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関節リウマチ(RA)治療薬の効果評価法と応答性の個人差に関する遺伝要因の検討
Studies on Scoring Methods of Drug Efficacy and Genetic Factors Associated with Inter- patient Variability of Clinical Response in Patients with Rheumatoid Arthritis
平成
28年度 論文博士申請者
舟橋 惠子(Funahashi, Keiko)
指導教員
越前 宏俊
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略語
TNF-α Tumor Necrosis Factor
腫瘍壊死因子
RA Rheumatoid Arthritis
関節リウマチ
Bio Biologics
生物学的製剤
IL-6 Interleukin-6
インターロイキン6
ACR American college of Rheumatology
アメリカリウマチ学会
ACR20
関節リウマチの疾患改善度(
20%)
CRP C reactive protein C
反応性蛋白
ESR erythrocyte sedimentation rate 赤血球沈降速度
SAA Serum amyloid A
血清アミロイド蛋白
ADAS28 Disease Activity Score 28 CDAI Clinical Disease Activity Index MMP-3 Matrix Metal Protease 3
DMARDs Disease Modify Anti-Rheumatic drugs 疾患修飾性抗リウマチ薬
TJC Tender Joint count
疼痛関節数
SJC Swellen Joint count
腫脹関節数
NSAIDs Non steroid ant-inflammatory drugs 非ステロイド性消炎剤 GWAS Genome wide association system
SNP Single Nucleotide polymorphism TGF-β Transform growth factor
STK-10 serine tyrosine kinase
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はじめに
関節リウマチ(RA)は全身性の炎症を伴う自己免疫疾患で、日本における有病率 は 0.7%、約 70~80 万人の患者がいるといわれている。女性の有病率は男性の約 3
~4 倍高く、40~50 代に多く発症する。主な臨床症状は多発性の関節炎で、朝のこ わばり・発熱・倦怠感を伴い、その症状は数週間以上持続する。半数の症例が進行 性で、罹患関節では集積した白血球やリンパ球から放出される炎症性サイトカイン などによって軟骨・骨組織が徐々に破壊され、最終的には関節が変形し重大な機能 障害をきたす。発症原因は感染・外傷・ストレスなどといわれているが、現在のと ころ不明である。一卵性双生児における発症一致率の疫学研究や近年の遺伝子解析 により RA 発症に対する遺伝的要因の関与は 50%程度と推測されている 1)。RA の 治療は、長らく非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)投与による除痛と炎症鎮静に加 えて金製剤や d-ペニシラミンなどの古典的な疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)の 投与が主体であったが関節破壊の進展阻止効果は満足できるものではなかった。し かし、1990 年代から欧米を中心としてメトトレキサート(MTX)が DMARD の中で関 節 破 壊 阻 止 効
果 の 確 実 さ と 副 作 用 の バ ラ ン ス の 観 点 か ら 中 心 と な っ た。さらに、過 去 10 年ほど生 物 学 的 製 剤
( BIO )
(Table1)の登場により、症状寛解も視野に入るようになり劇的な進歩を遂げた。
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BIO の臨床試験より病態解明が進んだ結果、RA の診断や治療ガイドラインは大 きく変更された。現在では ACR/EULAR2010 年新分類基準(Figure 1)2)を用いて、で きるだけ早期に診断し、メトトレキサート(以下 MTX)を基本治療として強力な治療 を開始することが日本を含めた欧米各国の基本戦略となっている。また寛解を治療 目標として、3 か月~6
か 月 ご と に 治 療 戦 略
を見直し、臨床症状の
消失・関節破壊進行の
抑制・日常生活動作の
回 復 を で き る だ け 早
期に実現・維持するこ
と が 治 療 目 標 と な っ
ている(Figure 2)3) 。
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当初、
Bio製剤の標的分子は組織壊死因子
(TNF-α
)であったが、次第にその他の 炎症関連機能分子を標的とする
Bio製剤が開発され、治療選択肢が増加する一方で 薬効評価が従来の基準では正しく行えない事例が出現した。特に、インターロイキ ン(
IL-6)を標的分子とする
BIOの薬効評価には従来の標準的薬効評価法が適応で きない可能性が指摘されている。また、RA 薬の薬効評価には患者の主観的評価が 従来から取り入れられているが、従来治療薬と新規
BIOに対する患者の治療前期待 度の差異が患者の主観的薬効評価に重要な影響を持つ可能性も指摘されるように なった。さらに、Bio 製剤の効果は従来の治療薬をはるかに上回るが、必ずしも全 ての患者で有効ではなく、当初から薬物に応答しない一次無効、および当初は良好 な応答性を示すが長期投与により効果が減弱する二次無効の存在が明らかになっ てきた。
BIOは極めて高価な薬剤であるため、これらの無効例の予測は重要な課題 である。申請者は、これらの
BIOに関係する一連の薬学的諸問題を解決すべく研究 を行った。
第Ⅰ章 IL-6 受容体抗体薬の薬効評価法の検討 4)
第 1 節 はじめに
Tocilizumab は日本で開発されたヒト型抗 IL-6 receptor 抗体であり、炎症反応 に関わる中心的なサイトカインである IL-6 を抑制することにより、関節リウマチ の病態を改善する。日本で実施された第Ⅲ相臨床試験(SAMURAI)において、
tocilizumab 投与後 52 週時の薬物効果を従来から使用されている抗 RA 薬の評価判
定法である ACR20,ACR50,ACR70 で評価すると、それぞれ 78%、64%、44%であり、DAS28
で寛解を達成した割合は 59%と言う素晴らしい成績が報告された 5) 。 しかし、こ
の研究の成績を精査すると、通常平行するべき関節症状の改善と炎症反応のバイオ
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マーカー(CRP 等)の改善に解離があることが判明した。すなわち、tocilizumab は IL-6 receptor をブロックするその作用機序から関節リウマチの炎症の指標である 検査値である CRP,ESR,SAA の産生が他の抗 RA 薬よりも直接的にかつ強力に阻害さ れるため、これらの検査値がほぼ全例で陰性化していたのである。これは従来の抗 RA 薬では観察されなかった現象であった。したがって、tocilizumab 投与後の薬効 評価は CRP と ESR の値を使用する DAS28 などの評価指標を使用した場合には、実際 の関節炎症に対する効果を過大評価してしまうものと考えられる。Tocilizumab の 効果発現には標的分子である血清中の IL-6 値は低下することが報告されているた め新たなバイオオマーカーとなる可能性もあるが 6) 、測定法が特殊であるため臨床 の現場で IL-6 の測定することは困難であり、tocilizumab の効果を反映する臨床で も測定できる血液検査を検索することは必要とされている。 以上の議論から tocilizumab の抗 RA 効果については炎症性バイオマーカーの検査値を使用しない 評 価 方 法 を 用 い て 臨 床 効 果 を 評 価 す る 必 要 が あ る 。 CDAI(clinical disease activity index)は Smolen らが提唱した新しい臨床評価基準であるが、28 関節の 疼痛関節、腫脹関節、患者評価(10 センチ)と医師評価(10 センチ)を単純に足し 算するだけの簡単な計算方法であり検査値を使用しない。Altetaha らは 2 つのコ ホート試験のデータを DAS28 以外の種々の評価方法で比較しており、CDAI と DAS28 では R=0.89 で相関することがすでに示されている。7)8)さらに、これまで関節リ ウマチ活動性の指標として使用してきた CRP や ESR は全身的な炎症反応のバイオマ ーカーであるが、tocilizumab などの抗 IL-6 製剤の薬効評価には関節炎症による 軟骨および骨破壊と修復機序に関係をより直接的に反映するバイオマーカーの探 索が望まれた。
そこで今回 tocilizumab を投与した RA を対象として、DAS28 と CDAI による評価
を行うとともに IL-6 と同時に MMP-3 も経時的に測定して、MMP-3 が薬剤効果の指
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標となるか検証を行った。
第 2 節 対象患者と方法 対象患者
対象は SAMURAI 試験に参加した当院の被験者 22 人で、平均年齢 54 才、女性の割 合は 91%、RA 罹病歴 2 年であった。参加前の平均疾患活動性は疼痛関節 10 個、
腫脹関節 9 個、CRP4.0mg/dl、ESR 58mm/h、ステロイドの平均使用量は 5.6mg で、
ヨーロッパリウマチ学会(EULAR)が規定する疾患活動性基準(Disease activity
scale: DAS28 では高疾患活動性から中等度活動性を有していた。対象が早期発症
RA であったことから、スタインブロッカー分類による病気分類では stageⅡまでで
あったが、機能障害分類では Class2が 36%、class3 が 50%、class4 が 14%で、3
が最も多かった。試験のプロトコールより、併用 DMARDs はなく、10mg/day 以下の
プレドニゾロンと NSAIDs を使用した(Table2)。
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方法
投与開始から 3 年の間、3 カ月ごとに DAS28 ならびに Clinical disease activity index (CDAI) を測定するとともに、CDAI が各臨床評価項目と相関するかどうか検 討をおこなった。さ
らに MMP-3 と IL-6 も 測定し、IL-6 と MMP- 3 の相関並びにこれ らと CDAI の相関に ついても検索を行っ た。 DAS28 は EULAR の 基準を使用し、CDAI
は Smolen らが提唱している方法に従い 各病態レベルを分類した ものである (Table3)。
統計解析
データはマイクロソフトウインドウズ・エクセル 2003 の統計解析機能を用いて 解析した。また2変数の相関関係はスペアマン順位相関法を用いて解析した。何れ も統計検定は危険率 P<0.05 以下を有意とした。
第 3 節 結果
Tocilizumab 投与 RA 患者における DAS28 と CDAI による薬効評価の比較
Tocilizumab 投与開始後、両指標は低下傾向を示した。しかし、投与開始後 1,2,3
年経過した時点における薬効を DAS28 と CDAI の寛解基準で評価すると両指標には
大きな差異が認められた。すなわち、DAS28 での平均値は 2.50、2.05,2.81 とすべ
て寛解基準であったが、CDAI のそれらは 8.2,15.3,23.2 と寛解基準をみたしてい
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なかった(Figure3) 。
さらに寛解基準を満たした症例の割合を評価したところ、DAS28 の評価では 1 年後 で 57.1%、2 年後で 76.2%と大多数の患者が寛解基準を満たしていたのに対し、
CDAI 評価では 19.1%と 28.3%と寛解に至った患者の割合は 1/3 以下であった
(Figure 4) 。
また DAS28 と CDAI
の相関関係について解析したところ、全体としては R=0.93 と極めて強い相関をし
めしたが、細部について観察すると DAS28 として3以下の低活動性領域では DAS28
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での評価は CDAI の評価には解離が見られ、DAS28 の評価は CDAI よりも効果が過大 評価する傾向が見られた(Figure 5) 。
さ ら に DAS28,CDAI と臨床評価項目との相関についても解析を行ったところ、疼痛関節数、
腫脹関節数、医師の評価とは極めて強い相関を示した。しかもすべてのパラメータ ーと CDAI の相関は DAS28 のそれと比較して、高い相関性をしめした。患者評価と ACR20 の評価ではやや強い相関を示した(table4)。以上の結果から CDAI は tocilizumab の臨 床 評 価 測 定 を 特 に 低 活 動 性 領 域 に お い て 正 確 に 評 価 で き る こ と が示された。
IL-6 と MMP-3
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Tocilizumab はほぼ全員の RA 患者において一律に CRP を陰性化してしまうため、
中等度以下の活動性を有する患者における薬効評価が過大評価となってしまうこ とが判明したため、tocilizumab 投与患者における臨床の効果を反映する新たなバ イオマーカーの探索が必要となった。日常的に測定可能な検査値としては種々検討 の結果、MMP-3 が候補に上がった。そこで、まず MMP-3 が tocilizumab の標的作用 分子である IL-6 の変動と相関するかを検討した。
全症例の全期間の IL-6 と MMP-3 について相関性について検討したところ、 R=0.65 と良い相関を示した(Figure6) 。そこで MMP-3 と IL-6 が臨床効果を表す DAS28 並 びに CDAI と相関 するかどうか検 索 を 行 っ た 。 CDAI と MMP-3 は r=0.28, p=0.0002 、 CDAI と IL-6 は r=0.29, p=1.0X10
-7と統計学的に有意な相関を認めた。
一方、DAS28 と MMP-3 との間には r=0.30, p=4.5X10
-5, DAS28 と IL-6 の間には
r=0.24, p=1.8X10
-5とこれについても有意な相関をしめした(Figure7)。この結果
により MMP-3 は IL-6 の代用として、tocilizumab の効果を示す指標として使用で
きることが示唆された。
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第 4 節 考察
DAS28 は薬剤効果の指標として多くの臨床試験で使用されている 9)10)16)。しか
しながら tocilizumab は IL-6 をブロックすることにより、CRP、ESR、SAA の産生を
強力に抑制するため、tocilizumab が血中に残存している場合は、これらの炎症マ
ーカーは陰性化したままである。しかしこれらの検査結果が陰性であっても、疼痛
腫脹関節数が残存し、MMP-3 や IL-6 が高値を示している患者は存在しており、臨床
上的には効果が発現しているとはいいがたい状況が存在する。MTX などの DMARDs の
効果発現と MMP-3 を比較した報告において、MMP-3 値は CRP 値と相関するとの報告
があるが 11)12)13) 、これは DMARDs に代表される幅広い免疫抑制効果により CRP な
どの炎症性検査値と MMP-3 を共に調整する上流域のサイトカインを抑制しているか
らであり、tocilizumab のように IL-6の受容体をブロックすることにより、IL-6
の作用点を抑制し、CRP を直接抑制する場合とは異なることを示している。実際
DMARDs 治療群では疼痛並びに腫脹関節数と CRP は比較的相関するが、tocilizumab
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投与群では投与後6カ月では全例において CRP は陰性化するため、まったく相関し ない。したがってこれらの患者の DAS28 を算出した場合は、DAS28 の平均値や寛解 導入率は極めてよい値となり(Figure 3, Figure 4) 、寛解率は 2 倍の違いが生じ る(Figure 4) 。
多くの RA 治療の臨床試験における薬剤効果の評価には DAS28 が使用されている が、CDAI と DAS28 の評価について SHAVAER らが比較検討した結果では、DAS28 で評 価した寛解率は 28.3%であったのに対し、CDAI のそれはわずか 6.9%であり、
tocilizumab でなくても CDAI 評価では厳しく判定されることが示されている 16) 。 さらに Sokka らは各臨床評価方法における寛解率を比較しているが、同様に DAS28 で評価した寛解率は最も高く、他剤においても DAS28 の評価は高くなることが報告 されている 17)。実際、当院における infliximab またはエタネルセプト投与患者の 成績を DAS28 と CDAI で評価すると同様に CDAI では低値を示す。しかし、エタネル セプトの投与後 1 年以降の寛解率と tocilizumab のそれを CDAI で比較してみると、
tocilizumab のほうが約 1.5 倍高い値を示すが、DAS28 の評価では tocilizumab の 寛解率は 2 倍以上となる 18)。SAMURAI 試験における DAS28 の寛解率は 43.1%であ り、他剤と比較して高く、DAS28 による評価が実勢より高くでているのではないか と考えられる。検査値を使用しない評価方法には他に、RADAI、PAS、RAPID などが あるが、これらは患者の主観を用いて評価していることと、さらに ADL 評価が含ま れた評価方法であり、疾患活動性を客観的に評価する CDAI とは位置づけが異なる と 考 え ら れ 、 tocilizumab の 薬 効 評 価 に は CDAI が 適 正 で あ る と 考 え ら れ る 19)20)21)22)。
Tocilizumab の長期投与により、IL-6 の産生は抑制される。IL-6 の産生量は個体
間に大きな幅があるため、平均値でその推移を示すことは難しい。さらに IL-6 測
定法には簡便で普及した方法がないため臨床の現場では IL-6 の測定は汎用性がな
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い。しかしながらこれまで臨床効果を反映する検査値として使用してきた CRP およ び ESR が使用できないことから、CDAI 以外に臨床効果を確認する検査値が必要と なる。MMP-3 は主に滑膜細胞より産生され、CRP などの検査項目や疼痛腫脹関節数 と相関することが報告されている 11)12) 。Tocilizumab の作用機序ではその産生機 序を直接ブロックしないことから、臨床効果を示す検査値として使用できるか検討 を行った。その結果、MMP-3 と IL-6 は有意に相関した(Figure 6)。さらに MMP-3 は IL-6 と同様に CDAI と有意な相関を示したことから(Figure 7)、tocilizumab の薬 剤効果判定に使用する検査値としては MMP-3 が適切であると考えられた。
IL-6 は生体内で多様な作用を有しているサイトカインであり、関節リウマチの病 態にかかわる作用に限定しても、B 細胞の抗体産生作用、肝細胞の急性期蛋白質産 生作用(CRP,SAA) 、巨核球の分化誘導(血小板増加) 、破骨細胞の分化誘導、滑膜細 胞の増殖など多くかかわっている。実際 RA の病態にかかわる IL-6 が重要性である との報告 23)24) 、関節液中の IL-6 が MMP-3 と相関するという報告 25)、血清中の IL-6 と MMP-3 が相関するという報告 26)がある。これらの報告はある特定の薬剤を 投与した時の値ではないことから、当報告とは異なると考えられるが、IL-6, MMP- 3, DAS28, CDAI がすべて相関性を有していることは、重要であると考えられる。
第 5 節 結論
Tocilizumab は抗 TNF 製剤とは違う作用機序で RA の病態を改善する。その作用 発現は抗 TNF 製剤より遅いが、 寛解率は高く DAS28 より厳しい CDAI 評価でも約 28%
が寛解となり、寛解状態となったすべての患者がドラッグフリーとなった。これま
での抗 TNF 製剤と同様な DAS28 の評価ではなく、tocilizumab の特性を考慮した評
価方法で薬剤効果を評価し、症状が残存する non-responder を見極めるべきである
と考えた。
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Ⅱ.RA 薬選択と薬効評価に患者意向を配慮する評価法の開発 27)
第 1 節 はじめに
日本では製薬企業は自社の医薬品に対して法的に広告規制があるため、患者はテ レビ等のメディアを通じて医薬品情報に接することはないが、インターネット上に は様々な薬剤情報が流れており、患者はこれらの情報に容易にアクセスし、自分の 病気の治療方法について情報を得ている。患者自身が持っている情報はその患者の 臨床状態、精神的状況、社会的な環境により量・質ともに異なる。また、同一の情 報を得ていても、患者の生命観や人生観により希望する治療も個々人で異なってい るのが現状である。
関節リウマチ治療は生物学製剤の登場により、 この 10 年間で飛躍的に進歩をし、
専門医の治療指針・治療ゴールは大きく変わった。2)28)29)30)いわゆる目的をも った治療戦略(Treat to target:T2T)の考え方に従い、患者と専門医ともに、寛解 基準が大きく変わり、関節破壊の休止と臨床症状の消失により、発症前の状態まで 生活水準を戻すことが目標となった(Figure 8)31) 。
ま た こ れ ら の目的を達成 するため、早 期から積極的 な治療を行う ようになった。
日本で行われ
た市販後調査
によれば、約
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10 万人の患者がこの 7 年間の間に、生物学的製剤で治療を受けている。生物学的製 剤の劇的な治療効果を体験した患者では、患者自身の治療ゴールの設定も上がって いく傾向があり、他の製剤へ変更した場合も同じような効果を期待する傾向にある。
また RA 治療における治療法選択は医師と患者の合意形成が最も重要であることが 欧米学会で合意されている。
そこで日本における関節リウマチ患者の実態を把握するため、患者がもとめる治 療についてアンケートをとり、どのような治療を求めているのか、またそれは生物 学的製剤治療経験患者(BIO 群)と DMARDs のみの治療患者(DMARDs 群)との間に違い はあるのか調査を実施した。
第 2 節 方法
アンケートの趣旨に文書で同意したクリニック外来通院関節リウマチ患者 165 名 を対象とし、無記名で行なった。年代・性別・履病歴・治療歴などの背景を記入後、
(1)薬剤に期待すること(5項目から順位をつける) 、 (2)投薬された薬剤に失
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望したことはあるか、あるとすればその理由、 (3)薬剤変更したことがあるか、あ ればその時の理由と感じたこと、 (4)薬剤投与前に知りたい情報、 (5)薬剤治療 前後で期待すること変わったかどうか(生物学的製剤使用の有無を明記) (6)
現在の治療の満足度 (7)今後期待する治療について選択式または自由記載にて 調査を行った(Figure 9)。DMRADS の治療は受けていない患者はアンケート対象から 外した。生物学的製剤の経験者の有無により群を分け、それぞれの群におけるアン ケート結果を比較検討した。複数回答を可能としなかった質問項目に関しての解析 としては chi square test を使用した。
第 3 節 結果 1.患者背景
BIO 経験者が 55 名、BIO 未経験者が 110 名で、女性割合は平均 84%であった。年
代では 70 代が最も多く 36%であり、これらについては両群間の間に有意差は認め
られなかった。 履病歴では 10~20 年が最も多く、33%であった。履病歴におい
ては統計学的有意に DMARDs 群の方が短かった。過去から現在までの使用薬剤で最
も 多 い
抗 リ ウ
マ チ 薬
は MTX で
あ り
70 % が
使 用 し
て お り 、
こ れ は
両 群 間
18
の間に違いはなかったが、ステロイド使用者並びに NSAIDs 使用者は DMARDs 群で双 方とも約 40%あり、それは BIO 群のステロイド:22%、NSAIDs:9%と比較して統 計学的有意に高値であった。(Table 5)
2.薬剤開始前に最も知りたい情報
薬剤開始前に最も知りたい情報として、薬剤の作用機序、効果がある患者の割合、
副作用の頻度とその内容、日本で使用されている割合、日本人のデータ、1 カ月当 たりの費用、その他について複数選択可能とした結果、副作用の頻度とその内容並
びに薬剤の作用機序を選択された人が最も多く、約 70%であった(Figure 10)。ほ
とんどの問いについて、BIO 群と DMARDs 群の間に差は認められなかったが、1 カ月
当たりの費用については DMARADs 群で約 30%の患者が希望していたのに対し、BIO
群では約 50%の患者が知りたい情報として挙げており、投薬前の情報として薬剤コ
ストは特に BIO 群で重要な要素であると考えられた。これは日本における医療保険
制度では、高齢者と一部の患者を除いて、ほとんどの患者が 30%の医療費を窓口で
支払わなくてはならないことが関係しており、生物学的製剤使用患者は、月あたり
19
4 万円支払うのに対し、DMARDs 使用患者は 1 万円であることに起因している 32)。
3.治療前後のゴールについて
治療前のゴールについて痛みの軽減・消失、腫れの軽減・消失、朝のこわばりの 軽減、だるさの軽減、日常生活の改善、仕事や運動の可動性上昇、手術回避、関節 破壊の停止や修復について複数回答とした結果、BIO 群では DMARDs 群と比較して どの問題においても選択した人が多く、特に関節破壊の停止並びに関節破壊の修復 では 2 倍並びに 3 倍の患者がそれを目標としていた(Figure 11-A)。これらの結果
から、BIO 群では多くの情報に関して専門医から教育を受ける機会が多く、したが って薬剤投与前よりゴール設定が高いことが示唆された。
4.治療前後のゴール設定
また現在受けている治療の前後で目的に変化があったかどうか前と後でゴール
設定について選択してもらったところ、前述した個々の問いに対して DMARDs 群で
はほとんど変化がなかったのに対して、BIO 群では関節の痛みと腫れに対して軽減
するだけでなく、消失する方に選択されていた(Figure 11-B,Figure 11-C) 。
20
このことは BIO グループにおいては、臨床的寛解を経験し、生物学的製剤の効果に
対する期待が高まったことが示唆された。
21
5.治療変更の経験とその理由・不安の有無
BIO 群 で は 85%、DMARDs 群では 50%の患者が治療変更の経験があった。DMARDs 群では 70%の 患者が MTX の治療を受けており、MTX により症状が抑えられているため、低い頻度 になった
と考えられた。一方 BIO 群はすでに MTX を含めた DMARDs の治療を経験しており、
高い頻度になったと考えられた。しかしながら治療変更の理由は両群で異なってお り、DMARDs 群では副作用の発現が主なものであったのに対し、BIO 群では効果減弱 と 2 次無効によるものであった。BIO 群の 66%が薬剤変更に対して不安を感じてお り、DMARDs 群の 53%より高かった。(Figure 12)
6.薬剤への失望について
薬剤の失望経験は BIO 群で 37%、DMARDs 群で 28%であり、BIO 群でやや多い傾
向が認められた。BIO 群では 1 次無効または 2 次無効などの効果に関しての失望が
多かったのに対して、DMARDs 群では副作用の出現に対してであり、両群間に差が認
められた(Figure 13)。そこで BIO 群を生物学的製剤間のスイッチ経験例と非経験
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例とに分けて解析したところ、スイッチ経験例では失望の割合が大きく、その理由
は 2 次無効であった(Figure 14)。
23
7.薬剤に期待することについて
RA 患者が最も期待することを順位付けによる回答で、確かな効果、即効性、効果 の継続、関節破壊の抑制、副作用の出現なしの 5 つの問いについて調査した。最も 期待する項目は「確実に効果が現れること」であり、2 番目は関節破壊の抑制であ った。効果の即効性の関しては最も期待されていなかった。これらの結果は確実な 症状の消失と持続だけでなく、関節破壊の抑制が重要であることを患者自身が知っ ている結果であると考えられた。(Figure 15)
8.治療に関する満足度 1-5段階で満足度について調べたところ、非常に満 足・満足を選択した患者は 83%であり、両群間に差はなかった。しかし「非常に失 望している」を選択した患者は DMARDs 群でなかったのに対して、BIO 群では 1.9%
あった。これは BIO 治療経験者が彼らの治療ゴールに到達せず、失望していること
を示唆していると考えられた。(Table 6)
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9.新しい治療方法への期待
自由記載として、期待する新しい治療法について質問したところ、BIO 群では関
節破壊の進行抑制する治療法を記載した患者が 18%だったのに対し、DMARDs 群で
はわずか 7%であった。また DMARDs 群では意見を記載した患者が 41%であったに
対し、BIO 群では 2 倍以上の 85%であり、BIO 群ではより多くの期待があることが
示唆された。(Table 7)
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第 4 節 考察
関節リウマチの治療は 2000 年ごろより大きく進歩し、生物学的製剤の出現によ り、3 つの寛解まで可能とした。しかし生物学的製剤は全ての患者で適応となるわ けではなく、ほとんどの患者は既存治療を受けている。すでに早期治療時期を逸し てかなりの変形を有し、不自由な生活を余儀なくされている患者はいったい何を望 んでいるのだろうか?既存の治療のまま治療を受ける患者と生物学的製剤の投与 を受けている患者では考え方や情報量に差はあるのか、それは専門医が考えるゴー ルと同じであるかについて報告は少ない。
関節リウマチ患者全体が思い描く将来の治療への期待、知りたい情報、症例への 不安は DMARDs 群と BIO 群との間で大きな差はなかったが、患者自身が描くゴール 設定には両群間で大きな差があり、またその設定ゴールにどの程度到達できたかと いう結果に対しても、失望の有無や内容で差があった。特に BIO 群の中で BIO 製剤 を変更あるいは中止せざるを得なかった患者では、失望の割合は大きく(Figure 14)、また将来開発してほしい薬剤や治療方法についても、BIO 群では 85%の人が積 極的に意見を記載したのに対し、DMARDs 群では 41%と半分が意見を記載したのに とどまった(Table7) 。このことから BIO 群では治療開始の段階で多くの教育を受 ける機会が多く、数々の情報を入手し、その結果ゴール設定が高くなったと考えら れた。
日本リウマチ友の会のリウマチ白書 2010 年 33)でも同様な調査を行っており、
その中で治療に一番期待することでは関節破壊の進行抑制、関節の痛みや腫れの消 失が多く、これは我々と一致する結果であった。また不安に関しての調査でも悪化・
進行(78%)、日常活動性の低下(68%)、薬剤の副作用(64%)と続いており、これもほぼ 一致する結果であった。
当院では生物学的製剤導入時に、入院による検査と教育を行っており、BIO 群の
26
患者はすでにある程度の T2T の実践がなされていたと考えられる結果を本調査で確 認することができた。しかし DMARDs 群ではマンツーマンの教育は受ける機会が少 なく、したがってゴール設定が低い又は将来のゴール設定が難しいなど課題がある と考えられた。カウンセリングシステムが発展していない日本では、医療機関が患 者にとってよりどころであり、患者個々の状態に合わせた治療ゴールの設定、つま り T2T を実践するためにはすべての患者を対象とした独自の教育システムの構築が 必要であると考えられた。
第 5 節 結論
関節リウマチ患者の薬剤に対する期待は確実な効果発現とその維持であり、薬剤 投与前は副作用の出現や種類にもっとも関心があることが判明した。これらは薬剤 の切り替えに対する不安の払拭を求めているものと考えられた。また BIO 群では治 療ゴール設定が未経験者より高くなっており、すでに BIO 群では T2T がある程度実 践されているものと考えられた。
Bio使用患者の治療満足度を向上させるためには、
使用される
Bioについて治療前に1次または2次無効の可能性を予測し、確実な効 果を担保できる
Bioを選択することが重要であると考えた。以上の結果に基づき申 請者は以下の研究を実施した。
Ⅲ.エタネルセプトの2次無効発現に関連する遺伝因子の検討 34)
第 1 節 はじめに
関節リウマチ領域では生物学的製剤の開発が進み、日本では 7 剤の生物学的製剤 が使用できるようになっている 35)36)37)38)39)40)41)。しかしどの製剤において も関節リウマチ患者に 100%有効ではなく、また使用中に効果減弱が生じ、多剤に 変更せざるを得ないことが多くある。一時的に効果があっても、途中で効果が減弱
(2 次無効)または副作用が出現して、3 年の間に 50%程度の患者が他剤へ変更を
27
余儀なくされるとの報告がある 42)。一方抗 TNF 製剤における 2 次無効を予測する 遺伝的バイオマーカーに関しては報告がない。
エタネルセプトは、他の生物学的製剤と比較して多剤と比較して継続率に優れ、
2 次無効になる割合は少ない 43)。我々のレジストリーにおいては、生物学的製剤 投与患者の約 50%がエタネルセプトの投与を受けているが、約 10%の患者が 2 次 無効のため、脱落する 44)。他の抗TNF抗体製剤の効果減弱には抗TNF製剤に 対する抗体の発現が大きく影響するが、受容体融合タンパク質であるエタネルセプ トに対しては中和抗体の産生はないと報告されており 45)、エタネルセプトの二次 無 効 ( 2
ndfailure ) の メ カ ニ ズ ム は 明 ら か で は な い 。 そ こ で genome-wide association analysis(GWAS)の手法を用い、患者の遺伝的要因がエタネルセプトの 2 次無効に関与しているかについて検討を行った。
第 2 節 対象患者と方法 1.対象患者
2003 年より松原メイフラワー病院と関連病院(Kato city & Kobe)で構築して いる生物学的製剤レジストリーデータベース(年齢、性別、関節リウマチ罹病 歴、生物学的製剤の種類、免疫学的データなど)の中から、エタネルセプト投与 患者を検索し、2011 年までにエタネルセプトの投与を受けている患者約 300 名を 抜き出した。そのうえで遺伝的解析研究について、文書同意を取得した患者 134 人を対象とした。
2.臨床的効果判定
エタネルセプトの効果判定には DAS28 と EULAR の改善基準を使用した。すなわ
ち「moderate response」以上の改善を示し、低疾患活動性(DAS28≦3.2)を維持
していた患者を responder 群(R 群)とした。また EULAR の改善基準で効果がなかっ
た患者は non-responder 群(N 群)とした。我々の知る限りでは 2 次無効の定義と
28
なる基準は存在しない。そこで 2 次無効患者、2
ndfailure 群(NR2 群)を次のよ うに定義した。すなわちエタルセプトの投与を受けて 6 か月は「moderate response」以上の改善を示したものの、それ以降に疾患活動性が悪化し、投与開 始の状態と比較して、 「moderate response」以上を示すことがなり、その後医師 によりエタネルセプトの投与を中止された患者とした。また投与を半年継続して いない患者やエタネルセプトの投与量が 25mg/w でコントロールされている患者は 除外した。これにより R 群 90 名、NR2 群 27 名、NR 群 17 名と分けられた。
3.ゲノムワイド SNPs 解析と関連解析
患者末梢血 7ml を採取し、4℃で保存したのち、三菱メディエンス株式会社にお いて DNA を抽出した。ゲノムワイドの SNPs genotyping はイルミナ社の HumanH ap300K chip を用いて、deCODE genetics 社(Reykjavik, Iceland)にて行い、
317,503SNPs が測定された。このうち Genotyping success rate が 90%以上で、minor allele frequency が 1%以上であった 278,347SNPs を以下の解析に用いた。
4.RA 患者におけるエタネルセプト効果判定に関する SNPs の既報論文との比較 我々は GWAS を用いたエタネルセプトの1次無効に関与する SNPs の既報論文につ いて調査した。そのうえで我々が報告した2次無効を規定する SNPs とすでに報告 されている SNPs と比較を行った。また proxy SNPs に関しては LDlink を用いて比 較し、追試検討を実施した 46)。
5.統計解析
3つのグループの臨床的背景の比較では継続指数である年齢、臨床データについ ては、Kruskal-Wallis による分散分析(ANOVA)を使用し、カテゴリーデータである 性別、併用 MTX 用量、RF 陽性の可否に関しては Bonferroni の多重比較を用いた。
有効性と SNPs との相関は、群分けした SNP 型を持つ集団間のケース(NR2 群または
N 群)とコントロール(R 群)の SNPs 出現頻度の差を Plink (ver.1.07)47)を用
29
いて、ケース・コントロール解析を行った。約 30 万 SNPs の中で P 値が 5×10
-5以 下の相関性を示した SNPs を統計学的意味があるものとした。一方、既報である約 30SNPs における追試検索では多重比較を考慮して p 値が 0.005 以下である SNPs を 統計学的意味があるものとした。
6.倫理的配慮
当研究のおける研究計画書については 2008 年の倫理委員会にて初回承認を得て から毎年更新手続きを行い、必要に応じて同意説明文書の改訂を行っている。当研 究は日本におけるゲノム倫理指針並びに 1975 年のヘルシンキ宣言に従い、実施さ れており、今回解析した患者からはすべて文書で同意を取得している。
第 3 節 結果
1.エタネルセプト投与患者の背景
2013 年現在では当院の生物学的製剤レジストリーに登録している患者のうち、約
50%の患者がエタネルセプトの投与を受けていた。エタネルセプトの投与患者は約
300 名いるが、約 35%は投与後 6 か月以内に効果がないか、有害事象で投与を中止
していた。また約 22%の患者が効果減弱のため、投与を中止していた。 そこで当
研究について同意取得をした患者 134 名について、すでに述べた方法で患者を 3 群
に分け、R 群(90) 、NR2 群(27) 、NR 群(17)の背景について比較を行った。その
結果、性別、年齢、罹病歴、MTX 併用率、RF 陽性率、各臨床的検査値、疾患活動性
すべてにおいて統計学的有意差はなかった。(Table 8)
30
2.エタネルセプト 2 次無効に関する GWAS による SNPs 解析
今回用いたサンプルの genotyping success rate は 90% 以上であった。R 群と NR2 群における比較では p 値が 10
-6以下を示した SNPs は 6 個(遺伝子は 1 個) 、10
-5
を示した SNPs は 37 個(遺伝子は 13 個)あったが、連鎖平衡を示さない SNPs に は STK10 の遺伝子を規定する SNPs が 3 種類検出された。(Table 9) 一方 R 群と NR 群の比較では P 値が 10
-6以下を示した SNPs は 5 個(遺伝子は 2 個) 、10
-5以下を示 した SNPs は 60 個(遺伝子は 17 個)あり、そのうち TGF-B を規定する SNPsが 3 種 類検出された(Table 10) 。NR2 群と NR 群を同定する遺伝子は異なっていた。これ は当研究のサンプルサイズが少なく、予備的な研究であることも関連している。
我々はさらにサンプル数を増やして R 群と NR 群並びに NR2 群との比較を実施して いる 48)。さらに、我々は無効群(NR 群)に関連する BACH2の SNPs(rs3857486)を p 値 0.00037 で検出した。 この SNPs は Honnne らが報告している遺伝子であるが、
彼らが報告している SNPs と連鎖不平衡はなかった。
31
3.エタネルセプト 1 次無効に関連する SNPsの追試検討
32
GWAS を用いたエタンルセプト 1 次無効に関連する SNPsの既報論文では 14 個の SNPs が報告されている 49)50)51)52) 。そこで我々は今回の研究で得られたエタネ ルセプト 1 次無効・2 次無効に関連する SNPs とその proxy SNPs とこれまで報告が あった 14SNPs との比較検討を行った。残念ながら報告された 14SNPs と同じものは 我々が測定に用いた BeadChip 上にはなく、検出できなかった。そこでそれらの SNP 近傍に存在する 14 の Proxy SNPs について検討したところ、NR2 群、NR 群それぞれ p 値が 0.02 と 0.002 のものが検出された。(Table 11)
第 4 節 考察
当研究はエタネルセプトの 2 次無効に関連する遺伝的背景について検索した最初 の報告である。生物学的製剤は価格が高く、有害事象について考慮する必要がある ことから、投与前にエタネルセプトの 2 次無効について予測が可能になることは、
RA 患者・医師ともに有用である。しかしながら当研究は後ろ向きコホートであり、
また数も限られており、前向きコホートで数を増やして再確認する必要がある。
33
エタネルセプトの効果判定に関連する遺伝的解析報告は多く存在する。Honne ら は 487 名の日本人を対象として解析を行い、rs284515 (MAP3K7, BACH2),
rs75908454 (WDR27), rs1679568 (GFRA1) がエタネルセプトの効果発現に関与し ていることを見出した 49)。我々は BACH2 (rs3857496) の SNPs が 2 次無効に関連 する SNPs として見出したが(p=0.00037)、これは rs284515 と連鎖不平衡を見 出さなかった。Cui らは 2706 名の RA 患者について検討を行い、 rs6427528 (CD84)がエタネルセプトの効果発現に関与しているものとして報告したが、 我々 の研究では 2 次無効を規定する SNPs の中では検出できなかった 50)。Plant らは 白人 RA 患者を対象として rs17301249 (EYA4) と rs15322869 (PZD2) がエタネル セプトの効果発現に関与する SNPs として報告している 51)。また Julia らは 372 名の RA 患者(うち 133 名がエタネルセプト投与患者)を対象にして同様に解析を 行い、 そののち追試試験として 245 名の RA 患者(うち 114 名がエタネルセプト 投与患者)を解析した。その結果 rs1113878252 (MED15)、rs6941263 (ARMC 2)、
rs6065221 (MAFB) がエタネルセプトの効果発現に関与している SNPs として報告 された 52)。岡田らは GWAS の手法を用い、多人種を対象とした RA のリスク遺伝子 についてメタ解析を行い、RA のリスク遺伝子は白人とアジア人で共通であったこ とを報告している 53)。
我々が使用した BeadChips 上にはすでにエタネルセプトの効果発現に関与する
と報告されている 14 SNPs がなく、追試することはできなかった。 したがって当
研究成果だけで 14SNPs について肯定も否定もできないが、次善の策として我々の
使用した BeadChips で検出可能であった 14SNPs の proxy SNPs について解析を試
みた。その結果 Table 4 に示す通り,
rs1532269 と rs10039073 については p 値がそれ ぞれ 0.002 と 0.02 でエタネルセプトの 1 次無効と 2 次無効に関連するものとして検出さ れた。しかしながらさらに数増やして追試試験を行う必要がある。34
我々がエタネルセプトの 2 次無効に関連する SNPs を解析しようと試みたのは日 本においては他の薬剤と比較してエタネルセプトが多く使用されているからであ る。また RA 患者が生物学的製剤を選択する際には、社会経済的な影響(たとえば 社会的地位、医療保険、社会情勢など)を受ける。日本においては社会保険制度が 整備され、生物学的製剤の値段には大きな差はない。この結果 RA 専門医は薬剤選 択にあたり、効果より忍容性をより重視する傾向がある。これまでの報告ではエタ ネルセプトは他剤と比較して忍容性が高いことが示されている 54)。しかしながら 我々のコホート研究ではエタネルセプト投与患者の約 15%が 2 次無効となり、他 剤への変更を余儀なくされている。したがって治療前にこれらの予測が可能であれ ば、大きなメリットになると考えられる。
RA 患者における 2 次無効のメカニズムについては複雑である。Infliximab や adalimumab については 2 次無効には中和抗体の出現が関与しているとの報告があ る 55)56)57)58)。しかしエタネルセプトにおいては中和抗体の出現は効果の減弱と 関係しないと報告されている 59)60)61)。実際 Virkki らはインフリキシマブからエ タネルセプトに変更した 40%の患者で変更後 3 か月目に DAS28 が 1.2 以上改善さ れたと報告している 62)。 若林らはインフリキシマブまたはエタネルセプトから IL- 6 受容体抗体であるトシリズマブへ変更した時の臨床効果について報告している。
その結果エタネルセプトからの変更によっても離床的改善は認められたものの、イ ンフリキシマブのそれと比較してきわめて少ない変化であったと報告している 63)。
そこで、今回 2 次無効のメカニズムを解析することを目的として、エタネルセプ トの 2 次無効を起こす遺伝的背景について解析を行った。その結果エタネルセプト の 2 次無効に遺伝的背景が関与し、3 つの SNPs が STK10 を規定するものであった。
Woetzel らはマイクロアレーを用いて、RA 患者と OA 患者の滑膜細胞の遺伝的背景
について解析し、 STK10 に変異の差があったことを報告している 64)。彼らは STK10
35
の SNPs が RA 発症に関連しているが、OA には関連していなかったと報告している。
現在 RA の病態における STK10 の関与についてはあまりよく知られていないが、こ の遺伝子の SNPs がエタネルセプトの 2 次無効に関連することは興味深い。
STK10 遺伝子は murine lymphocyte-oriented kinase(LOK)と相動性を持ち、STK10 はリンパ球上に高発現している。LOK は CD28 のシグナルを負に制御し、T 細胞から の IL-2 産生などを抑えるたんぱく質である 65)66)。遺伝子変異によりこのたんぱ く質の変異があること、シグナルを負に制御できず、免疫応答が活性化されること により、RA の活動性が再燃する機構が示唆された。
実際エタネルセプトからアバタセプトへ変更した患者の約 60%が変更後 3 か月 めで DAS28 が 1.2 以上改善したとの報告がある 67)。それはアバタセプトが T 細胞 の共刺激を介した CD28 を抑制する薬剤であることから、エタネルセプト効果減弱 例において効果があったのではないかと推察される。我々はすでにエタネルセプト の効果に関連する SNPs について解析を行っているが 48)、これらの SNPs は今回報 告した SNPs とは異なるものであった。ただし今回のデータは 134 名の RA 患者のデ ータであり、今回の結果は 1 次無効と 2 次無効のメカニズムが異なることが示唆さ れるものであり、さらなる検討が必要である。
第 5 節 結語
本研究からエタネルセプトの
2次無効に
STK10の
SNPが関係している可能性が示 唆されたため、今後、より大きな患者集団での検証試験を行う意義がある事を示す ことができた。
4.総括
現在の RA 治療における疑問点、①作用点が異なる 7 種類の生物学的製剤(BIO)
に対して同じ薬効評価基準が適応できるのか?②従来の抗 RA 薬の薬効評価は医師
36
の評価と検査値が主体で、患者自身の視点での評価を正しくとらえていたのか?③ Bio の効果の個人差に遺伝因子が関係するのか?に対し、一定の結論を得た。
すなわち①RA における生物学的製剤の薬効評価では、薬剤間で評価に差が生じ ない指標を用いる必要があり、薬効評価では
CDAIが有用である。②RA 患者にお ける期待は確実な効果であり、生物学的製剤治療経験者はそのゴール期待値が高い
従来の
DMARDより高い。また期待が高いだけに1次・2次無効への失望も大き
く、不満の原因となっている。③エタネルセプトの
2次無効は遺伝子的背景により ある程度説明が可能であり、解析数を増やし、機能解析も実施したうえで、将来的 には遺伝的解析によるオーダーメイド治療の可能性が大きいと考えられる。
関節リウマチ領域では
IL-6を標的とした別の生物学的製剤の開発や細胞シグナ
ル伝達阻害剤の開発も進んでおり、抗
TNF製剤との比較も重要となっている。ま
た近年は患者視点にたった薬効評価の重要性も指摘されている。さらに薬価が高い
生物学的製剤の使用には医療経済学の視点から、効果が十分期待できる薬剤選択の
重要性も指摘されており、オーダーメイド治療が期待されている。RA 領域の
3つ
の問題点について研究したが、これらについての成果は今後の
RA治療に対して寄
与できるものと考えられる。
37
謝辞
本論文を作成するにあたり、御指導、御助言をいただきました明治薬科大学 薬 物治療学研究室 越前 宏俊教授に謹んで感謝の意を表します。
本稿作成にあたり、終始御親切なるご指導をいただき、御激励、御助言を賜りま した明治薬科大学 感染制御学研究室 池田 玲子教授及び臨床薬剤学研究室 加賀谷 肇教授に深く感謝致します。
また、本研究を進めるにあたり、適切な御指導を賜りました松原メイフラワー病 院 松原 司 病院長並びに関節再生研究所 児矢野 聡 研究員に心から感謝 の意を表します。
最後に、本研究を遂行するにあたりご協力いただきました松原メイフラワー病院 並びに松原クリニックの関節リウマチ患者様に心より感謝申し上げます。
38
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