赤痢菌型別検査方法としての Amplified Fragment Length
Polymorphism(AFLP)法の有用性の検討
1) 福岡県保健環境研究所,2) 国立医薬品食品衛生研究所野田多美枝
1)村上 光一
1)濱
光宏
1)石黑 靖尚
1)宮原美知子
2) (平成 18 年 2 月 15 日受付) (平成 18 年 5 月 8 日受理)Key words : Shigella, bacterial strain typing, amplified fragment length polymorphism(AFLP),shigellosis, molecular epidemiology
要 旨
分子疫学的解析法の一つである amplified fragment length polymorphism(AFLP)法が,赤痢菌に対す る型別方法として有用であるか否かを検討した.赤痢菌 51 株を,AFLP 法とコリシン型別法およびパルス フィールドゲル電気泳動法(PFGE 法)の 3 法で型別し,「型別能力」,「再現性」,「識別能力」,「解釈の容 易さ」および「実行の容易さ」の 5 項目について比較を行った.その結果 AFLP 法は,型別能力が 100%, 識別能力が Simpson s Index にて 1.000 と優れている反面,結果の解釈の容易さ,実行の容易さ,さらに再 現性が劣っていることが明らかになった.このうち再現性は,ATCC 株 3 株について 3 回繰り返して全工 程を実施し,結果を比較したところ,AFLP 法は株により Dice 係数を用いた相似値で 81.9% から 90.5% で あり,PFGE 法の 92.3% から 100% に比べ劣っていた.しかし,再現性が若干劣っていても系統樹を作成 してクラスター解析を行うには問題はないと考えられた.これらのことから,AFLP 法は再現性が若干低い ため,赤痢菌に対しては,クラスター解析の手法としては有用であるが,単独で感染源および感染経路特定 のための型別方法として用いるのは困難であると結論付けられた. 〔感染症誌 80:513∼521,2006〕 序 文 細菌性赤痢は,現在でも世界で毎年約 8,000 万人が 罹患し,うち約 70 万人が死亡している1) .我が国でも 細菌性赤痢は,「感染症の予防および感染症の患者に 対する医療に関する法律」で二類感染症に分類され, その病原菌は「食品衛生法」で食中毒の病因物質とし て 1999 年に追加された.我が国における細菌性赤痢 患者(疑似症患者および保菌者を含む)の届け出は 2001 年 844 例,2002 年 699 例,2003 年 473 例,2004 年 578 例である(国立感染症研究所 感染症情報セン タ ー 細 菌 性 赤 痢 2004 年 http:!!idsc.nih.go.jp! disease!shigellosis!2004chumoku.html).2001 年には 韓国産カキを原因とする大規模広域食中毒に発展した 事例2) があり,かつ生カキを摂食した家族からの二次 感染も起こっている3) .このように赤痢菌による食中 毒が発生した場合には,他の多くの食中毒とは異な り,患者からの二次感染が起こる場合がある.したがっ て細菌性赤痢は,今なお重要な感染症であり,赤痢菌 は食中毒の重要な病因物質でもある. 一方,感染症,食中毒の感染拡大防止,および再発 予防には,感染源特定,感染経路特定,および過去の 流行の再燃か,新たな流行であるのかの特定などを行 うための情報を得ることが重要であり,これらの情報 を得る手段として型別検査が用いられる.赤痢菌の場 合は,感染症および食中毒の両面の性質を持つことか ら,型別検査の重要性がより増大する. 赤痢菌の型別検査としては,まず血清型別検査が選 択される4) .赤痢菌は血清型別検査によって,4 菌種 に大別され,さらに Shigella sonnei 以外の 3 菌種は菌 種内で細かい血清型に型別される.しかし,国内で一 番多く分離される S. sonneiは,菌種内での細かい血清 型がなく,感染源特定あるいは感染経路特定のために 原 著 別刷請求先:(〒818―0135)福岡県太宰府市向佐野 39 福岡県保健環境研究所病理細菌課 野田多美枝
は,さらなる型別検査が要求される.それらには,表 現型別検査では,コリシン型別(S. sonneiのみ),ファー ジ型別および薬剤感受性試験,遺伝子型別検査では, プラスミド解析,リボタイピングおよびパルスフィー ルドゲル電気泳動(PFGE)法などがある4) . 一般に遺伝子型別検査の方が,表現型別検査より優 れているとされるが,赤痢菌の遺伝子型別検査として は,現在 PFGE 法が多用されている5)6) .しかし,PFGE 法は検査に約 1 週間の日数を要し,操作も煩雑である といった問題点もあり,細菌性赤痢の感染拡大防止の ための迅速な対策を行うには,PFGE 法の能力を上回 る新たな型別検査方法が必要である.
Amplified fragment length polymorphism (AFLP)法7)
は,菌 か ら 抽 出 し た DNA を 2 種 類 の 制限酵素で消化し,得られた DNA 断片のうち特定の も の の み を 選 択 的 に polymerase chain reaction (PCR)で増幅した後,正確な DNA 断片の長さ を DNA 自動シークエンサー等により測定して多型を解 析する方法であり,検査に要する日数が PFGE 法の およそ半分でかつ,識別能力が高いことなどが報告さ れている.また本法は,従来から植物の遺伝子解析8) に利用されており,細菌の分野では,Campylobacter に対する疫学的研究9) やメチシリン耐性 Staphylococcus aureusの遺伝子型別についての報告10)などがあり,優 れた型別方法であるとされている.しかし,すべての 細菌に有用であるとされる型別検査方法はなく,他の 細菌に応用可能な型別検査が赤痢菌に有用であるかど うかは実際に検討してみないと不明であり,さらに有 用性の検討は,一定の基準に基づいて正確および公正 に能力を評価することが大切であると考えられる11) . そこで我々は,一定の基準に基づいてこれらの長所を 持つとされる AFLP 法の能力を,コリシン型別法お よび PFGE 法の能力と比較することにより,赤痢菌 の型別検査としての有用性を明らかにすることを目的 として検討を行った. 材料と方法 1.供試菌株 患者の渡航先や分離時期など,明らかに由来の異な る患者からの分離株 31 株と,国内同一集団感染事例 株 10 株および American Type Culture Collection (ATCC)株 10 株の計 51 株を用い た.菌 種 の 内 訳 は,S. sonneiは ATCC 株 5 株および同一集団感染事 例株 10 株を含む患者分離株 37 株の計 42 株,S. boydii は ATCC 株 5 株,S. flexneri は患者分離株 3 株および S. dysenteriaeは患者分離株 1 株である(Table 1). 2.AFLP 法
AFLP 法は,DNA の抽出,DNA の制限酵素によ る切断,制限酵素断片へのアダプターのライゲーショ
ン反応,二段階の PCR による選択的な DNA 断片の 増幅(preselective PCR および selective PCR),PCR 産物のシークエンサーによる泳動,ソフトウエアによ る泳動データの解析の各段階からなっている.
赤痢菌の DNA の抽出は,菌株を LB Broth Lennox (Difco 社)を用いて 35℃,24 時間振とう培養した ものから,DNA 抽出キットの ISOPLANT(Nippon Gene 社)を用いて行った.DNA 溶液中の RNA を除 くため,キット添付の RNase A で反応させ,終了後 はフェノール!クロロホルム!イソプロピルアルコール (25:24:1)(Nippon Gene 社)処理を行い,再度 エタノール沈殿を実施したものを,AFLP 法のサンプ ル DNA とした. DNA の制限酵素による切断,制限酵素断片へのア ダプターのライゲーション反応,および二段階の PCR は,Applied Biosystems 社の AFLP microbial finger-printing の試薬キットを使用した.AFLP 法を赤痢菌 に応用するにあたり,初めはこの試薬キット添付のプ ロトコールに準拠した反応条件で行った.しかし,検 出される DNA フラグメントの本数が少なく,かつ蛍 光強度(ピークの高さ)が弱いため,反応条件を変更 した.以下には,変更後実施した方法を記載している. 酵素混合液は 1 サンプル当たり,10×T4 DNA Li-gase Buffer with ATP(New England Bio Labs 社) を 0.1µL,0.5M NaCl を 0.1µL,5U!µL MseI(第一化 学)を 0.2µL,50U!µL EcoR I(タカラバイオ社)を 0.1µL,100U!µL T4 DNA Ligase(New England Bio Labs 社)を 0.1µL,および滅菌蒸留水 0.4µL を混合し て作成し,スピンダウンの後,氷冷した.制限酵素ラ イゲーション反応用のプレミックス液は,1 サンプル 当たり 10×T4 DNA Ligase Buffer with ATP を 1 µL,0.5M NaCl を 1µL,1mg!mL 牛血清アルブミン を 0.5µL,MseI Adaptor pairs を 1µL,EcoR I Adaptor pairs を 1µL,および酵素混合液を 1µL 混合し作成し た.MseI Adaptor pairs と EcoR I Adaptor pairs は, あらかじめ 95℃5 分間の熱処理後,室温で 10 分間放 置したものをスピンダウンの後使用した. このプレミックス液 5.5µL に,サンプル DNA 0.1µg を溶解した滅菌蒸留水 5.5µL を加えた.この溶液を サーマルサイクラーで 23℃,8 時間,ついで 60℃,20 分間反応させた.サーマルサイクラーは PCR Thermal Cycler SP TP 400(寶酒造株式会社)を用いた.こ の反応液に,10 倍希釈した TE buffer を 189µL 加え て反応希釈液とした.
反応希釈液を 4µL,EcoR I preselective Primer (Core sequence)を 0.5µL,MseI preselective Primer (Core sequence)を 0.5µL,AFLP Amplification Core Mix を 15µL,それぞれ混合し,preselective PCR を
Table 1 Typing results for each isolate or strain using colicin typing, pulsed-field gel electrophoresis, and amplified f rag-ment length polymorphism
Amplified fragment length polymorphism Pulsed-field gel
electrophoresis Colicin typing
Origin or at the making of a passage destination Year of Isolation Spices No. 1 1 6 ATCC 9290 S.sonnei 1 2 2 2 ATCC 11060 S.sonnei 2 3 3 Untypeable ATCC 29029 S.sonnei 3 4 4 0 ATCC 29030 S.sonnei 4 5 4 0 ATCC 29031 S.sonnei 5 6 5 Untypeable Domestic outbreak in Japan
1989 S.sonnei 6 7 6 Untypeable Same as case No.6
1989 S.sonnei 7 8 5 Untypeable Same as case No.6
1989 S.sonnei 8 9 5 Untypeable Same as case No.6
1989 S.sonnei 9 10 5 Untypeable Same as case No.6
1989 S.sonnei 10 11 5 Untypeable Same as case No.6
1989 S.sonnei 11 12 5 Untypeable Same as case No.6
1989 S.sonnei 12 13 5 Untypeable Same as case No.6
1989 S.sonnei 13 14 6 Untypeable Same as case No.6
1989 S.sonnei 14 15 7 Untypeable Same as case No.6
1989 S.sonnei 15 16 8 6 Uncertain 1989 S.sonnei 16 17 9 6 Uncertain 1990 S.sonnei 17 18 10 6 Uncertain 1992 S.sonnei 18 19 11 6 Uncertain 1994 S.sonnei 19 20 12 6 Uncertain 1994 S.sonnei 20 21 13 12 Uncertain 1995 S.sonnei 21 22 14 Untypeable Uncertain 1995 S.sonnei 22 23 15 6 Thailand and Singapore
1996 S.sonnei 23 24 16 0 Domestic sporadic infection
1997 S.sonnei 24 25 17 8 Indonesia 1997 S.sonnei 25 26 18 6 Vietnam 1997 S.sonnei 26 27 19 Untypeable Thailand 1998 S.sonnei 27 28 20 6 Indonesia 1998 S.sonnei 28 29 21 0 Thailand 1998 S.sonnei 29 30 22 0 Thailand 1998 S.sonnei 30 31 23 9A Thailand 1998 S.sonnei 31 32 24 6 Singapore 1998 S.sonnei 32 33 25 6 Uncertain 1998 S.sonnei 33 34 26 9A Thailand 1998 S.sonnei 34 35 23 6 Egypt 1999 S.sonnei 35 36 27 13 South Korea 1999 S.sonnei 36 37 28 8 Thailand and Nepal
1999 S.sonnei 37 38 29 6 Russia 1999 S.sonnei 38 39 30 0 China 2004 S.sonnei 39 40 6 Untypeable Mexico and Panama
2004 S.sonnei 40 41 31 Untypeable The Philippines
2005 S.sonnei 41 42 32 6 Baliin Indonesia 2005 S.sonnei 42 43 33 ATCC 12027 S.boydii6 43 44 34 ATCC 12028 S.boydii8 44 45 35 ATCC 12029 S.boydii11 45 46 36 ATCC 12030 S.boydii10 46 47 37 ATCC 12032 S.boydii13 47 48 38 Uncertain 1989 S.flexneri 6 48 49 39 Uncertain 1989 S.flexneri 3a 49 50 40 Baliin Indonesia 2005 S.flexneri88-893 50 51 41 Uncertain 1989 S.dysenteriae 51 行った.反応条件は,72℃ 2 分間処理後,熱変性 94℃ 20 秒間,アニーリング 56℃ 30 秒間,伸長 72℃ 2 分 間,反応サイクルは 20 回で行った.サーマルサイク ラーは,GeneAmp PCR System Model 9600(Perkin-Elmer 社)を用いた.Ramp times は 0.01 に設定した.
次いで,得られた PCR 産物の 5µL を 10 倍希釈し た TE buffer 45µL で希釈した.この PCR 産物希釈 液 1.5µL にプライマー AFLP EcoR I-O を 0.5µL,プラ イマー AFLP MseI-A を 0.5µL,および AFLP Core Mix 7.5µL を混合し,selective PCR を行った.反応
条件は,94℃ 2 分間の後,熱変性 94℃ 20 秒間,アニー リング 66℃ 30 秒間,伸長 72℃ 2 分間,アニーリン グの温度は 1 サイクルで 1℃ ずつ下げていき,10 反 応サイクル,熱変性 94℃ 20 秒間,アニーリング 56℃ 30 秒間,伸長 72℃ 2 分間の反応サイクルを 20 回行っ た.その後,60℃ 30 分間反応させた.サーマルサイ クラーは,GeneAmp PCR System Model 9600 を用 いた.Selective PCR 用のプライマーは,試薬キット で 64 通りの組み合わせが可能であるので,DNA フ ラグメントの検出本数や蛍光強度(ピークの高さ)の 強さをあらかじめ検討した.すなわち selective PCR 用のプライマーの,AFLP EcoR I および AFLP MseI の組み合わせ,O―O,O―A,O―T,O―G,O―C,A―C, G―A,および T―C の 8 通りに つ い て,S. sonneiお よ び S. boydiiの ATCC 株を用いて AFLP 法を行い,そ の結果,2 菌種ともに検出された DNA フラグメント の本数が多く,蛍光強度(ピークの高さ)が強かった プライマー AFLP EcoR I―O,プライマー AFLP MseI ―A の組み合わせを選択し,その後の実験に使用する こととした.
この selective PCR 産物を 2µL,脱イオンホルムア ミド(Amresco 社)とブルーデキストラン溶液 5 対 1 の溶液を 2µL,Gene Scan Size Standard を 0.5µL 混合し,95℃ 3 分間加熱し,その後,氷で急冷した. この溶液 2µL を,Genescan ソフトウエアを搭載した 377 DNA Sequencer(ABI 社)を用いて泳動した. 泳動ゲルには ABI PRISM Geluxe 377-48(ABI 社) を用いた.菌株間の相同性の解析(系統樹作成)は, Fingerprinting II ソフトウエア(Bio Rad 社)を用い て行った. 3.PFGE 法およびコリシン型別法 PFGE 法は,制限酵素 XbaI(タカラバイオ社)を 用い,泳動時間を 5 秒∼55 秒,22 時間として我々の 既報12) に従って行い,コリシン型別法は厚生省監修, 微生物検査必携,細菌・真菌検査,第 3 版13) に従った. 4.評価方法 コリシン型別法と PFGE 法および AFLP 法とを, 菌の型別方法を評価する項目として多用される「型別 能力」,「再現性」,「識別能力」,「解釈の容易さ」およ び「実行の容易さ」の 5 項目11) について比較した. ①型別能力 被検菌株のうち型別可能であった菌株の割合を示し た. ②再現性 AFLP 法は,菌の培養,DNA 抽出から泳動まです べての工程の検査実施日を変えて,S. sonnei ATCC 株 No.9290,No.29029,No.29031 の 3 株を 3 回繰り返 して実験を行った.PFGE 法も,同様に検査実施日を 変 え て こ れ ら の ATCC 株 3 株 に つ い て 3 回 実 施 し た.再現性は,Dice 係数14) より得られた相似値を用い て比較した.Dice 係数は,F=2nXY!(nX+nY)で表さ れ,nXは分離株 X からの DNA フラグメント総数,nY は分離株 Y からの DNA フラグメント総数,nXYは 2 つの分離株で同じ分子量のフラグメントの数を示す. この F 値が 1.0 であれば,泳動パターンが同一であ る. ③識別能力 明らかに由来の異なる菌株同士を異なる型に型別す る能力を,Simpson s Index15) で評価した.集団発生 事例株 10 株は,No.11 を代表株とみなして Simpson s Index を求めた.PFGE 法および AFLP 法は得られた バンドおよびフラグメントの出現パターンを比較し 1 本でも異なれば異なる型とした. ④解釈の容易さ 最終的な反応結果を得て,評価するまでの手順の容 易さを比較した.コリシン型別はペトリ皿上の阻止帯 の有無を確認し,阻止パターン表13) と比較した.PFGE 法は泳動像を写真撮影し,これを目視で比較した. AFLP 法は,数値 で 表 さ れ る 泳 動 デ ー タ を Finger-printing II に取り込んで,相同性の解析を行った.菌 株間の泳動パターンの比較は Dice 係数を用い,系統 樹作成は unweighted pair-group method using aver-age linkaver-age(UPGMA)法で行った. ⑤実行の容易さ 検査に要する日数および費用で比較した.検査に要 する費用は,必要な機器,ランニングコスト等を考慮 して総合的に判断した. 成 績 コリシン型別法,PFGE 法および AFLP 法の型別 結果は,Table 1に示す.コリシン型別法は,供試菌 株 中 の S. sonnei 42 株 の う ち 27 株 を 7 型 に 型 別 し た.PFGE 法は供試菌株 51 株を 41 型に,AFLP 法は 供試菌株 51 株を 51 型に型別した.AFLP 法では,35 から 492 base pairs の長さのフラグメントが,株によ り 22 から 56 本,平均すると 37 本のフラグメントが 検出された.
Fingerprinting II ソフトウエア(Bio Rad 社)を用 いて,相同性の解析を行い,作成した系統樹を Fig. 1 に示す.AFLP 法では,PFGE 法で識別できなかった 株(P4,P6,P23)を別の型に識別でき,また今回は 一つのフラグメントでも異なれば異なる型としたの で,同一感染事例株 10 株もすべて別の型となった. S. sonneiと他の 3 菌種は明らかに異なるクラスターに 分類され,S. sonneiの集団感染事例株 10 株は相似値 80% でみると,同一のクラスターに分類された.ま た今回,S. sonneiとの比較のために他の 3 菌種も用い
Fig.1 Amplified fragment length polymorphism patterns and dendrogram of51 Shigella isolates.The dendrogram was constructed with Fingerprinting I I (Bio Rad)by unweighted pair-group method us-ing average linkage. The percentage of similarity calculated by the Dice coefficient is shown above the dendrogram.
ているが,用いた菌株数が少ないため菌種内および菌 種間の詳細な解析は難しいものの,S. flexneriの新し
い血清型とされている S. flexneri 88-89316)は S. flexneri
Table 2 Evaluation oftyping
Ease ofperformance*5
Ease ofinterpretation*4
Discriminatory power*3
Reproducibility*2 Typeability*1 Typing Excellent Excellent 0.693 NT*6 64.3 Colicin Good Excellent 0.998 92.3― 100 100.0 PFGE Good Good 1.000 81.9― 90.5 100.0 AFLP
*1Proportion(%)ofstrains typeable.
*2Percentage ofsimilarity calculated by Dice coefficient among each ofthree strains in triplicate. *3Simpson’ s Index.14)
N:totalnumber ofstrains in the sample population. S :totalnumber oftypes described.
nj:number ofstrains belonging to the jth type.
*4,*5These judgments represent the views ofthe authors.See the text for details. *6Not tested.
=1− 1
N(N−1)
Σ
nj(nj−1) Sj=1
Table 3 Reproducibility of pulsed-field gel electrophoresis and amplified fragment length polymorphism ATCC 29031 ATCC 29029 ATCC 9290 Trial Third Second Third Second Third Second Pulsed-field gelelectrophoresis
100 100*2 First ATCC*19290 100 Second 100 92.3 First ATCC 29029 92.3 Second 100 100 First ATCC 29031 100 Second
Amplified fragment length polymorphism
85.4 82.5 First ATCC 9290 90.5 Second 86.8 87.5 First ATCC 29029 82.5 Second 82.5 81.9 First ATCC 29031 90.4 Second
*1American Type Culture Collection.
*2Percentage ofsimilarity calculated by Dice coefficient,
Dice coefficient:2nXY/(nX+ nY)
nX:totalnumber ofDNA fragments from isolate X.
nY:totalnumber ofDNA fragments from isolate Y.
nXY:totalnumber ofDNA fragments identicalin two isolates.
一のクラスターに分類された. コリシン型別法と PFGE 法および AFLP 法とを, 菌の型別方法を評価する項目として多用される11) 「型 別能力」,「再現性」,「識別能力」,「解釈の容易さ」お よび「実行の容易さ」の 5 項目について比較した結果 を,Table 2に示す. 1.型別能力 型別能力は,型別不能が少ないほど能力が高いとさ れる.PFGE 法および AFLP 法は,すべての株が型 別でき型別能力は 100% であり優れていた.コリシン 型別法の型別能力が 64.3% と低くなっているのは, 供試菌株の中には同一事例の株が 10 株含まれてお り,その株が型別不能であったためと考えられる.そ のため集団感染事例の 10 株を 1 株として,コリシン 型別法の型別能力を計算すると 33 株のうち 27 株を 7 型に型別でき 81.8% となった. 2.再現性 PFGE 法の再現性は,株により 92.3% から 100%, AFLP 法の再現性は 81.9% から 90.5% であった(Ta-ble 3).再現性は AFLP 法よりも PFGE 法が優れて いた. 3.識別能力 識別能力は Simpson s Index で 0.900 以上が望まし い と さ れ て い る15) が,AFLP 法 お よ び PFGE 法 の Simpson s Index は 0.900 以 上 で あ り,識 別 能 力 は AFLP 法および PFGE 法とも優れていた.コリシン 型別は,Simpson s Index が 0.693 となり,識別能力 は劣っていた. 4.解釈の容易さ コリシン型別法および PFGE 法は,結果の判定に
は,コンピュータや高価な解析ソフトは必ずしも必要 ではないが,AFLP 法は結果の出力時だけではなく, 解析時に専用の解析ソフトが必要不可欠である.これ らのことから,解釈の容易さはコリシン型別法および PFGE 法が AFLP 法より優れていた. 5.実行の容易さ 検査に要する日数で比較すると,AFLP 法はコリシ ン型別法および PFGE 法のおよそ半分の日数で検査 が終了し優れていた.次に検査に要する費用は,AFLP 法および PFGE 法は,多数の高価な機器が必要であ るが,コリシン型別法は高価な機器は必要とせず,試 薬等のランニングコストもコリシン型別法が一番廉価 であった.これらを総合的に判断すると,実行の容易 さはコリシン型別法が一番優れていた. 考 察 今回,赤痢菌に対する型別方法として AFLP 法の 能力を評価する目的で実験を行った. Arbeit11) は,型別方法の能力を評価する場合,対象 として互いに関連のない株を多く用いて評価するのが 良く,型別方法の評価基準としては,型別能力,再現 性,識別能力,解釈の容易さ,および実行の容易さを 用いることが適当であるとしている.満田17) も評価基 準としてはこれらの項目を用いており,これらの対象 および項目で型別能力を評価することが,最も正確, 公正であると考えられ,我々もこの評価基準に準拠 し,赤痢菌に対する型別方法としての AFLP 法の能 力を評価した.その結果,AFLP 法はコリシン型別法 および PFGE 法に比較し,型別能力および識別能力 が優れている反面,結果の解釈の容易さ,実行の容易 さ,さらに再現性が劣っていることが明らかになっ た. AFLP 法のこれらの評価結果のうち,最重要と考え ら れ る 再 現 性 に つ い て は,Desai ら18) ,Dijkshoorn ら19) ,および Valsangiacomo ら20) は「再現性のある結 果が得られた」と報告している.再現性を検討する場 合,AFLP 法の DNA 抽出,種々の 酵 素 反 応(DNA の制限酵素による切断,制限酵素断片へのアダプター のライゲーション反応,二段階の PCR),PCR 産物の シークエンサーによる電気泳動,ソフトウエアによる 泳動データの解析の段階のうちの,どの段階の再現性 を検討したかを明らかにするとともに,結果を数値等 の検証可能な形で表すことが重要と考えられる.しか し,前述の Desai ら18) の報告では,種々の酵素反応お よび電気泳動段階の検討と,DNA 抽出段階の検討の 2 通りで再現性を検討しているが,検討に用いた菌株 数 お よ び 数 値 に よ る 結 果 が 明 記 さ れ て い な い. Dijkshoorn ら19)の報告では,少なくとも DNA 抽出の 段階を含め 6 株を用いて 6 回の再現性の検討を行って いるが,その結果は同一菌株内での泳動パターンが 「indistinguishable」との 表 記 の み で,DNA 抽 出 段 階以降の検討方法や数値による結果が明記されていな い.同じく Valsangiacomo ら20) の報告では,DNA 抽 出段階からの検討でも十分な再現性があったとされて いるが,DNA 抽出段階以降の検討方法や用いた菌株 数および数値による結果が明記されていない.一方, 数値による結果を表記している報告をみると,Huys ら21) は「再現性 が 95.5% か ら 98.5% で あ っ た」と 報 告しているが,これは 1 株のみでの検討であり,リファ レンス株として電気泳動毎に同時に泳動したもので, DNA 抽出から電気泳動までの全工程の再現性を検討 したものではない.全工程を検討したものでは,Duim ら9) は 8 株を用いて 5 回の再現性の検討を行い,平均 値や偏差は記載していないものの「90% から 98% の 再現性が得られた」と報告しており,AFLP 法の全工 程における再現性が,特段高いものでないことがわか る.また,Bagley ら22) も DNA 抽出から電気泳動まで の全工程において,6 株を用いて 2 回の再現性の検討 を行い,その結果は「11.3% のフラグメントが再現性 のないフラグメントであった」と報告している.我々 は DNA 抽出から電気泳動までの全工程において,3 株を用いて 3 回の繰り返し実験を行った.その結果, AFLP 法の再現 性 は,81.9% か ら 90.5% で あ り,平 均すると 85.6% であった.これは再現性のないフラ グメントが 14.4% であったことと同義で,11.3% の フラグメントに再現性がなかったとする Bagley ら22) の結果と同程度の結果であると考えられる.このよう に AFLP 法では,評価項目中最も重要と考えられる 再現性が低いことは,型別方法として致命的とも考え られ,実際の赤痢菌感染症事例に即時的に応用するこ とは難しいと考えられる. AFLP 法の再現性が低い要因は,検査の不安定さに あると考えられ,この不安定さを招く原因は,泳動毎 に変化するフラグメントの蛍光強度21) ,次に酵素類の 製品差あるいはロット差23) ,および DNA の抽出方法 による差23) の 3 点が既に報告されている.フラグメン トの蛍光強度の変化に関して,我々は,電気泳動のみ による変動を調べるため,一つの selective PCR 反応 産物を,3 回別々に電気泳動を実施した.その結果, 泳動毎にフラグメントの強度が若干変化するため, データとして選択されるフラグメントが泳動毎に異な り,再現性は 90.3% から 91.3% で平均 90.6% であっ た(データ不掲載).Duim ら9) の報告でも,AFLP 法 の再現性を調べると電気泳動毎に同じ菌株でも 2∼ 10% の異なったフラグメントが現れたとされてい て,我々の結果とほぼ同じ結果が述べられている.同 様に,Huys ら21) の報告でも泳動毎にデータの変動が
起こることが指摘されている.このように AFLP 法 は,DNA 抽出,種々の酵素反応,および電気泳動の それぞれの段階が,おのおの,再現性に影響を及ぼし ていると考えられる.今回 AFLP 法は,同一ストレ インを原因菌とすると推測される集団感染事例株 10 株をも,10 型に分類した.このことは,菌株の変異 に よ っ て 多 く の 型 に 分 類 さ れ た11) の か,あ る い は AFLP 法の再現性の低さと同根の,検査の不安定さに 起因するものかの判断が難しい. 実際の単独の集団感染事例の場合,被検菌株の疫学 的関連を即座に判断せねばならず,一つの型が一つの ストレインを表す型別方法が実用的である.しかし, AFLP 法の場合,今回検討に用いた集団感染事例株 は,フラグメントが一本でも異なれば異なった型とみ なした場合は,すべて異なった型と型別してしまっ た.これらの型がどの程度近縁であれば,同一ストレ インであるのかを判断するためには,相似値にカット オフ値を設定せねばならないが,検査の不安定さによ りカットオフ値を即座に設定することが難しい.この ため,実際の感染症事例に即時的に応用することには この面からも難点がある. 一方で AFLP 法は,赤痢菌以外の細菌では,電気 泳動の結果から系統樹を作成しクラスター解析に利用 されているものがある.そのなかでは,菌種の分類学 的検討が行われ,菌種内でのストレイン分類や,他の 菌種との遺伝的な類似性が調べられ成果をあげてい る9)21) .電気泳動の結果から系統樹を作成することは, PFGE 法でも行われるが,フラグメント数は AFLP 法の方がはるかに多く,かつフラグメントの長さが数 値として系統樹作成ソフトに取り込めるため,PFGE 法より正確な系統樹が作成できる.また,Duim ら9) も報告しているが,クラスター解析の場合には系統樹 の全体像から各菌株の関連を判断するので,AFLP 法 の再現性が若干低いことの影響は少ない.実際に,今 回は S. sonnei以外の 3 菌種に関しては,用いた菌株数 が少ないため,菌種内および 3 菌種間の詳細なクラス ター解析は難しかったが,S. sonnei は他の 3 菌種とは 明らかに異なるクラスターに分類された. これらのことから AFLP 法は,遺伝子型の近縁度 を調べ菌株の分類を行うクラスター解析などの手法と しては有用であるが,PFGE 法に比較し再現性が若干 劣るため,疫学的関連を即座に判断する必要のある感 染症や食中毒発生時に,赤痢菌の遺伝子型別検査方法 として単独で用いることは難しいと考えられる.今回 の検討により,従来明らかでなった AFLP 法の赤痢 菌に対する,型別方法としての 能 力 の 位 置 付 け と AFLP 法の問題点が明らかになったことは有意義なこ とである.今後は,AFLP 法の再現性を向上させる手 法を開発するか,あるいは赤痢菌に応用可能な PFGE 法より高い能力を持つ型別方法を開発することが必要 と考えられる. 謝辞:S. flexneri 88-893 を血清型別して頂きました,東 京都健康安全研究センター 松下 秀博士,ならびに貴重 な菌株をご提供いただきました福岡市保健環境研究所 川 内良介先生に深謝いたします.また本研究遂行に当たり御 高配をたまわりました,福岡県保健環境研究所 吉村健清 所長に深謝するとともに,本論文作成に際し御助言頂きま した,福岡県保健環境研究所 堀川和美博士,竹中重幸博 士に感謝いたします. 文 献
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Amplified Fragment Length Polymorphism Genotyping of Shigellae and Comparison to Pulsed-field Gel Electrophoresis and Colicin Typing
Tamie NODA1)
, Koichi MURAKAMI1)
, Mitsuhiro HAMASAKI1)
, Yasuhisa ISHIGURO1)
& Michiko MIYAHARA2)
1)Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences,2)National Institute of Health Sciences
Shigella is an etiological agent of communicable and food-borne disease worldwide, so it is important to develop typing for Shigella in epidemiological studies. We compared amplified fragment length polymor-phism (AFLP), molecular epidemiological typing, to pulsed-field gel electrophoresis (PFGE) and colicin typing in typeability, reproducibility, discriminatory power, ease of interpretation, and ease of use for 51 Shigella iso-lates to determine AFLP applicability to Shigella. AFLP showed less reproducibility and ease of interpreta-tion although it was superior to PFGE and colicin typing in typeability and discriminatory power. Specifying the reproducibility of these typing methods, the intrastrain similarity of AFLP was 81.9%―90.5% in each of three strains tested in triplicate trials, while PFGE showed higher similarity, ranging from 92.3%―100%. AFLP created a phylogenetic tree and classified four Shigella species taxonomically, despite its lower repro-ducibility. These results suggest that AFLP is inferior to PFGE as molecular typing for Shigella epidemi-ologically in outbreaks or sporadic cases, although AFLP can create a phylogenetic tree for taxonomical pur-poses.