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塩基性線維芽細胞増殖因子の瘢痕拘縮抑制効果について

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(1)

皮膚欠損創に対する人工真皮と塩基性線維芽細胞  増殖因子製剤併用療法の創収縮における 

病理組織学的検討

塩基性線維芽細胞増殖因子の瘢痕拘縮抑制効果について

伊藤 奈央1),  三川 信之2)

檜垣 浩一3)  吉本 信也1)

1)

昭和大学医学部形成外科学講座

2)

千葉大学大学院医学研究院形成外科

3)

聖マリア病院病理科

要約:塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor,以下 bFGF)は創傷治癒 を促進し迅速に表皮化させるだけでなく,瘢痕拘縮を予防することが報告されている1).一 方,人工真皮は,コラーゲンスポンジが真皮組織構築の足場として血管内皮細胞や線維芽細胞 を誘導し,真皮様組織を形成するため,しばしば皮膚欠損創に用いられる.今回われわれは実 際の臨床例において,皮膚欠損創に人工真皮を貼付し bFGF 製剤を噴霧した肉芽組織を採取 後,病理組織学的検討を行い,bFGF の瘢痕拘縮の抑制効果について検討した.皮膚欠損創 10 例に対して,デブリードマン後,人工真皮を貼付し,同一創内で bFGF 製剤併用群と非併 用群にわけ,約 2 週間後に母床の肉芽組織を採取し,病理組織学的検討を行った.それぞれの 母床組織においてα-Smooth Muscle Actin(以下α-SMA)による免疫染色を施行し,単位面 積あたりのα-SMA 陽性細胞数を算出し,統計学的に検討した.2 群間の比較を行ったところ,

併用群においてα-SMA 陽性細胞数は減少していた(p=0.0236).人工真皮と bFGF を併用す ることで創傷治癒過程における瘢痕拘縮の予防につながる可能性が示唆された.

キーワード:塩基性線維芽細胞増殖因子,人工真皮,皮膚欠損創,瘢痕拘縮,α-SMA

 塩基性線維芽細胞増殖因子(basic  fibroblast  growth factor;bFGF)製剤は,創傷治癒を促進し 迅速に表皮化させるだけでなく,瘢痕拘縮を予防す る上でも重要な役割を果たしていることが報告され ており1),潰瘍治療に欠かせないものとなってい る.一方,人工真皮は,コラーゲンスポンジが真皮 組織構築の足場として血管内皮細胞や線維芽細胞を 誘導し,真皮様組織を形成するため,しばしば皮膚 欠損創に用いられ2)臨床例で bFGF 製剤と併用して 用いられることが多い.

 創が収縮する際,線維芽細胞にα-Smooth Muscle  Actin(以下α-SMA)が発現し筋線維芽細胞とな るが,bFGF を肉芽組織に噴霧すると,線維芽細胞

におけるα-SMA の発現が減少し,創収縮が抑制さ れることが動物実験で報告されている3)

 今回われわれは,臨床例において,皮膚欠損創に 人工真皮を貼付した上で bFGF 製剤を併用すること が瘢痕拘縮抑制につながるか肉芽組織中のα-SMA 陽性細胞数を算出することにより検討した.

研 究 方 法

 対象は,熱傷潰瘍や外傷性潰瘍による皮膚潰瘍の 患者のうち,植皮や皮弁による創閉鎖が必要であっ た皮膚欠損創 10 例である(Table 1).方法は,壊 死組織をデブリードマン後,人工真皮(ペルナッ ク

スミスアンドネフュー,日本 / テルダーミス

原  著

(2)

オリンパステルモバイオマテリアル,日本)を貼付し,

同一創内で bFGF 製剤(フィブラスト

スプレー,科 研製薬,東京)併用群(以後,併用群)と非併用群

(以後,単独群)にわけ,比較を行った.bFGF 製剤 の使用にあたっては,貼付時人工真皮に直接噴霧し,

以後は人工真皮のシリコン膜にメッシュ状の穴をあ け,1 日 1 回 25 cm2あたり 5 噴 霧(1.2μg/cm2),2 週間以上継続した.人工真皮貼付後,約 2 週間後の 母床の肉芽組織を採取し,肉眼的に評価した.摘出 された皮膚組織を 15%ホルマリンで一晩固定し,

パラフィン包埋後 4

μm に薄切した後に Hema to-

xyline-eosion 染色した標本を用いて組織学的評価を 行った.線維芽細胞の評価に用いるα-SMA(Mouse  monoclonal,clone:1A4,dilution:1:100,Dako,

Denmark)染色は,全自動免疫染色システム Bench  Mark  XT (Ventata  Automated  Systems,  Inc.,  Tucson, AZ, United States)を用いて行った.20 倍 で 1〜3 視野ごとのα-SMA 陽性細胞を数え,その平 均をとり,単位面積あたりの細胞数を算出して統計 学的処理を行った.α-SMA は平滑筋細胞と筋線維 芽細胞に染色されるが,今回は筋線維芽細胞のみを 検討するため,血管周囲に認められるα-SMA 陽性 細胞については平滑筋細胞とみなし除外した.統計 学的処理は Welch s t-test を用いた.危険率 5%未 満をもって統計学的に有意と判定した.

結 果

 結果は,肉眼的に bFGF 併用群でより緻密で赤 色の良性肉芽を認めた.また,HE 染色にて,単独 群よりも bFGF 併用群でより多くの血管新生と血管 内皮細胞の腫大,線維芽細胞の増殖,リンパ球や形 質細胞などより多くの炎症細胞を認めた.10 症例 中 6 症例で,併用群において明らかに単位面積当た りのα-SMA 陽性細胞数の減少を認めた(Fig. 1).

残りの 4 例については,両群ともほぼ変わりない か,わずかに単独群でα-SMA 陽性細胞数の減少を 認めた.併用群と単独群 2 群間の比較を行ったとこ ろ,p=0.0236 で統計学的有意差を認めた(Fig. 2).

以下,代表的症例を呈示する.

 症例 7:44 歳男性.

 左手を工具ではさみ,左手背の圧挫創を受傷し た.創部は腱まで達する重度のものであった.壊死 組織をデブリードマンした後(Fig. 3),組織欠損部 全体にペルナック

(人工真皮)を貼付した.術後 より橈側の潰瘍にはフィブラスト

スプレーを連日 噴射した.約 2 週間後,人工真皮を除去したとこ ろ,併用群で赤い密な良性肉芽を認め(Fig. 4),さ らに肉芽組織が増生したところで,鼠径部からの全 層植皮術を行った.植皮の生着は良好であり,術後 目立った瘢痕拘縮は認められなかった.植皮後 6 か

Table 1 Clinical cases

Case Age Sex Disease Site Depth Size(cm)

 1 18 Male Traumatic ulcer Rt upper extremity Muscle and bone 9 × 35  2 21 Male Thermal burn ulcer Lt lower extremity Panniculus adiposus layer 4 × 6

 3 79 Male Traumatic ulcer Rt lower extremity Deep fascia 6 × 12

 4 58 Male Traumatic ulcer Rt hand Panniculus adiposus layer 2 × 3

3 × 5

 5 74 Male Thermal burn ulcer Dorsum of both feet tendon 14 × 18

16 × 22

 6 65 Male Traumatic ulcer Rt hand tendon 8 × 9

 7 44 Male Thermal burn ulcer Lt hand tendon 11 × 12

 8 88 Female Thermal burn ulcer Dorsum of rt. foot tendon 7 × 18

 9 37 Male Thermal burn ulcer Rt lower extremity Deep fascia 10 × 12

10 25 Male Traumatic ulcer Rt lower extremity Tendon 35 × 62

(3)

月の状態においても,併用群でより弾力に富んだ柔 らかい皮膚を認めた(Fig. 5).HE 染色にて,単独 群よりも bFGF 併用群でより多くの血管新生と血 管内皮細胞の腫大,線維芽細胞の増殖を認めた.ま た,bFGF 併用群において,リンパ球や形質細胞な どより多くの炎症細胞を認めた(Fig. 6, 7).

 免疫組織染色において,単独群の単位面積あたり のα-SMA 陽性細胞数が 151.5 個であったのに対し

(Fig. 8),併用群では 123.4 個であった(Fig. 9).

考 察

 最近の創傷治療における発展は目覚ましいものが

Fig. 1   Number of α-SMA(+)cell per mm2 stained  with α-SMA.  

In most of the cases, less  α-SMA(+)cells  were observed in basic FGF group compared  with control group .

Fig. 3   44-year-old  man,  left  hand  traumatic  injury  after debridement.

Fig. 2   Average number of  α-SMA positive cell per  mm2  stained with SMA.  

Values are expressed as mean  ± SD. *p < 0.05  versus control group.

Fig. 4   two  weeks  after  treatment.  Radial  part  of  ulcer  is  treated  with  combination  therapy,  ulnal part is treated with monotherapy.

Fig. 5   6 months after skin graft. No scar contraction  was seen.

Radial part of the skin graft is more elastic 

than ulnar part.

(4)

あり,さまざまな新しいアプローチが報告され,臨 床的にも用いられている.中でも細胞増殖因子を用 いた治療は現在の創傷治療において欠かせないもの となっており,塩基性線維芽細胞増殖因子,血小板 由来細胞増殖因子や上皮細胞増殖因子などが発売さ れ臨床的に用いられている4).bFGF に関しては,

1986 年にヒト bFGF の全塩基配列が解明され,遺

伝子組み換え技術により大量生産が可能となった.

本邦では,褥瘡や皮膚潰瘍(熱傷潰瘍,下腿潰瘍)

に対する製剤(フィブラスト

スプレー,科研製薬,

東京)として,2001 年に発売開始となった.bFGF 製剤は,母床の血管新生を促進させ,線維芽細胞を 増殖させることにより,創傷治癒過程を迅速に進行 させる.また,人工真皮と併用することで,さらに 良好な肉芽組織が形成されることがわかっており,

臨床的にも植皮前の wound bed prepa ra tion に用い られることが多い5).われわれは以前,本研究と同

Fig. 7   haematoxylin and eosin (H&E) stain, com- bination therapy ( × 10).

More extensive capillary angiogenesis and also  had capillary walls consisting of thick, large  endothelial cells compared with mono therapy. 

Also,  fibroblast  proliferation,  activation,  and  more severe infiltration of the inflammatory  cells than the monotherapy side.

Fig. 9     α-SMA  immunohistochemistry,  combination  therapy. ( × 20).

Less α-SMA positive cells were observed com- pared with monotherapy.

Fig. 6   haematoxylin and eosin (H&E) stain, mono  therapy ( × 10).

Less  capillary  angiogenesis  and,  fibroblast  proliferation, and inflammatory cells than the  combination therapy side.

Fig. 8    α-SMA immunohistochemistry, mono therapy 

( × 20).

Lots of α-SMA positive cells were observed.

(5)

様の比較試験を行い,皮膚潰瘍に対し bFGF を使用 することが創床の血管新生および線維芽細胞の増殖 に寄与することを報告した6)

 bFGF は創傷治癒を促進し迅速に表皮化させるだ けでなく,瘢痕拘縮を予防する上でも重要な役割を 果たしていることが近年報告されている1,3).秋田 ら7)は,熱傷患者の熱傷潰瘍に bFGF 製剤を噴霧し,

植皮後の皮膚を硬度計で測定し,併用群の皮膚が正 常皮膚に近い柔らかな組織であったと報告している.

 瘢痕拘縮において,創が収縮するメカニズムも解 明されつつあり,1971 年に Majnoら8)が平滑筋の収 縮を引き起こす物質を添加すると肉芽組織が収縮す ることを発表し,筋線維芽細胞という概念を導い た.筋線維芽細胞は,平滑筋に似たα-SMA などの 収縮器官を有しており,肉芽組織に緊張がかかると 線維芽細胞にα-SMA が発現し,筋線維芽細胞とな り,創が収縮する1,9-11)

 赤坂ら3)は,ラットの全層皮膚欠損モデルにおい て人工真皮に bFGF 製剤を添加したところ,14 日 目に bFGF 群のα-SMA 発現が減少し,筋線維芽 細胞の増殖を抑制,アポトーシスを誘導したと報告 している.また,石黒ら14)は,開放性の皮膚欠損に おいても,bFGF はα-SMA の down regulation を 誘導し,筋線維芽細胞を迅速にアポトーシスさせる と述べている.

 今回のわれわれの結果においても,併用群と単独 群の 2 群間の単位面積あたりのα-SMA 陽性細胞数 を比較したところ,併用群においてα-SMA 陽性細 胞が優位差をもって減少していた.このことから,

臨床例においても,併用療法により筋線維芽細胞の 発現が抑制され,瘢痕拘縮の発生抑制につながるも のと考えられた.併用群と単独群の間で差を認めな い症例については,生体での治癒過程のサンプリン グであるため,採取部位の違いなどによる結果の変 動が考えられた.以下,個々の症例について検討し た.症例 1,4,6,8,9,10 については,創部がよ り深い方を併用群にしたにも関わらず,併用群にお いてより良性な肉芽の増生を認め,α-SMA 陽性細 胞の減少を認めた.一方,症例 2,3 において,併 用群より対照群のα-SMA 陽性細胞が少なかった.

症例 2 については,両群ともにα-SMA 陽性細胞数 が非常に少なく,有意な評価を得ることが困難で あった可能性が示唆される.症例 3 については,肉

眼的には併用群で良好肉芽を認め,単独群には良好 と不良な肉芽が混在していた.単独群において比較 的良好な肉芽部分を採取したため,結果が逆転した ことが考えられる.症例 5,7 については,併用群 においてわずかに

α-SMA 陽性細胞数が少なかっ

た.症例 5,7 は腱の露出を伴う深い創であった.

臨床的観点より,より病変が深い方を併用群とした ため,両群間での差異に乏しかったと考えられる.

 今後は,植皮後の皮膚の硬さを計測し,α-SMA 陽性細胞発現と皮膚硬度の相関性について調べるな ど,bFGF 製剤の瘢痕拘縮の発生抑制について,理 学的にも実証したいと考えている.

文  献

1) 小野一郎,神谷崇文.薬物,培養細胞による瘢 痕抑制増殖因子(bFGF)を用いた瘢痕の予防と 治療. .2009;35:53‑67.

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3) Akasaka Y, Ono I, Tominaga A,  . Basic fi- broblast growth factor in an artificial dermis  promotes apoptosis and inhibits expression of  alpha-smooth muscle actin, leading to reduc- tion of wound contracton. 

. 2007;15:378‑389.

4) 島田賢一,川上重彦,小室明人.創傷外科にお ける新しいアプローチ 細胞増殖因子による創 傷治療.形成外科.2008;51(増刊):S267‑S272.

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(ペルナック

)に対する basic fibroblast growth  factor の添加効果.熱傷.1999;25:54‑62.

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(6)

clonal antibody against alpha-smooth muscle  actin: a new probe for smooth muscle differen- tiation.  . 1986;103:2787‑2796.

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. 1999;48:621‑630.

14) Ishiguro S, Akasaka Y, Kiguchi H,  . Basic  fibroblast growth factor induces down-regula- tion of alpha-smooth muscle actin and reduction  of myofibroblast areas in open skin wounds. 

. 2009;17:617‑625.

(7)

CLINICAL STUDY FOCUSED ON THE HISTOPATHOLOGICAL EXAMINATION   OF COMBINATION TREATMENT INVOLVING ARTIFICIAL DERMIS  

AND BASIC FIBROBLAST GROWTH FACTOR   FOR CONTRACTION OF SKIN DEFECTS

Nao I

TO

 and Shinya Y

OSHIMOTO

Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Showa University School of Medicine

Nobuyuki M

ITSUKAWA

Department of Plastic, Reconstructive and Aesthetic Surgery, Chiba University, Graduate School of Medicine.

Koichi H

IGAKI

Department of Pathology, St Mary s Hospital.

 Abstract    Background : In recent studies, basic fibroblast growth factor (bFGF) not only pro- motes wound repair but also inhibits scar from contraction.  This study examined a combination of artifi- cial dermis and bFGF to treat skin defects in clinical cases and also immunohistochemically examined the  effects on the conditions of recipient beds.  The subjects were 10 patients with skin defects from burn ul- cers or traumatic ulcers.  In each subject, debridement was performed and subsequently artificial dermis  was applied to the defect.  The bFGF was used on one side (combination therapy side) of the artificial  dermis and not used on the other side (artificial dermis monotherapy side).  An immunohistochemical  examination (α-Smooth Muscle Actin) was performed on the granulation tissue collected from the re- cipient bed approximately 2 weeks after the application of the artificial dermis.  The combination therapy  side had fewer α-SMA positive cells than monotherapy side (p=0.0236).  Our results show that α-SMA  positive cells decreased due to the effects of the bFGF.  Thus, the results suggest that this combination  therapy inhibits scar from contraction in clinical cases.

Key words:  basic fibroblast growth factor, artificial dermis, skin defect, scar contraction,  α-smooth 

muscle actin

〔受付:11 月 22 日,受理:12 月 26 日,2012〕

Fig. 5   6 months after skin graft. No scar contraction  was seen.
Fig. 6   haematoxylin and eosin (H&E) stain, mono  therapy ( × 10).

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