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損害保険における課題

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損害保険における課題

⎜⎜ 因果関係不存在則,危険変動の問題を中心として ⎜⎜

山 本 哲 生

■アブストラクト

告知義務違反による解除の際の因果関係不存在則は片面的強行規定である が,解除の効果をプロラタ式にすることなどにより,約款で因果関係不存在 則を外すことも認められるかどうか検討する。危険増加については,保険料 増額手続のあり方,保険料不払いの効果,引受範囲外の場合の効果等につい て,任意法規範との関係等の観点から検討する。重複保険については,各保 険者の責任を独立したものとしてみる立場と連帯債務としてみる立場の双方 につき検討する。

■キーワード

告知義務,危険増加,重複保険

1.因果関係不存在則について

⑴ 序

告知義務違反により保険契約を解除した場合の保険者の免責につき,いわ ゆる因果関係不存在則がおかれている。すなわち,保険事故発生後に解除し た場合,告知義務違反にかかる事実に基づかずに発生した保険事故による損 害については保険者は免責されない(保険31条2項1号但書)。この因果関 係不存在則が片面的強行規定である(保険33条1項)ことと関連して,たと

*平成21年10月24日の日本保険学会大会(龍谷大学)報告による。

/平成22年1月26日原稿受領。

(2)

えば,自動車保険における免許証の色の不実告知について,因果関係を認め る解釈ができるかどうか,因果関係不存在則を適用しないという約款が認め られる余地はないのかが問題となっている。後者については,典型的には,

告知義務違反の効果としてプロラタ的な処理 を定めると同時に因果関係不 存在則を外すという約款の効力が問題となる。

ある約定が片面的強行規定よりも不利かどうかの判断基準については,判 例はいわゆる総合判断法をとっている(借地法につき,最判昭和31・6・19 民集10巻6号665頁)。それに従えば,因果関係不存在則自体に関しては不利 であっても,他の点で有利な扱いを定める約定は有効と判断する余地がある。

もっとも,因果関係不存在則の趣旨を害さないかどうかについては慎重な判 断が必要である 。

⑵ 因果関係不存在則の趣旨

まず,因果関係不存在則の趣旨について検討する。従来から指摘されてい るのは,告知義務違反による解除の効果が全額免責であることは,告知され ていれば保険料の増額などの措置をすることで保険契約を継続することがで きる場合には制裁的効果をもち,かなり過酷な結果をもたらすことから,制 裁的効果を緩和し,バランスをとるためのものということである 。

因果関係不存在則をこのように位置づければ,告知義務違反の効果をプロ

1) プロラタ方式の意義につき,山下友信 告知義務・通知義務に関する立法論 的課題の検討 黒沼悦郎=藤田友敬編・江頭憲治郎先生還暦記念企業法の理論 下(商事法務,2007年)399頁以下。

2) 借地法につき,鈴木禄弥・借地法上(青林書院,1971年)198頁。

3) 山下・前掲注⑴406頁。また,立証責任は保険契約者側にあり,立証できる 場合は稀であるから,その場合に保険給付を認めても不当ではないこと,一般 人の常識に合致することなどもあげられる。松本烝治・商法改正法評論(増補 再版)(巖松堂書店,1911年)154頁,中西正明 商法の告知義務関係の規定に 関する改正意見について 京大教養学部政法論集1号(1967年)94頁,西島梅 治 商法678条に関する一考察 同・生命保険契約法の変容とその考察(保険 毎日新聞社,2001年)144頁。

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ラタ的にすれば,制裁的効果の緩和の必要性はなくなるのであるから,因果 関係不存在則を維持する理由はないというふうにも考えられる。このような 見地からすれば,片面的強行規定に反するかどうかの総合判断において,プ ロラタという点で契約者側に有利なルールにすれば,因果関係不存在則を外 してもこの原則の趣旨に反するものではないという余地がある 。

しかし,因果関係不存在則をバランスをとるためのものとみたとしても,

このような形でバランスをとることの主たる理由としてあげられるのは,因 果関係がない場合には保険者に不利益がないということである 。つまり,

保険者は不告知事実とは無関係な危険はそのままの保険料で引き受けること ができるのであるから,不告知事実によらずに発生した保険事故に基づく損 害に対して保険金支払義務を負っても保険者はそれに見合う保険料は得てい るのだから何ら不利益はない。この考え方からすれば,いくら告知義務違反 の効果をプロラタ的にしても,そもそも因果関係不存在の場合には保険者は 支払うべきなのだから,因果関係不存在則の適用を否定することはこの原則 の趣旨に反して契約者側に不利ということになりそうである。

しかし,周知の通り因果関係不存在則の合理性については従来から疑問が

4) 契約者側に不利かどうかの判断については,プロラタ的な処理の導入は全体 的にみればバランスをとるものであるといえるとしても,義務違反の効果をプ ロラタにしても因果関係不存在則を外した場合には,因果関係不存在則を適用 した場合よりも不利な扱いを受ける者が必ず出てくるので,契約者側に不利な ものと評価されるという問題がある。これは個々の契約者にとっては不利にな りうる約款を契約者全体として評価することで不利なものではないということ ができるかという問題であるともいえる。一般論として,契約者全体で評価し て不利かどうかを判断するという考え方をとることが妥当かどうかは大きな問 題であるが,因果関係不存在則については,その趣旨がそもそも全体的にバラ ンスをとるというものであるから,契約者に不利かどうかの判断においても,

規定の趣旨に即した形で考える,つまり全体のバランスをみて判断することが 許容されると思われる。

5) 西島・前掲注⑶145頁。また,〔第二次〕法律取調委員会 商法中改正法律案 議事速記録二 日本近代立法資料叢書21(商事法務,1985年)84頁,毛戸勝 元・商法改正法評論(有斐閣,1911年)109頁。

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示されており,たとえば,告知されていれば保険者は保険契約を締結しなか ったであろう場合には,告知されていれば保険者は保険金支払義務を負うこ とはなかったのだから,それにも関わらず因果関係不存在である場合に免責 されないのは保険者に不利益を与えることになるといわれる 。ただし,告 知事項と無関係な危険が存在しているのであれば,その危険を引き受けるこ とはできたはずであり,その意味ではやはり保険者に不利益はないという反 論はありえる。実務上告知されていれば契約を締結しなかったとしても,理 論的には無関係の危険は引き受けられたのであり,義務違反の効果として全 額免責とするのはやはり制裁的効果なのであり,プロラタ的扱いの一種とし て因果関係不存在則を理解するということである 。

もっとも,実務上告知されていれば契約を締結しないという扱いがなされ ているのであれば,正直に告知した者は危険をまったく引き受けてもらえな いが,告知義務違反で加入した者は無関係な危険を引き受けてもらえる結果 となり,これは衡平ではないとの批判はなされている 。

また,日本における因果関係不存在則は保険事故の発生と因果関係がない 限り保険者を免責としないという制度であり,不告知事項が保険給付の範囲 と因果関係がある場合であっても保険者は保険金全額の支払義務を負う 。 この点で保険者には不利益はないとはいえない 。ただ,この保険者の不利

6) 中西・前掲注⑶94頁。

7) 木下孝治 総論⑵ 保険契約における情報格差の是正と不正請求対策 商事 1808号(2007)18頁。また,この点で,因果関係不存在則とプロラタ方式は共 通の基盤に立脚しているものであるとして,(重過失による義務違反の場合に は)因果関係不存在則によらずにプロラタ方式によることを認めるものがある

(契約者に不利かどうかについては,事前にはどちらが不利かは一概には決定 できないとする)。木下孝治 告知義務 竹濱修ほか編・中西正明先生喜寿記 念論文集保険法改正の論点(法律文化社,2009年)49頁。

8) 田辺康平・新版現代保険法(文眞堂,1995年)56頁。

9) ドイツにおける因果関係不存在則とは異なっている。新井修司=金岡京子 訳・ドイツ保険契約法(㈳日本損害保険協会 ㈳生命保険協会,2008年)15頁,

165頁。

10) 毛戸・前掲注⑸109頁。

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益は保険料の追加的徴収手続を定めることで処理できるという考え方はあり えるかもしれない。いずれにせよ免責の可否という点だけで考えれば,この ような場合には,告知義務違反による保険者の不利益はないとはいえないの であって,因果関係不存在則の根拠としての合理性も弱くなるといえよう。

このように因果関係不存在則に理論的根拠がないと考えられる場面におい ては,これは告知義務違反の制裁的効果を緩和するものと捉えて,プロラタ 的扱いを導入すると同時に因果関係不存在則の適用を否定する内容の約款は 因果関係不存在則の趣旨に反するものではなく,有効と考えることができる。

以上をまとめると,プロラタ的扱いと同時に,不告知事項と保険事故の発 生の間には因果関係がなくても,不告知事項と保険給付の範囲との間に因果 関係がある場合には保険者免責を認めるという約款は有効となる。また,告 知されていれば保険契約の締結を拒否したという場合にも,因果関係不存在 則の適用を否定する約款も有効と解する余地がある。告知されていても保険 契約を締結した場合に,保険給付の範囲と因果関係がある場合を除いて,因 果関係不存在則の適用を否定する約款は無効となる。もっとも,諸外国の扱 いをみれば,ドイツの新保険法を除いては,プロラタ方式をとれば因果関係 不存在則は採用しないというのが一般的なようであり ,契約を継続した場 合も含めて,プロラタの扱いをすれば因果関係不存在則を外してよいという 考え方をとる余地がないかについてはなお検討の余地がある。

⑶ 告知事項が危険の徴表である場合

次に,免許証の色のような事項について検討する。免許証の色のような事 項は直接に危険を表すというよりは間接的に危険を表すもの,危険の徴表と いう性質をもつといえよう。因果関係不存在則について,不告知事実と無関 係な危険は引き受けられるという点から理解すると,免許証の色のような事 項については,免許証の色が表す危険と無関係な危険は引き受けられると考

11) 山下・前掲注⑴405頁。

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えるのが自然であり,因果関係を問題とするときには免許証の色自体との因 果関係ではなく,免許証の色が表す危険との因果関係を考える方が自然であ る。因果関係不存在則を制裁緩和で理解するとしても,免許証の色自体との 因果関係を考えるのであれば,因果関係が存在することはありえないので,

保険者が免責になることはないのであり,告知のインセンティブという面か らしてもそのような緩和の仕方が妥当かという問題が生じる 。

このようなことから,免許証の色のような事項につき,それが表す危険と 保険事故の発生との因果関係を問題とする解釈も主張されるわけであるが , 保険法の文言としては,そのような解釈になじみにくいことは明らかである。

それでは,仮に保険法はあくまで告知事項そのものと保険事故との因果関係 を問題としているとして,免許証の色のような事項につき,なぜそのような 態度をとったと考えられるであろうか。

次のような理解は不当であろうか。前述のように,免許証の色のような事 項は間接的に危険を表すという性質をもつ。このような事項は危険との関連 性にばらつきがあり,たとえば,免許証の色はブルーでも些細な違反をした だけで基本的には安全運転の者はいるであろう。つまり,免許証の色は危険 性と関連がないわけではなく,危険選択の材料にすることは妥当であるが,

免許証の色が危険性を正確に反映しているとは限らない。このような事項に ついて告知義務違反があったときにその効果を全額免責としてしまうことは,

本当は危険が高くないのに高いグループに入れられる者については不利益が 大きすぎる。因果関係不存在則は,危険の徴表については,このような考慮 に基づき,原則としては,免責を認めないことにしたという意味をもつ。

なお,免許証の色は,保険契約を締結するかどうかの判断に影響するもの ではなく,保険料の額の判断にしか影響しないという点も特徴的である。た だし,保険の引受の判断に影響を及ぼす事項であっても,危険の徴表という 性質をもつ事項については(たとえば,道徳危険に関する事項),告知事項

12) 浅湫聖志 保険契約法の改正について 損保研究70巻1号(2008年)51頁。

13) 浅湫・前掲注 52頁。

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自体と保険事故発生の因果関係はないという問題は起こるのであり,ここで の問題の本質は危険の徴表をどう扱うかである。つまり,保険の引受の拒否 につながるものかどうかにかかわらず,危険の徴表が告知事項である場合に は,因果関係不存在則は,告知事項が正確に危険を反映するとは限らないた め,保険事故発生後に義務違反による保険者の全面的な免責を認めることは 保険契約者側に過酷であることを緩和する機能をもつものと理解できる。

間接的に危険を表すような告知事項は危険を正確に反映するとは限らない ので,保険者の全面的な免責は過酷すぎるという問題への対処として,保険 事故発生後には保険者の免責を認めないという方法もあるが,保険料の額に ついてしか影響を与えないような事項については,プロラタ方式を導入して 告知義務違反による解除の効果を緩和するという方法もある。合理的な形で 義務違反の効果の軽減措置をとることができるのであれば,因果関係不存在 則という形にこだわる必要はない。保険料の額にしか影響を与えない場合に,

プロラタ方式の形にすることは合理的な軽減措置であり,因果関係不存在則 の趣旨に反するものではなく,そのような意味で契約者にとって不利なもの ではないと評価することができるというべきであろう 。

もっとも,理論的には告知事項と危険とのつながりが薄くなっていくと,

因果関係不存在則を外すことがそもそも妥当ではないということも考えられ る 。したがって,具体的には当該事項と危険とのつながりがどの程度かを 考慮しつつ,義務違反の効果をどのように設定すれば片面的強行規定に反し

14) 萩本修編・一問一答保険法(商事法務,2009年)59頁が料率細分化商品につ いてのみ,因果関係不存在則を外す約款の効力を認める余地があることを示す のは,このように理解することもできるかもしれない。

なお,この場合にも⑵で述べた因果関係不存在則の機能は問題になる。ただ,

これは危険との因果関係を問題とするものであるから,危険との因果関係につ き,⑵で述べたように不存在則を外すことができない場合については,危険と の因果関係について不存在則を約款で定めることになろう。

15) ここまで関連が薄いのであれば,そもそも告知事項としての妥当性が問題に なるのかもしれない。

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ないといえるかを,問題となる事項ごとに考える必要がある。

なお,危険の徴表であるが,保険の引受の可否の判断にかかわる事項につ いては,プロラタ方式を導入しても義務違反の効果の軽減にならないので,

プロラタ方式を導入すれば,因果関係不存在則を外してよいとはいえない 。 たとえば,過去の事故歴を保険料に反映させるが,極端な場合には引受を拒 否するというような場合には,保険料に影響する程度の場合には因果関係不 存在則を外したうえでプロラタ方式で処理することはありうるが,引受拒絶 に相当する場合には,因果関係不存在則を残しておかなければならない 。 ところで,間接的に危険を表す事項ではあるが,危険とのつながりは直接 に危険を表す事項と同程度に密接であるという事項があるとすると,ここま で述べたような意味で義務違反の効果が過酷であるという問題は起こらない。

このような事項があるとすると,危険の徴表への対処の必要性を認めたうえ で,ありうる対処の方法としては,1つには,危険とのつながりが密接な事 項については,告知事項そのものではなく,告知事項が表す危険との因果関

16) ⑵で述べたのは,直接に危険を表す事項に関して,保険金の全額不払いにつ ながらないような事項についての告知義務違反であっても全額免責とすること の緩和策として,因果関係不存在則の代わりにプロラタ方式を導入するという 問題であり,一定程度はそのような処置を認めてよいのではないかと述べた。

⑶は,必ずしも危険を正確に表すとは限らない事項についての告知義務違反の 処理の問題である。⑵では,因果関係不存在則の機能は全体として解除の効果 のバランスをとることであるが,⑶では,危険の徴表である当該事項について,

危険を正確に表すとは限らないのに義務違反の効果が全額免責では過酷すぎる 点を緩和することであり,プロラタ方式の採用により当該事項について,緩和 の効果がなければ,因果関係不存在則の代わりの機能を認めることは妥当では ないであろう。

17) 引受の見地からすれば,もっとも危険が高いであろう場合にまったく免責と ならないというある種不合理な結果になるが,危険の徴表につき義務違反の効 果が過大になることへの対処という見地からすれば本文のようになる。

また,引受を拒絶する場合に因果関係不存在則で処理することについては,

⑵で述べた因果関係不存在則に対する批判が妥当するが,危険の徴表の特殊性 を優先するということになる。

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係を考えるとして,告知事項と危険とのつながりの程度によって,因果関係 の解釈を変えることが考えられる。また,1つには,因果関係不存在則につ いては,告知事項との因果関係を問題にして,保険者の免責を認めず,他の 法理での対応を考えるという方法が考えられる。

このとき,解釈論での対応とは別に約款で手当することが可能であろうか。

間接的に危険を表すという点に関して,被保険者の救済は考える必要がない ので,告知事項との関係での因果関係不存在則を外すことが考えられる。た だし,因果関係不存在則には⑵でみたような,全体的に解除の効果のバラン スをとるという機能があるので,危険の徴表について義務違反の効果を緩和 するという機能の必要はないとしても,全体的に解除の効果のバランスをと るという問題は残っている。したがって,⑵で論じたように,危険との因果 関係を問題とする形での因果関係不存在則を外すことが妥当でない場合には,

そのような規定を約款で定めることが必要となろう。

2.危険増加について

⑴ 序

保険法は契約締結後に危険が増加したときの権利義務の再調整の仕組みに ついて,一定のルールを片面的強行規定として定め,後はそのルールに反し ない限りで契約の定めに委ねるという考え方をとっている。具体的には,危 険増加があっても保険料を増額すれば保険契約を継続できる場合には,原則 として保険者は契約を解除できないという考え方に立ったうえで,保険者が 契約を解除できる要件とその効果を片面的強行規定として定めている(保険 29条1項,31条1項2項2号,33条1項)。危険増加の際の保険料増額の手 続,危険増加によりもはや保険契約を継続できなくなった場合の処理につい ては,法律では規定されておらず,約款の定めに委ねられることになる。

この約款に委ねられた事項については,基本的には契約自由に委ねられて いるものと思われるが,場合によっては保険法上の片面的強行規定と抵触す るかどうかが問題になることもあるかもしれない。また,消費者契約,約款

(10)

取引という点からは不当条項として問題になることもあるかもしれない。こ のような見地から,いくつかの事項につき検討する。

⑵ 一方的増額請求権の妥当性

保険料増額の手続について,保険者の一方的な増額請求権として,危険増 加時からの保険料の増額を求めることができることを定めることが許される と解されている 。ただし,契約内容の改訂であるとみれば,原則としては 保険料の増額には契約当事者の合意が必要であるようにみえる 。この点で,

一方的増額請求権が不当条項にあたるかどうかは問題になりうる。

危険増加時からの一方的な増額を定めることの問題点として,一つには,

保険契約当事者間で増額自体には合意が得られるような場合でも,危険変動 時からの増額を認めることが妥当かということがある。この点については,

契約内容の改訂につき合意が必要であるとしても,契約内容の改訂を事情の 変更時に遡及させるかどうかは契約内容改訂ルールとして確定しているわけ ではない。保険料の増額は危険に応じた対価にするということであるから,

遡及させることは不合理ではない。この点では,一方的請求権にすることは 特に不当ということはないといえよう。

一方的請求権とすることのより大きな問題は,保険者が保険料の増額請求 権を行使した後で,保険契約者が保険料の増額を不服として任意解除権によ り保険契約を解除したようなときに,解除の時点までの増額した保険料支払 義務を負うことである。契約内容改訂ルールになぞらえていえば,当事者間 で内容の改訂に合意が得られずに契約が解除されたとして,保険契約者が解 除の時点まで増加した保険料の支払義務を負うのと同様の効果を認めること は妥当かということである。

この点については,次のようにいえよう。どこまで危険の変動を織り込ん

18) 萩本・前掲注 95頁,江頭憲治郎・商取引法(第5版)(弘文堂,2009年)

440頁等。

19) 潮見佳男・債権総論Ⅰ(第2版)(信山社,2003年)234頁参照。

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で保険料を設定するかは保険者に委ねられており,危険の増加を織り込まな いことによって保険料を低くすることができる 。このことからすれば,保 険料を低くすることで,危険が変動した場合に適切な保険料がとれないリス クを保険者に負わせるのは妥当ではない。したがって,やはり一方的増額請 求権は認めてよいものと思われる。仮に契約改訂の任意法的ルールとは異な るとしても,保険契約における危険増加の局面では,不相当に不合理なもの ではないといえよう。ただし,保険契約者の任意解約権のような契約から離 脱する機会は確保しておく必要はある。

⑶ 保険料不払による解除と解除前の事故についての免責

危険増加により保険料が増額された後で,保険契約者が保険料を支払わな かった場合には,保険者は債務不履行により解除することができる 。この とき,約款で,解除前に生じた保険事故については保険者は免責されると規 定することが考えられる。この免責の根拠は,保険契約の解除は将来効であ ることからすると(保険31条1項),解除の効力では説明できない。また,

危険が増加していても通知義務違反がなければ解除・免責は認められないの だから,危険増加自体を理由として免責を定めたのであれば片面的強行規定 違反といえよう。この点につき,双務契約において反対給付たる保険料支払 債務が債務不履行となっており,契約を解除できる状態になっているのだか ら,保険者の側でも免責とすることは認められるという説明がある 。

保険料支払債務の不履行により,双務契約における反対給付が履行されず,

債務不履行により契約が解除できる場合には免責が正当化されるとして,債 務不履行により解除ができる状態になっていないが保険料の支払前の事故に つき保険者免責とすることは許されるであろうか。

この点につき,債務不履行による解除が認められる状態ではないが,双務

20) 山下友信・保険法(有斐閣,2005年)570頁。

21) 萩本・前掲注 96頁。

22) 萩本修 新保険法 生保論集165号(2008年)17頁。

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契約の反対給付が支払われていないことを免責の根拠とすることは可能であ ろうか。たとえば,保険者の免責を同時履行の抗弁的に位置づけ ,保険料 が支払われていない間は保険者は給付する必要はないといえるであろうか。

仮に同時履行の抗弁として理解したとしても,保険料支払前の事故について は,事後に保険料を支払っても保険者免責となるという約款については,同 時履行の抗弁だけでは説明できない。しかし,同時履行の抗弁に加えて,保 険契約者の機会主義的行動の抑制で説明することが考えられる。つまり,事 後に保険料を支払えば保険金が受領できるとすると,事故が発生しなければ 保険料を払わずにすませ,事故が発生すれば事後的に支払うようになってし まうことを防止するということである。

このように考えると,債務不履行により解除できる状態ではないが保険料 が支払われる前の保険事故につき保険者免責を認める約款は,同時履行の抗 弁と機会主義的行動の抑止で根拠づけることができるようにみえる。しかし,

それぞれを個別にみれば合理的であるとしても,これらが一つになると問題 がある。すなわち,同時履行の抗弁は履行すれば相手の給付も受けることが できるものであり,一切の免責を基礎づけるものではない。ところが,この 場面では保険事故発生後に機会主義的行動の抑止という問題が生じるため,

結果的に保険事故発生前に免責になっていると,もはや後で保険料を支払う ことで反対給付を受けることができない状態になっている。そういう効果を もつものとしてみると,一方的な増額請求権の発生と同時に不払免責という 効果を定める約款の合理性はやはり問題になろう。

したがって,免責を認めるのであれば,保険契約者に単に履行遅滞になっ ていること以上の帰責性を求めるのが妥当であろう。この意味では,やはり 債務不履行により解除ができる状態であることは必要であろう。

23) 倉沢康一郎 火災保険普通保険約款2条2項の意義について 同・保険契約 の法理(慶応通信,1975年)3頁参照。

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⑷ 引受範囲外のルール

危険の増加により保険料を増額しても契約を継続できない場合につき,ど のような場合が引受範囲外に当たるかは契約で定めておかなければならない という考え方がある。引受範囲が契約で定められていなければ,危険増加は すべて引受範囲内の危険増加として扱われるとされる 。このような原則は 契約法のルールとして導くことができるであろうか。

そもそも原則としては,すべての場合について契約で定めておかなければ ならないというルールはない。予想できることであっても契約に書くかどう かは自由である。このことからすれば,予想される危険増加であっても,そ のような危険増加があったときにどのように扱うかを契約で定めなければな らないということは導かれない。

もっとも,保険法では,危険増加が生じた場合に保険料増額をすれば損害 保険契約を継続することができるときであっても,通知義務違反がなければ 解除はできないと規定されている(保険29条1項)。そして,保険料増額の 手続等については保険法には何らの規定もないのであるから,契約で増額手 続を定めておかなければならない。保険料増額手続を契約で定めなければな らないとすると,どういう場合に増額請求ができるかを定めておかなければ ならないことになる。

以上を前提として,保険料増額手続ができる場合に該当せず,かつそれ以 上に危険が増加している場合については,保険料を増額しても引き受けるこ とのできない引受範囲外であると解するのが契約解釈として合理的なように 思われる。このような意味で,つまり,保険料の増額請求により保険契約を 継続することができる場合を契約で定めなければならないことの効果として,

どのような場合が引受範囲外に当たるかということも定められていることに

24) 萩本・前掲注 91頁,洲崎博史 保険契約の解除に関する一考察 論叢164 巻1〜6号(2009年)225頁(明示しなければならないとする)。なお,落合誠 一監修・保険法コンメンタール(損害保険・傷害疾病保険)(㈶損保総研,

2009年)97頁〔出口正義〕。

(14)

なる(契約解釈により判断できる)という意味では,どのような場合が引受 範囲外になるかも契約で定めておかなければならないといえよう。

このように一定の場合は引受範囲外であると解釈することが合理的であり,

そのような場合は保険者は引き受けないものと解釈するのが合理的であると すれば,引受範囲外に該当する場合の効果としては,まさに担保範囲外とい うことで保険者は保険金支払義務を負わないことになろう。

保険法では,保険料を増額すれば契約を継続することができる場合に契約 を解除することについては制限的な規律を置いているが,保険料を増額して も契約を継続することができない引受範囲外の扱いについては特に規律は置 かれていない。契約を継続することができる場合の契約解除について制限的 な規律が置かれていることから,少なくとも当然には,引受範囲外となった 場合の扱いについて契約で定めなければならないという規律は導かれないで あろう。もっとも上記のように,契約の合理的解釈として,一定の場合には 保険者は引き受けないものと解釈することができることからすれば,効果に ついても,このような意味で結果的には契約で定められていることになる。

また,このような考え方からすれば,引受範囲外となった場合の効果につい て,解除権を定め,かつ危険が変動したときから免責と定めることには問題 はないといえよう。

3.重複保険について

⑴ 総説

重複保険となっている場合,各保険者はそれぞれてん補損害額の全額につ き,保険給付を行う義務を負う(保険20条1項)。また,ある保険者が自己 の負担部分を超えて保険金を支払い,他の保険者が共同の免責を得たときは,

保険金を支払った保険者は他の保険者に対して求償できる(同条2項)。こ のような重複保険における各保険者の相互関係については,2つの考え方が

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ありうるように思われる 。

まず,各保険者の保険金支払義務の相互関係について,1つは,それぞれ がまったく独立したものとみる考え方がある(独立主義)。もう1つは(不 真正)連帯債務とみる考え方である 。ところで,保険法20条2項からも分 かるように,ある保険者が保険金を支払った場合,他の保険者は,それぞれ の独立責任額が残損害額を超える程度において共同の免責を得ることになる ものと解される。各保険者の保険金支払義務の関係を連帯債務とみれば,連 帯債務の性質からこのような結論は導かれる。また,独立主義からしても,

同じ結論になる。重複保険の場合に,各保険者が支払う保険金の合計額が損 害額を超えることは,利得禁止からして妥当ではなく,損害保険契約は損害 てん補を目的とする保険契約であるため,被保険者はてん補損害額を超えて 保険金支払を受ける権利はないからである。

次に,自己の負担部分を超えて保険金を支払った保険者が免責を得た他の 保険者に対して求償できることの理論的基礎も,連帯債務として考えるか,

独立主義で考えるかによって異なってくる。連帯債務的に考えれば,各保険 者の債務が相互保証の関係にあるので,先に弁済した者に求償権を認めるも のとして説明される 。独立主義で考えれば,各保険者が独立責任額につき 保険金支払義務を負い,ある保険者の保険金支払により他の保険者が免責さ れることがあるというだけであれば,先に支払った者が損をすることになり,

保険者間の公平も図れないため,保険者間の調整が必要となるので,調整の 規律を定めたものとして説明することになろう 。

25) この点については,山下友信東京大学教授,洲崎博史京都大学教授より示唆 を得た。

26) 黒木松男 重複保険 甘利公人=山本哲生編・保険法の論点と展望(商事法 務,2009年)118頁。

27) (不真正)連帯債務における求償の基礎の理解にもいろいろな考え方はある。

潮見佳男・債権総論Ⅱ(第3版)(信山社,2005年)570頁以下。

28) 松村太郎 超過保険・重複保険 金澤理監修,大塚英明=児玉康夫編・新保 険法と保険契約法理の新たな展開(ぎょうせい,2009年)119頁。

(16)

このような立場の違いにより負担部分の理解も異なってくる。保険法20条 2項では,負担部分は独立責任額の割合によっててん補損害額を按分した額 とされている。独立主義によれば,負担部分は常に独立責任額を基準として 決まることになる。これに対して,連帯債務的理解によると,連帯している 債務について求償を考えるので,基本的には重複保険における実際の保険金 支払債務の額によって負担部分を考えることになるように思われる。この場 合,保険法20条2項は各保険者が被保険者に対して独立責任額の債務を負う という同条1項を前提としたものであると解釈することになろう。

⑵ 負担部分の考え方

これらの立場の考え方の大きな違いとして,独立主義によると,保険金債 務の額を基準としないで常に独立責任額を基準として負担部分が決定される ので,保険金債務の額よりも負担部分の方が多いということも起こりうる。

例えば ,時価100万円の目的物につき,保険者Aと約定保険金額および保 険金額を120万円とする保険契約を締結し,保険者Bと保険金額100万円の 保険契約を締結し,保険者Cと保険金額80万円の保険契約を締結していた とする。全損のとき,Aの負担部分は48万円,Bの負担部分は40万円,C 負担部分は32万円となる。Bが約款で重複保険の場合は比例按分して支払う 旨を定めていたとすると,各保険者の支払義務は,A120万円,B33.3万円,

C80万円となる。この場合,Bの負担部分は債務額より大きくなっている。

これは連帯債務的な考え方ではありえない。

不真正連帯債務における求償について,相互保証的に理解するという考え 方によると,求償が認められるかどうかは各債務が担保的結合をしていると 評価できるかどうかによるとされる 。重複保険の場合に担保的結合がある とみるのは自然であるともいえる。

これに対して,常に独立責任額により負担部分を決めるという考え方は,

29) 萩本・前掲注 132頁注3の設例を借りた。

30) 潮見・前掲注 572頁。

(17)

求償関係が実際の保険金債務の額により影響されることを避けるという考え 方のように思われる。実務的に保険金支払,求償の作業が円滑に行われるよ うにするために,負担部分を実際の債務とは独立して法定したという理解は できるであろう。契約法の考え方というよりは非常に政策的なものとして,

保険法20条2項を理解するということになろうが,法規定が存在している以 上,そのような理解ができないわけではない。また,被保険者に対する債務 額を超えて負担部分を負う場合についてみれば,負担部分の支払が最終的に は保険料に反映されるというのは妥当ではないという見方もあるかもしれな い。しかし,負担部分を独立に定めた方が損害保険業全体としてはコスト削 減につながるとすれば,このような理解も妥当であるといえよう。

⑶ 連帯債務に関する規定の類推適用

いずれの立場によるとしても連帯債務に関する法規定(民432条以下)を 重複保険について類推適用するかどうかは問題となりえる。連帯債務的に理 解した場合でも,これらの規定の当否はそれぞれ個別に検討すべきことであ る 。また,独立的に理解した場合であっても,保険法20条2項が定めるの は,負担部分の算定を実際の債務額とは無関係に行うという点で連帯債務的 に考えないということであるから,これ以外の点で連帯債務の規定を類推適 用することが当然に排除されるわけではないであろう。

たとえば,保険者の一人に対して債務免除をした場合の効果について,負 担部分を債務額とは別に算定するからといって民法437条の類推適用が当然 にありえないことにはならないであろう。保険法20条2項の趣旨は負担部分 の額が債務額により変動することを排除することであり,それにより実際の 支払実務,求償実務が円滑に行われることを意図するものであるとすれば,

負担部分が決まっている場合に,一人に対する免除の効果をどう考えるかは,

負担部分の額について連帯債務的に考えないこととは別問題である。負担部

31) 潮見・前掲注 552頁参照。

(18)

分につき免除の効果が他の債務者にも生じることは求償の連鎖を避けるため であるとすれば ,ここでも類推適用を認めることは可能であろう。

(筆者は北海道大学教授)

32) 我妻栄・新訂債権総論(岩波書店,1964年)416頁。

参照

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凡例(省略形) 正式名称 船舶法船舶法(明治32年法律第46号)

旧法··· 改正法第3条による改正前の法人税法 旧措法 ··· 改正法第15条による改正前の租税特別措置法 旧措令 ···

〔追記〕  校正の段階で、山﨑俊恵「刑事訴訟法判例研究」

年金積立金管理運用独立行政法人(以下「法人」という。)は、厚 生年金保険法(昭和 29 年法律第 115 号)及び国民年金法(昭和 34

(1) 会社更生法(平成 14 年法律第 154 号)に基づき更生手続開始の申立がなされている者又は 民事再生法(平成 11 年法律第

条第三項第二号の改正規定中 「

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