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フッ化物配合歯磨剤の適正使用量に影響を及ぼす因子

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Academic year: 2021

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(1)

緒  言

 フッ化物によるう蝕予防法には,全身的応用法と局所 的応用法があり,フッ素によるう蝕予防のメカニズム は,フルオロアパタイトの生成,歯の結晶性の向上,再 石灰化の促進,細菌・酵素作用の抑制として知られてい る1,2).全身的応用法には水道水フロリデーション,食 塩へのフッ化物添加,フッ化物補充剤の服用などがあ り,う蝕抑制効果はそれぞれ 30~60%,44~84%,20 ~40%である.局所的応用法にはフッ化物歯面塗布法, フッ化物洗口法,フッ化物配合歯磨剤などがあり,う蝕 抑制効果はそれぞれ 20 ~ 50%,20 ~ 50%,30 ~ 40% となっている3).平成 28 年度の歯科疾患実態調査で は 1~14 歳において,フッ化物塗布の経験のある者は 62.5%と前回に比べて微減しているものの,過去の調査 を通して増加傾向にある4).また,フッ化物洗口の経験 のある者は 13.4%,フッ化物配合歯磨剤使用の経験のあ る者は 62.3%であった5)  局所的応用法の中でとりわけ,フッ化物配合歯磨剤は 最も身近なフッ化物の応用法であり,世界で 15 億人が 使用しているといわれている4).わが国ではモノフルオ ロリン酸ナトリウムもしくはフッ化ナトリウムが含まれ ており,その国内シェアは 90%を超え,ホーム・ケア としてのフッ化物配合歯磨剤は年齢を問わず使用され ている3).福嶋らの研究では,戦後生まれの世代におけ るう蝕の減少はフッ化物配合歯磨剤の市場占有率の影響 を受けていることも示唆されている6).また,成人・高 齢者においては,根面う蝕にも予防効果が認められてい る7)  現在,フッ化物配合歯磨剤の年齢別応用量に関して は,歯ブラシ刷掃面上でのペーストの長さで示されてい る8).しかし各歯磨剤は,歯磨剤チューブの内径(チュー   1)日本歯科大学生命歯学部衛生学講座   2)日本歯科大学新潟生命歯学部衛生学講座   3)日本歯科大学生命歯学部

フッ化物配合歯磨剤の適正使用量に影響を及ぼす因子

伊井 久貴

1,2)

  南 ひかる

3)

  犬山依志行

3)

  福田 雅臣

1)  概要:本研究では,フッ化物配合歯磨剤の適正使用量を示すため,歯磨剤チューブの形状,そしてその内容物の性状に 関わる諸要因について検討を行った.  歯科医院専用フッ化物配合歯磨剤 31 種類について,チューブ内径,1 cm あたりの重量(基準重量)を測定した.使用 重量は,それぞれ 6 名で測定した平均値を 1 cm あたりの使用重量とし,さらに変動係数,使用誤差(%)を求めた.使 用重量のばらつきについては,一元配置分散分析,Bonferroni の多重比較検定を行い,各歯磨剤の逐次比較の結果を有 意差数とした.さらに各歯磨剤の内径,基準重量,使用重量,比重,粘稠度,変動係数,使用誤差(%),有意差数につ いて単相関分析,重回帰分析を行い,関連性を検討した.  その結果,単相関分析では基準重量と使用重量,内径と比重,使用重量と比重,使用重量と粘稠度,粘稠度と変動係 数,基準重量と使用誤差(%),使用重量と使用誤差(%),粘稠度と使用誤差(%),変動係数と使用誤差(%),基準重 量と比重,基準重量と粘稠度,基準重量と有意差数で有意な相関(p<0.05)がみられた.重回帰分析では,目的変数を使 用誤差(%)としたものでは,内径,比重,変動係数において有意な関連(p<0.05)がみられ,さらに目的変数を有意差 数とすると,粘稠度と変動係数で有意な関連(p<0.05)がみられた.  以上の結果から,適正量の歯磨剤を使用するためには,1 cm あたりの基準重量を明記することが必要であると考えら れた.  索引用語:フッ化物局所応用,フッ化物配合歯磨剤,適正使用量,基準重量,使用重量 口腔衛生会誌 71:81-87, 2021 (受付:令和元年 3 月 14 日/受理:令和 2 年 12 月 15 日)

原  著

(2)

ブ内径)などの形状や粘稠度,比重といった性状が異な り,使用長のみでは適正量を示すことは難しい2).さら に平成 29 年度の医薬品,医療機器等の品質,有効性お よび安全性の確保等に関する法律(薬機法)の改正に より使用できる歯磨剤のフッ素濃度の上限が 1,000 ppm から 1,500 ppm に変更になったことから,見込み中毒量 (PTD)を上回ることはないものの,今までより正確な フッ化物配合歯磨剤の使用量の基準が求められるのでは ないかと考えられる.  フッ化物配合歯磨剤に関しては,機能や安全性,薬効 に関する多くの報告があるが9,10),実際の使用者による 歯磨剤搾出量の誤差に関する検討はこれまで行われてい ない.よって本研究は,既存の口腔衛生学会のペースト の長さで示している,歯磨剤適正使用量の基準をより具 体的にすることへの一助とすることを目的とした.

材料と方法

1.材料  測定歯磨剤は,各メーカーから発売されている歯科医 院専用フッ化物配合歯磨剤 31 種類(平成 29 年時点)で ある. 2.各指標の測定方法  各歯磨剤チューブの内径は電子ノギス(Mitutoyo, 神奈川)を用いて測定し,各チューブの内径(mm)と した.1 cm あたりの重量(基準重量)は,目盛付きの セロハンテープ上に歯磨剤を約 2 ~ 3 cm 搾出し,その 中央部にあたる 1 cm を電子天秤で測定した重量(g) であり,すなわち 1 cm あたりの重量(g/cm)とした. これを 5 回繰り返した平均値を基準重量(g)とした. なお,6 名が搾出した歯磨剤の長さの平均値に最も近い 者が基準重量を測定し,さらに内径と基準重量から比重 (g/cm3)を求めた.  粘稠度は,柵木ら11)の方法を参考にし,まず幅 4 cm × 4 cm,厚さ 2 mm のアクリル板を用意し,各歯磨剤 0.2 g をアクリル板上に搾出し,アクリル板同士を重ね 合わせ,上から 10 g の分銅を 5 秒間乗せ,そのときの 歯磨剤の広がりの面積を Image-J で測定し,その値を本 研究での粘稠度の定義とした.  使用重量は,1 cm 間隔のメモリ付きセロハンテープ を歯ブラシ刷面先端に張りつけたものを用い(図 1),6 名の測定者が 5 回ずつ歯磨剤を搾出し,それぞれの重量 (g)と長さ(cm)を計算した.さらにその 6 名の 1 cm あたりの重量(g/cm)の平均値を使用重量とし,使用 重量のばらつき(標準偏差)から変動係数を求めた.  基準重量に対する使用重量の割合を使用誤差(%)と した. 3.分析方法  6 名の測定者の使用重量のばらつきについては,一 元配置分散分析,Bonferroni の多重比較検定を行った. 各歯磨剤の多重比較の結果で有意差のあった数を合計 し,本研究ではこれを各歯磨剤の有意差数と定義した. さらに各歯磨剤の内径,基準重量,使用重量,比重,粘 稠度,変動係数,使用誤差(%),有意差数について単 相関分析,重回帰分析を行い,関連性を検討した.重回 帰分析では目的変数を使用誤差(%)と有意差数として 行った.解析に関しては,分散拡大要因(VIF)が 10 を超える要因を除いて分析を行った12).統計的有意水 準は 5%未満とし,解析ソフトには Excel 統計 ver.7 と Excel 多変量解析 ver.7(株式会社エスミ,東京)を用 いた. 4.研究倫理  本研究に関して日本歯科大学新潟生命歯学部倫理審査 委員会へ申請したところ,研究倫理審査の必要性を認め ない審査対象外の研究であるとの回答を得た .

結  果

1.各歯磨剤の測定から得られたそれぞれの指標  各歯磨剤の測定から得られたチューブ内径,1 cm あ たりの基準重量,1 cm あたりの使用重量,比重,粘稠 度,それぞれの指標の結果を示す.チューブ内径は 2.54 ~5.98 mm と 2.35 倍の差があった(表 1).基準重量は 0.40 ~ 1.07 g で 2.68 倍の差があり,使用重量は 0.06 ~ 0.68 g で 11.3 倍の差があった(表 1).また,比重は 1.46 ~ 17.10 で 11.7 倍の差であり,粘稠度は 13.12 ~ 152.67 と 11.6 倍の差があった(表 1).  基準重量と使用重量の差(重量差)は 0.20~0.45 g で, すべての歯磨剤で使用重量のほうが少なかった(表 1). 口腔衛生会誌 J Dent Hlth 71(2), 2021 図 1 使用重量の測定

(3)

2.各歯磨剤の使用誤差と使用時の個人差  被験者 6 人の各歯磨剤の変動係数と使用誤差,多重比 較検定の結果を示した.  変動係数と使用誤差(%)はそれぞれ 2.74~56.62 と 20.7 倍の差,18.52~66.44%で 3.59 倍の差であった(表 1).  多重比較検定では,各歯磨剤別の測定者ごとの使用重 量に有意差(p<0.05)が認められた組数(有意差数)は, 最小が 2 組,最大が 13 組であり,歯磨剤によって各個 人の使用重量に違いが生じることがわかった(表 2). 3.各指標との単相関分析  単相関分析の結果を表 3 に示す.基準重量と使用重 量,内径と比重,使用重量と比重,使用重量と粘稠度, 粘稠度と変動係数,基準重量と使用誤差(%),使用重 量と使用誤差(%),粘稠度と使用誤差(%),変動係数 と使用誤差(%),基準重量と比重,基準重量と粘稠度, 基準重量と有意差数で有意な相関(p<0.05)がみられた (表 3). 4.各指標との重回帰分析  重回帰分析では,目的変数を使用誤差(%)と有意差 数とし,説明変数は VIF が 10 を越えた基準重量と使用 表 1 各歯磨剤のチューブ先端の内径,1 cm あたりの基準重量,1 cm あたりの使用重量,比重,粘稠度,変動係数, 使用誤差(使用重量 / 基準重量× 100%) 歯磨剤の種類 (mm)内径  (g/cm)基準重量  (g/cm)使用重量  使用重量(g/cm) の標準偏差 (g/cm比重 3 粘稠度 変動係数 使用誤差 (%) 1 3.15  0.40  0.15  0.02  5.14 70 15 39 2 5.73  0.78  0.36  0.03  3.02 25 8 55 3 3.71  0.83  0.50  0.07  7.69 33 13 47 4 4.81  0.85  0.48  0.09  4.66 18 19 50 5 2.54  0.53  0.21  0.05  10.50 89 24 36 6 5.50  0.71  0.37  0.06  2.99 13 16 58 7 3.62  0.82  0.57  0.07  7.97 18 12 63 8 5.32  0.84  0.41  0.05  3.77 15 11 49 9 3.47  0.56  0.26  0.01  5.93 17 4 47 10 3.05  0.43  0.16  0.02  5.82 34 13 40 11 3.44  0.41  0.14  0.03  4.37 32 18 34 12 3.64  0.41  0.16  0.02  3.90 40 11 42 13 5.03  0.62  0.32  0.04  3.13 22 14 49 14 3.75  0.54  0.24  0.01  4.85 25 4 50 15 5.98  0.41  0.12  0.01  1.46 84 11 46 16 4.20  0.51  0.26  0.01  3.67 31 3 49 17 2.99  0.53  0.29  0.02  7.48 30 8 50 18 3.73  0.54  0.25  0.01  4.90 21 5 51 19 4.09  0.80  0.39  0.05  6.12 65 13 56 20 2.97  0.70  0.44  0.04  10.08 37 9 42 21 2.82  1.07  0.68  0.09  17.12 22 13 53 22 3.31  0.61  0.31  0.02  7.06 16 5 53 23 4.93  0.62  0.32  0.04  3.22 25 12 53 24 4.65  0.68  0.35  0.06  4.02 116 18 45 25 4.42  0.71  0.31  0.04  4.62 30 13 46 26 5.21  0.58  0.30  0.02  2.73 20 5 57 27 3.10  0.69  0.31  0.04  9.12 25 11 39 28 4.42  0.55  0.10  0.06  3.59 82 57 27 29 2.58  0.55  0.33  0.02  10.46 23 7 63 30 2.85  0.40  0.06  0.02  6.21 153 36 19 31 4.22  0.87  0.68  0.07  6.26 27 10 66

(4)

重量の 2 要因を除外して行った.その結果,目的変数を 使用誤差(%)としたものでは,内径,比重,変動係数 において有意な関連がみられた(p<0.05)(表 4).さら に目的変数を有意差数とすると,粘稠度と変動係数で有 意な関連がみられた(p<0.05)(表 5).

考  察

 歯口清掃はう蝕や歯周疾患予防のための基本的な手段 であり,口腔内を清潔に保つだけでなく,対人関係をス ムーズにさせるエチケットとしても重要である.そのた めに歯ブラシとともに使用されるのが歯磨剤である.  歯磨剤の求められる所要条件としては,十分な清掃性 があること,歯や軟組織を損傷しないこと,唾液の変性 や分泌抑制,酵素の破壊などが起きないこと,歯に着色 しないこと,誤飲しても全身への影響がないこと,味や 香りが良いこと,ブラッシングの動機づけに役立つこ となどが挙げられる9).現在国内で市販されているもの には薬機法上の化粧品または医薬部外品に属し,医薬部 外品としての歯磨剤は,研磨剤,保湿剤,発泡剤,粘結 剤,香味剤などの基本成分のほかに,フッ化物,殺菌 剤,消炎剤などを配合することで口腔内の諸症状への 対応を図っている.フッ化物配合歯磨剤は,1946 年に 口腔衛生会誌 J Dent Hlth 71(2), 2021 表 2 測定者間の使用重量の一元配置分散分析および多重比較(Bonferroni) 歯  磨  剤 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 分散分析 ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** 被験者の組合せ A–B ** ** ** *  *  ** A–C ** ** ** ** ** ** ** ** *  ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** *  *  ** *  A–D ** ** ** ** ** ** ** ** *  ** ** ** ** ** ** ** ** A–E ** ** ** ** ** ** *  ** ** *  ** ** ** ** A–F *  ** ** ** ** ** ** ** ** *  ** B–C ** ** ** ** ** ** ** ** *  ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** *  ** ** B–D ** ** ** ** ** ** ** ** *  ** ** ** ** ** ** ** *  ** B–E ** ** ** ** ** ** ** *  *  ** *  ** ** ** *  ** B–F ** ** ** ** ** ** *  ** *  ** ** C–D ** ** ** ** ** ** ** ** ** *  ** ** ** C–E ** ** ** ** ** ** ** *  *  ** ** ** ** ** ** ** C–F ** ** ** ** ** ** ** ** ** *  ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** *  ** ** ** ** ** ** ** D–E *  *  ** ** ** D–F ** ** ** ** *  ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** *  ** ** ** ** E–F ** ** ** ** ** ** ** ** ** *  ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** 有意差数 * 2 0 0 0 1 0 0 1 0 3 2 1 1 1 0 0 2 2 0 4 0 0 1 2 0 2 1 3 1 0 1 ** 8 11 12 11 6 11 11 10 5 4 2 8 10 5 2 5 6 3 9 9 9 7 9 1 9 7 10 7 4 8 2 合計 10 11 12 11 7 11 11 11 5 7 4 9 11 6 2 5 8 5 9 13 9 7 10 3 9 9 11 10 5 8 3 *:p<0.05   **:p<0.01 表 3 各測定項目の単相関分析 内径 基準重量 使用重量 比重 粘稠度 変動係数 使用誤差(%) 有意差数 内径 - n.s. n.s. * n.s. n.s. n.s. n.s. 基準重量 0.188 - * *  *  n.s. * *  使用重量 0.066 0.921 - * * n.s. * n.s. 比重 -0.745 0.402 0.456 - n.s. n.s. n.s. n.s. 粘稠度 -0.127 -0.369 -0.474 -0.064 - * * n.s. 変動係数 -0.020 -0.117 -0.325 -0.057 0.619 - * n.s. 使用誤差(%) 0.288 0.531 0.697 0.059 -0.657 -0.659 - n.s. 有意差数 0.068 0.392 0.254 0.122 -0.245 0.160 -0.050 -*:p<0.05  

(5)

Biddy らによってフッ化ナトリウムを加えた歯磨剤にう 蝕予防効果のあることが報告され13),わが国でも 1948 年に初めてのフッ化物配合歯磨剤が発売された14)  本研究では,歯科医院で専売されている 31 種類の フッ化物配合歯磨剤を対象とし,それぞれ内径,基準 重量,使用重量,比重,粘稠度,変動係数,使用誤差 (%),有意差数の指標を用いて研究を進めた.なお,粘 稠度に関しては粘度計を使用した測定法が知られている が,今回はより簡便な方法として柵木ら11)の論文を参 考に分銅加重によるアクリル板での広がりを粘稠度とし た. 1.各歯磨剤における測定項目のばらつきについて  各歯磨剤の内径のばらつき(表 1)の要因は,粘稠度 や比重にばらつきがみられることから,各歯磨剤の性状 に応じて適切な形状がとられているためではないかと考 えられる.Bentley らの研究では搾出口の形状などに注 目しているが,その差の要因に関する研究はされていな い15)  その他の指標である基準重量,使用重量,比重,粘稠 度,変動係数,使用誤差(%),有意差数におけるばら つきは各歯磨剤の基本成分の構成比による差が影響して いるのではないかと考えられる.  また,使用重量のほうが基準重量より少なくなった点 に関しては(表 1),材料と方法に記載したように,基 準重量は目盛付きのセロハンテープ上に歯磨剤を約 2~ 3 cm 搾出し,その中央部にあたる 1 cm を測定した重量 である.これに対して,使用重量は歯ブラシ刷面先端 に 1 cm 間隔のメモリ付きセロハンテープを張り,その 上に歯磨剤を搾出した重量である.すなわち,安定した 搾出圧で搾出した部位の重量を測定した基準重量と異な り,使用重量の測定では,搾出開始時と終了時で搾出圧 に変化が生じることが一要因ではないかと推察される. 今後の検討課題としていきたい. 2.各歯磨剤の使用誤差と使用時の個人差について  表 1 における各歯磨剤の変動係数と使用誤差(%), および表 2 の多重比較検定における被験者間での搾出時 の個人差(有意差数)に関しては,各歯磨剤によって差 が大きかった.このことは,前項でも述べたように歯磨 剤ごとに基本成分の構成比が異なっていることや内径な どの差が影響しているためではないかと考えられる. 3.各歯磨剤指標のばらつき要因の関連性  各歯磨剤の内径,基準重量,使用重量,比重,粘稠 度,変動係数,使用誤差(%),有意差数のばらつきに 関わる要因を調べるために行った単相関分析の結果(表 3)からは,歯磨剤の性状に関わる指標である比重や粘 稠度,有意差数の各項目と 1 cm あたりの基準重量が影 響を受けていた.   次に,同じく各歯磨剤指標のばらつきに関わる要因を 調べるために行った重回帰分析(表 4, 5)では,基準値 と使用重量から割り出した使用誤差(%)に影響を与え る因子として,内径,比重,変動係数に有意な相関がみ られた.さらに,個人のばらつきの出やすさを表す指数 として設けた有意差数を目的変数とした場合では,粘稠 度と変動係数に影響を受けることが考えられた.使用重 量のばらつきから求められる変動係数は,使用誤差(%) と有意差数の両方の目的変数に影響を与えていた . これ 表 4 使用誤差(%)を目的変数とした重回帰分析 偏回帰係数 標準偏回帰係数 p 値 判定 VIF 内径 5.999 0.573 0.003 * 2.43 比重 1.434 0.442 0.017 * 2.39 粘稠度 -0.086 -0.277 0.074 * 1.74 変動係数 -0.445 -0.451 0.004 * 1.63 定数項 24.793 0.027 * *:p<0.05   表 5 多重比較における有意差数を目的変数とした重回帰分析 偏回帰係数 標準偏回帰係数 p 値 判定 VIF 内径 0.698 0.230 0.393 2.43 比重 0.272 0.289 0.280 2.39 粘稠度 -0.045 -0.502 0.034 *  1.74 変動係数 0.141 0.492 0.032 *  1.63 定数項 3.702 0.431 *:p<0.05  

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らのことから,ばらつき要因は各歯磨剤の内径,比重, 変動係数,粘稠度が影響していることが示唆された.  以上の単相関分析,重回帰分析の結果から,歯磨剤搾 出時のばらつき要因が各歯磨剤の内径,比重,粘稠度に 影響を強く受けていた.  1,000 ppm のフッ化物配合歯磨剤の有効使用量を検 討した古賀らの研究では,歯面近傍のフッ素濃度が 300 ~ 500 ppm でエナメル質表層でのフッ素の取り込 み量が最も高く,歯磨剤使用量 1.0 g 以上で口腔内濃度 300 ppm 以上となると報告している16).平成 29 年度の 薬機法の改正により使用できる歯磨剤のフッ素濃度の 上限が 1,000 ppm から 1,500 ppm に変更になった.さ らに,Lynch や Petersson,相田らは,高濃度フッ化 物配合歯磨剤が,根面う蝕の予防に効果的であるとし ている7,17,18).加えて,WHO のテクニカルレポートで は,1,000 ppm を超える濃度のフッ化物配合歯磨剤では, 500 ppm 濃度が上昇するごとに予防効果が 6%上昇する ことも報告されている19).さらに今後は根面う蝕への適 応も増えてくるため,高齢者における誤飲の危険性も考 えられる.これらのことから,今後は年少人口層だけで なく,老年人口層に対してもフッ化物配合歯磨剤の使用 が増えてくることが確実である.  今後,フッ化物配合歯磨剤の使用にあたっては,搾出 時に影響の大きな内径,比重,粘稠度の違いに留意する ことが重要であることがわかった.したがって,歯磨剤 の年齢別応用量を単に,歯ブラシ刷掃面上でのペースト の長さで示す8)のではなく,例えば,各歯磨剤の 1 cm あたりの基準重量を表示することで,さらに安全かつ適 正な使用量が示されるものと考える. 謝  辞  本研究は日本歯科大学生命歯学部第 2 学年カリキュラム 「生命歯学探究」において,平成 27~29 年度口腔衛生学領 域専攻した学生によって行われた研究結果を報告したもので ある.本研究の協力者である,飯塚智輝,齋藤佑磨,田賀里 佳子,服部広紀,市川英枝,刈屋絵美子,久保田日向,高橋 かれん,吉田愛理,一木志帆,宇多川伊吹,神田みなみ,中 山瑞稀,林 美澄,渡部由理佳に感謝申し上げます.また, 開示すべき COI 関係にある企業等はない. 文  献   1) 松久保 隆,八重垣 健,前野正夫監修:口腔衛生学 2018, 一世出版,東京,1978,257–277 頁.   2) 福田雅臣:知っておきたいフッ化物,デンタルハイジーン別 冊/ペリオ・カリエスの予防に活かす,医歯薬出版 ,  東京, 2005,102–122 頁.   3) ライオン歯科衛生研究所:一目でわかる口腔保健統計グラフ, 富徳会,東京,2003,54 頁.   4) 厚生労働省:平成 28 年歯科疾患実態調査の概要,厚生労働省, 東京,2017,29 頁.   5) Rugg-Gunn A : Preventing the preventable : The enigma of  dental caries. Brit Dent J 191: 478–488, 2001.   6) 福嶋克明,川崎弘二,神原正樹:フッ化物配合歯磨剤の市 場占有率が永久歯の齲蝕経験に及ぼす影響.歯科医学 77: 64–75,2014.   7) Lynch E, Baysan A: Reversal of primary root caries using a  dentifrice with a high fluoride contant. Caries Res 35(supp1):  60–64, 2001.   8) 日本口腔衛生学会 フッ化物応用委員会:フッ化物応用の科学, 口腔保健協会,東京,2010,84–92 頁.   9) 高江洲義矩,長谷川紘司,栗山純雄:歯磨剤─その日常性と 科学性─,医歯薬出版,東京,1993,25–34 頁. 10) 日本歯磨工業会:歯磨剤を科学する─保健剤としての機能と 効果─,学健書院,東京,1994,4–32 頁. 11) 柵木寿男,江黒 徹,斎藤洋一ほか:レジン配合型グラスア イオノマーセメントの被膜厚さ.顎咬合誌 24:50–53,2004. 12) 内田 治,福島隆司:例解多変量解析ガイド EXCEL アド インシフトを利用して,東京図書,東京,2011,40–42 頁. 13) Biddy  BG,  Zander  HA,  McKelleget M  et  al.:  Preliminary 

reports on the effect on dental caries of the use of sodium  fluoride in a prophylactic cleaning mixture and in a mouth-wash. J Dent Res 25: 207–211, 1946. 14) ライオン歯科衛生研究所:歯みがき 100 年物語,ダイヤモン ド社,東京,2017,167–173 頁. 15) Bentley EM, Ellwood RP, Davies RM: Factors influencing  the amount of fluoride toothpaste applied by the mothers of  young children. Br Dent J 183: 412–414, 1997. 16) 古賀 寛,山岸 敦,高柳篤史ほか:エナメル質へのフッ化 物取り込みと口腔内フッ化物濃度を指標とした思春期およ び成人のフッ化物配合歯磨剤の有効使用量.歯科学報 108: 74–80,2008. 17) Petersson LG: The role of fluoride in the preventive manage-ment of dentin hypersensitivity and root caries. Clin Oral  Invest 17(sup 1): S63–S71, 2013.  18) 相田 潤,眞木吉信:高齢者のオーラルセルフケア フッ化 物局所応用によるう蝕予防.口腔衛生会誌 67:97–99,2017. 19) 高江洲義矩(日本語監修):フッ化物と口腔保健,一世出版, 東京,1995,41–45 頁.  著者への連絡先:福田雅臣 〒 102-8159 東京都千代田区 富士見 1-9-20 日本歯科大学生命歯学部衛生学講座  TEL:03-3261-8343  FAX:03-3261-8796  E-mail:m-fukuda@tky.ndu.ac.jp 口腔衛生会誌 J Dent Hlth 71(2), 2021

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Factors Associated with Appropriate Amount of Fluoride-containing Toothpaste Hisataka II1,2), Hikaru MINAMI3), Yoshiyuki INUYAMA3) and Masaomi FUKUDA1) 1)Department of Oral Health, School of Life Dentistry at Tokyo, The Nippon Dental University 2)Department of Preventive and Community Dentistry, School of Life Dentistry at Niigata,   The Nippon Dental University 3)School of Life Dentistry at Tokyo, The Nippon Dental University Abstract: In this study, we examined factors related to the shape of the toothpaste tube nozzle and  associated properties, in order to clarify the appropriate amount of fluoride-containing toothpaste. The  opening of the nozzle and weight per 1 cm smear of 31 types of dentist-prescribed fluoride toothpastes  were measured. Smeared weights were measured by 6 examiners, subsequently, the average values were  taken as weight per 1cm, and the coefficient of variation (CV) and sampling error (%) were determined.  To assess statistical dispersion of the weights, one-way analysis of variance and Bonferroni correction for  multiple comparisons were performed, and the results of successive comparisons of each dentifrice were  taken as significant differences. Furthermore, single correlation and multiple regression analyses were  performed on the nozzle opening, standard weight, smeared weight, specific gravity, viscosity, coefficient  of variation, sampling error (%), significant difference in each dentifrice, and relevance. As a result of  the single correlation analysis, the standard and smeared weights, nozzle opening and specific gravity,  smeared weight and specific gravity, smeared weight and viscosity, viscosity and coefficient of variation,  standard weight and sampling error (%), smeared weight and sampling error (%), viscosity and sampling  error  (%),  coefficient  of  variation  and  sampling  error  (%),  standard  weight  and  specific  gravity,  stan-dard weight and viscosity, and standard weight and significant difference showed a correlation (p<0.05).  Multiple regression analysis data demonstrated that the nozzle opening, specific gravity, coefficient of  variation, and viscosity showed significant correlations (p<0.05).  Therefore, in order to use an appropriate amount of fluoride toothpaste, it is necessary to specify the  standard weight pertaining to 1cm of smear. J Dent Hlth 71: 81-87, 2021

Key words: Topicalapplicationoffluoride,Toothpaste,Appropriateamount,Standardweight,Smeared

weight

Reprint requests to M. FUKUDA, Department of Oral Health School of Life Dentistry at Tokyo, The 

Nippon Dental University, 1-9-20, Fujimi, Chiyoda-ku, Tokyo, 102-8159, Japan TEL: 03-3261-8343/FAX: 03-3261-8796/E-mail: m-fukuda8@tky.ndu.ac.jp

参照

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