自己と他者に関する未来思考におけるポジティブバイアスの違い
The difference of positivity bias between self and other oriented future thinking
伊藤友一1・田仲祐登2・辻 幸樹2・品川和志2, 3・柴田みどり2・寺澤悠理2・梅田 聡2
Yuichi Ito, Yuto Tanaka, Koki Tsuji, Kazushi Shinagawa, Midori Shibata, Yuri Terasawa, & Satoshi Umeda (1 関西学院大学,2 慶應義塾大学,3 日本学術振興会)
key words:未来思考,ポジティブバイアス,自己; keywords in English:future thinking, positivity bias, self
人の思考には時間的方向性 (過去/未来),感情的方向性 (ネ ガティブ/ポジティブ),自己/他者など様々な方向性がある。そし て,未来に関する思考にはポジティブバイアスが生じやすいこと が多くの先行研究で示されており (e.g., D’Argembeau & Van der Linden, 2004),その強度は遠い未来について思考する際により 強くなるなど (Kane et al., 2012),時間的距離による現象的な変化 が報告されている。しかしながら,先行研究の多くは個人的な未 来の想像を主な対象としており,他者の未来を想像する際にも同 様のバイアスが生じるのかどうかは十分に検討されていない。自 己の未来を楽観することは,感情調整という側面では有効であっ ても,備えを怠るなどヒューマンエラーに繋がることもあり,必ずし も適応的とは言い難い。自己と他者の未来に関する思考ではポ ジティブバイアスの生じやすさや,時間的距離によるポジティブ バイアスの生じ方が異なる可能性がある。そこで本研究では,文 刺激を手がかりとした未来思考課題を用いて,他者の未来,ある いは自己の未来を想像する際のポジティブバイアスについて, 時間的距離の遠近を踏まえて検討した。 方法 参加者 大学生及び大学院生31 名 (男性12名,女性 19名, M = 21.07,SD = 1.26) が実験に参加した。 刺激 未来思考の手がかりとして,“主語+時間+内容+肯定 /否定”の情報で構成された文が使用された (例:私は,将来,試 験に,受かる/落ちる)。自己に関する思考を求める試行では“私 は”が主語として呈示された。本実験の“他者”として,実験参加 者は最も親しい友人1 名を具体的に想定するよう求められ,他者 に関する思考を求める試行では,想定する他者の性別に合わせ て“彼は”または“彼女は”が主語として呈示された。近い未来を 表す手がかりとして“近いうち”,遠い未来を表す手がかりとして “将来”が用いられた。思考を具体的にするための内容部分は 16 種類あり,主語 (自己/他者) と肯定/否定情報との組み合わせで, 計64 文が刺激として用意された。 手続き 参加者は実験開始前に,想定する他者の性別とイニ シャルを実験者に報告した。それに従い,他者条件の主語 (彼 は/彼女は) が決定された。未来思考課題で参加者は,手がかり に従って自己あるいは他者の未来について思考するよう求めら れた。各文は,2000 ms の主語呈示後に画面が切替わり,1 行目 に時間情報 (2000 ms),2 行目に思考内容 (2500 ms),3 行目に 肯定/否定情報 (1500 ms) が順に呈示された。そして,2 行目ま での思考内容が最終的な文と一致していたか否かの判断が求 められた (図 1)。例えば,ポジティブなことを考えていて 3 行目が 肯定的情報ならば一致,否定的情報ならば不一致と反応した。 参加者は,1 セッション 64 試行 × 4 セッション (全 256 試行) に 取組んだ。刺激はランダムな順番で呈示された。尚,本実験中 は脳波計測も行っていたが,今回の報告にその結果は含めない。 結果と考察 ポジティブ思考試行数からネガティブ思考試行数を引いた値 をポジティブバイアス得点とした。ポジティブバイアス得点につい て主語 (他者・自己) と時間的距離 (近・遠) の参加者内分散 分析を行った。その結果,時間的距離の主効果と (F(1,30) = 4.274, p = .047),2要因の交互作用が確認された (F(1, 30) = 10.277, p = .003)。主語の主効果は認められなかった (F(1, 30) = 0.492, p = .488)。下位検定では,他者の近い将来よりも遠い将来 に対してポジティブバイアスが生じやすいことが示されたが (t(30) = 3.231, p = .003),自己条件では時間的距離による有意差は見 られなかった (t(30) = 0.051, p = .96)。すなわち,他者の遠い将 来については楽観視しやすく,自身のことは遠い将来であっても 特に楽観視するわけではないことが示された。これは,時間的距 離の増加でポジティブバイアスが強まるという先行研究と一見し て一致しないが (Kane et al., 2012),先行研究の指標が感情強 度評定であったのに対し,本研究の指標がポジティブ思考頻度 であったことによる違いと考えられる。今後は,このような現象が, 自己の将来の楽観視の抑制によって生じているのか,他者の将 来をより楽観視するような処理によって生じているのかなど,その 認知的背景についても検討する必要がある。 図1. 未来思考課題の 1 試行の流れ 0 20 40 60 80 100 Other Self P os it iv it y Bia s Scor e Near Future Far Future 図2. 条件毎のポジティブバイアス得点 *