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音触感のユーザインタフェースデザイン

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Academic year: 2021

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修士論文

音触感のユーザインタフェースデザイン

公立はこだて未来大学大学院 システム情報科学研究科

メディアデザイン領域

本多 達也

指導教員 (主)岡本誠 (副)伊藤精英,美馬義亮 提出日 2015 年 1 月 23 日

Master’s Thesis

User Interface Design of Sound Tactility

by

Tatsuya HONDA

Master’s Thesis at Future University Hakodate, 2015 Advisor: Prof. Makoto OKAMOTO

Coadvisor: Associate Prof. Kiyohide ITO, Prof. Yoshiaki MIMA Graduate School of Systems Information Science

Future University Hakodate January 23, 2015

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Abstract– I have developed a device that allows sounds to be perceived via hair

vibrations by deaf people; the concept is similar to cat whiskers, which can detect air

currents. Our device, which we have named ONTENNA, converts the loudness of a

sound into a vibration with a certain power, and the users wear the device in their hair

in much the same way as a hair slide. When ONTENNA detects a sound, it relays the

information to the user by both shaking the hair and activating a light-emitting diode.

This allows other users of ONTENNA to gain information about the sound, and

facilitates sharing. In the present study, I have demonstrated that user can detect a

direction of a sound source or not by using two devices. The results of an assessment

experiment showed that user almost surely could detect a direction of a sound source.

Keywords: deaf, user interface, perception, ONTENNA, sound tactile 概要: ろう者は,健聴者が普段耳にしているような音を知覚することが困難である.そのため, 音情報が得られない中で生活をしている.音を視覚や触覚に変換してろう者に伝達する関連研 究や関連製品は多数存在する.しかし,それらの装置は機械側での処理方法やアウトプットに 意識が集中しており,使用者である人間の身体性について十分に考慮されているものが少なか った.本研究では,能動性という人間の知覚特性に着目し,装着する部位や音の表現方法につ いて検討を行った.そして,人間の身体性や感覚拡張についての可能性を模索し,新たな聴覚 の感覚代行装置の開発を試みた. ONTENNA を開発するにあたり,様々なプロトタイプをろう者と一緒になって制作した.視 覚や聴覚で音を伝達する様々なプロトタイプを制作することで,ろう者がより音を知覚しやす い方法や装着場所についての検討を行った.そして,「音触感」という考えのもと,人間と機械 の関係について考慮し,音を触覚で感じるユーザインタフェースの実現を目指した. 開発した「ONTENNA」はヘアピンのように髪の毛に装着し,振動によって音の特徴を髪の 毛に伝える音環境認識装置である.髪の毛であれば,装置によるテンションがかかるため振動 を知覚しやすく,能動的に身体を動かすことが可能である.ONTENNA は,ろう者の周囲の 30dB から90dB の音圧を 256 段階の振動と光の強さにリアルタイムに変換し,ユーザに音の特徴を 伝達する.ろう者はONTENNA を用いることで,車が近づいてくると音がだんだん大きくなっ ていく様子や動物の鳴き声のパターンを知覚することができる. 本研究では,開発したONTENNA を 2 つ用いることで左右の音源方向を知覚することが可能 であるかを検証した.音源定位実験の結果,頭部を固定した状態においてONTENNA を 2 つ用 いた場合,1 つの場合に比べて有意に正答率が上昇することが明らかとなった.さらに, ONTENNA を 1 つ用いた場合でも,身体を能動的に動かし音源を探索することで,ONTENNA を2 つ用いた場合と同等の正答率を得られることが示された. キーワード: ろう者,ユーザインタフェース,知覚,ONTENNA,音触感

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目次

第1章 序論 ... 1 1.1 はじめに ... 1 1.2 背景 ... 2 1.3 研究目的 ... 2 第2 章 関連研究及び関連製品 ... 3 2.1 関連研究 ... 3 2.1.1 触覚的な音の表現方法 ... 3 2.1.2 視覚的な音の表現方法 ... 5 2.2 関連製品 ... 6 2.3 身体拡張デバイス ... 8 2.3.1 CyARM ... 8 2.3.2 F.B.Finger ... 9 2.4 本研究の位置づけ ... 10 第3 章 研究のメソドロジー ... 11 3.1 インクルーシブデザイン ... 11 3.2 クイックプロトタイピング ... 11 第4 章 音触感へのアプローチ ... 12 4.1 音触感とは ... 12 4.2 視覚的に音を表現することの可能性 ... 12 4.2.1 光を使って音を表現する装置 ... 12 4.2.2 波を使って音を表現する装置 ... 13 4.2.3 砂を使って音を表現する装置 ... 13 4.3 触覚的に音を表現することの可能性 ... 14 4.3.1 腕を使って音を表現する装置 ... 14 4.3.2 耳を使って音を表現する装置 ... 15 4.3.3 服を使って音を表現する装置 ... 16 第5 章 ONTENNA ... 17 5.1 コンセプト ... 17 5.2 システム ... 18 5.3 装着方法 ... 18 5.4 電子回路 ... 19 5.5 指向性能 ... 20 5.6 効果 ... 20 5.6.1 振動による効果 ... 20 5.6.2 光による効果 ... 21 第6 章 ONTENNA を用いた音源定位実験 ... 22 6.1 目的 ... 22 6.2 被験者 ... 22 6.3 実験環境 ... 22 6.4 実験装置 ... 23 6.4.1 音刺激とバンドノイズ ... 23

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6.4.2 応答測定装置 ... 23 6.5 実験条件 ... 24 6.5.1 フィックス・ダブル条件 ... 25 6.5.2 フィックス・シングル条件 ... 25 6.5.3 フリー・ダブル条件 ... 26 6.5.4 フリー・シングル条件 ... 26 6.6 実験手続き ... 26 第7 章 実験結果 ... 28 7.1 正答率の結果 ... 28 7.2 応答時間の結果 ... 29 7.3 被験者へのインタビュー ... 30 第8 章 考察 ... 31 8.1 ONTENNA を2つ用いることの有効性について ... 31 8.2 身体を能動的に動かすことの有効性について ... 31 第9 章 ONTENNA を使用したろう者の反応 ... 33 9.1 ONTENNA 使用時の様子 ... 33 9.1.1 ONTENNA を使って自分の声を確かめるろう者 ... 33 9.1.2 ONTENNA を付けている人に自分の声を伝えようとするろう者 ... 33 9.2 ONTENNA 使用後のインタビュー ... 34 9.2.1 ONTENNA に対するポジティブな意見 ... 34 9.2.2 ONTENNA に対するネガティブな意見 ... 35 第10 章 より身体性を考慮した装置の開発 ... 36 10.1 ONTENNA の小型化 ... 36 10.2 ONTENNA earring ... 37 第11 章 結論 ... 38 11.1 本研究のまとめ ... 38 11.2 今後の展望 ... 38

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第1章 序論

本研究は,音の無い世界で生活をするろう者に,音の特徴を少しでも伝えたいという思いで 取り組んだものである.本章では,研究を始めたきっかけやろう者の生活背景について紹介し, 本研究の目的について述べる.

1.1 はじめに

私は大学一年生の時に,大学祭に遊びに来ていたろう者を助けたことがきっかけで手話の勉 強を始めることとなった.もともと私の身の回りにはろう者の知り合いや友達はおらず,音の 無い世界で生活している彼らは私にとって未知の存在であった.そのため,もっと彼らのこと を知りたいという考えで手話を勉強し,全国手話検定試験の資格も取得した.大学一年生が終 わる頃にはNPO 法人はこだて音の視覚化研究会に所属し,ろう者と共に様々な活動を行った[1]. 現在では,手話通訳のボランティアを行ったり,大学内に手話サークルを立ち上げたりしなが ら,ろう者と生活を共にしている(図1.1). 図1.1 大学内に設立した手話サークルの様子 彼らと一緒に生活をしていると,ろう者も健聴者のように音を感じたいという思いを持って いるということがよく分かる.例えば,ろう者と一緒に道を歩いていて動物が突然鳴きだすと, 私はその動物の方に視線を移すのだが,ろう者はまず私の顔を見てから,次にその視線の先を 確かめるといった行動をとる.何らかの音が発生しても健聴者と同じタイミングで反応するこ とが出来ないということに,大きなギャップを感じているという.また,その動物がどのよう な音の大きさで,どのようなリズムやパターンで鳴いているのかを知りたいという思いもある ようだ.ろう者が身近な存在となった私は,このような音が聞こえないことで生じるさまざま なバリアに多く遭遇した. ジュリア・カセム(2014)は「障がいというものは,これまで私たちが思っていたような制 限的なものでも否定的なものでもなく,むしろこれまで悩んでいた問題に新たな解決の扉を開

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くように,素晴らしくわくわくするものである」と述べている[2].本研究においても,ろう者 と一緒になって音環境認識装置を開発することで,私たち健聴者だけでは気付かなかったたく さんのアイデアやヒントを発見することができると考えた.本論文では,音環境認識装置開発 までのプロセスを紹介し,開発したデバイスの評価やそれを使ったろう者の反応について述べ る.

1.2 背景

身体障害者手帳の交付を受けている聴覚障がい者は,全国で約36 万人いる.しかし,国連の 世界保健機構(WHO)では“41dB から補聴器の装用が推奨される”とされており,この基準 に基づくと国内には約600 万人にのぼる聴覚障がい者が存在するとも言われている[3].聴覚障 がい者等級は身体障害者福祉法によって定められており,その重度に応じて等級が割り当てら れる(表1.1).両耳全ろうである聴覚障がい者(ろう者)は,両耳の聴力レベルがそれぞれ 100dB 以上であることを言い,私たち健聴者が普段耳にしているような音を得られない中で生活を行 っている. ユニバーサルデザインコンサルタントで,自身も聴覚障がい者である松森(2014)は,音の 無い生活で生じるさまざまな問題について著書の中で紹介している[5].例えば,警報音が聞こ えないために冷蔵庫を開けたまま外出してしまい食物を腐らせてしまったこと,終了音が聞こ えないために電子レンジに食べ物を入れて温めたまま気付かず食事が終わった後にもう一品あ ったことに気付いたこと,掃除機をかけている途中でコンセントが抜けたのを気付かないまま 掃除を続けてしまったことといったように,聴覚障がい者は音が無いためにさまざまな問題を 抱えて生活していることが分かる. 表1.1 聴覚障がい者の程度等級[4] 1 級 2 級 両耳の聴力レベルがそれぞれ 100dB 以上のもの(両耳全ろう) 3 級 両耳の聴力レベルがそれぞれ 90dB 以上のもの 4 級 (1) 両耳の聴力レベルが 80dB 以上のもの (2) 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が 50%以下のもの 5 級 6 級 (1) 両耳の聴力レベルが 70dB 以上のもの (2) 一側耳の聴力レベルが 90dB 以上,他側耳の聴力レベルが 50dB 以上のもの

1.3 研究目的

本研究では,髪の毛を使って音を感じる新しい音環境認識装置「ONTENNA」を提案し,そ の効果について明らかにする.ろう者が音を触覚として感じることのできるユーザインタフェ ースのメカニズムを解明することが本研究の目的である.そして,人間と情報技術の関係性に ついて想像を広げ,情報技術が人間の感覚や身体を拡張することができるのかという問いにつ いて考えを深めていく.

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2 章 関連研究及び関連製品

本章では関連研究や関連製品について紹介した後,身体機能を拡張するユーザインタフェー ス開発の取り組みについて考察する.

2.1 関連研究

音を別のモダリティに変換して伝達する研究は数多く行われてきた.ここでは,音の表現方 法が触覚的であるものと視覚的であるものに分類して紹介し,それぞれについて考察を行う.

2.1.1 触覚的な音の表現方法

織田らは,聴覚障がい者支援を目的に音源方向を伝達するための手段として,日常生活にお ける様々な報知音を2 チャンネルのマイクロホンで収録し,4 方向の振動子により音源方向情 報と振動パターンを伝達する方法を提案した[6].帽子型の 2 チャンネルマイクロホンと 4 方向 に振動子が取り付けたれた振動ベルトをそれぞれ頭部と腰に装着することにより,音源方向を 伝達する(図2.1).例えば,何らかの家電製品が動作不良によって異常音を発生させた場合, この異常音を聴覚障がい者へ鳴動パターンと同様に振動で方向とともに伝達することで,あら ゆる報知音を健聴者にたよることなく一人で即座に認識し,解決できるようになる. 図2.1 腰につけた振動子により音源方向を伝達する装置 貝梅らは,32 本の触覚ピンをマトリックス状に配置し,無線通信による振動パターンの入出 力機能を有する,音を触覚で理解する装置を開発した[7].周囲音を周波数と音量の 2 つの要素 で識別できるようにし,マトリックス状の振動ピンの縦軸を周波数,横軸を音量に割り当て, 振動しているピンの位置によって利用者に周囲音を提示することを可能にした(図2.2).実験 の結果,触覚ピンの振動による方向の取得や探索,周囲音の認識の実現可能性を確認すること ができた.

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図2.2 32 本の触覚ピンで周波数と音量を伝達する装置 伊福部は,ヒトの内耳の基底膜の振動様式に倣い音の高低を 16 段階に振り分け,3 行×16 行からなる振動子マトリックスを介して音の特徴を指先に伝える装置を開発した[8].振動子ア レイ上で,音高に対応するところが強く振動するため,母音を指先で識別することが可能とな った(図2.3).実験では,まず,ある歌の音程を指先につぎつぎに提示して,その音程を刺激 部位の移動パターンとして覚えてもらい,その後,覚えたパターンにしたがって自己の声の高 さを制御するように指示を行った.実験の結果,40 歳頃に聴覚と視覚を失った後天性盲聾の 67 歳の女性は,わずか30 分程度の訓練で「夕焼け小焼け」や「お馬の親子」などの童謡を歌える ようになった. 図2.3 3 行×16 行からなる振動子マトリックスを介して指先に伝える装置 このように,音を触覚的に伝達する研究は数多く行われている.さらに,音楽を振動に変換 して伝達する装置やリズムを伝える装置なども研究・開発されている[9,10,11,12].しかし,こ れらの装置は人間の身体性について十分に考慮されているとはいえない.例えば,何かの音が 発生した場合に,人間は頭を動かしてその音源方向を探索しようとする.この行為は,人間の 知覚の能動性によるものである.しかし,その音を感じるセンサやアクチュエータが腕や腰, 指先などといった場所に装着されていた場合,人間が本来持つべき体幹とのズレが生じ,能動 性を妨げる恐れがある.このように,能動性という人間の知覚特性を考慮すると,センシング デバイスも,人間の感覚器のように,目的にあわせて動かしながら使用できるようにデザイン されるべきである[13].

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2.1.2 視覚的な音の表現方法

井上らは,できるだけ多くの音情報を視覚情報として映像に加えて表示する.これにより, 聴覚障がい者は,映画等のコンテンツを楽しむ手がかりを得ることができた.楽しんでもらえ る効果音の視覚表現方法を提案した[14].提案手法は信号処理によりテンポ,音色,声,音量 を抽出し,これらの音の要素からグラフィックコンテンツを作成し可視化を行うというもので ある(図2.4).30 秒間のドラマ映像を 7 段階の評定尺度を用いて,音声なしの映像・視覚化さ れた映像・オリジナルの映像の3 種類の映像に対して評価実験を行った.実験の結果,視覚化 された映像は,音声なしの映像に比べオリジナルの映像に近いことが判明し,視覚化した映像 が音情報を補ったことが分かった. 図2.4 音情報を視覚情報として映像に加えて表示するシステム 徳田らは,光学透過型ヘッドマウントディスプレイ(HMD)に音源方向と字幕を呈示する, 聴覚障がい者の目で見る音環境理解支援システムを開発した[15].このシステムの音源特定機 能では,マイクロホンアレイを用いて周囲環境音を集音し,音源定位,音源分離,音源同定を 行うことができる.音源定位結果は画面上半分の3D 画面中のマイクロホンアレイに向かって ビーム表示され,音声・非音声識別結果の音声尤度に応じて音声アイコンが表示される(図2.5). 実験の結果,音源到来方向の呈示で,音声イベント発生時の音源方向の素早い視認が可能であ ることが確認できた.さらに,HMD へのシステム情報呈示で,他の注視対象との視線移動の 負荷が軽減できるようになった. 図2.5 光学透過型 HMD に音源方向と字幕を呈示するシステム

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高宮らは,内蔵したマイクロホンで拾った環境音からの聴覚情報を視覚的に表現する時計型 の装置を提案した[16].音源に対応した円は,「方向」「移動」「音量(距離感)」を反映して挙 動することを想定している(図2.6).評価の結果から,環境認識を行う際に音源の「方向」「移 動」「距離感」という情報がろう者にとって有効であるということが分かった. 図2.6 音源の方向・移動・音量(距離感)を視覚的に表現する装置 このように,音を視覚的に伝達する研究は数多く行われている.しかし,日常的に視覚情報 に依存して生活をしているろう者にとって,さらに音情報を視覚的に伝達するには視覚への負 担が大きくなってしまうという問題がある.また,吉本(1979)は「視覚は図形のような平面 または立体に配置されたものを理解するのには優れているのに対し,音のように時間とともに 急速に変化する量を受け取るのは不得意で認知するまでの時間が大変かかるし,見分けがつき にくい」と述べている[17].視覚的な音の表現方法では,ろう者は常に装置を見ていなければ ならず,視覚が専有されてしまう恐れがある.

2.2 関連製品

ベルマンビジットシステムは,火災や電話,来客,赤ちゃんの泣き声,起床時間を振動や光・ 音で知らせる無線式屋内信号装置である[18].ドアセンサ発信機,ドアベル発信機,テレホン センサ発信機,火災警報発信機,ベビーセンサ発信機といったように目的別に発信機があり, これらの発信機からの無線信号を受取る受信機には,持ち運びが出来るポータブル式やズボン やスカート等に取り付ける携帯型の物,強いフラッシュライトで知らせるフラッシュ型,目覚 まし時計を兼ねたアラームクロック型などがある(図2.7). 図2.7 音源情報を光・振動・音で知らせるベルマンビジットシステム

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聴覚障がい者用屋内信号装置「シルウォッチ」は,腕時計型のデバイスであり,振動と文字 によって音情報を通知する[19].特定小電力という電波を使用し,通信距離が長く人体への影 響が少ないといった特徴がある.手のひらに収まる大きさでユーザへの負担が小さく,来客の チャイムやファクシミリの着信などを振動と文字表示で報知することで音の発生する場所を伝 達する(図2.8). 図2.8 音源情報を文字と振動で伝える腕時計型のデバイス このほかにも,音を伝達する製品は数多く販売されている[20, 21].しかし,これらの装置は 記号的なUI(ユーザインタフェース)が多い.例えば,音源を文字で示されたとしても,文字 を読んだ後に音源の場所はどこであるのかを考えなければならず,音と文字と場所を頭のなか で結び付ける必要がある(図2.9).さらに,どの場所で音が発生したのかを文字として知るこ とができても,その音がどのような大きさの音で,どのようなリズムやパターンで鳴っている のかを知ることは難しい. 図2.9 記号的で音源の特徴が分からない UI また,腕時計型の装置は普段手話を使って会話をするろう者にとって負担が大きいものとな る(図2.10).また,洗い物や洗濯をする際に邪魔であったり,夏場になると蒸れてしまったり するといった理由からろう者はあまり腕時計型タイプの装置を使っていないということがイン タビュー調査から分かった.

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図2.10 装着方法が腕に負担をかけてしまう UI

2.3 身体拡張デバイス

岡本らは,“人と情報技術の新しい関係が、人の感覚や身体を拡張することができるのか”と いうことについて研究を行っている[22].また,「視覚障がい者や聴覚障がい者といった人々の 失った感覚機能を元通りに復元する技術は無いが,残された感覚器官の働きを拡張して新しい 感覚手段を獲得することは可能かもしれない」と述べている.岡本らは,身体機能をもっと有 効に利用したり,足りないところを補充するユーザインタフェースを実現しようとする取り組 みをFUTURE BODY と名付けた [23].本研究においても,FUTURE BODY の考えのもと人間 の身体性や感覚拡張についての可能性を模索し,新たな聴覚の感覚代行装置の開発を試みた.

2.3.1 CyARM

岡本らは,ユーザと対象物との距離をワイヤの長さ(腕の屈伸)によって知覚するという直 感的なユーザインタフェースを持つ環境認識装置 CyARM を開発した[24].センサから対象物 までの距離が近い場合は,モータがワイヤを巻き取り,遠い場合はワイヤを送り出す.この際 のワイヤの伸び縮み(手の屈伸)によって,ユーザは距離を認識することができる(図2.11, 2.12).また,岡本らは人間の知覚の「能動性」にも注目し,ユーザが環境を知覚するためのセ ンシングデバイスは,ユーザが能動的にセンサを動かしながら使用するべきであると主張して いる.視覚障がい者が,推論なしで距離や他の空間情報を認知することができる新しい感覚の 補償装置を設計し,直感的なインタフェースによって,視覚障がい者の環境認知の可能性を拡 大する取り組みを行っている [25, 26, 27, 28, 29, 30]. 図2.11 CyARM

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図2.12 CyARM の動作メタファー

2.3.2 F.B.Finger

FUTURE BODY Finger (F.B.Finger) は,環境の印象を非接触に理解することができる知覚装 置である.赤外線センサと指の運動を利用したユーザインタフェースによって,対象物までの 距離,モノの形状,素材の肌理などを理解することができる[31].距離センサで取得した値に 応じてサーボモータのレバーの角度が変化する.例えば,対象物までの距離が遠い場合には指 が屈曲に倒れるようにレバーが動き,逆に対象物までの距離が短い場合には指が伸展するよう にレバーが動く(図2.13,2.14). 図2.13 F.B.Finger 図2.14 F.B.Finger の概念図

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2.4 本研究の位置づけ

関連研究や関連製品より触覚的な音の表現方法と視覚的な音の表現方法における長所と短所 がみられた. 視覚的な音の表現の場合,ろう者が普段使い慣れている視覚情報に付加して情報を提示でき るため,ろう者にとって利用しやすい情報補完装置となり得る.しかし,ろう者は常に装置を 見ていなければならず,視覚が専有されてしまう恐れがある.さらに,日常的に視覚情報に依 存して生活をしているろう者にとって,音情報を視覚的に伝達するには視覚へ過大な負担がか かってしまうという問題がある. 一方,触覚的な音の表現の場合,視覚情報を侵すことなく直感的に音情報を知覚できるとい う特徴がある.しかし,関連研究や関連製品からは,人間の身体性について十分考慮されてい るものが少なかった.首を動かして音の方向を探索するといった人間の能動性や知覚特性を考 慮し,感覚代行装置はデザインされなければならない. 本研究では,能動性という人間の知覚特性を考慮し,装着する部位や音の表現方法について 検討を行う.そして,FUTURE BODY の考えのもと人間の身体性や感覚拡張についての可能性 を模索し,新たな聴覚の感覚代行装置の開発を試みる.

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3 章 研究のメソドロジー

3.1 インクルーシブデザイン

インクルーシブデザインとは,高齢者,障がい者,外国人など,従来,デザインプロセスか ら除外されてきた多様な人々を,デザインプロセスの上流から巻き込むデザイン手法である [32].従来,デザイナが製造したものをユーザが使用するという一方向のモデルが成り立って いた.しかし,それらの手法ではユーザの持っているアイデアや可能性を製品に反映すること は難しかった.インクルーシブデザインの考え方は,これまで排除されてきた高齢者や障がい 者のようなグループが,社会での孤立者や保護の対象者としてではなく,あたかも活動的な消 費者やプロデューサのように振る舞うことで,多様化された社会の問題を解決する方法を生み 出すことである[33].本研究においても,ろう者と一緒になって装置を開発することで,健聴 者では気付かないアイデアや可能性を発見し,よりろう者の声を反映させた音環境認識装置の 開発に取り組んだ.

3.2 クイックプロトタイピング

プロトタイピングとは,頭で考えていることを目に見える形で表現することで,ユーザから 意見を得る手法のことである.山中(2013)はプロトタイプについて「未来において人びとが 得られるであろう人工物体験を前もって提示し,技術がもたらすベネフィットを多くの人が共 有するための装置である」と述べている[34].つまり,プロトタイプを介してユーザの意見を 抽出し,より良い提案に繋げることが可能となる.さらに,最近ではMaker ムーブメントに代 表されるように,プロトタイプを制作するのに必要なツールに簡単にアクセスできるようにな った[35].触覚の感覚代行装置を開発において,触覚は頭で考えていても分からない.まるで スケッチを描くようにプロトタイプを制作してイメージを外化することで,ろう者の潜在的な アイデアや意見を獲得するためのアプローチである.

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4 章 音触感へのアプローチ

聴覚の感覚代行装置を制作するにあたり,音触感という視点を用いてプロトタイプを設計し た.本章では,音触感の考え方について述べた後,ろう者と一緒に制作した様々なプロトタイ プについて紹介する.

4.1 音触感とは

関連研究や関連製品で見られた装置のほとんどは,機械側での処理方法やアウトプットに意 識が集中しており,使用者である人間の身体性について十分に考慮されているものが少なかっ た.人間を中心として音伝達装置の設計を考えた場合,部位・方向・身体性といった様々な要 因に対して考慮されなければならない.音触感とは,音を触覚として感じるための新しいユー ザインタフェースを考慮することであり,人間と機械の新しい関係について考えられたユーザ インタフェースの実現を目指したもののことである.

4.2 視覚的に音を表現することの可能性

音というモダリティを光や波,砂に変換してろう者に伝える試みを行った.ここでは,視覚 的に音を表現することの可能性について考察するため制作したプロトタイプを紹介する.

4.2.1 光を使って音を表現する装置

音の大きさを光の強さで表現することにより,音の特徴をろう者に伝える装置を制作した(図 4.1).音圧に合わせて光の量がリアルタイムに変化し,音がだんだん大きくなっていく様子や, 音楽のリズムを目で見ることが可能である. 装置を使ったろう者は「連続的に光が変わるので,リズムが分かる」や「自分の声の大きさ が見えて面白い」といった意見を述べた.しかし,音を確認する際にはずっと装置を見てなけ ればならず,視覚を専有してしまう恐れがある.普段の生活で視覚に依存するろう者にとって, 視覚への負担が大きくなってしまうのではないかと感じた. 図4.1 光を使って音を表現する装置

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4.2.2 波を使って音を表現する装置

音の大きさを水の波面で表すことにより,音を感じることのできる装置を制作した.(図4.2). マイクから得られた音圧が振動となって水面を揺らし,波となって音の情報を視覚的に表現す る.下からLED を当て,それらの波面を上部にあるスクリーンに投影することで,新たな音の 視覚表現を取り入れた.波形として音を捉えることにより,音の広がっていく様子をろう者に 伝えることができる.LED の色はランダムに変化し,幻想的な印象をろう者に与える.音を波 で表現する波ディスプレイは,ろう者に音面白さを様子を伝えることができる. 装置を使用したろう者は,「光と波の表現がとても綺麗」や「声を出すと,波の形が変わって 楽しい」といった意見を述べた.その一方で,「光の色がランダムに変わるだけなので,光に意 味がほしい」や「光がチカチカして眩しい」といった意見も得た.過度な光の表現は,ろう者 にとっては不快である場合もあることが分かった. 図4.2 波を使って音を表現する装置

4.2.3 砂を使って音を表現する装置

音の大きさに応じて砂の面が振動し,視覚的に音の強さを表現する装置を制作した(図4.3). この装置は,自然の物を使って音を表現することをコンセプトに制作したものである.液晶デ ィスプレイのようにデジタルを用いた表現があふれている中で,砂というアナログなもので音 を表現することで,音を新しい視点で見ることができるのではないかと考えた.砂は大きい音 には激しく,小さい音には静かに動く. 装置を使ったろう者は「砂が生き物のように見えて面白い」や「砂の形が変わっていくのが 不思議である」という意見を得た.その一方で,「砂の動きだけでは,あまり音の特徴が分から ない」という意見もあった.

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図4.3 砂を使って音を表現する装置

4.3 触覚的に音を表現することの可能性

視覚的に音を表現方法した場合,ろう者の視覚情報に過大な負担がかかってしまう.そこで, 触覚的に音を表現することについて,ろう者と協働して多数のプロトタイプを制作し,音触感 を実現するためにはどの部位が適しているのかについて探索した.ここでは,その過程で制作 した装置について紹介する.

4.3.1 腕を使って音を表現する装置

音の大きさに合わせて腕に装着されたバイブレータが振動する装置を制作した(図4.4).音 が大きくなるほど腕の上の方に振動が伝わり,腕全体で音を感じることができる.まるで, この装置を使ったろう者は,「振動が直接肌に当たるので,くすぐったい」や「ずっと腕が振 動していると,腕を使って家事や会話がやりにくくなるのではないか」と述べた.振動子を肌 に直接装着すると,振動が強すぎてユーザは不快感を感じてしまうということがわかった.ま た,腕に装着した場合,普段手話を使って会話をするろう者にとっては邪魔であるという意見 も得た.

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図4.4 腕を使って音を表現する装置

4.3.2 耳を使って音を表現する装置

耳の振動で音を感じる装置を制作した(図4.5).腕に負担をかけることなく,音を伝達する ことが可能である.さらに,首を動かして音源方向を探索するという人間の知覚行為を犯すこ とがないため,能動的な音探索を可能にする.耳かけ型イヤホンの部品を取り出し,振動子を 取り付けることでプロトタイプを制作した. この装置を使ったろう者は,「耳が振動すると変な感じがする」や「ムズムズして,気持ち悪 い」といった意見を述べていた.この装置の場合,耳全体が振動してしまうため,耳の裏など に振動が当たるとかなりくすぐったいそうである.しかし,耳たぶに振動子を当てた場合は, 比較的くすぐったさが取れたようであった. 図4.5 耳を使って音を表現する装置

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4.3.3 服を使って音を表現する装置

服に取り付けることで音を伝達する装置を制作した(図4.6).服が振動することで服自体が 大きな振動子として役割を果たし,間接的に音の特徴を伝えることが可能である. この装置を使ったろう者は,「肌に触接当たらないから良い」や「胸ポケットや襟の部分など の好きな所に着けられる」という意見を述べた.その一方で,「服の上からだと振動が分かりづ らい」や「もっとおしゃれなブローチのような方が良い」などといった意見も得られた. 図4.6 服を使って音を表現する装置

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5 章 ONTENNA

図5.1 ONTENNA 本章では,髪の毛で音触感を得る新しい音環境認識装置「ONTENNA」の概要について紹介 する(図5.1). 腕に負担を掛けず,肌に直接触れないような間接的な部分であり,尚且つ振動 を知覚しやすい部位を探索した結果,髪の毛を使ったインタフェースの提案に至った.ここで は,ONTENNA のコンセプトとそのシステムについて記述する.

5.1 コンセプト

コンセプトは,「ねこのヒゲが空気の動きを感じ取るように,髪の毛が音を感じ取ること のできる音環境認識装置」である.髪の毛を音触感認識メカニズムの一部として用いることで, 腕に負担をかけることなく,まるでねこがヒゲを用いて空気の流れや風向きを感じるように, ろう者が音を感じることのできるヘアピン型の装置をデザインした(図 5.2, 5.3).ONTENNA (オンテナ)は「音のアンテナ」を略した名称である.antenna には昆虫の触覚という意味があ り,ONTENNA はまさにヒトの髪の毛を用いた音触覚である. 図5.2 ONTENNA の外装デザイン

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図5.3 ONTENNA の光による音伝達

5.2 システム

ONTENNA は,30dB〜90dB の音圧を 256 段階の振動と光の強さにリアルタイムに変換し, ユーザに音の特徴を伝達する.マイクで取得された値はIO デバイスである Arduino Uno に送ら れて処理が行われる[36].その後,30dB〜90dB に対応したマイクからの入力の値を,256 段階 の光と振動に変換して出力される(図5.4). 図5.4 ONTENNA のシステム

5.3 装着方法

ONTENNA はヘアピンのように髪の毛に装着して使用する(図 5.5).髪の毛には ONTENNA によるテンションがかかるため,振動を知覚しやすくなる.また,人間の知覚行為を犯すこと なく,身体を自由に動かして使用することが可能である.ONTENNA の形状は,髪の毛に取り 付けやすいようにヘアピンの構造を取り入れた(図5.6).髪の毛に取り付けた ONTENNA によ り,ろう者は身体を自由に動かし,能動的に音を探索することができる.

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図5.5 デバイス装着イメージ

図5.6 ONTENNA の形状

5.4 電子回路

実装は,IO モジュールである Arduino Uno を用いて行った.エレクトレットコンデンサーマ イクロホン[WM-61A]から取得された音圧データは Arduino 内で処理され,振動と光の強さに変 換される(図5.7).マイクロホンは無指向性の物を使用しており,振動モータは携帯電話内に も使用されている偏平モータ[FM34F]を使用した.偏平モータの直径は 10mm 程度であり,3V で約200Hz の周波数で振動する.

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5.5 指向性能

現在のONTENNA における指向性能を測定するため,2KHz の正弦波を 70dB で出力し,マ イク方向を音源から少しずつ傾けることで,Arduino の入力値を測定した.その結果,マイク を音源方向に向けるほど指向性は高くなるということが分かった(図5.8).なお,表示されて いる値は取得したArduino の入力値の平均である.これより,装置を 2 つ反対方向へ向けて装 着した場合,指向性によって生まれた振動の差分をユーザが知覚し,音源方向を特定できるこ とが期待される.本研究では,2 つの ONTENNA を用いることで音源方向を正しく知覚するこ とができるのかについて量的実験により明らかにする. (数値:Arduino の入力値) 図5.8 ONTENNA の指向性測定結果

5.6 効果

5.6.1 振動による効果

ONTENNA の振動がリアルタイムに変化することにより,音のパターンやリズムといった特 徴を知覚することができる(図5.9).また,振動が連続的に変化することで,だんだん音が大 きくなっていく様子や小さくなっていく様子を感じることが可能である.ろう者はONTENNA を用いることで,蝉の「ミ—ンミンミンミン」という鳴き声のパターンを感じることができた.

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図5.9 蝉の鳴き声のリズムを感じるろう者

5.6.2 光による効果

ONTENNA が光ることにより,発音者は自分の声が相手に正確に届いているのかを確認する ことができる.また,他者の周囲音を知覚することも可能である.ろう者にONTENNA を使っ てもらったところ,普段手話を使っているろう者が声を出してコミュニケーションを始めた. ONTENNA が光ることで,相手に正確に自分の声が届いているということを確認することがで きるため,積極的に声を出して相手に思いを伝えているような行動がみられた(図5.10). 図5.10 声を出して相手の ONTENNA を振動させるろう者

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6 章 ONTENNA を用いた音源定位実験

ろう者はONTENNA を1つ用いることで,車が近づいてくる様子や動物の鳴き声のパターン などを知覚することができた.そこで,ONTENNA を 2 つ用いた場合,2 つの ONTENNA によ る振動の差分を理解して,音源定位を行うことが可能であると考えた.本研究ではONTENNA を2 つ用いることの有効性と身体を能動的に動かすことの有効性について検証するための音源 定位実験を行った.以下に,実験の詳細を述べる.

6.1 目的

ONTENNA を 2 つ用いることの有効性と身体を能動的に動かすことの有効性について検証す ることが本実験の目的である. ONTENNA の個数と身体の制限が音源定位にどのように影響 するのかということについて明らかにする.

6.2 被験者

健聴者である20 代の大学生 8 名(男性 4 名,女性 4 名)と, 90dB 以下の音を聞くことが出 来ない難聴者である30 代の男性 1 名の合計 9 名が実験に参加した.

6.3 実験環境

本実験は,公立はこだて未来大学内の無響室にて行われた.無響室は約3m×3m の正方形の 空間である.図6.1 に示すように,被験者は顎当てが設置されたテーブルに移動して実験を行 った.被験者から見て2 時の方向と 10 時の方向にスピーカが設置されている.テーブルとスピ ーカはそれぞれ1.3m ずつ離れており,左右のスピーカは 1.8m 離されて配置されている.スピ ーカは高さ0.7m・横 0.35m・奥行き 0.35m のボックスの上に設置されており,被験者が顎当て に頭を置いた際に,被験者の耳の高さとおおよそ同じ高さになるように調整されている. 図6.1 実験環境

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6.4 実験装置

6.4.1 音刺激とバンドノイズ

音刺激は2kHz の正弦波であり,被験者の聴取点で測定した値が 70dB(A)となるように調 整されている.(図6.2).また,被験者が音刺激を聴取するのを防ぐため,マスキング用のバン ドノイズを用意した.バンドノイズは,ホワイトノイズからイコライザを用いて 2kHz を中心 周波数としてバンドパスフィルタをかけたものである(図6.3).音刺激とバンドノイズはフリ ー,オープンソースでクロスプラットフォームのレコーディング・サウンド編集ソフトウェア であるAudacity を用いて作成した[37].出力されるスピーカ(XR-MJ10)は出力が 46Wである ものを使用し,大きさは高さ0.24m・横 0.15m・奥行き 0.22m であった[38]. 図6.2 2kHz の正弦波 図6.3 バンドノイズ

6.4.2 応答測定装置

被験者が応答するのに要した時間と応答結果を測定するプログラムをProcessing を用いて実 装した[39].被験者が応答を行うと,その結果と時間が表示される(図 6.4,6.5). 図6.4 応答ボタン

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図6.5 応答結果と時間を表示するプログラム

6.5 実験条件

ONTENNA を 2 つ用いることの有効性と,身体を能動的に動かすことの有効性を明らかにす るため,“ONTENNA の個数”と“身体の制限”という 2 つの要因に対して,それぞれ 2 つ条 件を設けた.表6.1 に示すように,“ONTENNA の個数”という要因に対して,ONTENNA を 1 つ用いた場合を「シングル条件」,ONTENNA を 2 つ用いた場合を「ダブル条件」と設定する. また,“身体の制限”という要因に対して,頭部を固定した状態を「フィックス条件」,身体を 移動できる状態を「フリー条件」と設定した. 表6.1 2 要因における 4 つの条件

要因 条件 説明 ONTENNA の個数 ダブル条件 ONTENNA を 2 つ用いた場合 シングル条件 ONTENNA を 1 つ用いた場合 身体の制限 フィックス条件 頭部を固定した状態 フリー条件 身体を移動できる状態

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6.5.1 フィックス・ダブル条件

図6.6 のように,ONTENNA を 2 つ装着して,頭部を固定した状態を「フィックス・ダブル 条件」とする. 図6.6 フィックス・ダブル条件

6.5.2 フィックス・シングル条件

図6.7 のように,ONTENNA を 1 つ装着して,頭部を固定した状態を「フィックス・シング ル条件」とする. 図6.7 フィックス・シングル条件

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6.5.3 フリー・ダブル条件

図6.8 のように,ONTENNA を 2 つ装着して,身体を移動できる状態を「フリー・ダブル条 件」とする. 図6.8 フリー・ダブル条件

6.5.4 フリー・シングル条件

図6.9 のように,ONTENNA を 1 つ装着して,身体を移動できる状態を「フリー・シングル 条件」とする. 図6.9 フリー・シングル条件

6.6 実験手続き

被験者は椅子に座りONTENNA を装着した.このとき,ダブル条件の場合は,ONTENNA を 耳から頭頂部へ延長した線上で,耳から約30mm の位置に左右1つずつ装着した.また,シン グル条件の場合は,ONTENNA は頭頂部から約 50mm で、額の中心あたりとなる位置に 1 つ装 着した.被験者の耳にバンドノイズが出力されたインナーイヤーヘッドホンを装着させてマス

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キングを行い,音刺激が聴取されないようにした. フィックス条件の場合は,頭部を固定するため,顎当てに顎を乗せるよう指示を行った.ま た,なるべく頭を動かさないように被験者へ教示を行った.フリー条件の場合は,被験者に体 を自由に動かして音源方向を探索するように指示を行った. スピーカから提示される音刺激は 2kHz の正弦波であり,音圧は被験者の聴取点で測定した 値が70dB(A)となるように調整された.音刺激は右もしくは左からランダムに出力され,右 左それぞれ5 回ずつ計 10 回出力された. 被験者は,音源方向が分かった時点で「右」もしくは「左」を応答した.応答はボタンで行 い,右から音刺激が発生したと感じた場合は右ボタンを,左から音刺激が発生したいと感じた 場合は左ボタンを押すように指示した.さらに被験者には,音源方向が分かった時点でなるべ く応答するように教示を行った. 音刺激は被験者が音源方向を応答した時点で停止し,10 秒後に次の音刺激が提示された.実 験者は,被験者が応答した時点で応答結果と応答するのに要した時間を記録した. これまでの手順を1 試行とし,合計 2 試行実験を行った.試行と試行の間には十分な休憩を 入れ,被験者には次の試行が始まる前に十分疲れが取れたかについて確認を行った.また,実 験前に5 分程度の学習時間を設け,ONTENNA の振動が音刺激に対してどれくらいのものであ るのかを学習させた.

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7 章 実験結果

本 章 で は , 実 験 よ り 得 ら れ た 音 源 定 位 の 正 確 性 と 応 答 時 間 に つ い て の 結 果 を 示 し , “ONTENNA の個数”と“身体の制限”という 2 つの要因における主効果について述べる.

7.1 正答率の結果

表7.1 に 4 つの条件における正答率の平均値と標準偏差を百分率で示す.実験の結果, 4 つ の条件における正答率の平均値はそれぞれ,フィックス・ダブル条件が96.11%,フィックス・ シングル条件が52.78%,フリー・ダブル条件が 87.78%,フリー・シングル条件が 95.56%とな った.また,標準偏差はそれぞれ,フィックス・ダブル条件が3.93%,フィックス・シングル 条件が12.50%,フリー・ダブル条件が 10.30%,フリー・シングル条件が 4.97%となった. 表7.1 4 つの条件における正答率の平均値と標準偏差 (単位 %) MEAN SD フィックス・ダブル条件 96.11 3.93 フィックス・シングル条件 52.78 12.50 フリー・ダブル条件 87.78 10.30 フリー・シングル条件 95.56 4.97 これらの結果を元に,“ONTENNA の個数”と“身体の制限”という 2 つの要因について分 散分析を行った.図7.1 に 4 つの条件における正答率の平均値をグラフ化したものを示す. はじめに,ONTENNA の個数に対する主効果について検定を行った.その結果,ONTENNA の個数に対して主効果が認められた(F (1, 32) = 33.44, p < .05).さらに,フィックス・ダブル 条件とフィックス・シングル条件の間に有意差が認められた(F (1, 32) = 69.33, p < .05).つま り,ONTENNA の個数を 2 つにすることで,有意に正答率が上昇することが明らかとなった. 次に,身体の制限に対する主効果について検定を行った.その結果,身体の制限に対して主 効果が認められた(F (1, 32) = 92.63, p < .05).さらに,フィックス・シングル条件とフリー・ シングル条件の間に有意差が認められた(F (1, 32) = 174.38, p < .05).つまり,身体を自由に動 かして能動的に音源方向を探索することにより,ONTENNA を 1 つ用いた場合でも正答率が有 意に上昇することが明らかとなった. 最後に,相互作用の効果について検定を行った.その結果,2 つの要因に対する相互作用の 効果について有意な差が認められた(F (1, 32) = 50.99, p < .05). その一方,フリー・ダブル条件とフリー・シングル条件の間に有意差は見られなかった(F (1, 32) = 3.74, p > .05).つまり,身体を自由な状態で ONTENNA を 1 つ用いる場合と 2 つ用いる場 合では,正答率に差がないことが示された.また,フィックス・ダブル条件とフリー・ダブル 条件においても有意な差が見られなかった(F (1, 32) = 3.23, p > .05).このことから,ONTENNA を2 つ用いた場合,身体の制限による正答率の変化は見られないことが示された.

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図7.1 4 つの条件における正答率の平均値

7.2 応答時間の結果

表7.2 に 4 つの条件における応答時間の平均値と標準偏差を示す.実験の結果,4 つの条件に おける応答時間の平均値はそれぞれ,フィックス・ダブル条件が3.17 秒,フィックス・シング ル条件が3.18 秒,フリー・ダブル条件が 4.95 秒,フリー・シングル条件が 5.88 秒となった. また,標準偏差はそれぞれ,フィックス・ダブル条件が1.35 秒,フィックス・シングル条件が 1.80 秒,フリー・ダブル条件が 2.88 秒,フリー・シングル条件が 2.45 秒となった. 表7.2 4 つの条件における応答時間の平均値と標準偏差 (単位 秒) MEAN SD フィックス・ダブル条件 3.17 1.35 フィックス・シングル条件 3.18 1.80 フリー・ダブル条件 4.95 2.88 フリー・シングル条件 5.88 2.45 これらの結果を元に,“ONTENNA の個数”と“身体の制限”という 2 つの要因について分 散分析を行った.図7.2 に 4 つの条件における応答時間の平均値をグラフ化したものを示す. はじめに,身体の制限に対する主効果について検定を行った.その結果,身体の制限に対し て主効果が認められた(F (1, 32) = 11.65, p < .05).つまり,身体が固定されている場合よりも, 身体を自由にしたほうが有意に応答時間は長くなった. 次に,ONTENNA の個数に対する主効果について検定を行った.その結果,ONTENNA の個 数に対する主効果は認められなかった(F (1, 32) = 0.88, p > .05).また,相互作用の効果につい ても主効果は認められなかった(F (1, 32) = 0.53, p > .05).

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図7.2 4 つの条件における応答時間の平均値

7.3 被験者へのインタビュー

実験を終えた被験者からは,左右の振動の強さを比較することで,どちらから音が発生した のかを知覚することができたという意見を得た.しかし,その一方で,ONTENNA を 2 つ用い た場合,両方のONTENNA が振動することがあり,方向が分からなくなってしまったという意 見があった.振動する強さは違うものの,被験者によっては両方のONTENNA が振動すること で混乱が生じる場合があることが分かった(図7.3).また,「ONTENNA を 2 つ用いた時より も,1 つ用いた時の方が分かりやすかった」や「1 つの方が自信を持って応答することができた」 という意見を多く得た. 図7.3 振動が 2 つあることで混乱する被験者

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8 章 考察

本章では,実験結果から得られたデータをもとに,ONTENNA を 2 つ用いることの有効性と 身体を能動的に動かすことの有効性について考察する.

8.1 ONTENNA を2つ用いることの有効性について

実験の結果,フィックス条件においてONTENNA を 1 つ用いるよりも,2 つ用いた方が有意 に正答率は上昇した.被験者は,左右のONTENNA の振動の強さを比較し,その振動の差によ って音源定位を行っていた(図8.1).これは,人間の聴覚特性における両耳間レベル差と類似 している.両耳間レベル差とは,両耳である音を聞く時,聴取者の左右の耳内に生じる音圧レ ベルの差のことである[40].頭部による回折現象によって生じ,音源と聴取者の頭の位置関係 により異なる.つまり,ONTENNA は,人間の聴覚特性である両耳間レベル差を再現したと考 えられる.左右の音圧の違いを振動で補完することにより,音源定位を可能とした.これより, フィックス条件において音源定位をする際,ONTENNA を 2 つ用いることが有効であると考え られる. 図8.1 頭部を固定した状態で応答を行う被験者

8.2 身体を能動的に動かすことの有効性について

フィックス・シングル条件とフリー・シングル条件を比較した結果,フリー・シングル条件 において有意に正答率が上昇することが示された.つまり,身体を能動的に動かすことにより, ONTENNA を 1 つ用いた場合でも, 2 つ用いた場合と同等の正答率を得られることが明らかと なった(図8.2,8.3).身体を壁のように用いて指向性を作り出し,音源定位を行っているよう であった.しかし,ONTENNA を 1 つ用いた場合の方が,2 つ用いた場合に比べて応答時間を 要してしまうことも明らかとなった.身体を大きく動かして左右の振動の違いを比較しなけれ ばならず,探索に時間がかかってしまう結果となった. しかし,被験者のインタビューにも見られるように,ONTENNA を 1 つ用いたほうが自信を 持って音源定位を行えたという意見があった.実験結果から比較してもフリー・ダブル条件よ りもフリー・シングル条件の方が正答率は高くなっている.これらは,ONTENNA が 2 つある ことで,音源の手がかりとなるものが増えてしまい,被験者が混乱してしまったためと考えら れる.

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難聴者である被験者の場合,他の健聴者の被験者と比べると応答時間が著しく短かった.さ らに,正答率についても高い結果となった.この被験者は,普段美容師として働いている.仕 事中,ドライヤーの強弱といったモードの切り替えは振動の強さで分かるようになったという. また,掃除機は床の振動やハンドル部分の振動を感じて,モードの違いを識別できるそうであ る.この被験者は日常生活においても振動情報を多く利用しており,本実験の結果はそれらの 反映だったのではないかと予想する.今後はより多くの聴覚障がい者に対して実験を行い,振 動で音を知覚することの可能性について明らかにしていきたい. 図8.2 ONTENNA を 2 つ用いて能動的に音源を探索する被験者 図8.3 ONTENNA を 1 つ用いて能動的に音源を探索する被験者

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9 章 ONTENNA を使用したろう者の反応

本章では,初めてONTENNA を使用したろう者の様子と使ってもらっての感想をインタビュ ーしたものについて紹介する.ONTENNA を用いることで,ろう者は自分の声を出したり,相 手に声を伝えたりする様子を観察することができた.

9.1 ONTENNA 使用時の様子

ONTENNA は音圧を振動と光の強さに変換するという単純なモダリティ変換装置である.し かし,このシンプルな装置もユーザの使い方次第でさまざまなシーンで応用できる可能性があ る.ここでは,ろう者のONTENNA を使った時の様子について紹介する.

9.1.1 ONTENNA を使って自分の声を確かめるろう者

ONTNNA を初めて使用するろう者の多くが,まず ONTENNA に向かって自分の声を出して いた(図9.1).大きな声を出すと強く振動し,小さな声を出すと弱く振動する ONTENNA を不 思議そうに見つめながら,自分の声を感じ取っているようだった.ろう者は幼少期に発音の練 習をする際,胸に手を当てて振動を感じたり,水を喉に入れて発音を練習したり,ティッシュ ペーパーを額に貼ってその揺れで声の大きさを感じたりといった工夫をしていた経験があると いう.将来的には,ONTENNA を使って彼らが発音を練習するためのきっかけになるかもしれ ないと感じた. 図9.1 ONTENNA に向けて声を出すろう者

9.1.2 ONTENNA を付けている人に自分の声を伝えようとするろう者

さらに驚いたことは,普段は手話を使ってコミュニケーションを行うろう者が声を出したこ とである(図9.2).「あー」や「うー」といったように言葉にはなりきれない声ではあるが,相 手に声を届けるような動きをしていた.相手の付けているONTENNA が光ることで,自分の声 が相手にしっかりと届いているということを理解しているようだった.

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図9.2 相手に対して声を伝えようとするろう者

9.2 ONTENNA 使用後のインタビュー

ろう者に ONTENNA を使ってもらった後,インタビュー調査を行った.インタビューから ONTENNA に対するポジティブな意見とネガティブな意見を得ることができた.ここでは,そ れぞれの意見について記述する.

9.2.1 ONTENNA に対するポジティブな意見

ONTENNA を装着したろう者に「おーい」と呼びかけると,装置が振動して髪が震えるため 応答することができていた.また,「パターンやリズムが分かることは楽しい」や「部屋で一人 になった時に,来客やタイマーの音が分かるかもしれない」という意見を得た(図9.3). 映画館で観た戦いの場面について,ろう者は「遠くからバンバンバンと爆発していくシーン があるよね.でも,私たちにはそれは全然わからないのです.爆発はただの光だけなのですよ. しかし,もしもこの装置をつけて,爆発がだんだん近づいてくる様子が分かると面白いでしょ うね.」と話していた.他にも,ONTENNA を着けてコンサートやテーマパーク行ってみたい という意見を多く得た. 図9.3 ONTENNA のさまざまな利用シーンについて提案するろう者

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9.2.2 ONTENNA に対するネガティブな意見

その一方で,「インターフォンが鳴ってないのに,犬が吠えても反応するため,どちらの音な のかを判断することができないのではないか」や「髪の毛以外の部分に付けられるようにもし てほしい」などといった意見も同時に得られた.さらに,「例えば,人間の声だけに振動すると いったように,ある種類の音だけに対して反応するようにしてほしい」「一日中装着していると, 振動で頭部が麻痺してしまうのではないだろうか」「いちいち音が発生した時に振動すると鬱陶 しく感じる」といった意見もあった. あるろう者が,自らONTENNA を髪の毛以外の部分に取り付けて振動を試し始めた.服につ けたり,耳たぶに着けたりして振動を試した結果,このろう者にとっては服に着けた時の振動 が一番良いと述べていた.耳たぶに装着した際は「くすぐったい」や「むずむずする」といっ たような意見があった(図9.4).また,「服や髪の毛に付けるのにも,可愛いブローチのような デザインの方が良い」といった声もあり,髪の毛以外の部分にも着けることができるように改 良してほしいという要望があった. 図9.4 耳たぶに ONTENNA を装着するろう者

(40)

10 章 より身体性を考慮した装置の開発

本実験より,身体を能動的に動かすことにより音源方向を特定することが可能であることが 明らかとなった.しかし,現在のONTENNA は導線が飛び出していたり,電源が必要であった りというように,ウェアラブルで身体を自由に使えるような装置のデザインにはなっていなか った.そこで,ONTENNA を小型化し,より身体性を考慮した装置の開発に取り組んだ.本章 では,小型化への取り組みと,髪の毛とは別の部位へのアプローチについて記述する.

10.1 ONTENNA の小型化

より身体性を考慮した装置を開発するために,金沢大学の秋田研究室にてインターンシップ を行い回路設計について学んだ.秋田教授の協力により,プリント基板を用いた回路を設計す ることで,本体の大きさは19mm×57mm×13mm まで小型化することができた.また,装置は スタンドアローンで動作し,MicroUSB のケーブルにて充電することが可能となった(図 10.1) 外装は3D プリンタを用いて設計し,基板が収まる最小の大きさまで形を小さくした.取り付 け部分はヘアピンの構造を取り入れた(図10.2). 図10.1 小型化された ONTENNA の基板 図10.2 3D プリンタを用いて制作した ONTENNA の外装

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10.2 ONTENNA earring

髪の毛以外の部分にも着けられるようなデザインにしてほしいという意見から,耳にイヤリ ングのようにして取り付けることのできるONTENNA を制作した(図 10.3).第 7 章で記述し たように,耳に装着すると気持ち悪いといった意見があったなか,髪の毛よりも耳のほうが振 動を感じやすいというろう者の意見もあり,このようなイヤリングタイプの装置をデザインし た. 両耳に装着することで,音源方向を知覚することが可能である.今後は,耳以外にも様々 な部位に取り付けられるようなデザインの検討も必要であると考える. 図10.3 ONTENNA earring

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11 章 結論

本章では,研究成果とその課題についてまとめ,今後の展望について記述する.

11.1 本研究のまとめ

本研究では,髪の毛で音を感じる新しい音環境認識装置「ONTENNA」を開発し,その評価 を行った.能動性という人間の知覚特性に着目し,装着する部位や音の表現方法について検討 した.そして,人間の身体性や感覚拡張についての可能性を模索し,新たな聴覚の感覚代行装 置の開発を試みた. 音源定位実験では, ONTENNA を 2 つ用いることで音源方向を知覚することが可能である かを検証した.実験の結果,ONTENNA を 2 つ用いることで左右の音源方向を正確に知覚でき る事が明らかとなった.さらに,ONTENNA を 1 つ用いた場合でも,身体を能動的に動かし音 源を探索することで,ONTENNA を 2 つ用いた場合と同様の正答率を得られることが分かった.

11.2 今後の展望

本研究で行われた実験は,実験環境のみでの検証であったため,今後は実際の環境において ONTENNA を使用した際に起こる様々な出来事や使用方法の工夫などを発見したいと考える. また,髪の毛以外の部分であり,尚且つ身体性に配慮した部位を探索するアプローチも必要で ある.さらに,ある一定の期間 ONTENNA を使用した熟達者と初心者とを比べて,知覚の程 度に違いが生じるのかについても検討を行う.将来,本当にろう者がONTENNA を日常的に用 いて,様々な音を感じたり,声を出したりする未来を期待する.

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謝辞

はじめに,私をデザインという畑に引き入れて頂き,デザインの大切さを教えてくれた岡本 誠先生に心より感謝します.「障がい者は障害があるのではなく,視覚障がい者は暗闇のスペシ ャリスト,聴覚障がい者は無音のスペシャリストなのです」という岡本先生の言葉に励まされ て,この研究を続けることができました.本当にありがとうございました.副査である伊藤精 英先生には,実験方法や技術的な部分でのアドバイスを多くして頂きました.実験が無事に行 えたのは伊藤先生のおかげです.ありがとうございました.また,FUTURE BODY PROJECT に参加をされている小野哲雄先生(北海道大学),秋田純一先生(金沢大学),公立はこだて未 来大学・北海道大学・金沢大学の学生の皆様に深く感謝いたします.そして,NPO 法人はこだ て音の視覚化研究会の皆様,全国の聴覚障害者団体の皆様,実験に協力していただいた皆様, 毎週のゼミにて様々な意見を与えてくれた岡本研究室の皆様に心より感謝をいたします. 最後に,本研究の一番の理解者であり,私に手話やろうの世界について教えてくれた兼平新 吾氏に深く感謝を致します.兼平さんのおかげで,何もなかった私の中に目標が生まれ,それ に向けて努力することが出来ました.落ち込んだり,投げ出しそうになった時,いつも隣で支 えてくれたことに心から感謝します.本当にありがとうございました.

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実験の概要(100字程度)

Refer to the Firmware Bundle for Ezairo 7111 User Guide and Reference, the Ezairo Sound Designer Software Development Kit (SDK) Programmer’s Guide and the Ezairo Sound Designer

第四次総合特別事業計画の概要.