 低下 す る中 での 細胞壁構成多糖の合成維持 が適応戦略のーっであること が示唆された。この結 果は 、本 研 究に おい てプロテオーム解析とパス ウェイ解析を同時に実施した ことにより初めて得ら れた成 果である。
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これら本研究により得られた知見は、酸性土壌で生育する植物の適応戦略を網羅的な観点から世界 で初めて解明されたものであり、植物のりン欠乏とアルミニウムストレスヘの適応戦略の理解が深ま った。その成果は、植物栄養学分野における耐酸性の基礎研究として重要であるだけでなく、増加し 統ける人口に対応した作物の持続的生産のために必要となる酸性土壌における作物生産に貢献する知 見をもたらす重要な成果である。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 大崎 満 副査 教授 松井博和
副査 教授 小池孝良(北方生物圏フイールド 科学センター)
副査 助教授 信濃卓郎
学位 論文題 名
Whole Aspect of Metabolic Responses of Rice Roots to Phosphorus Deficiency and Aluminum Stress Analyzed by TranscriptomlCandProteomlCApproaCheS
( ト ラ ン ス ク リプ ト ー ム お よ び プ ロ テ オ ー ム 解 析 に 基 づ く イ ネ根 の り ン 欠乏 ・ア ルミ ニウ ムス トレ ス条 件に おけ る代 謝応 答の網 羅的 解析 )
本 論 文 は 4 章 か ら な り 図48 、 表 9 、 総 頁 164 か ら な る 英 語 論 文 で 、 別 に 参 考 論文 3 編 が付されている。
酸性土壌で作物を栽培する場合、最も問題となるのがりンァ)欠乏とアルミニウム(Al) ス トレ スで ある 。イ ネは これ らの 悪条 件下 で比較的良好に生育できるとともに、網羅的 発 現解 析に 適し た植 物で ある 。本 研究 では イネを材料として、転写産物ならびに翻訳産 物の発現量の変動からこれらのストレスに対する適応戦略を理解することを目的とした。
得られた結果の概要は下記の通りである。
1 .P 欠乏、Al ストレスに対するイネ根の代謝応答
1 )P 欠 乏な らぴ にAl スト レス条件で栽培したイネ根から可溶性タンパク質を抽出し、プ ロ テ オ ー ム 解 析 を 実 施 し た。 検出 され た464 のタ ンパ ク質 スポ ット のう ち主 要な 94 スポットに対してPeptide Mass Fingerprinting 法による同定を試みた結果、56 スポット の同定に成功した。
2 )Lowess Fitting 標準化法を新たに取り入れることにより、プロテオーム解析により得 られ たタ ンパ ク質 スポ ットのシグナル強度を標準化し、複数のゲルの問でのタンパク 質発現量の高精度な比較を初めて可能にした。
3 )P 欠 乏イ ネを 対象 にト ランスクリプトーム解析を実施した。プロテオーム解析におい て検 出さ れた タン パク 質発現変動が、ある程度転写産物レベルから認められること、
ホモ ログ 間の 発現 変動 の違いが多く存在することを示した。発現解析結果をもとに、
KaPPa ― View を用い てパ スウ ェイ 解析 を行 い、 パス ウェイ解析が代謝変動を理解する
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