Bu l l . Fa c . Ed u c . Hi r o s a k iUn i v . 9 0:1 9 3‑1 9 9 ( Oc t . 2 0 0 3)
抑 うつの程度が潜在記憶 に及ぼす影響
TheSe ve r i t yo fDe pr e s s i o na ndI mpl i c i tMe mo r yBi a s e s
田 上 恭 子*
Kyo koTAGAM I *
論文要 旨
本研究の 目的は,抑 うつの程度によ り潜在記憶のバ イアスが異 なるか どうか明 らか にす ることであった 。
1 26 名の学生 を対象 に,冊子 を用いた集団一斉方式で実験 を行 った。 は じめに単語の望 ましさを 5 件法で評 定す る学習課題 を行 い.足 し算 を行 うフ ィラー課題の後,潜在記憶 テス トと して形容詞 の連想課題,顕在 記憶 テス トとして学習項 目の 自由再生課題 を施行 し,最後に BDI によって抑 うつの測定 を行 った 。 実験 の結 栄,潜 在記憶 に関 しては,軽 度抑 うつ と重度抑 うつ において ネガテ ィブ ・バ イアスが認め られたが,中等 度抑 うつ においては記憶 バ イアスは認め られなかった。一方顕在記憶 に関 しては,中等度抑 うつ において ネガテ ィブ・ バ イアスが認め られ, また先行研究か らの見解 とは異 な り,重度抑 うつ においてポジテ ィブ ・ バ イアスが示 された 。 抑 うつ の程度が記憶バ イアスに及ぼす影響 について,潜在記憶 と顕在記憶 との間で 分離が生 じることが示唆 された
。キーワー ド:抑 うつ,潜在記憶,顕在記憶
問題 と目的
日常生活の中で,我 々の多 くは憂 うつ な気分 に なった F )落ち込んだ りしたことがあるだろう C こ の ような ときには, 自分がつ まらない人間である と思 えて きた り,悲観的になって しまった り,過 去の嫌 なことばか りが思い出 されて しまって どう
しようもな くなった りす る ものである
。近年,感情 と認知 との相互作用について解明 し ようとす る研究が盛 んにな り,抑 うつ状態 におい ては認知が歪むことが臨床場面や実験 ・調査か ら 明 らか になって きている
1, 2 ‑ 。その中で も,記憶 の特徴 に関 しては非常 に数多 くの実証研究がなさ れ,抑 うつ者の記憶 はネガテ ィブに偏 っているこ と,す なわちネガテ ィブ ・バ イアスが生 じること が見出 されている ( e . g,Ba rg h & To
ta1 9 883 ; Cl a r k
& Teas da l e,1 982
4.:Kui per& Der r y,1 9825 : : Pys zcz yns ki ,Haml l t on.Her r i ng ,& Gr eenber g , 1 9 8 9リ。 これ らの研究の多 くは,記憶測度 として, た とえば 自由再生や手がか り再生,再認な どの課 題 を用いてお り,被験者 に学習時のエ ピソー ドを 意識的に想起す るよう求めている
。この種の記憶
は顕在記憶 ( expl i c i tmemor y)として知 られて いる
。これに対 して,テス ト時に必ず しも先行学 習のエ ピソー ドの意識的想起 を必要 としない記憶 を潜在記憶 ( i mpl i c i tmemor y) と呼ぶ 。 潜在記 憶 は単語完成課題や語幹完成課題,知覚 同定課題 な どによって測定 される
。た とえば単語完成課題 とは,テス ト刺激 として単語 の断片 ( f r agma nt ) を用いる記憶課題である ( た とえば ■ ● かたお もい' ' か ら数文字 を抜 いて虫食い状態 に した " ̲ た̲ も い"を呈示す る)
丁。顕在記憶 と潜在記憶 の区分 については.認知心 理学や神経心理学 の領域 で1 980 年代後半か ら関 心が高 まってお り,健忘症患者の記憶機能の検討 を中心 に数多 くの研究がな されている (レビュー として,Roedi ger ,1 990 8 ; Sc hact er ,1 987 9 ,を参
照 )。その中で も特 に注 目されているのが,顕在 記憶 と潜 在記憶 との分離 ( di s s oci at i on)の現象 である
。た とえば健忘症患者 は顕在記憶 において は記憶機能の低下がみ られるが,潜在記憶 におい ては機能は低下 しない。 この ような分離は健忘症 においてのみ生 じる現象ではな く,加齢や不安 な どの状態 において も示 されている。 したが って,
*弘前大学教育学部心理学教室
De pa r t me nto fPs yc ho l ogy,Fa c ul t yo fEduc at i on,Hi r o s a kiUni ve r s i t y
これまで主 に顕在記憶の測度を用いて きた先行研 究か ら見 出された抑 うつにおける記憶の ネガテ ィ ブ ・バ イアスは,潜在記憶 においては生 じない と い う分離が示 される可能性が想定 される 。
また, 日常生活 において顕在記憶が用い られて いるのほほんの一部 に過 ぎず,潜在記憶が 日常の 活動の重要 な決定要素であることが指摘 されてい る
】o・11。 したが って,抑 うつ と潜在記憶 に関 して 明 らかにす ることが重要である と考 え られる
。この ような中 ,1 990 年代初 め よ り抑 うつ と潜 在記憶 とに関す る研究が増加 して きた。そ して, 顕在記憶 においては抑 うつ者の記憶機能は低下す るが,潜在記憶では低下 しない とい う分離現象が 数々の研究か らほぼ一貫 して示 されている 1 2 〉 ‑ 1 ㌦
さらに,抑 うつ者の記憶 は顕在記憶ではネガテ ィブ ・バ イアスが生 じるが,潜在記憶ではバ イア スが生 じない とい う分離 も幾つかの研究か ら示 さ れている
。た とえば De nny&Hunt( 1 9 9 2) 1 5 'は, 顕在記憶の測度 として 自由再生課題 を,潜在記憶 の測度 として単語完成課題 を用いて,抑 うつ者 と 非抑 うつ者の記憶 の比較 を行 った。実験 の結果, 抑 うつ者 はポジテ ィブな単語 よ りもネガテ ィブな 単語 を多 く再生 し,非抑 うつ者ではその道 にポジ テ ィブな単語 を多 く再生す ることが示 されたが, 潜在記憶 では抑 うつの影響 は認 め られなか った 。
Wa t ki ns , Ma t he ws , W
illia ms o n , &Ful l e r( 1 9 9 2) 1 6'
もまた, 手がか り再生課題 と語幹完成課題 を用い, 抑 うつ者 と非抑 うつ者 を比較 し,同様のパ ター ン
を示 している。すなわち,これ らの先行研究では, 潜在記憶 にお いては抑 うつ者 の記憶 の ネガテ ィ ブ ・バ イアスは生 じない とい う分離が生 じている といえる
。しか し こ の 分 離 に 関 し て , Roedi ger &
Mc De r mot t ( 1 9 9 2)
lT'は,記憶課題で求め られ る 処 理 の 違 い , す な わ ち デ ー タ駆 動 型 処 理 ( dat a‑ dr i ven pr oces s i ng) と概 念駆動 型処 理 ( c o nc e pt ua l l ydr i ve npr o c e s s i ng) との相異 に関 す る問題 を指摘 している。デー タ駆動型処理 とは, 刺激の知覚的形態 によって駆動 される表層的な処 理 の こ とで あ り,知 覚 駆 動 型 ( percept ual l y dr i ve n) とも呼ばれる。一方概念駆動型処理 とは, 刺激の意味や概念 に関す るよ り深 い処理 を指す C
抑 うつ者 の潜在記憶 においてネガテ ィブ・ バ イア スを示 していない先行研究で潜在記憶測度 として 主 に用い られていた単語完成課題や知覚 同定課題 は,刺激の知覚的形態 によって認知的処理が駆動
される ものであ り,デー タ駆動型処理 を反映す る もの といえる 。 しか し,抑 うつは精練化処理 に影 響 を及ぼす とことが指摘 されてお り1 8 ′ ,そのため デー タ処理 を反映す る潜在記憶測度を用いている 先行研究では,ネガティブ ・バ イアスが認め られ なかったのではないか と Ro edi ge r & Mc De r mo t t は述べている
。そ して,テス ト時に刺激の意味 に 注意 を向けさせ概念的処理 を要するような概念駆 動型潜在記憶 テス トを用いた場合 には, ネガテ ィ
ブ・ バ イアスが生 じる可能性がある とい うことを 彼 らは示唆 している
。この指摘 に基づ き, Wa t ki ns eta 1 .( 1 9 96)
ll・は,概念駆動型処理 を反映す ると考 えられる 自由 連想課題 を用いて, うつ病患者の潜在記憶バ イア スを検討 した。結果, うつ病患者 はネガテ ィブ語 を多 く産 出す る とい う気分 一致パ ター ンを示 し た。すなわち,概念駆動型潜在記憶 テス トでは抑 うつ においてネガテ ィブ ・バイアスが生 じること が示 された。
また田上 ( 1 999) ユ 9 ・は大学生 を対象 に, デー タ駆動型 テス トと概念駆動型 テス トの両方 を用い て抑 うつにおける潜在記憶バ イアス を検討 してい る。実験 では,ポジテ ィブ語 とネガテ ィブ語 を学 習 させ た後,デー タ駆動型 テス トでは語幹完成課 題 を,概念駆動型 テス トで は連想課題 を施行 し, 抑 うつ傾向の高低 間で学習語の産出数の比較 を行
った 。 結果,デー タ駆動型 テス トでは抑 うつ傾向 の高低で差はみ られなかったが,概念駆動型テス トでは,抑 うつの高低 によって,連想の産出数 に 差が認 め られた
。しか LWa t ki ns et a 1 . 1 1 'とは反 対に,高抑 うつ者 においてポジテ ィブ語の再生が 多 く,抑 うつ傾 向が高い と潜在 記憶 にポ ジテ ィ ブ ・バ イアスが生 じることが示唆 された
。概念駆動型潜在記憶 テス トを用いた これ ら2 つ の研究 は, Wa t ki ns e t a 1 . 1 1 、ではネガテ ィブ・ バ イ アスが, 田上 1 9 ノで はポ ジテ ィブ ・バ イアスが生 じる とい う正反対の結果 となっている
。なぜ この ような正反対の結果 となったのであろ うか。
Wa t ki ns et a 1 . 1 1の対象 は うつ病 入院患者であ り,抑 うつ尺度 ( Bec kDepr es s i onI nvent or y:
BD I ) の平均得点 は 2 9. 00 ( SD‑9. 27) であ った。
これ に対 し, 田上 1 9 ′で は大学生 を対象 としてお
り,高抑 うつ群の平均 BDI 得点は 1 8 , 5 4( 58‑3 . 6 0)
であった。 この対象の違いや抑 うつの程度の違い
が,バ イアスの方向に影響 している可能性が ひと
つ に考え られる
。そ こで本研 究では,抑 うつの程度の違 いに着 目 し,抑 うつの程度 によって潜在記憶バ イアスの方 向が異 なるか どうか を明 らかにす ることを 目的 と す る。 また従 来,抑 うつ においてネガテ ィブ ・ バ イアスがほぼ一貫 して認め られている顕在記憶 に ついて も併せて検討す る
。方 法 実験計画
第1要 因を抑 うつ の程度 ( 非抑 うつ ・軽度 ・中 等度 ・重度 ;被験 者 間),第 2 要 因をプライ ミン グ ( 学習 ・未学習 ;被験者 内),第 3 要 因を刺激 の感情佃 ( ポ ジテ ィブ ・ニュー トラル ・ネガテ ィ ブ ;被験者内) とす る 3 要 因計画 とした。
被験者
専 門学校生 1 2 6 名 を対象 に実験 を行 った。欠損 値 のある者 1 5 名 を除いた 1 11名 ( 男子 3 6 名 ・女子 7 3 名 ・不 明 2 名) を分析対 象 と した。平均 年齢 は 2 0 . 7 8 歳 ( SD‑0. 80)であった。抑 うつの程度 は BDI 2 0 ) によって測定 した oB DI は 2 1 項 目か ら成 り, 各項 目に含 まれ る 4 か ら6 つの質問文の中で現在 の状態 に最 も当ては まる文 を 1つずつ選択す る も ので あ る。得 点範 囲 は 0か ら 6 3 で,得 点が高 く なるほ ど抑 うつが重度であることを示す。程度の 区分の カ ッ トオフ ・ポイン トについてはウイリア ムス ( 1 9 9 3)
2日に基づ き , 0か ら 1 3 点 を非抑 う つ ,1 4 か ら 2 0 点 を軽 度 ,21 か ら 2 6 点 を中等 度 , 2 7 点以上 を重度 と した。 非抑 うつ群 は 4 0 名,檀 度抑 うつ群 は44 名, 中等 度抑 うつ群 は 1 6 名 ,重 度抑 うつ群 は11名であ り,各群 の B DI 平均得 点は 順 に ,8 . 6 3 ,1 6 . 6 8 ,2 3 . 0 0,31 . 4 6 であった。
刺激
秋 田 ( 1 9 7 3)
22)の形容 詞の連想 反応 出現 傾 向 をもとに,連想価が偏 らない よう配慮 し,ポ ジテ ィブ,ニュー トラル,ネガテ ィブの形容詞連想対 各 1 2 対 ,計 36 対 を作 成 した (た とえ ば …楽 し い 一お も しろい", " 低 い ‑高 い","つ らい ‑普 しい")。連想対 の刺 激語 を潜在 記憶 テ ス トの手 がか り語 に,反応語 をターゲ ッ トに設定 した。 な お, ターゲ ッ ト 3 6 語 はターゲ ッ ト A1 8 語, ターゲ ッ ト B1 8 語 に二分 した。 また学習時に呈示す るフ ィラー語 として連体詞
8語 を用いた。学習 リス ト は フィラ一語 8 語 とターゲ ッ トAもしくは B1 8
語の計 2 6 語 か ら構 成 され,潜 在記憶 テス トで は手
がか り語 3 6 語 を呈示 した。
課題
学習課題 で は, ターゲ ッ ト A も しくは B とター ゲ ッ トの最初 と最後 にフ ィラー語 を 4 語ずつ加 え た 2 6 語 の学 習 リス トの各 単語 につ いて,社 会 的 に望 ま しいか どうか を 5 作法 ( 1; 望 ま し くない
〜5; 望 ましい)で評定 させた。
学習 ‑テス トの間にフィラー課題 を設 けた。 フ ィラー課題で は, 横 に並 んだ数字の隣同士 を足 し, 和の一桁 目の数字 を間に記入 させた。所要時間は
1‑2 分程度であった。
潜在記憶 テス トでは,形容詞の連想課題 を行 っ た 。3 6 語 の手が か り語 各語 か ら最初 に思 い浮か んだ形容詞 1語 を記述す るよう求めた。
顕在記憶 テス トで は, 自由再生課題 を行 った。
学習課題で呈示 された単語 を思 い出 して記述す る よう求めた。
手続 き
冊子 を用いた集団一斉方式 で実験 を行 った。冊 子 は B4 用紙 6 ペー ジか ら成 り,( 丑フェイス ・シー ト,② 学習課題,③ フィラー課題,④潜在記憶 テ ス ト,⑤ 顕在記憶 テス ト,⑥ B DI の順 に構成 され た。施行時 には 1 ペ ー ジ 目か ら順 に進 め ること, 先 のペー ジを見 ない こと,前 のペー ジには決 して 戻 らない ことを教示 した。 なお,学習 リス トに タ ーゲ ッ ト A を含 む冊子 A とターゲ ッ ト B を含 む冊 子B の 2 種類 の冊子 を配布 した。
結 果
潜在記憶
刺激の感情価及 び学習の有無別に,正 しく産 出 された ターゲ ッ トの数 を算 出 した. なお同 じ単語 を複 数 産 出 して い る場 合 は全 て 1とカ ウ ン トし た。図 1 に学習語 における各群 の刺激の感情価別 平均正産出数 を示 した。
ターゲ ッ トの正産 出数 について,抑 うつの程度
(4)×プライ ミング
(2)×刺激の感情価
(3)の
3要因分 散分析 を行 った ところ, プライ ミングの主効果 , 刺激の感情佃 の主効果,抑 うつ ×プライ ミング × 感 情 価 の 2次 の 交 互 作 用 が 有 意 で あ っ た ( FY 1 . 1 07) ‑6. 02,p<. 05;F( 2, 214) ‑3. 05.p<. 05;
FY 6 , 21 4 ) ‑2 . 4 1 ,p<. 05) 。 プ ライ ミングの主効果 に
つ いては,学習語が末学習語 よ りも有意 に多 く産
出されていることが示 され,プ ライ ミング効果が
非抑 うつ 軽度 中等度 重度 抑 うつの手呈度
‑ , T tソテ ィブ諸 ニ ュー トラル持 I ‑ ネガティブ曽
20
16
辛 均 再
12
生 敬08
0
40 0
非抑 うつ 軽度 中等度 重度
糾 うつの程度
I l ‑ ポ ‑ ブほ コ ニュー トラ‑ ‑ ネカティプ謂
図1 各群の学習語における感情価別 ターゲ ッ ト平 均正産出数 (潜在記憶)
示 された。 刺 激 の感情価 の主効 果 につ いて は, ニ ュー トラル語 よ りもネ ガテ ィブ語 が有意 に多 か っ た
( p<. 05 ) .
2
次の交 互作 用 につ いて単純 交互作 用 の検 定 を 行 った ところ,学 習語 にお け る抑 うつ の程 度 と タ ー ゲ ッ トの 感 情 価 の 交 互 作 用 が 有 意 で あ っ た (F t 6, 428) ‑3. 1 2,p<. 0
1)
。 さ らに この 交 互作 用 に つ いて単純 ・単純 主効 果 の検 定 を行 った結 果 ,軽 度抑 うつ群 にお いて ポ ジテ ィブ学 習語 よ りもネ ガ テ ィ ブ 学 習 語 が 有 意 に 多 く 産 出 さ れ (Ft 2. 428) ‑3, 2
5,p<. 05)
, また重 度抑 うつ群 にお い て ポ ジテ ィブ学 習語 , ニ ュー トラル学 習語 よ りも ネ ガ テ ィブ学 習 語 が 有 意 に多 く産 出 され て い る( F t 2, 428)
‑7.46,p<. 0
1) こ とが 示 され た. なお非 抑 うつ群 と中等度抑 うつ群 におい ては,感情価 の 違 い に よって産 出数 に差 は認 め られ なか ったC昂頁在記憶
図
2
に各群 の感情価 別 ターゲ ッ ト平均再生 数 を 示 した。再生 数 につ い て抑 うつ の程 度(4)×刺 激 の 感情価(3)の2要 因分 散分 析 を行 った ところ,抑 う つ の程度 と刺 激 の感情価 の交互作 用 が有 意 であ っ た (F( 6, 21 4) ‑2. 3 5 ,p<, 05)
。 単純 主効果 の検 定 を 行 った結 果 , 中等 度抑 うつ群 にお いてポ ジテ ィブ 語 よ りもニ ュー トラル語 , ネガテ ィブ語 が 有意 に図2 各群の感情価別 ターゲ ッ ト平均正再生数 (顕在記憶)
多 く再 生 され (
Ft 2. 21 4) ‑5. 69 ,p <. 0
1), 重 度抑 う つ群 において ネ ガ テ ィブ語 よ りもポ ジテ ィブ語が 多 い傾 向で あ り (Ft 2, 21 4) ‑2. 59. p< . 1 0)
, また ポ ジテ ィブ語 にお いて 中等 度抑 うつ群 よ りも重度抑 うつ群 で有意 に多 く再 生 されて い るこ とが示 され た (F ( 3. 321 ) ‑3. 72 ,p <. 05) a
考 察
本研 究 で は,抑 うつ の程 度 の違 い に着 目 し,抑 うつ の程 度 に よって潜 在 記憶 バ イ アスの方 向が異 な るか ど うか を明 らか にす る こ とを 目的 に実験 を 行 った。結 果 ,潜 在記 憶 テス トで は,軽 度抑 うつ 群 と重 度抑 うつ群 にお い て ネ ガテ ィブ語 が 有意 に 多 く産 出 され,潜在 記憶 の ネ ガテ ィブ ・バ イアス が 生 じた とい え よ う。 しか し中等度抑 うつ にお い て はバ イアス は認 め られ なか った。 また顕在 記憶 テス トの結 果 ,軽 度 で はバ イ アス は生 じないが , 中等 度 の抑 うつ にお いて は ネガテ ィブ ・バ イアス が , 重 度 で は従 来 の 見 解 とは異 な り, ポ ジテ ィ ブ・バ イ アス傾 向が 示 され たc Lたが って,抑 う つ の程 度 の違 い に よって記憶 バ イアスの有 無及 び 方 向 は異 な る とい え よ う。
潜在 記憶 に関 して は,軽 度 と重 度 の抑 うつ にお いて は ネガテ ィブ ・バ イ アスが生 じて い る こ とか ら
,Ro edi ger & Mc Der mot t
H の指摘 の よ うに,概念駆動型テス トを用 いた場合 には,潜在記憶バ イアスが生 じる可能性があると考 えられる。 この ことか ら,Wi l l i ams eta l . 1 8 )が提唱 しているよう に,抑 うつ は知覚的処理や形態的処理ではな く, 意味的処理や概念的処理に影響 を及ぼす とい うこ とが示唆 される。ただ し本研究では,中等度の抑 うつではバイアスは生 じなかった。
概念駆動型テス トを用 いて抑 うつ における潜在 記憶 を検討 している研 究は非常に数少ないが,た とえばWat ki ns et
a).(2000)】 0
)は 2 つのデータ 駆動型 テス トと 2 つの概念駆動型テス トの 4 つの 記憶 テス トを用いて, うつ病患者における潜在記 憶バ イアスを検討 している。実験の結果,バ イア スが示 されたのは 2 つの概念駆動型テス トの うち 1 つにおいてのみであった。 この先行研究の実験 結果 をふ まえると,概念駆動型処理 を反映すると 考え られる潜在記憶 テス トを用 いた場合であ って ち,課題の違いや抑 うつの程度の違いによって, ネガティブ ・バイアスが生 じるか どうかが変わっ て くることが推察 されるoWat ki ns e
lal. 1 0 ‑も述 べているが,概念駆動型処理は,抑 うつにおいて 潜在記憶バ イアスが生 じる必要条件ではあるが十 分条件ではないといえよう。
一方,顕在記憶 に関 しては,軽度抑 うつではバ イアスは生 じなかったが,中等度ではネガティブ, 重度ではポジティブなバ イアスが生 じている。 こ れ まで顕在記憶 を主な測度 として きた抑 うつ と記 憶 に関す る数多 くの先行研究か ら,抑 うつの程度 が重 くなるにつれ,ネガティブな記憶の促進 も直 線 的に増加 してい くと考 え られて きているが2 3 1 , 本研究では顕在記憶バ イアスに直線的な傾向は示 されなかった。 この点 に関 しては,潜在記憶 と併 せ後述 したい。
本研究の潜在記憶 と顕在記憶の結果 を,バ イア スの有無及 び方 向 とい う観点 で照 らし合 わせ る と,図 3 の ようにまとめることがで きる。図よ り, 非抑 うつにおいては潜在 ・顕在記憶 ともにバイア スは生 じていないが,軽度 と中等度においてはネ ガテ ィブ ・バ イアスの有無が潜在 ・顕在 とで逆 に なっていることがわかる。さらに重度においては, 潜在記憶バ イアスと顕在記憶バイアスの方向が対 称的 となっている。 このことか ら,抑 うつの程度 によってバ イアスの有無及 び方向に,潜在記憶 と 顕在記憶の分離が生 じる可能性が示唆 される。
では,なぜ抑 うつの程度の違いでバイアスの有 無や方向が異 な り,分離が生 じたのだろうか。
ポ ジ テ ィ
ブーーネ
カティ
フバ イ
アスの方
向‑ 潜在記憶
塁頁在記憶 ′
非抑 うつ 軽度 中等度 重度
抑 うつの程度
図
3 抑うつの程度と記憶バイアスの有無及び方向 ひとつには,抑 うつの程度によって,抑 うつの 質 自体が異 なるのではないか とい う可能性が考 え られる。た とえば, うつ病入院患者 と抑 うつ傾 向 の高い健常大学生 とでは,抑 うつ気分の程度は同 じであった として も,認知構造や生物学的神経学 的側面に大 きな相違があ り,この相異が記憶過程 にも影響 を及ぼ しているという可能性 も考え られ よう。 また臨床的な抑 うつ という母集団 と非臨床 的母集団という 2 着間の相異のみならず,本研究 で設定 したような幾つかの段 階で質的違いがある ことも考 え られ うる。 さらには測定 されている抑 うつが特性であるか状態であるか という問題 も影 響 しているか もしれない。 こういった問題は病理 の連続性 を仮定するか どうかに関わるものである と考 えられるが,今後の研究では,こういった抑 うつの質的な相異 に着 目することが重要であると 考 え られる。 また抑 うつの指標 として B DI や SDS な どの質問紙 だけでは な く,他 の指標 に よる測 定 ・ 分類 も必要であるだろう。
第二に,上述の抑 うつの質的相異 にも関連す る
が,ネガティブな気分 を低減 しようとい う動機づ
けの働 きの影響が記憶バイアスに及ぼ されるので
はないか ということが考 えられる.人は一般的に
ポジティブな気分は持続 させ ようとするが,ネガ
ティブな気分は軽減 ・横和 させ ようとする動機づ
けが働 くと考 え られている2 4 ㌧ そ して,特 にネガ
ティブな気分にある者 はその気分 を軽減 ・緩和 さ
せ ようとす るために,反対のポジティブな感情価
を持つ情報 を選択的に処理 し,気分不一致的なバ
イアスを生 じさせ ることもあることが示 されてい
る 2 5 )2 7 ) 。 したがって,抑 うつ状態 はネガティブな
気分 にあ り,それを軽減するためにポジティブな
情報 に目を向け,結果 としてバ イアスが生 じなか
った りポジティブ ・バ イアスが生 じた りす る可能
性があるのではないか と考えられる。そ してこの
動機づ けの働 きが,ある抑 うつの状態では顕在記 憶 に影響 を及ぼ し,ある状態では潜在記憶 に影響 を及ぼす とい うように,抑 うつの質の違 い と関連 しているのではないだろ うか。
今後の抑 うつ一 記憶研 究 にお いて は, この よう な抑 うつの質の違 いや媒介変 数 としての動機づ け に 目を向けることが必要 なのではないか と考 え ら れる。 どの ような抑 うつの状態でネガテ ィブ ・バ イアスが生 じ, また生 じないのか を明 らか にす る ことは,抑 うつ症状 を訴 える患者や相談者 を援助 す る臨床場面や 日常生活 において も役立 ち得 る も のである。今後 よ り精微 な研 究 によって知見 を重 ね,抑 うつ における記憶 の メカニズムを解 明 して い くことがのぞ まれ よう。
引用文献
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