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日本内科学会雑誌第110巻第2号

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Academic year: 2022

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はじめに

 虚血性心疾患は別名,冠動脈疾患とも呼ば れ,冠動脈の狭窄や閉塞病変を想起させる.そ のため,冠動脈を直接可視化する冠動脈造影が 診断の中心的役割を果たしてきた.ただし,冠 動脈造影で描出される狭窄がたとえ高度に見え ても,必ずしも心筋虚血を引き起こすとは限ら ず,生理学的検査で狭窄の血行動態的重症度を 評価する重要性が認識されてきている.

 また,心筋虚血の原因が,通常の血管造影で は描出し難いプラーク破綻等のミクロの病態,

冠攣縮のようなダイナミックな病態,冠動脈造 影で映し出される血管のさらに下流の冠微小血

管にあることも少なくなく,冠動脈造影のみで の診断に限界がある.本稿では,心筋虚血の病 態,そして,虚血性心疾患の診断法に関して概 説する.

1.冠循環生理

 心筋は酸素摂取率が 60~80%と非常に高い 臓器で,冠静脈洞の酸素飽和度は20~30%と著 しく低いことが知られている.これは,心筋が 冠動脈を介して供給される動脈血中の酸素のほ とんどを使用するほど酸素消費量が大きい臓器 であることを示しており,心臓は絶えず必要な 冠血流量が供給されなければ正常に機能するこ

‌‌心筋虚血の病態と‌

冠血流の生理学的評価

要 旨

塩野 泰紹  虚血性心疾患は,冠動脈の狭窄ないしは閉塞により引き起こされる疾患

であり,冠動脈造影が診断の中心的役割を担ってきた.しかし,冠動脈造 影で描出される狭窄が必ずしも心筋虚血を引き起こすとは限らず,血行動 態的な評価を追加してはじめて重症度を正しく判定できることも多い.ま た,通常の冠動脈造影では捉えきれない病態(冠攣縮,微小循環障害,

INOCA(ischemia with non-obstructive coronary arteries)ならびに MINOCA(myocardial infarction with non-obstructive coronary arter- ies))が心筋虚血の原因であることもあり,幅広い視点を持って診断手順 を踏むことが必要である.

〔日内会誌 110:196~203,2021〕

Key words 虚血性心疾患,急性冠症候群(ACS),慢性冠症候群(CCS),INOCA,MINOCA

和歌山県立医科大学循環器内科

Acute and Chronic Coronary Syndromes:State-of-the-Art. Topics:I. Myocardial ischemia(approaches to pathophysiology and diagnosis);

1. Comprehensive assessment of ischemic heart disease.

Yasutsugu Shiono:Department of Cardiovascular Medicine, Wakayama Medical University, Japan.

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とができないことを意味する.

 冠循環には,冠血流量を保つための機能とし て自動調節能が備わっている.これにより,安 静時の冠血流量は心筋灌流圧,すなわち冠内圧 が変化しても一定に保たれている.自動調節能 と は, 冠 循 環 の 抵 抗 血 管 で あ る 直 径 100~

400 µmの小動脈,<100 µmの細動脈がそれぞ れ血流によるシェアストレスや心筋代謝物質に 反応して血管径を変化させることで抵抗を調整 する機能で,灌流圧の変化に応じて血管抵抗を 変化させ冠血流を一定に保つ(図 1).

 運動時等酸素需要量増加時には,これら抵抗 血管が拡張し冠血流量を増加させ,需要と供給 のバランスを保つ.安静時の冠血流量は心筋1 g あたり 0.7~1.0 ml/分であるが,抵抗血管が最 大限まで拡張すると冠血流量が 4~5 倍まで増 加する(図 1).

 これらの機能が破綻し必要な冠血流量を供給 できない状態が心筋虚血である.そして,心筋 虚血を引き起こす代表的な疾患が急性冠症候群

(acute coronary syndrome:ACS)や慢性冠症候 群(chronic coronary syndrome:CCS)と呼ばれ る冠動脈疾患である.

1)急性冠症候群

 ACSは,冠動脈に急激に生じる閉塞性病変に より発症する疾患である.ACSには,ST上昇型 心筋梗塞,非ST上昇型心筋梗塞ならびに不安定 狭心症の病型があるが,いずれもプラーク破 裂,びらんならびに石灰化結節等冠動脈内の動 脈硬化性病変を基礎に発症するとされる.

 ST上昇型心筋梗塞のように急激に冠血流が 遮断されると心筋壊死を来たす.不安定狭心症 ではかろうじて冠血流が保たれるが,狭窄遠位 部の冠内圧は著しく低下し,自動調節能で調節 可能な閾値未満になるため,安静時や軽労作時 でも心筋虚血が生じる(図 1).

2)慢性冠症候群

 CCSは,慢性的な冠動脈の器質的狭窄により 冠血流が阻害されることで生じる疾患である.

従来,安定冠動脈疾患と呼ばれてきたが,この 疾患は必ずしも“安定”しておらず,いつでも ACSへ発展する可能性があることを念頭に置い た対応が必要であることを喚起するため,CCS と呼ばれるようになった.CCSでは,狭窄によ り冠内圧が低下しても自動調節能が働き安静時 血流は保たれるため,原則安静時には症状は発 生しない.狭窄が85~90%狭窄以上の高度狭窄 と な り, 冠 内 圧 が 自 動 調 節 能 の 閾 値( 約 40 mmHgとされる)を下回ると,安静時でも冠 血流が低下し虚血を生じる(図 1).ただし,高 度狭窄,完全閉塞の場合,他の冠動脈からの側 副血行路が発達し安静時の冠血流は保たれるこ とも多い.安静時の冠血流は自動調節能により 保たれる一方で,運動時等心筋酸素需要量が増 加した場合にはそれに見合う冠血流量を供給さ れなくなり心筋虚血が生じる(図 1).

2.非侵襲的診断法

 心筋虚血診断は非侵襲的検査を先に行い,そ れで異常がある場合もしくは判定が困難な場合 に確定診断目的で侵襲的検査を行うことが一般 的である.ACSの場合には心電図,心エコーな らびに心筋逸脱酵素等で評価する.CCSに対す る 非 侵 襲 的 検 査 は ト レ ッ ド ミ ル, 負 荷 心 エ コ ー, 心 筋 シ ン チ グ ラ フ ィ,CT(computed tomography)ならびにMRI(magnetic resonance imaging)等がある.それぞれの詳細は,「2.

心筋虚血の画像評価」,「3.急性冠症候群(ACS)

の初期診断」の項を参考にされたい.

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3.侵襲的診断法

1)冠動脈造影

 ACS,特にSTEMI(ST-elevation acute myocar- dial infarction)では,診断から血行再建までを 迅速に実施する必要があり,冠動脈造影の果た す役割が極めて大きい.多くの症例が閉塞や高 度狭窄を呈するため,冠動脈造影で診断がつき やすい.病態把握,責任病変の同定,引き続い

て行うPCI(percutaneous coronary intervention)

の 補 助 と し て 血 管 内imaging(OCT(optical coherence tomography),IVUS(intravascular ultrasound))を併用することもある.

 CCSでも,確定診断,重症度評価ならびに治 療方針決定のためには,冠動脈造影は重要な役 割を果たす.ただし,冠動脈造影で映し出され る狭窄の解剖学的重症度と冠血流や冠内圧で評 価する血行動態的重症度はしばしば乖離するこ とが知られている.その場合,生理学的検査に 図1 冠灌流圧と冠血流量の関係

安静時冠血流量は,心筋灌流圧が変化しても自動調節能が働き,一定に保たれる.ただし,極端 に低下し(約40 mmHg以下とされている),自動調節能の閾値を下回ると,安静時血流も低下し 虚血を生じる.

② 心筋酸素需要量増大時には冠血流量が増加する.

③ 心筋最大充血時の冠血流は心筋灌流圧と直線相関する.

④ 冠動脈狭窄がある場合,心筋最大充血血流は減少する.

正常冠動脈におけるCFRはQ hyperemia/Q restで算出され,4~5となる.

冠動脈狭窄存在時のCFRはQ stenosis/Q restで計算され,CFR<2.0となる場合に血行動態的有意狭窄 と判断する.

冠動脈狭窄存在時のFFRはQ stenosis/Q hyperemiaで算出され,FFR<0.75になる場合に血行動態的 有意狭窄と判断する(実際の測定ではQ hyperemia,Q stenosisはそれぞれ冠動脈の近位部圧,遠位 部圧で推定する).心筋最大充血時の冠血流と心筋灌流圧の直線相関は冠微小循環障害があるとス ロープが小さくなり(⑤),左室肥大,左室拡張末期圧上昇には直線が右方移動する(⑥).また,

心筋酸素需要量が増加すると安静時血流が増加する(②).これらの病態では冠動脈狭窄がなくても CFRが低下する.

Qrest:安静時冠血流量

Qstenosis:狭窄により低下した最大充血時冠血流量

Qhyperemia:最大充血時冠血流量

冠灌流圧

自動調節能

①安静時冠血流量

② 心筋酸素需要量増加時 CFR=Qstenosis/Qrest

④ 心外膜冠動脈狭窄を有する   冠動脈における心筋最大充血時

③心筋最大充血時

冠血流量 FFR=Qstenosis/Qhyperemia

Qhyperemia

Qstenosis

Qrest

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基づく血行動態的重症度の方が解剖学的狭窄度 よりも重要視されている.

2)冠血流予備比:coronary flow reserve  冠微小血管が最大拡張すると,冠血流量は安 静時に比較して 4~5 倍増加することは先に記 載したが,この状態を心筋最大充血と呼ぶ(図 1).狭窄の血行動態的重症度を判定する場合に は,心筋最大充血を誘発することがしばしば必 要で,心臓カテーテル時にはアデノシン三リン 酸,塩酸パパベリンならびにニコランジルと いった血管拡張薬を用いて誘発する.

 安静時の冠血流に対して心筋最大充血時に何 倍冠血流が増加するかを表す指標を冠血流予備 比(coronary flow reserve:CFR)という(図1).

心筋最大充血時の冠血流は冠動脈狭窄が 50%

程度までは影響を受けないが,それ以上の狭窄 で低下し始め,75%以上の高度狭窄でCFRが2.0 以下となる.

 CFRを求める方法の1つとして,冠血流速度を 計測する方法がある.冠動脈のある断面を流れ る冠血流量は以下の計算式で計算できる.

冠血流量=冠動脈内腔の断面積×冠血流速度

 安静時と心筋最大充血時で冠動脈内腔の断面 積が一定と仮定できれば,以下の計算式で冠血 流速度からCFRを求めることができる.

CFR=心筋最大充血時冠血流量/安静時冠血流量   = 冠動脈内腔断面積×心筋最大充血時冠血流 速度/冠動脈内腔断面積×安静時冠血流速度   =心筋最大充血時冠血流速度/安静時冠血流速度

 このように冠血流速度から求められるCFRは 冠 血 流 速 度 予 備 比(coronary flow velocity reserve:CFVR)と呼ばれ,カテーテル時にはド プラセンサーが備わったガイドワイヤーを冠動 図2 冠循環の生理学的評価法

①冠動脈の生理学的評価として冠動脈近位部圧(Pa),冠動脈遠位部圧(Pd),冠血流速度(V)を計測で きる.FFRは心筋最大充血時のPd/Paで計算され,FFR<0.75の場合に心筋虚血陽性と判断する.

iFRは安静時の拡張期後半75%の時相(wave-free period)におけるPd wave-free ratio/Pa wave-free period で計算され,iFR<_0.89の場合に虚血陽性と判断する.

冠微小血管抵抗(HMR)は心筋最大充血時のPd/Vで計算され,HMR>1.9もしくは>_2.5 mmHg/cm/sの場 合に微小循環障害と判断する.

CF(V)Rは安静時の冠血流速度(②)と心筋最大充血時血流速度(③)の比(V hyperemia/V rest)で計 算でき,CFVR<2.0の場合に心筋虚血陽性と判断する.

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脈内に挿入することで測定できる(図 2).

 このCF(V)Rが 2.0 以下の場合に心筋虚血を 誘発し得る血行動態的有意狭窄と判断する.た だし,CF(V)Rを低下させる原因は冠動脈狭窄 のみでないことに注意が必要である.冠微小循 環障害,左心機能低下,左室肥大ならびに左室 拡張末期圧の上昇では心筋最大充血時の血流が 低下するためCFRが低下する(図 1).また,貧 血,心拍数上昇,収縮期血圧上昇ならびに収縮 能上昇等心筋酸素需要量が亢進した状態では安 静時血流が上昇するためCFRが低下する(図1).

これらの冠動脈狭窄以外の病態でもCFRは低下 するため,CFRが低下している場合にその原因 が冠動脈狭窄によるのか他の要因によるのか判 断することが必要となる.

 このように,CFRは冠動脈狭窄以外の病態も 反映する指標であり,特に冠動脈では心外膜冠 動脈狭窄と冠微小循環を反映することから,心 外膜冠動脈と冠微小循環の 2 つを合わせて評価 する指標と考えられている.

3)冠内圧指標:FFRとiFR

 冠内圧に基づく生理学的指標にfractional flow reserve(FFR) とinstantaneous wave-free ratio

(iFR)がある.いずれも圧センサー付きのガイ ドワイヤーを冠動脈狭窄の遠位部まで進めて狭 窄の遠位部と近位部の圧の比で計算される(図 2).FFRは血管拡張薬を用いて心筋最大充血時 に測定するのに対して,iFRは安静時に測定する 点が異なる.FFR,iFRは圧指標であるが,圧較 差等圧自体で狭窄の重症度を評価する指標では なく,冠内圧に基づく冠血流推定のための指標 である.冠循環を電気回路に見立てて,血圧を 電圧,血流を電流,末梢血管抵抗を抵抗として オームの法則を適用すると以下の式が成り立つ.

血圧=血流×末梢血管抵抗

 ここで末梢血管抵抗が一定であれば,血流と

血圧の関係が一次相関するようになるため,血 圧から冠血流の推定が可能になる.FFRの測定 では血管拡張薬を用いて心筋最大充血を誘発す ることで末梢血管抵抗が一定になる状況を作り 出すのに対して,iFRは血管拡張薬を投与しなく ても安静時には拡張期の後半 75%にwave-free periodと呼ばれる自然に末梢血管抵抗が一定且 つ小さくなる特殊な時相があり,その部分の冠 内圧を抽出することでこの条件を満たす.

4)FFRとiFRの診断性能

 FFRの値は冠動脈に狭窄がなかった場合に比 較して狭窄によってどの程度冠血流が低下して いるかを表している.すなわち,FFR=0.60 は 冠動脈の狭窄によって冠血流が正常の 60%ま で低下していることを示す(図 1).FFRの診断 性能は負荷心電図,負荷エコーならびに負荷心 筋シンチグラフィとの比較で検証されており,

FFR<0.75 の場合に感度 88%,特異度 100%,

陽性的中率100%,陰性的中率88%,診断精度 93%で心筋虚血が同定できる.FFRは最も診断 能が高い虚血診断法の 1 つとされている1).  iFRの診断能はiFR,FFR以外の生理学的虚血診 断法をリファレンススタンダードとしてFFRと の比較で検証されており,iFR<_0.89 を用いて FFRと同等であることが示されている2). 5)FFRとiFRに基づく血行再建の臨床成績  FFR,iFRに基づいて冠血行再建を行った場合 に臨床成績が改善することが複数の前向き無作 為 化 比 較 試 験(randomized controlled trial:

RCT)で示されている.

 FFRにおけるRCTでは,以下の3つが示されて いる.1 つ目は,冠動脈造影で中等度狭窄病変 が存在する場合に,FFRで心筋虚血が陰性であ ればPCIを行うよりもPCIを行わずに薬物療法を 行う方が臨床成績が良い3).2 つ目は,PCIを行 う場合に,血管造影による狭窄度に基づいて実 施するよりも,血管造影にFFRを加えて虚血が

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証明された病変にのみにPCIを行う方が臨床成 績が良い4).3 つ目は,FFRで虚血が証明された 病変に対しては薬物療法単独で治療するよりも 薬物療法にPCIを加えることで臨床成績が改善 する5)

 iFRにおいては 2 つのRCTがあり,血行再建の 適応判断をiFRを用いて行った場合とFFRを用い て行った場合を比較して,iFRがFFRに対して非 劣性であることが示されている6,7)

 これらのRCTを根拠として,本邦及び海外の 冠血行再建に関するガイドラインは,FFR,iFR の使用をclass IAで推奨している.

4.INOCA

 狭心症症状を有し非侵襲的検査で虚血所見が 認められるにもかかわらず,冠動脈造影で冠動 脈に狭窄病変を認めない病態(ischemia with non-obstructive coronary arteries:INOCA)が近 年注目されている8)

 INOCAには冠攣縮と冠微小血管障害の 2 つの 病態が関与していると考えられている.INOCA が注目されている背景には,狭心症を疑い心臓 カテーテル検査を実施しても狭心症を説明でき る心外膜冠動脈病変が認められない場合に,症 状の原因を安易に心臓以外と判断することで適 切な診断や治療が行われないリスクへの警鐘の 意味もある.

1)冠攣縮

 INOCAの病態のうち,冠攣縮は東洋人,特に 日本人に多いことが知られており,本邦では以 前より本病態が広く認識されてきた.冠攣縮の 病態には血管内皮機能異常,すなわち,内皮細 胞からの一酸化窒素の産生低下が関与すると考 えられている.

2)微小血管障害による狭心症

 INOCAのもう 1 つの病態に冠微小血管障害が

あり,女性の方が男性よりも罹患しやすいこと が知られている.微小血管障害による狭心症の 病態は,器質的な微小血管障害と,微小血管の 血管攣縮,そして,その両方の 3 種類が考えら れている.器質的変化とは細動脈の血管壁肥 厚,毛細血管密度の低下のことであり,これら は古典的な冠危険因子,左室肥大,心筋症等で 生じるとされている.器質的変化が起こると,

冠微小血管は拡張できなくなり,心筋酸素需要 量に応じた冠血流量を増加させられなくなる

(図 1).微小血管の血管攣縮は小動脈レベルで 生じるとされている.心外膜冠動脈の冠攣縮と 同様に血管内皮障害が関与するとされ,血管攣 縮により虚血が生じる.

3)冠攣縮の診断

 冠攣縮性狭心症は12誘導心電図やHolter ECG

(electrocardiogram)で自然発症のST上昇を捉え ることができれば非侵襲的検査で診断可能であ るが,その所見を捉えることは必ずしも容易で ない.そこで,夜間から早朝にかけて安静時に 生じる胸痛,運動耐容能の著明な日内変動(早 朝の運動能の低下),過換気(呼吸)により誘発 される等,冠攣縮を疑わせる症状がある場合に は冠動脈造影を実施し,アセチルコリンやエル ゴノビンによる冠攣縮誘発試験で確定診断する 場合が多い.冠攣縮の診断がつけば,禁煙の徹 底やカルシウム拮抗薬等の血管拡張薬による薬 物療法を行う.

4)冠微小循環障害の診断

 冠微小循環障害による狭心症の診断基準は Coronary Vasomotion Disorders International Study Group(COVADIS)により提唱されてい る9).1つ目に労作時の胸痛や呼吸困難の狭心症 症状があること,2 つ目に閉塞性冠動脈疾患が ないこと(狭窄率<50%,FFR>0.80),3 つ目 に客観的な心筋虚血が証明されていること(機 能的画像診断による),4つ目に微小血管障害が

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証明されていること.4 つ目の冠微小血管障害 の証明は,侵襲的検査ではCFRもしくは冠微小 血管抵抗の測定で行う.心外膜冠動脈に血行動 態的有意狭窄がない状況下でCFR<2.0 であれ ば,その原因は冠微小循環障害と診断できる.

 冠 微 小 血 管 抵 抗 を 測 定 す る 手 法 と し て,

hyperaemic microvascular resistance(HMR)と index of microvascular resistance(IMR)がある.

これらは冠血流速度と冠内圧の情報から算出で きる(図2).ここでもオームの法則から以下の 計算式で微小血管抵抗を計算する.

冠内圧=冠血流×微小血管抵抗 微小血管抵抗=冠内圧/冠血流

 HMRは冠内圧と冠血流速度を同時測定でき る デ ュ ア ル セ ン サ ー ワ イ ヤ ー で 測 定 可 能 で HMR 1.9>mmHg/cm/sもしくは>_2.5 mmHgの 場合に微小循環障害と判定できることが報告さ れている.IMR計測では温度センサーが備え付

けられた圧センサー付きガイドワイヤーを用い る.熱稀釈法によるtransit timeの逆数で冠血流 速度を推定し,HMRと同様に冠内圧と冠血流速 度の情報から末梢血管抵抗を算出する.IMR>_ 25 の場合に微小血管障害と判定する.

 微小血管の攣縮の診断は通常の冠攣縮診断と 同様にアセチルコリンを用いて行われる.アセチ ルコリンを冠動脈内に投与して心外膜の冠動脈 に冠攣縮がないにもかかわらず症状の再現と心 電図変化がある場合に診断される9).その他,冠 静脈洞血の乳酸値上昇で診断することもある.

5.MINOCA

 心電図変化,症状ならびに心筋逸脱酵素(ト ロポニン)上昇等から心筋梗塞と診断されるに もかかわらず,血管造影で冠動脈に閉塞性病変 が 認 め ら れ な い 病 態 をmyocardial infarction with non-obstructive coronary arteries

(MINOCA)と呼ぶ10)

① ②②

図3 MINOCAの症例

胸痛を主訴に救急受診した70歳代,男性.12誘導心電図でII,III,aVF誘導でST上昇,V2-5でST低下あり(①).

心筋トロポニンが陽性であり,ST上昇型心筋梗塞を疑い冠動脈造影を実施したが,冠動脈に有意狭窄は認めず,

MINOCAと考えられた(②).OCTで冠動脈を観察したところ,前下行枝の中間部で小さなプラーク破裂(③中 の矢印)と冠動脈内血栓(③中の)を認めた(③).前下行枝が心尖部を回り込み心尖部下壁を灌流しており,

心電図変化を説明できることから,MINOCAの原因は同部位でのプラーク破綻と診断し,抗血小板薬とスタチン による薬物療法を行った.

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 この際の心筋梗塞はFourth Universal Defini- tion of myocardial infarctionによって定義され ており,MINOCAは心筋虚血に伴うトロポニン 上昇を来たす病態であり,虚血以外(例:心筋 炎,タコツボ心筋症等)の心筋逸脱酵素を上昇 させる病態は除外される.

 心筋梗塞と診断されるうち6~8%がMINOCA と さ れ, 女 性 に 多 くSTEMIよ り もNSTEMI

(non-ST-elevation myocardial infarction)の発症 形式をとる特徴がある.MINOCAは“working diagnosis”と呼ばれる確定診断に至る前の仮の 診断名であってより詳細に心筋梗塞を来たした 原因を追求する必要がある.

 冠動脈造影の際に血管内イメージング(OCT やIVUS),冠攣縮誘発ならびに微小血管障害の 評価を行うことでMINOCAの原因を特定できる ことがある(図 3).さらには,心臓MRIで心筋 障害のパターンが虚血パターン(心内膜側の心

筋障害)かそれ以外かみることで心筋梗塞かそ れ以外の除外すべき疾患かも判別できる.

 MINOCAの原因を特定することは重要で,プ ラーク破綻であることが判明すれば抗血栓療法 やスタチン,冠攣縮であればカルシウム拮抗薬 を投与する等,適切な治療を選択することがで きる.

おわりに

 虚血性心疾患の病態は,単純に冠動脈の狭窄 や閉塞ではなく多岐に亘る.正確な診断は適切 な治療のfirst stepであるため,各施設で利用可 能な診断手法を駆使して正確な診断を追求する ことが重要である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:塩野泰紹;講演 料(アボットメディカルジャパン,フィリップス・ジャ パン)

文 献

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参照

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   ︵大阪讐學會雑誌第十五巻第七號︶