‑ 債務不履行の主張立証責任 との関連か ら‑
町 村 泰 貴
目 次 1.は じめに
2.保険料一 時払 の場合
(1) ア フロス契約 と保険料未払の主張 (2) 証明責任をめ ぐる学説の状況 (3) 裁判例
(4) 検討
3.分割払特約の場合
(1) 2回 目以降の分割保険料の支払遅滞 と休止の効果 (2) 裁判例‑一・・一証 明妨害 との関連
(3) 検討 4.おわ りに
1.はじめに
債務の履行 ・不履行の証明責任 について,債権者の履行請求に対 して債務者 が履行の証明責任を負 うことには争いがない。 しか し債務不履行により生 じる 法的効果が問題 とされる局面では,古 くか ら債権者説 と債務者説 との対立があ る1) 。 最近では伊藤滋夫判事 と前 田達明教授 との間で この問題 をめ ぐる興咲
1) FranzLeonhald,DieBeweislast,1904.SS.356,§ §113fは,債務の履 行がなかったことを債権者が損害賠償訴訟において証明 しなければな らないと主張 した。 これに対 して ドイツの支配的見解 は逆 にBGBの明文規定 (§§345,358, 542,636)を一般化 して,常 に債務者 に債務 を履行 したことの証明を要求 してい た。LeoRosenberg,DieBeweislast,5.Aufl.1965,S.346.フラ ンスで も民
〔555〕
深 い論争がたたかわ された2)。 そ こで は特 に主張責任 と証 明責任 との関係, 両責任の不一致の可能性が問題 とな り,司法研修所の要件事実論および伊藤判 事の 「裁判規範 としての民法」 とい う考え方の特徴が浮 き彫 りとな った感があ る。 しか しなが らその舞台 となった債務不履行の事実の証明責任については, なお議論の余地が残 されている。
ところで債務の履行の有無 は,最 も基本的な債務履行請求 と債務不履行を原 因 とす る損害賠償請求のはかに様 々な事例 において問題 となる。債務不履行を 理 由とす る解除,不履行に対す る違約金条項がある場合,履行遅滞により期限 の利益が喪失す る場合,さ らに双務契約の履行請求 に同時履行の抗弁が主張 さ れる場合 も,反対給付の履行の有無が問題 となる。 このような事例のすべてに おいて,債務の履行 は債務者が主張立証責任を負 うと直ちにいえるものではな
く,個別的な検討が必要である。
そ うした事例の中で も損害保険の保険料不払 に結び付け られた効果 はいささ かユニー クである。すなわち損害保険契約 において一般 に用い られ る約款 に は,保険契約者が保険料を支払わない場合の効果 として,保険者が保険責任を 負担 しない 旨の条項が おかれて い る。 例 えば 自家用 自動車保 険普通保 険約 款 (PAP・昭和63年 7月改定版)の第 6章 「一般条項」第 1条 (保険責任の 始期および終期)は次のように定める。
「(手 当会 社 の保 険責任 は,保 険証券 に記 載 され た保 険期 間 の初 日の午後 4時
法典 は明文で債務消滅 の証 明責任 を債務者 に課 して い る (1315条 2項)が,不履 行 に基づ く損害賠償請求 の局面で は履行の有無の証 明責任 につ き議論がある。例え ば,H.etL.MazeaudetA.Tune,Trait6th60riqueetpratiquedelares‑
ponsabilit6civiled61ictuelleetcontractuelle,6e6d.t.1,no694‑ 2参照。
我が国 における議論状況 は,倉 田卓次監修 『要件事実 の証 明責任 債権総論』(西 神 田編集室 ・1986)31頁以下,松本博之 「証 明責任論 にかんす る覚書 ‑ その三
・債務不履行の事実の証 明責任 について (1)」法学雑誌32巻2号177頁参照。
2) 前 田達明 「主張責任 と立証責任」判夕596号 2頁,同 「続 ・主張責任 と立証責任」
判夕604号65貢,同 「続 々 ・主 張責任 と立証責任」判夕694号29頁,伊藤滋夫 「続
・要件事実 と実体法 (下)」 ジュ リ882号59頁,同 「要件事実 と実体法断想 (下)」
ジュ リ946号98貢。なお中野貞一郎「主張責任 と証 明責任」判夕668号4真 (同 『民事 手続の現在 問題』(判例 タイムズ社 ・1989)213頁所収) も参照。
(保険証券にこれ と異なる時刻が記載 されているときはその時刻) に始 まり,末 日 の午後4時に終わ ります。
② 保険期間が始 まった後で も,当会社 は,保険料領収前に生 じた事故について は,保険金 (賠償責任条項, 自損事故条項,無保険車傷害条項,搭乗者傷害条項お よび車両条項の保険金をいいます。以下同様 とします.,)を支払いませんo」
また保険料の分割払特約付 きの場合 は,特約の第3条および第5条 に次のよ うな規定がおかれている。
第3条 (分割保険料領収前の事故)「保険期 間が始 まった後で も,当会社 は,前 条の第 1回分割保険料を領収す る前 に生 じた事故 については,保険金を支払 いませ ん。」
第 5条 (分割保険料不払の場合の免責)「当会社 は,保険契約者が第 2回 目以降 の分割保険料について,当該分割保険料を払込むべ き払込期 日後 1カ月を経過 した 後 もその払込みを怠 ったときは,その払込期 日後 に生 じた事故 については,保険金
を支払いません。」
これ らによると,一時払の場合 と分割払の第 1回分割保険料の場合, ともに 保険料の支払がない うちに発生 した保険事故 は填補 されず,第 2回 目以降の分 割保険料の場合は,その支払期 日か ら一カ月の間は猶予 されるが,一カ月をす ぎて もなお支払を怠 っていると本来の支払期 日にさかのぼ って保険事故の損害 填補を免れるという効果が生 じる。そこで保険事故が発生 して被保険者が保険 金の支払を求めた場合 に,保険事故の発生時点における保険料支払の有無が争 われ るとい うケースが生 じ得 るが,その証明責任 は保険金を請求す る契約者 と 保険金支払を拒絶す る保険者 とのいずれが負担す るのであろうか。
一時払の保険料不払の事例で は裁判例 と学説 の蓄積が ある3)。 また保険料
3) 本稿で比較的多 く引用する文献をここに掲げてお く。以下での引用はもっぱ ら著 者名 と文献番号を記す。①石田真 「保険料未収の証明責任」裁判実務大系8巻290 頁,②岩崎稜 『保険料支払義務論』(有斐閣・1971),(卦大森忠夫 『保険契約法の研 究』(有斐閣 ・1969),④加瀬幸喜 ・判批 ・判夕386号51頁,⑤加藤新太郎 「交通事故 賠償 ・保険金の不当請求」判夕619号2貢,⑥小橋一郎 ・判批 ・商事法務研究782号
未払を理 由とす る責任の免脱 は自動車保険に限 らず損害保険に一般的に見 られ るが,そ もそ もその条項の趣 旨をめ ぐって も基本的な理解の対立があ り,証明 責任の分配の議論において もこの約款の趣 旨に結び付 けて論 じる見解が多 く見 られる。そ こで本稿では,まず一時払の保険料不払の場合 に関す る議論を検討 し,次いでその応用 として分割保険料の不払の事例につ き検討を加えることと す る。
なお,保険契約の当事者 は保険者,保険契約者,被保険者のほか,責任保険 で は被害者 も登場す るが,本稿では もっぱ ら保険者 と保険契約者 との関係 に 絞 って検討す ることとす る。 自動車保険の場合 には特 に被害者の立場が重要 と な るであろ うが, まず基本的な設例 について検討すべ きであると考 え られ る し,保険料の支払義務 は通常保険契約者 にあるので, とりあえず保険契約者に 一元化 してみた。従 って自動車事故の被害者が保険者 に直接保険金支払を請求 す る場合 (PA P ・第 1章 [賠償責任条項]第 6条)については留保 しておき
た い。
2.保険料一時払の場合
(1) アフロス契約 と保険料未払の主張
保険金の不当請求事例の一つの典型 に,アフロス (afterloss)と呼ばれる 類型がある。 これは保険事故が発生 した後にこれをカバーす る保険契約を締結
し保険金を請求す るというもので,保険契約一般に共通す る問題だが,特 に自 動車保険におけるその存在 は,実態 としてかな り多いと推定 されている4) 0
その場合商法642条 によれば,契約当事者 または被保険者が事故の既発生を
62貢,⑦新堂幸 司 ・判批 ・損害保険判例百選56頁,⑧鈴木辰紀『火災保険研究』 (成 文堂 ・1969),⑨西島梅治 『保険法 [第2版]』(筑摩書房 ・1980),⑲ 司法研修所編
『増補民事訴訟 における要件事実』第 1巻 (法曹会 ・1986),⑪本間義信 「証 明責 任 (‑)(二 ・完)‑ 戦後証拠法判例研究」民商92巻6号822頁,93巻 1号50頁。
なお西島 ・文献⑨の第3版 は脱稿 までに入手す ることがで きなか った。
4) 伊藤東作 「MoralHazardについての具体的事例 ‑ 主 と して 自動車保険 につ いて ‑ 」保険学雑誌451号65頁参照。
知 っていた場合 に契約 自体が無効 となる (自家用 自動車普通保険約款第 6章第 6条 も同 じ)。 もっともこれは保険期間開始を契約締結 日よ り前 に設定す る遡 及保険の場合であることを前提 とす るが, 自動車保険において遡及保険は皆無 とされている5)ので,少 な くとも自動車保険について は善意のアフロス契約 は考え られず,契 約締結の 日時をさかのぼ らせ るかまたは事故発生の日時を遅 らせ るな どの不正な操作を行 う。特 に前者の操作においては保険契約の締結 に 携わる代理店または担当社員の協力が必要であ り,その場合 に保険会社 はアフ ロス立証 はもちろん,その察知 自体がかな り困難であろ う6)。 そ こでアフロ スの疑 いがある場合 に保険者 は,アフロスの主張 とともに保険料の受領が事故 後であることも主張立証 す ることが多 い とされている7)。保険料領収 日の立 証 について保険会社 は,カバーノー トと称す る一式書類のつづ りを用い,契約 票 と保険料領収証 とは一連番号が付 されて複数の取引の前後関係が証拠 として 残 され る工夫を している。そこで少な くとも手続が履践 されれば契約 と保険料 入金 日の証拠 は残 るし,定め られた書式によ らない場合 はその ことの証拠が残
るので,保険料支払時期の立証 は困発ではないとの指摘がある8)0
しか しなが ら保険代理店や担当社員 と通 じてアフロス契約が締結 された場合 は,事故発生前 に保険料の入金があったように加巧 されているであろうか ら, アフロスを疑 う保険会社が保険料支払時期の立証を尽 くして もなお真偽不明 と い う事態 は生 じ得 る。一方アフロスの疑いをかけ られた保険契約者の側でその 疑いを晴 らす ことや保険料支払時期の正確な 日時を立証す ることは,同様 に困 難なことが多いであろう。 そ こで特に保険契約締結が容易で しか も事故の発生 頻度が高い自動車保険において,保険料支払時期 と事故発生 との先後関係の証
5) 金津理 『交通事故 と保険給付』(成文堂 ・1981)290頁参照。
6) 伊藤 ・前掲論文 (注4)によれば,保険会社がアフロス契約を疑 う根拠 として, 事故が保険期間の開始 に接着 して起 こったこと,事故通知の遅滞により有効適切な 初動調査が困難 なこと (65頁),連休の前 日や土曜 日に契約 した と称す る事故であ
ること (71貢)などがある。
7) 西島 ・文献⑨142頁参照。
8) 後掲判決 【3】,加藤 ・文献⑤15頁など参照。
明責任 は実務上 も重要な問題 といえる。
(2)証明責任をめ ぐる学説の状況
従来の学説 は保険者説 と保険契約者説 とに二分 されるが,その根拠 は一様で はない。 ここで問題 とす る約款上の,保険料不払 に対 して保険者が損害填補責 任を負担 しない旨を定めた条項 (以下では単 に保険料不払条項 と呼ぶ)の意義 付けに証明責任分配の証拠を求める議論が多 く見 られるが,約款条項の趣 旨と
は切 り離 して分配を論 じる見解 も有力に主張されている。
a)保険料不払条項の趣 旨に関す る学説判例
保険料不払条項の趣 旨については,火災保険普通保険約款 における同旨条項 をめ ぐり,保険料の支払を もって保険者の責任開始 とす る旨を定めたもの と解 す る責任開始条項説9)と,保険者 の責任 は保険料の支払 にかかわ りな く約定 の保険期間の始期 とともに開始す るが保険料不払の効果 として責任開始後の保 険者の免責を定めた と解す る免責条項説 または損害不填補条項説10)とが対立 している。 この外にも,か っては保険料不払条項を保険者の同時履行の抗弁権 を定めた もの と解す る見解が有力であ った11)が,同時履行の抗弁 は双務契約 の対立す る債務が ともに弁済期 にあることを前提 とす るところ,保険契約 にお ける保険者の義務の性質か ら同時履行の抗弁 は適 さないとされている12)。 ま た近時は,抽象的保険金債務が具体的保険金債務 に転化す る要件 として,保険 事故の発生 に加 えて特約で保険料の支払を も必要 としていると解す る読 (二 重条件説)13)も有力に唱え られている。
9) 鈴木 ・文献⑧12頁,
10) 青谷和夫 ・判時309(判評51)号 8頁,原田四郎 ・法学志林60巻3‑ 4号178頁 ll) 石田祐六 「普通火災保険約款の改正 に対する私見」損害保険研究13巻3号87貢,
特 に104頁。倉沢康一郎 『保険契約の法理』(慶応通信 ・1975) 8頁 は保険者の危 険負担を債務 とし,危険負担債務 と保険料債務 との同時履行 と構成す る。なお鈴木
・文献⑧10貢 は同時履行の抗弁権説を通説で もあった らしいとす る。
12) 大森 ・文献③57頁以下,鈴木 ・文献⑧10頁以下,田辺康平 ‑石田満 ‑棚 田良平 ‑ 戸出正夫 『註釈火災保険普通保険約款』(日本評論社 ・1976)99頁以下(棚田)など。
13) 服部栄三 「保険金請求権の発生および消滅」大森還暦記念 『商法 ・保険法の諸問題』
356瓦 加藤勝郎 「火災保険契約の成立 と保険料の支払」新損害保険双書1巻175責。
この対立の具体的帰結 は,保険期間開始後 に保険料不払を理 由として保険契 約が解除された場合の保険料支払義務の存否にある。すなわち一般に保険者の 責任が開始 した後の保険契約解除は,既に経過 した保険期間に危険を負担 して いた以上少な くともその期間に相当す る保険料の取得を妨げ られるべ きではな く14),責任開始後 の解除は遡及効 を有 しないのが原則 と解 されている15)0
しか し保険者の責任開始前 は保険料取得の根拠 となるべ き危険負担がないの で,一般原則 (民法541条)に従 い解除には遡及効があ り,保険料の支払義務 も消滅す るとされている16)。そ こで保険料不払 を理 由 とす る解 除につ いて も,その遡及効の有無,特に解除後の未払保険料請求の可否 は,保険料不払の 状態で保険者の責任が開始 した といえるかどうかにかか って くる。責任開始条 項説 は,保険料不払を理 由とす る解除の時点ではいまだ保険者の責任 は開始 し ていないと構成す るので,解除により既経過時期に相当す る保険料支払義務 も 消滅す ると解す るが,損害不填補条項説の立場か らは保険者の責任が開始 して
いるが免責 され ると構成す るので,解除によって も保険料支払義務 は消滅 しな いと解 される。二重条件説か らは必ず しも明 らかでないが,二重条件説を提唱 される服部教授 は解除が遡及効を有す ると考えるべ きとされ る17)。
この問題 について判例 は,「みまき荘事件」 として有名な最判昭和37年6月12 日民集16巻 7号1322頁18)が,責任 開始条項説 に立っ ことを明 らかに した も
14) いわゆる保険料不可分 の原則 によれば,保険者が一瞬た りとも危険を負担 した以 上 はその危険負担の対価 たる保険料の全額を取得す ると解す ることとなるが,その 一般的妥当性 には疑問があ り,現在で は約款 によ り実質的に変更 された といわれて いる。西島 ・文献⑨126頁以下参照。
15) 商法645条,657条 など参照。
16) 西島 ・文献⑨124頁。青谷 ・前掲判批 (注10)9貢 は,「保険者 の責任開始前 におけ る解除が遡及効 を生 じるものであ ることについては異論がない」 とす る。商法655 条 は保険料請求権の消滅を前提 とす る。
17) 服部 ・前掲論文 (注13)357貢。
18) この事件 に対す る評釈 ・解説 は数多 い。青谷 ・前掲判批 (注10),中西正 明 ・民 商48巻 3号428頁,原 田 ・前掲判批 (注10),服部栄三 ・損害保険判例百選62貢,金 沢理 ・商法の判例 (第 1版)202亘,長利正 巳 ・最判解説昭和37年度246頁など。原審 (福岡高判 昭和33年12月26日判時179号21頁) に対す る評釈 と して は,伊沢孝平 ・
の とされている。事案は火災保険の保険料について3カ月の支払猶予の後 もな お支払わないため,保険会社が契約を解除 して既に経過 した責任期間に対応す る保険料の支払を求めた もので,一審 は請求を認容 したが,控訴審 は当時の火 災保険普通保険約款2条2項19)によりいまだ保険会社の責任が開始 していな か ったとして,一審判決を取 り消 して請求を棄却 した。最高裁 も同条項の定め が保険者の保険責任 は保険料の支払 を受 けるまで開始 しないとい う趣 旨であ り,また本件解除を解約告知 と解す ることもできないと判示 して,原審判決を 支持 した20)。
b)証明責任論への帰結 と実質的考慮
以上のよ うな保険料不払条項の理解 をめ ぐる対立の うち,保険料 の支払が あった時か ら保険者の責任が開始す ると理解す る責任開始条項説 に立っ と,保 険料支払 は保険会社の責任開始を基礎づける要件であって保険金請求の権利根 拠事実 と位置付け られ,保険事故が発生 した場合 に保険金を請求す る保険契約 者 は,保険契約の成立 と保険期間内の保険事故の発生 に加えて,保険事故以前 における保険料の支払 につ き証明責任を負担す ると解す ることとなる (保険契 約者説)21)。 二重条件説 に立っ場合 も同様であろう22)。 これに対 して損害不 填補条項説 に立っ ときは,保険金支払を求める請求原因 としては契約の存在 と 保険期間内に保険事故が発生 したことで足 り,被告保険会社が保険事故の時点
における保険料の未払を抗弁 として主張立証すべ きと解す ることとなる (保険
判時188(判評19)号10亘など。
19) 「保険期 間ガ始 マ リタル後 卜雅モ保険料領収前二生 ジタル損害ハ当社之 ヲ填補 ス ル責こ任ゼズ」
20) なお本件 において は3カ月間保険料の支払が猶予 されていた とい う点で,いわゆ る 「責任持 ち」 として責任が開始 していたのではないか とい う問題が指摘 されてい る。前掲 (注18)の各評釈,特 に伊沢 ・判評19号12貢参月鮎
21) 加瀬 ・文献④53頁。
22) もっとも西 島 ・文献⑨ は,136亘 にお いて二重条件説 を正 当 とされ る一万,144 頁で は 「保険料不払条項説が妥 当 と解す るので保険者証明責任説が正 しい」 とされ
る。なお加瀬 ・文献④53頁 は二重条件説か らの帰結 として保険契約者が証明責任 を 負担す ることとなるはずであ ると指摘 されている。
者説)23)0
この両説の問では,保険料不払条項の意義を責任開始条項または損害不填補 条項 と解す ることについての批判が相互に展開されている。責任開始条項説に 対 しては,保険料支払遅滞があると保険期間が短縮す ること,保険料不払のま ま保険期間が終了 した場合は保険者の責任が開始 しないまま契約が終了 し,保 険料取得の根拠がないこととなること24)が問題 とされ,沿革25)や約款の体 裁 (1項で責任期間を定め,2項でその例外 として保険料未払の場合の不填補 を定めていること)26)か らも保険料支払まで責任不開始 とは解せない と指摘 されている。損害不壊禰条項説に対 して も,保険料支払前の損害 は全 く境禰 さ れないので保険者の危険負担の未開始 と同一であること,免責事由は危険率算 定において予測できない危険による損害の填補を排除するために設けられてい るが保険料不払 は危険率 と関連がな く免責事由とは解せないこと27)が指摘 さ れている。
なおこのように保険料不払条項の趣 旨か ら証明責任の所在を潰鐸 しようとす ることに対 しては批判が多 い28)。そ うした見解の中では保険料不払 という消
23) 西島 ・文献⑨144貢,石 田 ・文献①295頁以下,加藤 ・文献⑤16頁,同 ・判批 ・ 新交通事故判例百選183京。
24) 西島 ・文献⑨135貢,大森 ・文献③61頁以下,石 田 ・文献①295頁など。
25) 火災保険の普通保険約款2条2項 について,昭和16年 の普通保険約款制定前 は
「当会社 ノ保険契約 ノ責任‑保険料 ヲ領収 シタル時二始 マ リ保険契約期間 ノ最終 日ノ午後 4時 ヲ以テ終ルモ ノ トス」 と規定 されていたが,昭和16年制定の普通保 険約款 において現在のよ うな2項で保険料不払 の場合の例外 を定 める形式 に改め られた。その理 由は責任開始を保険料支払 にかか らしめなが ら保険期 間は特定 の 日付で定 めるとい う不 自然 な結果を避 け,保険期間開始 とともに保険者 の責任が 生 じるが保険料支払 までは免責す るため とされている。大森 ・文献③62貢参照。
26) 西島 ・文献⑨135頁以下,加藤 ・文献⑤16頁など。なお新堂教授 もこの点を指摘 され,特 に多数の顧客の地位安定や トラブルの未然防止のためには規定の体裁 によ る形式的基準で証明責任の分配を定めるのが望 ま しく,また このような体裁の約款 を自ら用いる保険者 は証明責任を負 う不利益をはじめか ら覚悟すべ きだとされ る。
新堂 ・文献(957頁。大沢康孝 ・判批 ・ジュ リ627号112貢 も保険会社が約款 を 自ら 使用す る点を指摘 している。
27) 加瀬 ・文献④52頁。
極的事実の立証 はカバーノー トを用いるなど保険実務の上で困難ではない こ と29),保険者側の者 (社員,代理店)の作成 した領収書の 日付 に反す る支払 時期を主張す ることは禁反言的であ り,その立証を保険者に要求す ることが公 平 に適 うこと30),保険料不払 に対す る制裁 は保険料の支払を確保す るための もので,それ以上の効果を もたせ るべ きでない こと31)などの実質的な理 由か ら,保険事故時における保険料未払の事実についての証明責任 は保険者 に帰属 す るとの保険者説が多数を占めている。
この他 に小橋教授 は,必ず しも明確な理 由づ けを されているわけで はない が,保険料支払 について保険契約者が証明責任を負 うがその支払が保険事故発 生後になされた ことは保険者が証明責任を負 うといえるのではないか とされて
いる32) 。
(3) 裁判例
保険事故前における保険料支払の有無の証明責任について判示 した判決 は, 下級審 にい くつか見 られる。【1】東京地判昭和48年2月23日交民 6巻 1号229 頁判時713号96頁33)は,車両保険および対物賠償責任保険の契約締結 日の翌
日に発生 した交通事故 について保険契約者が保険金支払を求めたところ,被告 会社が契約締結 と保険料支払 は事故の翌 々日であると主張 して争 った事案で, 保険料支払 日の証明責任 につ き次のよう判示 した。
「(保険期 間開始後 も保険料領収前 に生 じた損害 は填補 しない 旨の条項)の趣 旨 は,保険契約 はいわゆ る諾成契約であ って保険料支払 いの有無 にかかわ らず有効 に 成立 しうる ものであ るけれ ど も,保険者 の責任負担 の条件を,保 険料の支払 いにか
28) 新堂 ・文献⑦57頁,中田明 ・判批 ・ジュ リ647号147頁。
29) 加藤 ・文献⑤15頁,東京地判 昭和53年6月29日 (後掲 【3】)の判示 も参照。
30) 新堂 ・文献⑦57貢。
31) 中田 ・前掲判批 (注28)147頁,西 島梅治 ・判 時789(判評201)号151頁,153頁, 新堂 ・文献⑦57頁。
32) 小橋 ・文献⑥65頁。
33) この判決 の評釈 として,新堂 ・文献⑦,大沢 ・前掲判批 (注25),宮原 ・判批 ・ 法律のひろば27巻 4号73頁があ る。
か らしめたものと解 される。従 って, この点 に関す る立証責任 は,右約款の文言 自 体か らは明 らかでない ものの,右趣 旨か ら考えて,保険金を請求す る原告において 負担す るもの,即 ち,本件事故発生前に (右約款 は,「保険料領収前 に生 じた損害」
と表現す るが, これは 「保険料領収前に生 じた事故による損害」の意に解すべ きで あ る ‑ 昭和47年10月1日改訂後 の約款参照)保険料 を支払 った ことを原告 にお いて立証す ることを要す るもの と解するので相当である。」
その上で,契約締結 日について判断せず,保険料支払の 目につ いて原告およ び保険代理店 の一致 した陳述 には疑わ しい点が多 く保険料が事故前 に支払われ た との原告 の主張事実を認 めることはで きない として請求を棄却 した0
これ に対 して 【2】広 島地呉支判 昭和49年 6月 7日判 時770号 98頁34)お よ び 【3】東京地判 昭和53年 6月29日判 時908号 104頁35)は, いずれ も保険者説 に立っ。 【2】 は,約束手形 による保険料支払が有効 とされた事例 だが,その 約束手形の交付 日が真偽不明 とな った。そ こで約定保険期間内に生 じた事故 に ついて保険料未収 を理 由 とす る免責 は抗弁であるか らその証明責任 は保険者 に あると判示 して,保険金支払の請求 を認容 した。 【3】 も同様 に事故後 の契約 締結 と保険料支払であるとの主張を排斥 しているが,保険者が保険料未収の証 明責任を負 うことについて次のよ うに判示 している。
「(保険期間開始後 も保険料領収前 に生 じた損害 は填補 しない旨の)約定 は,保険 者の責任開始の要件を定めたものではな く,保険者 は保険期間の開始時か ら,その 期間内に発生 した交通事故 について損害をてん補すべ き責任を負担す るものではあ るけれども,保険事故の発生時までに保険料が未収であればその事故については保 険者 は責任を免れ るという趣 旨を定 めた もの と解すべ きである。 この見地か らす る
と,事故発生時における保険料の未収はその事故 にか ぎっての保険者の責任阻却事 由であるか ら,その挙証責任 は責任を免れ る効果 を受 ける側が負担す ると解 され
34) 評釈 として中田 ・前掲判批 (注27),西島 ・前掲判批 (注30),小橋 ・文献⑥があ る。
35) 評釈 として加瀬 ・文献④がある。
る。 このよ うに解す ることは立証責任者 に対 し,いわゆ る悪魔の証 明を強 いるもの で はない。保 険契約手続 は実務的 には必ず一定 の書式 によ って な されて いて,《証 拠略》 によれば, 自動車保険 申込書,契約票,保険料領収証 の どれ に も保 険料領収 日欄が設 け られ, しか も 《証拠 略》 によれば,使用すべ き契約票 と保険料領収証 は 複写紙 を重ね,通 し番号 を付 した一式書類 の綴 りにな って いて,保険料領 収 の有無, 領収 日の記載 は必ず保 険者側手許 に残 され るよ うに配慮 されているか らで,責任 を 免れ るべ き場合 に具え る以上, そ うあ って しか るべ きで あるとい うことがで きる。」
以上 はいずれ も証 明責任 の帰属 について明示 した判決例だが, このほかに判 決事実欄 の分類か ら保険者説 に立つ と見 られ る例 として東京地判昭和47年 3月 29日交民 5巻 2号486頁36),お よび東京高判 昭和53年 1月23日判時887号110 頁37)がある。逆 に契約者説 と見 られ る例 は,大阪地判昭和48年12月18日交民6 巻 6号1906頁38)がある39)0
(4) 検討
以上要す るに,下級審 の裁判例で は保険事故発生時における保険料不払の証 明責任が保険者 にあ るとす る立場 と,事故発生 時前 の保険料支払 の証明責任が
36) 結論 は証拠 によ り保険料支払が交通事故後であると認定 して請求を棄却 した。な お ここで は契約締結 自体が事故後であると認定 されている。
37) 評釈 として金津 ・前掲文献 (注5)287頁 (初 出,損害保険判例百選30頁)があ る。契約締結 日と保 険料領収 日のいずれ も事故後であ るとの保 険者 の主張 につ い て,証拠 によ り事故後の契約締結であるとはいえない とす る。
38) 結論 は被告保険者主張の 日に保険料の支払があ った と認定 して,保険金支払債務 存在確認の中間判決を求める申立 に対 して請求棄却の終局判決を下 した ものである。
39) なお札幌高判 昭和57年12月23日判夕486号166貢 は,判例集 に掲載 され た判決文 で は証 明責任 に触れてお らず事実欄 も省略されているが,判例集 の判決要 旨に丁自 動車損害賠償保険契約 における保険料支払の 日の立証責任 は保険契約者が負 うとし た うえ,保険料 は事故発生前 に支払われたと認めた事例」 とあ り, コメ ン トで も契 約者説を前提 に していると説明されている。 このほかに浦和地判昭和58年12月21日 判時1123号113頁 は,保険者 の再抗弁 と保険契約者 の再 々抗弁の双方 に支払の有無
の主張 を書 き,証拠 と間接事実 によ り支払 時期 が事故前 で ない ことを認定 してい る。 その控訴審であ る東京高判 昭和60年3月25日交民18巻2号334頁 も原判決の字 句修正 に とどまるものであ り,証明責任の帰属を読み取 ることはで きない。東京高 判昭和60年3月25日に対す る評釈 として,加藤 ・前掲判批 (注23)182頁がある。
保険契約者 にあるという立場 とに分かれてお り,いずれが多数 とも言い難い。
これに対 して学説上 は,保険者説が多数を占めるが,保険契約者説 もなお提唱 され,加えて保険料支払 自体 は保険契約者が証明責任を負 うが支払時期が保険 事故発生後であることは保険者が証明責任を負 うとす る説 も唱え られている。
そこで検討す るに,まず保険者契約者説 は,約款の趣 旨を責任開始条項また は二重条件 と解す ることを主要な論拠 としている40)が,既 に多 くの文献で指 摘 されているよ うに保険料不払条項の趣 旨を責任開始条項 と解す るか損害不填 補条項 と解す るか とい う問題 は証明責任の帰属を決定す るのに レレバ ン トでは ない。責任開始条項説に立 って も,保険料支払による保険者の責任開始を契約 者が主張立証すべ きなのか,それ とも保険料未払 による責任不開始を保険者が 主張立証すべ きなのか,一義的には決せ られない。二重条件説 は,責任開始時 期 に関す る例外規定ではな く,保険事故発生 と並んで保険料支払を保険金請求 権の発生要件 にすえるので,保険事故の発生につ き証明責任を負担す る被保険 者が保険料支払について も主張立証 しなければな らないと考え られるが,逆に 保険料不払が服部教授のいわゆる具体的保険金債務の発生障害事 由であるとい
うこともで きよう41)。
保険者説の側で も保険料不払条項を免責条項 と解す ることが根拠の一つに挙 げ られている42)が,広い意味での免責事 由の中で も証明責任の観点か ら保険 者の抗弁事 由と否認事由とを区別す るこ とは不可能ではない。そ うした例 は比 較法的に も,例えばフランスの保険法典 L.121‑8条2項 に見 られ る43)。ま た保険料の未払 とい う事 由は,他の免責事 由と異な り保険事故の発生 とは無関
40) 加瀬 ・文献④52頁以下。
41) 服部 ・前掲論文 (注13)357頁 は,保険料の支払を抽象的保険金債務か ら確定的
・具体的保険金債務 に転化す る要件であるとしつつ,「保険料の支払がない限 り保 険事故が発生 して も,具体的保険金債務 は成立 しない」 とも述べ られ る。結局のと
ころこの説 に立 って も,保険料支払が保険金債務の発生要件であるのか,それ とも 保険料不払が保険金債務の発生障害要件なのかは,証明責任の分配に先立 ってあ ら か じめ定まっているとはいえない。
42) 加藤 ・文献(9,石 田 ・文献(彰など。
係 に保険期間開始 の時か ら継続す る状態であ り,免責事 由 と位置付 けた として も責任不 開始 に極 めて近 いので,証明責任を他 の免責事 由 と同様 に解すべ きと は必ず しもいえず,結局免責条項であることだけで は保険者説 を基礎づ けるに 十分でない とい うべ きであ る。
保険料不払条項 の法的構成 はともか く,昭和16年以前 の約款 (前注25参照) のよ うに保険期間の開始時を一元的の保険料領収時 とす るので はな く, 1項で 特定の 日時による保険期間を定 め 2項で保険料未払 の場合の損害不填補 を定め るとい う約款 の構造か ら考 え るな らば,保険者説が正当 と考 え られ る。 とい う の も保険金請求権発生 は保険契約の成立,約定の保険期 間内の保険事故発生, および損害発生 の各要件で一応十分 に論証 され, これに対 して保険料未払を理 由に保険金支払義務不存在 を主張す る保険者 は,その要件すなわち保険事故発 生時における保険料未払 を主張立証 して保険金支払請求権の発生障害 を主張 し なければな らないと解 され るか らであ る。保険契約者説 に立 って事故発生時の 保険料未払の立証 を不要 とす ると,保険料不払条項 を含む約款 による契約締結 は請求原因か ら明 らかであ るため,保険料が支払済みであることを請求原因 に おいて主張 しなければ主張 自体失当 とされよ う44)が,それで は保険料の支払の 有無 と別個 に保険者の責任期間を定める約款の構造 にそ ぐわない ことになる。
また実質的に も,保険契約者説か らは不当な結果が生 じるよ うに思われ る。
保険料債権 について債務者であ る保険契約者 は,保険料の支払 に際 して受取証
43) フラ ンス保険法典L.121‑8条1項 「保険者 は反対 の約定がない限 り,戦争 ・ 内乱 ・騒擾 または暴動 によって起 こった損失及 び損害を担保 しない。」 2項 「これ
らの危険が契約 によって引 き受 け られない場合 において,保険契約者 は,事故が戦 争以外の事実の結果 と して生 じた ものであることを証明 しなけれな らない。事故が 内乱 ・騒擾 または暴動の結果 と して生 じた ものであることの証明責任 は保険者 にあ る。」翻訳 は岩崎稜監訳 『フラ ンス保険法典 Ⅰ 保険契約法』 (財団法人生命保文 化研究所 ・1985)を参照 した。 なお以上 の ほか フラ ンス保険法 にお ける証明責任 については,R.Perrot,Lachargedelapreuveenmatiered'assurance, R.G.A.T.1961.p.5および加瀬幸喜 「フラ ンス法 にお ける保 険金支払 い免脱事
由の立証責任」判夕507号206頁以下参照。
44) 司研編 ・文献⑲62頁以下参照。
書の交付を求めることができ (民法486条), しか もその交付 と保険料支払 とし 同時履行 とされている45)が, これによって保険契約者が確保す るのは保険料 を支払 ったこと自体の証拠であり,それは通常二重弁済の危険を避けるための ものである。保険事故 との関係で保険料の支払時期を明確にす ることを保険契 約者に可能にするものではない。そ して保険契約者にとって保険料支払の正確 な時期を特に明確に してお く必要 は,常にあるわけではない。そもそも保険事 故発生の確率は極めて低いので,いわゆるアフロス契約の場合を除き,保険料 支払直後に事故が発生 してその先後関係が トラブルの対象になることは,誠実 な保険契約者にとって必ず しも予見すべ きとはいえないか らである。これに対 して保険者は大量の契約者を相手にするわけで,一定の割合で常に保険料支払 と保険事故の発生が時間的に接着 して起 きる事態に遭遇するので,保険料支払 時期をめ ぐる トラブルの可能性を予見 して証拠を確保 してお くべ き必要に迫 ら れているといえる。そ して少な くとも保険料の支払があった場合は,その記録 を残す ことが可能であるか ら通常は保険料の支払時期の立証が困難でないはず である。その立証が困難 となるのは保険会社または代理店の杜撰な事務処理 ま たは加巧によるのであって,保険料支払時期をめ ぐる争い防止のため証拠確保 を期待される保険者がその責任を果たさなか ったことに起因するわけであるか
ら,その不利益 は保険者が負 うべきである46)0
しか しなが ら保険者説に立 った場合で も問題 はある。保険者説か らは保険料 不払の事実についての証明責任 も保険者にあるとことになるが,保険者が保険 料の支払を訴求する場合には保険料支払の有無の証明責任は保険契約者にある ので,例えば保険料支払を求める反訴が提起 されたような場合には,本訴 と反 訴 とで矛盾 した判断を強い られるおそれがある47)。 また保険料不払条項 と類
45) 磯村哲編 『注釈民法 (12)』199頁 (石外克喜)参照。
46) 新堂 ・文献⑦57頁参照。
47) 保険者が民法541条 による解除を主張 した場合 はさらに問題である。司研編 ・文 献⑩257頁以下では解除原因 としての債務不履行 について も債権者 に証明責任 はな く,債務者が履行 した事実の証明責任を負 うとされている。 これに従えば保険料の
似 した機能を果たす同時履行の抗弁権 (民法533条) と比較 して も,抗弁権の 成立についてはその抗弁主張者が証明責任を負い反対給付の履行 (の提供)の 証明責任 はその相手方が負担す ると解す るのが一般的である48)。 これは債務 の履行につ き債務者が証明責任を負担すべ きであるとい う一般原則49)の コロ ラ リーだが,その前提 には,前述 したように自己の債務の消滅を主張す る債務 者がその証拠を確保すべ きとの評価があ り, この ことは保険料支払それ 自体に 関す る限 り保険契約で も同様であろう。
このように基本的には保険者説が正当 と考え られて も,保険料の支払 自体が 争われ,真偽不明 となった場合にまで保険者がその不利益を負担す るというこ
とには疑問がある。 そ こで保険料支払の有無 と保険料の支払時期 とを区別 し て,それぞれについて証明責任分配を考える余地を検討 してみよ う。 すなわち 既 に提唱 されていた見解50)だが,保険料の支払 自体の証明責任 は保険契約者 にあるが保険料の支払時期が保険事故発生前でないことの証明責任 は保険者が 負 うと考え ることで,上記の難点を避 けることがで きる。この場合の問題点 は, 保険料支払の有無 という単一の社会的事実 について,支払それ自体 と支払時期
とに分 けてそれぞれ別々の当事者が証明責任を負担す ることの不 自然さが挙げ られよう。 しか し例えば,民法508条 において相殺適状発生 と時効消滅 との先
不払が真偽不明 となった場合に保険者 は解除を認め られる一方で,保険料不払条項 の適用 による保険金支払拒絶 は認め られない こととなる。
48) 保険料不払 に関す る約款の趣 旨を同時履行の抗弁権 と解す る説があることについ ては前記 (2)および前注11)掲記の文献参照。念のためにいえば本稿 は保険料不 払条項が同時履行の抗弁権を規定 した ものであると考えいるわけではない。なお同 時履行の抗弁権の成立要件の証明責任 については争いがある。その点 も含め,同時 履行の抗弁権の証明責任については松本博之 『証明責任の分配』 (有斐閣 ・1987) 137頁以下参照。なお,倉田監修 ・前掲書 (注 1)36貢以下 も参照。
49) 司研編 ・文献⑲253頁以下 は,債務の履行請求,損害賠償請求,解除権行使,失 権約款 による解除,期限の利益喪失のすべてについて,一貫 して債務者の主張立証 責任があるとし,「金銭債務の履行 ・不履行の主張立証責任 をどのよ うに考え るか については,実務上 もほぼ見解が固ま っているもの とお もわれ る」(275貢)として いる。
50) 小橋 ・文献⑥
後が問題 となる場合51)や,手形の変造について変造 と署名の先後関係が問題 となる場合52)など,その例がないわけではない。保険者が保険料の不払を主 張 したのに対 して相手方が保険料の支払を具体的に主張す る場合,事故発生前 の支払の事実を主張せざるを得ないが,その ことは保険料の支払時期の主張立 証責任が保険者にあると解す ることの妨げとはな らない。支払の事実が立証 さ れ支払時期だけが不明 となる事態 はあ りえないことではない53)し,支払時期 が事故発生前であることを保険契約者側が主張 したとして もその時期の真偽不 明の不利益を保険者に課す ことは可能だか らである。
か くして私見を整理す ると,基本的には保険者説に立ち,保険者 は保険事故 の時点 における保険料未払 という要件充足を証明 しなければな らない。その要 件 に当該す る具体的事実 としては,①保険料が全 く支払われなか った,あるい は(診保険料が事故後 に支払われた とい う二通 りがあり,②の場合 はこれを保険 者が主張立証 しなければな らないが,①の場合 は保険契約者が保険料の支払を 立証 しない限 り保険料の支払がなかった もの とされ,従 って保険者の主張す る 事故時点の保険料未払 という要件 は充足 した もの と扱われる。保険契約者が保 険料支払の立証に成功 してその支払時期の争いが残 された場合 は,② と同様に 扱 うこととなる。
3.分割払特約の場合
(1) 2回 目以降の分割保険料の支払遅滞 と休止の効果
PAPの分割払特約 においては, 1で見たように第 1回の分割保険料を支払 わなか った場合 と2回 目以降の分割保険料を支払わなか った場合 とで効果が異 なる。第 1回保険料の支払遅滞の効果 は一時払 と同様で,単純 にその支払前の 事故 に保険金を支払わない と規定 されている (特約第 3条)。その趣 旨も保険 料の簡易な履行確保手段 という点で全 く同 じであるので,その証明責任 につい
51) 司研編 ・文献⑲130貢以下。なお倉田監修 ・前掲書 (注 1)293頁以下 も参照。
52) 松本 ・前掲書 (注48)172頁以下参照。
て も一時払の場合 と同様に考え られる。
これに対 して2回 目以降の分割保険料の支払を怠 った場合 は, 1カ月の猶予 期間をおき,その期間経過後 は支払期 日以降に生 じた保険事故の損害を填補 し ない と規定 されている (特約第5条)。 これ は講学上 「休止 suspention」と 呼ばれ,比較法的に も普遍的な効果 とされている53)0
例えば ドイツ保険契約法 (VVG)39条 は次のように定めている。
1項 「継続保険料 Folgepramicが適 時にrechtzeitig支払 われ ない場合 ,保 険 者 は保険契約者 に対 し契約者 の費用で書面で もって,少な くとも 2週 間の支払期 間 を指 定す ることが で きる ;その署 名 は 自署 の複製 で足 りる。 その際, 2項 3項 に よって期 間満了 に結 び付 け られてい る法律効果 を表示 しなければな らない。それ ら の規定の注意 を欠 いた期 間指定 は無効 とす る。」
2項 「期 間満了後 に保険事故が発生 し,保 険契約者 が事故発生時 に保 険料又 は負 担 した利 息 ない し費用 の支払 につ き遅滞 して いた場合,保 険者 は給付 義務 を免 れ
る。」
(3項以下 略)
またフランス保険法典 L.113‑3条 も次のように規定 している54)。
2項 「保険料 またはその分納分が支払期限か ら10日以 内に支払 われ なければ,煤 険者 の契約履行訴求権 とは無関係 に,契約者が遅滞 に陥 った ときか ら30日後 に しか, 担保 (lagarantie)を停止す る ことはで きない。年払保 険料が分納 されて いた場 合 には,分納保険料の1回分の不払 の場合 に生 じた担保の停止 は,当該 1年期 間の 満了 まで効力を生 じる。契約者 が遅滞 に陥 った後 は,保険料 またはその分納分 はあ
らゆ る場合 に持参債務 (portable)で ある。」 (3項略)
4項 「保険契約が解 除 されない場合 には,遅滞保険料 と停止期 間中に支払期 の到 来 した分納保険料分が,な らびに場合 によ り請求 ・取立費用が,保 険者 またはその
53) 岩崎 ・文献②159頁以下が詳 しい。
54) 翻訳 は原則 と して岩崎監訳 ・前掲書 (注43)89頁 に依拠 した。
ために保険者が指定す る代理人 に払 い込 まれた 日の翌 日正午 に,その契約 は将来 に 向か ってその効力を回復す る。」
(5項以下略)
このように ドイツ ・フランス両国の立法例では,分割保険料の 2回目以降の 支払を怠 った場合,保険者が契約者 に支払を催告 し,その催告後の一定期間経 過 により休止状態に入 る。その場合 に保険者の責任が確定的に消滅す るもので はな く再び保険者が危険を負担す ることが有 り得 ることは,休止 という概念か ら当然であるが,その要件について ドイツ法 は保険契約者が保険料に加えて利 息 または費用を支払 うことと定め, フラ ンス法 は保険料および費用の支払が あった 日の翌 日正午 と定めている55)。 なお ドイツもフラ ンス も保険料の支払 催告を休止発生の要件 としているので,休止解消のために支払 うべ き保険料 は 催告を受 けた保険料 に限 られ るか どうかが争われている56)。 またフラ ンスの 判例によれば休止の効果の存続期間が催告の対象 となった保険料の期間にとど まり,その次の保険料の支払期 日が到来す ると従来の休止 は当然 に失効 し,節 たに催告 しなければな らないとされている57)。
これに対 して我が国の保険約款 PAPの特約条項には,分割保険料の1カ月 以上の不払後 に再び保険責任が発生す る場合の規定がないが,休止の開始につ いて催告を要件 としていない約款の下では催告の対象 となったか どうかを問わ ず,少な くとも分割払特約5条にい う払込期 日後 1カ月を経過 した分割保険料 の全額が支払われることによ り休止状態が終了す るものと解 されよう58)。
問題 はその支払 と保険事故 との先後が争われた場合 の証明責任 の帰属であ
55) このように休止の解消を支払 日の翌 日正午 と定めているのは,支払 日と同 日に保 険事故が発生 した場合 に正確な支払時間の争いが生 じるのを回避 し,さらにあ らゆ る詐欺行為を防止するためだと説明されている。M.PicardetA.Besson,Lesa ssurancesterrestresendroitfrancais,5eed.,tomeler,1982,nolll. 56) この点については ドイツ以外の諸国 も含め,岩崎 ・文献②163頁以下が詳 しい。
なお,HermannEichler,Versicherungsrecht,1966.S.116も参照。
57) 岩崎 ・文献②152頁以下, picardetBesson,op.°it.(n.55),nol12‑C) 参照。