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博士論文審査報告書

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Academic year: 2022

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(1)早稲田大学大学院 先進理工学研究科. 博士論文審査報告書. NAD 代 謝 改 変 に よ る ミ ト コ ン ド リ ア機能障害からの神経保護 Neuroprotection against mitochondrial dysfunction by modification of NAD metabolism. 申. 請. 者. 德永. 慎治. Shinji. TOKUNAGA. 電気・情報生命専攻. 細胞分子ネットワーク研究. 2013 年. 2月.

(2) 神経軸索の変性もしくはそれに類似した過程は神経系におけるさまざまな生 理的・病理的過程において観察される。最も典型的な軸索変性は神経軸索の傷 害の後に傷害部位より末梢部分で観察される変性であり、ワーラー変性と呼ば れるものである。例えば実験動物としてよく用いられるマウス・ラットにおい ては末梢神経である坐骨神経を切断した場合、切断部位より末梢側の軸索は切 断後直ちに変性を開始し、約 4 日後までには神経軸索の構造蛋白質の一つであ る Neurofilament の 免 疫 原 性 は 消 失 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 これに類似した神経変性の過程は、このような機械的切断や坐滅以外にもさ まざまな病理的・生理的状況において観察される。例えば、代謝性疾患(糖尿 病、アルコールの慢性的過剰摂取など)を原因とする末梢神経変性は、末梢神 経の変性疾患の原因として最も多いが、このような疾患では神経細胞が長期間 にわたり慢性的に傷害刺激に曝露されることによって、神経軸索がその最も末 梢 側 か ら 徐 々 に 退 縮 す る 。“ D y i n g b a c k“ と 呼 ば れ る こ の 状 態 は 、軸 索 変 性 過 程 であると考えられる。神経軸索変性過程に関する研究は、このような見かけ上 類似したメカニズムの分子レベルでの詳細を明らかにすると同時に、疾患治療 につながる可能性を持っている。 軸索変性が、抑止可能な反応過程であることは、軸索変性が遅延する自然発 症 変 異 マ ウ ス w l d s の 存 在 に よ っ て 最 も は っ き り と 示 さ れ た 。こ の マ ウ ス は 実 験 動物としての飼育環境下では発生、生殖などにおいて正常動物と区別すること が で き な い が 、 神 経 傷 害 後 の 軸 索 変 性 が 著 明 に 遅 延 す る 。 1990 年 代 の 研 究 に よ っ て 、こ の マ ウ ス の 軸 索 変 性 遅 延 は 軸 索 に 内 在 す る 変 化 で あ っ て S c h w a n n 細 胞 に は 無 関 係 で あ る こ と が 示 さ れ て い た が 、 2000 年 前 後 の 一 連 の 研 究 に よ っ て NAD( nicotinamide adenine dinucleotide) の 合 成 反 応 系 を 構 成 す る 酵 素 の 一 つ で あ る 、 N M N AT 1 ( n i c o t i n a m i d e m o n o n u c l e o t i d e a d e n y l y l t r a n s f e r a s e 1 ) の 全 長 が 含 ま れ た 変 異 蛋 白 質 Wlds の 発 現 が 軸 索 変 性 遅 延 フ ェ ノ タ イ プ の 原 因 と な っ て い る こ と が 示 さ れ 、 さ ら に 、 2004 年 に 申 請 者 が 所 属 す る 研 究 グ ル ー プ は 、 Wlds に 含 ま れ る NAD 合 成 活 性 が 軸 索 変 性 遅 延 の 表 現 型 に 必 須 で あ る こ と を明らかにした。申請者らの所属研究室グループを中心としたその後の解析か ら 、 N M N AT 酵 素 活 性 が ミ ト コ ン ド リ ア に 存 在 す る こ と が 軸 索 変 性 遅 延 フ ェ ノ タ イ プ の 発 現 に 重 要 で あ る 、 と い う 可 能 性 が 示 さ れ て き た が 、 N M N AT 酵 素 活 性のミトコンドリアにおけるどのような作用・機能が軸索の構造維持につなが るのかは未だ明らかではない。 申 請 者 の 研 究 は 、 N M N AT 酵 素 活 性 の 発 現 に よ る 軸 索 変 性 遅 延 メ カ ニ ズ ム を 理解するうえで重要と考えられる下記の内容に関する検討を行ったものであり、 本論文は4章から構成されている。第1章では本研究の内容についての背景及 び導入部分が記述されている。 第 2 章 で は 、 wlds マ ウ ス 由 来 神 経 細 胞 が 脳 虚 血 - 再 灌 流 モ デ ル に 対 し て 著 明 な 抵 抗 性 を 示 す 機 序 の 解 析 に つ い て 記 述 さ れ て い る 。 神 経 細 胞 に お け る Wlds. 1.

(3) 蛋白質発現により、軸索変性遅延だけではなく、神経細胞死の抑制の報告がい く つ か 見 ら れ る が 、細 胞 死 を 引 き 起 こ す す べ て の メ カ ニ ズ ム を W l d s 蛋 白 質 発 現 が抑制しているわけではない。 そ こ で 申 請 者 は 、 Wlds 蛋 白 質 発 現 に よ っ て 神 経 細 胞 が 細 胞 死 か ら 保 護 さ れ る こ と が 知 ら れ る 「 脳 虚 血 ― 再 灌 流 モ デ ル 」 を 用 い て 、 Wlds 蛋 白 質 発 現 が ど の よ う な 機 序 を 通 し て 細 胞 保 護 に 繋 が る の か を 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 ま ず 、 Wlds 蛋 白質を発現する神経細胞は、低酸素刺激の後の再酸素化の際に生じると思われ る細胞傷害に対する保護作用を最も顕著に示すことを明らかにした。更に、再 酸素化に伴うストレス機序として考えられる様々なストレス刺激を神経細胞に 与えたところ、ミトコンドリア電子伝達系阻害剤のいくつかが引き起こす細胞 死 を Wlds 過 剰 発 現 が 抑 制 す る こ と を 見 い だ し た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 Wlds 過 剰発現はミトコンドリア電子伝達系障害が関与する神経変性に対して,細胞全 体に及ぶ神経保護効果を発揮する可能性が示唆された。このことから、ミトコ ンドリア電子伝達系障害のようなミトコンドリア障害が引き金となる膜電位の 低下が、軸索変性過程や一部の神経疾患における細胞死の進行に重要な役割を 果 た し 、そ の 分 子 機 序 に N A D 合 成 活 性 亢 進 が 作 用 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 第 3 章 で は 、N A D 前 駆 体 の N a m( n i c o t i n a m i d e )に よ る 神 経 突 起 変 性 遅 延 機 序 の 解 析 に つ い て 記 述 し て あ る 。 申 請 者 の 所 属 研 究 室 で は 、 NAD 合 成 反 応 系 の 基質・中間反応産物の投与による軸索変性遅延のメカニズムについても検討を 行 っ て き た 。 後 根 神 経 節 細 胞 細 胞 を 用 い た in vitro ワ ー ラ ー 変 性 モ デ ル に お い て は 、 N M N AT 酵 素 活 性 の 過 剰 発 現 の ほ か 、 N A D 合 成 反 応 系 の 基 質 ・ 中 間 反 応 産物の培養液中への投与によっても軸索変性遅延が生じるのを観察することが で き る が 、 化 合 物 投 与 に よ る 変 性 遅 延 効 果 は N M N AT の 過 剰 発 現 に よ る 変 性 遅 延 効 果 と 比 較 し て か な り 弱 く 、 ま た 各 化 合 物 は mM レ ン ジ の 非 生 理 的 高 濃 度 で の投与を必要とすることから、こうした化合物投与による軸索変性遅延がどの よ う に し て 生 じ て い る の か 、 N M N AT 酵 素 活 性 の 過 剰 発 現 に よ る 変 性 遅 延 効 果 と同じメカニズムを介しているのか、に関しては不明な点が非常に多かった。 そ こ で 申 請 者 は 、細 胞 内 N A D の 量 的 変 化 に よ っ て 影 響 を 受 け る 因 子 が ミ ト コ ンドリア機能調節に関わるとの仮説を立て、後根神経節細胞のワーラー変性モ デ ル を 用 い て 、Nam に よ る ミ ト コ ン ド リ ア 機 能 の 保 護 効 果 と そ の 作 用 機 序 に つ いて解析した。ミトコンドリアは、電子伝達系酵素群による細胞内エネルギー 産生基地としての機能のほか、カルシウムイオンのリザーバーとなって細胞内 カルシウムイオン濃度の調節を行う機能など多様な機能を持つが、それらの機 能のほとんどはミトコンドリア膜電位に依存することが知られている。このた め、申請者は切断された神経突起中のミトコンドリア膜電位を蛍光試薬によっ て可視化し、ミトコンドリア活性の指標として測定した。その結果、切断され た神経突起中のミトコンドリア膜電位は時間依存的に、かつ神経突起断片化に 先 行 し て 減 少 し た 。そ れ に 対 し 神 経 突 起 切 断 と 同 時 に N a m を 投 与 し た 場 合 、神. 2.

(4) 経 突 起 の 断 片 化 と 同 様 、 ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 の 消 失 は 抑 制 さ れ た 。 Nam 投 与 による神経突起変性遅延効果は、突起切断後に投与した場合でも有効なため、 一 度 減 少 し た ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 に 与 え る Nam の 影 響 を 調 べ る こ と が で き る。そこで切断された神経突起中のミトコンドリア膜電位が有意に減少した時 点 で N a m を 投 与 し た 結 果 、ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 の 回 復 は 確 認 さ れ な か っ た が 、 神経突起変性の進行及び更なるミトコンドリア膜電位の消失は抑制された。 N a m の 細 胞 外 投 与 が ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 を 維 持 す る 分 子 機 序 と し て ,N a m が NAD 生 合 成 経 路 を 介 し て 還 元 型 NAD( NADH) と な り , ミ ト コ ン ド リ ア 電 子 伝 達 系 を 活 性 化 す る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 そ こ で , 申 請 者 は in vitro ワ ー ラ ー 変 性 モ デ ル を 用 い て 、 Nam か ら NAD へ の 生 合 成 経 路 に お け る 律 速 酵 素 と し て 知 ら れ 、N a m を N M N( n i c o t i n a m i d e m o n o n u c l e o t i d e )へ と 合 成 す る N a m p t ( nicotinamide phosphoribosyltransferase ) を 阻 害 し 、 Nam に よ る 神 経 突 起 変 性 遅 延 効 果 に 対 す る 影 響 を 調 べ た 。 Nampt 特 異 的 阻 害 剤 投 与 も し く は RNAi を 用 い て 神 経 細 胞 に お け る Nampt の 機 能 を 強 く 抑 制 し た 場 合 に お い て も Nam 投 与 に よ る 軸 索 保 護 効 果 の 低 下 は 認 め な か っ た 。 こ の 結 果 は 、 Nam 投 与 に よ る 軸 索 変 性 遅 延 効 果 は 、ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 を 消 失 さ せ る 方 向 へ 導 く 分 子 機 序 、 あるいはミトコンドリア膜電位低下を伴う分子機序を抑制する作用によって現 れる可能性が示唆された。 以 上 の 知 見 を 踏 ま え 、第 4 章 で は 総 合 討 論 及 び 今 後 の 展 望 が 記 述 さ れ て い る 。 高齢化社会の進展に伴い、老化とともに進行する疾患への治療アプローチは 一層その重要度を増しており、多くの場合老化と共に進展する神経疾患の有効 な予防・治療法の開発は喫緊の課題である。軸索変性遅延メカニズムの解明と その治療応用が目指すのは神経細胞の代謝機構の改変による神経細胞保護であ り、いわば老化を抑制することによって老化とともに進行する疾患の進展を抑 制しようとする画期的な治療戦略である。また、神経軸索変性を「一旦形成さ れた神経突起を壊すメカニズム」として見た場合、傷害や疾患における変性メ カニズムと類似した機序は、神経系の発生や学習・可塑的機序などを含め、神 経細胞の一生を通した細胞機能調節機序にも関係が深い。 本 論 文 の 成 果 は 、神 経 軸 索 変 性 の メ カ ニ ズ ム を 理 解 し 、今 後 の 神 経 変 性 疾 患 治 療に対する神経保護的疾患治療法開発を考えていく上で重要な知見を与えてい る 。よ っ て 、本 論 文 は 博 士( 理 学 )の 学 位 論 文 と し て 価 値 の あ る も の と 認 め る 。 2013 年 1 月 審査員 (主査)早稲田大学教授. 博士(理学)名古屋大学. 岩崎. 秀雄. 早稲田大学教授. 薬学博士(九州大学). 柴田. 重信. 早稲田大学教授. 理学博士(東京都立大学). 井上. 宏子. 荒木. 敏之. 国立精神・神経医療研究センター部長 医学博士(大阪大学). 3.

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